【文献】
Mitsutoshi TOYAMA,Alteration of substrate specificity of cholesterol oxidase from streptomyces sp. by site-directed mutagenesis,Protein Engineering,2002年,Vol.15, No.6,Pages 477-483
【文献】
Yan SUN,Improvement of the thermostability and enzymatic activity of cholesterol oxidase by site-directed mutagenesis,Biotechnol. Lett.,2011年 6月24日,Vol.33,Pages 2049-2055
【文献】
Q. KIMBERLEY,Crystal Structure Determination of Cholesterol Oxidase from Streptomyces and Structural Characterization of Key Active Site Mutants,Biochemistry,1999年,Vol.38,Pages 4277-4286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料中のコレステロールをアッセイするための方法であって、試料を請求項1または2に記載のコレステロールオキシダーゼと接触させるステップと、コレステロールオキシダーゼにより酸化されたコレステロールの量を測定するステップとを含む方法。
HDLコレステロールをアッセイするための方法であって、試料中のHDLを反応させてコレステロールを生成させるステップと、コレステロールを請求項1または2に記載のコレステロールオキシダーゼと接触させるステップと、酸化されたコレステロールの量を測定するステップとを含む方法。
LDLコレステロールをアッセイするための方法であって、試料中のLDLを反応させてコレステロールを生成させるステップと、コレステロールを請求項1または2に記載のコレステロールオキシダーゼと接触させるステップと、酸化されたコレステロールの量を測定するステップとを含む方法。
試料中のコレステロール、HDLコレステロール、および/またはLDLコレステロールをアッセイするためのデバイスであって、請求項1または2に記載のコレステロールオキシダーゼおよび電子伝達体を含むデバイス。
試料中のコレステロール、HDLコレステロール、および/またはLDLコレステロールをアッセイするためのキットであって、請求項1または2に記載のコレステロールオキシダーゼおよび電子伝達体を含むキット。
コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールをアッセイするための酵素センサーであって、請求項11に記載の酵素電極を作用電極として含む酵素センサー。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で用いられるタンパク質の「突然変異体」という用語は、そのタンパク質における、指示される(1または複数の)位置のアミノ酸残基のうちの1または複数において置換を含有する変異体タンパク質を指す。突然変異体という用語はまた、このような突然変異体タンパク質をコードするポリヌクレオチドについても用いられる。
【0019】
本明細書で用いられる「〜に対応する位置」という語句は、クエリーアミノ酸配列中のアミノ酸残基の位置であって、Vector NTIのAlignXソフトウェア(In
vitrogenから入手可能である;Lu,G.およびMoriyama,E.N.(2004年)、Vector NTI、a balanced all−in−one sequence analysis suite、Brief Bioinform、5、378〜88を参照されたい)をデフォルトのパラメータで用いて、基準アミノ酸配列内のアミノ酸残基とアラインされるアミノ酸残基の位置を意味する。したがって、「配列番号Xに示されるアミノ酸配列のY位に対応する位置におけるアミノ酸(AA)残基」とは、クエリーアミノ酸配列を、Vector NTIのAlignXをデフォルトのパラメータで用いて、配列番号Xとアラインされる場合に、配列番号XのAA Yとアラインされるクエリーアミノ酸配列内のAA残基を意味する。配列番号XのAA Y自体もまたこの用語に包含されることに注意されたい。
【0020】
本発明の変異コレステロールオキシダーゼは、デヒドロゲナーゼ(すなわちDh)活性を実質的に保持しながら、オキシダーゼ(すなわちOx)活性の減少を呈示する。
【0021】
