(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1つの他の駆動信号は、前記第1の周波数及び前記検出質量体の共振周波数よりも高い第2の周波数を有する第2の駆動信号を含む、請求項1に記載の振動型ジャイロ。
前記少なくとも1つの他の駆動信号は、前記第1の周波数及び前記検出質量体の共振周波数よりも低い第3の周波数を有する第3の駆動信号を含む、請求項1に記載の振動型ジャイロ。
前記少なくとも1つの他の駆動信号は、前記第1の周波数及び前記検出質量体の共振周波数よりも高い第2の周波数を有する第2の駆動信号と、前記第1の周波数及び前記検出質量体の共振周波数よりも低い第3の周波数を有する第3の駆動信号とを含む、請求項1に記載の振動型ジャイロ。
前記少なくとも1つの他の駆動信号は、前記第1の周波数及び前記検出質量体の共振周波数よりも高い第2の周波数よりもさらに高いか、又は、前記第1の周波数及び前記検出質量体の共振周波数よりも低い第3の周波数よりもさらに低い第4の周波数を有する第4の駆動信号を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動型ジャイロ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1(a)は、本発明に係る振動型ジャイロ(MEMSジャイロ素子)1の基本構造の一例を示す平面図であり、
図1(b)及び
図1(c)はそれぞれ、
図1(a)のII−II線及びIII−III線に沿った切断面を示す断面図である。
【0019】
図1において、参照符号2はガラス等の絶縁材料からなる支持基板を示しており、振動型ジャイロ1の他の構造部材はシリコンの単結晶から作製される。
図1に示す振動型ジャイロにおいて、支持基板2の上に、シリコンの単結晶からなる左右の駆動質量体4及び6(左側を4とする)の各々が、Y方向に延びる少なくとも1つ(図示例では4つ)の駆動支持梁8及び10に支持される。駆動支持梁8及び10は、駆動質量体4及び6が基板2の面内方向かつ左右方向である駆動方向(X方向)に可動となるように、その剛性が他方向の剛性に比べ低くなるように構成されている。また左右の駆動質量体4及び6は、弾性結合要素である中央連結ばね12により互いに結合されている。
【0020】
駆動質量体4及び6に接続されていない駆動支持梁8及び10の他端は、駆動質量体4及び6を囲繞するように設けられた略リング形状の検出質量体14に接続されている。検出質量体14は、少なくとも1つ(図示例では4つ)の検出支持梁16に支持され、各支持梁16の他端は基板2に接合された周辺部アンカー18に接続されている。なお図中において、黒く塗り潰した部分は基板2に固定されている部分(不動部分)を示し、他の部分(斜線等)は基板に固定されていない又は可動部分を示す。
【0021】
検出質量体14を支持する検出支持梁16は、基板2の面に垂直なZ方向回りに回転振動が可能となるように、その回転方向の剛性が他方向の剛性に比べ低くなるように構成されている。なお、断面
図2及び断面
図3に示すように、駆動質量体4及び6、駆動支持梁8及び10、中央連結梁12、検出質量体14、並びに検出支持梁16は、基板2と所定の間隔を有して対向配置されている。
【0022】
図1(a)に示すように、左側の駆動質量体4は、略矩形の枠状部材であり、その外側寄りの側(中央に遠い側)から中央側に向けて延びる櫛歯状の電極22を有し、これに対向する左側駆動用櫛歯固定電極24が基板2に固定配置されており、これにより左側の質量駆動体4を左右方向(X方向)に駆動振動させることができる。同様に、右側の駆動質量体6は、略矩形の枠状部材であり、その外側寄りの側(中央に遠い側)から中央側に向けて延びる櫛歯状の電極26を有し、これに対向する右側駆動用櫛歯固定電極28が基板2に固定配置されており、これにより右側の質量駆動体6を左右方向(X方向)に駆動振動させることができる。
【0023】
左側の駆動質量体4は、その中央寄りの側から反中央側に向けて延びる櫛歯状の電極30を有し、これに対向する左側駆動モニタ用櫛歯固定電極32が基板2に固定配置されており、これにより左側の駆動質量体4の変位量を測定できる。また右側の駆動質量体4は、その中央寄りの側に設けられたフレーム34の反中央側から中央側に向けて延びる櫛歯状の電極36を有し、これに対向する右側駆動モニタ用櫛歯固定電極38が基板2に固定配置されており、これにより右側の駆動質量体6の変位量を測定できる。
【0024】
