特許第6305296号(P6305296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6305296ゲル状食品組成物およびそれを用いたゲル状食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305296
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】ゲル状食品組成物およびそれを用いたゲル状食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 21/10 20160101AFI20180326BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20180326BHJP
【FI】
   A23L21/10
   A23L29/262
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-193394(P2014-193394)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-63757(P2016-63757A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年5月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 賀之
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−536507(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/088072(WO,A1)
【文献】 特開2009−278968(JP,A)
【文献】 特開2013−132286(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/137140(WO,A1)
【文献】 セルロースの事典,株式会社朝倉書店,2000年11月10日,p.93-96
【文献】 セルロース誘導体(加工セルロース),月刊フードケミカル 2009年6月号,第25巻,p.16
【文献】 ゲル化・増粘安定剤の市場動向 Trends in the Market for Hydrocolloids,Stabilizer&Gelling System,食品と開発 6月号,第43巻,p.59-69
【文献】 南口 利一 Riichi Minamiguchi Riichi Minamiguchi,増粘安定剤としての多糖類の香粧品への応用 Application of polysaccharide for personal care products as thickener and stabilizer,フレグランスジャーナル 7月号,第26巻,p.48-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 21/10
A23L 29/262
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】

(A)成分が0.5〜3.0質量%、(B)成分が10〜60質量%、および(C)成分とを含有する咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品組成物。
(A)数平均繊維径が6nm以上10nm以下のセルロース繊維であって、セルロース
分子中の水酸基にカルボキシメチル基が導入されており、置換度が0.10以上0.25以下であり、I型及び/又はII型の結晶構造を有し、アスペクト比が140以上160以下であるセルロース繊維。
(B)食品成分。
(C)水。
【請求項2】
上記(B)成分が、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、およびミネラルからなる
群から選ばれる1種以上である請求項記載の咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゲル状食品組成物を用いてなる咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状食品組成物およびそれを用いたゲル状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
咀嚼・嚥下困難者の栄養摂取方法としては腸管や静脈に直接投与する方法、経口摂取しやすいように惣菜等をきざんで提供する方法が知られている。しかし、直接投与では、食べる楽しみを失うため生活の質(QOL)が低下する、きざみ食はまとまり感がなく、口腔内で残渣が残りやすいことから、かえって摂食が難しい場合もある。そこで近年、咀嚼・嚥下困難者が経口摂取しやすい食品としてゲル状食品が検討されている。例えば、寒天を用いたゲル状食品(特許文献1)、キサンタンガムやグルコマンナン等を混合したゲル化剤(特許文献2)、カルボキシメチルセルロースを用いた食品用保形剤(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−230138号公報
【特許文献2】特開2008−301775号公報
【特許文献3】特開2013−183670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘度が低い水や茶のようなものは、勢い良く咽頭に流れ込んでしまうため誤嚥の危険がある。一方で、グミのようにゲルの強度が高すぎると咀嚼が困難である。したがって、咀嚼・嚥下困難者の食品は、舌の力でつぶせる程度の強度に設定されている必要である。また、べたつきがあると喉への付着や貯留が起こるため嚥下が難しいため、口腔内での付着、べたつきが少ないことが必要である。さらに各成分を混合した際に分離してしまうと各々で流動速度が異なるため、嚥下のタイミングが難しく危険である。したがって、食品成分が分離することなく、均一な食塊として食事者に認識されることが必要である。
