(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<たばこフィルター用トウバンド>
本発明のたばこフィルター用トウバンドは、複数本のフィラメントの集合体(集束体)が捲縮されたトウバンドであって、たばこ(紙巻たばこ)のフィルター(たばこフィルター)の構成材料として使用されるトウバンド(即ち、たばこフィルター用トウバンド)である。なお、本明細書において「フィラメント」とは、単繊維を意味するものとする。即ち、「フィラメント」は、紡糸装置における紡糸孔から吐出された繊維の一本一本を示す。また、本明細書において「トウバンド」とは、上述のように複数本のフィラメントの集合体であって、捲縮されたものを意味するものとする。即ち、「トウバンド」は、トータルデニールと捲縮数を持つものである。なお、本明細書においては、複数本のフィラメントが合一されてトウバンドとなるまでの繊維束(即ち、捲縮されていないもの)を「トウ」と称する。
【0016】
本発明のたばこフィルター用トウバンドのトータルデニール(TD)は、特に限定されないが、10000〜50000が好ましく、より好ましくは15000〜45000、さらに好ましくは17000〜45000である。トータルデニールを10000以上とすることにより、より均一に捲縮されたものとなる傾向がある。一方、トータルデニールを50000以下とすることにより、たばこフィルターの通気抵抗を適切な範囲とすることができる傾向がある。なお、「トータルデニール」とは、トウバンド9000m当たりのグラム数を示し、「全繊維度」や「トウバンド(トウの集合体)の繊維度」等と称される場合もある。本発明のたばこフィルター用トウバンドのトータルデニールは、主に、合一されるフィラメントのフィラメントデニール及びその本数等により制御できる。
【0017】
本発明のたばこフィルター用トウバンドの捲縮数は、特に限定されないが、30〜60個/インチが好ましく、より好ましくは30〜40個/インチである。捲縮数を30個/インチ以上とすることにより、たばこフィルターのフィルター性能がより向上する傾向がある。一方、捲縮数を60個/インチ以下とすることにより、たばこフィルターの機械強度がより向上する傾向がある。本発明のたばこフィルター用トウバンドの捲縮数は、主に、捲縮を施す工程の条件等により制御できる。
【0018】
本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成するフィラメントの数は、特に限定されないが、2000〜100000本が好ましく、より好ましくは2500〜50000本、さらに好ましくは2500〜30000本である。
【0019】
本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成するフィラメントのフィラメントデニールは、特に限定されないが、1〜20が好ましく、より好ましくは3.0〜9.0である。フィラメントデニールを上記範囲に制御することにより、たばこフィルターのフィルター性能がより向上する傾向がある。なお、「フィラメントデニール」とは、トウバンドを構成するフィラメント(単繊維)の9000m当たりのグラム数を示し、「単繊維デニール」等と称される場合もある。本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成するフィラメントのフィラメントデニールは、主に、フィラメントの紡糸条件等により制御できる。
【0020】
本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成するフィラメントとしては、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸等の公知乃至慣用の紡糸法により生成させたフィラメント等が挙げられる。また、本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成するフィラメントの素材(即ち、本発明のたばこフィルター用トウバンドの素材)は、特に限定されないが、例えば、セルロースエステル、天然セルロース、再生セルロース、合成ポリマー等が挙げられる。セルロースエステルとしては、例えば、セルロースアセテート(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等)、セルロースブチレート、セルロースプロピオネート等の有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、燐酸セルロース等の無機酸エステル;セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、硝酸酢酸セルロース等の混酸エステル;ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート等のセルロースエステル誘導体等が挙げられる。天然セルロースとしては、例えば、木材繊維(例えば、針葉樹、広葉樹等の木材パルプ等)、種子毛繊維(例えば、リンター等の綿花、ボンバックス綿、カポック等)、ジン皮繊維(例えば、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻等)等から得られる天然セルロース等が挙げられる。再生セルロースとしては、例えば、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、フォルチザン、硝酸人絹等が挙げられる。合成ポリマーとしては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリビニルアルコール、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
中でも、本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成するフィラメントの素材(即ち、本発明のたばこフィルター用トウバンドの素材)は、たばこの喫味を向上させる点で、セルロースエステルが好ましく、より好ましくはセルロースアセテートである。即ち、本発明のたばこフィルター用トウバンドは、セルロースエステルトウバンドであることが好ましく、より好ましくはセルロースアセテートトウバンドである。
【0022】
本発明のたばこフィルター用トウバンドがセルロースアセテートトウバンドである場合、該トウバンドを構成するセルロースアセテートの置換度(アセチル置換度)は、特に限定されないが、たばこの喫味をより向上させることができ、たばこフィルターとしての性能により優れる点で、2.0〜2.6が好ましく、より好ましくは2.3〜2.6である。
【0023】
本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成するフィラメントの断面形状は、特に限定されず、例えば、円形状であってもよく、異形状(例えば、楕円状、多角形状、T字状、I字状、Y字状、X字状等)であってもよい。また、中空状であってもよい。中でも、たばこフィルターとしての性能により優れる点で、Y字状(Y字型)が好ましい。
