特許第6305332号(P6305332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305332
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】多重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180326BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20180326BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20180326BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180326BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180326BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180326BHJP
   C12N 5/04 20060101ALI20180326BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180326BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20180326BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12P21/08ZNA
   C07K16/46
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/04
   C12N5/10
   C07K16/28
   A61K39/395 V
   A61K39/395 Y
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-518059(P2014-518059)
(86)(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公表番号】特表2014-522644(P2014-522644A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】IB2012053482
(87)【国際公開番号】WO2013005194
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】11305872.1
(32)【優先日】2011年7月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】514003164
【氏名又は名称】アジエンダ オスペダリエラ パパ ジョヴァンニ トゥエンティサード
【氏名又は名称原語表記】AZIENDA OSPEDALIERA PAPA GIOVANNI XXIII
(73)【特許権者】
【識別番号】514003175
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド ローザンヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LAUSANNE
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】カドーシュ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】マシー,ジャン−ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ミシュラン,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ズーテ,ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】イバシュキエビツ,ユスチナ
(72)【発明者】
【氏名】チェルッティ,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ショブレ,シルヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ゴレー,ジョセ
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/155513(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/145895(WO,A1)
【文献】 特表平09−506001(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00826696(EP,A1)
【文献】 特表2009−541275(JP,A)
【文献】 特表2012−530089(JP,A)
【文献】 特表2011−508604(JP,A)
【文献】 特表2011−526382(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/117329(WO,A1)
【文献】 Acta Pharmacologica Sinica,2005年,Vol.26, No.6,p.649-658
【文献】 Journal of Molecular Biology,2006年,Vol.361,p.687-697
【文献】 Immunotechnology,1997年,Vol.3,p.83-105
【文献】 FEBS Letters,1998年,Vol.422,p.259-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C07K 16/18
C07K 16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるCH1及びCLドメインを有する少なくとも2つのFabフラグメントを含んでなり、該Fabフラグメントが下記:
− 免疫グロブリンの野生型CH1及びCLドメインと興味対象のエピトープを認識する抗体のVH及びVLドメインとからなる野生型Fabフラグメント;
− 下記:
* 興味対象のエピトープを認識する抗体のVH及びVLドメイン;
* 免疫グロブリンのCH1ドメインから、該CH1ドメインの192位スレオニン残基をグルタミン酸残基で置換することにより得られるCH1ドメイン;及び
* 免疫グロブリンのCL-κドメインから、該CL-κドメインの137位アスパラギン残基をリジン残基で置換し、該CL-κドメインの114位セリン残基をアラニン残基で置換することにより得られるCL-κドメイン
からなる変異Fabフラグメント(a);
− 下記:
* 興味対象のエピトープを認識する抗体のVH及びVLドメイン;
* 免疫グロブリンのCH1ドメインから、該CH1ドメインの143位ロイシン残基をグルタミン残基で置換し、該CH1ドメインの188位セリン残基をバリン残基で置換することにより得られるCH1ドメイン;及び
* 免疫グロブリンのCL-κドメインから、該CL-κドメインの133位バリン残基をスレオニン残基で置換し、該CL-κドメインの176位セリン残基をバリン残基で置換することにより得られるCL-κドメイン
からなる変異Fabフラグメント(b)
ら選択され、ここで、前記Fabフラグメントの少なくとも1つは変異Fabフラグメント(a)〜(b)であり、各Fabフラグメントが異なる興味対象のエピトープを認識し、該Fabフラグメントは縦列に任意の順序で配列され、第1のFabフラグメントのCH1ドメインのC末端部は後続のFabフラグメントのVHドメインのN末端部にポリペプチドリンカーを介して連結されている、多重特異性の抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
ポリペプチドリンカーが少なくとも20アミノ酸の長さを有する請求項1に記載の多重特異性の抗原結合性フラグメント。
【請求項3】
ポリペプチドリンカーが、IgA、IgG及びIgDから選択される1又はそれより多い免疫グロブリンのヒンジ領域の配列の全部又は一部を含んでなる、請求項1に記載の多重特異性の抗原結合性フラグメント。
【請求項4】
ポリペプチドリンカーが下記の配列:
EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSTPPTPSPSGG
を有する請求項1に記載の多重特異性の抗原結合性フラグメント。
【請求項5】
各々が請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗原結合性フラグメントからなる2つの同一の抗原結合性アームを有する多重特異性抗体。
【請求項6】
− 各々が請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗原結合性フラグメントからなる2つの同一の抗原結合性アーム
− 免疫グロブリンの二量体化CH2及びCH3ドメイン;
− 抗原結合性アームのCH1ドメインのC末端部をCH2ドメインのN末端部に連結する、IgA、IgG又はIgDのヒンジ領域