ここで、振動型ジャイロ1にZ軸回りの角速度が入力された場合、検出質量体14とともに左右の駆動質量体も回転振動するため、左右の駆動質量体に設けた櫛歯電極30及び36も回転変位し、駆動モニタ用櫛歯電極32及び38との位置関係が変化し、それに伴い対向する櫛歯間の容量も変化してモニタ出力に影響する。従って上述の左右駆動質量体のモニタ機構(すなわち櫛歯電極30、32、36及び38)は、検出質量体14の中央に可能な限り近い位置に設けることが好ましい。
【0025】
また
図1(a)からわかるように、左側の駆動質量体4におけるモニタ機構すなわち櫛歯電極30及び32と、右側の駆動質量体6におけるモニタ機構すなわち櫛歯電極36及び38とは、左右対称(Y軸に関して対称)とはなっていない。これは、左右のモニタ機構をいわゆる差動式とするためであり、具体的に言えば、左右の駆動質量体が中央側に移動したときは左側のモニタ機構では対向する櫛歯間の距離が拡大し、逆に右側のモニタ機構では対向する櫛歯間の距離が縮小する。駆動用櫛歯固定電極24及び28に駆動AC電圧が印加されると、周囲に存在する浮遊容量(寄生容量)によってカップリング電流としてモニタ用櫛歯電極に流れ、不要なモニタ出力として現れることがあるが、このような影響を上記差動式の構成によって排除又は抑制することができる。
【0026】
また上述のように左右のモニタ電極を左右対称の構造としなかったことにより、左右の駆動質量体のモーメントに差異が生じるので、
図1(a)に示すように、左側の質量駆動体4にもフレーム34と左右対称となるフレーム40を設け、さらに左右の駆動質量体が左右対称構造となるように、電圧印加されないダミー櫛歯電極42を設けることが好ましい。
【0027】
図1(a)に示すように、検出質量体14は径方向外側に延びる櫛歯状の電極44を有し、これに対向する検出モニタ用櫛歯固定電極46及び48が基板2に固定配置されている。詳細には、X−Y平面の第1象限及び第4象限に跨る右側領域に、該右側領域内の櫛歯電極44に対向する検出モニタ用櫛歯固定電極46が固定配置され、X−Y平面の第2象限及び第3象限(
図1の左部)に跨る左側領域に、該左側領域内の櫛歯電極44に対向する検出モニタ用櫛歯固定電極48が固定配置される。さらに、検出モニタ用櫛歯固定電極46及び48は、差動式モニタ機構を構成しており、具体的に言えば、検出質量体14がZ軸回りに時計方向に回転したときは、右側領域内では対向する櫛歯間の距離が拡大し、逆に左側領域内では対向する櫛歯間の距離が縮小する。これら2つの櫛歯間の容量変化の差を利用する差動構成により、検出質量体自体に発生している同相のノイズを相殺することができ、より高精度の測定を行うことができる。
図1に示す振動型ジャイロは、左右の駆動質量体の駆動振動によって検出質量体が類似の振幅で振動(励振)するものではなく、駆動振動と検出振動とは実質的に分離されているため、角速度入力がないときの漏れ出力を大きく低減することができ、漏れ出力によるバイアス値やその変動を抑制することができる。
【0028】
図1に示す振動型ジャイロ1は、以下のようなマイクロマシニングプロセスを適用して作製することができる。
【0029】
先ず、ガラス支持基板2とジャイロの可動部材との間に所定の間隙(
図1(b)、(c)参照)が形成されるように、RIE(反応性イオンエッチング)装置等を利用したドライエッチング処理をシリコン基板に施す。但し、ドライエッチングされてはいけない領域として、間隙を形成する部分以外については、半導体フォトリソグラフィ技術等を適用して、例えばレジストマスクを予め形成しておく。
【0030】
次に、ガラス支持基板とシリコン基板とを陽極接合手法等により接合する。この段階で、シリコン基板側から研磨を行い、該シリコン基板を所定の厚さにするとともに、ボンディング用パッドとして必要とされる領域に、Cr&Au等の導電性メタルの選択的スパッタリングを行い、電極パッド(図示せず)を形成する。
【0031】
さらに、接合されたシリコン基板の表面側(研磨側)に、フォトレジスト等のマスク材料を利用して、
図1(a)の平面図で示されるレジストパターンを、フォトリソグラフィ技術を利用して作製する。この場合も、エッチングされてはいけない領域がレジストマスクにより保護される。
【0032】
次に、RIE装置等を利用したドライエッチングにより、シリコン基板の厚さ方向に貫通エッチングを行う。以上のようなマイクロマシニング技術を適用した製造プロセスにより、振動型ジャイロの基本構造を作製することができる。
【0033】
このようにジャイロを構成する材料として必要なものはシリコン基板及びガラス基板のみであり、シリコン基板とほぼ同一の線膨張係数を有するガラス材料を使用することで、温度変化に対して構造的ひずみ(熱ひずみ)や応力(熱応力)が発生しにくくなり、構造的に安定かつ特性的にも優れた振動型ジャイロが提供可能となる。
