(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて本発明に係る実施形態につき、詳細に説明する。以下で説明する形状、材質、数量などは説明のための例示であって、磁気結合リアクトルの仕様により変更が可能である。以下では、同様の構成には同一の符号を付して説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の磁気結合リアクトル10を示す斜視図である。
図2は、
図1のA−A断面図であり、
図3は、
図2のB−B断面図である。
【0013】
磁気結合リアクトル10は、結合コア部材20と、第1コイル60及び第2コイル61とを備える。結合コア部材20は、第1コア21、第2コア31及び2つの中間コア40と、2つずつの第1シート状磁性体50,51及び第2シート状磁性体52,53とを含む。結合コア部材20は、第1コア21、第2コア31、各中間コア40及び各シート状磁性体50,51,52,53を一体的に結合することにより構成される。また、結合コア部材20は、後述する第1コイル通路45及び第2コイル通路46を有する。
【0014】
なお、
図1から
図3では、結合コア部材20の互いに直交する3方向である高さ方向、長さ方向、幅方向をそれぞれH,L,Wで示している。高さ方向Hは、後述する各コイル60,61及び結合コア部材20の軸方向である中心軸O方向と一致する。
【0015】
第1コア21は、ベース部22、中間脚部23、外側端脚部24a、及び第2外側端脚部24bを有する。ベース部22は、高さ方向Hに見た形状が蝶ネクタイ状である板状に形成される。中間脚部23は、ベース部22の高さ方向H一方面(
図1の下面)の長さ方向L中間部から突出する。2つの端脚部24a,24bは、ベース部22の高さ方向H一方面の長さ方向L両端部から突出する。
【0016】
中間脚部23は、中心軸Oを中心とする円柱状に形成される。各端脚部24a、24bは、断面矩形で中間脚部23側の内側面が円弧形に窪んだ曲面状に形成される。中間脚部23の高さH1は各端脚部24a,24bの高さH2よりも大きい。ベース部22の高さ方向H一方面において外側端脚部24aと中間脚部23との間には凹部25aが形成される。ベース部22の高さ方向H一方面(
図2の下側面)において第2外側端脚部24bと中間脚部23との間には第2凹部25bが形成される。2つの凹部25a、25bは、同一の円周上の円弧形に形成される。第2コア31は、ベース部32、中間脚部33、外側端脚部34a、及び第2外側端脚部34bを有し、第1コア21と同様に構成される。ベース部32の高さ方向H他方面(
図2の上側面)には、凹部25a及び第2凹部25bと同様に、凹部35a及び第2凹部35bが形成される。
【0017】
第1コア21及び第2コア31は、結合コア部材20の高さ方向H両端部において、高さ方向Hに対向配置される。第1コア21及び第2コア31は、それぞれの中間脚部23,33及び各端脚部24a,24b,34a,34bが対向するように配置される。後述するように、結合コア部材20の長さ方向L一方側(
図2の左側)の外側端脚部24a,34aで、2つの第1シート状磁性体50,51と中間コア40とを挟んでいる。また、結合コア部材20の長さ方向L他方側(
図2の右側)の第2外側端脚部24b,34bで、2つの第2シート状磁性体52,53と中間コア40とを挟んでいる。また、各コア21,31の中間脚部23,33の先端の間には、高さ方向Hの隙間G1が形成される。第1シート状磁性体50及び第2シート状磁性体52は
図2の上側に配置され、第1シート状磁性体51及び第2シート状磁性体53は
図2の下側に配置される。
【0018】
中間コア40は、2つのシート状磁性体50,51(または52,53)の高さ方向Hの間に配置される。中間コア40は、各コア21,31の端脚部24a,24b,34a,34bと同様の断面形状を有するブロック状に形成される。中間コア40は、内周側を第2コイル61の外周と対向するように切り欠いた直方体状の形状を有している。
【0019】
