特許第6305182号(P6305182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6305182-多層容器 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305182
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】多層容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/02 20060101AFI20180326BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20180326BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   B65D1/02 110
   B32B27/36
   B32B27/00 H
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-84091(P2014-84091)
(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-202895(P2015-202895A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175397
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香川 生法
(72)【発明者】
【氏名】菊澤 健
【審査官】 谷川 啓亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−305676(JP,A)
【文献】 特開2003−321029(JP,A)
【文献】 特開昭63−203540(JP,A)
【文献】 特開2012−131514(JP,A)
【文献】 特開2009−249006(JP,A)
【文献】 特表2008−531827(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/014409(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/126745(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/00 − 1/48
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂で構成される内層及び外層と、前記内層と前記外層との層間に配設される少なくとも一層の中間層と、を有する多層容器であって、
前記中間層は、スピログリコールとポリエチレンテレフタレート樹脂とを共重合させた耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、ナイロンMXD6と、を混合して形成され、
前記耐熱非晶性ポリエステル樹脂は、その屈折率が、延伸時における前記ナイロンMXD6の屈折率と同程度のものであること
を特徴とする多層容器。
【請求項2】
前記中間層は、
ナイロンMXD6と、前記耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、を重量比9:1〜1:9の割合で混合して形成されること
を特徴とする請求項1に記載の多層容器。
【請求項3】
前記内層及び外層の厚さに対する前記中間層の厚さの割合は、5〜50%の範囲にあること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料水、食用油、シャンプー等の多層容器として、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」とする)を成形して得られるものが用いられている。このようなPETからなる多層容器においては、容器自体のガスバリア性を向上させる観点から、特許文献1に示すような、中間層にガスバリア層を配置したPET/ナイロンMXD6/PETの3層構造又はPET/ナイロンMXD6/PET/ナイロンMXD6/PETの5層構造からなるものが用いられる。
【0003】
しかしながら、特許文献1に示すような多層構造の多層容器においては、ハンドリング時、或いは輸送時に容器自体に衝撃が加わることによって層間の剥離が生じる場合がある。また、スクイーズ操作により容器自体を繰り返し押すことによっても層間の剥離が生じる場合がある。このため、このような多層構造の容器においては、層間の剥離を防止するために、ナイロンMXD6にPETを混合する方法が用いられる。この方法により、中間層(ガスバリア層)であるナイロンMXD6と、内層及び外層であるPET層との親和性が高められ、容器自体の耐デラミ性(耐剥離性)が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−305676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法のようにナイロンMXD6にPETを混合して中間層(ガスバリア層)を成形すると、延伸時におけるナイロンMXD6とPETとの屈折率の違いから、ナイロンMXD6とPETとの混合によって濁り(白化)が生じ、容器自体の透明性が損なわれるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するもので、層間の耐剥離性を向上させつつ、容器自体の透明性を保持する多層容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明に係る多層容器は、ポリエステル樹脂で構成される内層及び外層と、前記内層と前記外層との層間に配設される少なくとも一層の中間層と、を有する多層容器であって、前記中間層は、スピログリコールとポリエチレンテレフタレート樹脂とを共重合させた耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、ナイロンMXD6と、を混合して形成され、前記耐熱非晶性ポリエステル樹脂は、その屈折率が、延伸時における前記ナイロンMXD6の屈折率と同程度のものである。
【0008】
