特許第6305142号(P6305142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305142
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】固定陽極型X線管装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/16 20060101AFI20180326BHJP
   H01J 35/18 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   H01J35/16
   H01J35/18
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-58112(P2014-58112)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-185236(P2015-185236A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿武 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】原 孝信
【審査官】 杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−214582(JP,A)
【文献】 特開2007−250328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J35/00−35/32
H05G1/00−2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管ユニットと、前記X線管ユニットを収容するハウジングと、絶縁油と、を備え、
前記X線管ユニットは、
電子を放出する陰極と、前記陰極から放出される電子が衝撃することによりX線を放出する陽極ターゲットと、ガラスまたはセラミクスから成る容器を含み前記陰極及び陽極ターゲットを収納した真空外囲器と、を有した固定陽極型X線管と、
ポリブチレンテレフタレート樹脂を利用して円筒状に形成され、前記真空外囲器を取り囲み、前記真空外囲器に隙間を置いて位置した絶縁円筒と、
ポリウレタン樹脂を利用して前記絶縁円筒の内周面上に形成された被膜と、
エポキシ樹脂を利用して形成され、前記真空外囲器と前記絶縁円筒との隙間に位置し、前記真空外囲器と前記被膜とに接着され、前記固定陽極型X線管に前記絶縁円筒を固定する接着部材と、を備え、一体化され、
前記絶縁油は、前記固定陽極型X線管と、前記絶縁円筒と、前記ハウジングとの間の空間に充填されている固定陽極型X線管装置。
【請求項2】
前記X線管ユニットは、
ポリウレタン樹脂を利用して前記絶縁円筒の外周面上に形成された他の被膜と、
鉛を利用して円筒状に形成され、X線を通過させる放射口を含み、前記絶縁円筒を取り囲んだX線遮蔽円筒と、
エポキシ樹脂を利用して形成され、前記絶縁円筒と前記X線遮蔽円筒との間に位置し、前記他の被膜と前記X線遮蔽円筒とに接着され、前記絶縁円筒に前記X線遮蔽円筒を固定する他の接着部材と、をさらに備えている請求項1に記載の固定陽極型X線管装置。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂は、紫外線硬化型エポキシ樹脂である請求項1に記載の固定陽極型X線管装置。
【請求項4】
電子を放出する陰極と前記陰極から放出される電子が衝撃することによりX線を放出する陽極ターゲットと、ガラスまたはセラミクスから成る容器を含み前記陰極及び陽極ターゲットを収納した真空外囲器とを有した固定陽極型X線管と、ポリブチレンテレフタレート樹脂を利用して円筒状に形成された絶縁円筒と、を用意し、
前記絶縁円筒の内周面上に、湿気硬化型ポリウレタン樹脂を利用して塗膜を形成し、
前記塗膜を湿気硬化させ、前記絶縁円筒の内周面上に被膜を形成し、
前記被膜が形成された前記絶縁円筒で前記真空外囲器を取り囲み、前記固定陽極型X線管、絶縁円筒及び被膜を備えたX線管ユニットを形成し、前記絶縁円筒は前記真空外囲器に隙間を置いて位置し、
前記真空外囲器と前記絶縁円筒との隙間にエポキシ樹脂を充填し、前記エポキシ樹脂は前記真空外囲器と前記被膜とに接し、
前記エポキシ樹脂を硬化させ、前記真空外囲器と前記被膜とに接着され、前記固定陽極型X線管に前記絶縁円筒を固定する接着部材を形成し、前記接着部材によって前記X線管ユニットを一体化し、
前記一体化されたX線管ユニットをハウジングに収容し、
前記固定陽極型X線管と、前記絶縁円筒と、前記ハウジングとの間の空間に絶縁油を充填する固定陽極型X線管装置の製造方法。
【請求項5】
