特許第6305267号(P6305267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6305267-腐食防止方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305267
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】腐食防止方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 14/02 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   C23F14/02 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-160977(P2014-160977)
(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-37630(P2016-37630A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】501138046
【氏名又は名称】有限会社コンタミネーション・コントロール・サービス
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 豊彦
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−181282(JP,A)
【文献】 特開2008−007861(JP,A)
【文献】 特公昭39−025673(JP,B1)
【文献】 国際公開第2014/103703(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00 − 4/04
C25F 1/00 − 7/02
C23F 11/00 − 11/18
C23F 14/00 − 17/00
C23C 22/00 − 22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製品を、1〜10%の濃度のリン酸化合物水溶液によってリン酸処理するリン酸処理工程と、
前記リン酸処理工程によってリン酸処理が施された金属製品を、0.5〜5%の濃度のフッ酸水溶液によってフッ酸処理するフッ酸処理工程と、
前記フッ酸処理工程によってフッ酸処理された金属製品に、150℃〜450℃の加熱雰囲気中で加熱処理を施す加熱処理工程とによって構成されることを特徴とする腐食防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばステンレススチール、鉄、アルミニウム、銅等の金属の腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開平5−263278号公報)は、ステンレス鋼板を機械研磨したときに低下する耐食性を母材の選択及び研磨後の酸洗によって回復し、表面外観及び耐食性の双方に優れたステンレス鋼板を得ることを目的としたもので、低O含有量及び低S含有量でCrよりも酸素親和力の大きなV、Ti、Zr、Ca、希土類元素糖の易酸化性元素を1種以上含有させたステンレス鋼板を、100番以上の番手の研磨ベルトを使用して機械研磨した後、硝酸系の酸洗液又は硝酸−フッ酸系の混合酸洗液を使用した酸洗によって前記機械研磨の際に生じた酸化皮膜を除去すると共に不導態皮膜を前記ステンレス鋼板の表面に形成するCr含有ステンレス鋼板の表面仕上げ方法を開示する。
【0003】
特許文献2(特開2007−204770号公報)は、皮膜中に六価クロムを含まず、しかも優れた耐食性、耐疵付き性、耐変色性及び耐水性が得られる表面処理鋼板を提供することを目的とするもので、亜鉛めっき鋼板の表面に、特定の化学構造を有する樹脂化合物と、第4アンモニウム塩基を有するカチオン性ウレタン樹脂と、リン酸又は/及びリン酸塩と、フッ酸、酢酸、硝酸、硫酸及びこれらの塩の中から選ばれる少なくとも1種の酸化合物とを特定の配合割合で含有する表面処理剤で形成された表面処理皮膜を有し、その上層に、特定の樹脂組成物と特的の防錆添加成分と固形潤滑剤を含有する有機被膜を有する表面処理鋼板を開示する。
【0004】
特許文献3(特開2009−249661号公報)は、表面調整工程と、表面調整がなされためっき鋼板の表面にリン酸亜鉛処理液を接触させるリン酸亜鉛処理工程と、めっき鋼板の表面を乾燥させる乾燥工程とを備える製造方法を開示し、特に所定の条件を満たすリン酸亜鉛処理液を提供するものである。ただし、特許文献3では、リン酸亜鉛処理液で表面処理した後に、めっき鋼板表面を可能させる乾燥工程を実施することが開示されているが、接着性及び潤滑性を向上させるという課題を達成するものであるから、本発明の課題と異なるものであり、本発明と構成においても異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−263278号公報
【特許文献2】特開2007−204770号公報
【特許文献3】特開2009−249661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、ステンレス鋼の耐食性はステンレス鋼表面に形成されている不動態被膜によって維持されるものであるが、機械研磨によって不動態被膜が破壊されると耐食性が低下することが開示されている。このため、機械研磨後のステンレス鋼の表面を酸洗することによって不動態被膜を形成するようにしたものであるが、これによって形成されたステンレス鋼においても、過酷な腐食条件、たとえばF2、HF、ClF3、塩水等に晒された場合には、腐食する可能性が大きいという不具合が生じる。また、溶接された金属では、その溶接付近で腐食する可能性が大きい。
【0007】