第1コア21、第2コア31及び各中間コア40は、鉄または鋼などの磁性を有する金属である磁性材により形成される。第1コア21は、磁性粉末と樹脂バインダとの混合材料を加圧成形することにより形成されてもよい。
【0020】
各シート状磁性体50,51,52,53は、鉄または鋼などの磁性材により薄板状のシート状に形成される。各第1シート状磁性体50,51は、コア間結合部54と、後述するコイル間配置部56とを有する。各第2シート状磁性体52,53は、第2コア間結合部55と、後述する第2コイル間配置部57とを有する。
【0021】
第1シート状磁性体50,51の周辺側のコア間結合部54は、長さ方向L一端部の中間コア40を介して第1コア21及び第2コア31の長さ方向Lの一端部で挟み込まれる。第2シート状磁性体52,53の周辺側の第2コア間結合部55は、長さ方向L他端部の中間コア40を介して第1コア21及び第2コア31の長さ方向Lの他端部で挟み込まれる。各コア間結合部54,55は、端脚部24a、24b、34a、34bの断面形状と同じ形状を有する。
【0022】
第1コイル通路45は、結合コア部材20の長さ方向L一方側に配置される。第2コイル通路46は、結合コア部材20の長さ方向L他方側に配置される。第1コイル通路45は、各コア21,31のベース部22,32の対向面側に、中間脚部23,33と外側端脚部24a、34aとの間に形成された凹部25a,35aと、中間コア40の内側面とを含む部分によって形成される。第2コイル通路46は、各コア21,31のベース部22,32の対向面側に、中間脚部23,33と第2外側端脚部24b、34bとの間に形成された第2凹部25b,35bと、中間コア40の内側面とを含む部分によって形成される。各ベース部22,32の対向面側は、内側面側である。これによって、第1シート状磁性体50,51のコア間結合部54は、第1コア21及び第2コア31の長さ方向Lの一端部(
図2の左端部)において挟み込まれる。第1コア21及び第2コア31の長さ方向Lの一端部は、外側端脚部24a、34aと一方(
図2の左方)の中間コア40とによって形成された外側部分である。外側端脚部24a、34aは、各コア21,31で、外側端脚部24a、34a及び中間脚部23,33の一方の脚部である。一方、中間脚部23,33は、他方の脚部である。また、第2シート状磁性体52,53の第2コア間結合部55は、第1コア21及び第2コア31の長さ方向Lの他端部(
図2の右端部)において挟み込まれる。第1コア21及び第2コア31の長さ方向Lの他端部は、第2外側端脚部24b、34bと他方(
図2の右方)の中間コア40とによって形成された第2外側部分である。
【0023】
図3に示すように、各コイル通路45,46は、高さ方向Hに対し直交する方向に切断した状態で、中心軸Oを中心として径方向幅を有する円形の一部となっている。これによって、後述のように各コイル通路45,46に円形のコイル60,61が配置された状態で、コイル通路45,46の壁面とコイル60,61の内外両周縁との間の各隙間G2をコイル通路45,46の長さ方向に沿ってほぼ均一にできる。このため、各コイル60,61に電流が流れることでこの隙間G2に漏れ出る漏れ磁束を調整しやすい。
【0024】
各シート状磁性体50,51,52,53のコイル間配置部56,57は、コア間結合部54,55からコイル通路45(または46)内に延びている。各コイル間配置部56,57は、三角形状または円弧状に形成される。各コイル配置部56,57の先端面は断面円弧の曲面状に形成され、各コア21,31の中間脚部23,33の外周面に密に接触している。これによって、各シート状磁性体50,51,52,53は、中心軸O方向に見た場合に結合コア部材20
において、シート状磁性体50,51,52,53を除く部分と重なる部分にのみ配置される。
【0025】
第1シート状磁性体50,51及び第2シート状磁性体52,53は、2つの中間脚部23,33のうち、1つの中間脚部23(または33)を挟んで、結合コア部材20の長さ方向L中間部で分離される。
【0026】