電子を放出する陰極と前記陰極から放出される電子が衝撃することによりX線を放出する陽極ターゲットとガラスまたはセラミクスから成る容器を含み前記陰極及び陽極ターゲットを収納した真空外囲器とを有した固定陽極型X線管と、ポリブチレンテレフタレート樹脂を利用して円筒状に形成された絶縁円筒と、を用意し、
前記絶縁円筒の内周面上に、湿気硬化型ポリウレタン樹脂を利用して塗膜を形成し、
前記塗膜を湿気硬化させ、前記絶縁円筒の内周面上に被膜を形成し、
前記被膜が形成された前記絶縁円筒で前記真空外囲器を取り囲み、前記固定陽極型X線管、絶縁円筒及び被膜を備えたX線管ユニットを形成し、前記絶縁円筒は前記真空外囲器に隙間を置いて位置し、
前記X線管ユニットを鉛直に立てた状態にて、前記X線管ユニットの鉛直上方側から、前記真空外囲器と前記絶縁円筒との隙間にエポキシ樹脂を充填し、前記エポキシ樹脂は前記容器と前記被膜とに接し、
前記エポキシ樹脂を硬化させ、前記真空外囲器と前記被膜とに接着され、前記固定陽極型X線管に前記絶縁円筒を固定する接着部材を形成し、前記接着部材によって前記X線管ユニットを一体化し、
前記X線管ユニットを反転させて鉛直に立てた状態にて、前記X線管ユニットの鉛直上方側から、前記真空外囲器と前記絶縁円筒との隙間にエポキシ樹脂を充填し、前記エポキシ樹脂は前記真空外囲器と前記被膜とに接し、
前記エポキシ樹脂を硬化させ、前記真空外囲器と前記被膜とに接着され、前記固定陽極型X線管に前記絶縁円筒を固定する他の接着部材を形成し、前記他の接着部材によっても前記X線管ユニットを一体化し、
前記一体化されたX線管ユニットをハウジングに収容し、
前記固定陽極型X線管と、前記絶縁円筒と、前記ハウジングとの間の空間に絶縁油を充填する固定陽極型X線管装置の製造方法。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂は、紫外線硬化型エポキシ樹脂であり、
前記エポキシ樹脂を硬化させる際、前記エポキシ樹脂に紫外線を照射する請求項4又は5に記載の固定陽極型X線管装置の製造方法。
【請求項7】
前記湿気硬化型ポリウレタン樹脂は、一液湿気硬化型ポリウレタン樹脂である請求項4又は5に記載の固定陽極型X線管装置の製造方法。
【請求項8】
前記一液湿気硬化型ポリウレタン樹脂は、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマである溶質と有機溶剤からなる溶媒とから構成された樹脂である請求項7に記載の固定陽極型X線管装置の製造方法。
【請求項9】
前記一液湿気硬化型ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネートである溶質と有機溶剤からなる溶媒とから構成された樹脂である請求項7に記載の固定陽極型X線管装置の製造方法。
【請求項10】
前記ポリイソシアネートは、ジフェニルメタンジイソシアネートである請求項9に記載の固定陽極型X線管装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固定陽極型X線管装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線管装置として、固定陽極型X線管装置が知られている。固定陽極型X線管装置は、固定陽極型X線管を備えている。固定陽極型X線管は、電子を放出する陰極と、電子が衝撃することによりX線を放出する陽極ターゲットと、真空外囲器とを有している。また、固定陽極型X線管装置は、X線の遮蔽及び絶縁を行う筒体を有している。これらの筒体は、真空外囲器の外側に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−214582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、信頼性に優れた固定陽極型X線管装置及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る固定陽極型X線管装置は、
X線管ユニットと、前記X線管ユニットを収容するハウジングと、絶縁油と、を備え、
前記X線管ユニットは、
電子を放出する陰極と、前記陰極から放出される電子が衝撃することによりX線を放出する陽極ターゲットと、ガラスまたはセラミクスから成る容器を含み前記陰極及び陽極ターゲットを収納した真空外囲器と、を有した固定陽極型X線管と、
ポリブチレンテレフタレート樹脂を利用して円筒状に形成され、前記真空外囲器を取り囲み、前記真空外囲器に隙間を置いて位置した絶縁円筒と、
ポリウレタン樹脂を利用して前記絶縁円筒の内周面上に形成された被膜と、
エポキシ樹脂を利用して形成され、前記真空外囲器と前記絶縁円筒との隙間に位置し、前記真空外囲器と前記被膜とに接着され、前記固定陽極型X線管に前記絶縁円筒を固定する接着部材と、を備え、一体化され、
前記絶縁油は、前記固定陽極型X線管と、前記絶縁円筒と、前記ハウジングとの間の空間に充填されている。
【0006】
また、一実施形態に係る固定陽極型X線管装置の製造方法は、
