特許第6305265号(P6305265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305265
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】走行作業車
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/70 20060101AFI20180326BHJP
   F16H 59/04 20060101ALI20180326BHJP
   F16H 59/50 20060101ALI20180326BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20180326BHJP
   F16H 61/684 20060101ALI20180326BHJP
   F16H 61/28 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   F16H61/70
   F16H59/04
   F16H59/50
   F16H61/02
   F16H61/684
   F16H61/28
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-157697(P2014-157697)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-35274(P2016-35274A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2016年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小松 茂
(72)【発明者】
【氏名】高橋 圭司
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−132529(JP,A)
【文献】 特開平08−258583(JP,A)
【文献】 特開2001−355723(JP,A)
【文献】 特開2013−068290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達の遮断を伴わずに変速段を切り替える主変速装置と、
動力伝達の遮断を伴って変速段を切り替える副変速装置と、
前記主変速装置と前記副変速装置とに変速制御指令を出力して前記主変速装置と前記副変速装置との変速段の組み合わせによる車両変速比を作り出す変速制御ユニットと、
増速変速のための変速操作指令と減速変速のための変速操作指令とを前記変速制御ユニットに与える第1操作ユニット及び第2操作ユニットとを備え、
前記変速制御ユニットは、作業地で作業しながら走行する際に適用される作業走行モードにおいて前記第1操作ユニットからの変速操作指令に応答して前記主変速装置の変速段の切り替えだけを行う変速制御指令を生成する第1走行制御部と、前記第2操作ユニットからの変速操作指令に応答して前記副変速装置の変速段の切り替えを伴う前記変速制御指令を生成する第2走行制御部とを有し、かつ、
前記第1走行制御部は、路上を走行する際に適用される路上走行モードにおいて前記第1操作ユニットからの変速操作指令に応答して前記副変速装置の変速段の切り替えを伴う前記主変速装置の変速段の切り替えを行う前記変速制御指令をも生成する走行作業車。
【請求項2】
前記作業走行モードにおいて、前記変速制御ユニットは、前記主変速装置の変速段が最高速段である時に前記第1操作ユニットからアップシフト指令が入ると、前記主変速装置の変速段及び前記副変速装置の変速段をそのまま維持し、かつ
前記作業走行モードにおいて、前記変速制御ユニットは、前記主変速装置の変速段が最低速段である時に前記第1操作ユニットからダウンシフト指令が入ると、前記主変速装置の変速段及び前記副変速装置変速段はそのまま維持する請求項1に記載の走行作業車。
【請求項3】
前記変速制御ユニットは、前記作業走行モードと路上走行モードとのいずれにおいても、第2操作ユニットからアップシフト指令が入ると、アップシフト可能な変速段がある限り前記副変速装置の変速段を一段階上げ、前記第2操作ユニットからダウンシフト指令が入ると、ダウンシフト可能な変速段がある限り前記副変速装置の変速段を一段階下げる請求項1または2に記載の走行作業車。
【請求項4】
前記変速制御ユニットは、前記第2操作ユニットからアップシフト指令が入ると、前記副変速装置の変速段を一段階上げ、前記主変速装置の変速段を最低速段に切り替える請求項3に記載の走行作業車。
【請求項5】
前記変速制御ユニットは、前記第2操作ユニットからダウンシフト指令が入ると、前記副変速装置の変速段を一段階下げ、前記主変速装置の変速段を最高速段に切り替える請求項3または4に記載の走行作業車。
【請求項6】
前記変速制御ユニットは、前記第2操作ユニットからアップシフト指令が入ると、前記副変速装置の変速段を一段階上げ、前記主変速装置の変速段を最低速段より少なくとも1つ上の変速段に切り替える請求項3に記載の走行作業車。
【請求項7】
前記変速制御ユニットは、前記第2操作ユニットからダウンシフト指令が入ると、前記副変速装置の変速段を一段階下げ、前記主変速装置の変速段を最高速段の少なくとも1つ下の変速段に切り替える請求項3または6に記載の走行作業車。
【請求項8】
前記変速制御ユニットには、前記主変速装置及び前記副変速装置における使用可能な変速段を設定する変速段設定部が備えられており、前記変速段設定部よって設定された変速段だけが用いられるように前記変速制御指令が生成される請求項1からのいずれか一項に記載の走行作業車。
【請求項9】
前記変速段設定部によって設定される前記使用可能な変速段は、作業走行モードと路上走行モードとで別個に設定される請求項に記載の走行作業車。
【請求項10】
