【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーンサステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ジカルボン酸化合物(I)が、イソフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−tert−ブチルイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸、5−ニトロイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、5−スルホイソフタル酸リチウム、およびトリメシン酸からなる群より選択される二種以上である請求項1に記載の1,3−ブタジエン分離材。
前記ジカルボン酸化合物(I)の組み合わせが、5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸ナトリウム、5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸リチウム、または5−ニトロイソフタル酸と5−tert−ブチルイソフタル酸のいずれかである、請求項1または2のいずれかに記載の1,3−ブタジエン分離材。
前記ジピリジル化合物(II)が、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、4,4’−アゾビスピリジン、および4,4’−ジピリジルジスルフィドからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の1,3−ブタジエン分離材。
前記金属イオンがコバルトイオン、ニッケルイオンおよび亜鉛イオンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか一項に記載の1,3−ブタジエン分離材。
前記1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素が1−ブテン、イソブテン、trans−2−ブテン、cis−2−ブテン、イソブタン、およびn−ブタンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜6のいずれか一項に記載の1,3−ブタジエン分離材。
1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む混合ガスを分離材と接触させ、1,3−ブタジエンを前記分離材に選択的に吸着させる吸着工程と、その後、前記分離材に吸着された1,3−ブタジエンを前記分離材から脱着させて、脱離してくる1,3−ブタジエンを捕集する再生工程とを含む、混合ガスから1,3−ブタジエンを分離する方法において、前記分離材が請求項1〜7のいずれか一項に記載の分離材であることを特徴とする1,3−ブタジエンの分離方法。
1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む混合ガスを分離膜に接触させ、前記分離膜を通して1,3−ブタジエンを選択的に透過させることを含む、前記混合ガスよりも1,3−ブタジエン濃度が高いガスを得る1,3−ブタジエンの分離方法において、前記分離膜が請求項11または12のいずれかに記載の分離膜であることを特徴とする1,3−ブタジエンの分離方法。
ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、およびカドミウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属の塩と、二種以上の前記ジカルボン酸化合物(I)と、前記ジピリジル化合物(II)とを反応させて、金属錯体を析出させることを含む、請求項1に記載の金属錯体の製造法であって、前記反応中に湿式摩砕を行うことを特徴とする、製造方法。
【背景技術】
【0002】
炭化水素を含む混合ガス中から、目的の炭化水素ガス(たとえば、1,3−ブタジエン)を分離回収する技術がこれまでに知られている。
【0003】
分離・回収の対象となる炭化水素ガスの一例として、1,3−ブタジエンが挙げられる。1,3−ブタジエンは、合成ゴム製造のための出発物質として、また、非常に多くの化合物の中間体としても有用な化合物である。1,3−ブタジエンは一般にナフサの熱分解やブテンの脱水素によって製造される。これらの製造方法では1,3−ブタジエンは混合ガスの一成分として得られる。したがって、この混合ガス中から、1,3−ブタジエンを選択的に分離・回収することが必要となる。混合ガス中の炭素数4の主成分としては、1,3−ブタジエン、イソブテン、1−ブテン、trans−2−ブテン、cis−2−ブテン、n−ブタン、イソブタンなどが挙げられる。これらは、炭素数が同じであり、沸点も近いため、工業的に採用されている蒸留法では分離が困難である。
【0004】
他の分離方法の一つとして抽出蒸留法が挙げられる。この方法はDMFなどの極性溶媒を用いた吸収法であるため、極性溶媒中から1,3−ブタジエンを回収する際に、非常に多くのエネルギーを使用する。したがって、より省エネルギーで1,3−ブタジエンを分離・回収する方法として、吸着法による分離が望まれている。
【0005】
しかしながら、従来の多孔性材料(特許文献1)は目的とするガスの分離性能が低いため、多段階で分離する必要があり、分離装置の大型化が不可避であった。
【0006】
従来の多孔性材料より優れた分離性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化が生じる多孔性金属錯体が開発されている(非特許文献1および非特許文献2)。これらに記載された多孔性材料をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0007】
この多孔性材料を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0008】
しかしながら、さらなるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するためには、吸着性能、分離性能などのさらなる向上が求められている。
【0009】
亜鉛イオン、各種イソフタル酸誘導体および1,2−ジ(4−ピリジル)エチレンからなる金属錯体[Zn(R−ip)(bpe)](R=H、Me、NO