電子を放出する陰極と前記陰極から放出される電子が衝撃することによりX線を放出する陽極ターゲットとガラスまたはセラミクスから成る容器を含み前記陰極及び陽極ターゲットを収納した真空外囲器とを有した固定陽極型X線管と、ポリブチレンテレフタレート樹脂を利用して円筒状に形成された絶縁円筒と、を用意し、
前記絶縁円筒の内周面上に、湿気硬化型ポリウレタン樹脂を利用して塗膜を形成し、
前記塗膜を湿気硬化させ、前記絶縁円筒の内周面上に被膜を形成し、
前記被膜が形成された前記絶縁円筒で前記真空外囲器を取り囲み、前記固定陽極型X線管、絶縁円筒及び被膜を備えたX線管ユニットを形成し、前記絶縁円筒は前記真空外囲器に隙間を置いて位置し、
前記真空外囲器と前記絶縁円筒との隙間にエポキシ樹脂を充填し、前記エポキシ樹脂は前記真空外囲器と前記被膜とに接し、
前記エポキシ樹脂を硬化させ、前記真空外囲器と前記被膜とに接着され、前記固定陽極型X線管に前記絶縁円筒を固定する接着部材を形成し、前記接着部材によって前記X線管ユニットを一体化し、
前記一体化されたX線管ユニットをハウジングに収容し、
前記固定陽極型X線管と、前記絶縁円筒と、前記ハウジングとの間の空間に絶縁油を充填する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係る回転陽極型X線管装置を示す概略構成図である。
図2図2は、図1に示したX線管ユニットを概略的に示す断面図である。
図3図3は、上記X線管ユニットを概略的に示す平面図である。
図4図4は、上記実施形態に係る回転陽極型X線管装置の製造方法を説明するための図であり、絶縁円筒に被膜が形成された状態を示す断面図である。
図5図5は、図4に続く、上記実施形態に係る回転陽極型X線管装置の製造方法を説明するための図であり、上記絶縁円筒にX線遮蔽円筒を接着させた状態を示す断面図である。
図6図6は、図5に続く、上記実施形態に係る回転陽極型X線管装置の製造方法を説明するための図であり、絶縁円筒、絶縁円筒及び固定陽極型X線管装置を備えたX線管ユニットを形成した状態を示す断面図である。
図7図7は、図6に続く、上記実施形態に係る回転陽極型X線管装置の製造方法を説明するための図であり、接着部材により絶縁円筒をX線管に接着し、上記X線管ユニットを一体化した状態を示す断面図である。
図8図8は、比較例に係る回転陽極型X線管装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
始めに、本発明の実施形態の基本構想について説明する。
固定陽極X線管装置は、固定陽極型X線管を備えている。固定陽極型X線管は、真空度の高い真空外囲器の内部に陰極及び陽極ターゲットを収容した電子管である。陰極から放出され加速した電子(電子ビーム)は陽極ターゲットに衝突し、陽極ターゲットはX線を放射する。固定陽極型X線管装置は、例えば医療診断、非破壊検査、分析評価などの種々の用途におけるX線発生手段として使用されている。
【0009】
次に、比較例の固定陽極型X線管装置の概略構成について図8を参照して説明する。
図8に示すように、固定陽極型X線管装置は、例えば医療用としてコンパクト化された固定陽極型X線管装置である。図8に示す固定陽極型X線管装置は、一般にモノブロックまたはモノタンク等と呼ばれる高電圧発生器と一体化された一体型固定陽極型X線管装置である。
【0010】
固定陽極型X線管装置は、主要部である固定陽極型X線管101及び高電圧発生器102を備え、絶縁油103及びハウジング104をさらに備えている。1つのハウジング104内には、X線管101及び高電圧発生器102が収納され、絶縁油103が充填されている。ハウジング104の一部には、放射窓104aが設けられている。X線管101から放射されるX線は、放射窓104aを透過してハウジング104外部に放射される。通常、ハウジング104は導電体材により形成されている。また、ハウジング104の内面には、散乱X線等、不所望なX線を遮蔽するためにX線遮蔽材が取り付けられている場合がある。
【0011】
X線管101は、ガラス製の真空外囲器106と、真空外囲器106内に配置された、陰極フィラメント107、集束電極108及び陽極ターゲット109と、陽極110と、冷却フィン111と、を備えている。陰極フィラメント107及び集束電極108は、真空外囲器106内の陰極側に配置されている。陽極ターゲット109は、真空外囲器106内の陽極側に配置されている。X線管101の外側には、X線管101の固定と周囲からの絶縁のための樹脂製の絶縁円筒121が接着部材としてのポッティング材122によって固定されている。さらに、絶縁円筒121の外側にX線遮蔽のための鉛製の鉛円筒123が固定される。ポッティング材122は、たとえば紫外線で硬化する紫外線硬化型エポキシ樹脂であり、接着剤として利用される。ポッティング材122は、X線管101に絶縁円筒121を固着する。
