特許第6305019号(P6305019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6305019カップリングのボルト穴の位置合わせ用治具及びカップリングの締結方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305019
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】カップリングのボルト穴の位置合わせ用治具及びカップリングの締結方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 1/033 20060101AFI20180326BHJP
   F16B 19/02 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   F16D1/033
   F16B19/02
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-232669(P2013-232669)
(22)【出願日】2013年11月11日
(65)【公開番号】特開2015-94394(P2015-94394A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】立井 優也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一幸
(72)【発明者】
【氏名】大内 要
(72)【発明者】
【氏名】奥山 昇
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−104598(JP,U)
【文献】 特表昭57−500703(JP,A)
【文献】 実開昭61−173825(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/033
F16B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップリングのフランジに設けた複数のボルト穴にリーマボルトを挿入する際に前記複数のボルト穴のうちの一部のボルト穴に挿入して前記ボルト穴の芯出しをし、残りのボルト穴にそれぞれリーマボルトが挿入されたら前記一部のボルト穴から抜き取って他のリーマボルトで置換されるボルト穴の位置合わせ用治具であって、
前記ボルト穴に挿入されるものであって前記フランジの厚みの倍以上の長さを有し、全長に亘って設けたスリットを有し内周面がテーパ面になっている断面C字状の中空スリーブと、
この中空スリーブに挿入され外周面が前記中空スリーブの内周面に対応したテーパ面になっている芯出しピンと
を備えたことを特徴とするカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具。
【請求項2】
請求項1のカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具において、
前記中空スリーブは、軸方向の一方側に前記カップリングのフランジに接触し当該中空スリーブの中心軸に直交するつばを有することを特徴とするカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具。
【請求項3】
カップリングのフランジに設けた複数のボルト穴にリーマボルトを挿入する際に、前記フランジの厚みの倍以上の長さを有すると共に全長に亘って設けたスリットを有し内周面がテーパ面になっている断面C字状の中空スリーブを、前記複数のボルト穴のうちの一部のボルト穴に挿入し、
外周面が前記中空スリーブの内周面に対応したテーパ面になっている芯出しピンを前記中空スリーブに挿入して前記カップリングのボルト穴の位置を合わせ、
前記カップリングの残りのボルト穴にリーマボルトを挿入し、
前記一部のボルト穴から前記中空スリーブ及び前記芯出しピンを抜き取り、前記一部のボルト穴にリーマボルトを挿入する
ことを特徴とするカップリングの締結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン、蒸気タービン、ポンプ等の回転機器のカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具及びカップリングの締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機器のカップリングにリーマボルトを挿入する際には、一般に、カップリングのボルト穴の半数にガイドピンを挿入してカップリング同士のボルト穴の位置を合わせた状態で、残りのボルト穴にリーマボルトを挿入していく。しかし、ボルト穴の径に対してガイドピンの外径には公差が付けられているため、公差に起因してカップリングの互いのボルト穴に微妙な位置ズレが生じる等してリーマボルトの挿入作業に時間を要していた。
【0003】
それに対し、内周面にテーパをつけたカラー、及び外周面にテーパをつけたボルト等を組み合わせたカップリング用リーマボルトがある(特許文献1等参照)。このカップリング用リーマボルトは、カップリングの孔にカラー及びボルトをこの順番で挿入し、ボルトにナットを締め込むことによってスペーサを介してカラーを押し、カラーを楔として機能させてカップリング用リーマボルトと孔との芯を合わせる構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭51−4848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のカップリング用リーマボルトは、テーパを付けたカラー等がボルトとともにリーマボルトを構成するものであって、一般的なリーマボルトとは異なる。また、カップリング間に作用するせん断応力がカラーの接触部以外では中のボルトの断面積にかかる構成となっており、大トルクが発生するカップリングの締結には不向きである。