2、I)が開示されている(特許文献2および非特許文献3)。しかしながら、これらの開示には、炭素数2の炭化水素に関する吸着、分離特性については検討がなされているものの、1,3−ブタジエンを含む炭素数4の炭化水素ガスの吸着、分離特性については検討がなされていない。
【0010】
複数の配位子を混合することで吸着開始圧を変える試みが、亜鉛イオン、各種イソフタル酸誘導体および4、4’−ビピリジルからなる金属錯体に関して開示されている(特許文献3および非特許文献4)。しかしながら、これらの開示には4、4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子からなる金属錯体の1,3−ブタジエン分離特性については検討がなされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む混合ガス中から、1,3−ブタジエンを選択的に分離・回収することができる、従来よりも優れた分離材および分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、金属イオン、ジカルボン酸化合物(I)およびジピリジル化合物(II)からなる金属錯体であって、当該ジカルボン酸化合物(I)が2種類以上のジカルボン酸化合物(I)から構成される金属錯体を含む分離材を用いた場合に、上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の[1]〜[13]に関する。
【0015】
[1]
1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む混合ガス中から1,3−ブタジエンを選択的に吸着する1,3−ブタジエン分離材であって、下記一般式(I):
【化1】
(式中、Xは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素数2〜4のアシロキシ基、ヒドロキシ基、炭素数2〜4のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜4のジアルキルアミノ基、炭素数2〜4のアシルアミノ基、スルホ基、スルホネート基、カルボキシ基またはハロゲン原子のいずれかであり、Xが窒素原子の場合にYは存在しない。R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と;
ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、およびカドミウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンと;
下記一般式(II):
L−Z−L (II)
(式中、Lは
【化2】
のいずれかで表され、R
4、R
5、R
6およびR
7はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはハロゲン原子のいずれかであり、
Zは、−CR
8R
9−CR
10R
11−(式中、R
8、R
9、R
10およびR
11はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基、またはハロゲン原子のいずれかである)、炭素数3〜4のアルキレン基、−CH=CH−、−C≡C−、−S−S−、−N=N−、−O−CH
2−、−NH−CH
2−または−NHCO−のいずれかである。)で表されるジピリジル化合物(II)とからなる金属錯体であって、
前記ジカルボン酸化合物(I)として異なる二種以上のジカルボン酸化合物(I)を含むことを特徴とする金属錯体を含む1,3−ブタジエン分離材。
[2]
前記ジカルボン酸化合物(I)が、イソフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−tert−ブチルイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸、5−ニトロイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、5−スルホイソフタル酸リチウム、およびトリメシン酸からなる群より選択される二種以上である[1]に記載の1,3−ブタジエン分離材。
[3]
前記ジカルボン酸化合物(I)の組み合わせが、5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸ナトリウム、5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸リチウム、または5−ニトロイソフタル酸と5−tert−ブチルイソフタル酸のいずれかである、[1]または[2]のいずれかに記載の1,3−ブタジエン分離材。
[4]
前記ジピリジル化合物(II)が、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、4,4’−アゾビスピリジン、および4,4’−ジピリジルジスルフィドからなる群より選択される少なくとも一種である[1]〜[3]のいずれかに記載の1,3−ブタジエン分離材。
[5]
前記金属イオンがコバルトイオン、ニッケルイオンおよび亜鉛イオンからなる群より選択される少なくとも一種である[1]〜[4]のいずれかに記載の1,3−ブタジエン分離材。
[6]
前記金属錯体が、擬ダイヤモンド骨格が三重に相互貫入した構造を有する[1]〜[5]のいずれかに記載の1,3−ブタジエン分離材。
[7]
前記1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素が1−ブテン、イソブテン、trans−2−ブテン、cis−2−ブテン、イソブタン、およびn−ブタンからなる群より選択される少なくとも一種である[1]〜[6]のいずれかに記載の1,3−ブタジエン分離材。
[8]
1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む混合ガスを分離材と接触させ、1,3−ブタジエンを前記分離材に選択的に吸着させる吸着工程と、その後、前記分離材に吸着された1,3−ブタジエンを前記分離材から脱着させて、脱離してくる1,3−ブタジエンを捕集する再生工程とを含む、混合ガスから1,3−ブタジエンを分離する方法において、前記分離材が[1]〜[7]のいずれかに記載の分離材であることを特徴とする1,3−ブタジエンの分離方法。
[9]
前記分離方法が圧力スイング吸着法である[8]に記載の1,3−ブタジエンの分離方法。
[10]
前記分離方法が温度スイング吸着法である[8]に記載の1,3−ブタジエンの分離方法。