を含んでなる免疫グロブリン様構造を有する請求項5に記載の多重特異性抗体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗原結合性フラグメントの重鎖又は請求項5若しくは6に記載の多重特異性抗体の重鎖をコードする配列を含んでなるポリヌクレオチドと、第1の軽鎖が前記重鎖の第1のVH/CH1領域と特異的に対合し、第2の軽鎖が該重鎖の第2のVH/CH1領域と特異的に対合し、該軽鎖の少なくとも一方は請求項1に規定される変異Fabフラグメントの軽鎖である2つの異なる軽鎖をコードする配列を含んでなる少なくとも2つのポリヌクレオチドとのセット。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗原結合性フラグメントの重鎖又は請求項5若しくは6に記載の多重特異性抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドと、第1の軽鎖が前記重鎖の第1のVH/CH1領域と特異的に対合し、第2の軽鎖が該重鎖の第2のVH/CH1領域と特異的に対合し、該軽鎖の少なくとも一方は請求項1に規定される変異Fabフラグメントの軽鎖である2つの異なる軽鎖をコードする少なくとも2つのポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞。
【請求項9】
第1及び第2の軽鎖とは異なり、前記重鎖の第3のVH/CH1領域と特異的に結合する第3の軽鎖をコードする第3のポリヌクレオチドで追加的に形質転換されている請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の宿主細胞を培養し、該培養物から抗原結合性フラグメント又は抗体を回収することを含んでなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗原結合性フラグメント又は請求項5若しくは6に記載の多重特異性抗体を製造する方法。
【請求項11】
医薬として使用するための請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗原結合性フラグメント又は請求項5若しくは6に記載の多重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重特異性、特に二重特異性抗体分子の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質-ベースの薬剤の中でも、モノクローナル抗体(mAb)は特別な特徴を有し、薬剤及び標的化送達システムの両方として作用する。Mabは、近年、種々の疾患(具体的には幾つかのタイプのガンを含む)の治療で大きな潜在能力が示されている(モノクローナル抗体は従来の化学療法より遥かに特異的である)。
天然に存在する抗体分子の基本構造は、非共有結合的相互作用及び鎖間ジスルフィド結合により一緒に保持される2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖からなるY字状の四量体四次構造である。
【0003】
哺乳動物種では、5つのタイプの重鎖:α、δ、ε、γ及びμが存在し、これらが免疫グロブリンのクラス(アイソタイプ)を決定する:それぞれ、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM。重鎖N末端可変ドメイン(VH)の後に、定常領域が続き、これは重鎖γ、α及びδにおいては3つのドメイン(N末端からC末端へ、CH1、CH2及びCH3と番号付けられる)を含有する一方、重鎖μ及びεの定常領域は、4つのドメイン(N末端からC末端へ、CH1、CH2、CH3及びCH4と番号付けられる)から構成される。IgA、IgG及びIgDのCH1及びCH2ドメインは可撓性ヒンジにより分離されており、可撓性ヒンジは異なるクラス間で、IgA及びIgGの場合には異なるサブタイプ間で、長さが異なる:IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4はそれぞれ15、12、62(又は77)及び12アミノ酸のヒンジを有し、IgAl及びIgA2はそれぞれ20及び7アミノ酸のヒンジを有する。
2つのタイプの軽鎖λ及びκが存在し、これらは、いずれの重鎖アイソタイプとも結合できるが、所与の抗体分子中では軽鎖は同じタイプのものである。両軽鎖は、機能的に同一であるようである。N末端可変ドメイン(VL)の後に、CLと呼ばれる単一ドメインからなる定常領域が続く。
【0004】
重鎖及び軽鎖は、CH1及びCLドメイン同士間のタンパク質/タンパク質相互作用により対合し、2つの重鎖はCH3ドメイン同士間のタンパク質/タンパク質相互作用により会合している。免疫グロブリン分子の構造は、一般に、CH1及びCLドメイン同士間及びヒンジ同士間の鎖間ジスルフィド結合により安定化している。
治療用抗体の臨床効力は、それぞれ免疫グロブリン分子の異なる部分に関連する抗原結合機能及びエフェクター機能の両方に依拠する。
抗原結合性領域は、各々が重鎖のVH及びCH1ドメインと対合した完全な軽鎖からなり、Fabフラグメント(Fragment antigen bindingの略)と呼ばれる、Y字構造のアームに相当する。Fabフラグメントは、最初は、天然型免疫グロブリン分子からパパイン消化により作製された。パパイン消化は、抗体分子をヒンジ領域において鎖間ジスルフィド結合のアミノ末端側で切断し、よって2つの同一の抗原結合性アームを遊離する。他のプロテアーゼ(例えばペプシン)もまた抗体分子をヒンジ領域において切断するが、鎖間ジスルフィド結合のカルボキシ末端側で切断して、2つの同一のFabフラグメントからなり、ジスルフィド結合により連結されたままであるフラグメントを遊離する;F(ab')2フラグメントのジスルフィド結合を還元することによりFab'フラグメントが生じる。
【0005】
抗原結合領域のVH及びVLドメインに相当する部分は、Fvフラグメント(Fragment variableの略)と呼ばれる;Fvフラグメントは、抗原結合部位(パラトープとも呼ばれる)を形成するCDR(相補性決定領域)を含有する。抗原結合性領域は、当該抗体をその標的へ特異的に方向付けることを可能にするほか、標的抗原への結合に際して、種々の生物学的シグナルを誘導し得る。シグナルは、標的付けられた抗原及び抗体により認識される該抗原上のエピトープの両方に依存してポジティブ又はネガティブであり得る。ガン治療の分野における使用には、一般に、腫瘍細胞の細胞分裂停止(cytostasis)又は死を生じる増殖阻害性又はアポトーシス促進性のシグナルを送達する抗体が好ましい(VERMAら,J Immunol, 186, 3265-76;2011)。
抗体のエフェクター機能は、エフェクター分子(例えば、補体タンパク質)との又は免疫細胞(例えばマクロファージ又はナチュラルキラー(NK)細胞)の表面のFcレセプターとの結合により生じる。エフェクター機能は、種々の効果を生じ、標的付けられた抗原のファゴサイトーシス又は溶解、例えば、抗体依存性ファゴサイトーシス(ADP)、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)又は補体依存性細胞媒介細胞傷害性(CDC)に導く。
【0006】
エフェクター分子又は細胞への結合を担う抗体のエフェクター領域は、Y字構造の基部に相当し、重鎖の対合したCH2及びCH3ドメイン(又は抗体のクラスに依存して、CH2、CH3及びCH4ドメイン)を含有し、Fc(Fragment crystallisableの略)領域と呼ばれる。
Fc領域により媒介されるADCC、ADP及びCDCは、mAbの治療活性において主要部を演じている。臨床的に成功している2つの主要なmAbである抗HER2及び抗CD20のヒト腫瘍異種移植片に対する治療作用が、Fcγレセプターを遺伝的に欠損しているヌードマウスでほとんど全く無くなることが証明されている(CLYNESら,Nat Med, 6, 443-6, 2000)ので、ADCC機構が中心のようである。ADP機構もまた、ヒト腫瘍の幾つかのマウスモデルで中心的に重要であることが示されており(UCHIDAら,J. Exp. Med.199:1659-69, 2004)、CDCもまた、インビボでの抗CD20の治療活性において基本的役割を演じていることが証明されている(DI GAETANOら,J Immunol, 171, 1581-7, 2003)。
【0007】
2つの重鎖及び2つの軽鎖の同一性に起因して、天然に存在する抗体分子は、2つの同一の抗原結合部位を有し、よって同時に2つの同一のエピトープに結合する。
1980年代に、同じ分子上に、2つの異なるエピトープを認識する2つの抗原結合部位を有し、したがって同時に2つの異なる標的に結合し得る二重特異性抗体が、別個の特異性を有する抗体を産生する2つの細胞を融合することにより創り出された(MILSTEIN及びCUELLO, Nature, 305, 537-40, 1983)。この二重特異性抗体は、エフェクターT細胞を腫瘍細胞に標的付けることが可能であることが示されている(STAERZら,Nature, 314, 628-31, 1985)。
二重特異性抗体について広範な応用が記載されており(SONGSIVILAI及びLACHMANN, Clin Exp Immunol, 79, 315-21, 1990)、そのような応用としては、例えば、治療分野におけるエフェクター細胞(細胞傷害性T細胞、NK細胞及びマクロファージ)又はエフェクター分子(毒素、薬剤、プロドラッグ、サイトカイン、ラジオアイソトープ及び補体系)の標的化や診断分野における免疫アッセイでの試薬としての使用が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
当初は、二重特異性抗体は、化学的接合又は2つの異なるMabを産生する2つのハイブリドーマ細胞株同士間の融合から生じるクアドローマの使用により製造されていた。しかし、化学接合は、抗原結合部位を変化させ、当該抗体の生物学的性質を害する場合がある。クアドローマアプローチは、2つの異なる抗体からの重鎖及び軽鎖のランダム対合が、理論的には、等しく可能性のある10の組合せを導く結果として免疫グロブリン分子の混合物を生じ、そのうちの1つだけが所望の二重特異性産物であり、それを誤対合産物から分離しなければならないという欠点がある。
