(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る太陽電池は、pn接合を形成するためのp型導電部材およびn型導電部材の少なくともいずれかの導電部材にカーボンナノチューブを用いるとともに、このカーボンナノチューブの表面を酸化モリブデン(MoO
3)、酸化ニッケル(NiO)、酸化タングステン(WO
3)および酸化バナジウム(V
2O
5)のいずれか、またはこれらの任意の組み合わせに係る金属酸化物材料で被覆したものであり、またカーボンナノチューブを用いない導電部材として導電性基板を用いたものであり、さらには両導電部材とも、カーボンナノチューブを用いるものである。
【0013】
この太陽電池の具体的な構成の一例について説明する。
なお、以下においては、カーボンナノチューブの表面を被覆する金属酸化物材料としては、酸化モリブデンを用いた場合について説明する。勿論、酸化ニッケル、酸化タングステンおよび酸化バナジウムのいずれか、またはこれらの金属および酸化モリブデンのうちの任意の組み合わせ(少なくとも、二種以上の組み合わせ)に係る金属酸化物材料を用いた場合でも、酸化モリブデンを用いた場合と同様の作用効果が得られるため、これらを適用した場合については省略する。
【0014】
図1に示すように、この太陽電池1は、負極としての金属電極2と、光を透過し得る正極としての金属電極片(例えば、幅が狭い金属板が用いられるが、櫛形電極でもよい。)3との間に発電層4が配置されたものである。そして、この発電層4は、金属電極2側に配置されるn型導電性基板(n型導電部材の一例で、例えば、n型のシリコン基板が用いられる)6と、このn型導電性基板6の表面(金属電極片側表面)に所定厚さでもって層状に配置されるp型カーボンナノチューブ(p型導電部材)7と、この層状のカーボンナノチューブ7の全体を覆うように充填されて各カーボンナノチューブ7の表面を被覆(コーティング)する酸化モリブデン8とから構成されたものである。なお、単に、カーボンナノチューブと称しているが、実際には、多数のカーボンナノチューブにより構成されたものであり、また、層状にされたカーボンナノチューブ群を強調する場合には、カーボンナノチューブ層と称して説明する。
【0015】
この太陽電池の製造方法としては、n型導電性基板(シリコン基板)6の裏面に、真空蒸着などにより、例えばインジウム(In)を金属電極2として形成しておき、上記n型導電性基板6の表面(金属電極とは反対側表面)に、p型カーボンナノチューブ7よりなる薄い膜層をスプレー法または転写により形成する。
【0016】
次に、この層状にされたp型カーボンナノチューブ7に酸化モリブデン8を充填して、各カーボンナノチューブ7の表面を酸化モリブデン8にて被覆する。
そして、酸化モリブデン8が充填されたp型カーボンナノチューブ7の表面(上面)に、表面(下面)に金属電極片3が設けられた透明基板5が載置されて、太陽電池1が得られる。
【0017】
ところで、本発明は、カーボンナノチューブ層に酸化モリブデンを充填して各カーボンナノチューブの表面に酸化モリブデンを被覆することにより、下記に示すような4つの効果、すなわち知見を見出したことに基づくものである。
【0018】
以下、これらの作用・効果について簡単に説明しておく。
(1)ホール輸送
層効果
酸化モリブデン8がホールを輸送し、電極に電流が流れ易くなる。例えば、
図2に示すように、カーボンナノチューブ層7の上面と金属電極片3との間でのホール輸送(矢印a,bにて示す)に加えて、カーボンナノチューブ層7自身の高さ方向でのホール輸送(矢印cにて示す)が得られる。
(2)キャリア増加効果
酸化モリブデン8によりカーボンナノチューブ7を被覆することにより、カーボンナノチューブ自身(つまり、カーボンナノチューブの壁体部分)でのホール数が増加して、多数のカーボンナノチューブの集まりによって形成される膜の抵抗(以下、膜抵抗と称す)が減少するとともに、pn接合部での電子とホールの分離効率が向上して、光電変換効率(所謂、エネルギー変換効率である)が向上する。すなわち、
図3に示すように、層厚方向(高さ方向:矢印dにて示す)および水平方向(矢印eにて示す)で膜抵抗が減少するとともに、カーボンナノチューブ7と導電性基板6との接触部分で、ホールと電子の分離効率が向上する。