また、各シート状磁性体50,51,52,53のコイル間配置部56,57は、中心軸O方向に見た場合にコイル通路45,46の両端開口の間を遮断する。また、各コイル間配置部56,57は、各コイル通路45,46の両端開口間の一部のみに配置される。ここで、中心軸Oを中心とする円弧の半径方向において、コイル通路45,46の幅の中央位置でのコイル間配置部56,57の中心軸O周りの円周方向長さがCLと規定される。そして、円周方向長さCLは、コイル通路45,46の幅の中央位置での両端開口間の円周方向長さCaよりも小さい。コイル間配置部56,57は、コイル通路45,46の円周方向長さCa全体にわたって配置され、円周方向長さCLが円周方向長さCaと同じ大きさとなってもよい。
【0027】
第1コイル60及び第2コイル61は、2つのターン部T1,T2を有する。各ターン部T1,T2は、断面矩形で概略円形に形成される。各コイル60,61は、各ターン部T1,T2の円周方向一端が互いに接続されることにより形成される。第1コイル60及び第2コイル61は、軸方向に見て両者が重なった状態で2ターン巻回された構成を有している。各コイル60,61は、各コア21,31の中間脚部23,33の周囲に、各コイル通路45,46を通って巻回される。第1コイル60及び第2コイル61は、互いに巻き方向が同じになるように配置されるが、互いに巻き方向が逆になるように配置されてもよい。
【0028】
また、第1コイル60及び第2コイル61は、中心軸O方向に見た場合にコイル通路45,46内で互いに交互に重なるように重ね巻きされる。各シート状磁性体50,51,52,53のコイル間配置部56,57は、各コイル60,61のターン部T1,T2の間に配置される。各コイル間配置部56,57は、各コイル60,61のターン部T1,T2で挟まれる。なお、各コイル間配置部56,57は、ターン部T1,T2から離れる構成としてもよい。
【0029】
上記の磁気結合リアクトル10は、後述の
図13に示す電力変換装置70に組み込むなどにより、各コイル60,61に逆方向の電流(逆相電流)が流れる状態で用いることも、各コイル60,61に同方向の電流(同相電流)が流れる状態で用いることも、いずれも可能である。磁気結合リアクトル10は、各コイル60,61に逆相電流が流れる場合に、各コイル60,61が結合係数1未満で磁気結合され、等価回路的にトランス及びリアクトルの両方の機能を有する。
【0030】
上記の磁気結合リアクトル10によれば、各コイル60,61が重ね巻きされているので、第1コイル60及び第2コイル61に逆相電流が流れる場合に、ジュール損を低減できる。
【0031】
また、各シート状磁性体50,51,52,53のコア中心から見て外側に位置するコア間結合部54,55が第1コア21及び第2コア31の長さ方向Lの両端部で挟み込まれる。また、コイル間配置部56,57は、コア間結合部54,55からコイル通路45,46に延出され各コイル60,61の間に配置される。このため、各コイル60,61の周囲で生じる漏れ磁束の経路の磁気抵抗をシート状磁性体50,51,52,53によって低くできる。したがって、シート状磁性体50,51,52,53から第1コア21、第2コア31、及び中間コア40に漏れ磁束が流れて、その分、各コイル60,61に鎖交する漏れ磁束を少なくできる。このため、ジュール損をさらに低減できるとともに、磁気結合リアクトル10の結合係数kが極度に高くなることを防止できる。
【0032】
また、本実施形態では、シート状磁性体50,51,52,53が第1コア21及び第2コア31に隙間をあけて非接触で配置される構成の場合に比べて、ジュール損及び結合係数kを低減できる。また、ジュール損低減のために、高価なリッツ線を用いる必要がない。この結果、所望の特性を持つ磁気結合リアクトル10を低コストで実現できる。シート状磁性体50,51,52,53は、いずれか1つ、2つまたは3つのみが設けられてもよい。
【0033】
