(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305164
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】工具抱持具及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20180326BHJP
B23B 31/00 20060101ALI20180326BHJP
B23B 31/20 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
B23Q11/10 A
B23B31/00 C
B23B31/20 F
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-74359(P2014-74359)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-196210(P2015-196210A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】野口 賢次
【審査官】
青山 純
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0298214(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0013480(US,A1)
【文献】
特開2005−111587(JP,A)
【文献】
実開平05−012011(JP,U)
【文献】
特開平01−103204(JP,A)
【文献】
米国特許第05275516(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00 − 11/14
B23B 31/00 − 31/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に取り付けられて、被削材を加工する工具を抱持する工具抱持具であって、
前記工具を抱持するコレットチャックと、
中空部を有し、該中空部に前記コレットチャックが取り付けられるスリーブと、
前記コレットチャックを固定する固定用ナットと、を備え、
前記固定用ナットは、外表面に設けられた切削流体入口と、加工領域へ向けて開口するように該固定用ナットの前面に形成され切削流体を噴射する切削流体出口と、前記切削流体入口から前記切削流体出口へ切削流体を導く切削流体通路と、
を有することを特徴とする工具抱持具。
【請求項2】
前記切削流体通路は、前記固定用ナットの側面に形成した周溝を含み、
前面周溝は、前記固定用ナットの側面に取り付けられた環状部材によって閉塞され、該環状部材と前記ナットとの間にシール部材が配設され、前記環状部材が前記ナットに対して回転可能となっている請求項1に記載の工具抱持具。
【請求項3】
前記固定用ナットは複数の前記切削流体出口を有しており、前記各切削流体出口に接続するそれぞれの前記切削流体通路は、切削流体の射出角度が前記固定用ナットの中心軸線に対してそれぞれ異なる傾斜角となるように形成されている請求項1又は2に記載の工具抱持具。
【請求項4】
前記切削流体入口は、前記固定用ナットの外表面に取り付けられた継手によって形成される請求項1〜3の何れか一項に記載の工具抱持具。
【請求項5】
主軸先端にワークを固定し、前記主軸をその回転軸線を中心として回転させ、前記ワークに対して工具の切刃を押圧して、前記ワークと工具とを相対移動させて該ワークを切削加工する工作機械において、
床面に固定されるベースとなるベッドと、
該ベッドの一方の端部の上面に固定され前記主軸を前記回転軸線を中心として回転自在に支持する主軸装置と、
前記ベッドの上面において主軸装置の反対側に回転軸線に平行なZ軸方向に往復動可能に取り付けられた刃物台とを具備し、
前記刃物台に請求項1〜4の何れか一項に記載の工具抱持具を取り付けるようにした工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤等の工作機械で用いる工具を抱持する工具抱持具と、工具抱持具を備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械にて切削加工を行う場合、ワークと工具との間、特にワークの加工面と工具の切刃との間の加工領域へ切削油やクーラントのような切削流体が供給される。特に、旋盤にてワークに小径の穴を穿設する場合には、該穴から切り屑を排出するためにも、加工領域へ切削流体が確実に到達するようにすることが重要である。そのため、従来から種々の切削流体供給装置が考案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ホルダ本体の内側に取付けられたコレットと、コレットにより工具を締付けるためのナットとからなる把持機構において、クーラントノズルをナットに取付けるようになっている。クーラントノズルの内部はシールリングにより密閉されており、クーラントが、ホルダ本体の中心に形成されたクーラント供給孔からコレット内を通過させてクーラントノズルへ供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−051982号公報(第3−4頁、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の把持機構では、クーラントノズルと工具の間にシールリングを配置して液漏れを防止するようになっているために、工具(刃物)の特にシャンクの外径に応じてクーラントノズルを複数準備しなければならない問題がある。