(3)パッシベーション効果
酸化モリブデン8がカーボンナノチューブ7と接触していない導電性基板6の表面を覆うことにより得られるもので、不動態膜が持つ固定電荷による導電性基板6の端部のバンドベンディングにより、キャリア同士が再結合するのが防止されて光電変換効率が向上する。また、不動態膜が導電性基板6の表面の傷を覆い、キャリアの再結合が防止される。さらに、導電性基板6の表面におけるダンリングボンドが終端されて、光電変換効率の低下が防止される。
(4)反射率低減効果
酸化モリブデン8が太陽光の反射率を低減させるため、光電変換効率が向上する。すなわち、
図4に示すように、導電性基板6表面での反射率fおよびカーボンナノチューブ層7上面での反射率gが低減される。
【0019】
ところで、酸化モリブデン8をカーボンナノチューブ層7に充填する方法、つまり各カーボンナノチューブ7の表面に被覆する方法としては、例えば塗布または蒸着が用いられる。そして、カーボンナノチューブ層7への充填厚さは、その上面がカーボンナノチューブ層7の表面から20nm程度となるような厚さにされている。
【0020】
なお、
図5に、酸化モリブデンを被覆した場合と、被覆しない場合での、電圧と電流密度との関係を調べた結果のグラフを示す。被覆しない場合(曲線Bにて示す)が、29.1mA/cm
2(この場合の光電変換効率は11.9%である)であったのに対し、被覆した場合(曲線Aにて示す)が、41.9mA/cm
2(この場合の光電変換効率は18.2%である)であった。すなわち、光電変換効率が格段に向上していることが分かる。
【0021】
以下、本発明に係る太陽電池の、より具体化した複数の実施例について説明する。上述の説明においては、発電層に具備されるpn接合をカーボンナノチューブと導電性基板とで得るように説明したが、以下に示す各実施例では、カーボンナノチューブと半導体微粒子とで得るようにしたものであり、上述の説明と同様に、ヘテロ接合型の太陽電池、特に三次元ヘテロ接合の太陽電池について説明する。
【実施例1】
【0022】
実施例1に係る三次元ヘテロ接合型の太陽電池を
図6に基づき説明する。
本実施例1に係る太陽電池11は、負極としての金属電極12と、光を透過し得る正極としての透明導電膜(透明電極ともいう)13との間に発電層14が配置されたもので、またこの発電層14は、金属電極12側に配置されるn型導電性基板16と、透明導電膜13側に所定厚さでもって層状に配置されるp型カーボンナノチューブ(p型導電部材)17とn型半導体微粒子(n型導電部材)18が混合された混合層19とから構成され、さらにこの混合層19に、つまり層状にされたp型カーボンナノチューブ17に酸化モリブデン20を充填したものである。また、太陽光が入射する側を正極とするものである。
【0023】
すなわち、この太陽電池11は、負極としての金属電極(例えば、Ag,Au,Cu,In,Pdなどが用いられる)12と、窓部材である透明基板(SiO
2、ガラスなどが用いられる)15の表面に形成された正極としての透明導電膜(光を透過し得る電極の一例)13と、これら両電極間に、すなわち金属電極12と透明導電膜13との間に配置された発電層14とから構成されている。
【0024】
上記透明導電膜13としては、例えばITO、ZnOなどが用いられる。なお、透明導電膜13の代わりに、光を通過させ得る金属製の櫛型電極を用いてもよい。また、金属カーボンナノチューブまたはグラフェンを用いてもよく、この場合、太陽光は薄い金属カーボンナノチューブ層(膜ともいえる)、薄いグラフェン膜を通過することになる。
【0025】
上記発電層14は、上述したように、金属電極12の表面に配置された例えばn型導電性基板16と、このn型導電性基板16の表面に層状に配置されるp型カーボンナノチューブ17およびn型半導体微粒子18からなる混合層19と、この混合層19に充填されて各p型カーボンナノチューブ17の表面を被覆(コーティング)する酸化モリブデン20とから構成されている。
【0026】
上記太陽電池11の具体的な製造方法としては、n型導電性基板16の裏面に、真空蒸着などにより、例えばインジウムを金属電極12として形成しておき、上記n型導電性基板16の表面(金属電極とは反対側表面)に、p型カーボンナノチューブ17とn型半導体微粒子18からなる薄い膜層である混合層19をスプレー法または転写により形成する。