【0034】
次に、振動型ジャイロの動作について説明する。例えば、X軸方向に速度Vxで振動する質量Mの検出質量体にZ軸回りの回転(回転角速度Ωz)が加わった場合に生じるY軸方向のコリオリ力Fyの絶対量は、
Fy=2ΩzMVx
で表される。このため、コリオリ力Fyによる該検出質量体の変位を検出することで角速度を検出する振動型ジャイロでは、駆動質量体を速度Vxで励振させる必要がある。このための方式として、例えば静電力によるコームドライブ方式が利用される。
【0035】
左側駆動質量体4と左側駆動用櫛歯電極24との間、及び右側駆動質量体6と右側駆動用櫛歯電極28との間に、DC電圧V
DCとAC電圧V
ACとの和を印加すると、V
ACの電圧周期と等しい駆動力が発生する。一方、左右の駆動質量体4及び6は弾性の中央連結ばね12により互いに連結されているので、互いにX方向に近づき又は離れる、いわゆる逆相振動の共振モードを有する。従って、V
ACの周波数をこの逆相振動モードの共振周波数と一致させて振動させることで、駆動質量体4及び6は、互いに接離する逆相振動を呈する。この振動の速度Vxは、左右の駆動モニタ用櫛歯電極32及び38により、静電容量変化として電気回路を通じて検出され、駆動振動振幅を一定にするためのAGC制御(Auto Gain Control)に利用される。
【0036】
左右の駆動質量体4及び6が上記のようにX方向に逆相振動する場合、角速度Ωzが
図1(a)の紙面に垂直な方向(Z方向)に作用すると、左右の駆動質量体には逆相のコリオリ力FyがY方向に生じる。このコリオリ力によって検出質量体14にはZ軸回りの回転トルクが作用し、検出質量体14はZ軸回りに回転変位振動する。この結果、検出質量体14に設けた櫛歯電極44と第1及び第2の検出モニタ用固定櫛歯電極46及び48との間の静電容量が差動で変化し、その差動容量変化を電気的に読み出すのであるが、本願発明では後述する多重化した駆動信号を用いて純粋な角速度信号を抽出する処理を行うことで、極めて正確な角速度Ωzを検出することができる。
【0037】
以下、本願発明の前提となる基礎概念(駆動質量体の周波数伝達特性等)について、
図2〜
図8を参照しつつ説明する。先ず
図2は、駆動系の周波数伝達特性を示すグラフである。同図における「出力信号の大きさ」を示すグラフ(上段)より明らかなように、駆動系共振周波数ω
xの駆動信号が入力された場合には、非常に大きな信号が出力される(
図2のA部)。このとき、入力信号に対する駆動変位(駆動モニタ)出力の信号位相は−90°となり、駆動速度の信号位相はゼロとなることがわかる(各位相グラフ(中段、下段)参照)。このときの伝達特性を示すブロック図が
図3aである。なお以降、出力信号等の位相についての表記(−90°等)は、いずれも入力信号の位相に対する出力信号の位相のずれを意味する。
【0038】
一方、駆動系共振周波数よりも高い周波数(例えばω
x+ω
α)の駆動信号が入力された場合には、駆動系共振周波数がω
xである場合と比較して、非常に小さな信号が出力される(
図2のB部)。この信号強度は、通常検出すべき信号強度に対して非常に小さいため、ほとんどの場合無視することができる。このような無視できる信号を点線で示したブロック図が、
図3bである。なお、このほとんどの場合無視できる信号の出力位相は、駆動変位(駆動モニタ)が−180°となり、駆動速度が−90°となる(各位相グラフ(中段、下段)参照)。なお、以降に説明するブロック図についても、無視できる信号については点線で図示するものとする。
【0039】
次に
図4は、検出系の周波数伝達特性を示すグラフである。検出系の周波数伝達特性は、駆動系のそれと概ね同様の形を示すが、検出系は駆動系に比べてQ値(共振特性の鋭さを示すクオリティファクター)が低い場合が多く、そのため、駆動系よりも緩やかな特性(曲線)となる。また
図4は、駆動系共振周波数ω
xと検出系共振周波数ω
yが一致(モードマッチ)している場合を示している。ここで、駆動系共振周波数ω
xの信号が入力された場合の伝達特性を見ると、検出変位を示す信号の位相は−90°となることがわかる(
図4のC部)。このときの伝達特性を示すブロック図が
図5aである。
【0040】
一方、駆動系共振周波数(及び検出系共振周波数)よりも高い周波数(例えばω
x+ω
α)の駆動信号が入力された場合は、信号の位相は−180°遅れて出力されることがわかる(
図4のD部)。このときの伝達特性を示すブロック図が
図5bである。
【0041】
次に
図6は、
図4に類似するが、検出系共振周波数ω
yと駆動系共振周波数ω
xとが異なる場合(ここではω