【0006】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、簡単な構成で、特に内径バイトや座ぐり工具のシャンクの外径が変わっても使用可能で効果的に加工領域へ切削流体を供給可能な工具抱持具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、工作機械に取り付けられて、被削材を加工する工具を抱持する工具抱持具であって、前記工具を抱持するコレットチャックと、中空部を有し、該中空部に前記コレットチャックが取り付けられるスリーブと、前記コレットチャックを固定する固定用ナットとを備え、前記固定用ナットは、外表面に設けられた切削流体入口と、加工領域へ
向けて開口するように該固定用ナットの前面に形成され切削流体を噴射する切削流体出口と、前記切削流体入口から前記切削流体出口へ切削流体を導く切削流体通路とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コレットチャックをスリーブに固定するナットに切削流体入口と、切削流体出口と、前記切削流体入口から切削流体出口へ切削流体を導通する切削流体通路とを設けたので、工具抱持具に抱持される工具のシャンクの外径が変わっても、特段の治具を介在させたり工具抱持具を取り替えたりすることなく、加工領域へ切削流体を効果的に供給可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態による工具抱持具の長手方向断面図である。
【
図3】第1の実施形態の変形例を示す長手方向断面図である。
【
図4】
図3に示すナット36の製作方法を説明するための図(1)である。
【
図5】
図3に示すナット36の製作方法を説明するための図(2)である。
【
図6】
図3に示すナット36の製作方法を説明するための図(3)である。
【
図7】
図3に示すナット36の製作方法を説明するための図(4)である。
【
図8】本発明の第2の実施形態による工具抱持具の長手方向断面図である。
【
図9】本発明の工具抱持具を使用可能な工作機械としての旋盤の略示側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照して、本発明に係る工具抱持具について説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0011】
図9は、本発明の工具抱持具を使用可能な工作機械としての旋盤の略示側面図である。
旋盤100は、床面に固定されるベースとなるベッド102、該ベッド102の一方の端部の上面に固定され主軸(図示せず)を水平な回転軸線Osを中心として回転自在に支持すると共に該主軸を回転駆動する駆動モータ(図示せず)を内蔵した主軸装置104、該主軸装置104の主軸の先端部に取り付けられ被削材であるワークWを固定するチャック106、ベッド102の上面において主軸装置104の反対側に取り付けられた刃物台108を主要な構成要素として具備している。
【0012】
刃物台108の上面には工具Tを装着した工具抱持具10が取り付けられる。刃物台108は、ベッド102の上面において、回転軸線Osに平行なZ軸方向及び回転軸線Osに垂直な水平方向であるX軸方向に往復動可能となっており、これによって、工具Tの刃先がワークWに対して位置決めされる。また、
図9において、ワークWには深穴Hが穿設される状況を示している。
【0013】
図1は本発明の第1の実施形態による工具抱持具の長手方向断面図であり、
図2は
図1に示す工具抱持具の正面図である。なお、
図1は、
図2の矢視線I−Iに沿った断面を示している。
【0014】
工具抱持具10は、中空部12aを有したスリーブ12、該スリーブ12の前端側に嵌合するコレットチャック14、及び、該コレットチャック14をスリーブ12に固定するためのナット16とを具備している。スリーブ12は、中空部12aを有した円筒状の部材であって、前端側の外周面に形成されナット16の内ネジ16aに係合する外ネジ12bと、前端側の内周面に後端方向へ収斂するテーパ状に形成されたコレット受容部12cとを有している。
【0015】
コレットチャック14は、一般的な6分割式のコレットチャックであって、中心軸線Oに沿って延設され工具Tを受容する工具受容孔14aと、スリーブ12のコレット受容部12cに嵌合するように後端方向へ収斂するテーパ状に形成された嵌合部14bとを有している。ナット16は、スリーブ12の外ネジ12bに係合する内ネジ16aを有している。
【0016】
図1及び
図2に示すように、工具T、好ましくは座ぐり工具又は内径バイトのシャンク部をコレットチャック14の工具受容孔14aに挿通し、該コレットチャック14の嵌合部14bをスリーブ12のコレット受容部12cに嵌合した後、ナット16の内ネジ16aをスリーブ12の外ネジ12bに係合させて締め付けることによって、工具Tがスリーブ12に固定される。
【0017】
ナット16は切削流体を加工領域へ噴射、供給するための切削流体通路18を具備し、ナット16の外表面、好ましくは側面に切削流体通路18の入口を構成する例えばクイックカプラー(登録商標)のような継手22が取り付けられている。切削流体通路18は、周方向に延設された円周通路18aと、該円周通路18aに連通しナット16の前面に開口する複数の、