【0027】
次に、この混合層19に酸化モリブデン20を充填して(例えば、塗布により)、各p型カーボンナノチューブ17の表面を酸化モリブデン20にて被覆すればよい。なお、酸化モリブデン20は、p型カーボンナノチューブ17の表面から20nm程度突出するように被覆される。
【0028】
上記n型導電性基板16としては、n型にされたシリコン半導体基板、ゲルマニウム半導体基板などが若しくは塗布型シリコンが用いられ、または有機半導体であるn型パイ共役有機ホウ素ポリマーなどが用いられる。
【0029】
上記p型カーボンナノチューブ17としては、カーボンナノチューブ17aにp型ドーパント17bが表面担持[または内包(格子置換でもよい)]されたものが用いられる。
上記p型ドーパント17bとしては、化合物としてのF4TCNQ(フッ素化テトラシアノキノジメタン)若しくはカーボンナノチューブより電気陰性度が大きい元素(例えば、Cl,F,N,Oなど)が用いられ、または酸としてのHNO
3,H
2SO
4,HClなどが用いられる。なお、これらのドーパントは、粒状物または液状のものがカーボンナノチューブの外面に付着(または内包)される。
【0030】
さらに、n型半導体微粒子18としては、フラーレン(C60)、PCBM(フラーレン誘導体)などが、またはn型にされたシリコン半導体、ゲルマニウム半導体などが若しくは塗布型シリコンが、または有機半導体であるn型パイ共役有機ホウ素ポリマーなどが用いられる。
【0031】
このように、フラーレン(C60)、PCBM(フラーレン誘導体)などを所定濃度以上、例えば10%(体積%)以上混合させると、層厚方向で数珠状に繋がる経路が形成される。カーボンナノチューブは線状物質であるため電荷(正孔、電子)の輸送路となる。
【0032】
上記混合層19は、カーボンナノチューブ17aにp型ドーパント17bが表面担持(または内包)されてなるp型カーボンナノチューブ17と、PCBMなどのn型半導体微粒子18とをDFM(ジメチルホルムアミド)などの有機溶媒で分散混合してなる溶液を、n型導電性基板16の表面にスプレーにより層状に塗布して形成される。
【0033】
この塗布により、p型カーボンナノチューブ17はランダムに分散されるとともに、これらの間隙でn型半導体微粒子18がn型導電性基板16の表面に垂直に数珠状に配置された、言い換えれば、連なった状態となる。このとき、少なくとも、数珠状のn型半導体微粒子18の端部(下端部)はn型導電性基板16に接触した状態になっている。
【0034】
そして、この混合層19の表面(上面)に、表面(下面)に透明導電膜13が形成された透明基板15が載置されて、太陽電池11が得られる。
この太陽電池11において、p型カーボンナノチューブ17とn型半導体微粒子18とのpn接合界面で電荷分離した電子は数珠状のn型半導体微粒子18およびn型導電性基板16を経て負極である金属電極12から取り出される。一方、正孔については、p型カーボンナノチューブ17および酸化モリブデン20を経て正極である透明導電膜13から取り出される。
【0035】
なお、上記混合層19と金属電極12との間にn型導電性基板16が配置されているため、電流の逆流が防止されている。
また、p型カーボンナノチューブ17とn型導電性基板16とのpn接合界面でも、上記と同様に電子と正孔とが発生し、それぞれ負極である金属電極12および正極である透明導電膜13から取り出される。
【0036】
上記太陽電池11における発電層14の構成によると、p型カーボンナノチューブ17とn型半導体微粒子18とを混合させたので、三次元的(立体的)に多くのpn接合が形成され、言い換えれば、三次元ヘテロ接合(バルクヘテロ接合)が形成され、したがってpn接合界面での光の吸収量が増大して電子と正孔とが電荷分離される割合が大きくなるので、光電変換効率を大幅に向上させることができる。
【0037】
特に、実施の形態で説明したように、p型カーボンナノチューブ17の全体を酸化モリブデン20により被覆するようにしたので、ホール輸送層効果、キャリア増加効果、パッシベーション効果および反射率低減効果が得られる。
