特許第6305057号(P6305057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社熊谷組の特許一覧

<>
  • 特許6305057-斜材の補強具及び補強方法 図000002
  • 特許6305057-斜材の補強具及び補強方法 図000003
  • 特許6305057-斜材の補強具及び補強方法 図000004
  • 特許6305057-斜材の補強具及び補強方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305057
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】斜材の補強具及び補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20180326BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20180326BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   E04B1/58 D
   E04G23/02 D
   E04H9/02 311
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-272216(P2013-272216)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-124592(P2015-124592A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】仲宗根 淳
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−324377(JP,A)
【文献】 特開2000−328669(JP,A)
【文献】 特開2013−057173(JP,A)
【文献】 特開2013−160023(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0095879(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04G 23/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜材の補強具であって、
前記斜材の両端部を除いて該斜材の周囲を取り巻く鋼管と、
前記鋼管にその長手方向に間隔をおいて設けられ前記鋼管の横断方向へ伸びる複数のねじ穴及び該ねじ穴に螺合された複数のボルトとを含み、
前記鋼管と前記複数のボルトとは、それぞれ、前記斜材に接しかつ該斜材をその横断方向に関して拘束する内周面と端面とを有する、斜材の補強具。
【請求項2】
前記鋼管は、半円形の横断面形状を有する2つの半割り体からなる、請求項に記載の斜材の補強具。
【請求項3】
前記斜材は等辺山形鋼からなる、請求項1又は2に記載の補強具。
【請求項4】
工作物に取り付けられた斜材を前記工作物から一時的に取り外すこと、
前記工作物から取り外された斜材の両端部を除いて該斜材の周囲を鋼管で取り巻くこと、
前記鋼管にその長手方向に間隔をおいて設けられ前記鋼管の横断方向へ伸びる複数のねじ穴にそれぞれ螺合された複数のボルトをねじ込み、これにより、前記鋼管の内周面と前記ボルトの端面とを前記斜材に当接させ、前記斜材をその横断方向に関して拘束すること、
その後、拘束状態におかれた前記斜材を前記工作物に取り付けることを含む、斜材の補強方法。
【請求項5】
工作物に取り付けられた斜材の両端部を除いて該斜材の周囲を2つの半割り体を互いに突き合わせてなる鋼管で取り巻くこと、
両半割り体を互いに結合すること、
前記鋼管にその長手方向に間隔をおいて設けられ前記鋼管の横断方向へ伸びる複数のねじ穴にそれぞれ螺合された複数のボルトをねじ込み、これにより、前記鋼管の内周面と前記ボルトの端面とを前記斜材に当接させ、前記斜材をその横断方向に関して拘束することを含む、斜材の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の工作物である建物や構造物に設置されたブレース材や、鉄塔のトラス材のような斜材の座屈に関する補強を行うために用いられる補強具及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震時に比較的大きい圧縮力を受ける斜材の座屈に関する補強のために前記斜材に取り付けられる補強具が提案されている。提案に係る補強具は、斜材の両端部を除いて該斜材の周囲を取り巻く角形の鋼管と、前記鋼管にその長手方向に間隔をおいて設けられ該鋼管の横断方向へ伸びる複数のねじ穴及び該ねじ穴に螺合され前記斜材に向けて前記斜材の手前まで伸びる複数のボルトとを備える(後記特許文献1参照)。
【0003】
この補強具によれば、地震力を受けて斜材に所定大きさの撓みが生じるとき、前記斜材が前記ボルトの端面に当たることにより前記斜材の過大な撓みが防止される。その結果、前記斜材の座屈が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−180535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来の補強具は、その構造上、斜材への取り付けのために鋼管を支持することを必要とし、また、このための支持手段及びその設置作業を必要とする。
