(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対の摺動部品の互いに相対摺動する摺動面の少なくとも一方側には、高圧流体側から入る入口部、高圧流体側に抜ける出口部、及び、前記入口部及び前記出口部とを連通する連通部から構成される流体循環溝が設けられ、前記流体循環溝は低圧流体側とはランド部により隔離されており、前記流体循環溝の底壁の断面が丸底形状に形成されていることを特徴とする摺動部品。
前記流体循環溝は、前記摺動面の周方向にランド部で隔離されて複数設けられ、前記入口部及び前記出口部は、平面視において低圧側から高圧側に向かってそれぞれ開く方向に傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
前記流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分には、前記流体循環溝より浅い正圧発生溝からなる正圧発生機構が設けられ、前記正圧発生機構は前記入口部に連通され、前記出口部及び前記高圧流体側とはランド部により隔離されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部品。
前記一方側の摺動面の前記流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分の外側には、前記摺動部品の相対摺動により流体を高圧流体側に排出するスパイラル溝が設けられ、前記スパイラル溝は、高圧流体側に連通され、低圧流体側とはランド部により隔離されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の摺動部品。
前記一方側の摺動面の前記流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分の外側には、前記流体循環溝より浅い負圧発生溝からなる負圧発生機構が設けられ、前記負圧発生溝は前記入口部に連通され、前記出口部及び前記低圧流体側とはランド部により隔離されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の摺動部品。
前記流体循環溝を流れる流体の前記連通部における圧力が低下されるように、少なくとも、前記入口部または前記出口部における溝の断面積は前記連通部における溝の断面積と異なるように設定されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の摺動部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、密封と潤滑という相反する条件を両立させつつ、摺動面に対して流体を積極的に取り入れ、摺動面から排出させることにより、摺動面における堆積物発生原因物質の濃縮を防止し、ひいては堆積物発生を防止し、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることのできる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、第1に、一対の摺動部品の互いに相対摺動する摺動面の少なくとも一方側には、高圧流体側から入る入口部、高圧流体側に抜ける出口部、及び、前記入口部及び前記出口部とを連通する連通部から構成される流体循環溝が設けられ、前記流体循環溝は低圧流体側とはランド部により隔離されており、前記流体循環溝の底壁の断面が丸底形状に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、密封と潤滑という相反する条件を両立させつつ、摺動面に対して流体を積極的に取り入れ、摺動面から排出させることにより、摺動面における堆積物発生原因物質の濃縮を防止し、ひいては堆積物発生を防止し、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることのできる摺動部品を提供することができる。
特に、流体循環溝の底壁の断面が丸底形状に形成されているため、底壁付近における流体の滞留が防止され、より流体循環効果を向上させることができる。
【0007】
また、本発明の摺動部品は、第2に、第1の特徴において、前記流体循環溝は、前記摺動面の周方向にランド部で隔離されて複数設けられ、前記入口部及び前記出口部は、平面視において低圧側から高圧側に向かってそれぞれ開く方向に傾斜されていることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面全体に均一に流体を取り入れ、排出することが容易である。
【0008】
