【文献】
奥山昴,小型パルス管冷凍機の蓄冷器出入口形状が冷凍性能に及ぼす影響,日本機械学会論文集,日本,日本機械学会,2012年10月,78巻794号,全頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0010】
図1は、本発明の実施の形態に係るスターリング型パルス管冷凍機100の全体構成の概略を模式的に示す図である。スターリング型パルス管冷凍機100は、圧縮機200、膨張器300、および圧縮機200と膨張器300とを接続する通路400を備える。また、膨張器300の一部は、真空容器500に収容され、真空環境に置かれている。
【0011】
圧縮機200は、通路400を介して膨張器300から戻ってくる作動ガスを回収する。圧縮機200は回収した作動ガスを圧縮した後に、高圧の作動ガスを通路400を介して膨張器300に供給する。圧縮機200は作動ガスの回収と供給とを繰り返し、作動ガスに正弦波的な圧力振動を発生させる。圧縮機200の運転周波数、すなわちスターリング型パルス管冷凍機100の冷凍サイクルの周波数を30Hz以上としてもよく、例えば商用電源と同等の50Hzから60Hz程度としてもよい。また、作動ガスの圧力振幅の上限値を3MPa程度、下限値を1MPa程度としてもよい。圧縮機200はモータ(不図示)で発生するジュール熱などによって加熱されるため、図示しない水冷式の冷却機構を用いて冷却される。
【0012】
図1に示す例では、圧縮機200は二気筒対向型の圧力振動発生機構であり、第1ピストン202aと第2ピストン202bとを備える。第1ピストン202aと第2ピストン202bとはともに、シリンダ204に収容される。シリンダ204はさらに、第1フレクシャベアリング206aおよび第2フレクシャベアリング206bを収容する。
【0013】
第1フレクシャベアリング206aは第1ピストン202aと接続し、第1ピストン202aを往復移動自在に支持する。同様に、第2フレクシャベアリング206bは第2ピストン202bと接続し、第2ピストン202bを往復移動自在に支持する。
【0014】
これらのフレクシャベアリングは、接続するピストンの軸方向に柔らかく、径方向に堅い性質がある。このため、第1ピストン202aおよび第2ピストン202bがシリンダ204内を軸方向に往復移動する際に、シリンダ204の内壁に接触することを抑制できる。なお、圧縮機200は、作動ガスの出入り口となる通路400を除いて気密となるように構成されている。
【0015】
膨張器300は、アフタークーラ302、蓄冷管304、コールドヘッド306、整流器308、U字管318、パルス管310、高温熱交換器312、イナータンスチューブ(Inertance-tube)314、およびバッファタンク316を含む。
【0016】
アフタークーラ302は、一端が通路400の端部と接続される。アフタークーラ302は、例えば水冷式の熱交換器であってもよい。アフタークーラ302は、圧縮機200から供給された作動ガスを冷却し、その熱を膨張器300の外部へ放出するための熱交換器として機能する。アフタークーラ302の他端は、蓄冷管304の高温端に接続される。
【0017】
蓄冷管304は、高温端と低温端とを有する。蓄冷管304は筒状の外周面を有している。蓄冷管304の内部は、低温側の蓄冷材収容領域304aと、高温側の狭窄領域304bとに分かれている。蓄冷材収容領域304aには、数種類のステンレスメッシュを積層した蓄冷材(不図示)が収容され蓄冷器として機能する。蓄冷材は、圧縮機200が供給する作動ガスを冷却する。蓄冷材はまた、パルス管310から戻ってくる作動ガスの寒冷を蓄積する。高温側の狭窄領域304bには、蓄冷材は収容されていない。蓄冷管304の高温端は、コールドヘッド306と接続する。
【0018】
コールドヘッド306は、熱伝導のよい例えば銅などの材料で構成されてもよく、作動ガスの流路となるガス流路を有する。コールドヘッド306は、パルス管310で低温となった作動ガスがガス流路を通過する際に、作動ガスによって冷却される。なお、コールドヘッド306には、冷却対象物と熱的に接続される冷却ステージ(不図示)が配置され、冷却対象を冷却する。限定はしないが、コールドヘッド306は、スターリング型パルス管冷凍機100の運転時におよそ77Kの温度となる。
【0019】
整流器308は、コールドヘッド306の内部に、蓄冷管304の低温端と接続して設けられる。整流器308は、複数のメッシュを多層に重ねて構成される。整流器308はストレイナ(strainer)とも呼ばれ、パルス管310から流出してコールドヘッド306に流入する作動ガスの渦流や旋回流、流速分布の乱れ等を低減する。これによりコールドヘッド306に流入する作動ガスの流れが均一となり、コールドヘッド306の冷却効率を高めることができる。