【0005】
特許文献1に記載の方法では、寒天を使用しているため、混合から充填までのプロセスを高温で行う必要があるという問題があった。特許文献2に記載の方法によれば、室温でゲル調整可能であるが、口腔内での付着性がある。特許文献3に記載の方法によれば、手で触ったときのべたつき感がなく、食感に優れているものの、カルボキシメチルセルロースが微粒状であるため、分散安定性、咀嚼・嚥下のし易さが不十分であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、舌の力で潰れる程度の適度の強度を有し口腔内での付着・べたつきがないことから咀嚼・嚥下困難者であっても容易に食べることができる、食品の分散安定性にも優れ、均一のまとまった食塊を形成し容易に嚥下可能である、ゲル状食品組成物およびゲル状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のセルロース繊維、食品成分と、水とを使用することで前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】

すなわち、本発明は下記に掲げるに発明に関する。
(1) (A)成分が0.5〜3.0質量%、(B)成分が10〜60質量%、および(C)成分とを含有する咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品組成物。
(A)数平均繊維径が6nm以上10nm以下のセルロース繊維であって、セルロース
分子中の水酸基にカルボキシメチル基が導入されており、置換度が0.10以上0.25以下であり、I型及び/又はII型の結晶構造を有し、アスペクト比が140以上160以下であるセルロース繊維。
(B)食品成分。
(C)水。
) 上記(B)成分が、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、およびミネラルか
らなる群から選ばれる1種以上である()記載の咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品組成物。
) (1)または(2)に記載のゲル状食品組成物を用いてなる咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、舌の力で潰れる程度の適度の強度を有し口腔内での付着・べたつきがないことから咀嚼・嚥下困難者であっても容易に食べることができる、食品の分散安定性にも優れ、均一のまとまった食塊を形成し容易に嚥下可能である、ゲル状食品組成物およびゲル状食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のゲル状食品組成物は、(A)成分と、(B)成分、および(C)成分とを含有する。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロース繊維であって、セルロース分子中の水酸基に置換基が導入されており、置換度が0.01以上0.5以下であり、I型及び/又はII型の結晶構造を有し、アスペクト比が50以上であるセルロース繊維。
(B)食品成分。
(C)水。
【0011】
本発明の(A)セルロース繊維は、数平均繊維径が2nm以上500nm以下であって、セルロース分子中の水酸基に置換基が導入されており、置換度が0.01以上0.5以下である。(A)成分により、ゲル効果が得られる。
【0012】
本発明の(A)セルロース繊維の数平均繊維径は、2nm以上500nm以下であり、好ましくは2nm以上150nm以下である。これらの範囲であれば、セルロース繊維が沈降することなくゲル状となり、また、べたつきや曳糸性を示すことがないので好ましい。
【0013】
本発明において、数平均繊維径の解析は、例えば、次のようにして行うことができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1質量%のセルロース繊維の水分散体を調製し、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、本発明外の大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径のデータにより、数平均繊維径を算出する。
【0014】
本発明の(A)セルロース繊維におけるセルロース分子中の水酸基に導入される置換基としては、セルロース分子中の水酸基との間にエーテル結合が生じる置換基であれば特に限定されない。例えば、カルボキシメチル基、メチル基、エチル基、シアノエチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、エチルヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピルメチル基等があげられる。これらのうち、カルボキシメチル基が好ましい。
【0015】
本発明の(A)セルロース繊維における置換度は、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値をいう。置換度は0.01以上0.5以下であり、好ましくは0.01以上0.25以下である。これらの範囲であれば、セルロース繊維の解繊が十分であり、増粘性、分散安定性が良好で曳糸性やべたつきもないため、好ましい。
【0016】