【0024】
なお、本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成するフィラメント(例えば、乾式紡糸により生成させたフィラメント)については、例えば、口金の形状やその他の紡糸条件を選択又は制御することによって、断面形状やフィラメントデニールの異なったものを得ることができる。
【0025】
本発明のたばこフィルター用トウバンドは、上述のように、該トウバンドの出所を識別するための標識物質を含むことが重要である。なお、この標識物質は、本発明のたばこフィルター用トウバンド又はこれを構成材料とするたばこフィルターから検出可能であるもの(例えば、後述の分析手段により検出可能なもの)である必要がある。本発明のたばこフィルター用トウバンドが標識物質を含む態様は、特に限定されないが、例えば、標識物質がトウバンドの表面(トウバンドを構成するフィラメントの表面の意味も含まれる)に添着された態様等が挙げられる。本発明のたばこフィルター用トウバンドにおいて標識物質を添着する方法としては、特に限定されないが、例えば、トウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)の表面を標識物質により処理する方法等が挙げられる。
【0026】
本発明のたばこフィルター用トウバンドにおける「標識物質」とは、トウバンドの出所を識別するための物質である。より詳しくは、本発明のたばこフィルター用トウバンド又はこれを構成材料とするたばこフィルターを分析することによって、たばこフィルターにおける標識物質の有無や種類(組成等)を特定し、これによりトウバンドの出所、即ち、トウバンドの製品ロット;該トウバンドの製造者及び販売者;該トウバンドの購入者;該トウバンドを構成材料とするたばこフィルターの製造者及び販売者;該たばこフィルターの購入者、加工者、及び販売者;これらに類する者(介在者等);並びにその流通ルート等の特定を可能とする、いわゆる識別コードとしての役割を果たす物質である。上述の分析は、製品として市場に流通するたばこから容易に採取できるたばこフィルターを試料とするものであるため、トウバンドの出所や流通ルートの特定を容易に行うことができる。例えば、市場に流通する不法たばこを入手した場合には、該不法たばこに使用されたたばこフィルターやこれを構成するトウバンドの出所や流通ルートを容易に特定することができる。
【0027】
上記分析の手段としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー、NMR、質量分析、イオンクロマトグラフィー等の公知乃至慣用の各種分析手段を、必要に応じて2種以上を組み合わせた上で、利用することができる。例えば、たばこからたばこフィルターを採取し、該たばこフィルターに含まれる成分を溶媒によって抽出し、この抽出液を試料として上記分析を実施することができる。
【0028】
上記抽出に使用される溶媒は、特に限定されず、本発明のたばこフィルター用トウバンドの素材、標識物質の種類等に応じて適宜選択することができる。上記溶媒としては、具体的には、例えば、水;ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等の溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。中でも、本発明のたばこフィルター用トウバンドがセルロースエステルトウバンド(特にセルロースアセテートトウバンド)である場合には、たばこフィルターやトウバンドからの標識物質の抽出をより効率的に行うことができる点で、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素等を好ましく使用できる。
【0029】
上記標識物質は、通常、1種又は2種以上の化合物からなる構成物である。即ち、上記標識物質としては、例えば、1種のみの化合物を使用することもできるし、2種以上の化合物の組み合わせを使用することもできる。上記標識物質は、特に、トレーサビリティがより向上する点で、2種以上の化合物の組み合わせからなる構成物であることが好ましい。上記標識物質においては、喫煙中に人体に取り込まれにくいか、無害であること;たばこフィルターにおける存在及び組成の確認を行うことができること(検出可能であること)等が主に重要視される。これらの観点から、以下に説明する化合物を標識物質として使用することが特に好ましい。
【0030】
特に限定されないが、上記標識物質として使用される化合物は、一般に乳化剤や界面活性剤として使用されるもの以外の化合物であることが好ましい。このような化合物を上記標識物質として使用することにより、本発明のたばこフィルター用トウバンド又はこれを構成材料とするたばこフィルターからトウバンドの出所及びその流通ルートを特定することがより容易となる傾向がある。
【0031】
上記標識物質として使用される化合物としては、特に、1気圧における沸点が100℃以上(例えば、100〜450℃)である化合物が好ましく、より好ましくは1気圧における沸点が150℃以上(例えば、150〜300℃)である化合物であり、さらに好ましくは1気圧における沸点が200℃以上(例えば、200〜280℃)である化合物である。1気圧における沸点が100℃以上の化合物は、喫煙中に揮発しにくいために人体に対して取り込まれにくく、また喫味を損ないにくい傾向がある。一方、1気圧における沸点が450℃以下の化合物を標識物質として使用することにより、本発明のたばこフィルター用トウバンド又はこれを構成材料とするたばこフィルターにおける標識物質の検出(例えば、ガスクロマトグラフィーによる検出)をより簡便に行うことができる傾向がある。なお、上記化合物は、常温(25℃)で液体の化合物であってもよいし、固体の化合物であってもよい。
【0032】
また、上記標識物質として使用される化合物としては、分子量が100〜1000の化合物が好ましく、より好ましくは150〜700、さらに好ましくは200〜500、特に好ましくは250〜450である。分子量が100以上の化合物は、喫煙中に揮発しにくいため、人体に対して取り込まれにくく、また喫味を損ないにくい傾向がある。一方、分子量が1000以下の化合物を標識物質として使用することにより、本発明のたばこフィルター用トウバンド又はこれを構成材料とするたばこフィルターにおける標識物質の検出(例えば、ガスクロマトグラフィーによる検出)をより簡便に行うことができる傾向がある。
【0033】
また、上記標識物質として使用される化合物としては、特に、溶解度パラメータ(SP値)(Fedors法、25℃)が7〜11(cal/cm
3)
1/2である化合物が好ましく、より好ましくは溶解度パラメータ(Fedors法、25℃)が7.3〜10.5(cal/cm
3)
1/2である化合物である。溶解度パラメータが7〜11(cal/cm
3)