[11]
多孔質支持体と、前記多孔質支持体の表層部に付着した[1]〜[7]のいずれかに記載の1,3−ブタジエン分離材とを含む分離膜。
[12]
高分子材料と、前記高分子材料に混練分散された[1]〜[7]のいずれかに記載の1,3−ブタジエン分離材とを含む分離膜。
[13]
1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む混合ガスを分離膜に接触させ、前記分離膜を通して1,3−ブタジエンを選択的に透過させることを含む、前記混合ガスよりも1,3−ブタジエン濃度が高いガスを得る1,3−ブタジエンの分離方法において、前記分離膜が[11]または[12]のいずれかに記載の分離膜であることを特徴とする1,3−ブタジエンの分離方法。
[14]
ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、およびカドミウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属の塩と、二種以上の前記ジカルボン酸化合物(I)と、前記ジピリジル化合物(II)とを反応させて、金属錯体を析出させることを含む、[1]に記載の金属錯体の製造法であって、前記反応中に湿式摩砕を行うことを特徴とする、製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、1,3−ブタジエンを含む混合ガスから従来よりも高い分離性能で1,3−ブタジエンを分離・回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1,3−ブタジエン分離材>
本発明の1,3−ブタジエン分離材は、ジカルボン酸化合物(I)と、特定の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能なジピリジル化合物(II)とからなり、ジカルボン酸化合物(I)が異なる二種類以上のジカルボン酸化合物(I)である金属錯体を含むことを特徴とする。本発明の1,3−ブタジエン分離材は、例えば1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む混合ガスの中から、1,3−ブタジエンを選択的に分離するために使用することができる。1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素は、1−ブテン、イソブテン、trans−2−ブテン、cis−2−ブテン、イソブタン、およびn−ブタンからなる群より選択される少なくとも一種であることができる。
【0019】
<金属錯体>
本発明に用いられる金属錯体は、二種以上のジカルボン酸化合物(I)と、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、およびカドミウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属の塩と、該金属のイオンに二座配位可能なジピリジル化合物(II)とを、溶媒中で数分から数日間反応させ、結晶を析出させて製造することができる。
【0020】
<ジカルボン酸化合物(I)>
本発明に用いられるジカルボン酸化合物(I)は下記一般式(I):
【化3】
(式中、Xは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素数2〜4のアシロキシ基、ヒドロキシ基、炭素数2〜4のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜4のジアルキルアミノ基、炭素数2〜4のアシルアミノ基、スルホ基、スルホネート基、カルボキシ基またはハロゲン原子のいずれかであり、Xが窒素原子の場合にYは存在しない。R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。)で表される。
【0021】
一般式(I)のXは炭素原子または窒素原子である。Xが窒素原子の場合、Yは存在しない。
【0022】
Xが炭素原子の場合、Yは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素数2〜4のアシロキシ基、ヒドロキシ基、炭素数2〜4のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜4のジアルキルアミノ基、炭素数2〜4のアシルアミノ基、スルホ基(−SO
3H)、スルホネート基(−SO
3Naなど)、カルボキシ基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0023】
炭素数1〜4のアルキル基の例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が挙げられる。
【0024】
該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜4のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基が置換基を有する場合、置換基の数は1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0025】
炭素数2〜4のアルケニル基の例としてはビニル基、アリル基、1−プロペニル基、ブテニル基が挙げられる。
【0026】
炭素数1〜4のアルコキシ基の例としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が挙げられる。
【0027】
炭素数2〜4のアシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が挙げられる。
【0028】
炭素数2〜4のアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が挙げられる。
【0029】
炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基の例としてはメチルアミノ基が挙げられる。炭素数2〜4のジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が挙げられる。炭素数2〜4のアシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が挙げられる。
【0030】
ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0031】