【0012】
一方、高電圧発生器102は、例えば高圧トランス、フィラメント用トランスを備え、低圧用ケーブル112を通した低圧の交流入力から高電圧を生成する。また、高電圧発生器102は、高圧用ケーブル113を通して陽極110に所望の高電圧を供給し、フィラメント用ケーブル114を通して陰極側に所要の電圧を供給する。
【0013】
所要の管電圧が供給されたX線管101において、陰極フィラメント107から放出し集束電極108により集束された電子(電子ビーム)は陽極ターゲット109に衝突し、陽極ターゲット109はX線を発生させる。
【0014】
絶縁円筒121は、例えば、熱硬化性のアクメライト、フェノール樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等の樹脂で形成されている。鉛円筒123は、絶縁円筒121の外周に鉛板を巻き付けこの鉛板の突き合わせ部分を半田付けもしくは溶接して接合し、形成されている。又は、鉛円筒123は、絶縁円筒121の外周に鉛板を巻き付けるとともに接着材で接合し、形成されている。又は、鉛円筒123は、絶縁円筒121の外周に鉛製の筒体を嵌合するとともに接着材で接合などし、形成されている。
【0015】
又は、X線管101の周囲に設置される絶縁円筒121の耐電圧特性の向上させるため、鉛円筒123は、絶縁円筒121と一体的に形成されている。絶縁円筒121は鉛円筒123に密着して形成される。接着材等を利用して別々に形成された絶縁円筒121と鉛円筒123とを組み合わせる場合に比べて、次の利点を有している。
絶縁円筒121と鉛円筒123とを互いに正確に位置合わせすることができる。
絶縁円筒121と鉛円筒123とが密着した状態とすることが容易になる。
絶縁円筒121と鉛円筒123との製造が容易になる。
絶縁円筒121と鉛円筒123との間への異物の侵入を防止し、耐電圧特性などの性能を向上させることができる。
【0016】
ところで、近年、例えば外科用あるいは歯科用に使用される固定陽極型X線管装置は、低コスト化が強く求められている。このため、絶縁円筒121を低コスト材料を利用して形成することが好ましい。
【0017】
エンジニアリングプラスチックである上記PBT樹脂は、熱可塑性の樹脂で、耐熱性、耐絶縁油性に優れているとともに、容易にリサイクル可能であるため環境性能が優れている。また、PBT樹脂は、材料コストが低く、射出成形で絶縁円筒121を安価に成形することができ得る。絶縁円筒121の製造コストの低減を図ることができる。このため、PBT樹脂は、絶縁円筒121の材料として最適な材料である。
【0018】
しかしながら、PBT樹脂を利用して形成した絶縁円筒121はエポキシ樹脂を利用したポッティング材122との接着強度が低く、絶縁円筒121とポッティング材122とが外れ易いという問題がある。このため、PBT樹脂を利用して形成した絶縁円筒のX線管への信頼性の高い固定を、エポキシ樹脂を利用した接着部材を用いて行うことのできる技術が求められている。
【0019】
そこで、本発明の実施形態においては、この課題の原因を解明し、この課題を解決することにより、信頼性に優れた固定陽極型X線管装置及びその製造方法を得ることができるものである。次に、上記課題を解決するための手段及び手法について説明する。
【0020】
以下、図面を参照しながら一実施形態に係る固定陽極型X線管装置及びその製造方法について詳細に説明する。
図1に示すように、固定陽極型X線管装置は、X線管ユニット5と、高電圧発生器2と、X線管ユニット5及び高電圧発生器2を収容するハウジング4と、絶縁油3と、を備えている。固定陽極型X線管装置は、モノブロックまたはモノタンク等と呼ばれる。X線管ユニット5から放射されるX線は、放射窓4aを透過してハウジング4外部に取り出される。ここでは、ハウジング4は、導電材料により形成され、接地電位に固定されている。また、ハウジング4の内面には、X線遮蔽材31が取り付けられている。なお、ハウジング4の外壁に、例えば多数のフィン状のヒートシンクである放熱板が取り付けられていてもよい。
【0021】
図1図2及び図3に示すように、X線管ユニット5は、固定陽極型X線管1と、ラジエータ11と、絶縁円筒21と、被膜22a,22bと、X線遮蔽円筒23と、接着部材24a,24b,25a,25bと、を備えている。
【0022】
X線管1は、陰極と、陽極と、真空外囲器6と、を有している。陰極は、電子を放出するフィラメント7と、集束電極8とを有している。陽極は、陽極本体10と、陽極本体10の端部に形成された陽極ターゲット9とを有している。陽極ターゲット9は、例えばタングステン(W)、モリブデン(Mo)等の高融点金属で形成され、陽極本体10は、例えば銅で形成されている。陽極ターゲット9は、フィラメント7から放出され集束電極8によって集束された電子が衝撃することによりX線を放出する。
【0023】