1/2の化合物を標識物質として使用することにより、当該化合物が後述の繊維油剤との相容性に優れ、繊維油剤と混合した状態でトウバンドの表面に付与(添着)することを容易に行うことができるため、トウバンドの生産性がより向上する傾向がある。また、検出(特に、ガスクロマトグラフィーによる検出)をより容易に行うことができる傾向がある。なお、上記標識物質として2種以上の化合物からなる構成物を使用する場合、該構成物としての溶解度パラメータ(Fedors法、25℃)も上記範囲を満たすことが好ましい。
【0034】
上記標識物質として使用される化合物としては、その存在及び組成の分析、確認(検出)が容易であるものを特に好ましく使用することができる。具体的には、上記標識物質として好ましく使用される化合物としては、例えば、繊維油剤との相容性に優れるために添着が容易であり、また、検出がより容易である点で、長鎖の脂肪族炭化水素基(長鎖脂肪族炭化水素基)を分子内に1以上有する化合物が挙げられる。上記長鎖脂肪族炭化水素基とは、鎖長(炭素−炭素結合からなる鎖の長さ)が炭素数6以上(例えば、6〜30)である脂肪族炭化水素基を示す。上記長鎖脂肪族炭化水素基は、例えば、鎖長が炭素数8以上(例えば、8〜30)である脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0035】
上記長鎖脂肪族炭化水素基は、直鎖状の脂肪族炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の脂肪族炭化水素基であってもよい。上記長鎖脂肪族炭化水素基が分岐鎖状の脂肪族炭化水素基である場合、その鎖長は、その長さが最も長くなる鎖(主鎖)の長さをいう。
【0036】
上記長鎖脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。上記長鎖脂肪族炭化水素基が不飽和脂肪族炭化水素基である場合、その不飽和基は、炭素−炭素二重結合であってもよいし、炭素−炭素三重結合であってもよい。特に、上記不飽和基は炭素−炭素二重結合であることが好ましい。また、上記長鎖脂肪族炭化水素基が不飽和脂肪族炭化水素基である場合、その不飽和基の数は特に限定されず、例えば、1〜10個であってもよい。
【0037】
上記長鎖脂肪族炭化水素基としては、変質を生じにくく、より容易に検出を行うことができる点で、飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0038】
上記長鎖脂肪族炭化水素基を構成する炭素原子の総数(総炭素数)は、6以上であればよく、特に限定されないが、例えば、8〜40が好ましく、より好ましくは10〜40、さらに好ましくは12〜32である。
【0039】
上記標識物質として使用される化合物(長鎖脂肪族炭化水素基を有する化合物)が分子内に有する長鎖脂肪族炭化水素基の数は、特に限定されないが、例えば、1〜4が好ましく、より好ましくは1又は2である。なお、上記長鎖脂肪族炭化水素基を1種のみ有するものであってもよいし、2種以上有するものであってもよい。
【0040】
また、上記標識物質として好ましく使用される化合物としては、分子内に1以上の酸素原子を有する化合物も挙げられる。当該化合物が酸素原子を有する態様は、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ基、エステル結合、エーテル結合(鎖状エーテル結合、環状エーテル結合等)、カルボニル基、カーボネート基等の酸素原子含有基又は結合を有する態様等が挙げられる。上述の酸素原子を有する化合物は、上記酸素原子含有基又は結合を1種のみ有するものであってもよいし、2種以上有するものであってもよい。
【0041】
より具体的には、上述の酸素原子を有する化合物としては、例えば、アルコール化合物、フェノール化合物、鎖状エーテル化合物、環状エーテル化合物、エステル化合物、ケトン化合物、カーボネート化合物、カルボン酸化合物等が挙げられる。中でも、上述の酸素原子を有する化合物は、上記長鎖脂肪族炭化水素基を分子内に1以上有する化合物であることが好ましい。即ち、上記標識物質として使用される化合物としては、分子内に1以上の上記長鎖脂肪族炭化水素基と、1以上の酸素原子とを有する化合物が特に好ましい。
【0042】
上述の酸素原子を有する化合物が分子内に有する酸素原子の数は、特に限定されないが、繊維油剤との相容性、検出の行いやすさの観点で、1〜10が好ましく、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3である。
【0043】
上記標識物質として使用される化合物の具体例としては、例えば、炭素数8〜40の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素(飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素);下記式(1)で表される化合物;下記式(2)で表される化合物;下記式(3)で表される化合物;ステロール類等が挙げられる。但し、標識物質として使用される化合物は、これらの具体例には限定されない。
【化1】
【化2】
【化3】
【0044】
上述の炭素数8〜40の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素としては、分子内に上記長鎖脂肪族炭化水素基を1以上有する脂肪族炭化水素(直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素)等が挙げられる。
【0045】
式(1)中、R
1は、炭素数8〜40の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基を示す。mは1以上の整数を示す。mとしては、1〜4が好ましく、より好ましくは1又は2である。なお、式(1)におけるR
1に対するヒドロキシ基の結合位置は、特に限定されないが、分子内に上記長鎖脂肪族炭化水素(特に、鎖長が炭素数8以上の脂肪族炭化水素基)が存在するような結合位置であることが好ましい。
【0046】
式(2)中、R
2は、上述の長鎖脂肪族炭化水素基(一価の基;特に、鎖長が炭素数8以上の脂肪族炭化水素基)を示す。R
3は、炭素数1〜20の炭化水素基(一価の基)を示し、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの2以上が結合して形成される炭化水素基等が挙げられる。R
3としては、特に、脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。
【0047】
式(3)中、nは式中に示される芳香族環に結合するヒドロキシ基の数であり、1〜4の整数を示す。nとしては、1〜3が好ましく、より好ましくは1又は2である。R
4は式中に示される芳香族環に結合する置換基であり、炭素数1〜20の炭化水素基(一価の基)、又はハロゲン原子を示す。R
4としては、特に、脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。R
4が複数存在する場合、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。pは式中に示される芳香族環に結合するR