スルホネート基の例としては、リチウムスルホネート基、ナトリウムスルホネート基、カリウムスルホネート基が挙げられる。
【0032】
一般式(I)におけるR
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。R
1、R
2およびR
3は同一でも、異なっていてもよい。
【0033】
R
1、R
2およびR
3の炭素数1〜4のアルキル基の例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が挙げられる。
【0034】
該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜4のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基が置換基を有する場合、置換基の数は1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0035】
ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0036】
Xが窒素原子の場合、ジカルボン酸化合物(I)としては3,5−ピリジンジカルボン酸が挙げられる。
【0037】
擬ダイヤモンド構造のとりやすさの観点から、R
1、R
2、およびR
3はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子であることが好ましい。Xが炭素原子の場合、Yは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシ基またはスルホネート基であることが好ましい。置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基はメチル基、およびtert−ブチル基が好ましい。炭素数1〜4のアルコキシ基はメトキシ基が好ましい。
【0038】
ジカルボン酸化合物(I)としては、R
1、R
2、およびR
3が水素原子であり、Xが炭素原子であって、Yが水素原子、メチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、ニトロ基、スルホネート基、またはカルボキシ基のいずれかであるジカルボン酸が好ましい。具体的には、イソフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−tert−ブチルイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸、5−ニトロイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、5−スルホイソフタル酸リチウム、およびトリメシン酸が好ましく、イソフタル酸、5−メチルイソフタル酸および5−ニトロイソフタル酸がより好ましく、分離性能の観点から、5−ニトロイソフタル酸が最も好ましい。
【0039】
本発明はジカルボン酸化合物(I)を二種以上組み合わせて金属錯体を構成することに特徴がある。ジカルボン酸化合物(I)を二種以上組み合わせることにより、一種類のジカルボン酸化合物(I)から構成された金属錯体と比べて、1,3−ブタジエンの吸着開始圧が下がるため、1,3−ブタジエンの回収率が上がるという効果がある。
【0040】
ジカルボン酸化合物(I)の組み合わせとしては、5−ニトロイソフタル酸とイソフタル酸、5−ニトロイソフタル酸と5−メチルイソフタル酸、5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸ナトリウム、5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸リチウム、5−ニトロイソフタル酸と5−tert−ブチルイソフタル酸、5−ニトロイソフタル酸と3,5−ピリジンジカルボン酸、および5−ニトロイソフタル酸とトリメシン酸が好ましい。さらに、吸着性能の観点から、5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸ナトリウム、5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸リチウム、5−ニトロイソフタル酸と5−tert−ブチルイソフタル酸の組み合わせがより好ましく、5−ニトロイソフタル酸と5−tert−ブチルイソフタル酸がさらにより好ましい。
【0041】
二種以上のジカルボン酸化合物(I)のうち、ベースとなるジカルボン酸化合物(I)の量は、ジカルボン酸化合物(I)の合計量(モル数)を基準として70〜95mol%であることが好ましく、80〜90mol%がより好ましい。
【0042】
ベースとなるジカルボン酸化合物(I)が5−ニトロイソフタル酸の場合、他のジカルボン酸化合物(I)との好ましい比率は上記に準ずる。
【0043】
5−ニトロイソフタル酸と5−スルホイソフタル酸塩の比率は、ジカルボン酸化合物(I)の合計量(モル数)に対して5−スルホイソフタル酸塩の割合が5〜30mol%であることが好ましい。吸着性能の観点から、より好ましくは、10〜20mol%である。
【0044】
5−ニトロイソフタル酸と5−tert−ブチルイソフタル酸の比率は、ジカルボン酸化合物(I)の合計量(モル数)に対して5−tert−ブチルイソフタル酸の割合が5〜30mol%であることが好ましい。吸着性能の観点から、より好ましくは10〜20mol%である。
【0045】
<金属イオン>
本発明の分離材に用いられる金属錯体を構成する金属イオンはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、およびカドミウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンである。これらの中でも錯体形成の観点からコバルトイオン、ニッケルイオンおよび亜鉛イオンが好ましく、亜鉛イオンがより好ましい。
【0046】
本発明の金属錯体を製造する際には前記金属の塩、水酸化物または酸化物を金属原料として用いることができる。金属原料としては単一の金属原料を使用することが好ましいが、2種以上の金属原料を混合して用いてもよい。これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。これらの中でも、反応に伴う複生成物の観点から、水酸化物および酸化物が好ましく、酸化物がより好ましい。