より最近、遺伝子工学が、二重特異性抗体の製造法の選択肢となり、種々の異なる組換え二重特異性抗体形式の開発に至った。これら二重特異性抗体の幾つかは、非常に単純であり、2つ(又はそれ以上)の異なる抗体からの、適切なペプチドリンカーを介して結合した単鎖Fv(scFv)フラグメントから取得される。これら抗体は製造が比較的容易であり、単一ポリペプチド鎖により形成され、親抗体のFv領域のみを含有しているので、鎖間の誤対合の問題がない。しかし、それら抗体は、完全長免疫グロブリンより小さく、定常領域、特にFc領域を欠いている。このような抗体は、幾つかの適用(例えばFc媒介効果を回避したい場合)で有利であり得るが、Fc媒介エフェクター機能(例えば、CDC、ADCC又はADP)を所望する場合には不利である。また、このような抗体は、小さなサイズ及びFc領域の欠失に起因して、インビボで非常に短い半減期を有する。
【0009】
したがって、天然に存在する免疫グロブリン分子をより厳密に模倣し、特に完全なFc領域を有する他の組換え二重特異性抗体形式が設計された。それらは、2つの主要な形式に分類することができる。
第1のもの(IgG scFv)では、抗体AからのscFvフラグメントが抗体Bの重鎖の端部(一般にはC末端部)に融合される。得られる抗体は、抗体BのVH、CH1、CH2及びCH3ドメイン並びに抗体AのVH及びVLドメインを含有する1つのタイプの重鎖並びに抗体BのVL及びCLドメインを含有する1つのタイプの軽鎖のみを有し、鎖間の誤対合はおこらない。このような形式は例えばQUら(Blood, 111, 2211-9, 2008)により記載されている。
【0010】
第2のものでは、抗体Aからの重鎖及び軽鎖を抗体Bの重鎖及び軽鎖と対合させる。この形式は、クアドローマにより産生される二重特異性抗体を再現し、したがって誤対合という類似の問題を生じる。重鎖の誤対合の問題を解決するため、抗体のCH3ドメインを変異させてヘテロ二量体化(すなわち、重鎖Aと重鎖Bとの対合)を優先させ、ホモ二量体化を防止することが提案されている。これはいわゆる「ノブ・インツー・ホール(knob into hole)」アプローチ(RIDGWAYら,Protein Eng, 9, 617-21, 1996;米国特許第7695936号)により行われた。小さなアミノ酸をより大きなアミノ酸で置換することから本質的になる「ノブ(knob)」変異を抗体Aの重鎖のCH3二量体界面で導入した結果として、ホモ二量体化を妨げる立体障害を生じる。同時に、ヘテロ二量体化を促進するため、大きなアミノ酸をより小さなアミノ酸で置換することから本質的になる相補的な「ホール(hole)」変異を抗体BのCH3ドメインに導入する。重鎖/軽鎖誤対合の問題を解決するため、scFvファージライブラリ(MERCHANTら,Nat Biotechnol, 16, 677-81, 1998;米国特許第7183076号)から以前に同定された、共通の軽鎖を有するが、異なる特異性を有する抗体の使用が提案されている。このアプローチの欠点は、共通の軽鎖を有する抗体の同定が困難であることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、今や、CH1及びCLドメインの界面で幾つかの鍵となる残基を変異させることによって、重鎖/軽鎖の誤対合の防止が可能となり、所望する鎖のマッチングを確実にできることを見出した。
より具体的には、本発明者らはこの目的に適切な幾つかの変異セットを見出した。第1のものでは、界面の相互作用性極性残基の対を中性塩橋形成性残基の対に変異させる。CH1鎖でのThr192のGluへの置換及びCL鎖でのAsn137のLysへの交換が選択された。これら2つの変異された残基は塩橋(会合の特異性を強化すると推定される)を形成する一方、望まない対合は野生型鎖と変異型鎖との間の立体構造及び電荷の相補性欠如により回避されるはずである。加えて、より大きなリジン側鎖との立体的衝突を回避するため、CL鎖でSer114をAlaへ置換する。
【0012】
第2の変異セットでは、本発明者らは、CH1ドメインのLeu143をGln残基で置き換えつつ、CL鎖の対向する残基(すなわちVal133)をThr残基で置き換えることを選択した。この第1の二重変異は、疎水性相互作用から極性相互作用への切替えを構成する。同時に、2つの相互作用性セリン(CH1鎖のSer188及びCL鎖のSer176)のバリン残基への変異を、極性相互作用から疎水性相互作用への切替えを行うために選択した。界面相互作用の極性的性質/疎水性的性質の変換は、変異したCL及びCH1ドメイン間の親和性を不変のままに維持する一方、他の野生型の対応物に対するそれぞれの親和性を減少させることで、ミスマッチの(変異型/野生型)鎖の複合体化に際して起こる不利な相互作用によって誤対合を防止すると予想される。相互作用性の無極性残基の対を極性アミノ酸の対に交換する一方、相互作用性の極性残基の対を同時に疎水性残基の対に交換する。
【0013】
第3及び第4の変異セットは「ノブ・インツー・ホール」変異である。より具体的には、第3の変異セット(KH1)では、CH1ドメインのLeu124及びLeu143を、それぞれAla及びGlu残基で置き換える一方、CL鎖のVal133をTrp残基で置き換える。第4の変異セット(KH2)では、CH1ドメインのVal190をAla残基で置き換え、CL鎖のLeu135及びAsn137をそれぞれTrp及びAla残基で置き換える。
本明細書中でCH1及びCLドメインについて使用する配列位置番号は、カバットの番号付け(Kabat, E.A.ら,Sequences of proteins of immunological interest. 5th Edition - US Department of Health and Human Services, NIH publication n°91-3242, pp 662,680,689, 1991)を参照する。
【0014】
したがって、本発明の1つの目的は、
a)* 興味対象の抗体のVH及びVLドメイン;
* 免疫グロブリンのCH1ドメインから、該CH1ドメインの192位スレオニン残基をグルタミン酸残基で置換することにより得られるCH1ドメイン;及び
* 免疫グロブリンのCLドメインから、該CLドメインの137位アスパラギン残基をリジン残基で置換し、該CLドメインの114位セリン残基をアラニン残基で置換することにより得られるCLドメイン;
からなるFabフラグメント
b)* 興味対象の抗体のVH及びVLドメイン;
* 免疫グロブリンのCH1ドメインから、該CH1ドメインの143位ロイシン残基をグルタミン残基で置換し、該CH1ドメインの188位セリン残基をバリン残基で置換することにより得られるCH1ドメイン;及び
* 免疫グロブリンのCLドメインから、該CLドメインの133位バリン残基をスレオニン残基で置換し、該CLドメインの176位セリン残基をバリン残基で置換することにより得られるCLドメイン
からなるFabフラグメント;
c)* 興味対象の抗体のVH及びVLドメイン;
* IgG免疫グロブリンのCH1ドメインから、該CH1ドメインの124位ロイシン残基をアラニン残基で置換し、該CH1ドメインの143位ロイシン残基をグルタミン酸残基で置換することにより得られるCH1ドメイン;
* IgG免疫グロブリンのCLドメインから、該CLドメインの133位バリン残基をトリプトファン残基で置換することにより得られるCLドメイン
からなるFabフラグメント;
d)* 興味対象の抗体のVH及びVLドメイン;
* 免疫グロブリンのCH1ドメインから、該CH1ドメインの190位バリン残基をアラニン残基で置換することにより得られるCH1ドメイン;及び
* 免疫グロブリンのCLドメインから、該CLドメインの135位ロイシン残基をトリプトファン残基で置換し、該CLドメインの137位アスパラギン残基をアラニン残基で置換することにより得られるCLドメイン;
からなるFabフラグメント
から選択される変異Fabフラグメントである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1
【発明を実施するための形態】
【0016】
1つの好適な実施形態によれば、CH1ドメインは、IgG免疫グロブリン、有利にはIgG1サブタイプのIgG免疫グロブリンに由来する。CLドメインは好ましくはκタイプである。ヒト治療における使用については、好ましくは、変異CH1及びCLドメインが由来する免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンである。
VH及びVLドメインは、標的することが望まれるエピトープを認識する任意の抗体(天然型又は遺伝子操作型)に由来し得る。
本発明の変異Fabフラグメントは、重鎖/軽鎖の誤対合防止を必要とする任意の多重特異性抗体構築物において使用することができる。
有利には、本発明の変異Fabフラグメントは、縦列配置され適切なリンカーで分離されたFabフラグメントから各々が本質的になる1以上の多重特異性抗原結合性フラグメントを含んでなる、本発明者らが設計した新たな多重特異性抗体構築物で使用される。
「抗原結合性フラグメント」は、本明細書では、異なるエピトープを各々が認識する2以上の抗原結合性領域を有する分子として定義する。異なるエピトープは、同じ抗原性分子が有することも、異なる抗原性分子が有することもできる。
【0017】
したがって、本発明の別の1つの目的は、下記:
− 免疫グロブリンの野生型CH1及びCLドメインを含んでなるFabフラグメント(本明細書では、「野生型Fabフラグメント」とも定義される)
− 上記の変異Fabフラグメント(a);
− 上記の変異Fabフラグメント(b);
− 上記の変異Fabフラグメント(c);
− 上記の変異Fabフラグメント(d);
から選択される少なくとも2つ(5つまで)の異なるFabフラグメントを含んでなり、