前記使用可能な変速段の下限を示す下限設定指針及び上限を示す上限設定指針が表示装置の表示画面に表示され、前記下限設定指針を移動させるプラスボタンとマイナスボタン及び上限設定指針を移動させるプラスボタンとマイナスボタンが備えられている請求項8または9に記載の走行作業車。
【請求項11】
作業車の状態を検知する状態検知センサからの検知信号に基づいて作業走行状態であるか路上走行状態であるかを判定する走行状態判定部が備えられ、前記作業走行状態と判定されると作業走行モードが設定され、前記路上走行状態と判定されると路上走行モードが設定される請求項1から10のいずれか一項に記載の走行作業車。
【請求項12】
前記第1操作ユニットと前記第2操作ユニットとの共通の操作入力具として、操作スイッチを設けた揺動式の多機能レバーが備えられ、
前記操作スイッチの操作なしでの前記多機能レバーの揺動変位に基づいて、前記第1操作ユニットからの変速制御指令に相当する変速制御指令が出力され、前記操作スイッチの操作ありでの前記多機能レバーの揺動変位に基づいて、前記第2操作ユニットからの変速制御指令に相当する変速制御指令が出力される請求項1から11のいずれか一項に記載の走行作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主変速装置が有する複数の変速段と、副変速装置が有する複数の変速段との組み合わせによって多種の車両変速比を作り出す変速制御ユニットを備えた走行作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタのような走行作業車では、種々の作業走行や路上走行に適した速度(車速)を得るために、主変速装置と副変速装置とを組み合わせて20速以上の車両変速比を作り出す変速制御ユニットも普及している。その際、主変速装置に対する変速操作方法と、副変速装置に対する方法とは異なっており、主変速操作レバーと副変速操作レバーを個別に有するものや、一方の変速装置のための操作レバーに他方の変速装置の変速操作を可能にする操作ボタンを設けたものも知られている。
【0003】
例えば、特許文献1による作業車では、8つの変速段を有する主変速装置と、3つの変速段を有する副変速装置とを備えている作業車が開示されている。この主変速装置は、1速から8速の変速位置に操作可能な主変速レバーによって主変速装置の変速段が決定される。副変速装置は、3つの変速位置に操作可能な副変速レバーによって副変速装置の変速段が決定される。主変速レバーの操作位置は7セグメントの表示部に表示されるので、運転者はこの表示部を見ながら8つの変速段から所望の変速段を設定することができる。
【0004】
さらに、特許文献2による農業用トラクタでは、4段の第1主変速装置と2段の第2主変速装置との組み合わせで8段の変速段を得る主変速装置と、3段の変速が可能な副変速装置とが備えられている。この副変速装置を操作するときには主クラッチの入切操作を要するので、主クラッチペダルを踏み込んで操作レバーを前後方向あるいは左右方向に操作し、変速操作後に主クラッチペダルを離す。また、主変速装置に関しては、操作レバーのノブに設けた増速スイッチと減速スイッチを押し込むことで変速が行われる。つまり、増速スイッチ37を1速から順番に押すことによって8速まで1段ずつ変速がなされる。逆に8速の位置にある主変速装置に対して減速スイッチを順番に押すことによって8速から1速まで減速することができる。選択されている変速段の表示は、計器パネルに配置されている液晶表示部を通じて行われる。この液晶表示部の左上には副変速装置の変速位置が表示され、その右横には主変速装置の変速位置が反転表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】2008−57674号公報
【特許文献2】2009−214877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような走行作業車では、主変速装置と副変速装置との組み合わせにより、多数の変速段が得られるが、スムーズな作業走行を実現するために適正な変速段の利用を簡単にするという課題の達成にはまだ至っていない。このような実情に鑑み、本発明の課題は、主変速装置と副変速装置との組み合わせによって得られる多数の変速段を適正に選択して、スムーズな作業走行を実現する走行作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による走行作業車は、動力伝達の遮断を伴わずに変速段を切り替える主変速装置と、動力伝達の遮断を伴って変速段を切り替える副変速装置と、前記主変速装置と前記副変速装置とに変速制御指令を出力して前記主変速装置と前記副変速装置との変速段の組み合わせによる車両変速比を作り出す変速制御ユニットと、増速変速(一般にはアップシフトと呼ばれる)のための変速操作指令と減速変速(一般にはダウンシフトと呼ばれる)のための変速操作指令とを前記変速制御ユニットに与える第1操作ユニット及び第2操作ユニットとを備えている。さらには、前記変速制御ユニットは、作業地で作業しながら走行する際に適用される作業走行モードにおいて前記第1操作ユニットからの変速操作指令に応答して前記主変速装置の変速段の切り替えだけを行う変速制御指令を生成する第1走行制御部と、前記第2操作ユニットからの変速操作指令に応答して前記副変速装置の変速段の切り替えを伴う前記変速制御指令を生成する第2走行制御部とを有する。さらには、
前記第1走行制御部は、路上を走行する際に適用される路上走行モードにおいて前記第1操作ユニットからの変速操作指令に応答して前記副変速装置の変速段の切り替えを伴う前記主変速装置の変速段の切り替えを行う前記変速制御指令をも生成する。
【0008】