【0006】
本発明の目的は、支持手段を用いることなしに、斜材への取り付けを可能とする補強具及び補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る斜材の補強具は、前記斜材の両端部を除いて該斜材の周囲を取り巻く鋼管と、該鋼管にその長手方向に間隔をおいて設けられ前記鋼管の横断方向へ伸びる複数のねじ穴及び該ねじ穴に螺合された複数のボルトとを含み、
前記鋼管と前記複数のボルトとは、それぞれ、前記斜材に接しかつ該斜材をその横断方向に関して拘束する内周面と端面とを有する。
【0008】
本発明によれば、補強具を斜材に取り付けたとき、前記斜材を取り巻く鋼管の内周面と前記ボルトの端面とが前記斜材に接し、これにより前記斜材を前記鋼管の横断方向に関して拘束する。同時に、前記補強具は斜材に支持される。このため、前記斜材への前記補強具の取り付けに前記従来における支持手段及びその設置作業を必要としない。前記鋼管及び前記ボルトの拘束を受ける前記斜材は、風外力作用時や地震時に生じる撓みの大きさが制限され、前記斜材の座屈が防止される。
【0009】
前記鋼管は、半円形の横断面形状を有する2つの半割り体からなるものとすることができる。これによれば、前記斜材にその一部を取り巻くように取り付ける作業をより容易に行うことができる。前記2つの半割り体は、例えば溶接により、あるいはフランジ継手を介して、一体とすることができる。
【0010】
本発明に係る補強方法は前記補強具を使用して行う。この補強方法は、工作物に取り付けられた斜材を前記工作物から一時的に取り外し、前記工作物から取り外された斜材の両端部を除いて該斜材の周囲を鋼管で取り巻き、次に、前記鋼管にその長手方向に間隔をおいて設けられ前記鋼管の横断方向へ伸びる複数のねじ穴にそれぞれ螺合された複数のボルトをねじ込み、これにより、前記鋼管の内周面と前記ボルトの端面とを前記斜材に当接させ、前記斜材をその横断方向に関して拘束し、その後、拘束状態におかれた前記斜材を前記工作物に取り付けることを含む。
【0011】
この補強方法によれば、斜材を前記拘束状態におくとき、前記補強具すなわち前記鋼管及び前記ボルトは前記斜材に固定される。したがって、前記斜材が元の工作物に取り付けられるとき、前記補強具は前記斜材に支持された状態におかれ、他方、この状態下で前記斜材は前記補強具による補強作用を受ける。
【0012】
また、本発明に係る他の補強方法は、2つの半割り体からなる鋼管を使用して行う。この補強方法は、工作物に取り付けられた斜材の両端部を除いて該斜材の周囲を2つの半割り体を互いに突き合わせてなる鋼管で取り巻き、両半割り体を互いに結合し、その後、前記鋼管にその長手方向に間隔をおいて設けられ前記鋼管の横断方向へ伸びる複数のねじ穴にそれぞれ螺合された複数のボルトをねじ込み、これにより、前記鋼管の内周面と前記ボルトの端面とを前記斜材に当接させ、前記斜材をその横断方向に関して拘束することを含む。
【0013】
この補強方法によれば、斜材を工作物から取り外すことなしに、前記工作物に取り付けられたままの状態で補強することができる。前記斜材が前記拘束状態におかれるとき、前記補強具すなわち前記鋼管及び前記ボルトは前記斜材に固定される。このため、前記補強具は前記斜材に支持された状態におかれ、他方、この状態下で前記斜材は前記補強具による補強作用を受ける。
【0014】
本発明が適用される前記斜材は、例えば等辺山形鋼からなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一例に係る補強具の正面図である。
図2図1の線2−2に沿って得られた横断面図である。
図3】本発明の他の例に係る補強具の部分斜視図である。
図4】他の形状の斜材に適用された補強具の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照すると、本発明の一例に係る補強具が全体に符号10で示されている。
【0017】
補強具10は、既存の工作物、例えば建物や構造物(図示せず)に設置され前記建物や構造物の変形を防ぐ構造部材であるブレース材や、鉄塔(図示せず)のトラス材のような斜材12を補強の対象としてこれに取り付けられ、当該補強により、斜材12の座屈耐力が実質的に高められる。
【0018】
斜材12は、等辺山形鋼(図2)、溝形鋼(図3)等からなる形鋼や、鋼管(図示せず)等からなり、その両端部20を介して、前記工作物に取り付けられている。図1に示すところでは、斜材12は、補強具10の取り付けのために一時的に前記工作物から取り外され、その後、補強具10が取り付けられた状態にある。補強具10が取り付けられた斜材12は、前記工作物における元の位置に戻され、該工作物に取り付けられる。
【0019】
補強具10は鋼管14と、該鋼管に設けられ鋼管14の横断方向へ向けて伸びる複数のねじ穴16(図2図3参照)及び各ねじ穴16に螺合されたボルト18とを含む。
【0020】