4の数であり、0〜3の整数を示す。pとしては1〜3が好ましい。また、R
5は、上述の長鎖脂肪族炭化水素基(一価の基)を示し、式中に示されるテトラヒドロピラン環に結合する基である。R
5のテトラヒドロピラン環における結合位置は、特に限定されない。R
6は式中に示されるテトラヒドロピラン環に結合する置換基であり、炭素数1〜20の炭化水素基(一価の基)、又はハロゲン原子を示す。R
6としては、特に、脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。R
6が複数存在する場合、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。qは式中に示されるテトラヒドロピラン環に結合するR
6の数であり、0〜5の整数を示す。qとしては0〜2が好ましい。
【0048】
上述のステロール類としては、例えば、コレステロール;β−シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール、ブラシカステロール等のフィトステロール等が挙げられる。
【0049】
標識物質として使用される化合物は、例えば、ガスクロマトグラフィー用の標準物質として市販されているものを、高純度品又はその混合物の形態で入手することができる場合がある。
【0050】
特に限定されないが、上記標識物質として使用される化合物は、繊維油剤の構成成分以外の化合物であってもよい。
【0051】
本発明のたばこフィルター用トウバンドに含まれる標識物質の量(例えば、添着量)(総量)は、本発明のたばこフィルター用トウバンド又はこれを構成材料とするたばこフィルターからその存在及び組成を確認でき、トウバンドの出所の識別が可能な量であればよく、特に限定されないが、本発明のたばこフィルター用トウバンド(100重量%)に対して、0.0002〜0.2重量%が好ましく、より好ましくは0.0015〜0.3重量%、さらに好ましくは0.002〜0.5重量%である。標識物質の量を上記範囲に制御することにより、喫味を損なうことなく、トウバンドの出所の識別をより効率的に実施することができる傾向がある。
【0052】
また、本発明のたばこフィルター用トウバンドが後述の繊維油剤(紡糸油剤)を添着したものである場合、本発明のたばこフィルター用トウバンドに含まれる繊維油剤と標識物質の全量(合計量)(100重量%)に対する標識物質の割合は、特に限定されないが、0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.2〜5.0重量%、さらに好ましくは0.3〜3.0重量%である。標識物質の割合を上記範囲に制御することにより、喫味を損なうことなく、トウバンドの出所の識別をより効率的に実施することができる傾向がある。
【0053】
本発明のたばこフィルター用トウバンドに対して標識物質を包含させる方法としては、特に限定されず、公知乃至慣用の方法を利用できる。本発明のたばこフィルター用トウバンドは、例えば、たばこフィルター用トウバンドの表面に標識物質を添着したものであってもよい。この場合、トウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)に対して標識物質をそのままの状態で塗布することによって得られるものであってもよい。一方、トウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)に対して標識物質の溶液又は分散液を塗布することによって得られるものであってもよい。塗布の方法としては、例えば、浸漬法、噴霧法、コーティング法等の一般的な表面処理方法を用いることができる。また、塗布する部分は、トウ(又は、トウバンド若しくはフィラメント)の表面であってもよい。具体的には、トウバンドに標識物質を添着する方法としては、例えば、有機溶媒に可溶な標識物質を有機溶媒溶液の状態で添着する方法が挙げられる。より具体的には、例えば、アルコールに溶解する標識物質であれば、まず、標識物質をアルコールに溶解させ、この溶液を適当な方法(例えば、上述の表面処理方法)でトウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)に添着する方法等が挙げられる。なお、トウバンドの製造工程は、通常、繊維油剤(例えば、繊維油剤エマルション)を乾燥させる工程を含むため、アルコール溶液中の標識物質はこの乾燥工程においてトウバンドに固定される。
【0054】
中でも、標識物質は、標識物質の添着量の制御が容易であり、煩雑な工程を増加させない点で、下記の繊維油剤(例えば、繊維油剤エマルション)に混合した状態で、繊維油剤と共にトウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)の表面に付与(添着)することが好ましい。
【0055】
本発明のたばこフィルター用トウバンドは、上述の標識物質を含むものであればよいが、紡糸性、繊維糸条(トウ、トウバンド)の収束性、繊維表面(フィラメント表面、トウ表面、トウバンド表面)の平滑性、帯電防止性、摩擦防止性を向上させるため、その表面に繊維油剤が添着しているものであることが好ましい。
【0056】
繊維油剤としては、公知乃至慣用の繊維油剤を使用することができ、特に限定されないが、例えば、鉱物油、エステル化油等が挙げられる。中でも、鉱物油が好ましい。なお、本発明のたばこフィルター用トウバンドにおいて繊維油剤は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0057】
本発明のたばこフィルター用トウバンドにおける繊維油剤の添着量は、トウバンドや繊維油剤の種類、処理方法等に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、一般に、本発明のたばこフィルター用トウバンドの全量(100重量%)に対して、0.2〜2重量%となる量が好ましく、より好ましくは0.6〜1.5重量%となる量である。
【0058】
本発明のたばこフィルター用トウバンドにおけるトウバンドの表面を繊維油剤で処理する方法としては、公知乃至慣用の方法が挙げられ、特に限定されない。具体的には、例えば、繊維油剤そのもの、繊維油剤を有機溶媒に溶解した溶液、又は繊維油剤を水に懸濁させたエマルションを用い、一般的な表面処理方法(例えば、浸漬法、噴霧法、コーティング法等)により、トウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)の表面に繊維油剤を付与(添着)することができる。
【0059】
繊維油剤による処理を、繊維油剤を水に懸濁させたエマルション(繊維油剤エマルション)を用いて行う場合には、必要に応じて、該繊維油剤エマルションに界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、公知乃至慣用の界面活性剤を使用することができ、特に限定されないが、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。また、上記繊維油剤エマルションにおいては、公知乃至慣用の乳化剤等を使用することもできる。