本明細書で用いられる「オキシダーゼ活性」とは、コレステロールオキシダーゼの酵素活性であって、酸素を電子受容体として使用することにより、コレステロールの酸化を触媒して、コレスト−4−エン−3−オンを生成させる酵素活性である。オキシダーゼ活性は、生成したH2O2の量を、当技術分野で知られている任意の方法で、例えば、4AA/TODB/POD(4−アミノアンチピリン/N,N−ビス(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン二ナトリウム塩/西洋ワサビペルオキシダーゼ)など、H2O2を検出するための試薬を介して、またはPt電極を介して測定することにより、アッセイすることができる。本明細書の相対活性または定量的活性の文脈で用いられるオキシダーゼ活性はとりわけ、単位時間当たりに酸化した基質(コレステロール)のモル量であって、10mMのPPB、pH7.0、1.5mMのTODB、2U/mlの西洋ワサビペルオキシダーゼ(POD)、および1.5mMの4−アミノアンチ−ピリン(4AA)中、25℃で生成したH2O2の量により測定されるモル量であると定義される。キノンイミン色素の形成は、分光光度法により、546nmで測定することができる。
【0022】
本明細書で用いられる、「デヒドロゲナーゼ活性」とは、コレステロールオキシダーゼの酵素活性であって、酸素以外の電子伝達体を電子受容体として使用することにより、コレステロールの酸化を触媒して、コレスト−4−エン−3−オンを生成させる酵素活性である。デヒドロゲナーゼ活性は、例えば、mPMS/DCIP(1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルスルフェート/2,6−ジクロロインドフェノール)、cPES(トリフルオロ−酢酸−1−(3−カルボキシ−プロポキシ)−5−エチル−フェナジニウム、NA BM31_1144(N,N−ビス−(ヒドロキシエチル)−3−メトキシ−ニトロソアニリンヒドロクロリド、NA BM31_1008(N,N−ビス−ヒドロキシ−エチル−4−ニトロソアニリン)、およびN−N−4−ジメチル−ニトロソアニリンを用いて、伝達体へと伝達される電子の量を測定することにより、アッセイすることができる。
【0023】
本明細書の相対活性または定量的活性の文脈で用いられるデヒドロゲナーゼ活性はとりわけ、単位時間当たりに酸化した基質(コレステロール)のモル量であって、10mMのPPB(pH7.0)、0.6mMのDCIP、および6mMのメトキシPMS(mPMS)中、25℃で伝達体へと伝達される電子の量により測定されるモル量であると定義される。
【0024】
本発明の変異コレステロールオキシダーゼは、デヒドロゲナーゼ活性を実質的に保持しながら、オキシダーゼ活性が野生型のコレステロールオキシダーゼと比較して低減されている。
【0025】
本発明の変異コレステロールオキシダーゼのオキシダーゼ活性は、野生型のコレステロールオキシダーゼのオキシダーゼ活性の50%以下であることが好ましい。本発明の変異コレステロールオキシダーゼのオキシダーゼ活性は、野生型のコレステロールオキシダーゼのオキシダーゼ活性の40%以下、より好ましくは30%以下、なおより好ましくは20%以下、最も好ましくは15%以下であることがより好ましい。また、本発明の変異コレステロールオキシダーゼのデヒドロゲナーゼ活性が、野生型のコレステロールオキシダーゼの50%以上であることも好ましい。本発明の変異コレステロールオキシダーゼのデヒドロゲナーゼ活性は、野生型のコレステロールオキシダーゼの70%以上、より好ましくは90%以上、なおより好ましくは100%以上、最も好ましくは100%を超えることがより好ましい。
【0026】
野生型のコレステロールオキシダーゼでは、オキシダーゼ活性が、デヒドロゲナーゼ活性の約300倍である。溶存酸素がアッセイ系内に存在する場合、基質の酸化により生成する電子は、酸素へと優先的に伝達されることになる。したがって、電子伝達体の存在下で測定される酵素活性は、溶存酸素濃度により大きく影響されることになる。これに対し、本発明の変異コレステロールオキシダーゼのデヒドロゲナーゼ活性/オキシダーゼ活性の比は、約2.0以上、好ましくは、4.0以上、より好ましくは10以上である。デヒドロゲナーゼ活性がオキシダーゼ活性を超えるので、本発明のコレステロールオキシダーゼの酵素活性は、溶存酸素濃度により影響される程度が小さく、これは、血液試料による臨床診断においてコレステロールオキシダーゼを使用するのに有利である。
【0027】
本出願におけるアミノ酸配列の番号付けは、最初のMetで始まり、特許請求される変異コレステロールオキシダーゼは、シグナルペプチドを有する場合もあり、有さない場合もあることを理解されたい。
