特許第6304816号(P6304816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6304816
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20180326BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   B60C11/00 B
   B60C11/00 D
   B60C11/03 100A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-163443(P2014-163443)
(22)【出願日】2014年8月11日
(65)【公開番号】特開2016-37263(P2016-37263A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(74)【代理人】
【識別番号】100195590
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 博臣
(72)【発明者】
【氏名】前原 敦史
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0027029(US,A1)
【文献】 特開平6−157829(JP,A)
【文献】 特開2003−291610(JP,A)
【文献】 特開平11−165502(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0048874(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その軸方向両端近傍にショルダー部を有するとともに、その半径方向外面がトレッド面を構成するトレッドを備えており、
このトレッドが、ベース層と、このベース層の半径方向外側に積層されたキャップ層とを有しており、
上記トレッド面に、複数の主溝が周方向に形成されており、
ベース層を構成する架橋ゴムの損失正接tanδbが、キャップ層を構成する架橋ゴムの損失正接tanδcより低くされており、
上記ショルダー部におけるベース層の半径方向外面と上記トレッド面との最大離間距離aと、タイヤ軸方向最外方に位置する主溝の深さbとの差a−bが、−3mm以上3mm以下であり、
上記キャップ層を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*cが、6.3MPa以上7.7MPa以下である重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
上記最大離間距離aと、タイヤ軸方向最外方に位置する主溝の深さbとの差a−bが、−1mm以上1mm以下である請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
上記キャップ層を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*cが、6.7MPa以上7.3MPa以下である請求項1又は2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項4】
上記キャップ層を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*cと、ベース層を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*bとの差E*c−E*bが、3.7MPa以上4.3MPa以下である請求項1から3のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
図3には、重荷重用タイヤ52のトレッド54の端部(ショルダー部72近傍)が示されている。図3において、上下方向がタイヤ52の半径方向であり、左右方向がタイヤ52の軸方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤ52の周方向である。このタイヤ52はチューブレスタイプである。
【0003】
このタイヤ52は、トレッド54、サイドウォール56、カーカス58、インナーライナー60及び4層からなるベルト62を備えている。トレッド54は、ベース層64と、ベース層64の半径方向外側に積層されたキャップ層66とを有している。このキャップ層66の半径方向外面は、路面と接地するトレッド面68を構成する。トレッド面68には、溝70が形成されている。この溝70により、トレッドパターンが形成されている。ベース層64は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。ベース層64の典型的な基材ゴムは、天然ゴムである。キャップ層66は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。
【0004】
キャップ層66は、ショルダー部72において、タイヤ半径方向の内側に入り込んでいる。すなわち、ベース層64は、トレッド54の両端にまでは至っていない。これは、ベース層64のゴムは、その目的の一つであるベルトエッジ周辺の低発熱化のためには、ベルトエッジ周辺に存在していればよく、特にトレッド54の両端にまで至る必要がないからである。
【0005】
重荷重用タイヤ52は、トラック、バス等を含む商用車に多用される。このような大きな荷重が負荷される重荷重用タイヤには、その耐摩耗性が重要視される。さらに、重荷重用タイヤにとって低転がり抵抗(LRRC)も重要視されるようになっている。これには、欧州市場において転がり抵抗係数(RRC)の規制が開始されるということが一因となっていた。また、車輪の制動時及び駆動時においては、タイヤ52のパターンブロックの回転方向先着側(先に接地する側)及び後着側(後に接地する側)に大きな剪断力が作用する。特に、後着側に路面との間の大きな滑りが生じるため、段差状の偏摩耗(ヒールアンドトゥー摩耗)が生じやすい。このヒールアンドトゥー摩耗は、歪みが比較的大きいショルダー部72のブロックに生じやすい。