また、本発明の摺動部品は、第3に、第1または第2の特徴において、前記流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分には、前記流体循環溝より浅い正圧発生溝からなる正圧発生機構が設けられ、前記正圧発生機構は前記入口部に連通され、前記出口部及び前記高圧流体側とはランド部により隔離されていることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面間の流体膜を増加させることにより潤滑性能を向上させ、また、ランド部により密封することにより、密封と潤滑という相反する条件を両立させつつ、摺動面における堆積物発生を防止できる摺動部品を提供することができる。
【0009】
また、本発明の摺動部品は、第4に、第3の特徴において、前記正圧発生機構は、レイリーステップ機構からなることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面にレイリーステップを設けることで容易に正圧発生機構を形成することができる。
【0010】
また、本発明の摺動部品は、第5に、第1ないし4のいずれかの特徴において、前記一方側の摺動面の前記流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分の外側には、前記摺動部品の相対摺動により流体を高圧流体側に排出するスパイラル溝が設けられ、前記スパイラル溝は、高圧流体側に連通され、低圧流体側とはランド部により隔離されていることを特徴としている。
この特徴によれば、正圧発生機構の設けられていないところの隣接する流体循環溝の間において高圧流体側から低圧流体側に漏洩しようとする被密封流体を高圧流体側に押し戻し、密封性を向上させるもので、摺動面全体の密封性の向上を図ることができる。また、スパイラル溝は低圧流体側とはランド部により隔離されているため、静止時において漏洩が生じることもない。
【0011】
また、本発明の摺動部品は、第6に、第1ないし4のいずれかの特徴において、前記一方側の摺動面の前記流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分の外側には、前記流体循環溝より浅い負圧発生溝からなる負圧発生機構が設けられ、前記負圧発生溝は前記入口部に連通され、前記出口部及び前記低圧流体側とはランド部により隔離されていることを特徴としている。
この特徴によれば、レイリーステップ機構の設けられていない部分であるところの隣接する流体循環溝の間において高圧流体側から低圧流体側に漏洩しようとする被密封流体を負圧発生溝に取り込み、流体循環溝を介して高圧流体側に戻すことにより、密封性を向上させ、摺動面全体の密封性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の摺動部品は、第7に、第6の特徴において、前記負圧発生機構は、逆レイリーステップ機構から構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面に逆レイリーステップを設けることで容易に負圧発生機構を形成することができる。
【0013】
また、本発明の摺動部品は、第8に、第1ないし7のいずれかの特徴において、前記流体循環溝を流れる流体の前記連通部における圧力が低下されるように、少なくとも、前記入口部または前記出口部における溝の断面積は前記連通部における溝の断面積と異なるように設定されていることを特徴としている。
この特徴によれば、流体循環溝を流れる流体の連通部における圧力を低下させ、摺動面に取り入れられた流体の低圧流体側への漏洩を防止することにより、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることのできる摺動部品を提供することができる。
【0014】
また、本発明の摺動部品は、第9に、第8の特徴において、前記入口部の溝の断面積が前記連通部および前記出口部の溝の断面積より小さく設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面に対する流体の取り入れを確保しつつ、流体循環溝を流れる流体の連通部における圧力を低下させることができる。
【0015】
また、本発明の摺動部品は、第10に、第8の特徴において、前記出口部の溝の断面積が前記連通部および前記入口部の溝の断面積より大さく設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面に対する流体の取り入れを確保しつつ、流体循環溝を流れる流体の連通部における圧力を低下させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)密封と潤滑という相反する条件を両立させつつ、摺動面に対して流体を積極的に取り入れ、摺動面から排出させることにより、摺動面における堆積物発生原因物質の濃縮を防止し、ひいては堆積物発生を防止し、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることのできる摺動部品を提供することができる。