【0028】
別の態様では、本発明は、本発明の変異コレステロールオキシダーゼをコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。コレステロールオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、公開されているデータベースから容易に得ることができる。野生型のコレステロールオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドは、各生物のゲノムから、PCRまたは他の知られた技法を用いてクローニングすることができる。突然変異は、部位指向突然変異誘発、PCR突然変異誘発、または当技術分野でよく知られている他の任意の技法により導入することができる。突然変異させるアミノ酸残基は、当技術分野で入手可能な配列アライメント用のソフトウェアのうちのいずれかを用いて同定することができる。代替的に、変異コレステロールオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドは、一連の化学合成されたオリゴヌクレオチドを用いてPCRにより調製することもでき、全体を合成することもできる。
【0029】
突然変異させたコレステロールオキシダーゼは、突然変異体遺伝子を適切な発現ベクターへと挿入し、ベクターを、E.coli細胞などの適切な宿主細胞へと導入することにより調製することができる。形質転換細胞を培養し、形質転換細胞内で発現するコレステロールオキシダーゼは、細胞または培養培地から回収することができる。
【0030】
このようにして得られた組換えコレステロールオキシダーゼは、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析沈殿、溶媒沈殿、免疫沈降、ゲル電気泳動、等電点電気泳動、および透析を含めた、当技術分野で知られている精製法のうちのいずれかにより精製することができる。
【0031】
したがって、本発明はまた、変異コレステロールオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクター、このようなベクターで形質転換された宿主細胞、および形質転換
細胞を培養し、変異コレステロールオキシダーゼを培養物から回収および精製することにより、本発明の変異コレステロールオキシダーゼを調製するための方法も包含する。
【0032】
本発明はまた、試料中のコレステロール、HDLコレステロールまたはLDLコレステロールをアッセイする方法も包含する。方法は、試料を本発明のコレステロールオキシダーゼと接触させるステップと、コレステロールオキシダーゼにより酸化されたコレステロールの量を測定するステップとを含む。
【0033】
別の態様では、本発明は、本発明のコレステロールオキシダーゼと電子伝達体とを含む試料中のコレステロール、HDLコレステロールまたはLDLコレステロールをアッセイするためのデバイスを提供する。
【0034】
アッセイデバイスは、血中コレステロールレベルをモニタリングするための、従来の市販の電流測定バイオセンサーによる検査用ストリップのうちのいずれかと同様の構造を有しうる。このようなデバイスの一例は、絶縁基板上に配置された2枚の電極(作用電極および基準電極または対電極)、試薬ポート、および試料レシーバーを有する。試薬ポートは、本発明の突然変異させたコレステロールオキシダーゼと伝達体とを含有する。血液試料などの試料を、試料レシーバーへと添加すると、試料中に含有されるコレステロールが、コレステロールオキシダーゼと反応して、電流を発生させ、これにより、試料中のコレステロールの量が示される。酵素基質を決定するのに適する典型的な電気化学的センサーの例は、例えば、WO2004/113900およびUS5,997,817から知られる。電気化学的センサーに対する代替法としては、光学的検出法を用いることもできる。このような光学デバイスは、酵素、電子伝達体、および指示薬を含む試薬系内で生じる色の変化に基づくものが典型的である。色の変化は、蛍光、吸収、または発光の測定値を用いて定量化することができる。酵素基質を決定するのに適する典型的な光学デバイスの例は、例えば、US7,008,799、US6,036,919、およびUS5,334,508から知られる。
【0035】
さらに別の態様では、本発明は、本発明のコレステロールオキシダーゼと電子伝達体とを含む試料中のコレステロール、HDLコレステロールまたはLDLコレステロールをアッセイするためのキットを提供する。
【0036】
