特許第6304766号(P6304766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6304766
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】車両拘束装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   G01M17/007 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-240981(P2014-240981)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102712(P2016-102712A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美紀子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 弘之
(72)【発明者】
【氏名】中越 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】栗田 光明
(72)【発明者】
【氏名】高森 肇
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−121485(JP,A)
【文献】 実公平04−011151(JP,Y2)
【文献】 実公平03−053148(JP,Y2)
【文献】 特開2003−114172(JP,A)
【文献】 独国特許発明第102006030299(DE,B3)
【文献】 独国特許出願公開第102009056157(DE,A1)
【文献】 独国特許出願公開第19923340(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のホイールハブに着脱自在に取付けるハブ取付け部と、該ハブ取付け部に接続する軸に嵌合した軸受により、軸支された車両支持部材保持部と、該車両支持部材保持部に連結され、車両を支える一対の車両支持部材と、を有する車両拘束装置において、
前記車両支持部材保持部は、前記一対の車両支持部材のうち、一方である第1の車両支持部材と連結する環状の第1の支持部材と、他方である第2の車両支持部材と連結する環状の第2の支持部材とからなること、
前記第1の支持部材と前記第2の支持部材とは、前記軸に、互いに独立して嵌合された第1の軸受と第2の軸受とにより軸支され、固定した状態で、一体に重ね合わされていること、
を特徴とする車両拘束装置。
【請求項2】
請求項1に記載する車両拘束装置において、
前記軸は、スプラインが形成されたスプライン部を有し、前記ハブ取付け部は、スプライン結合により前記スプライン部に取り付けられ、前記軸の軸心に沿い、前記スプライン部と相対的に移動可能であること、
を特徴とする車両拘束装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する車両拘束装置において、
前記第1の車両支持部材と前記第2の車両支持部材とはそれぞれ、長手方向の長さが自在に調整可能に形成されていること、
を特徴とする車両拘束装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する車両拘束装置において、
車両の車幅方向両側には、レールが車両の前後方向に沿って敷設され、前記レールに係留するレールコマが、前記レールに対し、前記車両の前後方向に摺動可能に配設されていること、
前記レールコマは、前記第1の車両支持部材に対し、連結する前記第1の支持部材の反対側に連結されていると共に、前記第2の車両支持部材に対し、連結する前記第2の支持部材の反対側に連結されていること、
を特徴とする車両拘束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、疑似的な走行状態にある車両を、シャシダイナモメータ上に載置して評価試験を行うときに、この車両をシャシダイナモメータ上で拘束する車両拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シャシダイナモメータ上に載置した車両を、疑似的な走行状態で評価試験を行うときには、この車両は、安全上、例えば、特許文献1等に開示されている車両拘束装置により、拘束される。特許文献1は、車両のホイールハブに、車両拘束装置のフランジシャフトを固定し、フランジシャフトと連結した車両支持部材を、車両における前後方向のみを固定し、上下方向及び幅方向に対し、フランジシャフトと相対的に摺動自在に構成された車両拘束装置である。
【0003】