【0060】
上記繊維油剤エマルションとしては、例えば、5重量%のエマルション濃度で測定した、850nmの光線の全光線透過度が30%以上である繊維油剤エマルションが好ましい(特開2007−77525号公報参照)。このような繊維油剤エマルションをトウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)に添着することにより、繊維製造工程での機器類との接触摩耗による繊維の損傷による品質低下や、摩耗により切断された繊維片による作業環境悪化を著しく抑制できるとともに、紡糸時の紡糸ガイドとトウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)との摩擦力が減少し、紡糸工程でのゴデットロール(godet roll)切れの頻度を顕著に減少できる。
【0061】
本発明のたばこフィルター用トウバンドが表面に上述の標識物質とともに繊維油剤を添着したものである場合、標識物質と繊維油剤の総量(総添着量)は、特に限定されないが、本発明のたばこフィルター用トウバンドの全量(100重量%)に対して、0.2〜2重量%が好ましく、より好ましくは0.6〜1.6重量%である。標識物質と繊維油剤の総量が多すぎると、製造工程中に、ヤーンの緩み、液滴の落下等の問題が生じやすくなる場合がある。
【0062】
本発明のたばこフィルター用トウバンドが繊維油剤とともに標識物質を添着したものである場合について述べる。この本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成材料とするたばこフィルターの分析を行う際には、例えば、まず適切な溶媒で抽出(例えばソックスレー抽出器等による抽出)を行う。そして、得られた抽出液をガスクロマトグラフィー等で分析する。繊維油剤は複数の物質の混合物であり分子量や組成が多分散のものであるために検出が困難(例えば、ガスクロマトグラフィー等において明瞭なピークを示さない)であるのに対して、標識物質は分子量が一定の物質であるため、容易に検出できる(例えば、ガスクロマトグラフィー等におけるピークが明瞭に分かりやすい)。また、トリアセチン等の可塑剤により処理したトウバンド(フィルター)において繊維油剤成分が特に抽出しにくいのは、上記可塑剤の処理によりコーティングされているからの可能性も考えられる。いずれにしても、巻き上げられたフィルター(ロッド)からでも標識物質は容易に検出できる(例えば、ガスクロマトグラフィー等において明瞭なピークが現れる)ことがわかった。
【0063】
本発明のたばこフィルター用トウバンドには、さらに他の成分、例えば、無機微粉末(例えば、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等)、保湿剤(例えば、ポリオール類等)、熱安定化剤(例えば、アルカリ又はアルカリ土類金属の塩等)、着色剤、白色度改善剤、歩留まり向上剤、サイズ剤、生分解促進剤(例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等)、光分解促進剤(例えば、アナターゼ型酸化チタン等)、天然高分子又はその誘導体(例えば、セルロース粉末等)、可塑剤(例えば、トリアセチン、トリエチレングリコールジアセテート等)等が含まれていてもよい。なお、本発明のたばこフィルター用トウバンドは、一部が可塑剤によって接着された構造を有していてもよい。他の成分は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0064】
本発明のたばこフィルター用トウバンドは、たばこにおけるたばこフィルターの構成材料として使用される。本発明のたばこフィルター用トウバンドは、上述のように該トウバンドの出所を識別するための標識物質を含むため、該トウバンドをたばこフィルターの構成材料(たばこフィルター用トウバンド)として市場に流通させることにより、不法たばこを見出した場合に、そのたばこフィルターに使用されたトウバンドの出所及び流通ルートを容易に特定することができ、特定した当該流通ルートに基づいて、不法たばこ製造者及びその介在者へのトウバンドの供給を遮断することができる。これにより、不法たばこ製造者による不法たばこの製造を防止することができる。その結果、各国における不法たばこの横行、蔓延が防止される。
【0065】
<たばこフィルター用トウバンドの製造方法>
本発明のたばこフィルター用トウバンドは、たばこフィルター用トウバンドを製造する公知乃至慣用の方法により製造することができ、その製造方法は特に限定されない。例えば、以下の方法に基づいて製造することができる。
【0066】
本発明のたばこフィルター用トウバンドは、上述のように、標識物質と繊維油剤の両者が付与(添着)されたトウバンドであることが好ましい。標識物質と繊維油剤の両者が付与された(添着された)本発明のたばこフィルター用トウバンドの製造方法としては、例えば、
工程A:フィラメントを生成させる工程、
工程B:フィラメント又はトウに繊維油剤を添着する工程、
工程C:フィラメント又はトウに標識物質を添着する工程、
工程D:複数本のフィラメントを合一して、トウを形成する工程、及び
工程E:トウに捲縮を施して、トウバンドを形成する工程
を必須の工程として含む方法が挙げられる。
【0067】
即ち、本発明のたばこフィルター用トウバンドは、フィラメントを生成させ;次に、フィラメント又はトウに繊維油剤を添着する操作、フィラメント又はトウに標識物質を添着する操作、及び複数本のフィラメントを合一してトウを形成する操作の3種の操作を任意の順番で(2種以上の操作を同時に行ってもよい)実施し;その後、トウに捲縮を施してトウバンドを形成する方法によって、製造できる。当該方法には、その他の操作が含まれていてもよい。
【0068】
上記製造方法において、フィラメントを生成させる工程における紡糸方法は、トウバンドを構成する素材に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法等の公知乃至慣用の紡糸方法を適用できる。例えば、本発明のたばこフィルター用トウバンドがセルロースアセテートトウバンドである場合、工程Aとしては、有機溶媒に溶解したセルロースアセテート(例えば、置換度2.0〜2.6のセルロースアセテート)を紡糸筒にて口金から吐出させて、セルロースアセテートフィラメントを生成させる工程等が挙げられる。
【0069】
上記製造方法において、繊維油剤の添着(付与)(工程B)と標識物質の添着(付与)(工程C)とは、同時に行うこともできるし、順次行うこともできる。工程Bと工程Cとを順次行う場合には、どちらを先に行うこともできる。特に、工程Bと工程Cとを順次行う場合には、少なくとも工程B、工程C、工程Eの順番で実施し、その後、得られたトウバンドを乾燥させる工程を実施することが好ましい。また、工程Bと工程Cとを組み合わせて行うこともできる。さらに、トウを形成する工程Dは、工程Bの前後のいずれで行ってもよいし、工程Cの前後のいずれで行ってもよい。本発明においては、工程Bと工程Cとを同時に(特に、組み合わせて)実施することが好ましく、工程B及び工程Cは、工程Dの後であって工程Eの前に実施することが好ましい。即ち、上記製造方法は、工程A、工程D、工程B及び工程C、工程Eの順で実施することが好ましい。