コレステロール、HDLコレステロールまたはLDLコレステロールを測定するためのキットは、本発明の酵素を用いて構築することができる。本発明のコレステロールオキシダーゼに加えて、キットは、測定に必要な緩衝液、適切な伝達体、および、必要な場合は、コレステロールエステラーゼなどのさらなる酵素、検量線を作成するためのコレステロールの標準溶液、および使用のための指示書も含有する。本発明のコレステロールオキシダーゼは、多様な形態で、例えば、凍結乾燥試薬として、または適切な保存液中の溶液として提供することができる。
【0037】
別の態様では、本発明は、本発明のコレステロールオキシダーゼを電極上に固定化した酵素電極を提供する。
【0038】
別の態様では、本発明は、コレステロールをアッセイするための酵素センサーであって、本発明の酵素電極を作用電極として含む酵素センサーを提供する。
【0039】
試料中のコレステロールの濃度は、酵素反応により発生した電子の量を測定することにより、決定することができる。当技術分野では、炭素電極、金属電極、および白金電極を含めた多様なセンサー系が知られている。本発明の突然変異させたコレステロールオキシダーゼは、電極上に固定化される。固定化するための手段の例には、架橋形成、高分子マ
トリックスへの封入、透析膜によるコーティング、光学的架橋形成ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマー、およびこれらの任意の組合せが含まれる。
【0040】
炭素電極を用いる電流測定系内で測定を実行する場合は、酵素の固定化を施された金電極または白金電極を作用電極として、対電極(白金電極など)および基準電極(Ag/AgCl電極など)と共に用いる。電極は、伝達体を含有する緩衝液へと挿入し、所定の温度に保つ。所定の電圧を作用電極へと印加し、次いで、試料を添加し、電流値の増大を測定する。アッセイにおいて用いられる伝達体の例には、フェリシアン化カリウム、フェロセン、オスミウム誘導体、ルテニウム誘導体、フェナジンメトスルフェートなどが含まれる。一般にまた、1枚の作用電極と1枚の対電極または擬似基準電極とを伴う、いわゆる二電極系を用いることも可能である。
【0041】
さらに、コレステロールは、炭素電極、金電極、または白金電極を用いる電流測定系内に固定化された電子伝達体を用いてもアッセイすることができる。酵素を、高分子マトリックス中のフェリシアン化カリウム、フェロセン、オスミウム誘導体、フェナジンメトスルフェートなどの電子伝達体と共に、吸着または共有結合により電極上に固定化して作用電極を調製する。作用電極を、対電極(白金電極など)および基準電極(Ag/AgCl電極など)と共に、緩衝液へと挿入し、所定の温度に保つ。所定の電圧を作用電極へと印加し、次いで、試料を添加し、電流値の増大を測定する。
【0042】
本出願が解析物としてのコレステロールに言及する場合はいつでも、例えば、HDLコレステロールまたはLDLコレステロールなどのコレステロールへと転換されうる他の解析物もまた包含するものとすることを理解されたい。コレステロールをコレステロールエステルから遊離させるには、血液または血液画分と同様の試料物質中に天然に存在するコレステロールエステラーゼ酵素が必要とされうることを、当業者は承知している。
【0043】
本明細書で引用される全ての特許および参考文献の内容は、全体において、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0044】
本発明を、以下の実施例により詳細に例示するが、本発明は、それらの実施例に限定されないものとする。
【実施例1】
【0045】
Streptomyces属種株SA−COOのChOxを発現させるプラスミド
pET28 ChOx_Nhisを、Streptomyces属種株SA−COOのChOx(GenBank:AADO1493)を発現させるプラスミドとして用いた。このプラスミドは、ベクターpET28aのNheI/HindIIIクローニング部位内に挿入されている、シグナル配列を除いた、Streptomyces属種株SA−COOに由来するChOxの構造遺伝子のDNA断片を有する。このプラスミド内のChOx遺伝子は、T7プロモーターにより制御される。pET28 ChOx_Nhisは、カナマイシン耐性遺伝子を含有する。
【実施例2】
【0046】
Streptomyces属種株SA−COOに由来するChOxの構造遺伝子の突然変異誘発
(1)残基159、228および396の突然変異誘発
実施例1で得られたpET28 ChOx_Nhis内に含有されている、Streptomyces属種株SA−COOに由来するChOxの構造遺伝子に、この遺伝子によりコードされるChOxの残基159におけるメチオニン、残基228におけるバリンお