また、後述のように磁気結合リアクトル10を組み込んだ電力変換装置70において、電圧の変換効率が向上する。また、ジュール損の低減によって、電力変換装置70の動作周波数を容易に高くできる。また、磁気結合リアクトル10の自己インダクタンスの低下を抑制できるとともに、ジュール損低減のために第1コイル60及び第2コイル61の間隔を過度に大きくする必要がない。さらに、特許文献1に記載された構成の場合と異なり、各コイルの軸方向に対し直交する方向に離れた2つのコアに巻回される伸長した巻線を用意する必要がない。このため、磁気結合リアクトル10の体格を小さくできるので、電力変換装置70の小型化を図れる。これによって、電力変換装置70は過度に大型化することがない。
【0034】
次に、重ね巻きによるジュール損の低減効果を説明する。第1コイル60及び第2コイル61に逆相電流が流れる場合には、
図4に示すように、各コイル60,61のターン部T1,T2の周囲に矢印P,Q方向に流れる磁束が発生する。
図4では丸に点を付したものにより
図4の表側に電流が流れることを示しており、丸にXを付したものにより
図4の裏側に電流が流れることを示している。このため、
図4で隣り合うターン部T1,T2で磁束流れが交互に逆方向になる。したがって、各ターン部T1,T2の間で互いに磁束が同方向になることで磁束を強め合うが、その強め合った磁束の磁束密度は過度に大きくならない。
【0035】
図5は、
図4のα部において、結合コア部材20の高さ方向(H方向)の位置と各コイル60,61の周囲に発生する磁束密度との関係を示している。
図5は、
図4でシート状磁性体50,51,52,53を省略した場合の磁束密度を実線m1で示している。
図5のH方向位置におけるα1、α2、α3は、
図4のターン部T1,T2間の点α1、α2、α3の位置に対応する。
図5に示すように、α1、α3で磁束密度は高くなるがその大きさは小さい。
【0036】
図6は、比較例の磁気結合リアクトル10を示している
図4に対応する図である。比較例では、
図4に示した構成において、シート状磁性体を省略している。第1コイル60は、各コイル通路45,46を通じて
図2の上側の中間脚部23の周囲に巻回される。第2コイル61は、各コイル通路45,46を通じて
図2の下側の中間脚部33の周囲に巻回される。これによって、各コイル60,61は重ね巻きでは配置されず、高さ方向H両側に分かれて配置される。
【0037】
図6では、第1コイル60及び第2コイル61に逆相電流が流れる場合に、各第1ターン部T1でPによって示す磁束流れが同方向になり、各第2ターン部T2でQによって示す磁束流れが同方向になる。これによってターン部T1,T2のそれぞれで対向する部分で磁束が相殺される。一方、2つのターン部T1,T2のP方向及びQ方向の磁束はそれぞれR方向及びS方向の大きな磁束となって、それらの磁束が第1コイル60及び第2コイル61の間位置であるα2で強め合う。
【0038】
図5では、
図6の比較例の磁束密度を破線m2で示している。
図5で示す比較例では磁束密度の最大値が実施形態の場合よりも大きくなるので、各コイル60,61に鎖交する磁束が大きくなるおそれがある。これによって、比較例ではジュール損が増大する可能性がある。本実施形態では、各コイル60,61を重ね巻きで配置しているのでこのような不都合を防止でき、ジュール損を低減できる。
【0039】
図7、
図8は、第1コイル60及び第2コイル61が重ね巻きで配置されることによる効果を確認するためのシミュレーション結果を示している。
図7は、第1コイル60及び第2コイル61が重ね巻きでコア65に巻回された磁気結合リアクトル10において、各コイル60,61に逆相電流が流れる場合の磁束分布のシミュレーション結果を示している。
図8は、第1コイル60及び第2コイル61が軸方向両側に分かれて配置された磁気結合リアクトル10において、各コイル60,61に逆相電流が流れる場合の磁束分布のシミュレーション結果を示している。
図7、
図8に示すシミュレーションモデルでは、第1コア21及び第2コア31が軸方向(
図7、
図8の上下方向)に結合されることでコア65が形成される。コア65では、第1コア21に形成された凹部25a、25bと第2コア31に形成された凹部35a、35bとが向き合っている。これにより、コア65の内部には2つの円弧形のコイル通路45,46が形成される。第1コイル60及び第2コイル61はコイル通路45,46を通って、コア65の中間脚部23,33の周囲に巻回される。第1コイル60及び第2コイル61は重ね巻きで配置される。コア65の周囲には空間66が形成される。