真空外囲器6は、フィラメント7と、集束電極8と、陽極ターゲット9とを収納している。陽極本体10は、真空外囲器6の内部に位置し、真空外囲器6の外側に真空気密に延出した端部を有している。真空外囲器6は、少なくとも電気絶縁材から成る容器を含んでいる。本実施例では、電気絶縁材はガラスであり、真空外囲器6は、少なくともガラス容器を含んでいる。ガラス容器は、例えば硼珪素ガラスを利用して形成されている。このため、真空外囲器6は、ガラス容器の他、金属容器を備えていてもよい。例えば、真空外囲器6は、中央部に位置しX線透過窓として利用されベリリウムで形成された金属容器と、両端部に位置したガラス容器と、を備えていてもよい。この実施形態において、真空外囲器6は、全体がガラスで形成されている。
【0024】
ラジエータ11は、真空外囲器6の外側で陽極本体10の端部に取り付けられている。ラジエータ11は、例えば熱伝導特性及び耐電圧特性に優れたセラミックスを利用して形成することができる。ラジエータ11は、複数枚の円盤状のフィンを有している。ラジエータ11は、例えばボルト11aを利用し陽極本体10に螺合されている。なお、ラジエータ11の陽極本体10への結合は、耐熱性のある樹脂接着剤による接着、はんだ接着、ろう付け等で代用することが可能である。ラジエータ11は、耐電圧を有することから、ハウジング4との絶縁距離を低減することができる。ラジエータ11のサイズを大きくし、絶縁油3との接触面積を大きくすることができるため、冷却効率の増大を図ることができる。
【0025】
絶縁円筒21は、PBT樹脂を利用して円筒状に形成されている。絶縁円筒21は、真空外囲器6を取り囲み、真空外囲器6に隙間を置いて位置している。絶縁円筒21は、X線放射口21aを有している。X線放射口21aは、絶縁円筒21に形成された開口である。このため、絶縁円筒21は、X線を吸収すること無く、X線を外側に放射することができる。
【0026】
被膜22a,22bは、ポリウレタン樹脂を利用して形成されている。被膜22a,22bは、絶縁円筒21の内周面上の少なくとも一部に形成されている。この実施形態において、被膜は、ポリウレタン樹脂を利用して絶縁円筒21の外周面上の少なくとも一部にも形成されている。ここでは、被膜22a,22bは、絶縁円筒21の内周面上及び外周面上に一体に形成されている。被膜22aは絶縁円筒21の一端部に形成され、被膜22bは被膜22aに間隔を置いて絶縁円筒21の他端部に形成されている。但し、被膜22a及び被膜22bは、連続して一体に形成されていてもよい。
【0027】
X線遮蔽円筒23は、鉛を利用して円筒状に形成されている。X線遮蔽円筒23は、絶縁円筒21を取り囲んでいる。X線遮蔽円筒23は、X線を通過させる放射口23aを含んでいる。放射口23aは、X線放射口21a及び放射窓4aと対向している。X線遮蔽円筒23は、上記X線遮蔽材31とともに、固定陽極型X線管装置の外部へのX線(散乱X線)の漏洩を防止する。
【0028】
接着部材24a,24bは、エポキシ樹脂を利用して形成されている。接着部材24a,24bは、絶縁円筒21とX線遮蔽円筒23との間に位置している。接着部材24a,24bは、絶縁円筒21にX線遮蔽円筒23を固定する。
【0029】
接着部材24aは、被膜22aのうち絶縁円筒21の外周面側の部分と、X線遮蔽円筒23とに接着されている。ここでは、接着部材24aの一部は、絶縁円筒21の外周面に直に接着されている。
接着部材24bは、被膜22bのうち絶縁円筒21の外周面側の部分と、X線遮蔽円筒23とに接着されている。ここでは、接着部材24bの一部は、絶縁円筒21の外周面に直に接着されている。
【0030】
接着部材25a,25bは、エポキシ樹脂を利用して形成されている。接着部材25a,25bは、真空外囲器6と絶縁円筒21との隙間に位置している。接着部材25a,25bは、X線管1に絶縁円筒21を固定する。
【0031】
接着部材25aは、ガラス容器(真空外囲器6のうちガラスで形成されている部分)と、被膜22aのうち絶縁円筒21の内周面側の部分と、に接着されている。ここでは、接着部材25aは、4個所(複数個所)に設けられ、4個所において絶縁円筒21をガラス容器に固定している。
【0032】
接着部材25bは、ガラス容器(真空外囲器6のうちガラスで形成されている部分)と、被膜22bのうち絶縁円筒21の内周面側の部分と、に接着されている。ここでは、接着部材25bは、4個所(複数個所)に設けられ、4個所において絶縁円筒21をガラス容器に固定している。
【0033】
上記のように、ボルト11aや接着部材24a,24b,25a,25bを利用することにより、X線管ユニット5は一体化されている。すなわち、X線管1と、ラジエータ11と、被膜22a,22bが形成された絶縁円筒21と、X線遮蔽円筒23とは、一体化されている。
なお、上記絶縁油3は、X線管1と、絶縁円筒21(X線遮蔽円筒23)と、高電圧発生器2と、ハウジング4との間の空間に充填されている。