よび残基396におけるフェニルアラニンを他のアミノ酸残基で置換するように突然変異誘発した。
【0047】
具体的には、実施例1で記載したプラスミドpET28 ChOx_Nhis内に含有されているChOxの構造遺伝子の残基159におけるメチオニンのコドン(ATG)、残基228におけるバリンのコドン(GTT)および残基396におけるフェニルアラニンのコドン(TTT)を、市販されている部位指向突然変異誘発キット(Stratagene Corp.、QuikChange II Site−Directed Mutagenesis Kit)を用いて、他のアミノ酸のコドンで置換した。
【0048】
アミノ酸残基の置換において用いられるフォワードプライマーおよびリバースプライマーの配列を、以下の表に示す。
【0049】
突然変異を表す表記法では、番号が、ChOxのシグナル配列を含有するアミノ酸配列における位置を表し、番号の前に記載されるアルファベットが、アミノ酸置換の前のアミノ酸残基を表し、番号の後に記載されるアルファベットが、アミノ酸置換の後のアミノ酸残基を表す。例えば、M159Aは、残基159におけるメチオニンのアラニンへの置換を表す。
【0050】
PCR反応では、以下に示される組成の反応溶液を、95℃で30秒間にわたる反応、次いで、各々が95℃で30秒間、55℃で1分間、および68℃で8分間を伴う15回の反復サイクルの後、68℃で30分間にわたる反応下に置き、次いで、4℃に保った。
【0051】
反応溶液の組成
鋳型DNA(5ng/μL) 2μL
10倍濃度の反応緩衝液 5μL
フォワードプライマー(100ng/μL) 1.25μL
リバースプライマー(100ng/μL) 1.25μL
dNTP 1μL
蒸留水 38.5μL
DNAポリメラーゼ 1μL
合計 50μL
【0052】
PCR反応の後、0.5μLのDpnIを、反応溶液へと添加し、37℃で1時間にわたりインキュベートして、鋳型プラスミドを分解した。
【0053】
Escherichia coliのDH5α(supE44、ΔlacU169 (φ80lacZΔM15)、hsdR17、recA1、endA1、gyrA96、thi−1、relA1)コンピテント細胞を、得られた反応溶液で形質転換した。アンピシリン(50μg/mL)を含有するLB寒天培地(1%のBactoトリプトン、0.5%の酵母抽出物、1%の塩化ナトリウム、1.5%の寒天)上で増殖させたコロニーから、プラスミドDNAを調製し、配列決定して、対象の突然変異がChOxの構造遺伝子内に導入されていることを確認した。
【0054】
突然変異が導入されていることが確認されたプラスミドを、制限酵素NdeIおよびHindIIIで消化させて、突然変異誘発されたChOxの構造遺伝子を切り出し、これを、pET28aベクターへと挿入した。DH5αをこのプラスミドで形質転換し、得られたコロニーからプラスミドを抽出して、ChOxの突然変異体の発現プラスミドを得た。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【実施例3】
【0061】
突然変異体ChOxの酵素活性の解析
実施例2で得た突然変異体ChOxの発現プラスミドを用いて、突然変異体ChOxを生成させ、その酵素活性について研究した。
【0062】
(1)培養
Escherichia coliのBL21(DE3)株を、実施例1で調製した野生型ChOx発現プラスミド、または実施例2で調製した突然変異体ChOxの発現プラスミドで形質転換した。これらの形質転換細胞を、L字型管を用いて、3mLのLB培地(50μg/mLのカナマイシン含有する)中、37℃で12時間にわたり、個別に振とう培養した。これらの培養液の各々1mLずつを、100mLのLB培地(50μg/mLのカナマイシンを含有する)を含有する、バッフル付きの500mLエルレンマイヤーフラスコへと接種し、37℃で旋回培養した。OD600が約0.6に達した時点において、これに1mMの最終濃度でIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を添加した後、20℃で24時間にわたり培養した。
【0063】
(2)水溶性画分の調製