【0038】
なお、カーボンナノチューブを用いることにより下記のような効果が得られる。すなわち、カーボンナノチューブは線状であり、電子、正孔などの電荷を運ぶのに適している。また、カーボンナノチューブにおいては、キャリア移動度が速いので、電子や正孔がその寿命内にpn接合部分に達する機会が多いとともに、緩和する前に電極にも到達し得るので、多くの電流(電力)を取り出すことができる。また、カーボンナノチューブは低抵抗であるので、少ない損失で電荷を電極に移動させることができる。さらに、カーボンナノチューブのドーピング方法については、ドーパントを担持するだけでなく、内包や格子置換でも行うことができ、したがって半導体微粒子に影響を与えることなくドーピングすることができる。この効果は、下記に示す各実施例でも得られるものである。
【0039】
ところで、上述の実施例1においては、発電層の形成に際して、p型カーボンナノチューブおよびn型半導体微粒子を用いたが、逆に、n型カーボンナノチューブおよびp型半導体微粒子を用いてもよい。この変形例の場合、p型半導体微粒子とn型カーボンナノチューブとの間にpn接合が形成されることになる。このn型カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブにn型ドーパントが表面担持(または内包)されたものである。また、n型ドーパントとしては、カーボンナノチューブより電気陰性度が小さい元素(例えば、Ba,Ca,Cs,Fr,K,Li,Mg,Na,Rb,Srなど)が用いられ、その粒状物または液状のものがカーボンナノチューブの外面に付着(または内包)される。
【実施例2】
【0040】
次に、実施例2に係る三次元ヘテロ接合型の太陽電池を
図7に基づき説明する。
この実施例2に係る太陽電池は、上述した実施例1の太陽電池の正極側と負極側とを入れ替えたものである。
【0041】
すなわち、この実施例2に係る太陽電池は、金属電極と光を透過し得る電極との間にカーボンナノチューブ(CNT)を有する発電層が配置された太陽電池であって、上記発電層を、少なくとも、p型カーボンナノチューブ(p型導電部材)とn型半導体微粒子(n型導電部材)とを混合させるとともに、この混合されてなる層状のp型カーボンナノチューブに酸化モリブデンを充填したものである。そして、太陽光が入射する側を負極とするものである。
【0042】
図7に示すように、この太陽電池21は、正極としての金属電極(例えば、Ag,Au,Cu,In,Pdなどが用いられる)22と、窓部材である透明基板(SiO
2、ガラスなどが用いられる)25の表面に形成された負極としての透明導電膜(光を透過し得る電極の一例)23と、これら両電極間に、すなわち金属電極22と透明導電膜23との間に配置された発電層24とから構成されている。
【0043】
上記透明導電膜23としては、例えばITO、ZnOなどが用いられる。なお、透明導電膜23の代わりに、光を通過させ得る金属製の櫛型電極を用いてもよい。また、金属カーボンナノチューブまたはグラフェンを用いてもよく、この場合、太陽光は薄い金属カーボンナノチューブ層(膜ともいえる)、薄いグラフェン膜を通過することになる。
【0044】
上記発電層24は、金属電極22の表面に配置されたp型導電性基板26と、p型カーボンナノチューブ(p型導電部材)27およびn型半導体微粒子(n型導電部材)28の混合層29と、この混合層29に充填される酸化モリブデン30とから構成されている。
【0045】
このp型カーボンナノチューブ27としては、カーボンナノチューブ27aにp型ドーパント27bが表面担持[または内包(格子置換でもよい)]されたものが用いられる。
上記p型導電性基板26としては、p型にされたシリコン半導体基板、ゲルマニウム半導体基板などが用いられる。
【0046】
上記p型ドーパント27bとしては、化合物としてのF4TCNQ(フッ素化テトラシアノキノジメタン)若しくはカーボンナノチューブより電気陰性度が大きい元素(例えば、Cl,F,N,Oなど)が用いられ、または酸としてのHNO
3,H
2SO
4,HClなどが用いられる。なお、これらのドーパントは、粒状物または液状のものがカーボンナノチューブの表面に付着(または内包)される。