【0034】
高電圧発生器2は、例えば上記比較例の高電圧発生器102と同様に、高圧トランス、フィラメント用トランスを備え、低圧用ケーブル12を通した低圧の交流入力から高電圧を生成する。また、高電圧発生器2は、高圧用ケーブル13を通して陽極本体10に所望の高電圧を供給し、フィラメント用ケーブル14を通して陰極側に所要の電圧及び電流を供給する。
【0035】
上記のように、固定陽極型X線管装置は形成されている。
上記固定陽極型X線管装置の動作では、電子ビームが陽極ターゲット9に衝突し、陽極ターゲット9はX線を発生させる。X線は、X線放射口21a及び放射口23aを通り、放射窓4aを透過してハウジング4の外部に放射される。陽極ターゲット9で発生した熱は、陽極本体10を伝導し、ラジエータ11からの輻射、伝導により絶縁油3に伝達され、さらに絶縁油3の対流によりハウジング4に伝達される。ハウジング4に伝達された熱は、ハウジング4から外気に放射され、あるいは図示しないハウジング4の支持部に伝達される。
【0036】
また、上述したように、陽極ターゲット9は、ラジエータ11を通して絶縁油3と効率的に熱交換され、最終的にハウジング4から外部に安定的に放熱が行われる。ラジエータ11は耐電圧特性に優れたセラミックスで形成され、絶縁円筒21も耐電圧特性に優れたPBT樹脂を利用して形成されている。このため、X線管1の高信頼性及び高電圧の動作が可能となり、X線の安定した高出力かが可能となる。あるいは、X線管1とハウジング4との離間距離を縮小することが可能となる。
【0037】
次に、上記接着部材24a,24b,25a,25bの形成に利用する材料について説明する。
上述したように、接着部材24a,24b,25a,25bは、エポキシ樹脂を利用して形成されている。エポキシ樹脂は、絶縁油3中で使用されるガラスやセラミクスまたは金属用接着剤として性能上優れているためである。本実施形態において、エポキシ樹脂として、紫外線硬化型エポキシ樹脂を利用している。また、紫外線硬化型エポキシ樹脂としては、1液紫外線硬化型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0038】
なお、エポキシ樹脂としては、各種の2液性のエポキシ樹脂を利用することも可能である。2液性のエポキシ樹脂としては、例えば、ノガワケミカル製のダイアボンド2310A(常温硬化型)、ナガセケミテックス製のAV138/HV998(常温硬化型)、ペルノックス製のビスタックNM-103A/NM-103B(70℃硬化型)、ペルノックス製のME-105/HY-680(常温硬化型)を挙げることができる。但し、製造工程を考慮すると、1液性の紫外線硬化型エポキシ樹脂を利用する方が望ましい。
【0039】
次に、上記絶縁円筒21及び被膜22a,22bに利用する材料について説明する。
例えば、絶縁円筒21に利用可能な樹脂は、エポキシ樹脂に対する接着性に優れ、耐絶縁油性、絶縁性及び耐熱性を有する樹脂であり、例えば、エポキシ(EP)樹脂、ジアリルフタレート(DAP)樹脂、不飽和ポリエステル(UP)樹脂を挙げることができる。但し、これらの樹脂は、熱硬化性樹脂であるため、成形性が悪く、高価である。そこで、本実施形態において、絶縁円筒21にPBT樹脂を利用している。
【0040】
PBT樹脂は、熱可塑性の樹脂で、耐熱性、耐絶縁油性に優れているとともに、容易にリサイクル可能であるため環境性能が優れている。また、PBT樹脂は、材料コストが低く、射出成形で絶縁円筒21を成形することができ得る。絶縁円筒21の製造コストの低減を図ることができる。このため、PBT樹脂は、絶縁円筒21の材料として最適な材料である。
【0041】
しかしながら、本願発明者らの経験によれば、エポキシ樹脂はPBT樹脂に対する接着性が悪いという結果が得られた。すなわち、絶縁円筒21と、接着部材24a,24b,25a,25bとの接着性が悪く、絶縁円筒21が接着部材24a,24b,25a,25b(X線管1)から離れ易くなってしまう。
【0042】
そこで、絶縁円筒21に対する接着部材24a,24b,25a,25bの接着性を改善するため、絶縁円筒21の表面に、プラズマ処理や紫外線照射処理を施すことが考えられる。これにより、上記接着性の改善効果を高くすることができる。しかしながら、上記処理は、高コストであり処理後直ちにエポキシ樹脂と接着しないと効果が薄れると言うデメリットがある。また、絶縁円筒21の表面に、SiOやTiOを含む様々な市販のプライマを塗布する処理を施しても、上記接着性の改善効果を安定して得ることが困難であった。
【0043】
そこで、本実施形態において、被膜22a,22bを設け、被膜22a,22bにポリウレタン樹脂を利用している。上記ポリウレタン樹脂としては、湿気硬化型ポリウレタン樹脂を挙げることができる。さらに、湿気硬化型ポリウレタン樹脂としては、一液湿気硬化型ポリウレタン樹脂を挙げることができる。