特に、流体循環溝の底壁の断面が丸底形状に形成されているため、底壁付近における流体の滞留が防止され、より流体循環効果を向上させることができる。
【0017】
(2)流体循環溝は、摺動面の周方向にランド部で隔離されて複数設けられ、入口部及び出口部は、平面視において低圧側から高圧側に向かってそれぞれ開く方向に傾斜されていることにより、摺動面全体に均一に流体を取り入れ、排出することが容易である。
【0018】
(3)流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分には、流体循環溝より浅い正圧発生溝からなる正圧発生機構が設けられ、正圧発生機構は前記入口部に連通され、出口部及び高圧流体側とはランド部により隔離されていることにより、摺動面間の流体膜を増加させることにより潤滑性能を向上させ、また、ランド部により密封することにより、密封と潤滑という相反する条件を両立させつつ、摺動面における堆積物発生を防止できる摺動部品を提供することができる。
【0019】
(4)正圧発生機構が、レイリーステップ機構からなることにより、摺動面にレイリーステップを設けることで容易に正圧発生機構を形成することができる。
【0020】
(5)一方側の摺動面の前記流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分の外側には、前記摺動部品の相対摺動により流体を高圧流体側に排出するスパイラル溝が設けられ、前記スパイラル溝は、高圧流体側に連通され、低圧流体側とはランド部により隔離されていることにより、正圧発生機構の設けられていないところの隣接する流体循環溝の間において高圧流体側から低圧流体側に漏洩しようとする被密封流体を高圧流体側に押し戻し、密封性を向上させるもので、摺動面全体の密封性の向上を図ることができる。また、スパイラル溝は低圧流体側とはランド部により隔離されているため、静止時において漏洩が生じることもない。
【0021】
(6)一方側の摺動面の前記流体循環溝と高圧流体側とで囲まれる部分の外側には、流体循環溝より浅い負圧発生溝からなる負圧発生機構が設けられ、負圧発生溝は前記入口部に連通され、出口部及び低圧流体側とはランド部により隔離されていることにより、レイリーステップ機構の設けられていない部分であるところの隣接する流体循環溝の間において高圧流体側から低圧流体側に漏洩しようとする被密封流体を負圧発生溝に取り込み、流体循環溝を介して高圧流体側に戻すことにより、密封性を向上させ、摺動面全体の密封性を向上させることができる。
【0022】
(7)負圧発生機構が、逆レイリーステップ機構から構成されることにより、摺動面に逆レイリーステップを設けることで容易に負圧発生機構を形成することができる。
【0023】
(8)流体循環溝を流れる流体の前記連通部における圧力が低下されるように、少なくとも、前記入口部または前記出口部における溝の断面積は前記連通部における溝の断面積と異なるように設定されていることにより、流体循環溝を流れる流体の連通部における圧力を低下させ、摺動面に取り入れられた流体の低圧流体側への漏洩を防止することにより、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることのできる摺動部品を提供することができる。
【0024】
(9)入口部の溝の断面積が連通部および出口部の溝の断面積より小さく、又は、大さく設定されることにより、摺動面に対する流体の取り入れを確保しつつ、流体循環溝を流れる流体の連通部における圧力を低下させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0027】
図1ないし
図3を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側)、内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0028】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、高圧流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定環5とが設けられ、固定環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環5との互いの摺動面Sにおいて、被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
なお、
図1では、回転環3の摺動面の幅が固定環5の摺動面の幅より広い場合を示しているが、これに限定されることなく、逆の場合においても本発明を適用出来ることはもちろんである。