また、請求項2の発明に係る多層容器は、請求項1に記載の多層容器であって、前記中間層が、ナイロンMXD6と、前記耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、を重量比9:1〜1:9の割合で混合して形成されるものである。
【0009】
さらに、請求項3の発明に係る多層容器は、請求項1又は請求項2に記載の多層容器であって、前記内層及び外層の厚さに対する前記中間層の厚さの割合が、5〜50%の範囲にあるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。すなわち、上記多層容器によると、内層及び外層と、中間層との層間における耐剥離性を向上させつつ、容器自体の透明性を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る多層容器の側面図及び同多層容器の側面の部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る多層容器10について図1に基づき説明する。
【0013】
図1に示すように、多層容器10は、口部11と、口部11から拡径した肩部12と、筒状に形成され、その下部が拡径した胴部13と、胴部13の下端を閉鎖する底部14と、から構成されている。多層容器10は、口部11と、肩部12と、胴部13と、底部14とが順に連接されている。なお、図1の多層容器10の形状は、本発明における多層容器の一例に過ぎず、本発明はこの形状に限定されるものではない。
【0014】
また、多層容器10の各部(口部11、肩部12、胴部13、底部14)は、内層15と、外層16と、内層15と外層16との層間に設けられる中間層17、17a及び17bと、の5層(多層体構造)により形成される。
【0015】
内層15、外層16は、容器の外観形状を形成する層である。内層15、外層16及び中間層17は、ポリエステル樹脂により形成される。本発明の内外層に用いるポリエステル樹脂は、従来公知のジカルボン酸成分及びジオール成分からなるポリエステル樹脂を用いることができ、好適には、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0016】
また、本発明の内外層に用いるポリエステル樹脂には、それ自体公知の樹脂用配合剤、例えば着色剤、抗酸化剤、安定剤、各種帯電防止剤、離型剤、滑剤、核剤等を配合することができる。
【0017】
中間層17、17a及び17bは、内層15と外層16との層間に設けられる層である。中間層17はポリエステル樹脂、中間層17a及び17bは、ナイロンMXD6と、スピログリコールとポリエチレンテレフタレート樹脂とを共重合させた耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、を混合して形成されるバリア層である。
【0018】
ナイロンMXD6は、メタキシレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて形成される結晶性のポリアミドである。
【0019】
中間層17a及び17bに用いられる耐熱非晶性ポリエステル樹脂としては、例えば、環状アセタール骨格を有するスピログリコールが5〜60モル%に対してエチレングリコールが30〜95モル%のグリコール成分と、テレフタル酸とエステルの少なくとも一方を80〜100モル%の範囲で含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られたポリエステル(商品名「アルテスタ」三菱ガス化学株式会社製)が挙げられる。
また、中間層17a及び17bに用いられる耐熱非晶性ポリエステル樹脂は、その屈折率が、延伸時におけるナイロンMXD6の屈折率と同程度のものが好ましい。
【0020】
さらに、中間層17a及び17bは、ナイロンMXD6と、耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、を重量比9:1〜1:9の割合で混合して形成される。なかでも、中間層17a及び17bは、ナイロンMXD6と、耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、を重量比8:2の割合で混合して形成されるものが好ましい。
【0021】
さらにまた、中間層17a及び17bは、その厚さが、内層15及び外層16の厚さに対して5〜50%の割合で形成される。なかでも、中間層17a及び17bは、その厚さが、内層15及び外層16の厚さに対して5〜20%の割合で形成されることが好ましい。
【0022】
なお、多層容器10は、PET/ナイロンMXD6/PET/ナイロンMXD6/PETの5層構造により構成されているが、これに限定されるものではなく、例えばPET/ナイロンMXD6/PETの3層構造により構成しても構わない。
【0023】
多層容器10は、ダイレクトブロー成形や二軸延伸ブロー成形等の従来公知のブロー成形法により作成されるが、これらの中でも、二軸延伸ブロー成形法を用いることが好ましい。
以下に、二軸延伸ブロー成形法による多層容器10の製造方法について説明する。
【0024】
1.多層プリフォームの製造
多層容器10は、多層プリフォームを延伸させ2軸配向することにより製造される。
多層プリフォームの製造は、複数の射出シリンダを有する共射出成形機を用いて、プリフォーム金型キャビティ内に溶融した樹脂を逐次成形法又は同時成形法により共射出する。この方法により、(1)内外層がポリエステル樹脂層であり、(2)少なくとも一層の中間層がスピログリコールとポリエチレンテレフタレート樹脂とを共重合させた耐熱非晶性ポリエステル樹脂とナイロンMXD6とを混合して形成した樹脂層であり、(3)全体として3層以上の多層構成を有する、有底の多層プリフォームを作製する。
【0025】
2.多層容器10の製造
多層容器10は前述の多層プリフォームを延伸ブロー成形することで製造される。延伸ブロー成形工程では、多層プリフォームを延伸可能な温度に調整した後、ブロー成形用金型キャビティ内に挿入し、圧縮空気を吹き込んで延伸ブロー成形を行なう。延伸ブロー成形は、従来から公知のホットパリソン方式又はコールドパリソン方式のいずれかの方式により行なうことができる。
【0026】