この構成によれば、第1操作ユニットを用いて変速操作を行えば、動力伝達の遮断を伴わずに変速段の切り替える主変速装置の変速段の切り替えだけが行われるので、変速時にエンジンから駆動輪への動力伝達が遮断されることがない。このため、大きな負荷を伴う耕耘作業走行や牽引作業走行を行っている時でも、第1操作ユニットを用いた変速操作だけを行っていれば、急激な減速等によるショックが回避される。また、作業地の状況変化や、作業状況の変化があり、副変速装置の変速段の切り替えが必要な場合には、第2操作ユニットを用いた変速操作を行えばよい。予め、これから行う作業に適正な、副変速装置の変速段を選択しておけば、第1操作ユニットだけを用いた変速操作でスムーズな作業走行が実現する。
【0009】
作業走行では、大きな走行負荷が生じるため、一瞬であっても動力伝達の遮断はショックを伴う。しかしながら、路上走行では、走行負荷は小さく、走行作業車自体の慣性もあるので、一瞬の動力伝達の遮断がショックをもたらす可能性は低い。このことを考慮して、本発明では、路上を走行する際に適用される路上走行モードにおいて前記第1操作ユニットからの変速操作指令に応答して前記副変速装置の変速段の切り替えを伴う前記主変速装置の変速段の切り替えを行う前記変速制御指令をも生成するので、路上走行モードでの、変速幅が拡大し、快適な路上走行が可能となる。
【0010】
なお、多数の変速段を有する主変速装置と副変速装置との組み合わせによって得られる変速範囲は大きく、通常の作業走行や路上走行では、その全てを使用することはほとんどない。また、多数の変速段の選択可能性は、逆に、運転者の変速操作を複雑にしてしまう。特定の作業走行や路上走行で必要と想定される変速段だけが使用可能にすることで、変速操作は簡単化され、運転者にとって好都合となる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記変速制御ユニットには、前記主変速装置及び前記副変速装置における使用可能な変速段を設定する変速段設定部が備えられており、前記変速段設定部よって設定された変速段だけが用いられるように前記変速制御指令が生成される。その際、作業走行と路上走行とでは、走行速度及び走行負荷が大きく異なるため、必要とされる変速範囲も異なる。このことを考慮するならば、前記変速段設定部によって設定される前記使用可能な変速段は、作業走行モードと路上走行モードとで別個に設定されることが好ましい。
【0011】
上述したように、トラクタなどの作業車では、作業走行と路上走行とでは走行速度及び走行負荷が大きく異なり、そのため、必要となる変速範囲も異なる。このことから、変速制御ユニットが、走行作業車が作業走行状態にあるか、それとも路上走行状態にあるかを把握していることが重要である。そのための最も簡単な構成は、作業走行状態と路上走行状態とを選択する人為操作具を設けて、運転者によって操作してもらうことである。しかしながら、そのような負担を運転者にかけることを避けるため、本発明の好適な実施形態では、作業車の状態を検知する状態検知センサからの検知信号に基づいて作業走行状態であるか路上走行状態であるかを判定する走行状態判定部が備えられ、前記作業走行状態と判定されると作業走行モードが設定され、前記路上走行状態と判定されると路上走行モードが設定されるように構成されている。例えば、作業装置が駆動状態であれば、作業走行状態であると判定できるし、車速が所定速度を超えていれば路上走行状態であると判定できる。
【0012】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記第1操作ユニットと前記第2操作ユニットとの共通の操作入力具として、操作スイッチを設けた揺動式の多機能レバーが備えられ、前記操作スイッチの操作なしでの前記多機能レバーの揺動変位に基づいて、前記第1操作ユニットからの変速制御指令に相当する変速制御指令が出力され、前記操作スイッチの操作ありでの前記多機能レバーの揺動変位に基づいて、前記第2操作ユニットからの変速制御指令に相当する変速制御指令が出力される。この構成により、多機能レバーの揺動操作時に、操作スイッチ(指操作タイプのボタンが適している)を操作しなければ、主変速装置に対するシフトアップ・シフトダウンが行われ、操作スイッチを操作すれば、副変速装置に対するシフトアップ・シフトダウンが行われることになり、変速操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による変速制御の基本原理を説明する模式図である。
図2】本発明による変速制御のための表示画面の一例を説明する模式図である。
図3】本発明による変速制御のための表示画面の一例を説明する模式図である。
図4】本発明による走行作業車の実施形態の1つであるトラクタの側面図である。
図5】トラクタに装備されたトランスミッションの模式図である。
図6】トラクタに装備されたアームレスト操作装置の側面図である。
図7】アームレスト操作装置の平面図である。
図8】アームレスト操作装置に設けられた多機能操作具の斜視図である。
図9】変速操作後の主変速装置と副変速装置との変速段を示す変速段切替表である。
図10】トラクタに装備されている制御系で本発明に特に関する機能を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による走行作業車の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて本発明を特徴付けている変速制御の基本原理を説明する。本発明の走行作業車は、エンジン20からの動力を変速して、駆動輪に伝達するトランスミッション3を備えており、このトランスミッション3には主変速装置30と副変速装置31とが含まれている。主変速装置30は動力伝達の遮断を伴わずに変速段の切り替えるタイプであり、副変速装置31は動力伝達の遮断を伴って変速段を切り替えるタイプである。以下、この主変速装置30と副変速装置31とにおける変速段に切り替え制御、いわゆる変速制御の基本を図1を用いて説明する。ここでは、主変速装置30は1からn段の変速段(nは自然数であるが、通常4から8程度の数値を意味している)を有する。副変速装置31はAからF段の変速段(AからFの記号は変数段の識別するために用いられており、変数段の数を規定するものではない、通常変数段の数は2から8段程度である)を有する。主変速装置30で選択された変速段と副変速装置31で選択された変速段との組み合わせで1つの車両変速比が作り出される。図1では、そのような組み合わせ変速段が、主変速装置30の変速段数値(自然数)と変速段記号(アルファベット)の組み合わせで示されている。