【0029】
図2は、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、ここでは、
図2の固定環5の摺動面に流体循環溝が形成される場合を例にして説明する。
なお、回転環3の摺動面に流体循環溝が形成される場合も基本的には同様であるが、その場合、流体循環溝は被密封流体側に連通すればよいため、摺動面の外周側まで設けられる必要はない。
【0030】
図2において、固定環5の摺動面の外周側が高圧流体側であり、また、内周側が低圧流体側、例えば大気側であり、相手摺動面は反時計方向に回転するものとする。
固定環5の摺動面には、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面の平滑部R(本発明においては、「ランド部」ということがある。)により隔離された流体循環溝10が周方向に複数設けられている。
【0031】
流体循環溝10は、高圧流体側から入る入口部10a、高圧流体側に抜ける出口部10b、及び、入口部10a及び出口部10bとを周方向に連通する連通部10cから構成され、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。流体循環溝10は、摺動面において腐食生成物などを含む流体が濃縮されることを防止するため、積極的に高圧流体側から被密封流体を摺動面上に導入し排出するという役割を担うものであり、相手摺動面の回転方向に合わせて摺動面上に被密封流体を取り入れ、かつ、排出しやすいように入口部10a及び出口部10bが形成される一方、漏れを低減するため、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
なお、流体循環溝の形状は、
図2に示すような略V字形、あるいは、略U字形のものなど種々の形態を取り得るが、本明細書においては原則として、「高圧流体側から入る入口部」とは流体循環溝の内径方向に向かう部分を、「高圧流体側に抜ける出口部」とは流体循環溝の外径方向に向かう部分を指すものとして説明する。したがって、「入口部と出口部とを連通する連通部」は、きわめて短い場合から相当程度の長さを有する場合がある。
【0032】
本例では、流体循環溝10は、摺動面の平面視において、摺動面の半径線rを基準にして左右略対称の形状に形成され、流体循環溝10の左右の部分、すなわち、入口部10aと出口部10bとのなす高圧流体側における交角αが120°〜180°の範囲に設定されている。
なお、流体循環溝10の平面視における形状において、半径線rを基準にして必ずしも左右対称の形状である必要はなく、入口部10aの交角α1を出口部10bの交角α2より大きくしてもよく、また、その逆であってもよい。
本明細書において、左右略対称という場合、α1=α2±5゜の範囲を意味する。
【0033】
また、交角αとしては、120°〜180°の範囲が好ましい範囲ではあるが、必ずしも、120°〜180°の範囲に限定されるものではない。
さらに、流体循環溝10の平面視における形状において、直線部分のない、全体として曲線状(円弧状など)にしてもよい。
また、流体循環溝10の幅及び深さは、被密封流体の圧力、種類(粘性)などに応じて最適なものに設定されればよい。
【0034】
図2に示す流体循環溝10は、左右対称であって、交角αが160°と大きいため、入口部10aへの被密封流体の流入及び出口部10bからの被密封流体の排出が容易である。
【0035】
流体循環溝10が設けられた摺動面には、流体循環溝10と高圧流体側とで囲まれる部分に流体循環溝10より浅い正圧発生溝11aを備える正圧発生機構11が設けられている。正圧発生機構11は、正圧(動圧)を発生することにより摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させるものである。
正圧発生溝11aは流体循環溝10の入口部に連通し、出口部10b及び高圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
本例では、正圧発生機構11は、流体循環溝10の入口部10aに連通する正圧発生溝11a及びレイリーステップ11bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、例えば、ダム付きフェムト溝で構成してもよく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
なお、レイリーステップ機構及び逆レイリーステップ機構については、後に、詳しく説明する。
【0036】
次に、
図3を参照しながら、流体循環溝10の断面形状について説明する。
なお、本発明において、流体循環溝の断面とは、該流体循環溝の長手方向と直交する断面を意味する。