【0047】
<ジピリジル化合物(II)>
本発明に用いられるジピリジル化合物(II)は金属イオンに二座配位可能な有機配位子であり、下記一般式(II)で表される。
L−Z−L (II)
(式中、Lは
【化4】
のいずれかで表され、R
4、R
5、R
6およびR
7はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはハロゲン原子のいずれかであり、
Zは、−CR
8R
9−CR
10R
11−(式中、R
8、R
9、R
10およびR
11はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基、またはハロゲン原子のいずれかである)、炭素数3〜4のアルキレン基、−CH=CH−、−C≡C−、−S−S−、−N=N−、−O−CH
2−、−NH−CH
2−または−NHCO−のいずれかである。)
【0048】
Lを構成するR
4、R
5、R
6およびR
7はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはハロゲン原子のいずれかである。炭素数1〜4のアルキル基およびハロゲン原子の例としては、ジカルボン酸化合物(I)について説明したものが挙げられる。R
4、R
5、R
6およびR
7は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であることがガス吸着量の面で好ましく、R
4、R
5、R
6およびR
7のすべてが水素原子であることがより好ましい。
【0049】
Zは、−CR
8R
9−CR
10R
11−(式中、R
8、R
9、R
10およびR
11はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基、またはハロゲン原子のいずれかである)、炭素数3〜4のアルキレン基、−CH=CH−、−C≡C−、−S−S−、−N=N−、−O−CH
2−、−NH−CH
2−または−NHCO−のいずれかである。炭素数1〜4のアルキル基およびハロゲン原子の例としては、ジカルボン酸化合物(I)について説明したものが挙げられる。炭素数3〜4のアルキレン基の例としては1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基等が挙げられる。
【0050】
Zは擬ダイヤモンド構造のとりやすさの観点から−CR
8R
9−CR
10R
11−(式中、R
8、R
9、R
10およびR
11はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基、またはハロゲン原子のいずれかである)、炭素数3〜4のアルキレン基、−CH=CH−、−S−S−、または−NHCO−のいずれかであることが好ましい。特に、−CR
8R
9−CR
10R
11−(式中、R
8、R
9、R
10およびR
11のすべてが水素原子)、−CR
8R
9−CR
10R
11−(式中、R
8およびR
10が水素原子、R
9およびR
11がヒドロキシ基)、1,3−プロピレン基、−CH=CH−、−S−S−、−N=N−および−NHCO−がより好ましい。
【0051】
ジピリジル化合物(II)としては擬ダイヤモンド構造のとりやすさの観点から1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレングリコール、1,3−ジ(4−ピリジル)プロパン、4,4’−アゾビスピリジン、4、4’−ジピリジルジスルフィド、およびN−(4−ピリジル)イソニコチアミドが好ましく、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、4,4’−アゾビスピリジン、および4,4’−ジピリジルジスルフィドがより好ましい。
【0052】
<金属錯体の製造方法>
本発明の分離材に用いる金属錯体は、二種以上のジカルボン酸化合物(I)と、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、およびカドミウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属の塩と、該金属のイオンに二座配位可能なジピリジル化合物(II)とを、常圧下、溶媒中で数分から数日間反応させ、結晶を析出させて製造することができる。例えば、前記金属塩の水溶液または水を含む有機溶媒溶液と、二種以上のジカルボン酸化合物(I)およびジピリジル化合物(II)を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0053】
製造方法の一例として、湿式摩砕機を用いた方法がある。装置に、二種以上のジカルボン酸化合物(I)と、金属塩、ジピリジル化合物(II)、溶媒、および摩砕用ボールを投入し、摩砕操作を行いながら、反応を行うことができる。
【0054】
前記反応においては、原料を湿式摩砕機中で反応させ、結晶として析出してくる生成物の金属錯体を摩砕しつつ反応を完了させることが好ましい。湿式摩砕に用いる装置としてはボールミル、ロッドミル等の粉砕機およびニーダー等の混練機が挙げられる。摩砕機を用いることで、従来の水熱合成法等に比べて、粒子径の小さな金属錯体が得られるため、吸着速度の観点から有利である。また、合成時間も数分〜数時間程度で合成が完了するため、製造時間を大幅に短縮することができる。
【0055】
金属錯体を製造するときのジカルボン酸化合物(I)とジピリジル化合物(II)との混合比率は、ジカルボン酸化合物(I):ジピリジル化合物(II)=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。なお、前記ジカルボン酸化合物(I)の比率は二種以上のジカルボン酸化合物(I)の合計量に対するものであり、以下も同様である。
【0056】
金属錯体を製造するときの金属塩とジピリジル化合物(II)の混合比率は、金属塩:ジピリジル化合物(II)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になることがある。
【0057】
金属錯体を製造するための溶液におけるジカルボン酸化合物(I)のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しないことがある。
【0058】
金属錯体を製造するための溶液における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる
ことがある。
【0059】