各Fabフラグメントが異なる興味対象のエピトープを認識し、該Fabフラグメントは任意の順序で縦列配置され、第1のFabフラグメントのCH1ドメインのC末端部は、後続のFabフラグメントのVHドメインのN末端部にポリペプチドリンカーを介して連結されている、多重特異性の抗原結合性フラグメントである。一般には、ポリペプチドリンカーは、少なくとも20アミノ酸、好ましくは少なくとも25アミノ酸、なお更に好ましくは少なくとも30アミノ酸で、80アミノ酸まで、好ましくは60アミノ酸まで、なお好ましくは40アミノ酸までの長さを有するべきである。
【0018】
有利には、前記ポリペプチドリンカーは、IgA、IgG及びIgDから選択される1以上の免疫グロブリンのヒンジ領域の配列の全て又は一部を含んでなる。抗体がヒト治療で使用されるべき場合には、ヒト起源のヒンジ配列が好ましい。
ヒトIgG、IgA及びIgDのヒンジ領域の配列を下記に示す:
IgA1(配列番号1):
VPSTPPTPSPSTPPTPSPS
IgA2(配列番号2):
VPPPPP
IgD(配列番号3):
ESPKAQASSVPTAQPQAEGSLAKATTAPATTRNTGRGGEEKKKEKEKEEQEERETKTP
IgG1(配列番号4):
EPKSCDKTHTCPPCP
IgG2(配列番号5):
ERKCCVECPPCP
IgG3:
ELKTPLGDTTHTCPRCP(配列番号6)に続く、EPKSCDTPPPCPRCP(配列番号7)の0又は1〜4の繰返し
IgG4:
ESKYGPPCPSCP(配列番号8)
【0019】
前記ポリペプチドリンカーは、唯1つの免疫グロブリンのヒンジ領域の配列の全て又は一部を含んでなり得る。この場合、前記免疫グロブリンは、隣接CH1ドメインが由来する免疫グロブリンと同じアイソタイプ及びサブクラスに属していてもよいし、異なるアイソタイプ又はサブクラスに属していてもよい。
或いは、前記ポリペプチドリンカーは、異なるアイソタイプ又はサブクラスの少なくとも2つの免疫グロブリンのヒンジ領域の配列の全て又は一部を含んでなり得る。この場合、(CH1ドメインの直後に続く)ポリペプチドリンカーのN末端部分は、好ましくは、該CH1ドメインが由来する免疫グロブリンと同じアイソタイプ及びサブクラスに属する免疫グロブリンのヒンジ領域の全て又は一部からなる。
【0020】
任意に、前記ポリペプチドリンカーは、免疫グロブリンのCH2ドメインのN末端の2〜15アミノ酸、好ましくは5〜10アミノ酸の配列を更に含んでなり得る。
幾つかの場合では、天然型ヒンジ領域からの配列を使用することができる;他の場合では、これら配列に点変異、具体的には、望まない鎖内又は鎖間ジスルフィド結合を回避するための、天然型IgG1、IgG2又はIgG3ヒンジ配列中の1以上のシステイン残基のアラニン又はセリンでの置き換えを行うことができる。
本発明の多重特異性の抗原結合性フラグメントで使用することができるポリペプチドリンカーの非限定例は、以下の配列:EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号9)を有するポリペプチドである。前記ポリペプチドは、ヒトIgG1ヒンジ(配列番号4)の完全長配列と、その後に続くヒトIgG1 CH2のN末端9アミノ酸(APELLGGPS、配列番号10)、ヒトIgA1ヒンジ配列の一部(TPPTPSPS、配列番号11)及びジペプチドGG(該リンカーに追加の可撓性を付与するために追加された)からなる。
【0021】
任意に、ヒトIgG1 CH2ドメインのN末端配列のより短い一部分を使用することもできる。また、ヒトIgA1ヒンジの(完全長配列(好ましくは、−N末端バリン残基)までの)より長い一部分も使用することができる。1つの特定の実施形態によれば、前記ヒトIgA1ヒンジ配列は、スレオニン、セリン及びプロリン残基の変更を含む人工配列で置き換えることができる。
例えば、配列番号9のポリペプチドの変異型(これも本発明の多重特異性の抗原結合性フラグメントでの使用に適切である)は、以下の配列:EPKSCDKTHTCPPCPAPELLPSTPPSPSTPGG(配列番号12)を有するポリペプチドである。このポリペプチドでは、ヒトIgG1ヒンジの完全長配列の後に、ヒトIgG1 CH2のN末端の5アミノ酸(APELL、配列番号13)及び配列PSTPPSPSTP(配列番号14)が続いている。
2より多い異なるFabフラグメントを含んでなる本発明の多重特異性の抗原結合性フラグメントの場合、該Fabフラグメントを分離するポリペプチドリンカーは同一であることも、異なることもできる。
【0022】
本発明の多重特異性抗体の好適な実施形態によれば、該抗体は、各々が上記の多重特異性の抗原結合性フラグメントからなる2つの同一の抗原結合性アームを有する。抗原結合性アームは、抗体の意図する使用に依存して、多様な方法で連結することができる。
Fc媒介効果を有さない抗体を取得しようとする場合、抗体はFc領域を含まない。この場合、2つの抗原結合性アームは、例えば、下記により連結することができる:
− Fabフラグメントを分離するポリペプチドリンカーがシステイン残基を含有する場合、当該リンカーによりもたらされる鎖間ジスルフィド結合による抗原結合性アームのホモ二量体化;及び/又は
− 各抗原結合性アームのC末端部での、システイン残基を含有するポリペプチド延長の付加(鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にする)、及び前記ポリペプチド延長のホモ二量体化(ヒンジ様構造を生じる);非限定的例として、前記ポリペプチド延長は例えばIgG1、IgG2又はIgG3のヒンジ配列であり得る;
− 2つの抗原結合性アームの重鎖のC末端部を結合して単一ポリペプチド鎖を形成し、抗原結合性アームを十分な相互間距離で維持する半剛性リンカー。
【0023】
或いは、エフェクター機能(例えば、CDC、ADCC又はADP)を所望する場合、本発明の多重特異性抗体は、これらエフェクター機能を提供するFcドメインを更に含んでなる。Fcドメインの選択は、所望するエフェクター機能のタイプに依存する。
この場合、本発明の多重特異性抗体は、下記:
− 2つの同一の上記多重特異性抗原結合性アーム;
− 免疫グロブリンの二量体化CH2及びCH3ドメイン;
− 抗原結合性アームのCH1ドメインのC末端部をCH2ドメインのN末端部に連結するIgA、IgG又はIgDのヒンジ領域、或いはCH3ドメインに続くIgM又はIgEのCH4ドメイン(この場合、抗原結合性アームのCH1ドメインのC末端部はCH2ドメインのN末端部に直接連結される)のいずれか。
を含んでなる免疫グロブリン様構造を有する。
【0024】
好ましくは、CH2及びCH3ドメインとヒンジ領域又はCH4ドメインのいずれかとは、同じ免疫グロブリンに由来するか、又は抗原結合性アームのCH1ドメインと同じアイソタイプ及びサブクラスの免疫グロブリンに由来する。
天然型免疫グロブリンに由来するCH2、CH3及びCH4ドメイン並びにヒンジ領域を使用することができる。それらは、所望の場合、例えば抗体のエフェクター機能を変調させるために、変異させることも可能である。幾つかの場合では、CH2又はCH3ドメインの全部又は一部を削除することができる。
本発明はまた、下記:
− 本発明の変異Fabフラグメントの軽鎖;
− 本発明の変異Fabフラグメントの重鎖;
− 本発明の抗原結合性フラグメントの重鎖;
− 本発明の免疫グロブリン様多重特異性抗体の重鎖
から選択される任意のタンパク質鎖を包含する。
【0025】
本発明の別の1つの目的は、本発明のタンパク質鎖をコードする配列を含んでなるポリヌクレオチドである。前記ポリヌクレオチドはまた、追加の配列を含んでなり得る:具体的には、ポリヌクレオチドは、有利には、前記タンパク質鎖の分泌を可能にするリーダー配列又はシグナルペプチドをコードする配列を含んでなり得る。
本発明はまた、選択した宿主細胞で活性である転写及び翻訳制御エレメントと結合した本発明のポリヌクレオチドを含んでなる組換えベクター、具体的には発現ベクターを包含する。本発明に従う発現ベクターを構築するために使用することができるベクターは、それ自体公知であり、特には使用が意図される宿主細胞に応じて、選択される。
【0026】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞を包含する。好ましくは、前記宿主細胞は、本発明の抗原結合性フラグメント又は多重特異性抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチド及び2つの異なる軽鎖をコードする2つのポリヌクレオチドで形質転換されている:ここで、第1の軽鎖は、前記重鎖の第1のVH/CH1領域と特異的に対合し、第2の軽鎖は、前記重鎖の第2のVH/CH1領域と特異的に対合し、前記軽鎖の少なくとも一方は、請求項1の変異Fabフラグメントの軽鎖である。任意に、前記宿主細胞は、追加的に、前記重鎖の第3のVH/CH1領域と特異的に対合し、第1及び第2の軽鎖とは異なる第3の軽鎖をコードする第3のポリヌクレオチドで形質転換されていてもよく、更には前記重鎖の第4のVH/CH1領域と特異的に対合し、第1、第2及び第3の軽鎖とは異なる第4の軽鎖をコードする第4のポリヌクレオチドで形質転換されていてもよく、場合により前記重鎖の第5のVH/CH1領域と特異的に対合し、第1、第2、第3及び第4の軽鎖とは異なる第5の軽鎖をコードする第5のポリヌクレオチドで形質転換されていてもよい。
【0027】
前記ポリヌクレオチドは、同じ発現ベクター中又は別個の発現ベクター中に挿入することができる。
本発明に関して使用することができる宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であり得る。使用することができる真核細胞として、特に、植物細胞、酵母(例えばSaccharomyces)の細胞、昆虫細胞(例えば、Drosophila又はSpodoptera細胞)及び哺乳動物細胞(例えば、HeLa、CHO、3T3、C127、BHK、COS細胞)などを挙げることができる。