図3(a)において、流体循環溝10溝は、両側壁10d、10dと底壁10eから構成され、底壁10eの断面は、両側壁10d、10dに繋がる単一の円弧でもって結ばれた丸底形状に形成されている。
すなわち、円弧の半径R1は、溝幅をdとして場合、
R1≧d/2
に設定されている。このため、底壁10eは半径R1の単一の円弧で結ばれた丸底形状に形成される。
また、両側壁10d、10dとランド部Rとは半径R2の円弧で接続されている。
【0037】
図3(b)は、流体循環溝10の断面形状の他の例を示したものである。
本例では、流体循環溝10溝の両側壁10d、10dと底壁10eとは、両隅において半径R3の円弧で結ばれている。半径R3の大きさは、溝幅をdとした場合、
d/3<R3<d/2
に設定されている。このため、底壁10eの中央部の一部には直線部を含むが、全体としては丸底形状となる。
なお、R3は、通常行われる隅部のR加工とは目的が異なることから、R加工におけるRよりは大きく設定される。
【0038】
また、底壁10eの形状は、必ずしも、両側壁10d、10dと底壁10eとが半径R1の単一の円弧あるいは両隅においてそれぞれR3の円弧で結ばれた丸底形状に限らず、例えば、楕円あるいは滑らかな曲線から構成された丸底形状を包含する。
なお、本発明において、
図3(a)及び
図3(b)に示す丸底形状の他、楕円あるいは滑らかな曲線から構成された丸底形状を総称して、「流体循環溝の底壁の断面が丸底形状に形成されている」という。
【0039】
底壁の断面が丸底形状の流体循環溝を形成する手法としては、例えば、摺動部品を型成形で製作する際、流体循環溝を同時に成形する方法がある。その他、機械加工等により成形してもよい。
【0040】
以上説明したように、実施例1の構成によれば、流体循環溝10により摺動面に流体が積極的に導かれ排出されることにより摺動面間の流体が循環し、堆積物発生原因物質などを含む流体の濃縮および摩耗粉や異物の滞留が防止され、ひいては堆積物の形成が防止され、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持することができる。その際、流体循環溝10はランド部Rにより低圧流体側と隔離されているため、流体循環溝10から低圧流体側への流体の漏洩を低減できると共に、静止時における漏洩も防止できる。また、同時に、正圧発生機構11により、摺動面間の流体膜を増加させることにより潤滑性能を向上させ、摺動面間の流体の循環をより一層促すことができる。さらに、流体循環溝10の底壁10eの断面が丸底形状に形成されていることにより、底壁付近における流体の滞留が防止され、より流体循環効果を向上させることができる。
【実施例2】
【0041】
図4を参照して、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
実施例2に係る摺動部品は、摺動面に流体循環溝10が周方向に4等配で配設されている点、及び、流体を高圧流体側に排出するスパイラル溝12が摺動面に付加的に設けられる点で実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0042】
図4において、固定環5の摺動面の流体循環溝10と高圧流体側とで囲まれる部分の外側、すなわち、隣接する流体循環溝10と10との間には、回転環3と固定環5との相対摺動により流体を高圧流体側に排出するスパイラル溝12が設けられている。スパイラル溝12は、内周側から外周側に向けて反時計方向に傾斜するように曲線状(スパイラル状)に複数本設けられ、高圧流体側には連通され、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。スパイラル溝12は、高圧流体側から低圧流体側に漏洩しようとする被密封流体を高圧流体側に押し戻し、密封性を向上させる役割を果たすもので、正圧発生機構11の設けられていないところの隣接する流体循環溝10と10との間における漏洩を防止し、摺動面全体の密封性の向上に寄与するものである。また、スパイラル溝12は低圧流体側とはランド部Rにより隔離されているため、静止時において漏洩が生じることもない。
【0043】
本例において、流体循環溝10の底壁は、実施例1と同じく、断面が丸底形状に形成されている。このため、底壁付近における流体の滞留が防止され、より流体循環効果を向上させることができる。
【実施例3】
【0044】
図5を参照して、本発明の実施例3に係る摺動部品について説明する。
実施例3に係る摺動部品は、実施例2のスパイラル溝の代わりに逆レイリーステップ機構15を設ける点で
図4に示す実施例2と相違するが、その他の基本構成は
図4と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0045】