x<ω
y)、すなわち非モードマッチ状態における、周波数伝達特性を示すグラフである。振動型ジャイロでは、駆動系の共振周波数で駆動し、角速度を検出するため、検出系に入る信号の周波数は通常、駆動系共振周波数ω
xである。従って、振動型ジャイロを駆動系共振周波数ω
xで駆動した場合の検出系の信号の位相はほとんど変化せず、すなわち検出変位はほぼ0°となる(
図6のE部)。このときの伝達特性を示すブロック図が
図7aである。
【0042】
一方、駆動系共振周波数(及び検出系共振周波数)よりも高い周波数(例えばω
x+ω
α)の駆動信号が入力された場合は、信号の位相は−180°遅れて出力されることがわかる(
図6のF部)。このときの伝達特性を示すブロック図が
図7bである。
【0043】
図8は、電気的なカップリング(寄生容量)による周波数伝達特性を示すブロック図である。電気的なカップリングによる周波数特性の理解は非常に容易であり、振動型ジャイロに用いる周波数帯域においては、寄生容量によるカップリング信号の位相は実質変化しないと考えてよい。すなわち、入力された信号はそのままの位相で出力される。また信号の大きさも寄生容量の値のみに依存し、周波数によらず一定の大きさで出力される。
【0044】
図2〜
図8を参照して説明した内容を総合すると、駆動振動する駆動質量体(駆動系)4、6と、角速度により発生するコリオリ力よって変位するように構成された検出質量体(検出系)14とを有する振動型ジャイロ1において、駆動系共振周波数ω
x(=ω
y)の駆動信号を入力した場合(モードマッチ)の信号出力は
図9のようになる。先ず、ジャイロ1に駆動系共振周波数ω
xの信号を入力すると、該信号が駆動櫛歯によって駆動力に変換され、駆動系に入力される。すると駆動系(駆動質量体4、6)が振動を開始し、この振動の振動変位xは−90°の位相を持ち、駆動速度vは0°の位相を持つ。
【0045】
次に、検出系に作用する信号について考える。第1は、コリオリ力による信号である。ジャイロ1が角速度Ωで回転すると、駆動速度vと角速度Ωに比例したコリオリ力2MvΩ(Mは駆動系の質量)が発生する。このコリオリ力の位相は、駆動速度vと同じ0°である。第2は、クワドラチャーエラーによる信号である。ジャイロ1では、プロセスばらつき等によるMEMS素子の非対称性のために、駆動変位xと同位相のいわゆるクワドラチャーエラーが発生するが、このクワドラチャーエラーの位相は駆動変位xと同じ−90°である。第3は、駆動信号が直接的に検出系に作用することによる、不要な駆動力による信号である。この不要な駆動力は例えば、
図1の振動型ジャイロの左側駆動質量体4の部分拡大図である
図11に示ように、駆動櫛歯間(可動櫛歯電極22と固定櫛歯電極24との間)のギャップが、通常はg3=g4となるように設計されているのに対して、プロセスばらつきや応力ひずみの影響により、g3≠g4となることによって発生する。この不要な駆動力の信号の位相は、駆動信号と同じ0°である。
【0046】
上述した各信号が検出系を通過することによって、
図9に示すように、検出系から出力されるそれぞれの信号の位相は、クワドラチャーエラー信号が−180°、レート(角速度)信号が−90°、不要な駆動力による不要駆動力信号が−90°となる。さらに、MEMS素子がもつ寄生容量によって、駆動信号が電気的カップリングを直接通過することにより得られるカップリング信号も併せて出力され、その位相は0°となる。
【0047】
これら4種類の信号は、位相検波回路(Demodulator)に送られて検波処理される。ここでは、レート(角速度)信号を検波によって取り出すために、位相検波回路が角速度信号の位相−90°に調節され、
図9に示すように、位相検波回路に送られた信号は、0°信号と90°信号に分離され、検波信号(復調信号)として出力される。
【0048】
ここで、クワドラチャーエラー信号及びカップリング信号はいずれも、位相検波回路での復調位相(−90°)と位相が90°異なるため、90°信号として出力され、角速度信号の検出値(レート信号)には直接的に影響を及ぼさない。しかし、
図9に示すように、不要な駆動力に基づく不要駆動力信号はレート信号と同位相であるため、0°信号として出力され、レート信号と区別ができず、正確な検出の妨げとなっている。また後述するが、非モードマッチ状態では、カップリング信号もレート信号と同位相となることがある。そこで以下に説明する実施形態では、クワドラチャーエラー信号以外の不要信号(不要駆動力信号及びカップリング信号)の影響を排除又は低減する。
【0049】