【0015】
運転者は、主変速装置30の変速段を切り替えるために第1操作ユニットMUを操作し、副変速装置31の変速段を切り替えるために第2操作ユニットSUを操作する。第1操作ユニットMU及び第2操作ユニットSUは、レバーやボタンやダイヤル、あるいはその組み合わせで構成することができる。いずれにせよ、第1操作ユニットMUは主変速装置30に対する増速変速(アップシフト)または減速変速(ダウンシフト)の操作指令を出力し、第2操作ユニットSUは副変速装置31に対する増速変速(アップシフト)または減速変速(ダウンシフト)の操作指令を出力する。
【0016】
第1操作ユニットMU及び第2操作ユニットSUから出力された操作指令は変速制御ユニット6に入力される。変速制御ユニット6は、入力された操作指令に基づいて適切な車両変速比が作り出されるように主変速装置30、副変速装置31、またはそれら両方に変速制御指令を出力する。なお、図1では、変速制御ユニット6の変速段切り替え機能を、前記主変速装置の変速段の切り替えだけを行う変速制御指令を生成する第1走行制御部61と、副変速装置の変速段の切り替えを伴う前記変速制御指令を生成する第2走行制御部62とに区分けして、説明している。
【0017】
変速制御ユニット6は、この走行作業車が作業地で作業しながら走行する際に適用される作業走行モードと、この走行作業車が公道などの道路を比較的速い速度で走行する際に適用される路上走行モードを有する。変速制御ユニット6における変速段の切り替え制御は、上記の2つの走行モードで異なるように設定可能である。図1での模式図では、作業走行モードでの変速段の切り替え制御が示されている。
【0018】
図1から理解できるように、第1操作ユニットMUからアップシフト指令が入ると、主変速装置30の変速段が一段階上げられ、副変速装置31の変速段は維持される。その際、操作前の主変速装置30の変速段が最高速段(図1ではn段)であれば、主変速装置30の変速段及び副変速装置31の変速段はそのまま維持され、全体的な車両変速比は変化しない。つまり、第1操作ユニットMUからアップシフト指令によって副変速装置31の変速段を変更するようなアップシフトは行われない。同様に、第1操作ユニットMUからダウンシフト指令が入ると、主変速装置30の変速段が一段階下げられ、副変速装置31の変速段は維持される。その際、操作前の主変速装置30の変速段が最低速段(図1では1段)であれば、主変速装置30の変速段及び副変速装置31の変速段はそのまま維持され、全体的な車両変速比は変化しない。つまり、第1操作ユニットMUからのダウンシフト指令では、副変速装置31の変速段を変更するようなダウンシフトは行われない。
【0019】
副変速装置31の変速段を切り替えるためには、第2操作ユニットSUが用いられる。第2操作ユニットSUからアップシフト指令が入ると、副変速装置31の変速段が一段階上げられ、原則的には、主変速装置30の変速段は最低速段に切り替えられる。つまり、第2操作ユニットSUからのアップシフト指令により、副変速装置31の1つ上の変速段と主変速装置30の1段とが組み合わされる。これは、副変速装置31をアップシフトすることで車両変速比が大きく変化することを回避するためである。しかしながら、主変速装置30の変速段が最高速段の時に副変速装置31をアップシフトして、副変速装置31の1つ上の変速段と主変速装置30の1段とが組み合わされても、その変速差がわずかとなるような変速段構成がある。このような構成の場合には、例外的に副変速装置31の1つ上の変速段と主変速装置30の最低速段より少なくとも1つ上の変速段(図1では2段)とが組み合わされる(図1ではBnからC2に移行する点線で示されている)。また、副変速装置31の変速段が既に最高速段であるときは、そのアップシフト指令は、無視される。
【0020】
同様に、第2操作ユニットSUからダウンシフト指令が入ると、副変速装置31の変速段が一段階下げられ、原則的には、主変速装置30の変速段は最高速段に切り替えられる。つまり、第2操作ユニットSUからのダウンシフト指令により、副変速装置31の1つ下の変速段と主変速装置30の最高速段とが組み合わされる。これは、副変速装置31をダウンシフトすることで車両変速比が大きく変化することを回避するためである。しかしながら、主変速装置30の変速段が最高速段の時に副変速装置31をダウンシフトして、副変速装置31の1つ下の変速段と主変速装置30の最高速段とが組み合わされても、その変速差がわずかとなるような変速段構成がある。このような構成の場合には、例外的に副変速装置31の1つ下の変速段と主変速装置30の最高速段の少なくとも1つ下の変速段とが組み合わされる(図1ではC1からBn−1に移行する点線で示されている)。また、副変速装置31の変速段が既に最低速段であるときは、そのダウンシフト指令は、無視される。
【0021】