【0044】
被膜22a,22bは、低粘度の一液性塗料を、常温で塗布し、空気中の湿気の作用で硬化させて形成できるため、安価である。上記のように、ポリウレタン樹脂を利用した被膜22a,22bは、エポキシ樹脂を利用した接着部材24a,24b,25a,25bに対する絶縁円筒21のプライマとして望ましい。上記接着力の改善効果が高いためである。上記のことは、本願発明者らによって初めて見出されたものである。
【0045】
一液湿気硬化型ポリウレタン樹脂としては、(1)主成分がイソシアネート基末端のウレタンプレポリマである溶質と有機溶剤からなる溶媒とから構成された樹脂、(2)主成分がポリイソシアネートである溶質と有機溶剤からなる溶媒とから構成された樹脂、を利用することができ、上記樹脂について上記接着性の改善効果が得られることを確認することができた。また、絶縁油中で長期使用した場合にも、上記接着性の劣化は少なく、製品の寿命に悪影響を及ぼさないことが確認できた。
【0046】
上記(1)の樹脂としては、株式会社ソテックのファンデーション#129とファンデーション#129LLE、大日本塗料(株)のMC−PUR、(株)デュプレックスジャパンのセプター101Pを挙げることができる。
【0047】
上記(2)の樹脂としては、株式会社ソテックのファンデーション#123LLとファンデーション#123LLEを挙げることができる。ファンデーション#123LLの一般名は、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)プレポリマである。上記のように、ポリイソシアネートとしてジフェニルメタンジイソシアネートを利用することができる。
【0048】
次に、本実施形態に係る固定陽極型X線管装置の製造方法について説明する。
図1に示すように、X線管装置の製造が開始すると、まず、X線管1を用意する。図4に示すように、また、PBT樹脂を利用して円筒状に形成された絶縁円筒21を用意する。次いで、絶縁円筒21の内周面及び外周面上に、湿気硬化型ポリウレタン樹脂を利用して塗膜を形成する。上記塗膜を形成する手法としては、浸漬塗装(ジャブ漬け塗装)やはけ塗りを利用することができる。ここでは、絶縁円筒21の両端部をそれぞれ湿気硬化型ポリウレタン樹脂中に浸漬させる浸漬塗装を利用している。そして、上記塗膜を湿気硬化させ、絶縁円筒21に被膜22a,22bを形成する。ここでは、被膜22a,22bは、絶縁円筒21の内周面及び外周面上に形成される。
【0049】
続いて、X線遮蔽円筒23を用意し、X線遮蔽円筒23で絶縁円筒21を取り囲む。そして、X線遮蔽円筒23及び絶縁円筒21を鉛直に立てた状態にて、絶縁円筒21の一端部の鉛直上方側から、X線遮蔽円筒23と絶縁円筒21との隙間に紫外線硬化型のエポキシ樹脂を充填する。ここでは、上記隙間の4個所に上記エポキシ樹脂を充填している。エポキシ樹脂はX線遮蔽円筒23と被膜22aとに接している。
【0050】
その後、エポキシ樹脂に紫外線を照射し、エポキシ樹脂を硬化させることにより、接着部材24aを形成する。接着部材24aは、X線遮蔽円筒23と被膜22aとに接着され、X線遮蔽円筒23を絶縁円筒21に固定することができる。
【0051】
次いで、X線遮蔽円筒23及び絶縁円筒21を反転させ、鉛直に立てた状態にて、絶縁円筒21の他端部の鉛直上方側から、X線遮蔽円筒23と絶縁円筒21との隙間に紫外線硬化型のエポキシ樹脂を充填する。ここでは、上記隙間の4個所に上記エポキシ樹脂を充填している。エポキシ樹脂はX線遮蔽円筒23と被膜22bとに接している。
【0052】
その後、エポキシ樹脂に紫外線を照射し、エポキシ樹脂を硬化させることにより、接着部材24bを形成する。接着部材24bは、X線遮蔽円筒23と被膜22bとに接着され、接着部材24aとともにX線遮蔽円筒23を絶縁円筒21に固定することができる。
【0053】
図5に示すように、これにより、接着部材24a,24bにて、X線遮蔽円筒23と絶縁円筒21とを一体化することができる。
【0054】
図6に示すように、次いで、被膜22a,22bが形成されX線遮蔽円筒23が固定された絶縁円筒21でX線管1の真空外囲器6を取り囲み、X線管1、絶縁円筒21、被膜22a,22b及びX線遮蔽円筒23を備えたX線管ユニット5を形成する。絶縁円筒21は真空外囲器6に隙間を置いて位置している。
【0055】
続いて、フィラメント7より陽極ターゲット9が鉛直上方に位置するよう、X線管ユニット5を鉛直に立てた状態にて、X線管ユニット5の鉛直上方側から、真空外囲器6と絶縁円筒21との隙間に紫外線硬化型のエポキシ樹脂を充填する。ここでは、上記隙間の4個所に上記エポキシ樹脂を充填している。エポキシ樹脂は真空外囲器6のガラス容器と被膜22aとに接している。
【0056】