なおクワドラチャーエラー信号は、検出すべき角速度信号に比べて極めて大きいことが多く、故に角速度信号の検出精度に影響し得るため、クワドラチャーエラーについても補正が必要となる場合がある。しかし、その補正方法については多くの先行技術があり、上述の特許文献1もその例であるので、本願明細書では詳細には言及しない。
【0050】
図11は、本発明の第1の実施形態に係る振動型ジャイロの構成を示す図であり、上述のジャイロ素子1に適用可能なフィードバック系回路を示すブロック図である。駆動系制御部(図示例ではPLL(Phase Locked Loop)制御器50及びAGC(Auto Gain Control)制御器52)が駆動用櫛歯電極24及び28に関連付けられており、駆動質量体4及び6が、規定された逆相周波数及び振幅で駆動制御される。CV54及び56はいずれも、静電容量を電圧に変換する変換器であるが、CV54はモニタ用櫛歯固定電極32及び38に関連付けられ、その出力は駆動質量体の振動制御に使用される。一方CV56は、検出質量体14の回転変位に伴う櫛歯電極44と検出モニタ用櫛歯固定電極46及び48との間の容量変化を電圧に変換し、変換された電圧は検出信号として後述する位相検波回路(復調器)に送られる。
【0051】
PLL制御器50は、第1の周波数(駆動系共振周波数ω
x)を有する第1の駆動信号を出力し、第1の駆動信号は、駆動信号生成部58に送られる。駆動信号生成部58は、駆動質量体の共振周波数である第1の周波数を有する第1の駆動信号と、第1の周波数とは異なる周波数を有する少なくとも1種類の他の駆動信号(
図11の例では、第1の周波数より高い第2の周波数(ω
x+ω
α)を有する第2の駆動信号)と、を多重化した駆動信号を生成する。より具体的には、駆動波形生成器60が、第1の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x))と、第2の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x+ω
α))とを生成し、これらの駆動波形が乗算器62によって、多重化駆動信号として生成される。
【0052】
図11に示すように、第1の実施形態は、第1及び第2の位相検波回路(Demodulator)66及び68を有し、第1の位相検波回路66は、多重化駆動信号に含まれる第1の駆動信号(周波数ω
x)に基づく検出系の出力信号を復調して第1の検波信号を生成し、第2の位相検波回路68は、多重化駆動信号に含まれる第2の駆動信号(周波数(ω
x+ω
α))に基づく検出系の出力信号を復調して第2の検波信号を生成する。
【0053】
図12aは、第2の駆動信号に関する信号出力を示すブロック図である。なお第1の駆動信号に関する信号出力は、
図9に示したものと同等なので説明は省略する。第1の実施形態では、
図11に示すように、駆動系共振周波数ω
xの第1の駆動信号を入力する処理(
図9)と、駆動系共振周波数及び検出系共振周波数よりも高い第2の周波数(ω
x+ω
α)の駆動信号を入力する処理(
図12a)とを同時に行うこと、すなわち、周波数が異なる2種類の信号を多重化した駆動信号でジャイロを駆動し、各周波数での検波を行う。その結果、第2の位相検波回路68での復調(
図12a)により、検出質量体14に働く不要な駆動力による信号成分と、電気的なカップリングによる信号成分とを、レート信号から分離して正確なレート出力を得るために、第1の位相検波回路66からの出力信号(第1の検波信号)を補正するための補正信号として検出することができる。つまり補正信号は、不要信号(不要駆動力信号及びカップリング信号の一方又は双方)のみを含む。なお
図12aでは、クワドラチャーエラーは微小のため無視できる(点線で図示)。
【0054】
図12bは、
図11のジャイロにおいて、上述の第2の周波数(ω
x+ω
α)を、駆動系共振周波数及び共振系周波数より低い第3の周波数(ω
x−ω
α)に置換した場合の信号出力を示すブロック図である。
図12bの場合は、駆動変位xと駆動速度vの位相が
図12aと異なること、さらにこれに起因して、第2の位相検波回路68′での復調位相が0°となり、検波後のカップリング信号の符号が正となる点を除けば、
図12aと同様であり、故に得られる作用効果も実質同等である。
【0055】
上述の第1の実施形態は、寄生容量(カップリング)が存在しない、又は無視できる場合に特に有用である。この場合、
図9の処理と、
図12a又は
図12bの処理とを同時に行い(すなわち、駆動系共振周波数ω
xの駆動信号と周波数(ω
x+ω
α)又は(ω
x−ω
α)の駆動信号との2種類の信号を多重化した駆動信号でジャイロを駆動し、各周波数で検波を行い)、