【0047】
さらに、n型半導体微粒子28としては、フラーレン(C60)、PCBM(フラーレン誘導体)などが、またはn型にされたシリコン半導体、ゲルマニウム半導体などが若しくは塗布型シリコンが用いられ、または有機半導体であるn型パイ共役有機ホウ素ポリマーなどが用いられる。このように、フラーレン(C60)、PCBM(フラーレン誘導体)などを所定濃度以上、例えば10%(体積%)以上混合させると、層厚方向で数珠状に繋がる経路が形成される。カーボンナノチューブは線状物質であるため電荷(正孔、電子)の輸送路となる。
【0048】
上記混合層29は、カーボンナノチューブ27aにp型ドーパント27bが表面担持(または内包)されてなるp型カーボンナノチューブ27と、PCBMなどのn型半導体微粒子28とをDFM(ジメチルホルムアミド)などの有機溶媒で分散混合させた溶液を、透明基板25に形成された透明導電膜23の表面にスプレーにより層状に塗布し乾燥させた後、酸化モリブデン30をp型カーボンナノチューブ27に充填して(例えば、塗布により)形成される。勿論、この酸化モリブデン30の正極側表面がp型カーボンナノチューブ27の表面から所定厚さで(例えば、20nm程度)もって突出される。
【0049】
次に、この混合層29の表面にp型導電性基板26が載置されて、太陽電池21を得る。
この太陽電池21において、p型カーボンナノチューブ27とn型半導体微粒子28とのpn接合界面で電荷分離した電子は数珠状のn型半導体微粒子28を介して負極である透明導電膜23から取り出される。一方、正孔については、p型カーボンナノチューブ27、酸化モリブデン30およびp型導電性基板26を経て正極である金属電極22から取り出される。
【0050】
上記太陽電池21における発電層24の構成によると、p型カーボンナノチューブ27とn型半導体微粒子28とを混合させたので、三次元的(立体的)に多くのpn接合が形成され、言い換えれば、三次元ヘテロ接合すなわちバルクヘテロ接合が形成され、したがってpn接合界面での光の吸収量が増大して電子と正孔とが電荷分離される割合が大きくなるので、光電変換効率を大幅に向上させることができる。
【0051】
本実施例2についても、実施例1と同様に、p型カーボンナノチューブ(層)27の全体を酸化モリブデン30により被覆するようにしたので、ホール輸送層効果、キャリア増加効果、パッシベーション効果および反射率低減効果が得られる。
【0052】
上述の実施例2においては、発電層の形成に際して、p型カーボンナノチューブおよびn型半導体微粒子を用いたが、逆に、n型カーボンナノチューブおよびp型半導体微粒子を用いてもよい。この変形例の場合、p型半導体微粒子とn型カーボンナノチューブとの間にpn接合が形成されることになる。このn型カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブにn型ドーパントが表面担持(または内包)されたものである。また、n型ドーパントとしてカーボンナノチューブより電気陰性度が小さい元素(例えば、Ba,Ca,Cs,Fr,K,Li,Mg,Na,Rb,Srなど)が用いられ、その粒状物または液状のものがカーボンナノチューブの外面に付着(または内包)される。
【0053】
ところで、上記実施例2で説明した太陽電池において、正極側に配置されるp型導電性基板を無くしてよい。
【実施例3】
【0054】
次に、実施例3に係る三次元ヘテロ接合型の太陽電池を
図8に基づき説明する。
この実施例3の太陽電池は、金属電極と光を透過し得る電極との間にカーボンナノチューブ(CNT)を有する発電層が配置された太陽電池であって、上記発電層を、少なくとも、p型カーボンナノチューブ(p型導電部材)とn型半導体微粒子(n型導電部材)とを混合させてなる混合層と、p型カーボンナノチューブ層とから構成するとともに、これら層状にされた両カーボンナノチューブに酸化モリブデンを充填したものである。また、太陽光が入射する側を正極とするとともに正極として金属カーボンナノチューブを用いたものである。
【0055】
図8に示すように、この太陽電池41は、負極としての金属電極(例えば、Ag,Au,Cu,In,Pdなどが用いられる)42と、窓部材である透明基板(SiO