【0006】
従来、耐摩耗性能の向上策として、溝深さを深くする等してトレッドボリュームを大きくすることが主要な選択肢とされている。転がり抵抗の低減策としては、溝深さを浅くする等してトレッドボリュームを小さくすることが主要な選択肢とされている。ヒールアンドトゥー摩耗の抑制策としては、トレッドゴムの高剛性化、トレッドがベース層とキャップ層とからなる場合にはキャップ層の高剛性化が主要な選択肢とされている。
【0007】
しかしながら、上記の対策は、互いに両立し得ない内容である。上記の対策では、耐摩耗性能の向上、転がり抵抗の低減、及び、ヒールアンドトゥー摩耗の抑制の全てを達成することが困難である。
【0008】
特許第3089435号公報には、耐摩耗性能の向上とトレッドボリュームの低減との両立を目的とした技術が提案されている。これは所定の温度領域にガラス転移点を有する二種のゴムをトレッドゴムに用いるものである。しかし、この方法では、RRCの悪化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3089435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性能の向上、転がり抵抗の低減、及び、ヒールアンドトゥー摩耗の抑制を可能にした重荷重用空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る重荷重用空気入りタイヤは、
その軸方向両端近傍にショルダー部を有するとともに、その半径方向外面がトレッド面を構成するトレッドを備えており、
このトレッドが、ベース層と、このベース層の半径方向外側に積層されたキャップ層とを有しており、
上記トレッド面に、複数の主溝が周方向に形成されており、
ベース層を構成する架橋ゴムの損失正接tanδbが、キャップ層を構成する架橋ゴムの損失正接tanδcより低くされており、
上記ショルダー部におけるベース層の半径方向外面と上記トレッド面との最大離間距離aと、タイヤ軸方向最外方に位置する主溝の深さbとの差a−bが、−3mm以上3mm以下であり、
上記キャップ層を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*cが、6.3MPa以上7.7MPa以下である。
【0012】
好ましくは、上記最大離間距離aと、タイヤ軸方向最外方に位置する主溝の深さbとの差a−bが、−1mm以上1mm以下である。
【0013】
好ましくは、上記キャップ層を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*cが、6.7MPa以上7.3MPa以下である。
【0014】
好ましくは、上記キャップ層を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*cと、ベース層を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*bとの差E*c−E*bが、3.7MPa以上4.3MPa以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る重荷重用空気入りタイヤでは、トレッドの歪みが小さくなり、さらに、ショルダー部の低発熱化が達成される。このため、耐摩耗性能の向上、転がり抵抗の低減、及び、ヒールアンドトゥー摩耗の抑制が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
図2図2は、図1のタイヤの一部を示す拡大断面図である。
図3図3は、従来のタイヤのトレッドの一例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1には、重荷重用の空気入りタイヤ2が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤ2の周方向である。図1において、タイヤ2の中心線CLはタイヤ2の赤道面EQをも表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面EQに対して対称である。
【0019】
このタイヤ2は、トレッド4、サイドウォール6、チェーファー8、ビード10、カーカス12、インナーライナー14、フィラー16、ベルト18及びカバリングゴム20を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。
【0020】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面22を形成する。トレッド面22には、5本の周方向の溝(以下、主溝ともいう)24が形成されている。これらの主溝24は、軸方向中央(赤道面EQに略一致)の一本のセンター主溝24c、軸方向両外側の一対のショルダー主溝24s、及び、センター主溝24cとショルダー主溝24sとの間に位置する一対のミドル主溝24mである。この5本の主溝24c、24m、24sにより、周方向に延びる6本のリブが形成されている。
【0021】