図9の信号出力(第1の検波信号)から
図12a又は
図12bの出力信号(第2の検波信号、すなわち補正信号)を減算器69等で減算すれば、極めて正確な角速度信号(レート信号)が得られる。その理由は、寄生容量が存在しない又は無視できる場合は、
図12a又は
図12bにおけるカップリング信号が無視できるので、不要駆動力信号のみを正確に検出することができるからである。
【0056】
なお、
図4を用いて説明したように、
図9と
図12a又は12bとでは出力される信号(検波信号)の強度が異なるので、例えば
図11に示すように、適当なゲイン70を用いて、2つの位相検波回路の信号の出力レベルを合わせてから減算補正を行う。従って第1の実施形態では、ゲイン70が補正信号生成部に相当する。また、第1の実施形態ではモードマッチの場合を説明したが、非モードマッチの場合も同様の作用効果を得ることができる。
【0057】
図13は、本発明の第2の実施形態に係る振動型ジャイロの構成を示す図であり、上述のジャイロ素子1に適用可能なフィードバック系回路を示すブロック図である。第2の実施形態は、第1の実施形態において説明した第2の位相検波回路68及び68′の双方を具備する(すなわち計3つの位相検波回路を具備する)点で第1の実施形態と相違し、他の点は同等でよい。従って第2の実施形態において第1の実施形態と同様の構成要素については、同一の参照符号を付与して詳細な説明は省略する。
【0058】
PLL制御器50は、第1の周波数(駆動系共振周波数ω
x)を有する第1の駆動信号を出力し、第1の駆動信号は、駆動信号生成部58に送られる。駆動信号生成部58は、駆動質量体の共振周波数である第1の周波数を有する第1の駆動信号と、第1の周波数とは異なる周波数を有する少なくとも1種類の他の駆動信号(
図13の例では、第1の周波数より高い第2の周波数(ω
x+ω
α)を有する第2の駆動信号と、第1の周波数より低い第3の周波数(ω
x−ω
α)とを有する第3の駆動信号)とを多重化した駆動信号を生成する。具体的には、駆動波形生成器60が、第1の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x))と、第2の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x+ω
α))と、第3の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x−ω
α))とを生成し、これらの駆動波形が乗算器62によって、多重化駆動信号として生成される。なお第1の周波数と第2の周波数の差と、第1の周波数と第3の周波数の差は互いに等しい(いずれもω
α)。
【0059】
図13に示すように、第2の実施形態は、第1〜第3の位相検波回路(Demodulator)66、68及び68′を有し、第1の位相検波回路66は、多重化駆動信号に含まれる第1の駆動信号(周波数ω
x)に基づく検出系の出力信号を復調し、第2の位相検波回路68は、多重化駆動信号に含まれる第2の駆動信号(周波数(ω
x+ω
α))に基づく検出系の出力信号を復調し、第3の位相検波回路68′は、多重化駆動信号に含まれる第3の駆動信号(周波数(ω
x−ω
α))に基づく検出系の出力信号を復調する。第1〜第3の駆動信号に関する信号出力を示すブロック図は、それぞれ
図9、
図12a及び
図12bのものと同等である。
【0060】
第2の実施形態は、モードマッチ状態において、寄生容量(カップリング)が無視できない場合に特に適している。すなわち、第1の駆動信号による信号出力(
図9)では、レート信号と不要駆動力信号とが同位相で出力される一方、第2及び第3の駆動信号による信号出力(
図12a及び
図12b)では、いずれもカップリング信号と不要駆動力信号とが同位相で出力されるとともに、
図12aのカップリング信号(負)と
図12bのカップリング信号(正)は符号が逆でかつ同じ大きさである。そこで、
図13に示すような構成を用い、位相検波回路68及び68′の出力信号(第2の検波信号)を加算処理することにより、カップリング信号が相殺され、不要駆動力信号のみを正確に検出することができる。その後、加算処理された出力に適当なゲイン70を乗算し、不要駆動力信号成分のみを含む補正信号を生成して、第1の位相検波回路の出力信号(第1の検波信号)から減算することにより、極めて正確な角速度信号(レート信号)を検出することができる。従って第2の実施形態では、ゲイン70と、ゲイン70の処理の前に加算処理を行う加算器72とが補正信号生成部に相当する。
【0061】