【0020】
U字管318は、コールドヘッド306とパルス管310とを接続されるU字形状の管である。作動ガスは、U字管318を介して蓄冷管304とパルス管310との間を流通する。
【0021】
パルス管310は、U字管318を介して蓄冷管304との間で作動ガスが流通可能に接続される。パルス管310も蓄冷管304と同様に筒状の外周面を有しており、低温端と高温端とを備える。
図1に示す例では、パルス管310は蓄冷管304の外部において蓄冷管304と並列に並んで設けられる、いわゆるリターン型のスターリング型パルス管冷凍機である。
【0022】
スターリング型パルス管冷凍機100の外部からの輻射熱侵入や作動ガスの対流による熱侵入を抑制するために、蓄冷管304からパルス管310に至るまでの間は真空容器500によって真空断熱されている。フランジ320は、蓄冷管304の高温端とパルス管310の高温端とを支持し、真空容器500内において蓄冷管304およびパルス管310を真空環境に配置する。
図1に示す例はリターン型のスターリング型パルス管冷凍機であるため、蓄冷管304とパルス管310とは、フランジ320とコールドヘッド306との間に並列に延在する。
【0023】
高温熱交換器312は、パルス管310の高温端に接続される。図示はしないが、高温熱交換器312は、圧縮機200およびアフタークーラ302と同様に、一定温度の冷却水を用いて作動ガスを冷却する。一例として、高温熱交換器312は、スターリング型パルス管冷凍機100の運転時におよそ300K程度の温度となる。
【0024】
イナータンスチューブ314は、パルス管310の高温端とバッファタンク316とを接続する。イナータンスチューブ314は細長い管であり、実施の形態に係るスターリング型パルス管冷凍機100の位相調整機構として機能する。
【0025】
バッファタンク316は、作動ガスを蓄積する容器である。バッファタンク316は、イナータンスチューブ314を介して流入および流出する作動ガスの圧力振動を吸収する程度の作動ガスを蓄積する。
【0026】
バッファタンク316に蓄積される作動ガスの圧力は、スターリング型パルス管冷凍機100の平均圧力程度に保たれている。ここで「スターリング型パルス管冷凍機100の平均圧力」とは、圧縮機200が生成する作動ガスの圧力振動の平均値であり、例えば2MPa程度としてもよい。
【0027】
以上の構成によるスターリング型パルス管冷凍機100が寒冷を発生させる動作原理は、以下のとおりである。圧縮機200は、蓄冷管304からイナータンスチューブ314までの内部空間に、正弦波的な圧力振動を伴う作動ガスを供給する。圧縮機200から供給された作動ガスはアフタークーラ302で冷却された後に、蓄冷管304内の蓄冷材でさらに冷却される。パルス管310を介してイナータンスチューブ314に到達した作動ガスは、イナータンスチューブ314とバッファタンク316を流れるときに圧力変化と流量変化との間に位相差が生じる。
【0028】
このため、パルス管310の内部でも作動ガスの圧力と流量との間に位相差が生じる。この結果、パルス管310の内部で作動ガスが膨張する。この作動ガスの膨張はパルス管310の低温端におけるPV仕事となり、低温端において寒冷が発生する。冷却された作動ガスは整流器308で整流された後にコールドヘッド306を通過し、コールドヘッド306を冷却する。作動ガスはコールドヘッド306を通過した後に蓄冷管304内の蓄冷材を冷却して圧縮機200に戻る。
【0029】
以上の動作を繰り返すことにより、実施の形態に係るスターリング型パルス管冷凍機100は、およそ77Kの寒冷を発生することができる。
【0030】
次に、蓄冷管304の高温側に設けられた狭窄領域304bについて説明する。
【0031】
上述したように、蓄冷管304とパルス管310とは並列に配置される。ここで、仮に蓄冷管304の内部領域の全てに蓄冷材を充填すると、蓄冷管304内部の流路抵抗が大きくなり、圧力損失が発生するかもしれない。このため、一般に蓄冷管304内において蓄冷材は低温端側の蓄冷材収容領域304aに収容され、高温端側の狭窄領域304bは作動ガスが単に流通する空間となり、いわば蓄冷管304とパルス管310との長さを調整するアダプタとして機能する。狭窄領域304bは作動ガスが単に流通する空間であるため、デッドボリュームとなる。なお、狭窄領域304bは例えばアルミニウムで形成され、蓄冷材収容領域304aに収容された蓄冷材を支持する支持部材として機能してもよい。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態に係るアフタークーラ302および蓄冷管304の接続関係を模式的に示す図であり、狭窄領域304bを拡大して示す図である。