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、一般的なリーマボルトによるカップリングの締結作業の所要時間を短縮することができるカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具及びカップリングの締結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、カップリングのフランジに設けた複数のボルト穴にリーマボルトを挿入する際に前記複数のボルト穴のうちの一部のボルト穴に挿入して前記ボルト穴の芯出しをし、残りのボルト穴にそれぞれリーマボルトが挿入されたら前記一部のボルト穴から抜き取って他のリーマボルトで置換されるボルト穴の位置合わせ用治具であって、前記ボルト穴に挿入されるものであって前記フランジの厚みの倍以上の長さを有し、全長に亘って設けたスリットを有し内周面がテーパ面になっている断面C字状の中空スリーブと、この中空スリーブに挿入され外周面が前記中空スリーブの内周面に対応したテーパ面になっている芯出しピンとを備えたカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一般的なリーマボルトによるカップリングの締結作業の所要時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係るカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具を構成する中空スリーブの側面図である。
図2】本発明の一実施の形態に係るカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具を構成する中空スリーブの正面図である。
図3】本発明の一実施の形態に係るカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具を構成する芯出しピンの側面図である。
図4】カップリングのボルト穴の位置合わせ及びリーマボルトの締結の手順を説明する図であって、位置合わせ用治具設置前のカップリングのフランジ側から見た正面図である。
図5図4中のV−V線による断面図である。
図6】カップリングのボルト穴の位置合わせ及びリーマボルトの締結の手順を説明する図であって、中空スリーブを挿入した状態のカップリングのフランジ側から見た正面図である。
図7図6中のVII−VII線による断面図である。
図8】カップリングのボルト穴の位置合わせ及びリーマボルトの締結の手順を説明する図であって、中空スリーブ及び芯出しピンを挿入した状態のカップリングのフランジ側から見た正面図である。
図9図8中のIX−IX線による断面図である。
図10】カップリングのボルト穴の位置合わせ及びリーマボルトの締結の手順を説明する図であって、リーマボルトを挿入した状態のカップリングのフランジの正面図である。
図11図10中のXI−XI線による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施の形態に係るカップリングのボルト穴の位置合わせ用治具を構成する中空スリーブの側面図、図2はその正面図、図3は芯出しピンの側面図、図4は適用対象となるカップリングの一例の正面図、図5図4中のV−V線による断面図である。
【0012】
本実施の形態に係る治具は、カップリングA,B同士のボルト穴D(図5等参照)の位置合わせ用の治具であり、中空スリーブ110及び芯出しピン120を備えている。
【0013】
中空スリーブ110は、カップリングA,BのフランジCに設けたボルト穴Dに挿入される文字通り中空の部材である。この中空スリーブ110には、スリット111が設けられている。スリット111は中空スリーブ110の周方向に1カ所だけ設けられていて、後述するつば112を含めて中空スリーブ110の軸方向(中空スリーブ110の中心軸Oの延在方向)に全長に亘って延在している。つまり、中空スリーブ110は、中心軸Oに直交する断面がC字状になっている。中空スリーブ110の軸方向の一方側(図1では左端側)には、カップリングA又はBのフランジCに接触するつば112が設けられている。つば112は、中心軸Oに直交する方向に延在していて、フランジCに接触する接触面112a(中空スリーブ110の他端方向(図1中では右方向)を向いた面)は中心軸Oに直交する平滑な面である。
【0014】
中空スリーブ110の本体部(つば112を除く部分)の外周面110aはボルト穴Dの内周面に応じた形状をしていて、本実施の形態では円筒状に形成されている。他方、中空スリーブ110の内周面110bはテーパ面になっている。具体的には、中空スリーブ110の内周面110bは円錐形の外周面の一部をなす形状をしていて、中空スリーブ110は、中心軸Oに直交する断面で見ると常に外周面110aと内周面110bが中心軸Oを中心とする同心円となる形状をしている。内周面110bのテーパは、つば112のついた一方側から他方側に向かって内径が狭まるように付けられている。中空スリーブ110のつば112を除いた本体部は、カップリングA,BのフランジCの厚みの倍以上であることが好ましい。また、中空スリーブ110の外径はボルト穴Dと同程度であり、ボルト穴Dの内径より若干大きい場合も小さい場合もあり得る。
【0015】
芯出しピン120は、中空スリーブ110に軸方向に挿入される棒状の部材である。十分な強度があれば中空の部材でも構わないが、本実施の形態における芯出しピン120は中実の部材であるとする。この芯出しピン120の外周面121は、中空スリーブ110の内周面110bに対応したテーパ面になっている。すなわち、芯出しピン120の外周面121のテーパ角は、中空スリーブ110の内周面110bのテーパ角に合わせてある。芯出しピン120の長さは中空スリーブ110に対して長く、中空スリーブ110に挿入して中空スリーブ110の内周面110bに外周面121が接触した状態で、つば112から設定以上の長さが突出する程度に確保されている。
【0016】
次に、カップリングA,Bのボルト穴Dの位置合わせ及びリーマボルトE(図10等参照)の取り付けの手順について図4図11を用いて説明する。
【0017】
(1)カップリングのフランジの突合せ