なお、路上走行では、走行負荷は小さく、走行作業車自体の慣性もあるので、副変速装置31の変速段切り替え時に生じる一瞬の動力伝達の遮断がショックをもたらす可能性は低い。このため、路上走行において設定される路上走行モードにおいては、例外的に、第1操作ユニットMUからの変速操作指令に応答して副変速装置31の変速段の切り替えを伴うように構成してもよい。図1では示されていないが、例えば、主変速装置30が最高速段(n段)の時に第1操作ユニットMUからアップシフト指令が出力されると、副変速装置31の変速段を1つ上の変速段に切り替えるとともに、主変速装置30を最低速段(1段)または最低速段の少なくとも1つ上の変速段に切り替える。同様に、主変速装置30が最低速段(1段)の時に第1操作ユニットMUからダウンシフト指令が出力されると、副変速装置31の変速段を1つ下の変速段に切り替えるとともに、主変速装置30を最高速段(n段)または最高速段の少なくとも1つ下の変速段(n−1段)に切り替える。
【0022】
主変速装置30と副変速装置31との組み合わせによって得られる変速段が20を超えるような場合、通常の作業走行や路上走行では、その全てを使用することはほとんどない。これから行うとする作業走行や路上走行で必要と想定される変速段だけを使用可能にすることは、好都合である。主変速装置30と副変速装置31との組み合わせによって作り出される全ての変速段から所望の変速範囲に属する変速段だけを選択するための、好適な形態を、図2を用いて説明する。なお、説明を簡単にするため、ここでは、主変速装置30は1から4段の4つの変速段を有し、副変速装置31はAからFまでの6つの変速段を有するとする。
【0023】
変速段選択では、表示画面生成部81によって走行作業車に搭載されている液晶パネルなどの表示装置に表示される表示画面が重要な役割を果たす。この表示画面には、第1表示画面101と第2表示画面200とが含まれている。図2に示されているように、第1表示画面101は、走行中に運転者に種々の情報を報知する目的の報知画面の1つであり、エンジン回転数表示領域、記憶されたエンジン回転数表示領域、駆動方向(前進または後進)表示領域などとともに、その右下側に現在選択されている主変速装置30の変速段と副変速装置31の変速段とを示す変速状態表示領域102が配置されている。
【0024】
第1表示画面101の変速状態表示領域102には、副変速装置31の変速段群を表示する副変速段表示領域202と、副変速装置31の各変速段に主変速装置30の変速段群が割り当てられて表示される主変速段表示領域201と、主変速装置30の使用中の変速段と副変速装置31の使用中の変速段とを一体化して車両変速比を決定する使用変速段を表示する使用変速段表示領域103が含まれている。第2表示画面200は、変速段選択画面として利用するため、第1表示画面101の変速状態表示領域102をベースとして生成されている。また、第2表示画面200は所定の操作によって第1表示画面101から移行することができる。第2表示画面200には、副変速段表示領域202と主変速段表示領域201とが配置されているとともに、使用変速段表示領域103に代えて変速段選択作業において選択中の変速段を表示する選択変速段表示領域203が配置されている。さらに、第2表示画面200には、車両変速比の下限を規定するための主変速装置30と副変速装置31との組み合わせ変速段を選択する下限選択領域204と、車両変速比の上限を規定するための主変速装置30と副変速装置31との組み合わせ変速段を選択する上限選択領域205とが追加配置されている。
【0025】
図2で示した例では、副変速段表示領域202と主変速段表示領域201とが、選択変速段表示領域203のほぼ中央を中心とする半円弧状の棒グラフ形態で形成されている。したがって、この半円弧の中心を通る径方向に延びる線を通じて、主変速装置30と副変速装置31との組み合わせ変速段を規定することができる。さらに、下限選択領域204及び上限選択領域205も、同じ中心をもつ半円弧状の棒グラフ形態で形成されている。つまり、副変速段表示領域202と主変速段表示領域201と下限選択領域204と上限選択領域205とは、同軸に配置されている。その径方向の配置順序は任意であるが、図2の図例では、副変速段表示領域202、主変速段表示領域201、下限選択領域204、上限選択領域205の順で径方向外側に向かって並んでいる。
【0026】
下限選択領域204には下限変速段を指示する下限設定指針206が下限選択領域204内を移動可能に配置され、上限選択領域205には上限変速段を指示する上限設定指針207が上限選択領域205内を移動可能に配置されている。ここで示された例では、下限設定指針206を移動させるプラスボタン206aとマイナスボタン206b、及び上限設定指針207を移動させるプラスボタン207aとマイナスボタン207bとがソフトウエアボタンとして配置されている。このようなソフトウエアボタンに代えて、直接下限設定指針206や上限設定指針207をドラックして移動させる構成を採用してもよいし、ハードウエアボタンを備えるようにしてもよい。いずれにせよ、下限設定指針206と半円弧の中心を通る径方向に延びる線上に位置する主変速装置30と副変速装置31との組み合わせ変速段が下限変速段として、選択変速段表示領域203の左側に表示される。また、上限設定指針207と半円弧の中心を通る径方向に延びる線上に位置する主変速装置30と副変速装置31との組み合わせ変速段が上限変速段として、選択変速段表示領域203の右側にされる。
【0027】
これにより、第1操作ユニットMUまたは第2操作ユニットSUを操作することによって実現する、主変速装置30と副変速装置31との組み合わせ変速段は上述の変速段選択処理を通じて選択された変速範囲に限定される。
【0028】