【0070】
図1は、本発明のたばこフィルター用トウバンドの製造方法に用いる装置の一例を模式的に示す説明図である。例えば、本発明のたばこフィルター用トウバンドがセルロースエステルトウバンド(特に、セルロースアセテートトウバンド)である場合には、このような装置を使用して製造することが好ましい。
【0071】
図1に示す装置では、複数の紡糸筒において、それぞれ紡糸口金1より紡糸された多数のフィラメント(特に、セルロースアセテートフィラメント)を集束してロープ状のトウ(特に、セルロースアセテートトウ)2を作製し、複数の紡糸筒から得られる上記トウ2を複数本帯状に集束することによって、トウ2の集合体(集束体)であるトウ(特に、セルロースアセテートトウ)7を作製する。そして、該トウ7に捲縮を施すことによって、トウバンド(特に、セルロースアセテートトウバンド)9を製造する。
【0072】
図1に示す装置は、トウ2に対して、繊維油剤及び標識物質を付与する繊維油剤付与装置3と、複数の紡糸筒から得られる、繊維油剤及び標識物質が付与されたトウ2をさらに帯状に集束してトウ7を形成するトウ形成手段6と、トウ形成手段6により形成されたトウ7に対して捲縮を施す捲縮付与装置8と、を備えている。トウ7に対して捲縮付与装置8により捲縮が施されることにより、トウバンド9が得られる。さらにこの装置には、繊維油剤及び標識物質が付与されたトウ2からトウ7が円滑に形成されるように、ゴデットロール(ゴディロール)4とガイド5とが設置されている。なお、
図1に示す装置の例では、工程Bと工程Cとを同時に(特に、組み合わせて)実施する(即ち、繊維油剤と標識物質とを同時に付与する)形式となっているが、繊維油剤と標識物質とを異なる部分で付与する装置を使用することもできる。
【0073】
繊維油剤付与装置3は、トウ2に対して繊維油剤(例えば、繊維油剤エマルション)や繊維油剤及び標識物質の混合物(例えば、当該混合物のエマルション)を付与することができる装置であればよく、特に限定されないが、公知乃至慣用の繊維油剤付与装置(繊維油剤添着装置)を用いることができる。繊維油剤付与装置3としては、例えば、ローラ方式、ノズル方式、スリット方式等の付与装置が挙げられる。
【0074】
例えば、繊維油剤と標識物質とを異なる部分で付与する場合には、繊維油剤付与装置3とは別に、さらに標識物質付与装置を用いることができる。標識物質付与装置は、トウに対して標識物質を付与することができる装置であればよく、特に限定されないが、例えば、繊維油剤付与装置3を転用することができる。即ち、上記繊維油剤付与装置(繊維油剤添着装置)において、繊維油剤及び標識物質の混合物の代わりに標識物質を用いることにより、これを標識物質付与装置として使用できる。
【0075】
なお、表面に標識物質を均一に添着しやすい点で、表面への標識物質の付与(添着)は、捲縮工程(工程E)前に行うことが好ましい。
【0076】
捲縮付与装置8としては、公知乃至慣用の捲縮付与装置を使用することができ、特に限定されない。捲縮付与装置8によりトウ7に十分な捲縮(クリンパー処理)を施すことができ、これにより、トウバンド9(本発明のたばこフィルター用トウバンド)を得ることができる。
【0077】
<たばこフィルター、たばこ>
本発明のたばこフィルター用トウバンドを用いてたばこフィルターを製造することができ、また、該たばこフィルターを用いてたばこを製造することができる。本発明のたばこフィルターを用いてたばこフィルター及び該たばこフィルターを含むたばこを製造する方法は、特に限定されず、公知乃至慣用の方法によることができる。
【0078】
本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成材料とするたばこフィルターが使用されたたばこは、その構成部材であるたばこフィルターに標識物質が含まれるため、その分析によって標識物質の有無及びその組成を確認(検出)し、トウバンドの出所及び流通ルートを容易に特定することができる。より具体的には、製品であるたばこからたばこフィルターを採取し、適宜な溶媒(例えば、上述の溶媒)を使用してたばこフィルターに含まれる(添着する)成分を抽出し、得られた抽出液を上記各種分析方法に付す方法により、上述の標識物質の有無及びその組成を確認することができる。そして、例えば、本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成材料とするたばこフィルターが不法たばこに使用されている場合には、上述のように、トウバンドの出所や流通ルートを特定することによって、不法たばこの製造者又はその介在者へのトウバンドの供給を遮断し、これにより、不法たばこの製造(さらには、蔓延・横行)が防止される。
【0079】
本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成材料とするたばこフィルターが使用されたたばこは、喫煙時に燃焼せず高温にはならない(最高でも100℃程度である)たばこのフィルター部分に標識物質を付与した構成を有するため、使用前のたばこについてはもちろんのこと、使用後のたばこについてもその構成部材であるたばこフィルターを用いて、トウバンドの出所及び流通ルートの特定が可能であるという利点を有する。従来は、不法たばこの横行防止のために、たばこの構成部材や該部材の構成材料に着目する者はおらず、これらに対して標識物質を付与するという技術的手段も存在しなかった。
【0080】
<トウバンドの流通ルートの特定方法、不法たばこの製造防止方法>
本発明のたばこフィルター用トウバンドを市場に流通させることにより、上述のように、上記トウバンドの出所及び流通ルートを容易に特定することができる。これは、本発明のたばこフィルター用トウバンドには、出所を識別するための標識物質(検出可能な標識物質)が含まれているからである。さらに、本発明のたばこフィルター用トウバンドを構成材料とするたばこフィルターが不法たばこの構成部材として使用された場合には、上述のように、トウバンドの出所及び流通ルートを特定することによって、不法たばこの製造者又は介在者へのトウバンドの供給を遮断し、これにより、不法たばこの製造(さらには、蔓延・横行)の防止が可能となる。本発明は、このようなたばこフィルター用トウバンドの出所及び流通ルート(「流通ルート」と総称する場合がある)を特定する方法、並びに、不法たばこの製造を防止する方法についても提供する。
【0081】