また、先行技術文献を開示しないが、特許文献1の技術とは異なる従来の実施例に係る車両拘束装置がある。この従来の車両拘束装置では、ハブ取付け部が、その中央に接合された軸を外側に延出した形態で、外周をハブボルトで固定し、ホイールハブに取り付けられている。また、楕円形状の車両支持部材保持部が、このハブ取付け部に、外側から覆う形態でボルト締めにより固定されている。この車両支持部材保持部は、上記軸の先端側が挿通した1つの軸受により、ハブ取付け部に対しフリーになっている。車両支持部材保持部には、2つの車両支持部材が、軸受を中心に挟むその外周で、長半径側に沿う両端部(第1端部、第2端部)に接続されている。車両の側部視では、各車両支持部材は、ホイールハブを中央に配置した略ハ字型形状に取り付けられ、第1端部とピット床との間を、及び第2端部とピット床との間を、それぞれ支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案出願公開昭62−189639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シャシダイナモメータ上で行う車両の評価試験の中には、例えば、車体の横振れ(ヨーイング等)、コーナー走行時に生じる車輪の横ずれ等の試験もあり、このような試験では、車体を側部側(横側)から支える機能が、車両拘束装置に必要になる。特許文献1の技術は、このような機能を持たず、車両の幅方向に対し、車両支持部材を拘束しないフリーとなっているため、車輪の横ずれ等向けの評価試験に適用できない。
【0006】
また、従来の実施例に係る車両拘束装置では、シャシダイナモメータ上の車両が評価試験中に、急激な加速や減速を行うと、車両に作用する慣性力により、車両支持部材保持部がハブ取付け部と相対的に回転してしまうことがある。そのため、この車両支持部材保持部の回転に追従して、車両が前後方向に僅かながら動いてしまう問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、評価試験中、シャシダイナモメータ上に載置した車両を、車両の前後方向、及び幅方向に対し、確実に拘束できる車両拘束装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、車両のホイールハブに着脱自在に取付けるハブ取付け部と、該ハブ取付け部に接続する軸に嵌合した軸受により、軸支された車両支持部材保持部と、該車両支持部材保持部に連結され、車両を支える一対の車両支持部材と、を有する車両拘束装置において、前記車両支持部材保持部は、前記一対の車両支持部材のうち、一方である第1の車両支持部材と連結する環状の第1の支持部材と、他方である第2の車両支持部材と連結する環状の第2の支持部材とからなること、前記第1の支持部材と前記第2の支持部材とは、前記軸に、互いに独立して嵌合された第1の軸受と第2の軸受とにより軸支され、固定した状態で、一体に重ね合わされていること、を特徴とする。
【0009】
この態様によれば、シャシダイナモメータ上に載置した車両に試験中、急激な加速度が生じると、ピッチング等、車両の慣性力に起因した外力が、車両支持部材保持部に作用する。このとき、車両支持部材保持部では、第1の車両支持部材と第2の車両支持部材とが交差する軸の軸心が、ホイールハブの回転中心に一致して配置できているため、上記外力が発生しても、車両支持部材保持部にトルクは生じない。そのため、急激な加速度が車両に伴っても、車両支持部材保持部が回転するのを抑止することができ、この車両が、シャシダイナモメータ上から前後方向に動くことはない。また、車両の側部視において、一対の車両支持部材が、ホイールハブを中心とする略ハ字型形状の配置形態で、床面との間をそれぞれ斜めに張設されると、一対の車両支持部材により、車両を側部側(横側)から支えることができる。ひいては、本発明の車両拘束装置は、車体前方からの風の流れ、それに伴う振動等の評価試験のほか、車体の横振れ(ヨーイング等)、コーナー走行時に生じる車輪の横ずれ等の評価試験にも適用できる。
【0010】
上記の態様においては、前記軸は、スプラインが形成されたスプライン部を有し、前記ハブ取付け部は、スプライン結合により前記スプライン部に取り付けられ、前記軸の軸心に沿い、前記スプライン部と相対的に移動可能であること、が好ましい。
【0011】
この態様によれば、本発明の車両拘束装置がホイールハブに装着された状態では、車両の試験を行うピット床に固定する部分と車両支持部材保持部との距離を微調整することができる。
【0012】
上記の態様においては、前記第1の車両支持部材と前記第2の車両支持部材とはそれぞれ、長手方向の長さが自在に調整可能に形成されていること、が好ましい。
【0013】
この態様によれば、シャシダイナモメータ上で試験を行う車両において、トレッドやタイヤ外径が車種によって異なっている場合でも、本発明の車両拘束装置は、車両のホイールハブに適切に装着することができる。
【0014】