上記6本のリブのそれぞれに、図示しない軸方向の溝(ラグ溝)が形成されている。ラグ溝の幅は4.0mm以上にされている。この主溝24及び図示しないラグ溝により、6列ブロック40のトレッドパターンが形成されている。すなわち、センターブロック40c、ミドルブロック40m及びショルダーブロック40sが形成されている。ブロック40の、軸方向のピッチ(個数)は60個以下にされている。各ブロック40c、40m、40sには、図示しない軸方向の溝(ラグ溝)が形成されている。ラグ溝の幅は4.0mm以上にされている。主溝24の幅は、2.0mm以上10.0mm以下とされるのが好ましい。この幅が2.0mm未満であると、溝の容積が小さくなり、ウエット性能が低下するおそれがある。また、この幅が10.0mmより広いと、トレッド4のボリュームが小さくなり、耐摩耗性能及び剛性が低下するおそれがある。なお、ショルダー主溝24s、センター主溝24c、及び、ショルダー主溝24sの幅は、同一でなくてもよい。また、溝幅は、溝の半径方向外端、すなわち、トレッド面22上での幅を言う。
【0022】
トレッド4の軸方向外端及びその近辺は、タイヤ2のショルダー部26と称される。ここでは、より明確にするために、上記ショルダー主溝24sより軸方向外方の部分をショルダー部26と呼ぶ。トレッド4は、ベース層28とキャップ層30とを有している。キャップ層30は、ベース層28の半径方向外側に位置している。キャップ層30は、ベース層28に積層されている。ベース層28は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。ベース層28の典型的な基材ゴムは、天然ゴムである。キャップ層30は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。
【0023】
サイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6の半径方向外側部分は、トレッド4と接合されている。このサイドウォール6の半径方向内側部分は、チェーファー8と接合されている。図1から明らかなように、サイドウォール6はカーカス12よりも軸方向外側に位置している。このサイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。このサイドウォール6は、カーカス12の損傷を防止する。
【0024】
チェーファー8は、サイドウォール6から半径方向略内向きに延びている。チェーファー8は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。チェーファー8は、リムのフランジと当接する。チェーファー8は、サイドウォール6よりも硬質である。走行状態のタイヤ2において、チェーファー8はビード10の部分の倒れを抑えうる。
【0025】
ビード10は、コア32と、このコア32から半径方向外向きに延びるエイペックス34とを備えている。コア32はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス34は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス34は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0026】
カーカス12は、カーカスプライ36からなる。カーカスプライ36は、両側のビード10の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6に沿っている。カーカスプライ36は、コア32の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。カーカスプライ36は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。カーカス12は、2枚以上のカーカスプライ36から形成されてもよい。
【0027】
フィラー16は、ビード10の近くに位置している。フィラー16は、カーカス12に積層されている。フィラー16は、カーカスプライ36の内側において、ビード10のコア32の周りで折り返されている。フィラー16は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。フィラー16は、ビード10の部分の倒れを抑えうる。
【0028】
インナーライナー14は、カーカス12の内側に位置している。インナーライナー14は、架橋ゴムからなる。インナーライナー14には、空気遮蔽性に優れたゴムが用いられている。インナーライナー14は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0029】
図1の断面において、ベルト18は、軸方向に延在している。ベルト18は、半径方向においてトレッド4の内側に位置している。このベルト18は、カーカス12の半径方向外側に位置している。ベルト18はカーカス12を補強する。このタイヤ2では、ベルト18は4層から構成されている。このベルト18は、半径方向内側から順に積層された、第一プライ18a、第二プライ18b、第三プライ18c及び第四プライ18dからなる。第一プライ18aは、赤道面においてカーカス12に積層されている。各プライは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。このタイヤ2では、軸方向において、第二プライ18bが上記4層のうち最も大きな幅を有している。このタイヤ2では、軸方向において、第四プライ18dが上記4層のうち最も小さな幅を有している。このベルト18は3層から構成されてもよい。
【0030】
カバリングゴム20は、第二プライ18b及び第三プライ18cの各端部を覆っている。
【0031】