詳しくは、上述のたばこフィルター用トウバンドの流通ルートを特定する方法(「本発明のたばこフィルター用トウバンドの流通ルートの特定方法」と称する場合がある)は、出所を識別するための標識物質を含むトウバンド(本発明のたばこフィルター用トウバンド)をたばこフィルター用トウバンドとして流通させる段階と;上記トウバンドを構成材料とするたばこフィルター又はこれを含むたばこについて、上記たばこフィルターの分析を行う段階と;上記分析により特定された上記標識物質の種類に基づき、上記トウバンドの流通ルートを特定する段階と、を少なくとも含む方法である。即ち、本発明のたばこフィルター用トウバンドの流通ルートの特定方法は、出所を識別するための標識物質を含むトウバンドをたばこフィルター用トウバンドとして流通させ;上記トウバンドを構成材料とするたばこフィルター又はこれを含むたばこについて、上記たばこフィルターの分析を行い;上記分析により特定された上記標識物質の種類に基づき、上記トウバンドの流通ルートを特定する方法である。
【0082】
本発明のたばこフィルター用トウバンドの流通ルートの特定方法において、たばこフィルター中の標識物質の種類を分析する方法としては、公知乃至慣用の方法を利用でき、特に限定されないが、例えば、上述のように、たばこからたばこフィルターを取り出し、該フィルターの添着成分を抽出し(例えば、ソックスレー抽出器を使用した抽出等により抽出し)、ガスクロマトグラフィー等の公知乃至慣用の分析手段を用いて分析する方法等が挙げられる。また、本発明のたばこフィルター用トウバンドの流通ルートの特定方法において、たばこフィルター用トウバンドの出所及び/又は流通ルートを特定する方法は、特に限定されず、通常の調査方法によることができる。
【0083】
また、上述の不法たばこの製造(さらには、蔓延・横行)を防止する方法(「本発明の不法たばこの製造防止方法」と称する場合がある)は、出所を識別するための標識物質を含むトウバンド(本発明のたばこフィルター用トウバンド)をたばこフィルター用トウバンドとして流通させる段階と;上記トウバンドを構成材料とするたばこフィルターを含む不法たばこについて、上記たばこフィルターの分析を行う段階と;上記分析により特定された上記標識物質の種類に基づき、上記トウバンドの流通ルートを特定する段階と;特定された流通ルートに基づき、不法たばこ製造者又はその介在者への上記トウバンドの供給を遮断する段階と、を少なくとも含む方法である。即ち、本発明の不法たばこの製造防止方法は、出所を識別するための標識物質を含むトウバンドをたばこフィルター用トウバンドとして流通させ;上記トウバンドを構成材料とするたばこフィルターを含む不法たばこについて、上記たばこフィルターの分析を行い;上記分析により特定された上記標識物質の種類に基づき、上記トウバンドの流通ルートを特定し;特定された流通ルートに基づき、不法たばこ製造者又はその介在者への上記トウバンドの供給を遮断する方法である。
【0084】
本発明の不法たばこの製造防止方法において、不法たばこの製造者又はその介在者へのたばこフィルター用トウバンドの供給を遮断する方法は、特に限定されず、通常の方法(例えば、取引の停止、警告等)によることが可能である。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0086】
以下の実施例では、繊維油剤(紡糸油剤)に標識物質を添加した上で、繊維油剤エマルションを調製し、これを用いてたばこフィルター用トウバンドを製造した。但し、本発明のたばこフィルター用トウバンドを製造する方法はこの方法に限定されず、例えば、繊維油剤と標識物質とを別々にトウバンド(又は、トウ若しくはフィラメント)に対して添着する方法を採用することもできる。
【0087】
製造例1
(標識物質)
標識物質としては、GC用の標準物質である、(±)−α−トコフェロール(和光純薬工業(株)製、製品コード:207-01792、単に「トコフェロール」と称する場合がある)を用いた。分子式はC
29H
50O
2、分子量は430.71であった。
(繊維油剤)
繊維油剤としては、品種DC−18(松本油脂製薬(株)製)を用いた。この繊維油剤の転相点は50重量%であった。
上記繊維油剤(DC−18)を用いて、以下の条件で標識物質を含む油剤(標識物質入油剤)を調製し、さらに以下の手順で、この標識物質入油剤から繊維油剤エマルションを調製した。
(標識物質入油剤の調製)
トコフェロール10gを1kgの繊維油剤(DC−18)に投入し、撹拌して溶解させ、標識物質入油剤を調製した。
(繊維油剤エマルションの調製)
上記で調製した標識物質入油剤を以下の工程に付すことによって繊維油剤エマルションを調製した。
(1)35℃の恒温槽にて72時間調温することにより、標識物質入油剤の温度を35℃に調温した。
(2)希釈水としては純水を用い、温水槽にて35℃に調温した。
(3)容量100Lの調温装置付きの撹拌槽に、上記で35℃に調温した標識物質入油剤を40kg計量して投入するとともに温調を35℃とし、次いで、ここに、温水槽により35℃に調温した希釈水(水)を5.2kg/分(繊維油剤の原油1kg当たり0.13kg/分の投入速度)の速度で投入し、かつ撹拌した。
(4)希釈水の投入量が60Lとなった時点(エマルション濃度が40重量%となった時点)で、希釈水の投入と撹拌を終了し、繊維油剤エマルションを得た。
(5)さらに、(4)で得た繊維油剤エマルションを5重量%(エマルション濃度)に希釈し、実施例において使用した。
【0088】
実施例1
(紡糸工程)
製造例1で調製した繊維油剤エマルションを用いて以下の手順で紡糸を行った。
即ち、アセチル置換度2.5のセルロースアセテートをアセトンに溶解し、50℃に加温し、ろ過後これを口金から吐出させ、ドープの潜熱及び熱風の顕熱でアセトンを蒸発させることで乾式紡糸(溶剤紡糸)を行った。なお、この乾式紡糸は、まずセルロースアセテートフィラメントを生成させ、多数本のセルロースアセテートフィラメントをロープ状に集束させ、セルロースアセテートトウを形成する工程である。そして、紡糸筒の下部で製造例1において調製した繊維油剤エマルションを付与した。このようにして得られたセルロースアセテートトウは、単繊維デニールが3.0、Y字型断面のアセテート繊維(セルロースアセテートフィラメント)により構成され、トータルデニールが35000デニールのアセテート繊維トウの繊維糸状(セルロースアセテートトウ)であった。なお、上記で得られた繊維糸状に対する繊維油剤エマルションの添着量は、繊維重量に対する油剤量が1重量%となるように調整した。また、繊維油剤エマルションの添着装置としては、ローラ式オイリング装置を用いた。紡糸速度は300m/分とした。紡糸筒は17筒使用した。
上述のようにセルロースアセテートトウに対して繊維油剤エマルションを含浸せしめた後、捲縮(クリンパー処理)を施し、その後、乾燥させることによってセルロースアセテートトウバンドを得た。さらに、上記で得られたトウバンドを箱つめして圧縮梱包を行い、たばこフィルター用トウバンドのベールとした。
(巻上工程)
上記紡糸工程で得られたたばこフィルター用トウバンドのベールを開繊し、たばこフィルターとした。即ち、上記たばこフィルター用トウバンドのベールをたばこ煙用フィルター製造用巻上機(ハウニ社製AF2/KDF2)を用いて幅約20cmに開繊し、可塑剤添加装置を用いて可塑剤としてトリアセチンをトウバンド上に均一に散布し、次いで、トウバンドを紙巻き装置に供給し巻取紙を用いて巻上速度400m/分で巻上げ、得られたフィルターロッドをカッターで長さ120mmに切断した。さらにこれを長さ20mmに切断し、たばこ煙用フィルターサンプル(たばこフィルター)を得た。