上記の態様においては、車両の車幅方向両側には、レールが車両の前後方向に沿って敷設され、前記レールに係留するレールコマが、前記レールに対し、前記車両の前後方向に摺動可能に配設されていること、前記レールコマは、前記第1の車両支持部材に対し、連結する前記第1の支持部材の反対側に連結されていると共に、前記第2の車両支持部材に対し、連結する前記第2の支持部材の反対側に連結されていること、が好ましい。
【0015】
この態様によれば、本発明の車両拘束装置は、シャシダイナモメータ上で試験を行う車両において、ホイールベースの大きさが異なる複数の車種を対象に、車両のホイールハブに適切に装着することができる。
【発明の効果】
【0016】
従って、本発明に係る車両拘束装置によれば、評価試験中、シャシダイナモメータ上に載置した車両を、車両の前後方向、及び幅方向に対し、確実に拘束することができる、という優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る車両拘束装置を正面から見た図であり、一部を断面で示した説明図である。
図2図1中、A矢視による側面図であり、図を見易くするため、一部の図示を省いて示した説明図である。
図3図1に示す車両支持部材を示す図であり、断面で示した説明図である。
図4】ピット固定部材の説明図である。
図5】レールの説明図である。
図6】実施形態に係る車両拘束装置を車両に取り付けた状態を示す説明図である。
図7図6と同様の説明図である。
図8図1に示す車両拘束装置の車両支持部材の伸縮機能を説明する模式図である。
図9】実施形態に係る車両拘束装置の作用を説明する模式図である。
図10】従来の実施例に係る車両拘束装置の作用を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両拘束装置について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態に係る車両拘束装置は、疑似的な走行状態で車両の評価試験を行うのにあたり、シャシダイナモメータのローラ上に載置したこの車両を、安全上、拘束する装置である。
【0019】
車両拘束装置1は、車両90のホイールハブ91に着脱自在に取付けるハブ取付け部10と、このハブ取付け部10に接続する軸20に嵌合した軸受25A(第1の軸受)と軸受25B(第2の軸受)とにより、軸支された車両支持部材保持部30と、この車両支持部材保持部30に連結され、車両90を支える一対の車両支持部材40と、を有する。ハブ取付け部10は、ホイールハブ91に設けられた全て(例えば、5つ)のハブボルト(図示省略)にそれぞれ、雄ネジ付きナット12の雌ネジ13を螺合し、貫通孔11を挿通したこの雄ネジ付きナット12の雄ネジ14とナット15とを締結することにより、ホイールハブ91に取り付けられる。
【0020】
軸20は、スプラインが形成されたスプライン部21と、2つの軸受25A、25Bが並置して取付けられる軸受嵌合部22とを有している。ハブ取付け部10と軸20とは、スプライン部21でスプライン結合されており、ハブ取付け部10が、軸20の軸心Xに沿い、スプライン部21と相対的に移動可能である。これにより、車両拘束装置1がホイールハブ91に装着された状態では、後述するピット床のレール4と車両支持部材保持部30との距離を微調整することができる。
【0021】
軸受25A,25Bは、本実施形態では、ボール軸受である。軸受25Aの内輪と軸受25Bの内輪はそれぞれ、軸受嵌合部22に嵌合され、互いに拘束されていないフリー状態になっている。軸受25A、25Bの外輪は、軸受25A、25Bの内輪に対しそれぞれフリーな状態で、保持部材27に嵌合されている。
【0022】
保持部材27は、円筒状に形成された円筒部と、この円筒部の軸線方向一端側(図1中、左側)に、径方向内外に延びる鍔部とを有している。また、挟持部材28は、略円盤状に形成された円盤部と、この円盤部から軸線方向に突出する内側鍔部、及び円盤部の径外側に突出する外側鍔部を有している。挟持部材28は、締結ボルト29によるボルト締めで、保持部材27の円筒部に取り付けられる。これにより、軸受25A、25Bは、保持部材27の内側鍔部と挟持部材28の内側鍔部とにより挟持されている。
【0023】
保持部材27の外周には、車両支持部材保持部30が取り付けられている。具体的には、車両支持部材保持部30は、一対の車両支持部材40のうち、一方である第1の車両支持部材41と連結部31aで回動可能に連結する環状の第1の支持部材31と、他方である第2の車両支持部材42と連結部32aで回動可能に連結する環状の第2の支持部材32とからなる。第1の支持部材31と第2の支持部材32とは、軸20に、互いに独立して嵌合された2つの軸受25A、25Bにより軸支され、挟持部材28の外側鍔部と挟持部材28の外側鍔部との挟持により固定された状態で、一体に重ね合わされている。
【0024】
車両支持部材40について説明する。第1の車両支持部材41と第2の車両支持部材42とは実質的に同じ構成であるため、以下、車両支持部材40と総称する。車両支持部材40は、図3に示すように、車両支持部材保持部30の連結部31a、32aと、ピン43より回動可能に連結する連結部41a、42aと、後述するピット固定部材50の連結部51aと、ピン53により回動可能に連結する連結部41b、42bとを、有している。