図示の鋼管14は円形の横断面形状を有する円形鋼管からなり、斜材12の両端部20を除いて、斜材12の周囲を取り巻いている。鋼管14は、図示の例に代えて、半円形の横断面形状を有する2つの半割り体(図示せず)からなるものとすることができる。前記2つの半割り体には、これらを半径方向に突き合わせて円筒体とするために、フランジ継手(図示せず)が設けられる。あるいは、前記2つの半割り体は溶接により結合され、円筒体とされる。鋼管14を前記2つの半割り体で構成するときは、前記工作物から斜材12を取り外すことなく、前記工作物に取り付けられたままの状態で、斜材12に対する補強具10の取り付けを行うことができる。なお、鋼管14は、前記円形以外の例えば矩形の横断面形状を有するものとすることができる。非円形の横断面形状を有する前記鋼管についても、これが2つの半割り体からなるものとすることができる。
【0021】
複数のねじ穴16は鋼管14の長手方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて配置されている。図示の例にあっては、等辺山形鋼(図1及び図2)又は溝形鋼(図3)からなる斜材12への補強具10の適用を可能とすべく、前記複数のねじ穴16を一列とする四列のねじ穴16がそれぞれ鋼管14の周方向に90度の間隔をおいて設けられている。例えば、等辺山形鋼(図1)からなる斜材12に対する適用においては、前記四列のねじ穴16の内の互いに隣接する二列のねじ穴16が用いられ、これらのねじ穴16のそれぞれにボルト18が螺合されている。また、溝形鋼(図3)からなる斜材12への適用のために前記四列のねじ穴16の内の3列のねじ穴16が用いられ、これらのねじ穴16のそれぞれにボルト18が螺合されている。鋼管14における複数のねじ穴16の配置位置は、斜材12の形状に応じて定めることができる。また、鋼管14は、前記したところから明らかなように、斜材12の周囲を取り巻くことができる大きさ(図示の例では内径)を有する。
【0022】
図2を参照すると、鋼管14は円筒面からなる内周面22を有する。鋼管14の内周面22は、等辺山形鋼からなる斜材12に、該斜材の2つの先端24において、接している。他方、各ボルト18は端面26を有する。ボルト18の端面26は、斜材12に、その2つの外側面28において接している。これにより、斜材12が、鋼管14の内部において、鋼管14の内周面22と複数のボルト18の端面26とにより、鋼管14の横断方向に関して拘束されている。また、この拘束により、鋼管14及びボルト18を含む補強具10が斜材12に支持される。このため、補強具18についての従来におけるような格別な支持手段を必要としない。
【0023】
また、図3を参照すると、鋼管14の内周面22が、溝形鋼からなる斜材12に、該斜材の両先端30において接している。さらに、複数のボルト18の端面26が、斜材12に、その3つの外側面32において接している。これにより、斜材12が、鋼管14の内部において、鋼管14の内周面22と複数のボルト18の端面26とにより鋼管14の横断方向に関して拘束されている。また、この拘束により、鋼管14及びボルト18を含む補強具10が斜材12に固定され、該斜材に支持される。
【0024】
なお、ボルト18の配置位置、数量等は、斜材12と鋼管14との接触の態様に応じて設定することができる。例えば、図3で見て、鋼管14の内周面22が、斜材12の両端面30と、これに加えて、斜材12の隣接する2つの外側面32の交差箇所33とに接するときは、上方に位置するボルト18を不要とすることができる。
【0025】
斜材12に対してボルト18の端面26が接する箇所は、図2に示す外側面28以外の他の箇所とすることができる。例えば、斜材12の両外側面28の交差箇所34とすることができる。この例においては、鋼管14は、斜材12に対して、前記四列のねじ穴16の内の1列のねじ穴16が斜材12の交差箇所34に対向するように、配置される。
【0026】
斜材12に対する鋼管14の内周面22の接触圧の大きさは、各ねじ穴16における各ボルト18のねじ込み量をもって調整することができる。また、図示の例のように配置された複数のねじ穴16を有する鋼管14を用いて他の形状、大きさ等を有する斜材の補強を行う場合、ボルト18のねじ込み量を調整することにより、前記斜材を鋼管14の内周面22に押し付けてこれを鋼管14内において拘束することができる。
【0027】
次に、図4を参照して、本発明の他の例に係る補強具40について説明する。
【0028】
この補強具40は、図2に示す補強具10と同様、等辺山形鋼からなる斜材12に適用されている。この補強具40は鋼管44を有し、図示の鋼管44は円筒体からなる。鋼管44は、補強具10の鋼管14と異なり、ねじ穴16及びボルト18を有しない。また、鋼管44は、鋼管14よりも小さい内径を有する。
【0029】
鋼管44は、斜材12の両先端24と、両外側面28の交差箇所34とに接する内周面46を有する。これによれば、斜材12は鋼管14の内周面46により、鋼管44の横断方向に関して拘束される。
【0030】
なお、鋼管44は、鋼管14と同様、矩形のような円形以外の横断面形状を有するものとすることができる。また、前記したような2つの半割り体からなるものとすることができる。
【0031】
斜材12を鋼管14、44の横断方向に関して拘束することにより、斜材12は地震時に受ける圧縮力のために生じる撓みの大きさが制限され、斜材12の座屈が防止される
【符号の説明】
【0032】
10 補強具
12 斜材
14 鋼管
16 ねじ穴
18 ボルト
20 斜材の両端部
22 鋼管の内周面
26 ボルトの端面
44 鋼管
46 鋼管の内周面
図1
図2
図3
図4