その後、エポキシ樹脂に紫外線を照射し、エポキシ樹脂を硬化させることにより、接着部材25aを形成する。接着部材25aは、ガラス容器と被膜22aとに接着され、X線管1に絶縁円筒21等を固定することができる。これにより、X線管ユニット5は接着部材25aによって一体化される。
【0057】
図7に示すように、次いで、陽極ターゲット9よりフィラメント7が鉛直上方に位置するよう、X線管ユニット5を鉛直に立てた状態にて、X線管ユニット5の鉛直上方側から、真空外囲器6と絶縁円筒21との隙間に紫外線硬化型のエポキシ樹脂を充填する。ここでは、上記隙間の4個所に上記エポキシ樹脂を充填している。エポキシ樹脂は真空外囲器6のガラス容器と被膜22bとに接している。
【0058】
続いて、エポキシ樹脂に紫外線を照射し、エポキシ樹脂を硬化させることにより、接着部材25bを形成する。接着部材25bは、ガラス容器と被膜22bとに接着され、X線管1に絶縁円筒21等を固定することができる。これにより、X線管ユニット5は接着部材25bによっても一体化される。その後、ラジエータ11を陽極本体10に結合することにより、X線管ユニット5は完成する。
【0059】
図1に示すように、次いで、一体化されたX線管ユニット5と、高電圧発生器2とをハウジング4に収容し、X線管1と高電圧発生器2とを、高圧用ケーブル13及びフィラメント用ケーブル14で接続する。その後、絶縁油3を、X線管1と、絶縁円筒21(X線遮蔽円筒23)と、高電圧発生器2と、ハウジング4との間の空間に充填する。
これにより、固定陽極型X線管装置の製造は終了する。
【0060】
上記のように構成された一実施形態に係る固定陽極型X線管装置及びその製造方法によれば、固定陽極型X線管装置は、X線管ユニット5と、ハウジング4と、絶縁油3と、を備えている。X線管ユニット5は、固定陽極型X線管1と、絶縁円筒21と、被膜22a,22bと、接着部材25a,25bと、を備え、一体化されている。
【0061】
絶縁円筒21は、X線管1とハウジング4との間に位置し、耐電圧特性に優れたPBT樹脂を利用して形成されている。このため、X線管1の高信頼性及び高電圧の動作が可能となり、X線の安定した高出力かが可能となる。あるいは、X線管1とハウジング4との離間距離を縮小することが可能となる。この場合、固定陽極型X線管装置の小型化を図ることができる。
【0062】
絶縁円筒21は、PBT樹脂を利用して形成されている。絶縁円筒21の表面上にポリウレタン樹脂を利用した被膜22a,22bが形成されている。ポリウレタン樹脂を利用した被膜22a,22bはPBT樹脂への密着性が高い。ポリウレタン樹脂を利用した被膜22a,22bに対するエポキシ樹脂の接着強度は、PBT樹脂を利用した絶縁円筒21に対するエポキシ樹脂の接着強度より高い。このため、エポキシ樹脂を利用した接着部材25a,25bを被膜22a,22bに強固に接着させることができ、絶縁円筒21をX線管1に安定して固定することができる。
上記のことから、信頼性に優れた固定陽極型X線管装置及びその製造方法を得ることができる。
【0063】
本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0064】
例えば、接着部材24a,24b,25a,25bを形成する際、絶縁円筒21等を鉛直に立てた状態で行ったが、絶縁円筒21等の姿勢はこれに限定されるものではなく、種々変形可能である。絶縁円筒21等の姿勢によっては、絶縁円筒21等を反転させる等の動作無しに接着部材24a,24b,25a,25bを形成することもでき得る。
【0065】
実施例では真空外囲器6は、全体がガラスで形成されているが、ガラスの代わりにセラミックのような電気絶縁材を使用してもよいし、一部に金属製の外囲器を使用していてもよい。その際、接着部材25a,25bが接着される部分の真空外囲器の材料はセラミクスや金属であってもよい。
【0066】
固定陽極型X線管装置は、上記X線遮蔽円筒23を備えていなくともよい。この場合、被膜(被膜22a,22b)は、絶縁円筒21の内周面の少なくとも一部に形成されていればよい。
絶縁円筒21がX線透過性を有している場合、絶縁円筒21にX線放射口21aは形成されていなくともよい。
また、固定陽極型X線管装置は、上記ラジエータ11を備えていなくともよい。
上述した実施形態は、上述した一体型固定陽極型X線管装置及びその製造方法に限定されるものではなく、各種の固定陽極型X線管装置及びその製造方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…固定陽極型X線管、2…高電圧発生器、3…絶縁油、4…ハウジング、5…X線管ユニット、6…真空外囲器、7…フィラメント、8…集束電極、9…陽極ターゲット、10…陽極本体、21…絶縁円筒、22a,22b…被膜、23…X線遮蔽円筒、23a…放射口、24a,24b,25a,25b…接着部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8