【0025】
車両支持部材40には、台形型右ネジ45が連結部41a、42a側に長手方向に沿って配設され、右ネジと左ネジとの違いを除き、台形型右ネジ45と同じ仕様の台形型左ネジ46が、連結部41b、42b側に長手方向に沿って配設されている。台形型右ネジ45と台形型左ネジ46とを跨ぐ位置に、噛合い部44が設けられている。噛合い部44は、その一方側で、台形型右ネジ45の一部と噛み合い可能であると共に、他方側で、台形型左ネジ46の一部と噛み合い可能に形成されている。図示しないが、噛合い部44は、例えば、車両支持部材40の長手方向に沿う第1の軸線に対し周方向に回転させる機構、またはこの第1の軸線と直交する第2の軸線を中心に、ハンドルを回転させる機構等で構成され、このような回転を噛合い部44に付することにより、台形型右ネジ45と台形型左ネジ46とが同時に、噛合い部44と相対的に移動して、車両支持部材40が伸縮する。
【0026】
すなわち、台形型右ネジ45と台形型左ネジ46とに対し、噛合い部44の噛み合う位置が同時に、噛合い部44を中心に、台形型右ネジ45と台形型左ネジ46とが近接または離間することにより、車両支持部材40の長さが自在に調整できる。
【0027】
図6及び図7に示すように、シャシダイナモメータ2を設置したピットの床には、レール4が各1列、車両90の車幅方向両側に、車両90の前後方向に沿って敷設されている。レール4は、図5に示すように、ピット床面より下に凹設され、レールコマ55の下端部56と係留可能な引っ掛かり部4aを上部に有している。レールコマ55は、下端部56をレール4の引っ掛かり部4aに係留することにより、レール4に対し、車両90の前後方向に自在に摺動できる。
【0028】
レールコマ55の雌ネジ56とピット固定部材50の雄ネジ52とが締結することにより、車両支持部材40は、レール4上面に座金57が当接した状態で、レール4に取り付けられる。かくして、車両拘束装置1は、シャシダイナモメータ2のローラ3上に載置した車両90全ての車輪のホイールハブ91にそれぞれ、1つ装着され、車両支持部材40がピット床のレール4に支持された状態で、固定される。特に、レールコマ55がレール4上を自在に摺動できるため、車両拘束装置1は、ホイールベースの大きさが異なる複数の車種を対象に、車両90のホイールハブ91に装着できる。
【0029】
図8は、車両支持部材の伸縮機能を説明する模式図である。車両90の車種により、トレッドやタイヤ外径が異なる。車両拘束装置1の固定では、トレッドとタイヤ外径が何れも比較的大きい車両90の場合には、車両拘束装置1がレール4に近づくため、台形型右ネジ45と台形型左ネジ46とに対し、両方とも同数だけ同時に、噛合い部44と噛み合うネジ山の数を増やす調整を行って、車両支持部材40の長さを短くする(図8(a))。また、タイヤ外径が比較的大きい一方で、トレッドが比較的小さい車両90の場合には、図8(a)に示す場合に比して、車両拘束装置1がレール4から遠ざかる。そのため、台形型右ネジ45と台形型左ネジ46とに対し、両方とも同数だけ同時に、噛合い部44と噛み合うネジ山の数を減らす調整を行って車両支持部材40の長さを長くする(図8(b)。
【0030】
また、タイヤ外径が比較的小さい一方で、トレッドが比較的大きい車両90の場合にも、車両拘束装置1がレール4に近づくため、台形型右ネジ45と台形型左ネジ46とに対し、両方とも同数だけ同時に、噛合い部44と噛み合うネジ山の数を増やす調整を行って、車両支持部材40の長さを短くする(図8(c))。また、トレッドとタイヤ外径が何れも比較的小さい車両90の場合には、図8(c)に示す場合に比して、車両拘束装置1がレール4から遠ざかる。そのため、台形型右ネジ45と台形型左ネジ46とに対し、両方とも同数だけ同時に、噛合い部44と噛み合うネジ山の数を減らす調整を行って、車両支持部材40の長さを長くする(図8(d))。
【0031】
本実施形態に係る車両拘束装置1の作用・効果について説明する。車両拘束装置1は、車両90のホイールハブ91に着脱自在に取付けるハブ取付け部10と、このハブ取付け部10に接続する軸20に嵌合した2つの軸受25A、25Bにより、軸支された車両支持部材保持部30と、この車両支持部材保持部30に連結され、車両90を支える一対の車両支持部材40と、を有する。車両支持部材保持部30は、一対の車両支持部材40のうち、一方である第1の車両支持部材41と連結する環状の第1の支持部材31と、他方である第2の車両支持部材42と連結する環状の第2の支持部材32とからなる。第1の支持部材31と第2の支持部材32とは、軸20の軸受嵌合部22に、互いに独立して嵌合された2つの軸受25A,25Bにより軸支され、固定した状態で、一体に重ね合わされている。
【0032】