多層容器10の成形時におけるバレル温度は、240〜280℃とし、なかでも、バレル温度を245〜270℃とすることが好ましく、さらには、バレル温度を270℃とすることが最も好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例及び比較例を以下の評価方法により評価する。
【0029】
【表1】
【0030】
[サイドインパクト試験]
室温(23℃)にて水を300ml充填後、温度5℃に保った恒温槽に12時間静置した多層容器10における胴部13の中央部分(底部14から95mmの部分)をサイドインパクト試験装置によって繰り返し打撃し、層間剥離が発生するまでの打撃回数を測定した。層間剥離の有無は目視で判定した。多層容器10への打撃回数は最大100回とし、層間剥離が生じるまで打撃した。実施例1から3及び比較例1においては12本(n=12)の多層容器のサンプルについて試験を行い、比較例2については6本(n=6)の多層容器のサンプルについて試験を行った。
【0031】
(実施例1)
実施例1は、多層容器10の構成を内層15/中間層17a/中間層17/中間層17b/外層16の2種5層構造とした。実施例1は、内層15及び外層16の厚さを0.3mmとし、中間層17の厚さを0.04mmとし、中間層17a及び17bの厚さを0.02mmとした。また、多層容器10の成形時におけるバレル温度を245℃とした。さらに、実施例1においては、多層容器10の成形後、室温23℃で多層容器10を保管した後に試験を行った。
内層15、外層16及び中間層17は、PET(「BK6180C」日本ユニペット株式会社製)により形成した。
中間層17a及び17bは、ナイロンMXD6(「S6011」三菱ガス化学株式会社製)と、耐熱非晶性ポリエステル樹脂(「アルテスタS1000」三菱ガス化学株式会社製)と、を重量比8:2の割合で混合して形成した。また、中間層17a及び17bの割合を7wt%とした。
【0032】
(実施例2)
実施例2は、多層容器10の成形時におけるバレル温度を255℃とした以外は、実施例1と同様の要件で成形した。
【0033】
(実施例3)
実施例3は、多層容器10の成形時におけるバレル温度を270℃とした以外は、実施例1と同様の要件で成形した。
【0034】
(比較例1)
比較例1は、その容器形状を実施例1と同様の形状(多層容器10の形状)とした。比較例1は、多層容器の構成を実施例1と同様に2種5層構造とした。内層15及び外層16の厚さを0.3mmとし、中間層17の厚さを0.04mmとし、中間層17a及び17bの厚さを0.02mmとした。また、多層容器10の成形時におけるバレル温度を245℃とした。さらにまた、比較例1においては、多層容器の成形後、室温23℃で多層容器を保管した後に試験を行った。
内層15、外層16及び中間層17は、PET(「BK6180C」日本ユニペット株式会社製)により形成した。
中間層17a及び17bは、ナイロンMXD6(「S6011」三菱ガス化学株式会社製)により形成した。また、中間層の割合を7wt%とした。
【0035】
(比較例2)
比較例2は、多層容器の成形後、室温(23℃)で多層容器を保管した後に試験を行った以外は、比較例1と同様の要件で成形した。
【0036】
表1に示すように、本発明に係る実施例1から3は、いずれも、層間剥離が発生するまでの打撃回数が平均値で60回以上と、比較例1及び2の平均値(14.8回及び25.5回)と比べて非常に多く、最大打撃回数(100回)に達しても層間剥離が発生しない場合もあった。すなわち、中間層をナイロンMXD6と、耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、を混合した層で形成することにより、内層及び外層と、中間層との各層間における耐剥離性が向上した。
【0037】
また、実施例1から3に示すように、多層容器10の成形時におけるバレル温度を245℃から270℃に上げることで、層間剥離が発生するまでの打撃回数の平均値が63.5回(実施例1)から76.4回(実施例3)に増加した。すなわち、多層容器の成形時におけるバレル温度を上げることで、内層及び外層と、中間層との層間における耐剥離性が向上した。
【0038】
【表2】
【0039】
[ボトルスクイーズ試験]
多層容器10の胴部13(底部14から90mmの部分)を、オートグラフ(株式会社島津製作所製 AGS-5kNJ)のクロスヘッド部に装着した圧縮治具(先端部直径30mm、ナイロン製)によって押し込み、押し込みによる層間剥離の有無及び層間剥離が発生した際の押し込み量(mm)を測定した。多層容器10の胴部13への押し込み量は最大30mmとした。多層容器10の固定には、多層容器10の肩部12のリブ等に干渉しない幅の位置決め台(ブロック)を使用した。多層容器10の胴部13を両面テープにより固定した。実施例8及び比較例6においては、それぞれ6本(n=6)の多層容器のサンプルについて試験を行った。
【0040】
(実施例4、比較例3)
実施例4は実施例1と、比較例3は比較例1と同様の要件で成形した。
【0041】
表2に示すように、比較例3については、全てのサンプルに層間剥離が発生したが、本発明に係る実施例4については、1本のみに層間剥離が発生した。すなわち、中間層をナイロンMXD6と、耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、を混合した層で形成することにより、内層及び外層と、中間層との各層間における耐剥離性が向上した。
【0042】
【表3】
【0043】
[透明性試験]
多層容器の胴部からサンプル(厚み0.7mm)を切り出し、このサンプルについて、試験規格JIS K7136:2000に基づき、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製NDH2000型)を用いて、曇り度合(ヘイズ値)を測定した。
【0044】
(実施例5)
実施例5は実施例1と同様の要件で成形した。
【0045】
表3に示すように、本発明に係る実施例5の曇り度合(ヘイズ値)は、一般に透明性の高いPETボトルに求められる値(ヘイズ値6%以下)を満たしており、良好であった。すなわち、中間層をナイロンMXD6と、耐熱非晶性ポリエステル樹脂と、を混合した層で形成した場合であっても、透明性を保持することができるといえる。
【符号の説明】
【0046】
10 多層容器
15 内層
16 外層
17、17a、17b 中間層
図1