図7及び
図8のシミュレーションモデルでは重ね巻きの効果に着目するため、中間コア40及びシート状磁性体50(
図1、
図2)を省略している。
図7、
図8では、中心軸Oを含む平面に関して一方側部分だけを示している。また、
図7、
図8では、磁束密度が最も低い部分を白地で示しており、砂地、斜線部、ほぼ黒地の斜格子部で示す順に磁束密度が高くなっている。黒地で示す部分が最も磁束密度が高い部分である。
図7、
図8ではコア65の外部において、中心部にXを付した丸印と、中心部に点を付した丸印とを示しており、それらの意味は、
図4の場合と同様である。
【0040】
図7に示すように実施形態と同様に各コイル60,61が重ね巻きで配置される場合には、磁束密度が高くなる領域は少ない。一方、
図8に示すように
図6の比較例と同様に、各コイル60,61がコア65の軸方向両側に分かれて配置された場合には、磁束密度が高くなる領域は多い。
図7、
図8のシミュレーション結果から、本実施形態での重ね巻きによる効果を確認できた。
【0041】
また、本実施形態ではシート状磁性体50,51,52,53は、第1シート状磁性体50,51と第2シート状磁性体52,53とに長さ方向Lの両側に分かれて配置される。このため、第1コア21及び第2コア31の間の隙間を通じて長さ方向L両側の2つのシート状磁性体を一体的に結合する必要はない。したがって、各コア21,31間の隙間G1(
図2)を小さくできるので、隙間G1の変更の自由度が高くなる。したがって、所望の特性を有する磁気結合リアクトル10を容易に実現できる。
【0042】
また、シート状磁性体50,51,52,53は、中心軸O方向に見た場合に、結合コア部材20と重なる部分にのみ配置される。そして、シート状磁性体50,51,52,53は、結合コア部材20の外側のジュール損の低減効果の低い部分には配置されない。このため、ジュール損をより効率的に低減できる。
【0043】
さらに、シート状磁性体50,51,52,53は、先端部を中間脚部23の外周面に突き当てて、中心軸O方向に見た場合に各コイル通路45,46の両端開口の間を遮断する。このため、漏れ磁束の多くがシート状磁性体50,51,52,53を通じて第1コア21、中間コア40、第2コア31を流れる。これによって漏れ磁束がコイル通路45,46の空間に大きく膨らむことを抑制できるので、結合係数kをさらに低くできる。
【0044】
また、シート状磁性体50,51,52,53のコイル間配置部56の円周方向長さCLの変化に対する磁気結合リアクトル10の結合係数kの感度は高い。このため、円周方向長さCLの調整によって結合係数kを容易に調整できる。なお、シート状磁性体50,51,52,53の先端部は、中間脚部23の外周面に隙間をあけて対向させることもできる。このようにシート状磁性体50,51,52,53と中間脚部23との間に隙間をあける場合でも、円周方向長さCLの増大によって感度が低くはなるが結合係数kを低下させることはできる。
【0045】
図9から
図11は、各コイル60,61に逆相電流が流れる場合における、各コイル間配置部56,57の円周方向長さCLと各コイル60,61の結合係数k、ジュール損、及び自己インダクタンスの関係をそれぞれ示している。各コイル間配置部56,57の円周方向長さCLは、4つのコイル間配置部56,57で互いに同じとしつつ、同時に変化させている。円周方向長さCL1、CL2、CL3のそれぞれは、
図9から
図11で同じ値である。例えばCL1〜CL3は、円周方向長さCLを中心軸O回りの全周にわたる長さと仮定した場合のほぼ1/100〜3/100程度の大きさである。
図9に示すように、円周方向長さCLを増大させることで結合係数kが0.99近辺の値から0.92近辺の値にまで大きく低下した。一方、
図10に示すようにジュール損については、円周方向長さCLを変化させてもほとんど変化しなかった。また、
図11に示すように自己インダクタンスについては、円周方向長さCLの増大によって自己インダクタンスは徐々に増大するが、その増大の程度はかなり小さい。