本実施形態に係る車両拘束装置1によれば、シャシダイナモメータ2のローラ3上に載置した車両90に試験中、急激な加速度が生じると、ピッチング等、車両90の慣性力に起因した外力が、ホイールハブ91に装着した車両拘束装置1の車両支持部材保持部30に作用する。このとき、車両支持部材保持部30では、図9に示すように、第1の車両支持部材41と第2の車両支持部材42とが交差する軸20の軸心Xが、ホイールハブ91の回転中心に一致して配置できているため、上記外力が発生しても、車両支持部材保持部30にトルクは生じない。そのため、急激な加速度が車両90に伴っても、車両支持部材保持部30が回転するのを抑止することができ、この車両91の車輪が、シャシダイナモメータ2のローラ3上から前後方向(図7中、左右方向)に動くことはない。
【0033】
また、図6及び図7に示すように、車両90の側部視において、一対の車両支持部材40(第1の車両支持部材41、第2の車両支持部材42)が、ホイールハブ91を中心とする略ハ字型形状の配置形態で、ピット床にあるレール4との間をそれぞれ斜めに張設されると、一対の車両支持部材40により、車両90を側部側(横側)((図6中、上下方向)から支えることができる。ひいては、車両拘束装置1は、車体前方からの風の流れ、それに伴う振動等の評価試験のほか、車体の横振れ(ヨーイング等)、コーナー走行時に生じる車輪の横ずれ等の評価試験にも適用できる。
【0034】
従って、本実施形態の車両拘束装置1によれば、評価試験中、シャシダイナモメータ2のローラ3上に載置した車両90を、車両90の前後方向(図6、左右方向)、及び幅方向(図6、上下方向)に対し、確実に拘束することができる、という優れた効果を奏する。
【0035】
ところで、前述した従来の実施例に係る車両拘束装置を装着した車両の試験中、急激な加速度が生じると、図10に示すように、車両の慣性力に起因した外力Fにより、車両支持部材保持部130がハブ取付け部に対し回転してしまうことがあった。すなわち、車両支持部材保持部130では、図10に示すように、第1の車両支持部材141と第2の車両支持部材142とが、ホイールハブ91の回転中心上にある軸心Xに一致して配置できていないため、上記外力Fが発生すると、車両支持部材保持部130にトルクが生じてしまうからである。このような回転が発生すると、楕円形状の車両支持部材保持部130の長半径側に沿う両端部(第1端部C1、第2端部C2)に連結された車両支持部材141と車両支持部材142とが、軸心Xを中心とする車両支持部材保持部130の回転の追従により、交差してしまい、車両が前後方向に動いてしまう問題があった。
【0036】
これに対し、本実施形態の車両拘束装置1では、前述した外力Fが車両支持部材保持部30に作用しても、車両支持部材保持部30にトルクが発生しないため、車両支持部材保持部30は回転せず、第1の車両支持部材41と第2の車両支持部材42とが交差することもなく、シャシダイナモメータ2上に載置した車両90は、確実に拘束できている。
【0037】
また、本実施形態の車両拘束装置1は、車両90をシャシダイナモメータ2のローラ3上に載置して評価試験を行うのに、前後方向及び幅方向に対し、車両90を確実に拘束することができるため、評価試験の安全性がより向上する。加えて、本実施形態の車両拘束装置1は、その構造が簡単で、軽量であるため、評価試験の作業性も向上する。
【0038】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
(1)例えば、車種により、ホイールハブ91の径(ハブボルトのピッチ円径)が異なる複数種の車両90に対応するため、評価試験対象となる車両のハブボルトのピッチ円径に対応した貫通孔11のピッチ円径で、複数種のハブ取付け部10を形成し、この複数種のハブ取付け部10が、接続される軸20のスプライン部21に、自在に交換できても良い。
【0039】
(2)また、本実施形態では、軸受25A、25Bをボール軸受としたが、軸受は、実施形態以外にも、例えば、ローラベアリング等でも良く、2つの軸受において、内輪同士が、軸に、互いに独立して嵌合され、双方で外輪が、その内輪と相対的にフリーになっていれば良い。
(3)また、本実施形態では、1つのホイールハブ91に設けられたハブボルトの数を、5つと例示したが、ハブボルトの数は、評価試験の対象となる実際の車両のハブボルトの数に対応したものになっていれば良い。
【符号の説明】
【0040】
1 車両拘束装置
4 レール
10 ハブ取付け部
20 軸
21 スプライン部
25A 軸受(第1の軸受)
25B 軸受(第2の軸受)
30 車両支持部材保持部
31 第1の支持部材
32 第2の支持部材
40 一対の車両支持部材
41 第1の車両支持部材
42 第2の車両支持部材
55 レールコマ
90 車両
91 ホイールハブ
X 軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10