カップリングA,Bのボルト穴Dの位置を合わせるにあたって、まず図4及び図5に示したようにカップリングA,Bのフランジ面を突き合わせ、ボルト穴Dの位置を概ね合わせる。
【0018】
(2)中空スリーブの挿入
図6は中空スリーブを挿入した状態のカップリングのフランジ側から見た正面図、図7図6中のVII−VII線による断面図である。
【0019】
カップリングA,Bのボルト穴Dの位置を概ね合わせたら、図6及び図7に示したように、つば112の反対側から中空スリーブ110をボルト穴Dに挿入する。この段階では全てのボルト穴Dに中空スリーブ110に挿入するのではなく、フランジCに設けられたボルト穴Dの一部(少なくとも2つ)であり、図6では周方向に1つ置き、つまり半数のボルト穴Dに中空スリーブ110を挿入する場合を例示している。つまり中空スリーブ110は複数本がフランジCに挿入されることとなるが、基本的には各中空スリーブ110の挿入方向は同一であってつば112が同じ側にくるようにする。挿入方向が鉛直方向又は水平に対して傾斜した方向である場合には、つば112が上側に来るようにすることが望ましい。しかし、ボルト穴Dから中空スリーブ110が重力等の外力で抜け落ちない状況下にあっては、各中空スリーブ110の挿入方向が不統一であっても構わない。但し、つば112の接触面112aがフランジCに密着するまで、ボルト穴Dに中空スリーブ110を確り挿入しておく。
【0020】
(3)芯出しピンの挿入
図8は中空スリーブ及び芯出しピンを挿入した状態のカップリングのフランジ側から見た正面図、図9図8中のIX−IX線による断面図である。
【0021】
カップリングA,Bのボルト穴Dに中空スリーブ110を挿入したら、図8及び図9に示したように、芯出しピン120を各中空スリーブ110に挿入する。言うまでもないが、芯出しピン120は、小径の端部から中空スリーブ110のつば112側に挿入する。中空スリーブ110に芯出しピン120を挿入することにより、芯出しピン120のテーパ面が楔の役割を果たし、中空スリーブ110のスリット111が周方向に押し広げられ(中空スリーブ110が径方向に広がり)、中空スリーブ110の外周面110aがボルト穴Dの内周面に密着する。
【0022】
(4)リーマボルトの締結
図10はリーマボルトを挿入した状態のカップリングのフランジ側から見た正面図、図11図10中のXI−XI線による断面図である。
【0023】
カップリングA,Bのボルト穴Dに設置した中空スリーブ110に芯出しピン120を挿入したら、図10及び図11に示したように、カップリングA,Bの残りのボルト穴Dに適宜ハンマー等を用いてリーマボルトEを挿入し、必要に応じてリーマボルトEにナットFを締め込む。これらリーマボルトEを挿入したら、適宜ハンマー等を用いて芯出し治具(中空スリーブ110及び芯出しピン120)をボルト穴Dから抜き取り、同じ要領で残りのボルト穴DにリーマボルトEを挿入し、ナットFを締め込む。
【0024】
本実施の形態により得られる効果を以下に説明する。
【0025】
(1)作業時間の短縮
本実施の形態によれば、前述したようにスリット111を有する中空スリーブ110に芯出しピン120を挿入することによって中空スリーブ110と芯出しピン120のテーパ面の摺動で中空スリーブ100が径方向に押し広げられ、ボルト穴Dの内周面に中空スリーブ110の外周面110aが密着することにより、正確なボルト穴Dの芯出しをすることができる。従って、残りのボルト穴Dに対して一般的なリーマボルトEを効率的に挿し込むことができ、リーマボルトを用いたカップリングA,Bの締結作業の所要時間を短縮することができる。
【0026】
(2)締結強度の向上
通常のリーマボルトEを用いてカップリングA,Bを締結するので、特許文献1に記載されているような特殊なリーマボルトを用いる場合に比べ、カップリングA,Bに作用するせん断応力をボルト穴Dの径に実質等しい断面で受けることができるので、大トルクが発生するカップリングの締結にも好適に適用することができる。
【0027】
(3)位置合わせ精度の更なる向上
それに対し、本実施の形態によれば、中空スリーブ110につば112が付いているため、ボルト穴Dに挿入した中空スリーブ110のつば112がフランジCに接触した状態にすることによって、ボルト穴Dの中心軸に中空スリーブ110の中心軸Oを正確に合わせることができる。
【0028】
つば112を省略した場合、ボルト穴Dに挿入された中空スリーブ110とボルト穴Dの互いの軸が合っているか分からず、軸が合っていない状態で芯出しピン120を押し込むと、その時の当たりやなじみ等によっては軸が合っていない状態のままボルト穴Dに対して中空スリーブ110が固定されてしまい、リーマボルトEの厳格な公差を満足する位置合わせ精度が確保できない可能性がある。
【0029】
(4)その他
特許文献1に記載されたリーマボルトでは、ボルトとともにカラーがリーマボルトを構成するところ、カラーには軸方向位置の位置決め用の特別な構成は備わっていない。そのため、ボルト穴の内部におけるカラーの位置にはバラつきが生じる。カラーの位置にバラつきがあると、突き合わせたカップリング間でカラーの重量配分がボルト穴毎に異なってしまい、アライメントが変化する可能性がある。それに対し、本実施の形態においては一般的なリーマボルトEを用いてカップリングA,Bを締結することができるので、そのような問題も生じない。
【0030】
また、中空スリーブ110にスリット111やテーパを設けたことによって芯出しピン120をプラハンマー等で容易に押し込むことができることもメリットである。また、中空スリーブ110と芯出しピン120に固着(軽度のかじり)が発生したとしても、プラハンマー等でたたき出しすることで芯出しピン120を容易に取り出すことができる。
【符号の説明】
【0031】
110 中空スリーブ
110a 中空スリーブの外周面
110b 中空スリーブの内周面
111 スリット
112 つば
112a 接触面
120 芯出しピン
121 芯出しピンの外周面
A,B カップリング
C フランジ
D ボルト穴
E リーマボルト
F ナット
O 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11