図5において、固定環5の摺動面には、周方向に6等配に配設された流体循環溝10及びレイリーステップ機構11が設けられ、さらに、流体循環溝10と高圧流体側とで囲まれた部分の外側、すなわち、隣接する流体循環溝10、10の間には、流体循環溝10より浅い負圧発生溝を構成するグルーブ15a及び逆レイリーステップ15bからなる負圧発生機構を構成する逆レイリーステップ機構15が設けられている。グルーブ15aは入口部10aに連通し、出口部10b及び低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0046】
本実施例3において、負圧発生機構を構成する逆レイリーステップ機構15は、負圧の発生により高圧流体側から低圧流体側に漏洩しようとする被密封流体をグルーブ15aに取り込み、流体循環溝10を介して高圧流体側に戻し、密封性を向上させる役割を果たすもので、レイリーステップ機構15の設けられていない部分であるところの隣接する流体循環溝10と10との間における漏洩を防止し、摺動面全体の密封性を向上させるものである。
なお、レイリーステップ機構11及び逆レイリーステップ機構15の等配数やレイリーステップ機構11と逆レイリーステップ機構15の長さの比は、適宜最適なものを選定できる。
【0047】
本例において、流体循環溝10の底壁は、実施例1と同じく、断面が丸底形状に形成されている。このため、底壁付近における流体の滞留が防止され、より流体循環効果を向上させることができる。
【実施例4】
【0048】
図6を参照して、本発明の実施例4に係る摺動部品について説明する。
実施例4に係る摺動部品は、流体循環溝の入口部または出口部における溝の断面積が連通部における溝の断面積と異なるように設定されている点、及び、正圧発生機構が設けられていない点で
図2の場合と相違するが、その他の基本構成は
図2と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0049】
図6(a)において、流体循環溝10は、高圧流体側から入る入口部10a、高圧流体側に抜ける出口部10b、及び、入口部10a及び出口部10bとを周方向に連通する連通部10cから構成されている。流体循環溝10は、摺動面において腐食生成物などを含む流体が濃縮されることを防止するため、積極的に高圧流体側から被密封流体を摺動面上に導入し排出するという役割を担うものであり、相手摺動面の回転方向に合わせて摺動面上に被密封流体を取り入れ、かつ、排出しやすいように入口部10a及び出口部10bが形成される一方、漏れを低減するため、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0050】
なお、流体循環溝10は低圧流体側とはランド部Rにより隔離されているとはいっても、低圧流体側と圧力勾配が存在する限り微量の漏れは避けられず、
図6(a)に示す流体循環溝10のように低圧流体側に近い連通部10cにおいては最も圧力勾配が大きいため、連通部10cから流体の漏洩が発生しやすいものである。
【0051】
本例では、流体循環溝10は、入口部10a及び出口部10bの傾斜角度が大きく設定され、両者は低圧流体側(
図6(a)においては内周側)において交差するように略V字状に配設され、この交叉部が連通部10cを形成している。入口部10aと出口部10bとの交叉角度は鈍角(例えば、約150°)であるが、特にこれに限定されるものではなく、入口部10a及び出口部10bの傾きをさらに大きくしてもよく、また、直線状ではなく曲線状(円弧状など)にしてもよい。また、流体循環溝10の幅及び深さは、被密封流体の圧力、種類(粘性)などに応じて最適なものに設定されるが、この点については、後に、詳細に説明する。
【0052】
図6(a)に示す流体循環溝10は、入口部10a及び出口部10bの傾斜角度が大きいため、入口部10aへの流体の流入及び出口部10bからの流体の排出が容易である。 また、流入低圧流体側に近い連通部10cの長さが短いことから、連通部10cから低圧流体側への漏洩は減少される。
【0053】
次に、
図6及び
図7を参照しながら流体循環溝の断面形状について説明する。
まず、
図6(b)(c)を参照しながら、流体循環溝10の溝幅の大小により溝の断面積が変更される場合について説明する。
図6(b)は、入口部10aの溝幅b1が連通部10c及び出口部10bの溝幅bより小さく設定されている場合を示している。この場合、入口部10a、連通部10c及び出口部10bの溝深さは一定とされている。
図6(b)に示す入口部10aは、高圧流体側に面する入口面において溝幅がb1に設定され、連通部10cに向かってなだらかに拡大して溝幅bになるようにテーパ形状に形成されている。
【0054】