金属錯体を製造するための溶液におけるジピリジル化合物(II)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しないことがある。
【0060】
<溶媒>
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。混合溶媒としては水1〜80質量%と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。水との混合溶媒に用いる有機溶媒としてはテトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒が好ましい。これらの溶媒の中でも、水単独、およびN,N−ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒が特に好ましい。溶媒に酸または塩基を追加して錯体形成に好適なpHに調節してもよい。
【0061】
混合溶媒中の水の濃度は生成する金属錯体の粒子サイズの観点から1〜80質量%が好ましく、3〜60質量%がより好ましく、5〜55質量%が最も好ましい。
【0062】
反応温度は、−20〜150℃が好ましく、50〜130℃がより好ましい。反応時間は1〜24時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。なお、湿式摩砕機を用いる場合、反応温度は10〜30℃としてもよい。反応時間も10分から2時間程度に短縮することも可能である。
【0063】
反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、例えば60〜100℃で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。結晶性の高い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が優れている。結晶性を高めるには、酸または塩基を用いて適切なpHに調整すればよい。
【0064】
<金属錯体の構造>
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、金属イオン1つあたり2つのジカルボン酸化合物(I)のカルボキシラートイオンと2つのジピリジル化合物(II)が配位して形成される擬ダイヤモンド骨格が多重に相互貫入した三次元構造を有する。擬ダイヤモンド骨格の構造を
図1に、擬ダイヤモンド骨格が三重に相互貫入した三次元構造の模式図を
図2に示す。金属錯体は、擬ダイヤモンド骨格が三重に相互貫入した構造を有することが好ましい。
【0065】
本発明の分離材に用いられる金属錯体は、金属イオン:ジカルボン酸化合物(I):ジピリジル化合物(II)=1モル:1モル:1モルの比率で通常構成されるが、本発明の効果が得られる限り前記比率からの逸脱は許容される。
【0066】
本明細書において、「擬ダイヤモンド骨格」とは、金属イオン1つあたり2つのジカルボン酸化合物(I)のカルボキシラートイオンと2つのジピリジル化合物(II)が配位して形成されるダイヤモンド構造に似た三次元構造と定義する。
【0067】
本明細書において、「擬ダイヤモンド骨格が多重に相互貫入した構造」とは、複数の擬ダイヤモンド骨格が互いの細孔を埋める形で貫入し合った三次元集積構造と定義する。金属錯体が「擬ダイヤモンド骨格が多重に相互貫入した構造を有する」ことは、例えば結晶X線構造解析、粉末X線構造解析などにより確認できる。
【0068】
本発明の金属錯体の三次元構造は、合成後においても変化させることができる。金属錯体の三次元構造の変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造の変化は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度などに依存すると推定される。すなわち、細孔表面と吸着される物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例する)、吸着される物質により構造変化の程度が異なるため、本発明の金属錯体は高い選択性を示すものと考えられる。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の構造も元に戻ると考えられる。
【0069】
本発明では、一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物および一般式(II)で表されるジピリジル化合物を用いて相互貫入した擬ダイヤモンド骨格同士の相互作用の強さを制御することで、吸着開始圧を制御することができる。より具体的には、ベースとなる金属錯体(一種類のジカルボン酸化合物が用いられている場合)に対して、その錯体を構成するジカルボン酸化合物(「ジカルボン酸化合物A」とする。)よりも立体障害の大きなジカルボン酸化合物(「ジカルボン酸化合物B」とする。)を固溶化させることで、擬ダイヤモンド骨格同士の相互作用を弱くし、対象物質の吸着開始圧を下げることができる。このように、サイズの異なるジカルボン酸化合物を二種以上用いて合成することで、ガス吸着開始圧を低下させ、目的とするガスのみを選択的に吸着させることができる。
【0070】
また、本発明では、一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物および一般式(II)で表されるジピリジル化合物を用いて相互貫入した擬ダイヤモンド骨格同士の空隙の割合を制御して、吸着速度を制御することができる。より具体的には、ベースとなる金属錯体(一種類のジカルボン酸化合物が用いられている場合)に対して、その錯体を構成するジカルボン酸化合物(「ジカルボン酸化合物A」とする。)よりも立体障害の小さなジカルボン酸化合物(「ジカルボン酸化合物B」とする。)を固溶化させることで、擬ダイヤモンド骨格同士間に生じる空隙を大きくし、対象物質の細孔内の拡散速度を上げることができる。このように、サイズの異なるジカルボン酸化合物を二種以上用いて合成することで、ガス吸着速度を向上させ、より効率のよい分離プロセスを設計できる。
【0071】
前記の吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0072】
<1,3−ブタジエンの分離方法>