本発明の発現ベクターの構築及び宿主細胞の形質転換は、分子生物学の従来技法により行うことができる。
【0028】
本発明の更に別の1つの目的は、本発明の抗原結合性フラグメント又は抗体を製造する方法である。前記方法は、本発明の宿主細胞を培養し、該培養物から前記抗原結合性フラグメント又は抗体を回収することを含んでなる。
タンパク質は、宿主細胞により分泌される場合、培養培地から直接回収することができる;分泌されない場合、事前に細胞溶解を行う。その後、抗体は、培養培地又は細胞溶解物から、それ自体当業者に公知の従来手法により、例えば分画沈降(具体的には硫酸アンモニウムを用いる沈降)、電気泳動、ゲルろ過、アフィニティークロマトグラフィーなどにより精製することができる。
【0029】
本発明の多重特異性抗体は、多重特異性抗体の適用の全てで使用することができる。具体的には、本発明の多重特異性抗体は、広範な治療適用において有用な医薬を得るために使用することができる。これら医薬品もまた本発明の目的の一部である。
具体的には、本発明の多重特異性抗体は、免疫療法での種々の疾患の治療に使用することができる。ここで、免疫療法には、例えば、悪性病状、血液学的腫瘍、固形腫瘍又は自己免疫疾患、炎症、移植片拒絶、移植のための受動免疫療法;自己免疫疾患又は炎症の間の異なる細胞集団(具体的には免疫細胞)間の相互作用を変調させることによる、能動免疫療法;免疫細胞と多重特異性抗体とを組み合わせる、養子免疫療法;選択した細胞内区画への中和抗体の内在化が含まれる。
【0030】
非限定例としては:
− 標的細胞が発現する異なる抗原を指向する本発明の多重特異性抗体は、アポトーシスによる死、ダウンレギュレーション又は逆に活性化を誘導するために使用し得る;
− 標的及びエフェクター細胞に発現する抗原を指向する本発明の多重特異性抗体は、2つのタイプの細胞を橋架けして、例えば、エフェクター細胞による標的細胞の殺傷を誘導するために使用し得る;
− 異なる可溶の循環性因子を同時に除去又は遮断のため、例えば、ガン治療の過程におけるVEGF及びPDGFの同時除去、又は免疫療法の活性を阻害する異なる分子(例えば、CTLA4、プログラム細胞死1(PD1)又はTIM3又はBTLA)の同時の除去(又は遮断)のための、異なる可溶の循環性因子を指向する多重特異性抗体、或いは抗炎症療法の分野における異なる炎症性サイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子(TNF)及びインターロイキン1β(IL1-β))を指向する多重特異性抗体の使用
本発明は、本発明に従う組換え二重特異性抗体の製造及びその性質の非限定的例について言及する以下の更なる説明からより明確に理解できよう。
【実施例】
【0031】
実施例1:抗CD5/抗HLA-DR二重特異性抗体の設計
変異体Fabフラグメントの設計
二重特異性抗体の構築に選択する抗体は、共にPCT WO 2010/145895に記載された抗CD5抗体及び抗HLA-DR抗体である。
天然型形態では、これら抗体は、κ軽鎖を有するそれぞれIgG2a及びIgG1アイソタイプのマウスモノクローナル抗体(mAb)であった。両mAbは、重鎖の定常ドメインがヒトIgG1サブクラスであり、軽鎖の定常部分がκタイプである一方、両鎖の可変ドメインがマウス起源のままであるキメラマウス/ヒトmAbに事前に変換した。
抗CD5抗体のCH1及びCL鎖の選択した部位に2つの異なる相補変異セットを提供し、抗HLA-DR抗体は天然型形態のままであった。
抗CD5抗体中の変異部位は、CL/CH1結合に重要であるように選択する一方、正確なフォールディングに関与する最も重要な残基は保存した。
【0032】
「荷電残基」及び「疎水性-極性-スワップ」と呼ばれる以下のアプローチを使用した。
「荷電残基」アプローチでは、一対の相互作用する極性界面残基を、一対の中性で塩橋形成性の残基と交換した。塩橋の導入は、会合の特異性を高めると仮定した。一方、望ましくない対合は、野生型鎖と変異型鎖との間の立体構造上の相補性及び電荷相補性の欠如により回避すべきである。計算機上での広範な試験の後、CH1鎖でのThr192のGluによる置き換え、及びCL鎖でのAsn137のLysへの交換を選択した。これら2つの変異後の残基は塩橋を形成する。追加的に、より大きなリジン側鎖との立体衝突を回避するため、CL鎖でSer114をAlaへ置換した。得られる変異体を、以下で、「CR3変異体」と呼ぶ。
【0033】
「疎水性-極性-スワップ」アプローチについて、改変した定常ドメインは四重変異(各鎖での二重変異)を導入することにより得た。この改変は、IgG CH1/CL界面での2つの残基-残基相互作用の性質を入れ替える。一対の相互作用する無極性残基を一対の極性アミノ酸に交換しつつ、同時に、一対の相互作用する極性残基を一対の疎水性残基に交換する。界面相互作用のこの極性/疎水性の交換は、変異CLドメインと変異CH1ドメインとの間の親和性を変化させないまま維持しつつ、他の野生型の対応物に関するそれぞれの親和性を減少させ、よってミスマッチの(変異型/野生型)鎖の複合体化に際して生じる好ましくない相互作用により誤対合を防止すると仮定した。
可能性のある多くの変異を計算機上で試験した後、本発明者らは、CH1ドメインのLeu143をGln残基で置き換えつつ、CL鎖の対向する残基(すなわち、Val133)をThr残基で置き換えることを選択した。この第1の二重変異は、疎水性相互作用から極性相互作用への切替を構成する。同時に、2つの相互作用性セリン(CH1鎖のSer188及びCL鎖のSer176)のバリン残基への変異を選択して、極性相互作用から疎水性相互作用への切替を行った。得られる変異体を、以下で、「mut4変異体」と指称する。
【0034】
選択した変異を下記の表Iにまとめる:
【表1】
【0035】
他の変異は、「ノブ・インツー・ホール」アプローチ(RIDGWAYら,Protein Eng, 9, 617-21, 1996)を用いて行った。
これら変異を下記の表IIにまとめる:
【表2】
【0036】
変異した複合体の結合自由エネルギーを、MM-GBSA法を用いて評価した。同時に、誤対合複合体モデルを作製し、その相互作用エネルギーを同じ方法で算出した。選択した改変について、改変CL鎖と改変CH1鎖との間の複合体は、野生型複合体と同程度に安定であると見積もった一方、誤対合の複合体中で有意に好ましくない相互作用を観察した。
【0037】
ポリペプチドリンカーの設計
抗HLADR抗体のCH1領域のC末端を変異体抗CD5抗体のVH領域のN末端に連結するポリペプチドリンカーを設計した。
このポリペプチドリンカーは、完全長IgG1ヒンジ領域に続く、ヒトIgG1 CH2のN末端9アミノ酸、ヒトIgA1ヒンジの配列の一部及びジペプチドGGを含んでなる。このリンカーは以下の配列:EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号9)を有する。
【0038】
実施例2:抗HLADR(MAB1)及び抗CD5(MAB2)二重特異性抗体を発現する組換えバキュロウイルスの構築
バキュロウイルス/昆虫細胞発現系を用いて二重特異性抗体を発現させて製造した。
この製造には、リンカー(例えば(本発明者らの現行の構築物中では)ヒトIgA1の天然ヒンジに由来するペプチド+GGで延長された低級ヒンジを含んでなるリンカー)で分離され、mAb2の完全長重鎖に融合したmAb1のVH/CH1/ヒンジドメインを含んでなる改変重鎖の合成が必要であった。
2つの異なる軽鎖(一方は第1の抗体に特異的であり、他方は第2の抗体に特異的である)は、独立して合成する。これは、上記のように、異なるCL及びCH1ドメインに導入した相反変異(reciprocal mutations)の結果として、該当する重鎖と対合する。
【0039】
(第1のものは融合重鎖及び唯1つの軽鎖を発現し、第2のものは融合重鎖及び第2の軽鎖を発現する)2つの異なるバキュロウイルスを構築してこの混合物に昆虫細胞を同時感染させることは容易である。しかし、このアプローチはより長く、各パートナーの化学量論を制御することは非常に困難である。そこで、本発明者らは、融合重鎖及び2つの軽鎖を発現する唯1つの組換えウイルスを構築することを決定した。
これには、前記バキュロウイルスに、CLドメイン用の2つの同一配列及び重鎖のCH1-ヒンジ(CH1+Hg)ドメイン用の2つの同一配列を導入することが必要であった。この同一性が、ゲノムの再構築及び遺伝情報の喪失を導く相同組換えを引き起こし得る。
この現象を回避するため、本発明者らは、唯1つの野生型コーディング配列を導入し、第2のものは合成とした(全てのコドンの改変)。後者では、DNA配列は当初のものとは異なるが、野生型のものと同一(100%)のタンパク質をコードする。
【0040】
2.1 融合重鎖をコードするcDNAの構築
抗HLADR Fab+リンカー
配列番号9のポリペプチドリンカーに融合した抗HLADR抗体のCH1ドメインをコードする合成遺伝子を、合成重複オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成を用いて構築した。
pUCプラスミドでのクローニング及び配列の検証の後、この合成遺伝子を、野生型配列の代わりに、プラスミドpOCγ1KCH1SII/リンカーA1PstI/VH抗HLADR中、抗HLADR VHドメインをコードする配列と上記実施例1に記載した延長ペプチドをコードする配列との間に導入した。得られるプラスミドをpOCγ1KCH1εリンカーA1/VHと名付けた。
【0041】
変異抗CD5 Fab:
重鎖と軽鎖との間での正しい対合を保証するため、変異CR3、mut4、(KH1又はKH2)を、抗CD5 Fab成分のCH1ドメインに導入した。プラスミドpUCCγ1mutT192E(すなわち、CR3変異体用)を、NheI/BstXIで消化し、変異配列を有するフラグメントを精製し、NheI/BstXIで消化したpUCKPSCγ1/VHCD5に挿入して、pUCKPSCγ1/VHCD5-CR3を得た。