なお、主変速装置30も使用変速段を選択可能に構成することができる。主変速装置30の変速段選択処理は、例えば、第3表示画面の一例である、図3に示すような主変速装置30のための使用変速段選択画面300を通じて行うことができる。なお、ここでも説明を簡単にするため主変速装置30は1から4段の4つの変速段を有するものとする。使用変速段選択画面300の左側には、4つの変速段を示す4つの横バー301が配置されており、選択された変速段と選択されない変速段は横バーの描画色または描画パターンの違いで区別される。4つの横バー301の下側には、選択された変速段が数値で、例えば、「2−4」というように、示される選択変速段表示欄302が配置されている。使用変速段選択画面300の左側には、下限変速段を指定する下限設定指針303と、上限変速段を指定する上限設定指針304とが並んで配置されている。ここでも、下限設定指針303を移動させるプラスボタン303aとマイナスボタン303b、及び上限設定指針304を移動させるプラスボタン304aとマイナスボタン304bとがソフトウエアボタンとして配置されている。このようなソフトウエアボタンに代えて、直接下限設定指針303や上限設定指針304をドラックして移動させる構成を採用してもよいし、ハードウエアボタンを備えるようにしてもよい。
【0029】
上述した、使用変速段の選択は、作業走行モードと路上走行モードとで別個に設定することが可能である。作業走行では狭い変速範囲が使用され、路上走行では広い変速範囲が使用されることを考慮すれば、第3表示画面を用いた主変速装置30の変速段範囲の選択は作業走行モード時に有効となり、第2表示画面を用いた主変速装置30及び副変速装置31の変速段の選択は路上走行モード時に有効となる構成が好都合である。
【0030】
次に、本発明による走行作業車の具体的な実施形態の1つを説明する。図4は、走行作業車の一例であるトラクタの側面図である。このトラクタは、前輪2aと後輪2bとによって支持されているトラクタの車体1の前部にエンジン20が搭載され、エンジン20の後方にトランスミッション3が搭載されている。車体1の後方には作業装置22としてロータリ耕耘装置がリンク機構23を介して昇降自在に装備されている。このトラクタは四輪駆動型であり、エンジン20の動力は、トランスミッション3に内装された変速機構を介して駆動輪として機能可能な前輪2a及び後輪2bに伝達される。さらに、エンジン20の動力は、トランスミッション3から後方に突き出しているPTO軸24を介して作業装置22にも伝達される。エンジン20はボンネット21によって覆われている。ボンネット21の後方かつトランスミッション3の上方でキャビン10が車体1に支持されている。
【0031】
図5で模式的に示されているだけであるが、この実施形態のトランスミッション3には、変速機構として主変速装置30と副変速装置31が含まれており、さらに、主変速装置30に前後進切替機構32が組み込まれている。トランスミッション3からの変速動力は、差動装置33と後車軸34を介して後輪2bに伝達される。詳しく図示されていないが、トランスミッション3からの変速動力は、前輪2aにも伝達可能である。主変速装置30は、常時かみ合いのギヤセットと複数のクラッチを用いて、動力伝達の遮断を伴わずに4つ変速段の切り替えるタイプである。副変速装置31は、動力伝達の遮断を伴わって6つの変速段を切り替える、いわゆるシンクロメッシュタイプである。
【0032】
キャビン10の内部は運転空間として機能し、その前部には、前輪2aの操向操作を行うステアリングハンドル11が、その後部で、左右一対の後輪フェンダ15の間には、運転座席12が配置されている。運転座席12の側方から前方にかけて、多機能操作具5を有するアームレスト操作装置4が設けられている。アームレスト操作装置4の前側には運転者に種々の情報を視覚的に報知するディスプレイ13が設けられている。
【0033】
図6及び図7に示されているように、アームレスト操作装置4は、図示されていない支持フレームに固定される取付ブラケット4Bに固定されるアームレスト支持台4Aを備えている。取付ブラケット4Bには前方に延びながら上方に向かって傾斜している支持ロッド4Cが固定されており、支持ロッド4Cの先端部に液晶パネルなどのディスプレイ13が取り付けられている。このディスプレイ13はタッチパネル13Aを通じて入力操作が可能なものであり、運転者による各種操作入力を受け入れることができる。
【0034】
図6から明らかなように、アームレスト操作装置4は、平面視において、前領域4a、中間領域4b、後領域4cに区分けすることができる。後領域4cには腕を載せる、クッション性のあるアームレスト台40が設けられている。前領域4aのほぼ左半分に、後で詳しく説明する、多機能操作具5が設けられている。前領域4aのほぼ右半分には、操作スイッチ群9として、第1操作スイッチ群9aと第2操作スイッチ群9bとが配置されている。中間領域4bにも、操作スイッチ群9として、左から、第3操作スイッチ群9c、第4操作スイッチ群9d、第5操作スイッチ群9eが配置されている。各操作スイッチ群9には、ボタン、スイッチ、ダイヤル、レバー、ジョイスティックなどの各種の型式で形成される操作スイッチが設けられている。
【0035】
アームレスト台40の左側の前端領域に、揺動軸P1周りで揺動可能に支持された多機能操作具5が配置されている。この多機能操作具5は、トラクタの走行状態及びトラクタに装備された作業装置22の状態を制御するために用いられる。多機能操作具5は、実質的には、グリップ本体5Aと揺動体5Bとからなる。揺動体5Bは、図8理解できるように、揺動軸P1周りで揺動するアーム部材として形成されている。揺動体5Bの揺動中立位置から、揺動体5Bを前方方向(P)に揺動させることで車両を増速させ、後方方向(D)に揺動させることで車両を減速させるように構成されている。
【0036】
グリップ本体5Aは、揺動体5Bの自由端部側に設けられている。図8に示すように、グリップ本体5Aは、右側領域、ここではほぼ右側半分領域に形成された握り部50と、左側領域、ここではほぼ左側半分領域に形成された、操作スイッチ群9のための延長部51とからなる。グリップ本体5Aは、凸状湾曲面52と垂直状側面53と裏面54aと底面54bとによって外周面が形成されている。凸状湾曲面52は、握り部50を掴む手のひらがスムーズに覆いかぶさるような形状を有する。垂直状側面53は、凸状湾曲面52の左端縁に対してほぼ垂直に延びた面である。握り部50の下端縁、つまり底面54bと凸状湾曲面52との境界領域の少なくとも一部に、外方に突き出した舌片が小指球載せ55として形成されている。この小指球載せ55は、握り部50に載せた手のひらが下方にずれ落ちないようにその手の小指球を保持する形状を有する。