このようにして培養された培養液から、細菌細胞を回収し、洗浄した。次いで、得られた湿潤細菌細胞を、10mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中に懸濁させ、超音波処理した。次いで、ホモジネートを、17400×g、4℃で20分間にわたり遠心分離し、上清を回収した。この上清を、100400×g、4℃で60分間にわたりさらに超遠心分離し、上清を回収した。得られた上清を、10mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に対して透析し、これを水溶性画分として用いた。この水溶性画分をChOx試料として用いて、野生型のChOxおよび突然変異体のChOxの各々について、コレステロールオキシダーゼ(ChOx)活性およびコレステロールデヒドロゲナーゼ(ChDH)活性を決定した。
【0064】
(4)基質溶液の調製
コレステロール粉末を、TritonX−100中に100mMの濃度で溶解させ、80℃でインキュベートして、コレステロールを完全に溶解させた。100mMのコレステロール溶液を純水で10倍に希釈し、流水中で冷却し、室温とした。次いで、コール酸ナトリウムを3mMの最終濃度でこれに添加して、10mMのコレステロール溶液を調製した。活性を決定するために、コレステロール溶液を純水で適切に希釈して、多様な濃度の基質溶液を調製した。
【0065】
(5)ChOx活性の決定
基質との反応を介して生成させた過酸化水素から、ペルオキシダーゼ、トリンダー試薬(TODB)、および4−アミノアンチピリンを用いて生成させた色素に由来する、546nmにおける吸光度の変化を、ある時間経過にわたり決定することにより、ChOx活性を決定した。反応は、以下に示される条件下で実施した。
【0066】
反応は、基質を、酵素溶液を含有する反応溶液(10mMのリン酸カリウム緩衝液pH7.0+1.5mMの4−アミノアンチピリン+1.5mMのTODB+2U/mlのペルオキシダーゼ;全ての濃度は最終濃度である)へと添加することにより開始し、546nmにおける吸光度の変化を決定した。多様な濃度のコレステロールを、基質として用いた。1マイクロモルの過酸化水素を1分間にわたり形成する酵素の量を、1Uと定義する。38mM−1cm
-1を、pH7.0におけるTODBのモル吸収係数として用いた。活性値を吸光度の変化から計算するための式を以下に示す。
U/ml=ΔABS
546/分×2/38×10
U/mg=U/ml/タンパク質mg/ml
【0067】
(6)ChDH活性の決定
基質との反応を介して還元されたDCIPの退色に由来する、600nmにおける吸光度の変化を、ある時間経過にわたり定量化することにより、ChDH活性を決定した。反応は、以下に示される条件下で実施した。
【0068】
反応は、基質を、酵素溶液を含有する反応溶液(10mMのリン酸カリウム緩衝液pH7.0+0.6mMのPMS+0.06mMのDCIP;全ての濃度は最終濃度である)へと添加することにより開始し、600nmにおける吸光度の変化を決定した。ChOx活性の決定において用いた基質を、基質として用いた。1マイクロモルのDCIPを還元する酵素の量を、1Uと定義する。活性値は、以下に示される式に従い計算した。16.3mM−1cm
-1を、pH7.0におけるDCIPのモル吸収係数として用いた。
U/ml=ΔABS
600/分×1/16.3×5
U/mg=U/ml/タンパク質mg/ml
【0069】
野生型ChOxおよび突然変異体ChOxの活性の決定の結果を、表7〜9(異なる試行)に示す。
【0070】
M159突然変異体酵素全てのオキシダーゼ活性は、大幅に低減された。それらのうち、M159F、M159L、およびM159Vのデヒドロゲナーゼ活性は、野生型の1.7〜2.9倍まで改善された。特に、M159Fのオキシダーゼ活性値は、2.0×10
-2U/mgであり、デヒドロゲナーゼ活性値は、2.2×10
-2U/mgであり、これは、野生型の2.9倍であった。野生型では、デヒドロゲナーゼ活性のオキシダーゼ活性に対する比が0.28%であったのに対し、M159Fでは、この比が110%であり、これは、野生型の約390倍までの改善であった。
【0071】
V228突然変異体酵素全てのオキシダーゼ活性は、野生型より低値であった(2.7U/mg)。最も低い活性を呈示した突然変異体は、V228Dであった(2.0×10
-4U/mg)。この値は、野生型の約1/10000であり、酸素に対する反応性の著明な低減を示した。V228Dに加えて、V228N、V228Q、V228S、およびV228Kも、野生型の1%以下という非常な低値のオキシダーゼ活性値を呈示した(V228N:7.0×10
-3U/mg、V228E:5.0×10
-3U/mg、V228S:9.0×10
-3U/mg、V228K:8.8×10
-3U/mg)。他方、V228Aを含め、イソロイシン、ロイシン、またはフェニルアラニンへの置換を有するVal228突然変異体は、オキシダーゼ活性値が比較的高く(野生型に対する比:10%〜)、したがって、酸素に対する反応性を保持した(V228I:2.2U/mg、V228L:9.4×10