2、ガラスなどが用いられる)45の表面に配置された正極としての金属カーボンナノチューブ(光を透過し得る電極の一例で、集電体ともいえる)43と、これら両電極間に、すなわち金属電極42と金属カーボンナノチューブ43との間に配置される発電層46とから構成されている。
【0056】
上記正極としての金属カーボンナノチューブ43は、透明基板45の表面に薄い層状(膜状)に配置される。なお、金属カーボンナノチューブ43の代わりに、光を通過させ得る金属製の櫛型電極を用いてもよい。
【0057】
また、上記透明基板45の表面には、すなわち透明基板45と正極としての金属カーボンナノチューブ43との間には、補助電極としての集電部材(例えば、Ag,Au,Cu,In,Pdなどが用いられる)44が配置されている。この集電部材44は、当然に、光を通過させ得るように、例えばひし形の網目状に形成されたものが用いられる。なお、図面上は、その一部だけ示している。
【0058】
上記発電層46は、p型カーボンナノチューブ47とn型半導体微粒子48とが混合されてなる混合層49と、この混合層49の表面に層状に配置されたp型カーボンナノチューブ50と、上記混合層49およびp型カーボンナノチューブ50に充填されて各カーボンナノチューブの表面を被覆する酸化モリブデン51とから形成されている。なお、これら各p型カーボンナノチューブ47,50としては、カーボンナノチューブ47a,50aにp型ドーパント47b,50bが表面担持[または内包(格子置換でもよい)]されたものが用いられる。
【0059】
上記p型ドーパントとしては、化合物としてのF4TCNQ(フッ素化テトラシアノキノジメタン)若しくはカーボンナノチューブより電気陰性度が大きい元素(例えば、Cl,F,N,Oなど)が用いられ、または酸としてのHNO
3,H
2SO
4,HClなどが用いられる。なお、これらのドーパントは、粒状物または液状のものがカーボンナノチューブに付着(または内包)される。
【0060】
さらに、n型半導体微粒子48としては、フラーレン(C60)、PCBM(フラーレン誘導体)などが、またはn型にされたシリコン半導体、ゲルマニウム半導体などが若しくは塗布型シリコンが、または有機半導体であるn型パイ共役有機ホウ素ポリマーなどが用いられる。このように、フラーレン(C60)、PCBM(フラーレン誘導体)などを所定濃度以上、例えば10%(体積%)以上混合させると、層厚方向で数珠状に繋がる経路が形成される。カーボンナノチューブは線状物質であるため電荷(正孔、電子)の輸送路となる。
【0061】
また、上記発電層46は、カーボンナノチューブ47aにp型ドーパント47bが表面担持(または内包)されてなるp型カーボンナノチューブ47と、PCBMなどのn型半導体微粒子48とをDFM(ジメチルホルムアミド)などの有機溶媒で分散混合させた溶液を、金属電極42の表面にスプレーにより層状に塗布し、そしてこの表面に、p型カーボンナノチューブ50をスプレーにより層状に塗布し乾燥させた後、酸化モリブデン51を混合層49およびp型カーボンナノチューブ50に充填して(例えば、塗布により)形成する。勿論、この酸化モリブデン51の正極側表面がp型カーボンナノチューブ
50の表面から所定厚さで(例えば、20nm程度)もって突出される。最後に、この表面に、金属カーボンナノチューブ43をスプレーにより薄く層状(膜状)に塗布した後、表面(下面)に補助電極としての集電部材(例えば、ひし形の網目状に形成されたもの)44が配置された透明基板45を載置して、太陽電池41を得る。
【0062】
上記溶液の塗布により、p型カーボンナノチューブ47はランダムに分散されるとともに、これらの間隙でn型半導体微粒子48が金属電極42の表面に垂直に数珠状に配置された、言い換えれば連なった状態となる。このとき、数珠状のn型半導体微粒子48の端部(下端部)は金属電極42に接触した状態となる。
【0063】
この太陽電池41において、p型カーボンナノチューブ47とn型半導体微粒子48とのpn接合界面で電荷分離した電子は数珠状のn型半導体微粒子48を経て負極である金属電極42から取り出される。一方、正孔については、p型カーボンナノチューブ47,50および酸化モリブデン51を経て正極である金属カーボンナノチューブ43から取り出される。