同様にして、pUCKPSCγ1/VHCD5-mut4、(pUCKPSCγ1/VHCD5-KH1及びpUCKPSCγ1/VHCD5-KH2)を構築した。
【0042】
完全長融合重鎖:
完全長の融合重鎖をコードするcDNAを構築して、それぞれpVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5/CR3、pVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5/mut4、(pVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5/KH1、pVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5/KH2)を得た。
得られる移入ベクターをそれぞれpVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5/CR3及びpVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5/mut4、(pVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5/KH1及びpVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5/KH2)と呼ぶ。
【0043】
2.2 軽鎖をコードするcDNAの構築
新たな移入ベクターの構築
完全に機能的な二重特異性抗体の製造には、(i)上記の融合重鎖及び(ii)2つの軽鎖(変異(CR3、mut4、KH1又はKH2)を有し抗CD5に特異的な軽鎖及び抗HLADR(Mab1)の軽鎖)の同時発現が必要である。これには、古典的なポリヘドリン及びp10遺伝子座の他に、第3のコーディング配列鎖をバキュロウイルスゲノムに挿入するための第3の遺伝子座の選択が必要である。バキュロウイルス複製に必須でなく、したがって外来遺伝子の挿入を可能にする「gp37」(CHENGら,J. Gen. Virol., 82, 299-305, 2001)と呼ばれる遺伝子座を選択した。
独特なXbaIクローニング部位をgp37配列に隣接した合成P10プロモーターの制御下に含有する新たな移入ベクター(pVTgp37)を構築した。
【0044】
合成CLドメインの構築
重鎖CH1ドメインの再構成について記載したように、合成CLドメインを、重複合成オリゴヌクレオチドを用いて合成した。2つのサブフラグメントCKFr1及びCKFr2を作製した。
pUCプラスミドでのおけるクローニング及び配列の検証の後、CKFr1及びCKFr2を、Cκドメインをコードする野生型配列の代わりに、プラスミドpUCK/VL抗HLADRに導入した。

gp37移入ベクターへの軽鎖の導入
合成定常ドメインCκを含有する軽鎖をコードする再構成配列を、XbaIでの消化後に単離し、移入ベクターpVTgp37中、独特なXbaI部位で導入して、最終構築物pVTgp37P10S1CKεVL抗HLADRを得た。
【0045】
2.3 組換えウイルスの構築
二重特異性抗体を発現する組換えウイルスの構築には、2つの工程が必要である:(i)Mab 1たる抗HLADRの軽鎖のみを発現する第1のバキュロウイルスの構築;及び(ii)二重特異性抗体たる抗CD5/抗HLADRを発現するウイルスの構築。

抗HLADRを発現する組換えウイルスの構築
この目的のため、Sf9細胞を、pVTgp37P10S1CKεVL/抗HLADR及びgp37遺伝子座でgp37プロモーターの制御下にポリヘドリン遺伝子を発現する改変バキュロウイルスから抽出したDNAで同時トランスフェクトした。
「ポリヘドリン陰性」表現型を示す組換えウイルスを単離し、4つの組換えウイルスのゲノムを、合成κ cDNAをプローブとして用いるサザンブロットにより検証した。BacLC/抗HLADRと呼ぶ1つの組換えウイルスを選択した。
【0046】
二重特異性抗体を発現する組換えウイルスの構築
Sf9細胞を、融合重鎖pVT抗HLADR/リンカーA1/抗CD5(CR3、mut4、KH1又はKH2)をコードするcDNAを有する移入ベクター及びMab2軽鎖をコードするcDNAを有する移入ベクターpVTVLIICD5CkmutCR3、pVTVLIICD5Ckmut4、(pVTVLIICD5CkKH1又はpVTVLIICD5CkKH2)で、BacLC/抗HLADRから抽出したウイルスDNAの存在下に同時トランスフェクトした。生産クローンをELISAによりスクリーニングした。組換えウイルスのゲノムは、ヒト定常γ1及び定常κ領域をそれぞれコードするcDNAをプローブとして用いるサザンブロットにより検証した。選択した2つのクローン(抗CD5/抗HLADR(CR3)についてクローンC683及び抗CD5/抗HLADR(mut4)についてクローンC977)を抗体の産生に使用した。
【0047】
2.4 組換え抗体の製造及び精製
Sf9細胞を、600,000細胞/mlの密度でローラーボトル中400mlの無血清培地に播種し、クローンC683又はクローンC977のいずれかに2PFU/細胞の感染多重度で感染させた。28℃にて4日間のインキュベーション後、上清を回収し、分泌された組換え抗体をプロテインAセファロース(GE, HealthCare)で精製した。精製した二重特異性抗体の濃度は、BCAアッセイを製造業者たるPIERCEが推奨するように用い、ウシIgG(ref Standard PIERCE 23209)を標準として測定した。
【0048】
最終的な二重特異性抗体の構造を図1に示す。
図1の説明:Mab1:抗HLA-DR Fab;Mab2:抗CD5変異体Fab;リンカー:ポリペプチドリンカー;ヒンジ:ヒトIgG1ヒンジ;Fc:ヒトIgG1 Fc領域。IgG1ヒンジからの2つのシステイン残基の存在により、2つの抗原結合性アームは、2つの鎖間ジスルフィド橋架けを介して接続している。
精製した抗CD5/抗HLADR変異体抗体の分子量をSuperose 6で評価した。プロテインAセファロースで精製した分子の90%以上が、Superose 6で約299kDaの推定分子量を示した。よって、この分子量は、図1の組換え二重特異性抗体についての理論上の分子量260kDa(グリカン類なしで算出したMW)と相関する。
【0049】
これら抗体を、還元又は非還元条件下でのSDS-PAGEにより更に分析した。結果を図2に示す。
図2の説明:(A)還元条件で分析したサンプル;(B)非還元条件で分析したサンプル;BS:二重特異性抗体;Mab:コントロールのIgG1組換え抗HLADR。
このゲルで見積もられた二重特異性抗体の重鎖サイズは、図1の抗体の融合重鎖の計算された分子量78 000 Daに対応した。
これら分析は、本明細書に記載した方法が2つの融合重鎖と2組の軽鎖との結合により1つの分子を形成することを示している。
【0050】
実施例3:抗CD5/抗HLADR(CR3)の機能的特性
結合性部位の機能性
二重特異性抗体が2つの異なる抗体結合部位により結合できることを示すことが重要であった。この目的のため、本発明者らは、フローサイトメトリによりCD5又はHLADRのいずれかを発現する細胞への結合について試験した。簡潔には、研究対象の全ての抗体に、Zenon R-フィコエリトリンヒト(又はマウス)IgG標識キットを用いてフィコエリトリン(PE)を結合させた。次いで、細胞株を、PE標識した抗CD5、抗HLADR、CR3二重特異性抗体又は無関係なコントロールのマウス若しくはヒトIgG1抗体と共にインキュベートし、洗浄した後、フローサイトメトリで分析した。
【0051】
CD5+/HLADR- Jurkat細胞株及びCD5-/HLA-DR+ JOK1細胞株への結合の結果をそれぞれ図3及び4に示す。
図3の説明:Jurkat細胞株(CD5+/HLADR-)を、PE標識したマウス抗CD5(抗CD5m)、マウス抗HLADR(抗HLADRm)、二重特異性抗CD5/抗HLADR CR3キメラ抗体又はコントロールのヒト若しくはマウスIgG1抗体(それぞれhIgG1及びmIgG1)(全てPE標識)で染色した。次いで、細胞を標準のフローサイトメトリで分析した。各抗体について重ね書きしたヒストグラムを示す。各抗体について括弧内に平均蛍光強度値(MFI)を示す。1.mIgG-PE 1μg(MFI=2.6);2.抗CD5m-PE 1μg(MFI=17);3.抗HLADRm-PE 1μg(MFI=2.5);4.hIgG1-PE 1μg(MFI=3.9);5.抗CD5/抗HLADR/chi-PE CR3 1μg(MFI=103)。
【0052】
図4の説明:JOK1細胞株(CD5-/HLADR+)を、PE標識マウス抗CD5(抗CD5m)、マウス抗HLADR(抗HLADRm)、二重特異性抗CD5/抗HLADR CR3キメラ抗体又はコントロールのヒト若しくはマウスIgG1抗体(それぞれmIgG1及びhIgG1)(全てPE標識)で染色した。次いで、細胞を標準のフローサイトメトリで分析した。各抗体について重ね書きしたヒストグラムを示す。各抗体について括弧内に平均蛍光強度値(MFI)を示す。1.mIgG1-PE 1μg(MFI=25);2.(斜線付き)抗CD5m-PE 1μg(MFI=18);3.抗HLADRm-PE 1μg(MFI=432);4.hIgG1-PE 1μg(MFI=3);5.抗CD5/抗HLADR/chi-PE CR3 1μg(MFI=3521)。
【0053】
図3は、予想通り、マウス抗CD5及び二重特異性CR3が共にCD5+ Jurkat細胞株に結合できる一方、抗HLADR抗体は結合しないことを示す。よって、二重特異性CR3抗体は、CD5陽性細胞株のCD5抗原を認識する。