本発明の(A)セルロース繊維は、I型及び/又II型の結晶構造を有する。結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、セルロースI型またはII型に典型的なX線回折パターン(I型:回折角2θ=12.1°、19.8°、22.0°、II型:回折角2θ=12.1°、19.8°、22.0°)をもつことから確認できる。
【0017】
本発明の(A)セルロース繊維は、アスペクト比が50以上である。より好ましくは100以上である。アスペクト比が50未満の場合、ゲル状組成物がゲル状の性状を保持することが困難となる不具合が生じる。
【0018】
上記セルロースのアスペクト比は、以下の方法で測定することが出来る、すなわち、セルロースを親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、セルロースの短幅の方の数平均幅、および長幅の方の数平均幅を観察した。すなわち、各先に述べた方法に従い、短幅の方の数平均幅、および長幅の方の数平均幅を算出し、これらの値を用いてアスペクト比を下記の式に従い算出した。
アスペクト比=長幅の方の数平均幅(nm)/短幅の方の数平均幅(nm)
【0019】
本発明の(A)セルロース繊維を得るためには、下記に例示するセルロースを公知の方法を用いてアニオン変性させることが必要である。その一例として次のような製造方法をあげることができる。セルロースを原料とし、溶媒に質量で3〜20倍の低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の単独、又は2種以上の混合物と水の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。マーセル化剤としては、セルロースのグルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。セルロースと溶媒、マーセル化剤を混合してマーセル化処理を行う。このときの反応温度は0〜70℃、好ましくは10〜60℃であり、反応時間は15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間である。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加してエーテル化反応を行う。このときの反応温度は30〜90℃、好ましくは40〜80℃であり、反応時間は30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間である。
【0020】
本発明のセルロース原料は、特に限定されないが、例えば、晒又は未晒木材パルプ、精製リンター、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロースや、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等、何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸された再生セルロース、及び上記セルロース系素材の加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等によって解重合処理した微細セルロース又は機械的に処理した微細セルロースが例示される。
【0021】
本発明のセルロース繊維は、特に限定されないが、例えば、アニオン変性したセルロースを高圧ホモジナイザー等によって解繊処理することで得ることができる。高圧ホモジナイザーとは、ポンプによって流体に加圧し、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させる装置である。粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化・分散・解繊・粉砕・超微細化を行うことができる。
【0022】
本発明のホモジナイザーによる処理条件としては、特に限定されるものではないが、圧力条件としては、30MPa以上、好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、アニオン変性されたセルロースに予備処理を施すことも可能である。
【0023】
本発明のゲル状食品組成物における上記特定のセルロース繊維(A成分)の含有量(固形分質量)は、セルロース繊維固形分として、ゲル状食品組成物全体の0.1〜5.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜3.0質量%の範囲である。これらの範囲であれば、ゲル状を示しつつ、かつ咀嚼・嚥下が容易なゲル状食品組成物を得ることができる。
【0024】
本発明の食品成分(B成分)としては、食品として用いられるものであれば特に限定されない。これらのうち、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、およびミネラルからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0025】
<炭水化物>
上記炭水化物としては、特に限定されないが、例えば、糖質、食物繊維などがあげられる。糖質としては、特に限定されないが、例えば、ショ糖、ブドウ糖、果糖、澱粉、澱粉分解物、乳糖、マルトースなどの糖類があげられる。食物繊維としては、特に限定されないが、例えば、難消化性デキストリン、イヌリン、ポリデキストロース、セルロースなどの糖類があげられる。これらは1種または2種以上使用することができる。
【0026】
<脂質>
上記脂質としては、特に限定されないが、例えば、食用油脂などがあげられる。食用油脂としては、特に限定されないが、例えば、コーン油、大豆油、ナタネ油、ヤシ油、ひまわり油、オリーブ油、牛脂、豚脂、MCT、エステル交換油などがあげられる。これらは1種または2種以上使用することができる。
【0027】
<タンパク質>