【0037】
延長部51の上面はほぼ平坦な面またはわずかに凸に湾曲した面を有している。延長部51の上面は、実際の適用に当たっては操作者に対向するように配置されるため、以後操作者対向面56と称する。延長部51の操作者対向面56は握り部50の垂直状側面53の下端縁から左方向に延びるような形態で、握り部50と延長部51とがつながっており
、操作者対向面56と垂直状側面53とがほぼ直角に交わっている。したがって、操作者対向面56と垂直状側面53とによって境界づけられる空間は、握り部50に載せた手の親指がある程度自由に動かせる広さを持っている。それゆえ、この空間は親指自由空間TSと称している。
【0038】
垂直状側面53と操作者対向面56とには、操作スイッチ群9に属する操作スイッチ(ボタンやレバーなどを含む)が配置されている。この実施形態では、操作者対向面56には、走行に関する操作スイッチ群に属するシャトルボタン91と変速比固定ボタン93、作業に関する操作スイッチ群に属するアップダウンボタン92、2つの油圧制御スイッチ94a、94bが設けられている。シャトルボタン91は、操作者対向面56のほぼ上半分(前半分)の最も垂直状側面53に近い位置に配置されている。アップダウンボタン92は、シャトルボタン91の左隣りに配置されており、変速比固定ボタン93はさらにシャトルボタン91の左隣りに配置されている。油圧制御スイッチ94a、94bは操作者対向面56のほぼ下半分(前半分)に横並び配置されている。また、垂直状側面53には、変速補助ボタン95が配置されている。さらに、握り部50の裏面54aには、シャトル補助ボタン96が配置されている。このシャトル補助ボタン96は、握り部50の凸状湾曲面52に手のひらを載せた手の人差し指または中指で簡単に操作可能である。
【0039】
シャトル補助ボタン96を押すとともにシャトルボタン91のシャトル上向き矢印の箇所を押すことでトランスミッション3の前後進切替機構32が前進状態に切り替えられ、また、シャトル補助ボタン96を押すとともにシャトルボタン91の下向き矢印の箇所を押すことでトランスミッション3の前後進切替機構32が後進状態に切り替えられる。
【0040】
握り部50の搖動軸P1周りの揺動操作による変速段の切り替え(シフトアップ、シフトダウン)において、副変速装置31の切り替えを伴わない、主変速装置30だけの変速段の切り替え操作は、変速補助ボタン95を押さなくとも有効であるが、副変速装置31の切り替えを伴う変速段の切り替え操作は、変速補助ボタン95を押さなければ無効となるように構成されている。つまり、この実施形態では、変速補助ボタン95を押さない状態の多機能操作具5が第1操作ユニットMUとして機能し、変速補助ボタン95を押した状態の多機能操作具5が第2操作ユニットSUとして機能することになる。
【0041】
また、このトランスミッション3は、車速に応じて適切な変速比が設定されるように構成されている。しかしながら、作業時等では、一時的に車速が変動しても変速比はそのままに維持することが好ましい場合がある。この問題を解決するため、変速比固定ボタン93は、変速比を強制的に固定するためのボタンであり、これを操作することで、ブレーキ操作などの車速が低下しても、トランスミッション3の変速比は変更されない。
【0042】
図9に、多機能操作具5を用いた増速側への操作(シフトアップ)と減速側への操作(シフトダウン)を行った際の操作前の変速段と、操作後の変速段が示されている。主変速装置30の変速段は1から4の数で示され、副変速装置31の変速段はAからFのアルファベットで示されている。変速操作後の変速段は、変速補助ボタン95を押さずに握り部50をシフトアップまたはシフトダウンした結果(主変速段切替操作)の変速段と、変速補助ボタン95を押しながら握り部50をシフトアップまたはシフトダウンした結果(副変速段切替操作)の変速段とに区分けされている。主変速段切替操作後の変速段は、路上走行と作業走行で区分けされている。図9に示された結果は、図1を用いて説明された内容に準じているので、ここでの説明は省略される。
【0043】
なお、図9で一覧化された変速段切替表には、主変速装置30が有する1から4の全ての変速段と、副変速装置31が有するAからFの全ての変速段が示されてが、使用可能な変速段範囲を選択することができる。さらに、主変速装置30の変速段のうち、使用可能な変速段範囲を選択することも、可能である。
【0044】
図10では、このトラクタに装備されている制御系が機能ブロック図の形態で示されている。この制御系において、主にコンピュータプログラムによって実現される機能を構築している機能部を演算制御装置800として示しているが、この区分けは、あくまで説明目的であり、実際の制御系の構築に当たっては、自由に分割、統合が可能である。演算制御装置800は車載LANなどによってデータ伝送可能に他のユニットと接続されている。そのようなユニットとして、例えば、機器制御ユニット801、入力信号処理ユニット802、報知処理ユニット803などが挙げられる。また、演算制御装置800の内部においても、各機能部や機能ユニットは車載LANやその他のデータ伝送路と通じてデータ伝送可能に接続されている。
【0045】
機器制御ユニット801は、エンジン20、トランスミッション3、作業装置22などに備えられた各種動作機器に対して動作信号を与えて、その動作を制御する。入力信号処理ユニット802は、入力インターフェースの機能を有し、多機能操作具5や操作スイッチ群9や各種センサを含む状態検知センサ群90からの信号を入力して、この制御系の各機能部に転送する。報知処理ユニット803は、入出力インターフェースの機能を有し、ディスプレイ13への画像信号やスピーカ14への音声信号、あるいはタッチパネル13Aからの操作入力信号を処理する。