図2は、図1のタイヤ2のショルダー部26の近辺を示す拡大断面図である。図示のごとく、キャップ層30は、トレッド4の軸方向両外端にまで延在している。キャップ層30の肉厚は、軸方向最外位置のショルダー主溝24sからトレッド4の軸方向外端にかけてのショルダー部26において、略均一である。換言すれば、ベース層28とキャップ層30との境界面であるベース層28の半径方向外面38は、ショルダー部26において、大きく湾曲することなく軸方向外端まで延びている。このキャップ層30は、図3に示される従来のタイヤ52のキャップ層66のようにトレッドの軸方向両外端において半径方向内側に進入してはいない。図3のタイヤ52のようにトレッドの軸方向両外端において半径方向内側に進入してはいない。図3のタイヤ52において、キャップ層66が占めていたショルダー部72の部位を、このタイヤ2ではベース層28が占めている。ベース層28の軸方向外端面は、キャップ層30と接することなく、軸方向外側面に露出、及び又は、サイドウォール6と接している。これにより、ショルダー部26にまで、ベース層28の存在が十分に確保されている。
【0032】
図2において、符号aは、ショルダー主溝24sより軸方向外方の部分(ショルダー部26)における、ベース層28の半径方向外面38とトレッド面22との最大離間距離を示す。これは、本実施形態では、ショルダー部26におけるキャップ層30の最大肉厚と言い替えることができる。この最大離間距離aの方向は、トレッド面22における法線方向である。
【0033】
ベース層28とキャップ層30とは、そのゴムの物性が互いに異なっている。キャップ層30は、耐摩耗性向上のため、複素弾性率E*cの比較的高い架橋ゴムが用いられている。これにより、トレッドに蓄積される歪みを低減することができる。その結果、特にショルダーブロック40sの後着のすべり量を小さくすることができ、ヒールアンドトゥー摩耗が抑制される。
【0034】
キャップ層30のゴムの複素弾性率E*cは、6.3MPa以上7.7MPa以下とされている。キャップ層30のゴムの複素弾性率E*cが、6.3MPa以上とされることにより、キャップ層30の剛性不足が防止される。これにより、前述のごとく、特にショルダーブロック40sのヒールアンドトゥー摩耗が抑制されうる。さらに、剛性不足によるブロック全体のすべり量の増大が抑止される。この結果、トレッド全体の耐摩耗性能が向上しうる。一方、キャップ層30のゴムの複素弾性率E*cが、7.7MPa以下とされることにより、キャップ層30の過度の高剛性化が防止される。この結果、キャップ層30の発熱性能の悪化によるRRCの悪化が防止されうる。さらに、過度の高剛性に起因してトレッドの溝底に生じるクラックであるトレッドグルーブクラッキング(TGC)が防止されうる。かかる観点から、キャップ層30のゴムの複素弾性率E*cは、6.7MPa以上7.3MPa以下とされるのが好ましい。
【0035】
キャップ層30のゴムの複素弾性率E*cは、ベース層の複素弾性率E*bより高くされている。上記キャップ層30を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*cと、ベース層28を構成する架橋ゴムの複素弾性率E*bとの差E*c−E*bは、3.7MPa以上4.3MPa以下であるのが好ましい。キャップ層30のゴムの複素弾性率E*cをこのように高くすることにより、キャップ層30の剛性が向上し、良好な耐摩耗性能、RRC低減、耐ヒールアンドトゥ摩耗が得られうる。
【0036】
また、ベース層28のゴムの損失正接tanδbは、キャップ層30のゴムの損失正接tanδcより低くされている。ベース層28のゴムの損失正接tanδbを低くすることにより、低発熱性とし、RRCを低減することができる。ベース層28のゴムの損失正接tanδbは、0.02以上0.04以下であるのが好ましい。また、上記キャップ層30を構成する架橋ゴムの損失正接tanδcと、ベース層28を構成する架橋ゴムの損失正接tanδbとの差tanδc−tanδbは、0.02以上0.08以下であるのが好ましい。
【0037】
前述の複素弾性率E*及び損失正接tanδは、JIS K 6394の規定に準拠して、測定される。測定条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF−3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0038】
前述のとおり、キャップ層30の肉厚は、ショルダー主溝24sからトレッド4の軸方向外端にかけて、略均一である。そして、従来、ショルダー部に占めていた高tanδのキャップ層の一部が、低tanδのベース層28に入れ替わっている。これにより、低RRC化が実現されている。ショルダー部26におけるベース層28の半径方向外面38とトレッド面22との最大離間距離aは、ショルダー主溝24sの深さ寸法bに対して、b−3mm ≦ a ≦ b+3mmの関係にある。すなわち、上記最大離間距離aとショルダー主溝24sの深さbとの差a−bは、−3mm以上3mm以下にされている。また、上記ショルダー主溝24sの深さbは、14.5mm以上20.5mm以下の範囲とされるのが好ましい。この深さbの範囲は、おおよそ従来の重荷重用タイヤのショルダー主溝24sが有している深さである。この溝深さbは、溝の上端(トレッド面22)における法線方向の深さである。
【0039】
ショルダー部26における上記最大離間距離aが、ショルダー主溝24sの深さb−3mm以上とされることにより、タイヤ2の摩耗末期においても、トレッド面22にベース層28が露出することが防止される。その結果、耐摩耗性能及び耐偏摩耗性能の低下が防止されうる。一方、上記最大離間距離aが、溝深さb+3mm以下とされることにより、ショルダー部26において、低tanδのベース層28の質量が確保される。その結果、十分な低発熱化が実現し、タイヤ2のRRCが低減しうる。かかる観点から、最大離間距離aは、ショルダー主溝24sの深さ寸法bに対して、b−1mm ≦ a ≦ b+1mmの関係にあるのが好ましい。すなわち、最大離間距離aと深さbとの差a−bが、−1mm以上1mm以下とされるのが好ましい。
【0040】