入口部10aの溝幅b1が連通部10cに向かって拡大する態様としては、高圧流体側に面する入口面から一定距離までは溝幅b1とし、その後、連通部10cに向かってなだらかに拡大するように設定される場合の他、高圧流体側に面する入口面から一定の距離までは溝幅b1とし、その後、段差部により急激に溝幅bまで拡大されるように設定されてもよい。
【0055】
図6(c)は、出口部10bの溝幅b2が連通部10c及び入口部10aの溝幅bより大きく設定されている場合を示している。この場合、入口部10a、連通部10c及び出口部10bの溝深さは同じである。
図6(c)に示す出口部10bは、連通部10cから出口部10bに向けてなだらかに拡大され、高圧流体側に面する出口面において溝幅がb2になるようにテーパ形状に形成されている。
【0056】
出口部10bの溝幅b2が連通部10cから出口部10bに向かって拡大する態様としては、高圧流体側に面する出口面から一定距離までは溝幅b2とし、その後、連通部10cに向かってなだらかに縮小するように設定される場合の他、高圧流体側に面する出口面から一定の距離までは溝幅b2とし、その後、段差部により急激に溝幅bまで縮小されるように設定されてもよい。
【0057】
以上のように、
図6(b)に示すように、流体循環溝10の入口部10aの溝幅b1は連通部10c及び出口部10bの溝幅bより小さく設定されている場合、溝深さが一定とされている場合であっても、溝の断面積が入口部10aにおいて連通部10c及び出口部10bより小さい。そのため、流体循環溝10の入口部10aにおける断面積が連通部10c及び出口部10bと同じ大きさで一定とされている場合に比べて、流体循環溝10への流体の流入量が減少し、低圧流体側に最も近い連通部10cにおける流体の圧力も低減される。その結果、連通部10cと低圧流体側との圧力勾配も小さくなり、低圧流体側に最も近い連通部10cからの漏れが減少されることになる。
また、
図6(c)に示すように、出口部10bの溝幅b2が連通部10c及び入口部10aの溝幅bより大きく設定されている場合、溝深さが一定とされている場合であっても、溝の断面積が出口部10bにおいて連通部10c及び出口部10bより大きい。そのため、流体循環溝10の出口部10bにおける断面積が連通部10c及び入口部10aと同じ大きさで一定とされている場合に比べて、出口部10bでの流体の排出抵抗が小さくなり、連通部10cにおける流体の圧力が低減される。その結果、連通部10cと低圧流体側との圧力勾配も小さくなり、低圧流体側に最も近い連通部10cからの漏れが減少されることになる。
【0058】
次に、
図7を参照しながら流体循環溝10の溝深さの大小により溝の断面積が変更される場合について説明する。
図7(a)において、流体循環溝の入口部10aの溝深さh1は高圧流体側に面する入口面において連通部10c及び出口部10bの溝深さhより小さく設定されている。この場合、入口部10a、連通部10c及び出口部10bの溝幅は一定とされている。
図7(a)に示す入口部10aは、高圧流体側に面する入口面においてランド部Rから溝底面10dまでの溝深さがh1に設定され、連通部10cに向かってなだらかに深くなるように底面10dがテーパ形状に形成されている。
【0059】
図7(b)に示す入口部10aは、高圧流体側に面する入口面から一定の距離mにおいてランド部Rから溝底面10dまでの溝深さがh1に設定され、その後、連通部10cに向かってなだらかに深くなるテーパ形状に形成されている。
【0060】
図7(c)に示す入口部10aは、高圧流体側に面する入口面から一定の距離mにおいてランド部Rから溝底面10dまでの溝深さがh1に設定され、その後、段差部により溝深さhまで深くなるように形成されている。
【0061】
以上のように、
図7に示す流体循環溝10の入口部10aの溝深さh1は連通部10c及び出口部10bの溝深さhより小さく設定されていることにより、溝幅が一定とされている場合であっても、溝の断面積が入口部10aにおいて連通部10c及び出口部10bより小さい。そのため、流体循環溝10の断面積が連通部10c及び出口部10bと同じ大きさで一定とされている場合に比べて、流体循環溝10への流体の流入量が減少し、低圧流体側に最も近い連通部10cにおける流体の圧力も低減される。その結果、連通部10cと低圧流体側との圧力勾配も小さくなり、低圧流体側に最も近い連通部10cからの漏れが減少されることになる。
【0062】
本例において、流体循環溝10の底壁は、実施例1と同じく、断面が丸底形状に形成されている。このため、底壁付近における流体の滞留が防止され、より流体循環効果を向上させることができる。
【0063】
なお、上記においては、溝深さ及び溝幅のいずれか一方を一定として他方を変化させる場合について説明したが、溝深さ及び溝幅の両方を変化させてもよく、要は、断面積が所望のとおりに変化されればよい。
【0064】