本発明の1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む混合ガスの中から、1,3−ブタジエンを分離する方法では、分離対象である1,3−ブタジエンを含む混合ガスを本発明の分離材と接触させ、1,3−ブタジエンを前記分離材に選択的に吸着させ、その後、前記分離材に吸着された1,3−ブタジエンを前記分離材から脱着させて、脱離してくる1,3−ブタジエンを捕集する。1,3−ブタジエンの脱着により分離材は再生する。
【0073】
混合ガスに含まれる1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素は特に限定されないが、沸点が1,3−ブタジエンと近いため従来の分離材では分離が困難な、イソブテン、1−ブテン、trans−およびcis−2−ブテンなどのブテン、n−ブタン、イソブタンなどのブタンなどの炭素数4の炭化水素を他のガスとして含む混合ガスから1,3−ブタジエンを分離する際に、本発明の分離材は特に有効である。
【0074】
混合ガスと分離材の接触は目的の1,3−ブタジエンのみが有効に分離材に吸着される温度、圧力条件を選択することが望ましい。
【0075】
分離方法は、1,3−ブタジエンが分離材に吸着される条件で、混合ガスと本発明の分離材とを接触させる吸着工程を含む。1,3−ブタジエンが分離材に吸着できる条件である吸着圧力および吸着温度は、装置の設計、製品ガスに要求される純度などに応じて適宜設定することができる。例えば、吸着工程において導入される混合ガス中の1,3−ブタジエン分圧は10〜200kPaが好ましく、30〜200kPaがより好ましい。また、吸着温度は−5〜100℃が好ましく、0〜50℃がより好ましい。
【0076】
分離方法は、圧力スイング吸着法または温度スイング吸着法とすることができる。
【0077】
分離方法が圧力スイング吸着法である場合は、1,3−ブタジエンを含む混合ガスを分離材と接触させ、目的の1,3−ブタジエンのみを分離材に選択的に吸着させた(吸着工程)後、圧力を、吸着圧力から吸着した1,3−ブタジエンを分離材から脱着させることができる圧力まで減圧する工程(再生工程)を含む。脱着圧力は、装置の設計、製造効率などに応じて適宜設定することができる。例えば、脱着圧力は0.05〜30kPaが好ましく、0.05〜10kPaがより好ましい。
【0078】
目的ガスが1,3−ブタジエンである場合の圧力スイング吸着法について
図3を参照して具体的に説明する。吸着塔AC1およびAC2には本発明の分離材が充填されている。1,3−ブタジエン、ブテン、ブタンなどを含む混合ガス(M)は、混合ガス貯槽MSからコンプレッサーで0.3MPa程度まで加圧されてバルブV1(「V1」と略す。以下同様。)を通り分離材が充填されている吸着塔AC1に供給される。
図7からわかるように1,3−ブタジエン分圧が40kPaを越えると吸着塔AC1内では1,3−ブタジエンが選択的に分離材に吸着される(吸着工程)。一方ブタン、ブテン類は吸着されず、吸着塔AC1から排出される。結果的にブタン、ブテン類が濃縮されたガス(B)は、V7を通り、製品貯槽PS2に送られる。次に吸着塔AC1は、V1、V5、V6およびV7が閉の状態、V2が開の状態で真空ポンプP1により吸気される。
図7からわかるように圧力が20kPaを下回ると吸着塔AC1の分離材に吸着された1,3−ブタジエンを主成分とするガス(BD)が脱着し、製品貯槽PS1に送られる(脱着工程)。同様にして吸着塔AC2についても吸着工程を完了させる。吸着塔AC1の脱着工程を所定時間実施した後、V1、V2、V3、V4、V7およびV8を閉、V5およびV6を開にして、吸着塔AC1と吸着塔AC2の圧力差を利用して吸着塔AC2内の残留混合ガスを吸着塔AC1へ回収する(均圧工程)。均圧工程を行うことで純度を落とすことなく、効率よく各製品ガスを得ることができる。次いで、吸着塔AC2は、V2、V3、V5、V6およびV8が閉の状態、V4が開の状態で真空ポンプP1により吸気され、このとき吸着された1,3−ブタジエンを主成分とするガス(BD)が脱着し、製品貯槽PS1に送られる。吸着塔AC1にはV2、V3、V5、V6およびV8が閉の状態、V1、V7が開の状態で1,3−ブタジエンを含む混合ガス(M)が供給され、再び吸着工程が実施される。吸着塔AC1と吸着塔AC2において、吸着および脱着の操作は、タイマーなどにより適宜設定されたサイクルで交互に繰り返し行われ、各製品ガスは連続的に製造される。
【0079】
分離方法が温度スイング吸着法である場合は、1,3−ブタジエンを含む混合ガスを分離材と接触させ、目的の1,3−ブタジエンのみを分離材に選択的に吸着させた(吸着工程)後、温度を、吸着温度から吸着した1,3−ブタジエンを分離材から脱着させることができる温度まで昇温する工程(再生工程)を含む。脱着温度は、装置の設計、製造効率などに応じて適宜設定することができる。例えば、脱着温度は−5〜150℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。圧力はスイングさせる温度範囲に依存し、0.1MPa以上かつ原料ガスが液化する圧力以下が好ましい。
【0080】
分離方法が圧力スイング吸着法または温度スイング吸着法である場合、混合ガスと分離材とを接触させる工程(吸着工程)と、1,3−ブタジエンを分離材から脱着させることができる圧力または温度まで変化させる工程(再生工程)を、適宜繰り返すことができる。
【0081】
上記以外の分離方法として膜分離も挙げられる。分離膜は金属錯体を多孔質支持体の表層部に例えば結晶成長により付着させることで得ることができる。多孔質支持体の材質としては、例えばアルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトなどのシリカまたはアルミナとその他の成分よりなる組成物、多孔質の焼結金属、多孔質ガラスなどを好適に用いることができる。また、ジルコニア、マグネシアなどの他の酸化物もしくは炭化珪素、窒化珪素などの炭化物もしくは窒化物などのセラミックス類、石膏、セメントなど、またはそれらの混合物を用いることができる。多孔質支持体の気孔率は、通常30〜80%程度であり、好ましくは35〜70%、もっとも好ましくは40〜60%である。気孔率が小さすぎる場合にはガスなどの流体の透過性が低下するので好ましくなく、大きすぎる場合には、支持体の強度が低下して好ましくない。また、多孔質支持体の細孔径は、通常10〜10,000nm、好ましくは100〜10,000nmである。金属錯体を多孔質支持体の表層部に結晶成長させて得られる分離膜は、金属錯体の原料を含む溶液中に多孔質支持体を含浸させ、必要に応じて加熱することによって得られる。