図2の例では3つのオリフィス20とを具備する。オリフィス開口部21は切削流体通路の出口を形成する。こうして、継手22を適当なホース(図示せず)を介して切削流体供給源(図示せず)に接続し、該切削流体供給源から前記ホース、継手22、切削流体通路18を介してオリフィス開口部21から加工領域へ切削流体を噴射、供給することが可能となる。
【0018】
なお、本発明において切削流体は、切削油やクーラントのような油性又は水性の液体、空気や窒素ガス、炭酸ガスのような気体、或いは、こうした気体にミスト状の切削油やクーラントを含んだ気液二相流を含む。
【0019】
本実施形態によれば、工具Tが変更されても、ナット16の側面に取り付けられた継手22、ナット16内に形成した切削流体通路18及びワークWに対面する前面に設けられたオリフィス開口部21が形成する切削流体出口の位置関係は変更されないので、工具Tの変更に伴い工具Tのシャンクの外径が変わっても、特段の治具を介在させたり工具抱持具10を取り替えたりすることなく、ワークWの加工領域、特にワークWの加工面と工具Tの切刃との間に切削流体を効果的に供給可能となる。
【0020】
図3は、第1の実施形態の変形例を示す長手方向断面図である。なお、
図3では、スリーブを外して示している。
【0021】
図3に示す例では、切削流体通路18は、ナット36の側面に配置された環状部材24によって閉塞されており、切削流体通路18の外周面と環状部材24との間にはOリングのようなシール部材26が配設されている。
【0022】
図4〜
図7は、
図3に示すナット36の製作方法を説明するための図である。
【0023】
図4に示すように、最初に、
図3に示すナット36の側面から周方向に延びる溝を形成することによって周溝28が形成される。次に、該周溝28にシール部材26としてのOリングを配置するための肩部19が形成される。
【0024】
図5に示すように、次いで、ナット36の前面から周溝28に向けて、加工領域へ切削液を噴射、供給が可能なように中心軸線Oに対して所定の角度αを以って傾斜するようにオリフィス20が穿設される。
【0025】
図6及び
図7に示すように、次いで、継手22を取り付けた環状部材24が、その内周面で少なくとも2つのシール部材26に接触するようにナット36の外周面に取り付けられる。上記の製造方法によって、切削流体通路18の円周通路が形成される。環状部材24を中心軸線Oを中心としてナット36に対して相対移動(回転)できるようにすることによって、中心軸線O周りの継手22の回転位置を自由に設定することが可能となり、継手22を切削流体供給源に接続するホースの取り回しが容易になる。
【0026】
図8は、本発明の第2の実施形態による工具抱持具の長手方向断面図である。なお、
図8では、スリーブを外して示している。
【0027】
図8に示す第2の実施形態において、
図1に示す第1の実施形態における工具抱持具と同じ構成には同じ番号を付してその説明を省略する。
図8に示す第2の実施形態における工具抱持具では、特に、ナットの中心軸線に対して傾斜角の異なる複数のオリフィスを有するナット46を備えている。
【0028】
既述した実施形態では、中心軸線Oに対する複数のオリフィス20の角度αは一定である、つまり角度αは1つの値を有している。然しながら、本発明はこれに限定されるものではない。
図8に示す本発明の第2の実施形態による工具抱持具のナット46では、切削流体通路18から延設されている複数のオリフィス20a、20bの中心軸線Oに対する角度α、βは、それぞれ異なっている。
【0029】
例えば、ワークWに深穴H(
図9)を穿設するような場合には、二点鎖線で示すように、工具Tをナット16の前面から長く突き出す必要があり、また、工具Tが細い場合には、工具Tの突出した量を短くして、工具Tの振動を防止する必要がある。そうした場合、中心軸線Oに対する角度α、βが異なる複数のオリフィス20a、20bを形成すると、各オリフィスからは、それぞれの傾斜角に応じて異なる角度で切削流体が噴出する。従って、1つの工具抱持具10によって深さの異なる深穴加工や、シャンク外径の異なる複数の工具に対応することが可能となる。
【0030】
なお、本発明が既述した実施形態に限定されないことは当業者の当然とするところである。例えば、既述の実施形態では、切削流体入口を形成する継手22はナット16、36、46の側面に取り付けられているが、本発明はこれに限定されず、継手22はナット16、36、46の外表面の適当な位置に取り付けることが可能である。また、継手22によって切削流体入口を形成する必要はなく、ナット16、36、46の外表面、好ましくは側面に設けた穴によって切削流体入口を形成し、該穴にホース又はチューブをはめ込むようにしてもよい。更には、該穴にホースやチューブを固定するための内ネジを形成してもよい。
【符号の説明】
【0031】
10 工具抱持具
12 スリーブ
12a 中空部
12b 外ネジ
12c コレット受容部
14 コレットチャック
14a 工具受容孔
14b 嵌合部
16 ナット
16a 内ネジ
18 切削流体通路
18a 円周通路
19 肩部
20 オリフィス
20a オリフィス
20b オリフィス
21 オリフィス開口部
22 継手
24 環状部材
26 シール部材
28 周溝
36 ナット
46 ナット
100 旋盤
102 ベッド
104 主軸装置
106 チャック
108 刃物台