以上のトレッド構成を有するタイヤ2の成形には、ストリップワインド工法を用いるのが好ましい。例えば、図示しないが、成形用ドラムに巻き付けられたベルト18用の層の上に、ベース層28用のゴムストリップが周方向且つ螺旋状に巻き付けられる。さらにその外周面に、キャップ層30用のゴムストリップが周方向且つ螺旋状に巻き付けられる。これにより、ベルト18とトレッド4とが一体化されたリングが形成される。ゴムストリップの巻き付け時に、その横送りピッチを制御することにより、ベース層及びキャップ層の断面形状が制御される。このキャップ層30用のゴムストリップは、先に巻き付けられたベース層の軸方向両端部を覆わないように巻き付けられる。上記ベルト18とトレッド4との一体リングが、一対のビードコア間にカーカスプライが掛け渡された基体に貼着される。この基体には、予め、サイドウォール、クリンチ、インナーライナー等の各ゴムが貼着されていてもよい。以上がストリップワインド工法の一例である。
【0041】
ここでは、正規リムは、タイヤ2が依拠する規格で定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0043】
[実施例1]
図1及び図2に示された構成を備えた実施例1のタイヤを得た。このタイヤのサイズは、315/80R22.5である。このタイヤのベース層のゴムの複素弾性率E*bは、3.0MPaであった。ベース層のゴムの損失正接tanδbは0.04であり、キャップ層のゴムの損失正接tanδcは0.07であった。ショルダー主溝の深さbは、17.5mmであった。キャップ層のゴムの複素弾性率E*c、及び、ショルダー部におけるベース層の半径方向外面とトレッド面との最大離間距離aは、「キャップ層の肉厚」と呼び変えて表1に記載のとおりである。ここで、この最大離間距離aについては、上記ショルダー主溝の深さbとの関係が括弧内に示されている。この実施例1のタイヤについて、耐摩耗性能、RRC、耐ヒールアンドトゥー摩耗性能、及び、TGCの発生の有無の、各確認試験が行われた。
【0044】
[実施例2−6]
キャップ層のゴムの複素弾性率E*c、及び、ショルダー部における上記最大離間距離(キャップ層の肉厚)aを、表1に記載のとおりに変更した他は実施例1と同様にして、実施例2から6のタイヤを得た。実施例2から6の各タイヤについて、耐摩耗性能、RRC、耐ヒールアンドトゥー摩耗性能、及び、TGCの発生の有無の、各確認試験が行われた。
【0045】
[実施例7、比較例1−4]
キャップ層のゴムの複素弾性率E*c、及び、ショルダー部における上記最大離間距離(キャップ層の肉厚)aを、表2に記載のとおりに変更した他は実施例1と同様にして、実施例7及び比較例1から4のタイヤを得た。これらの各タイヤについて、耐摩耗性能、RRC、耐ヒールアンドトゥー摩耗性能、及び、TGCの発生の有無の、各確認試験が行われた。
【0046】
[耐摩耗性能、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能及びTGC発生確認]
供試タイヤをリムに組み込み、これを試験用車両であるトラックの後輪に装着した。この試験用車両によってロードテストが行われた。試験条件は下記のとおりである。
使用リム:9.00×22.5
タイヤ内圧:830kPa
走行速度:80km/h
走行距離:10000km
走行後、供試タイヤの溝深さが測定され、走行開始からの摩耗量が確認された。この測定結果に基づき、耐摩耗性能が、実施例1を100とする指数によって評価された。評価結果が表1及び表2に示されている。数値が大きいほど、摩耗量が少ないことを示し、耐摩耗性能が良好であることを表す。同時に、トレッド面のブロックの先着側と後着側(周方向の後端と前端)の段差量が確認された。この段差摩耗の測定結果に基づき、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能が、実施例1を100とする指数によって評価された。評価結果が表1及び表2に示されている。数値が大きいほど、段差量が少ないことを示し、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能が良好であることを表す。加えて、走行後のタイヤの主溝にクラック(TGC)が発生しているか否かが目視によって確認された。評価結果が表1及び表2に示されている。
【0047】
[転がり抵抗(RRC)]
転がり抵抗試験機を用い、下記の測定条件で転がり抵抗を測定した。
使用リム:9.00×22.5
内圧:830kPa
荷重:36.77kN
速度:80km/h
この測定結果に基づき、転がり抵抗(RRC)が、実施例1を100とする指数によって評価された。評価結果は表1及び表2に示されている。数値が大きいほど、転がり抵抗が小さいことを表している。数値が大きいほど、好ましい。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1及び2に示される評価結果から、本発明の優位性が明らかとなる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る重荷重用空気入りタイヤは、トラック、バス等の車両に装着されうる。
【符号の説明】
【0052】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・チェーファー
10・・・ビード
12・・・カーカス
14・・・インナーライナー
16・・・フィラー
18・・・ベルト
20・・・カバリングゴム
22・・・トレッド面
24・・・主溝
24s・・・ショルダー主溝
26・・・ショルダー部
28・・・ベース層
30・・・キャップ層
32・・・コア
34・・・エイペックス
36・・・カーカスプライ
38・・・(ベース層の)半径方向外面
40・・・ブロック
40s・・・ショルダーブロック
EQ・・・赤道面
図1
図2
図3