【0082】
また、分離膜は本発明の金属錯体を高分子材料と混練して高分子材料中に分散し、フィルム状に成形することによっても得ることができる。高分子材料としてはポリ酢酸ビニルポリイミド、ポリジメチルシロキサンなどのガス分離膜用高分子材料が挙げられる。
【0083】
膜分離では目的の1,3−ブタジエンを含む混合ガスを分離膜に接触させた場合、混合ガス中の各ガスの透過率Pは各ガスの膜への溶解度Sと膜中での拡散係数Dの積で表される。透過率Pが高いガスほど選択的に膜を透過するため、このようなガスを混合ガスから分離回収することができる。よって、1,3−ブタジエンの選択性が高い、本発明の金属錯体を膜化することにより、1,3−ブタジエンを選択的に透過させる膜を得ることができる。例えば、気体不透過性の外管と分離膜からなる内管とを備えた二重管の内管へ混合ガスを通気すると、1,3−ブタジエンが選択的に内管を透過し、外管と内管の間に濃縮されるのでこのガスを捕集することで目的の1,3−ブタジエンを分離することが可能となる。
【0084】
分離する混合ガス中の1,3−ブタジエンの割合は様々な値を取ることができるが、この割合は混合ガスの供給源に大きく依存する。1,3−ブタジエンの他に、混合ガスは少なくともイソブテン、1−ブテン、trans−およびcis−2−ブテンなどのブテン、n−ブタン、イソブタンなどのブタンなどの炭化水素を含み、さらに他の炭化水素を含んでもよい。混合ガスは好ましくは、混合ガス中にある1,3−ブタジエンと他の炭化水素(複数種であってもよい)の体積割合の合計に対して、1,3−ブタジエンを10〜99体積%含む。より好ましくは、1,3−ブタジエンの割合が20〜60体積%である。
【0085】
本発明の分離材はナフサ分解によって得られる炭素数4の留分(C4留分)の分離に適用可能である。例えば、1,3−ブタジエンを40体積%程度含む混合ガスを150kPa以上に加圧した後、本発明の分離材を充填した吸着塔に1〜10分間流通させる。その後、均圧の工程を経た後、真空ポンプで20kPa以下に減圧し、分離材に吸着された1,3−ブタジエンを回収することができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0087】
(1)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を150℃、50Paで6時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP(登録商標)−18HT、または日本ベル株式会社製BELSORP(登録商標)−HP
平衡待ち時間:500秒
【0088】
(2)粉末X線回折パターンの測定
株式会社リガク製のX線回折装置:マルチフレックスを用いて、回折角(2θ)=3〜50°の範囲を走査速度3°/分で走査し、対称反射法で測定した。単結晶構造からのXRPD回折パターンへの変換には、The Cambridge Crystallographic Data Centre製Mercury(ver2.3)を用いた。
【0089】
<実施例1>
[Zn(NO
2ip)
0.95(tBuip)
0.05(bpe)]の合成:
ジルコニア製容器(45mL)に、酸化亜鉛(0.41g,5.0mmol,1eq.)、5−ニトロイソフタル酸(1.00g,4.8mmol,0.95eq.)、5−tert−ブチルイソフタル酸(0.06g,0.3mmol,0.05eq.)、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン(0.92g,0.50mmol,1.0eq.)、蒸留水(5mL)、およびジルコニアボール(3mmφ、25g)を加え、常温(25℃)、400rpmで1時間、反応させながら湿式摩砕(フリッチュ社クラシックラインP−7を使用)した。その後、内容物を桐山漏斗(登録商標)を用いて濾過し、析出した金属錯体をイオン交換水、エタノールの順で洗浄後、乾燥した。金属錯体は白色固体として2.03g(収率:90%)得られた。得られた金属錯体は粉末X線回折パターン測定により、
図1および
図2に示した擬ダイヤモンド骨格が三重に相互貫入した構造を有する金属錯体であることを確認した。これを「金属錯体1」とする。
【0090】
<実施例1〜9、比較例1>
反応原料として表1に示した物質と量に変更した以外は実施例1と同様にして金属錯体2〜9および比較金属錯体1を製造した。なお、比較金属錯体1はジカルボン酸化合物(I)を一種類のみ用いている。
【0091】
<比較例2>
典型的な吸着材であるゼオライトとしてゼオライト13X(ユニオン昭和株式会社製)を用いた。
【0092】
<吸着等温線>
実施例1〜5、比較例1の金属錯体について25℃における1,3−ブタジエンの吸着等温線を測定した。結果を
図4および5に示す。ジカルボン酸化合物を二種含む実施例1〜5の金属錯体は比較例1の錯体よりも低圧から1,3−ブタジエンを吸着し始める。よって、本発明の錯体が1,3−ブタジエンの分離材として優れているのは明らかである。
【0093】
<吸着速度>
実施例6〜9、比較例1の金属錯体について25℃における1,3−ブタジエンの圧力を90kPaに保った条件下での吸着量の時間変化を測定した。結果を
図6に示す。ジカルボン酸化合物を二種含む実施例6〜9の金属錯体は比較例1よりも吸着速度(単位時間当たりの吸着量)が大きいことがわかる。よって、本発明の錯体が1,3−ブタジエンの分離材として優れているのは明らかである。
【0094】
<吸脱着等温線>
実施例2の金属錯体2および比較例2のゼオライトについて25℃における1,3−ブタジエンおよびtrans−2−ブテンの吸脱着等温線を測定した。結果をそれぞれ
図7および
図8に示す。
【0095】
図7によると本発明の金属錯体2は40〜100kPaの圧力範囲において1,3−ブタジエンを選択的に吸着することがわかる。したがって、1,3−ブタジエンおよびtrans−2−ブテンからなる混合ガスを金属錯体2と接触させて1,3−ブタジエンの分圧が40kPa以上の混合ガスを供給すると1,3−ブタジエンのみが選択的に吸着される。次に混合ガスの供給を止め、圧力を20kPa以下に下げると1,3−ブタジエンが脱着するので1,3−ブタジエンが濃縮されたガスを得ることができる。一方、
図8では0〜110kPaの圧力範囲において1,3−ブタジエンの選択的吸着性が劣っている。即ち、1,3−ブタジエン以外にtrans−2−ブテンも吸着されてしまい、1,3−ブタジエンのみを十分に濃縮することができない。
【0096】
【表1】