【0064】
上記太陽電池41における発電層46の構成によると、p型カーボンナノチューブ47とn型半導体微粒子48とを混合させたので、三次元的(立体的)に多くのpn接合が形成され、言い換えれば、三次元ヘテロ接合(バルクヘテロ接合)が形成され、したがってpn接合界面での光の吸収量が増大して電子と正孔とが電荷分離される割合が大きくなるので、光電変換効率を大幅に向上させることができる。
【0065】
特に、実施例1と同様に、混合層49と層状のp型カーボンナノチューブ50全体に酸化モリブデン51を充填して各カーボンナノチューブ47,50を酸化モリブデン51にて被覆するようにしたので、ホール輸送層効果、キャリア増加効果、パッシベーション効果および反射率低減効果が得られる。
【0066】
上述の実施例3においては、発電層の形成に際して、p型カーボンナノチューブおよびn型半導体微粒子を用いたが、逆に、n型カーボンナノチューブおよびp型半導体微粒子を用いてもよい。この変形例の場合、p型半導体微粒子とn型カーボンナノチューブとの間にpn接合が形成されることになる。このn型カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブにn型ドーパントが表面担持(または内包)されたものである。また、n型ドーパントとしてカーボンナノチューブより電気陰性度が小さい元素(例えば、Ba,Ca,Cs,Fr,K,Li,Mg,Na,Rb,Srなど)が用いられ、その粒状物または液状のものがカーボンナノチューブの外面に付着(または内包)される。
【0067】
なお、上記各実施例においては、三次元ヘテロ接合を、p型若しくはn型のカーボンナノチューブとn型若しくはp型の半導体基板とで形成、またはp型カーボンナノチューブおよびn型カーボンナノチューブで形成するものとして説明したが、例えばp型またはn型のカーボンナノチューブとn型またはp型の半導体材料とで形成してもよい。この場合、正極側におけるカーボンナノチューブの先端部分を残してほぼ全体を半導体材料で覆うとともに、半導体材料の表面から突出したカーボンナノチューブ層に酸化モリブデンが充填されることになる。勿論、この酸化モリブデンの正極側表面がカーボンナノチューブの表面から所定厚さで(例えば、20nm程度)もって突出される。また、半導体材料の負極側には、カーボンナノチューブが存在しない所定厚さのn型半導体層が設けられる。
【0068】
ところで、上記各実施例においては、発電層に具備されるpn接合をカーボンナノチューブと半導体微粒子とで得るヘテロ接合を用いた場合について説明したが、以下の実施例においては、発電層として、p型のカーボンナノチューブとn型のカーボンナノチューブとで得るようにしたホモ接合の場合について説明する。
【実施例4】
【0069】
まず、本発明の実施例4に係る三次元ホモ接合型の太陽電池を
図9に基づき説明する。
この実施例4に係る太陽電池は、金属電極と光を透過し得る電極との間にカーボンナノチューブ(CNT)を有する発電層が配置された太陽電池であって、上記発電層を、p型カーボンナノチューブ(p型導電部材)とn型カーボンナノチューブ(n型導電部材)とを混合させて形成するとともに、これらp型カーボンナノチューブおよびn型カーボンナノチューブからなる混合層と上記金属電極との間に、層状にp型カーボンナノチューブを配置し、さらに上記混合層およびp型カーボンナノチューブに酸化モリブデンを充填することにより、各カーボンナノチューブの表面に酸化モリブデンを被覆し、且つ上記光を透過し得る電極を、透明部材および当該透明部材の表面に配置される電極としての金属カーボンナノチューブにより形成したものである。また、上記各p型およびn型カーボンナノチューブについては、p型およびn型ドーパントがカーボンナノチューブに内包(格子置換でもよい)されたものが用いられる。
【0070】
図9に示すように、この太陽電池61は、正極としての金属電極(例えば、Ag,Au,Cu,In,Pdなどが用いられる)62と、窓部材である透明基板(SiO
2、ガラスなどが用いられる)63の表面に配置された負極としての金属カーボンナノチューブ(光を透過し得る電極の一例で、集電体ともいえる)64と、これら両電極間に、すなわち金属電極62と金属カーボンナノチューブ64との間に配置される発電層66とから構成されている。