このように第2の実施形態では、寄生容量が無視できない場合であっても、駆動質量体の共振周波数及び検出質量体の共振周波数よりも高い周波数の駆動信号と、駆動質量体の共振周波数及び検出質量体の共振周波数よりも低い周波数の駆動信号とを含む多重化駆動信号を用いてジャイロを駆動し、検出系からの信号出力をそれぞれの周波数で復調することにより、差動成分と同相成分を検出することができる。従って、検出質量体に働く不要な駆動力による信号成分(不要駆動力信号)から、電気的なカップリングによる信号成分(カップリング信号)を分離して、不要信号のみを含む補正信号として検出することができる。
【0062】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る振動型ジャイロの構成を示す図であり、上述のジャイロ素子1に適用可能なフィードバック系回路を示すブロック図である。第3の実施形態は、第2の実施形態にさらに、第4の周波数(ω
x+ω
β)を有する第4の駆動信号に関する検波処理を行う第4の位相検波回路74を具備する(すなわち計4つの位相検波回路を具備する)点で第2の実施形態と相違し、他の点は同等でよい。従って第3の実施形態において第2の実施形態と同様の構成要素については、同一の参照符号を付与して詳細な説明は省略する。
【0063】
PLL制御器50は、第1の周波数(駆動系共振周波数ω
x)を有する第1の駆動信号を出力し、第1の駆動信号は、駆動信号生成部58に送られる。駆動信号生成部58は、駆動質量体の共振周波数である第1の周波数を有する第1の駆動信号と、第1の周波数とは異なる周波数を有する少なくとも1種類の他の駆動信号(
図14の例では、第1の周波数より高い第2の周波数(ω
x+ω
α)を有する第2の駆動信号と、第1の周波数より低い第3の周波数(ω
x−ω
α)を有する第3の駆動信号と、第2の周波数よりさらに高い第4の周波数(ω
x+ω
β)を有する第4の駆動信号)とを多重化した駆動信号を生成する。具体的には、駆動波形生成器60が、第1の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x))と、第2の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x+ω
α))と、第3の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x−ω
α))と、第4の駆動信号に基づく駆動波形(sin(ω
x+ω
β))とを生成し、これらの駆動波形が乗算器62によって、多重化駆動信号として生成される。なお第4の駆動信号として、第2の周波数よりさらに高い周波数(ω
x+ω
β)を有する駆動信号の代わりに、第3の周波数よりさらに低い周波数(ω
x−ω
β)を有する駆動信号を用いてもよい。
【0064】
図14に示すように、第3の実施形態は、第1〜第4の位相検波回路(Demodulator)66、68、68′及び74を有し、第1の位相検波回路66は、多重化駆動信号に含まれる第1の駆動信号(周波数ω
x)に基づく検出系の出力信号を復調し、第2の位相検波回路68は、多重化駆動信号に含まれる第2の駆動信号(周波数(ω
x+ω
α))に基づく検出系の出力信号を復調し、第3の位相検波回路68′は、多重化駆動信号に含まれる第3の駆動信号(周波数(ω
x−ω
α))に基づく検出系の出力信号を復調し、第4の位相検波回路74は、多重化駆動信号に含まれる第4の駆動信号(周波数(ω
x+ω
β))に基づく検出系の出力信号を復調する。第1〜第3の駆動信号に関する信号出力を示すブロック図は、それぞれ
図9、
図12a及び
図12bのものと同等であり、第4の駆動信号に関する信号出力を示すブロック図は
図15に示される。
【0065】
第4の駆動信号の周波数(ω
x+ω
β)は、第2の周波数(ω
x+ω
α)よりもさらに高く、故に駆動系共振周波数(ω
x)から大きく乖離している。このような帯域の周波数の駆動信号でジャイロを駆動した場合は、
図4等からもわかるように、検出系からの出力信号はいずれも無視できる。その結果、
図15に示すように、第4の位相検波回路74からの出力は、実質的にカップリング信号のみを含むものとなる。なお、第4の駆動信号として、第3の周波数よりさらに低い周波数(ω
x−ω
β)を有する駆動信号を用いた場合も同様である。従って第3の実施形態では、検出系からの出力信号がいずれも無視できるような周波数の駆動信号を含む多重化駆動信号を用いてジャイロを駆動し、検出系からの信号出力をそれぞれの周波数で復調することにより、寄生容量(電気的なカップリング)による信号成分を補正信号として検出することができる。
【0066】
換言すれば、第2の駆動信号(ω