特許文献2には、亜鉛系めっき鋼板表面に、耐食性を向上させる目的でクロム酸、重クロム酸又はその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられたこと、このクロメート処理は、耐食性に非常に優れ且つ比較的簡単に行うことができる経済的な処理方法であることが開示され、さらにクロメート処理による被膜が、公害規制物質である六価クロムを含有していることから、六価クロムを使用しない表面処理鋼板が要望されていることが記載されている。このため、特許文献2には、六価クロムなどの公害規制物質を含有することがなく優れた耐食性が得られる表面処理鋼板が開示される。この表面処理鋼板の表面処理剤は、樹脂化合物、カチオン性ウレタン樹脂、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、リン酸又は/及びリン酸塩、及び酸化合物を所定の割合で配合して生成したもので、特に前記酸化合物はフッ酸、酢酸、硝酸及びこれらの塩の中から少なくとも一種が選択されるものである。このように、特許文献2では、表面処理液の中にリン酸及びフッ酸が所定の割合で混合されることが開示されている。このため、引用文献2では、六価クロムを使用しないために、樹脂化合物やウレタン樹脂等の有機物と、亜鉛化合物等の無機物を、表面処理液に配合するため、非常に繊細な配合が要求されるという不具合が有り、さらに特許文献1と同様に、過酷な腐食条件、たとえばF、HF、ClF、塩水等に晒された場合には、腐食する可能性が大きいという不具合が生じる。
【0008】
したがって、本発明は、過酷な腐食条件にも耐える腐食防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る腐食防止方法は、金属製品をリン酸処理するリン酸処理工程と、前記リン酸処理工程によってリン酸処理が施された金属製品をフッ酸処理するフッ酸処理工程とを具備するものである。尚、金属としては、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、銅等であること、特にステンレス鋼であることが望ましい。これによって、過酷な腐食条件にも耐えうる金属表面をえることができるものである。
【0010】
前記リン酸処理工程は、前記金属製品を、所定の濃度(たとえば1〜10%の濃度、特に4〜5%の濃度)のリン酸化合物水溶液に、所定の温度(たとえば40℃〜80℃の温度)で、所定の時間(たとえば20分〜1時間)浸漬することによって実施されることが望ましい。また、リン酸化合物水溶液に使用されるリン酸化合物としては、リン酸(H3PO4)、亜リン酸(H3PO3)、ポリリン酸(Hn+2PnO3n+1)(n=2〜6)などがあり、またはそれらの塩であることが望ましく、特にリン酸であることが望ましい。
【0011】
前記フッ酸処理工程は、リン酸処理された金属製品を、所定の濃度(たとえば0.5〜5%の濃度、特に1〜3%の濃度)のフッ酸(HF)水溶液に、常温(15℃〜30℃)で、所定の時間(たとえば3分〜10分)浸漬することによって実施されることが望ましい。フッ酸処理液としては、F化合物、F含有物(たとえばNHF)であれば良いものである。
【0012】
さらに本発明では、前記フッ酸処理工程によってフッ酸処理された金属製品に加熱処理を施す加熱処理工程をさらに具備することが望ましい。これによって、さらに耐腐食性を向上させることができるものである。
【0013】
前記加熱処理工程は、リン酸処理された金属製品を、所定の温度(たとえば、150℃〜450℃)の加熱雰囲気中に、所定時間(たとえば30分〜2時間)晒すことによって実施されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属製品に、リン酸処理及びフッ酸処理を施すことによって、耐食性のある金属表面が得られるものである。この金属表面は過酷な腐食条件(F2、HF、ClF、塩水等)にも耐えるものである。さらに、加熱処理を行うことによって、耐食性をさらに向上させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る腐食防止方法を示したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の腐食防止方法は、たとえば図1に示すように、金属製品をリン酸処理するリン酸処理工程100と、前記リン酸処理工程100によってリン酸処理が施された金属製品をフッ酸処理するフッ酸処理工程200とを具備するものである。
【0017】
さらに本発明の腐食防止方法では、前記フッ酸処理工程200によってフッ酸処理された金属製品に加熱処理を施す加熱処理工程300をさらに具備するものである。尚、金属としては、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、銅等であること、特にステンレス鋼であることが望ましい。これによって、過酷な腐食条件にも耐えうる金属表面をえることができるものである。
【実施例1】
【0018】
下記する表1において、発明試料1では、基材としてSUS316Lφ30×3t(ステンレス鋼)を使用した。
【0019】
前記リン酸処理工程100は、前記金属製品を、5%リン酸水溶液に、60℃で、1時間浸漬することによって実施される。
【0020】
前記フッ酸処理工程200は、リン酸処理された金属製品を、3%のフッ酸(HF)水溶液に、常温(25℃)で、5分間浸漬することによって実施される。
【0021】
前記加熱処理工程300は、リン酸処理及び/若しくはフッ酸処理された金属製品を300℃の加熱雰囲気中に、1時間晒すことによって実施されるものである。
【0022】
表1で示されるように、発明試料1−1は、金属製品にリン酸処理工程100としてリン酸水溶液によるリン酸処理施し、その後フッ酸処理工程200を実施して得られたものである。この発明試料1−1では、前述した加熱処理工程300は実施されなかった。この発明試料1−1は、その耐腐食性を実証するために、濃度25%のフッ酸水溶液に3時間暴露される(以下、実証実験)。この結果は目視によって確認され、良好な結果(〇)が得られた。
【0023】
発明試料1−2は、フッ酸処理200が実施されて得られた発明試料1−1に、上述した条件の加熱処理工程300を実施して得られたものである。この発明試料1−2においても、同様の上述した実証実験が行われ、この場合最高の結果(◎)が得られた。