図4は、予想通り、マウス抗HLADR及び二重特異性CR3抗体がCD5-/HLADR+ JOK細胞株に高強度で結合する一方、マウス抗CD5は結合しないことを示す。このことから、二重特異性CR3抗体はHLADR+細胞株のHLADR抗原を認識することが証明される。
本発明者らは、二重特異性CR3抗体が両特異性(CD5及びHLADR)を正確に認識すると結論付けた。
【0054】
同一細胞で発現する抗原への結合
次に、本発明者らは、本発明者らの二重特異性CR3抗体が、同一細胞表面に(すなわち、シスで)発現している2つの標的に結合できることを証明することを望んだ。この目的のため、本発明者らは、先ず、ほぼ同量のCD5及びHLADRを発現するB-CLL患者サンプルを同定した。B-CLL患者細胞をマウス抗CD5、マウス抗HLADR又はマウスIgG1コントロール抗体と30分間室温にてインキュベートし、次いでFITC標識抗マウスIgG二次抗体とインキュベートした。洗浄後、細胞を標準のフローサイトメトリで分析した。図5Aに示すように、細胞は、類似量のCD5及びHLADRを発現した。平均蛍光強度はそれぞれ65及び98であった。
【0055】
二重特異性抗CD5/抗HLADR CR3抗体が同一細胞上の両抗原に結合したことを証明するため、本発明者らは、次いで、同一B-CLLサンプルで交差ブロッキング実験を実施した。細胞を1μg/mlのキメラCR3二重特異性抗体と、過剰(10μg/ml)のマウス抗CD5又はマウス抗HLADR抗体又はその両方の存在下又は不在下でインキュベートした。洗浄後、二重特異性CR3抗体の結合を、ヒトFcに特異的でありマウスFcには結合できない二次モノクローナルFITC標識抗体(Sigma-Aldrich)とのインキュベーションにより検出した(データは示さず)。
【0056】
図5の説明:
パネルA:B-CLL患者細胞をマウス抗CD5(mCD5)、マウス抗HLADR(mDR)又はコントロールとしての無関係なマウスIgG抗体(mIgG)とインキュベートした。洗浄後、細胞をFITC標識抗マウス二次抗体で染色し、次いで標準のフローサイトメトリで分析した。mCD5及びmDRについてのMFIを括弧内に示す。
パネルB:Aと同じ患者由来の細胞を、1μg/mlのキメラCR3のみ(濃い太線)と、又は1μg/mlのキメラCR3と10μg/mlのマウス抗CD5(薄灰色線)若しくはマウス抗HLADR(濃灰色線)若しくはその両方(不連続線)の存在下にインキュベートした。洗浄後、細胞をモノクローナルFITC標識抗ヒトFc抗体とインキュベートし、洗浄し、フローサイトメトリで分析した。各条件について重ね書きしたヒストグラムを示す。各場合で得られたMFIを各曲線の上方に示す。BS:二重特異性、m:マウス、h:ヒト、chi:キメラ。
【0057】
【表3】
【0058】
図5Bに示したように、二重特異性CR3抗体単独は、97の平均蛍光強度(MFI)を生じた。抗CD5又は抗HLADRの単独による競合は、CR3と部分的にのみ置き換わった(それぞれMFI 72及び54)。対照的に、両抗体を併せて加えると、二重特異性CR3抗体とほぼ完全に置き換わった(MFI 20)。これらデータは、二重特異性CR3抗体が細胞に、CD5又はHLADR成分のいずれかを介して結合し、その置換には抗CD5及び抗HLADR抗体の混合物による競合が必要であることを示唆する。
本発明者らは、これらデータから、キメラ抗CD5/抗HLADR抗体である二重特異性抗体CR3は同一細胞上のHLADR及びCD5の両方に結合できると結論付けた。
【0059】
実施例4:二重特異性抗体のFC成分及び抗原結合性成分の機能性
Fc成分
抗体分子のFc成分は、マクロファージ(FcγRI、II及びIII)及びNK細胞(FcγRIII)のFcγRへの結合により、それぞれファゴサイトーシス(ADP)及び抗体依存性細胞傷害性(ADCC)のような種々の免疫機能を活性化することができる。構築した二重特異性抗体はヒトIgG1由来のFc成分を有するので、本発明者らは、それが機能的であり、したがってこれら免疫媒介機能を媒介できるかどうかを調べた。
【0060】
ナチュラルキラー細胞による抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)
最初に、本発明者らは、パラトープのいずれかがそれぞれの分子に結合したとき、二重特異性CR3分子のFc部分が活性であるかどうかを決定することを望んだ。本発明者らは、NK細胞へのFc結合により媒介され、CD5+/HLA-DR-標的(例えばJurkat細胞)及びHLA-DR+/CD5-標的(例えばJOK1)及び二重陽性標的JOK1.5.3細胞で誘導されるADCCを分析した。NK細胞は、末梢血単核細胞から免疫ビーズ選択により精製した。標的細胞は、1μMのカルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)で4℃にて20分間標識し、洗浄し、精製NK細胞と37℃にて4時間、10:1のエフェクター対標的比(E:T)で培養した。その後、細胞を7AADで標識し、フローサイトメトリで分析した。殺傷率を、CFSE+細胞総数に対する7AAD陽性標的(CFSE+)のパーセントとして測定した。
【0061】
結果を図6に示す。
図6の説明:JURKAT(CD5+HLADR-、パネルA)、JOK1(CD5-HLADR+、パネルB)及びJOK1 5.3(CD5+HLADR+、パネルC)をCFSE標識し、10:1のE:T比のヒトNK細胞及び1μg/mlのキメラ抗CD5(抗CD5chi)又はキメラ抗HLADR(抗-HLADRchi)又は2μg/mlの二重特異性CR3抗体の存在下でADCCアッセイに使用した。細胞傷害性は、37℃にて4時間後に、フローサイトメトリで測定した。
データは、二重特異性CR3抗体が3つ全ての細胞株でADCCを媒介する(33〜78%細胞傷害性)ことを示す。対照的に、抗CD5chi及び抗HLADRchiはそれぞれCD5+又はHLADR+細胞株に対してのみ細胞傷害性である。
本発明者らは、二重特異性CR3抗体のFc成分は機能的であり、Fc成分により該抗体はCD5、HLADR又は両抗原を発現する標的のADCCを媒介することが可能になると結論付けた。
【0062】
ファゴサイトーシス
マクロファージに存在するFcγR(FcγRI、FcγRII及びFcγRIII)への結合及びそれぞれの分子へのパラトープの同時結合に関するCR3分子のFc部分の機能性を確証するために、本発明者らは、ADPをインビトロで評価した。CD14+単球は、健常ドナーの単核細胞から、抗CD14マイクロビーズ磁性細胞ソーティングで製造業者(Miltenyi Biotec)の指示に従って精製した。CD14+単球を、8ウェルチャンバースライド(LabTek;Nunc)中、2×105/ウェルで6〜7日間、20%胎仔ウシ血清及び20ng/mlヒトrM-CSF(R&D Systems)を補充したRPMI 1640培地で培養した。次いで、これらマクロファージによるB-CLL標的細胞(CD5+/HLA-DR+)のファゴサイトーシスを行った。合計2×105のB-CLL標的を、各ウェルに0.01〜0.1μg/mlのCR3二重特異性抗体又は抗CD20 mAbリツキシマブの存在下又は不在下で加えた。37℃にて2時間後、スライドをPBS中で穏やかにリンスし、固定し、メイ-グリュンヴァルトギームザで染色した。ファゴサイトーシスは、ImageJ 1.38イメージプロセシング及び分析ソフトウェアを用いて顕微鏡下で各実験条件について少なくとも200細胞を計数し、総マクロファージに対する少なくとも1つの腫瘍標的細胞を取り込んだマクロファージの率を算出することにより評価した。
【0063】
結果を図7に示す。
図7の説明:ファゴサイトーシスの率をY軸に示し、使用した抗体の濃度をX軸に示す。抗体濃度は、0.01〜1μg/mlの範囲の二重特異性抗体CR3又は単一特異性抗CD20抗体リツキシマブ(RTX)である。0:抗体の添加なし。
下記のデータは、二重特異性CR3抗体が0.1〜1μg/mlで、リツキシマブと同様に、バックグラウンドを超える約40%のファゴサイトーシスを媒介することを示す。陰性コントロール抗体トラスツズマブ(抗HER2)はファゴサイトーシスを媒介しない(データは示さず)。
よって、本発明者らは、二重特異性CR3抗体分子のFc成分が機能的であり、FcとマクロファージのFcγRとの相互作用を介してマクロファージよる標的細胞のファゴサイトーシスを媒介できると結論付けた。
【0064】
抗原結合性成分
二重特異性CR3抗体による、サイトカイン誘導キラー細胞による殺傷の再指向化
次に、本発明者らは、二重特異性CR3抗体のパラトープが2つの異なる細胞タイプに存在する標的抗原に結合できるかどうかを決定した。
サイトカイン誘導キラー細胞(CIK)は、インターフェロン-γ、抗CD3での末梢血単核細胞の刺激及びインターロイキン-2での3〜4週間のインビトロ拡大によりインビトロで生成される活性化CD3+CD56+二重陽性Tリンパ球である(SCHMIDT WOLFFら,J. Exp. Med. 174:139-149;1991)。CIK細胞は、NK細胞と同様、インビトロで、腫瘍細胞に対して有意な天然の細胞傷害活性を有するが正常細胞に対しては有さない。しかし、CIK細胞はFcγRを発現せず、したがって単一特異性IgG抗体(例えばリツキシマブ)の存在下でADCCを媒介しない。CIK細胞はCD5を発現する。この理由のため、CIK細胞は、CIKのCD5及び腫瘍標的のHLA-DRを認識する二重特異性抗体CR3でHLADR陽性腫瘍細胞に再指向化できるが、HLADR陰性腫瘍細胞には再指向化できない。ADCCとは異なり、この再指向化された殺傷は、Fc部分ではなく、抗体の2つのFab特異性を利用する。
【0065】
方法