図2に示すように、狭窄領域304bの蓄冷材収容領域304a側の出口には、蓄冷材収容領域304aに向かうほど断面積が大きくなる第1テーパ部322aが設けられている。同様に、狭窄領域304bのアフタークーラ302側の出口は、アフタークーラ302に向かうほど断面積が大きくなる第2テーパ部322bが設けられている。
【0033】
狭窄領域304bは真空容器500に収容されており、真空環境に置かれる。狭窄領域304bは真空断熱されていることから、本願の発明者は、狭窄領域304bにおいて作動ガスが圧縮機200の作用によって断熱圧縮され、作動ガスの温度が上昇することを見出した。作動ガスの温度上昇は蓄冷材の温度上昇につながり、ひいてはスターリング型パルス管冷凍機100の冷凍性能の低下の一因となりうる。以上より、作動ガスの断熱圧縮による発熱を抑制する観点、およびスターリング型パルス管冷凍機100のデッドボリュームを少なくする観点から見ると、狭窄領域304bにおいて作動ガスが流通する領域の体積は小さい方が好ましい。
【0034】
一方、上述したように、実施の形態に係るスターリング型パルス管冷凍機100の冷凍サイクルの周波数は30Hz以上である。これは例えばギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機の冷凍サイクルの周波数と比較すると高い周波数である。このため、作動ガスが流通する領域の体積を小さくするために蓄冷管304の高温端側の流路を狭くすると、流路抵抗が大きくなる。これは、スターリング型パルス管冷凍機100の圧力損失の影響が大きくなる点で好ましくない。
【0035】
このように、蓄冷管304の高温側の領域である狭窄領域304bの体積は、断熱圧縮による発熱およびデッドボリュームの抑制と、圧力損失の抑制とのトレードオフの関係にあることを本願の発明者は見出した。そこで本願の発明者は、蓄冷管304内の狭窄領域304bの流路径を変更し、77Kにおけるスターリング型パルス管冷凍機100の冷凍能力を調べる実験を行った。
【0036】
図3は、蓄冷材収容領域304aの断面積に対する狭窄領域304bの断面積の比を変更して77Kにおけるスターリング型パルス管冷凍機100の冷凍能力を調べた実験結果を表形式で示す図である。本願の発明者は、蓄冷材収容領域304aの断面積に対する狭窄領域304bの断面積の比が4%のとき、スターリング型パルス管冷凍機100の冷凍能力が最大となることを実験により見出した。また、狭窄領域304bの断面積が、蓄冷材収容領域304aの断面積の3%以上かつ7%以下であれば、作動ガスの断熱圧縮による発熱を抑制しつつ、かつ圧力損失による冷凍性能の低下も抑制できる範囲であることも見出した。
【0037】
また本願の発明者は、狭窄領域304bの断面積は、蓄冷材収容領域304aの断面積の10%以下であれば、作動ガスの断熱圧縮による発熱を抑制しつつ、かつ圧力損失による冷凍性能の低下も抑制するための一定の効果があると考察している。
【0038】
以上説明したように、蓄冷管304の高温端側にある狭窄領域304bの断面積を調整することにより、スターリング型パルス管冷凍機100の冷凍能力を向上することができる。
【0039】
上述したように、狭窄領域304bの両端には、それぞれ第1テーパ部322aおよび第2テーパ部322bが設けられている。これにより、狭窄領域304bに流れ込む作動ガスの流路抵抗を低減することができる。また、仮に狭窄領域304bの体積が等しい場合であっても、狭窄領域304bが一本の流路で構成される場合と、複数の細い流路で構成される場合とを比較すると、前者の方が後者よりも流路抵抗が小さくなる。そのため、狭窄領域304bは、一本の直線上の貫通路であることが好ましい。
【0040】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0041】
上記では、スターリング型パルス管冷凍機100として蓄冷管304とパルス管310とが並列に接続されるリターン型のスターリング型パルス管冷凍機を例に説明した。しかしながら、スターリング型パルス管冷凍機100はインライン型である場合には限られない。例えば、蓄冷管304の中にパルス管310が内蔵される、いわゆる同軸リターン型のスターリング型パルス管冷凍機であってもよい。この場合も、蓄冷管304の高温端側に、流路径が狭くなる狭窄領域304bを設ければよい。