-1U/mg、V228F:2.2×10
-1U/mg)。野生型と比較してデヒドロゲナーゼ活性が改善された8つの突然変異体が得られた。それらのうち、V228Tは、野生型の約5倍の活性(5.6×10
-2U/mg)を呈示した。加えて、リシン、セリン、またはシステインへの置換を有する突然変異体も、高いデヒドロゲナーゼ活性(V228K:3.4×10
-2U/mg、V228C:3.1×10
-2U/mg、V228S:2.0×10
-2U/mg)を呈示した。他方、ロイシンまたはイソロイシンへの置換を有する突然変異体の活性は、野生型の1/10まで低減された(V228L:1.0×10
-3U/mg、V228I:1.0×10
-3U/mg)。V228DおよびV228Rのデヒドロゲナーゼ活性は、検出可能でなかった。
【0072】
F396突然変異体酵素のオキシダーゼ活性は低減された。F396W突然変異体酵素のオキシダーゼ活性値は、1.2×10
-1U/mgであり、デヒドロゲナーゼ活性値は、2.0×10
-2U/mgであった。オキシダーゼ活性は、野生型のChOxのオキシダーゼ活性と比較して低減され、デヒドロゲナーゼ活性は、野生型の2倍以上まで改善された。デヒドロゲナーゼ活性のオキシダーゼ活性に対する比は16%であり、これは、野生型(0.28%)の57倍であった。F396NおよびF396Dは、オキシダーゼ活性が、野生型の、それぞれ、1.9%および0.032%まで低減されるだけでなく、デヒドロゲナーゼ活性もまた、野生型の、それぞれ、23%および14%まで低減された。突然変異体酵素であるF396M、F396L、F396V、F396I、およびF396Yの各々は、他の突然変異体酵素と比較して、オキシダーゼ活性(野生型の30〜80%)
を維持した。
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
表10〜12は、コレステロールオキシダーゼであることが注記されているアミノ酸配列のアライメントを示す。これらの突然変異させたコレステロールオキシダーゼの配列の全体を、配列番号1〜48に示す。アライメントは、Vector NTIシリーズ6.0のAlignXアプリケーションを用いて創出した。当業者は、Blastなど、別のアライメントソフトウェアプログラムも、同じアライメントまたは実質的に同じアライメ
ントを提供することを理解しよう。
【0077】
表10からは、配列番号1のMet159が、表10に列挙されるアミノ酸配列の間で保存されていることが明らかである。したがって、当業者は、保存領域内の配列番号1のMet159に対応するMet残基またはIle残基を、市販されている配列アライメント用のソフトウェアプログラムのうちのいずれかを用いて容易に同定することができ、変異コレステロールオキシダーゼが、このMetまたはIle残基に対して改変を導入することにより容易に調製されることを理解することができる。
【0078】
【表10】
*データベース:gb:GenBank;sp:Swissprot;ref:基準配列;emb:EMBL;pdb:Protein Data Bank
**配列番号は全長配列を表す
【0079】
表11からは、配列番号1のVal228、表11に列挙されるアミノ酸配列の間で保存されていることが明らかである。したがって、当業者は、保存領域内の配列番号1のVal228に対応するVal、MetまたはIle残基を、市販されている配列アライメント用のソフトウェアプログラムのうちのいずれかを用いて容易に同定することができ、変異コレステロールオキシダーゼが、このVal、MetまたはIle残基に対して改変を導入することにより容易に調製されることを理解することができる。
【0080】
【表11】
*データベース:gb:GenBank;sp:Swissprot;ref:基準配列;emb:EMBL;pdb:Protein Data Bank
**配列番号は全長配列を表す
【0081】
表12からは、配列番号1のPhe396は、表12に列挙されるアミノ酸配列の間で保存されていることが明らかである。したがって、当業者は、保存領域内の配列番号1のPhe396に対応するPhe残基を、市販されている配列アライメント用のソフトウェアプログラムのうちのいずれかを用いて容易に同定することができ、変異コレステロールオキシダーゼが、このPhe残基に対して改変を導入することにより容易に調製されることを理解することができる。
【0082】
【表12】
*データベース:gb:GenBank;sp:Swissprot;ref:基準配列;emb:EMBL;pdb:Protein Data Bank
**配列番号は全長配列を表す