x+ω
α)及び第3の駆動信号(ω
x−ω
α)は、検出系からの出力信号のうち、クワドラチャーエラー信号及びレート信号は無視できるが、不要駆動力信号は無視できない強度となるように設定される(
図12a、
図12b等)。これは第1及び第2の実施形態においても同様である。
【0067】
また第3の実施形態は、非モードマッチ状態において、寄生容量(カップリング)が無視できない場合に特に適している。非モードマッチ状態(
図6等)では、駆動系共振周波数(ω
x)で駆動したときの信号出力は、
図9に示したものとは異なり、
図16aに示すようなものとなる。具体的には、検出系14からの各信号の位相が異なるので、その結果、非モードマッチ状態では、第1の位相検波回路66から出力されるレート信号は、カップリング信号と不要駆動力信号の両方を不要成分として含んでいる。そこで、
図14に示す第3の実施形態では、第2及び第3の位相検波回路68及び68′によってカップリング信号を相殺できる(不要駆動力信号のみを検出できる)ことに加え、第4の位相検波回路74によってカップリング信号のみを検出することができる(
図15)ので、これらを補正信号として生成して第1の位相検波回路の出力信号(第1の検波信号)から減算することにより、極めて正確な角速度信号(レート信号)を検出することができる。従って第3の実施形態では、位相検波回路68、68′及び74からの出力信号が第2の検波信号に相当し、ゲイン70、ゲイン70の処理の前に加算処理を行う加算器72、及び第4の位相検波回路74が補正信号生成部に相当する。
【0068】
なお
図16b及び
図16cはそれぞれ、非モードマッチ状態において、第2の駆動信号及び第3の駆動信号に関する信号出力を示すブロック図である。非モードマッチ状態でも、第2の実施形態と同様、2種類のカップリング信号は符号が逆でかつ同じ大きさなので、位相検波回路68及び68′の出力信号を加算処理することにより、カップリング信号が相殺され、不要駆動力信号のみを正確に検出することができる。
【0069】
なお本発明は、上述の第1〜第3の実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、
図14の構成において第2及び第3の位相検波回路68及び68′を削除し、第4の位相検波回路74を用いてカップリング信号に関する補正信号を生成する形態も可能である。また位相検波回路は、各実施形態のように復調位相に応じて別個の回路を用いてもよいし、実質一体の装置が各検波回路の機能を具備するようにしてもよく、いずれの態様も本発明に含まれるものとする。
【0070】
上述のように各実施形態は、角速度と同位相で出力される不要信号を補正する手段を備えた振動型ジャイロに係るものである。具体的には、本発明では、本来必要な駆動系共振周波数に一致した駆動信号に加え、補正信号を生成するために周波数の異なる1種類又は複数種の駆動信号を多重化した信号で振動型ジャイロを駆動する。そして上述のように、不要駆動力信号及びカップリング信号の一方又は双方を含んだ不要信号のみを検出することができ、これを補正信号として、不要信号を含んだ角速度検出信号(レート信号)から減算することによって、極めて正確な(純粋な)角速度信号を検出することができる。
【0071】
なお
図12a〜
図12c、
図15〜
図16cにおいて、主要な(無視できない)信号は実線で示され、十分に小さく無視できる信号は点線で示されている。また各(交流)信号名称の後の「:」の後ろの数字は出力位相を示し、検波器「Demodulator」通過後の信号は直流信号であるため「:」の後ろはその正負を示す。また検波器「Demodulator」通過後の信号のうち、十分小さく無視できる信号には「(微小)」なる記載を付した。
【0072】
以上、本発明の好適な実施形態として、角速度により発生するコリオリ力よって回転励振されるように構成された検出質量体と、該検出質量体の内側に設けられ、互いに逆相で振動する一対の駆動質量体とを有する振動型ジャイロが説明されたが、本発明の適用対象はこのようなジャイロに限られず、角速度入力によって変位し得る検出質量体を有するものであればどのようなジャイロにも適用できる。また、駆動質量体と検出質量体が実質一体の構造体となっており、当該構造体が駆動質量体と検出質量体の双方の機能を具備するようなタイプの振動型ジャイロも本発明の適用対象に含まれる。
【0073】
また本発明は、特許文献1に記載のような、クワドラチャーエラー抑制のためのAC櫛歯電極及びDC櫛歯電極を有した振動型ジャイロにも適用可能である。すなわち、本発明のバイアス補正と、クワドラチャーエラー抑制とは同時に行うことが可能である。