【0046】
図12は、
図9及び
図10の関係から求められた結合係数kとジュール損との関係を実線γで示している。
図12から分かるように、結合係数kを変化させてもジュール損の変化はほとんどない。また、
図12では、黒地の三角形で比較例1を示しており、白地の三角形で比較例2を示している。「比較例1」では、
図1から
図3の実施形態と同様の構成で、結合コア部材20の両側に第1コイル60及び第2コイル61が分かれて巻回される。「比較例2」では、実施形態と同様の構成でシート状磁性体が省略されている。比較例1ではジュール損が実施形態に比べて大きく上昇した。また、比較例2ではジュール損を比較例1の場合よりも低くはできたが、結合係数kは高い一定値であった。実施形態では、ジュール損を比較例1よりも低くできるとともに、結合係数kをシート状磁性体50,51,52,53の円周方向長さCLの増大に応じて大きく低下できる。
【0047】
図13は、実施形態の磁気結合リアクトル10が組み込まれる3ポート式の電力変換装置70の回路図を示している。電力変換装置70は、1次回路71と2次回路81とを備える。2次回路81は、1次回路71に対し変圧器90で磁気結合される。
【0048】
1次回路71は、互いに並列に接続される第1アーム72及び第2アーム73と、第1ポート74及び第2ポート75と、磁気結合リアクトル10とを含む。
【0049】
第1アーム72は、互いに直列接続される2つの第1スイッチング素子S1と、各第1スイッチング素子S1に並列接続された第1ダイオードD1とを有する。第2アーム73は、互いに直列接続される2つの第2スイッチング素子S2と、各第2スイッチング素子S2に並列接続された第2ダイオードD2とを有する。
【0050】
第1アーム72及び第2アーム73は、第1正極母線76と負極母線77との間に接続される。各スイッチング素子S1,S2は、MOSFETである。各スイッチング素子S1,S2は、IGBTなどの他のトランジスタとしてもよい。
【0051】
第1ポート74は、第1正極母線76と負極母線77との間に設けられる。第1ポート74は、第1端子U1及び第2端子U2を有する。第2ポート75は、変圧器90を構成する第1変圧コイル91の中間点であるセンタータップ92と、負極母線77との間に設けられる。第2ポート75は、第2端子U2及び第3端子U3を有する。
【0052】
コンデンサC1,C2は、第1正極母線76及び負極母線77の間と、第1変圧コイル91のセンタータップ92及び負極母線77の間とに接続される。
【0053】
磁気結合リアクトル10の第1コイル60の一端は、第1アーム72において2つの第1スイッチング素子S1の間に接続される。第2コイル61の一端は、第2アーム73において2つの第2スイッチング素子S2の間に接続される。
【0054】
変圧器90は、第1変圧コイル91と第2変圧コイル93とを含む。第1変圧コイル91及び第2変圧コイル93は磁気結合される。磁気結合リアクトル10の第1コイル60及び第2コイル61の他端は、第1変圧コイル91の両端に接続される。
【0055】
2次回路81は、互いに並列に接続される第3アーム82及び第4アーム83と、第3ポート84とを含む。第3アーム82及び第4アーム83は、第1アーム72及び第2アーム73とそれぞれ同様に構成される。
【0056】
第3ポート84は、第2正極母線85と第2負極母線86との間に設けられる。第3ポート84は、第4端子U4及び第5端子U5を含む。コンデンサC3は、第2正極母線85と第2負極母線86との間に接続される。
【0057】
変圧器90の第2変圧コイル93の一端は、第3アーム82において2つの第1スイッチング素子S1の間に接続される。第2変圧コイル93の他端は、第4アーム83において2つの第2スイッチング素子S2の間に接続される。
【0058】
また、各アーム72,73,82,83のスイッチング素子S1,S2のスイッチングは図示しない制御装置で制御される。各アーム72,73,82,83において、2つのスイッチング素子S1(またはS2)は、180度位相が異なる状態でスイッチング動作される。