末梢血単核細胞を、3×106/mlにて、無血清X-VIVO 15培地(BioWhittaker, Walkersville, MD, USA)中で培養した。培地には、日目に1000U/mLのIFN-γ(Gammakine;Boehringer Ingelheim, Vienna, Austria)を加え、1日目に0.50ng/mLの抗CD3(OKT-3, Janssen-Cilag S.p.a., Italy)を加え、1日目から先は500U/mLのrhIL-2を含ませた。拡大は、3〜4日ごとに新鮮なrhIL-2含有培地中1×106/mlに細胞を調整して21〜28日間行った。拡大の終時に、CD3+/CD5+/CD56+細胞傷害性CIK細胞は、集団の40〜70%であった。残る細胞は、ほとんどがCD3+/CD56- CIK前駆体細胞である。
ヒト腫瘍標的細胞株BJAB(CD5-/HLA-DR+)、JOK1.5.3(CD5+/HLA-DR+)、Jurkat(CD5+/HLA-DR-)及びKCL22(CD5-/HLA-DR-)を、10%胎仔ウシ血清(Euroclone, Wetherby, West Yorkshire, U.K.)、2mMのL-グルタミン(Euroclone)及び110μMゲンタマイシン(PHT Pharma, Milano, Italy)を補充したRPMI-1640培地(Lonza, Basel, Switzerland)中で維持した。
再指向化細胞傷害性アッセイのために、標的細胞株を30分間37℃にて3.5μMカルセイン-AM(Fluka, Sigma-Aldrich Company, Ayrshire, UK)で標識した。洗浄後、標識標的細胞を96ウェルプレート中に5×103/ウェルで分配した。CIK細胞を10:1のエフェクター対標的比で、1μg/mlの二重特異性CR3抗体の存在下又は不在下に加えた。4時間後、細胞を遠心分離により沈降させ、100μlの上清を回収し、カルセイン放出を、蛍光マイクロプレートリーダー(GENios, TECAN, Austria GmbH, Salzburg, Austria)を485nmの励起光及び535nmの発光で用いて測定した。特異的溶解のパーセンテージ(%)を、(試験カルセイン放出−自発カルセイン放出)×100/(最大カルセイン放出−自発カルセイン放出)として算出した。最大溶解は1%のTriton X-100の添加により達成された。
【0066】
結果を図8に示す。
図8の説明:カルセイン-AM負荷標的細胞株BJAB、JOK1.5.3、Jurkat及びKCL22を、1μg/mlの二重特異性CR3抗体の存在下(白抜きバー)又は不在下(黒塗りバー)及び10:1のエフェクター:標的比のCIK細胞の存在下にインキュベートした。4時間、上清を回収し、放出カルセインを測定した。データは、測定した溶解パーセンテージ(Y軸)を、各細胞株での2〜6の別個の実験の平均及び標準偏差として示す。CTRL:抗体なしのコントロール。
結果は、インビトロで、HLADR陽性標的(BJAB、JOK15.3)のパーセンテージ殺傷(溶解)は、10:1のエフェクター:標的比のCIK細胞の存在下での1μg/mlのCR3抗体の添加により50〜60%増大するが、HLADR陰性標的(Jurkat, KCL22)のパーセンテージ殺傷(溶解)はしないことを示す。このことは、二重特異性CR3抗体により形成される細胞間橋架けがCIK細胞によるHLADR+標的の殺傷を劇的に増強することを証明する。HLADR陰性標的の殺傷の増強が観察されなかったことは特異性を証明している。
二重特異性CR3抗体による、正常T細胞に関するCIK細胞の細胞傷害効果の増強の特異性は、以下のとおり更に証明した:HLADR+ BJAB標的細胞を、種々の量のエフェクター細胞としての末梢血単核細胞と1:1〜10:1の範囲のエフェクター:標的比にて、1μg/mlのCR3の存在下又は不在下でインキュベートした。溶解は4時間で測定した。
【0067】
結果を図9に示す。
図9の説明:細胞傷害性実験は、エフェクターとしてのPBMC及び標的細胞としてのBJABを種々のエフェクター:標的比で用い、二重特異性抗体CR3の存在下(黒丸)及び不在下(白抜き丸)で行った。X軸:エフェクター:標的比;Y軸:%溶解;CR3:二重特異性CR3抗体;CTRL:抗体なしコントロール。
正常TによるHLADR+標的の溶解に対するCR3抗体の効果は観察されなかった。
これら結果は、二価の二重特異性抗体CR3が養子免疫療法治療においてサイトカイン誘導キラー(CIK)細胞との組合せで使用できることを示す。この場合、2つのFab対の異なる特異性を利用する:一方の対(この場合、抗HLADR)は標的細胞を認識し、他方の対(抗CD5)はエフェクターCIK細胞を認識する。これら結果は、HLADRに代えて、種々の標的抗原(例えば、HER1、HER2、EpCAM、CD19、CD20など)を挿入し得ることを示す。結果はまた、種々の形態のガン療法の分野で、CD5に代えて、エフェクター細胞が発現する他の抗原(例えば、Tリンパ球が発現するCD3、NK細胞に存在するFcγRIII若しくはNKG2D又はマクロファージに存在するFcγRI-III)を使用し得ることを示す。
【0068】
二重特異性MUT 4抗体による、サイトカイン誘導キラー細胞による殺傷の再指向化
本発明者らは、二重特異性MUT 4抗体が2つの異なる細胞タイプに存在する標的抗原に結合し、CD5+サイトカイン誘導キラー細胞(CIK)の殺傷をHLADR+リンパ腫標的(JOK1 5.3)に再指向化することができるかどうかを決定した。CIKは、インターフェロン-γ、抗CD3での刺激及びインターロイキン-2での3〜4週間のインビトロ拡大によりインビトロで生成される活性化CD3+CD56+二重陽性Tリンパ球である(SCHMIDT WOLFFら,J. Exp. Med. 174:139-149;1991)。CIK細胞は、NK細胞と同様、インビトロで、腫瘍細胞に対して有意な天然の細胞傷害活性を有するが正常細胞に対しては有さない。しかし、CIK細胞はFcγRを発現せず、したがって単一特異性IgG抗体(例えばリツキシマブ)の存在下でADCCを媒介しない。CIK細胞はCD5を発現する。この理由のため、CIK細胞は、CIKのCD5及び腫瘍標的のHLADRを認識する二重特異性抗体MUT 4でHLADR陽性腫瘍細胞に再指向化できるが、HLADR陰性腫瘍細胞には再指向化できない。ADCCとは異なり、この再指向化された殺傷は、Fc部分ではなく、抗体の2つのFab特異性を利用する。
【0069】
方法
末梢血単核細胞を、3×106/mlにて、無血清X-VIVO 15培地(BioWhittaker, Walkersville, MD, USA)中で培養した。培地には、日目に1000U/mLのIFN-γ(Gammakine;Boehringer Ingelheim, Vienna, Austria)を加え、1日目に0.50ng/mLの抗CD3(OKT-3, Janssen-Cilag S.p.a., Italy)を加え、1日目から先は500U/mLのrhIL-2を含ませた。拡大は、3〜4日ごとに新鮮なrhIL-2含有培地中1×106/mlに細胞を調整して21〜28日間行った。拡大の終時に、CD3+/CD5+/CD56+細胞傷害性CIK細胞は、集団の約50%であった。残る細胞は、ほとんどがCD3+/CD56- CIK前駆体細胞である。
ヒト腫瘍標的細胞株JOK1.5.3(CD5+/HLA-DR+)を、10%胎仔ウシ血清(Euroclone, Wetherby, West Yorkshire, U.K.)、2mMのL-グルタミン(Euroclone)及び110μMゲンタマイシン(PHT Pharma, Milano, Italy)を補充したRPMI-1640培地(Lonza, Basel, Switzerland)中で維持した。
【0070】
再指向化細胞傷害性アッセイのために、標的細胞株を30分間37℃にて3.5μMカルセイン-AM(Fluka, Sigma-Aldrich Company, Ayrshire, UK)で標識した。洗浄後、標識標的細胞を96ウェルプレート中に5×103/ウェルで分配した。CIK細胞を10:1のエフェクター対標的比で、1又は5μg/mlの二重特異性MUT 4抗体、CR3抗体又はコントロールとしてのリツキシマブ(RTX)の存在下又は不在下に加えた。4時間後、細胞を遠心分離により沈降させ、100μlの上清を回収し、カルセイン放出を、蛍光マイクロプレートリーダー(GENios, TECAN, Austria GmbH, Salzburg, Austria)を485nmの励起光及び535nmの発光で用いて測定した。特異的溶解のパーセンテージ(%)を、(試験カルセイン放出−自発カルセイン放出)×100/(最大カルセイン放出−自発カルセイン放出)として算出した。最大溶解は1%のTriton X-100の添加により達成された。
結果を図10に示す。
図10の説明:カルセイン-AM負荷標的細胞JOK1.5.3を、1又は5μg/mlの二重特異性MUT 4、CR3又はリツキシマブ(RTX)抗体の存在下又は不在下及び10:1のエフェクター:標的比のCIK細胞の存在下にインキュベートした。4時間、上清を回収し、放出カルセインを測定した。データは、測定した溶解パーセンテージ(Y軸)を、2つの独立した実験の平均及び標準偏差として示す。−:抗体なしのコントロール。
結果は、インビトロで、HLADR陽性JOK15.3のパーセンテージ殺傷(溶解)は、10:1のエフェクター:標的比のCIK細胞の存在下での1〜5μg/mlのMUT 4抗体の添加により60〜70%増大し、CR3抗体の添加により40〜50%増大することを示す。対照的に、リツキシマブは有意な効果を有さない。このことは、二重特異性MUT 4抗体により形成される細胞間橋架けが、CR3で得られたものと同様に又はより高度に、CIK細胞によるHLADR+標的の殺傷を劇的に増強することを証明している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]