上記タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、乳タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質などがあげられる。乳タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、脱脂粉乳、全粉乳、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、乳清タンパクなどがあげられる。動物性タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、ゼラチンや卵蛋白などがあげられる。植物性タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、大豆タンパクなどがあげられる。これらは1種または2種以上使用することができる。
【0028】
<ビタミン>
上記ビタミンとしては、特に限定されないが、例えば、ビタミンA、B1、B2、B6、B12、C、D、E、K、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンなどがあげられる。これらは1種または2種以上使用することができる。
【0029】
<ミネラル>
上記ミネラルとしては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などがあげられる。これらは1種または2種以上使用することができる。さらに微量元素として、亜鉛、銅、マンガン、セレン、ヨウ素、クロム、モリブデンなどを組み合わせて使用することもできる。
【0030】
本発明のゲル状食品組成物における、食品成分(B成分)の含有量は、ゲル状食品組成物全体の1〜80質量%の範囲が好ましく、より好ましくは5〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%の範囲である。これらの範囲であれば、食品の分散安定性、ゲル状食品を食べる者に負担がかからないことから好ましい。
【0031】
本発明のゲル状食品組成物は、水(C成分)を含有する。本発明のゲル状食品組成物においては、上記A、B成分の含有量を除いた残量が、水(C成分)の含有量となる。
【0032】
本発明のゲル状食品組成物は、上記のようにして得られたセルロース繊維(A成分)の水分散体に、食品成分(B成分)と、水(C成分)を適宜に混合し、分散することにより調製することができる。
【0033】
上記混合・分散処理には、特に限定されないが、例えば、真空乳化装置、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー、湿式粉砕機、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ビーズミル、サンドミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等を用いることができる。なお、上記混合・分散装置の種類や操作条件を選択することにより、任意の添加剤の物理化学的性質に応じた、所望の性状のゲル状食品組成物を調製することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明について詳細に説明するが、本発明はもちろんこれらに限定されるものではない。なお、濃度は特に断らない限り質量%である。
【0035】
〔製造例1〕
撹拌機に、パルプ(LBKP、日本製紙(株)製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で18g加え、パルプ固形分濃度が15%になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後に70℃まで昇温し、モノクロロ酢酸ナトリウムを23g(有効成分換算)添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりの置換度0.01のアニオン変性されたセルロースを得た。その後、アニオン変性したパルプに水を添加して固形分濃度5%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、140MPaの圧力で5回処理し、数平均繊維径74nm、アスペクト比67で、結晶構造を有するセルロース繊維1の分散液を得た。
【0036】
〔製造例2〕
水酸化ナトリウムを176g、モノクロロ酢酸ナトリウムを234g(有効成分換算)に変更した以外、製造例1と同様にしてセルロース繊維2の分散液を得た。なお、得られたセルロース繊維のグルコース単位当たりの置換度は0.10であり、数平均繊維径は10nm、アスペクト比140で、結晶構造を有していた。
【0037】
〔製造例3〕
水酸化ナトリウムを308g、モノクロロ酢酸ナトリウムを410g(有効成分換算)に変更した以外、製造例1と同様にしてセルロース繊維3の分散液を得た。なお、得られたセルロース繊維のグルコース単位当たりの置換度は0.25であり、数平均繊維径は6nm、アスペクト比160で、結晶構造を有していた。
【0038】
〔製造例4〕
水酸化ナトリウムを9g、モノクロロ酢酸ナトリウムを12g(有効成分換算)に変更した以外、製造例1と同様にしてセルロース繊維4の分散液を得た。なお、得られたセルロース繊維のグルコース単位当たりの置換度は0.005であり、数平均繊維径は620nm、アスペクト比18で、結晶構造を有していた。
【0039】
〔製造例5〕
水酸化ナトリウムを476g、モノクロロ酢酸ナトリウムを632g(有効成分換算)に変更した以外、製造例1と同様にしてセルロース繊維5の分散液を得た。なお、得られたセルロースのグルコース単位当たりの置換度は0.6であり、数平均繊維径は測定できず、結晶構造はみられなかった。