【0059】
制御装置は、入力された外部信号に応じて、複数のモードから1つのモードを選択する。制御装置はモード選択によって、3つのポート74,75,84から入力側ポートと出力側ポートとを決定する。そして、制御装置は、選択されたモードに応じて、各アーム72,73,82,83の間でのスイッチング素子S1,S2の位相差と、各スイッチング素子S1,S2のオン時間との少なくとも一方を変更する。
【0060】
このような電力変換装置70では、選択された2つのポート74,75,84間で双方向の電力伝送が可能となる。また、電力変換装置70では、絶縁型電力変換動作と非絶縁型変圧動作とを同時に実行することができる。また、電力変換装置70では、その実行の動作から非絶縁型変圧動作に切り替えて実行することもできる。
【0061】
絶縁型電力変換動作では、電力変換装置70は、第1ポート74または第2ポート75と、第3ポート84との間で変圧動作を行いながら電力伝送を行う。例えば第1ポート74が入力側となり、第3ポート84が出力側となる。このような変圧動作では、
図14(a)に一点鎖線矢印δ1で示すように、磁気結合リアクトル10の第1コイル60と第2コイル61とで逆方向の電流である逆相電流が流れる場合がある。2次回路81では、第1変圧コイル91に流れる電流によって第2変圧コイル93が励磁され、実線矢印δ2方向に電流が流れる。
【0062】
絶縁型コンバータの設計では、逆相電流に対して働くインダクタンス成分として適度に小さい値のものが必要とされる。第1コイル60及び第2コイル61に逆相電流が流れる場合、
図4で説明したように各コイル60,61が対向する部分の一部のみで磁束が強め合う。一方、各コイル60,61の全体としては周囲で磁束が弱め合う。これによって、電力変換装置70での損失の増加を抑えつつ、漏れインダクタンス成分のみを用いて電力伝送動作が行える。しかしながら、もし結合係数kが極度に高くなる場合には漏れインダクタンス成分が極度に小さくなるので、設計上必要なインダクタンス値が得られなくなる。本実施形態では導体への磁束の鎖交による損失の増加を抑えつつ結合係数kを低くできるので、電力変換装置70は、漏れインダクタンス成分を用いて効率よく電力伝送動作を行える。このため、電力変換装置70において所望の性能を実現できる。
【0063】
なお、非絶縁型変圧動作では、電力変換装置70は、第1ポート74及び第2ポート75の間で変圧動作を行いながら電力伝送を行う。例えば、第2ポート75が入力側となり、第1ポート74が出力側となる。このような変圧動作では、
図14(b)に一点鎖線矢印δ3で示すように、磁気結合リアクトル10の第1コイル60及び第2コイル61で同方向の電流である同相電流が流れる。そして、第1コイル60及び第2コイル61の間で磁束が弱め合い、全体としては周囲で磁束が強め合う。これによって、電力変換装置70は、漏れインダクタンス成分と励磁インダクタンス成分との合計の成分を用いて変圧動作を行える。
【0064】
上記では、磁気結合リアクトル10を3ポート式の電力変換装置70の1次回路71に組み込んで用いる場合を説明したが、磁気結合リアクトル10は2次回路81に組み込んで用いてもよい。2次回路81は1次回路71と同様に形成できる。また、磁気結合リアクトル10は、2ポート式または4ポート式の電力変換装置70に用いられてもよい。
【0065】
図15は、本発明に係る実施形態の磁気結合リアクトル10の別例の第1例を示している
図3に対応する図である。本例の構成では、結合コア部材20は、中心軸O方向に見た場合の形状が矩形状である。また、結合コア部材20には、互いに平行に断面矩形状の第1コイル通路45及び第2コイル通路46が形成される。また、第1コイル60及び第2コイル61は、中心軸O方向に見た場合の形状が矩形状に形成される。各シート状磁性体50,51は、矩形状のコア間結合部54,55からコイル通路45,46に向けて矩形状のコイル間配置部56,57が突出形成される。コイル間配置部56,57は、コイル通路45,46内において第1コイル60及び第2コイル61の間に配置される。
【0066】