【0024】
下記する表1において、発明試料2は、金属製品として、2本の基材SUS316L(ステンレス鋼)、1/4インチのブライトアニール(BA)管5cmを溶接して、長さ10cmとした配管を使用した。
【0025】
発明試料2−1は、前記BA管に、上述した所定のリン酸水溶液によるリン酸処理工程100を施し、さらに所定のフッ酸水溶液によるフッ酸処理200が施されたが加熱処理300は実施せずに得られたものである。この発明試料2−1に上述した実証実験を施したところ、特に溶接部付近においての腐食状況を含み、良好な結果(〇)が得られた。
【0026】
発明試料2−2は、前記BA管において、発明試料2−1に、さらに加熱処理工程300を施して得られたもので、実証実験の結果は、特に溶接部付近においての腐食状況を含み、最高の結果(◎)が得られた。
【0027】
【表1】
【0028】
表2で示される比較試料1−1は、前記発明試料1おいて使用された金属製品について、フッ酸処理工程200のみを実行して得られたものである。この比較試料1−1について実証実験を行った結果、効果は認められなかった(×)。このことから、リン酸処理工程100及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0029】
比較試料1−2は、前記発明試料1おいて使用された金属製品について、リン酸処理工程100が実施されずフッ酸処理工程200及び加熱処理300が施されて得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、リン酸処理工程100がない場合には効果がないことがわかった。
【0030】
比較試料1−3は、前記発明試料1おいて使用された金属製品について、リン酸処理工程100のみが実施されて得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、リン酸処理工程100のみが実施された場合にも効果がないことがわかった。
【0031】
比較試料1−4は、前記発明試料1おいて使用された金属製品について、リン酸処理工程100及び加熱処理工程300が実行されて得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200がない場合には効果がないことがわかった。
【0032】
比較試料2−1は、前記発明試料2において用いられた金属製品について、フッ酸処理工程200のみが実施された得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、リン酸処理工程100及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0033】
比較試料2−2は、前記発明試料2において用いられた金属製品について、フッ酸処理工程200及び加熱処理工程300が実施された得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、リン酸処理工程100がない場合には効果がないことがわかった。
【0034】
比較試料2−3は、前記発明試料2において用いられた金属製品について、リン酸処理工程100のみが実施された得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0035】
比較試料2−4は、前記発明試料2において用いられた金属製品について、リン酸処理工程100及び加熱処理工程300が実施されて得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200がない場合には効果がないことがわかった。
【0036】
【表2】
【0037】
以上のことから、金属製品にリン酸処理工程100及びフッ酸処理工程200を施した製品では、過酷な腐食条件においても良好な耐腐食性が得られるものであり、さらに加熱処理工程300が施されることによって最高の耐腐食性が得られるものである。
【実施例2】
【0038】
下記する表3において、発明試料3では、基材としてアルミ5052(以下、アルミ金属製品)を使用した。
【0039】
実施例2において、前記リン酸処理工程100は、前記アルミ金属製品を、5%のリン酸水溶液に、60℃で、1時間浸漬することによって実施される。
【0040】
前記フッ酸処理工程200は、リン酸処理されたアルミ金属製品を、3%のフッ酸(HF)水溶液に、常温(25℃)で、5分間浸漬することによって実施される。
【0041】
前記加熱処理工程300は、リン酸処理及びフッ酸処理されたアルミ金属製品を、300℃の加熱雰囲気中に、1時間晒すことによって実施されるものである。
【0042】
発明試料3−1は、アルミ金属製品にリン酸処理工程100を施し、その後フッ酸処理工程200を実施し、さらに加熱処理工程300は実施して得られるものである。この発明試料3−1は、その耐腐食性を実証するために、濃度5%のフッ酸水溶液に1時間暴露される(以下、実証実験)。この結果は目視によって確認され、良好な結果(〇)が得られた。
【0043】
比較試料3−1は、アルミ金属製品について、フッ酸処理工程200及び加熱処理300が施されて得られたものであり、これについて、実証実験を行った。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、リン酸処理工程100がない場合には効果がないことがわかった。
【0044】
比較試料3−2は、アルミ金属製品について、実証実験を行った。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、リン酸処理工程100、フッ酸処理工程200及び加熱処理工程300が実施されていないアルミ金属製品について実証実験を行った結果、全く効果がないことがわかった。
【0045】
【表3】
【0046】
このように、アルミ金属製品においても、リン酸処理工程100、フッ酸処理工程200及び加熱処理工程300が施された製品については、過酷な腐食条件において良好な結果が得られることがわかった。
図1