【0071】
上記負極としての金属カーボンナノチューブ64は、透明基板63の表面に薄い層状(膜状)に配置されている。なお、金属カーボンナノチューブ64の代わりに、光を通過させ得る金属製の櫛型電極を用いてもよい。
【0072】
また、上記透明基板63の表面には、すなわち透明基板63と負極としての金属カーボンナノチューブ64との間には、補助電極としての集電部材65が配置されている。この集電部材(例えば、Ag,Au,Cu,In,Pdなどが用いられる)65は、当然に、光を通過させ得るように、例えばひし形の網目状に形成されたものが用いられる。なお、図面上は、その一部だけ示している。
【0073】
上記発電層66は、n型カーボンナノチューブ(n型導電部材)67とp型カーボンナノチューブ(p型導電部材)68が混合されてなる混合層69と、この混合層69と金属電極62との間で薄い層状(膜状)に配置されたp型カーボンナノチューブ70と、これら混合層69とp型カーボンナノチューブ70に充填されて各カーボンナノチューブの表面に被覆された酸化モリブデン71とから構成されている。
【0074】
この発電層66の形成に際しては、透明基板63の表面に金属カーボンナノチューブ64および集電部材65を配置した後、上述した各実施例と同様の方法にて、n型カーボンナノチューブ67とp型カーボンナノチューブ68との混合層69を形成し、さらにこの混合層69の表面(下面)にp型カーボンナノチューブ70を層状に配置する。そして、p型カーボンナノチューブ70の表面から、酸化モリブデン71を充填して(例えば、塗布により)、各カーボンナノチューブの表面を酸化モリブデン71にて被覆する。勿論、この酸化モリブデン71の正極側表面がp型カーボンナノチューブ70の表面から所定厚さで(例えば、20nm程度)もって突出される。
【0075】
そして、得られた発電層66の表面に、下面に金属電極62が配置された透明基板63を載置して負極を形成することにより、太陽電池61を得る。
この太陽電池61において、n型カーボンナノチューブ67とp型カーボンナノチューブ68とのpn接合界面で電荷分離した電子は、当該n型カーボンナノチューブ67を経て負極である金属カーボンナノチューブ64から取り出される。一方、正孔については、p型カーボンナノチューブ68,70および酸化モリブデン71を経て正極である金属電極62から取り出される。
【0076】
なお、上述した各実施例と同様に、p型カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブにp型ドーパント(カーボンナノチューブより電気陰性度が大きい元素が用いられる)を添加することにより得られ、またn型カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブにn型ドーパント(カーボンナノチューブより電気陰性度が小さい元素が用いられる)を添加することにより得られる。
【0077】
上記太陽電池61における発電層66の構成によると、n型カーボンナノチューブ67とp型カーボンナノチューブ68とを混合させたので、三次元的(立体的)に多くのpn接合が形成され、言い換えれば、バルクホモ接合が形成され、したがってpn接合界面での光の吸収量が増大して電子と正孔とが電荷分離される割合が大きくなるので、光電変換効率を大幅に向上させることができる。
【0078】
そして、上述した実施例1と同様に、混合層69およびp型カーボンナノチューブ(層)70の全体を酸化モリブデン71により被覆するようにしたので、ホール輸送層効果、キャリア増加効果、パッシベーション効果および反射率低減効果が得られる。
【0079】
なお、上述の実施例1においては、負極として金属カーボンナノチューブを用いたが、ITOなどの透明導電膜を用いてもよい。また、グラフェンを用いてもよく、この場合、太陽光は薄いグラフェン膜を通過することになる。
【0080】
ところで、上記実施例4においては、混合層をp型カーボンナノチューブとn型カーボンナノチューブとで構成したが、これらn型およびp型のカーボンナノチューブに加えて真正半導体としてのi型カーボンナノチューブを混合させてもよい。