本例の構成では、コイル間配置部56,57の幅方向Wの長さWLを変えることで磁気結合リアクトル10の結合係数kを調整することができる。その他の構成及び作用は、
図1から
図4、
図13の構成と同様である。
【0067】
図16は、本発明に係る実施形態の磁気結合リアクトル10の別例の第2例を示している
図4に対応する図(a)と、(a)のC−C断面図(b)である。本例の構成の場合も、
図15の構成と同様に、結合コア部材20、第1コイル60及び第2コイル61の中心軸O方向に見た場合の形状が矩形である。また、結合コア部材20の第1コア21及び第2コア31の中間脚部23,33は、各端脚部24a,24b,34a,34bとそれぞれ同じ長さに形成される。これによって、各中間脚部23,33の先端の間には
図4の構成に比べて高さ方向Hの大きい隙間G1aが形成される。
【0068】
結合コア部材20は、高さ方向Hに離れて配置された2つのシート状磁性体100を含む。各シート状磁性体100は、第1コア間結合部101及び第2コア間結合部102と、第1コイル間配置部103及び第2コイル間配置部104と、中間連結部105とを有する。
【0069】
第1コア間結合部101は、第1コア21及び第2コア31において、外側端脚部24a,34aによって形成された外側部分である長さ方向Lの一端部(
図16の左端部)で挟み込まれる。第2コア間結合部102は、第1コア21及び第2コア31において、第2外側端脚部24b,34bによって形成された第2外側部分である長さ方向Lの他端部(
図16の右端部)で挟み込まれる。第1コイル間配置部103は、第1コア間結合部101から第1コイル通路45内に延びて、第1コイル60及び第2コイル61のターン部T1,T2の中心軸O方向の間に配置される。第2コイル間配置部104は、第2コア間結合部102から第2コイル通路46内に延びて、第1コイル60及び第2コイル61のターン部T1,T2の中心軸O方向の間に配置される。
【0070】
中間連結部105は、第1コイル間配置部103及び第2コイル間配置部104を連結する。中間連結部105は、中間脚部23の断面形状と同じ矩形の断面形状を有する。また、中間連結部105は、第1コア21または第2コア31の中間脚部23,33の先端に重ね合されて、第1コア21及び第2コア31の中間脚部23,33の先端の間の隙間内に配置される。
【0071】
このような本例の構成では、シート状磁性体100の個数を少なくできるので、組み付け時の手間を低減できる。その他の構成及び作用は、
図1から
図4、
図13の構成、または
図15の構成と同様である。
【0072】
なお、上記の各例において、第1コイル60及び第2コイル61は中心軸O方向に見た場合に、完全に同じ形状で重なる必要はない。例えば
図16に示した構成で、第1コイル60及び第2コイル61を中心軸O方向に見た場合に、第1コイル60の幅方向W長さを第2コイル61の幅方向W長さよりも大きくしてもよい。この構成でも、第1コイル60及び第2コイル61は、各コイル通路45,46内で互いに交互に重なるように配置される。また、上記の各例では、結合コア部材20に2つのコイル通路45,46が形成される場合を説明したが、コイル通路は1つのみが形成されてもよい。例えば、
図2の構成において、第1コア21及び第2コア31において、右半部の構成を省略し、
図2の方向に見た結合コア部材の形状が概略矩形となる構成としてもよい。この構成では、各コア21,31の対向面側の両端部に外側端脚部24a、34aと中間脚部23,33とに相当する2つの端脚部がそれぞれ形成される。第2外側端脚部24b、34b及び他方(
図2の右方)の中間コア40に相当する部分は省略される。コイル通路は、第1コア21及び第2コア31において、2つの端脚部の間の凹部25a、35aによって形成される。第1コイル60及び第2コイル61は、中間脚部23,33に巻回される。この構成では、第2シート状磁性体52,53は省略される。このような構成でも、過度に大型化することなく、各コイル60,61に逆相電流が流れる場合に、ジュール損を低減できるとともに、結合係数kが極度に高くなることを防止できる効果を得られる。