以上説明したように、実施例4の構成によれば、流体循環溝10により摺動面に流体が積極的に導かれ排出されることにより摺動面間の流体が循環し、堆積物発生原因物質などを含む流体の濃縮および摩耗粉や異物の滞留が防止され、ひいては堆積物の形成が防止され、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持することができる。その際、流体循環溝10を流れる流体の連通部10cにおける圧力が低下されるように、少なくとも、入口部10aまたは出口部10bにおける溝の断面積が連通部10cにおける溝の断面積と異なるように設定、より具体的には、入口部10aの溝の断面積が連通部10cおよび出口部10bの溝の断面積より小さく、あるいは、出口部10bの溝の断面積が連通部10cおよび入口部10aの溝の断面積より大さく設定されているため、流体循環溝10のもっとも低圧流体側に近い部分に位置する連通部10cから低圧流体側への流体の漏洩をより一層低減できる。また、流体循環溝10の底壁は、実施例1と同じく、断面が丸底形状に形成されているため、底壁付近における流体の滞留が防止され、より流体循環効果を向上させることができる。
【0065】
次に、
図8を参照しながら、レイリーステップ機構などからなる正圧発生機構及び逆レイリーステップ機構などからなる負圧発生機構を説明する。
図8(a)において、相対する摺動部品である回転環3、及び、固定環5が矢印で示すように相対摺動する。例えば、固定環5の摺動面には、相対的移動方向と垂直かつ上流側に面してレイリーステップ11bが形成され、該レイリーステップ11bの上流側には正圧発生溝であるグルーブ部11aが形成されている。相対する回転環3及び固定環5の摺動面は平坦である。
回転環3及び固定環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転環3及び固定環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転環3または固定環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、レイリーステップ11bの存在によって破線で示すような正圧(動圧)を発生する。
なお、10a、10bは流体循環溝の入口部、出口部を、また、Rはランド部を示す。
【0066】
図8(b)においても、相対する摺動部品である回転環3、及び、固定環5が矢印で示すように相対摺動するが、回転環3及び固定環5の摺動面には、相対的移動方向と垂直かつ下流側に面して逆レイリーステップ15bが形成され、該逆レイリーステップ15bの下流側には負圧発生溝であるグルーブ部15aが形成されている。相対する回転環3及び固定環5の摺動面は平坦である。
回転環3及び固定環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転環3及び固定環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転環3または固定環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、逆レイリーステップ15bの存在によって破線で示すような負圧(動圧)を発生する。
なお、10a、10bは流体循環溝の入口部、出口部を、また、Rはランド部を示す。
【0067】
次に、
図9を参照しながら、流体循環溝の底壁の断面が丸底形状である場合と、矩形状である場合との相違について説明する。
図9(a)は、流体循環溝の底壁の断面が矩形状である場のCFD解析結果を模したものであって、流体は右下の入口から右上の出口まで渦を巻きながら流体循環溝内を流れていくが、底壁の左右において流れのない箇所が見受けられ、この箇所において流体が滞留しているものと判断される。
これに対して、流体循環溝の底壁の断面が丸底形状である場合のCFD解析結果を模した
図9(b)の場合、流体の滞留がほとんどないことが確認できる。
【0068】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0069】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0070】
また、例えば、前記実施例では、外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが、内周側が高圧流体の場合にも適用できる。
【0071】
また、例えば、前記実施例では、摺動部品を構成するメカニカルシールの固定環に流体循環溝、正圧発生機構及び負圧発生機構又はスパイラル溝を設ける場合、について説明したが、これとは逆に、回転環に流体循環溝、正圧発生機構及び負圧発生機構又はスパイラル溝を設けてもよい。その場合、流体循環溝及びスパイラル溝は回転環の外周側まで設けられる必要はなく、被密封流体側と連通すればよい。