【0040】
〔製造例6〕
水酸化ナトリウムを308g、モノクロロ酢酸ナトリウムを410g(有効成分換算)、高圧ホモジナイザーによる処理を20回に変更した以外、製造例1と同様にしてセルロース繊維6の分散液を得た。なお、得られたセルロース繊維のグルコース単位当たりの置換度は0.25であり、数平均繊維径は測定できず、結晶構造はみられなかった。
【0041】
〔製造例7〕
撹拌機に、パルプ(LBKP、日本製紙(株)製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で308g加え、パルプ固形分濃度が15%になるように水を加えた。その後、70℃で9時間攪拌した後に、モノクロロ酢酸ナトリウムを410g(有効成分換算)添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりの置換度0.28のアニオン変性されたセルロースを得た。その後、アニオン変性したパルプに水を添加して固形分濃度5%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、140MPaの圧力で5回処理し、セルロース繊維7の分散液を得た。数平均繊維径は測定できず、結晶構造はみられなかった。
【0042】
〔CMC1,2〕
製造例2、3と同様にカルボキシメチル化反応を行い、反応終了後に、中和、脱液、乾燥、粉砕して調製した。セルロースのグルコース単位当たりの置換度はCMC1が0.1、CMC2が、0.25であった。
【0043】
<グルコース単位当たりの置換度の測定方法>
セルロース繊維を0.6質量%スラリーに調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量からカルボキシル基量を測定し、下式を用いて算出した。ここで言う置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値を表している。
カルボキシメチル置換度=(162×C)/(1−58×C)
C:カルボキシル基量(mol/g)
【0044】
<数平均繊維径の測定方法>
セルロース繊維に水を加えて2質量%のスラリーとして、ディスパー型ミキサーを用いて回転数8,000rpmで10分間微細化処理を行った。各セルロース繊維の最大繊維径および数平均繊維径を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM−1400)を用いて観察した。すなわち、各セルロース繊維を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、数平均繊維径を算出した。
【0045】
<結晶構造の確認方法>
X線回折装置(リガク社製、RINT−Ultima3)を用いて広角X線回折像を測定し、各セルロース繊維の回折プロファイルにセルロースI型またはII型に典型的なX線回折パターン(I型:回折角2θ=12.1°、19.8°、22.0°、II型:回折角2θ=12.1°、19.8°、22.0°)がみられる場合は結晶構造を有すると判断した。
【0046】
<アスペクト比の測定方法>
セルロースを親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、セルロースの短幅の方の数平均幅、長幅の方の数平均幅を観察した。すなわち、各先に述べた方法に従い、短幅の方の数平均幅、および長幅の方の数平均幅を算出し、これらの値を用いてアスペクト比を前述の式に従い算出した。
【0047】
〔実施例1−3、比較例1−7〕
つぎに、上記で得たセルロース繊維の水分散液を用いて、表1に示す各成分を同表に示す割合で配合した。なお、セルロース繊維は、セルロース繊維の水分散液中のセルロース繊維の量であり、残部の水添加に際しては、セルロース繊維水分散液中の水の量を考慮した。つぎに、この配合物をホモミキサーで攪拌し、容器に充填、85℃で30分間の加熱殺菌した後、水冷することで、ゲル状食品を得た。
【0048】
このようにして得られた各組成物を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。これらの結果を、表1に併せて示した。
【0049】
<分散安定性>
ゲル状食品を目視で観察し、以下の判定基準に従って判定した。
○:均一である
×:分離している
【0050】
硬さ、べたつきについては、社内パネラー10人(男性5人、女性5人)による官能試験を行った。ゲル状食品を口に含み、歯を使わずに舌でつぶしたときの感覚について回答させ、以下の基準で評価した。なお、比較例1については離水してしまったため、比較例2−4については流動性を有していたため官能試験を行わなかった。
【0051】
<硬さ>
舌でゲルをつぶした際の感覚について、「つぶしやすい」、「ややつぶしにくい」、「つぶしにくい」のいずれかで回答させ、つぶしやすいと答えた人の人数で評価した。
○:8人以上
△:5〜7人
×:4人以下
【0052】
<べたつき>
ゲルを口に含んだ際の感覚について、「べたつかない」、「ややべたつく」、「べたつく」のいずれかで回答させ、べたつかないと答えた人の人数で評価した。
○:8人以上
△:5〜7人
×:4人以下
【0053】
【表1】
【0054】
上記表1の結果から明らかなように、本発明のゲル状食品組成物を使用した実施例は、分散安定性、硬さ、べたつきがいずれも良好であることが分かる。一方、置換度が本発明の範囲外の比較例1―4、解繊を施していない比較例5,6、他の材料を使用した比較例7は、これらの特性を両立できない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のゲル状食品組成物は、ゲル状食品に用いることができる。特に、咀嚼・嚥下困難者用のゲル状食品に好ましく用いられる。