【0046】
図10で例示された演算制御装置800には、変速制御ユニット6、作業制御ユニット7A、作業走行支援ユニット7B、表示制御ユニット8、走行状態判定部60などが含まれている。
【0047】
変速制御ユニット6は、機器制御ユニット801を介して、主変速装置30や副変速装置31に変速制御指令を出力して前記主変速装置と前記副変速装置との変速段の組み合わせによる車両変速比を作り出す。変速制御ユニット6には、第1走行制御部61と、第2走行制御部62と、変速段設定部63とが含まれている。第1走行制御部61は、作業走行モードにおいて、変速補助ボタン95を押さない状態での多機能操作具5に対する揺動操作による変速操作指令に応答して主変速装置30の変速段の切り替えだけを行う変速制御指令を生成する。路上走行モードにおいては、上述したように、例外的に副変速装置31の変速段の切り替えを伴う場合がある。第2走行制御部62は、変速補助ボタン95を押した状態での多機能操作具5に対する揺動操作による変速操作指令に応答して副変速装置31の変速段の切り替えを伴う変速制御指令を生成する。変速段設定部63は、図2図3を用いて説明したような手順を通じて、主変速装置30及び副変速装置31における使用可能な変速段を設定する。
【0048】
表示制御ユニット8は、報知処理ユニット803などと協働して変速表示制御装置を構築するものであり、第1表示画面101と第2表示画面200と第3表示画面(使用変速段選択画面)300を生成する表示画面生成部81が含まれている。第1表示画面101と第2表示画面200との説明は図2を用いて、第3表示画面(使用変速段選択画面)300は図3を用いて、先に説明した通りである。また、第2表示画面200及び第3表示画面300を通じて選択された変速範囲は、変速制御ユニット6に与えられ、変速制御における利用変速段の限定条件として用いられる。
【0049】
走行状態判定部60は、入力信号処理ユニット802を通じて得られる、作業車の状態を検知する状態検知センサ群90のうちの少なくとも1つの状態検知センサからの検知信号に基づいて作業走行状態であるか路上走行状態であるかを判定する。作業走行状態と判定されると、変速制御ユニット6において作業走行モードが設定され、路上走行状態と判定されると路上走行モードが設定される。
【0050】
作業制御ユニット7Aは、作業用の操作スイッチ群9からの信号等に基づいて作業装置22の制御を行う。また、作業装置の上限設定や作業装置の昇降速度も管理する。作業走行支援ユニット7Bは、一部の作業走行の自動化や、状態検知センサ群90からの信号に基づいて警報など、運転者に対する報知を管理する。
【0051】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、変速補助ボタン95を押さない状態の多機能操作具5が第1操作ユニットMUとして機能し、変速補助ボタン95を押した状態の多機能操作具5が第2操作ユニットSUとして機能した。これに代えて、変速補助ボタン95を押した状態の多機能操作具5が第1操作ユニットMUとして機能し、変速補助ボタン95を押さない状態の多機能操作具5が第2操作ユニットSUとして機能してもよい。さらには、第1操作ユニットMUとび第2操作ユニットSUの一方を揺動レバーとして構成し、その他方をボタン式やダイヤル式で構成してもよい。その際、当該ボタンやダイヤルを揺動レバーに設けると操作性が向上する。
(2)変速段設定部63による使用可能な変速段範囲が予め登録されており、その登録された複数の変速段範囲から運転者が選択する構成を採用してもよい。また、走行作業車の状態に応じて、変速段設定部63が自動的に選択する構成を採用してもよい。
(3)図10で示された機能ブロックは、説明目的で記載されているだけであり、それらの各機能ユニットは、任意に統合することまたは任意に分割することが可能である。特に、演算制御装置800に構築されている各機能部は、互いにソフトウエア的に連係しているので、実際にはその機能は重なり合っている場合は多く、図10で示した機能部は、模式的に示しているに過ぎず、ここで、その機能の区分けを限定しているわけでない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明による走行作業車は、トラクタ以外、田植機、コンバインなどの農用作業車、あるいはフロントローダなどの建設土木作業車などに適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 :車体
3 :トランスミッション
4 :アームレスト操作装置
5 :多機能操作具
5A :グリップ本体
5B :揺動体
6 :変速制御ユニット
7A :作業制御ユニット
7B :作業走行支援ユニット
8 :表示制御ユニット
9 :操作スイッチ群
13 :ディスプレイ
13A :タッチパネル
22 :作業装置
30 :主変速装置
31 :副変速装置
50 :握り部
60 :走行状態判定部
61 :第1走行制御部
62 :第2走行制御部
63 :変速段設定部
81 :表示画面生成部
90 :状態検知センサ群
91 :シャトルボタン
92 :アップダウンボタン
95 :変速補助ボタン
101 :第1表示画面
200 :第2表示画面
300 :第3表示画面(使用変速段選択画面)
800 :演算制御装置
801 :機器制御ユニット
802 :入力信号処理ユニット
803 :報知処理ユニット
MU :第1操作ユニット
SU :第2操作ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10