(標識物質の分析)
上記で得られたたばこのフィルター部分(たばこフィルター)から巻紙を除去し、セルロースアセテートのフィルター部を集め約3gとした。これを容量150mlのソックスレー抽出器に入れ、トルエンにより150℃で2時間還流抽出した。抽出液をロータリーエバポレーターで蒸発乾燥させ抽出物を得た。
得られた抽出物をクロロホルムで2倍に希釈し、この溶液を下記条件のガスクロマトグラフ分析装置に注入し、分析を行った。
[ガスクロマトグラフィーの条件]
装置 : (株)島津製作所製GC−1700
検出器 : FID
カラム : Agilent DB−1 内径0.32mm×長さ30m×膜厚1μm
カラム温度 : 100℃ → 15℃/分 昇温 → 340℃ 15分
気化室温度 : 350℃
検出器温度 : 350℃
キャリヤーガス : 窒素
カラム流量 : 1.5ml/分
スプリット比 1:50
インジェクション量 : 1μl
得られたGCチャートにおいて、トコフェロールに相当するピーク(23.4分のピーク)が明確に観測された(
図2参照)。このように、標識物質としてトコフェロールを含むトウバンドを構成材料とするたばこフィルターによると、これを分析することによって、当該たばこフィルター及びその構成材料であるトウバンドが上記プロセスで製造されたものであることを容易に確認できることが示された。なお、
図2〜5において、標識物質のピークには丸印を付している。
一方、トコフェロールを使用しないトウバンドを構成材料とするたばこフィルターについて同方法で分析を行っても、トコフェロールに相当するピークは明白に出てこない(比較例1参照)。
【0089】
実施例2
標識物質としてオクチルドデカノール(Sigma-Aldrich社製、2-octyldodecanol、製品番号464481、分子式C
20H
42O、分子量298.55)を使用したこと以外は製造例1及び実施例1と同様にして、繊維油剤エマルションの調製、たばこフィルター用トウバンド及びたばこフィルターの製造、並びに、上記たばこフィルターの分析(ガスクロマトグラフィーによる分析)を行った。
得られたGCチャートにおいて、オクチルドデカノールに相当するピーク(14.9分のピーク)が明確に観測された(
図3参照)。このように、標識物質としてオクチルドデカノールを含むトウバンドを構成材料とするたばこフィルターによると、これを分析することによって、当該たばこフィルター及びその構成材料であるトウバンドが上記プロセスで製造されたものであることを容易に確認できることが示された。
一方、オクチルドデカノールを使用しないトウバンドを構成材料とするたばこフィルターについて同方法で分析を行っても、オクチルドデカノールに相当するピークは明白に出てこない(比較例1参照)。
【0090】
実施例3
標識物質としてミリスチン酸イソプロピル(東京化成工業(株)製、Isopropyl myristate、製品番号M0481 分子式C
17H
34O
2、分子量270.46)を使用したこと以外は製造例1及び実施例1と同様にして、繊維油剤エマルションの調製、たばこフィルター用トウバンド及びたばこフィルターの製造、並びに、上記たばこフィルターの分析(ガスクロマトグラフィーによる分析)を行った。
得られたGCチャートにおいて、ミリスチン酸イソプロピルに相当するピーク(12.1分のピーク)が明確に観測された(
図4参照)。このように、標識物質としてミリスチン酸イソプロピルを含むトウバンドを構成材料とするたばこフィルターによると、当該たばこフィルター及びその構成材料であるトウバンドが上記プロセスで製造されたものであることを容易に確認できることが示された。
一方、ミリスチン酸イソプロピルを使用しないトウバンドを構成材料とするたばこフィルターについて同方法で分析を行っても、ミリスチン酸イソプロピルに相当するピークは明白に出てこない(比較例1参照)。
【0091】
製造例2
(標識物質)
標識物質として2種類の化合物の組み合わせを使用した。標識物質1としては、トコフェロール(東京化成工業(株)製、DL−α−トコフェロール、製品コード:T0251、分子式C
29H
50O
2、分子量430.72(カタログ値))を用いた。標識物質2としては、オクチルドデカノール(Sigma-Aldrich社製、2-octyldodecanol、製品番号464481 分子式C
20H
42O、分子量298.55)を用いた。
(標識物質入油剤の調製)
標識物質1(トコフェロール)10g、及び標識物質2(オクチルドデカノール)10gを1kgの油剤(DC−18)に投入し、撹拌して溶解させ、標識物質入油剤を調製した。
(繊維油剤エマルションの調製)
上記で調製した標識物質入油剤を使用したこと以外は製造例1と同様の方法で、繊維油剤エマルションを調製した。
【0092】
実施例4
製造例2で調製した繊維油剤エマルションを使用したこと以外は実施例1と同様にして、たばこフィルター用トウバンド及びたばこフィルターの製造、並びに、上記たばこフィルターの分析(ガスクロマトグラフィーによる分析)を行った。
得られたGCチャートにおいて、標識物質1(トコフェロール)に相当するピーク(23.4分のピーク)と、標識物質2(オクチルドデカノール)に相当するピーク(14.9分のピーク)とのいずれのピークも確認された。このように、標識物質としてトコフェロールとオクチルドデカノールとを含むトウバンドを構成材料とするたばこフィルターによると、これを分析することによって、当該たばこフィルター及びその構成材料であるトウバンドが上記プロセスで製造されたものであることを容易に確認できることが示された。
一方、トコフェロール及びオクチルドデカノールを使用しないトウバンドを構成材料とするたばこフィルターについて同方法で分析を行っても、これら化合物に相当するピークは明白に出てこない(比較例1参照)。
【0093】
実施例5
標識物質としてコレステロール(東京化成工業(株)製、Cholesterol、製品番号C0318 分子式C
27H
46O)を使用したこと以外は製造例1及び実施例1と同様にして、繊維油剤エマルションの調製、たばこフィルター用トウバンド及びたばこフィルターの製造、並びに、上記たばこフィルターの分析(ガスクロマトグラフィーによる分析)を行った。
得られたGCチャートにおいて、コレステロールに相当するピーク(24.3分のピーク)が明確に観測された(
図5参照)。このように、標識物質としてコレステロールを含むトウバンドを構成材料とするたばこフィルターによると、当該たばこフィルター及びその構成材料であるトウバンドが上記プロセスで製造されたものであることを容易に確認できることが示された。
一方、コレステロールを使用しないトウバンドを構成材料とするたばこフィルターについて同方法で分析を行っても、コレステロールに相当するピークは明白に出てこない(比較例1参照)。
【0094】
比較例1
標識物質を使用しなかったこと以外は製造例1及び実施例1と同様にして、たばこフィルター用トウバンド及びたばこフィルターの製造、並びに、上記たばこフィルターの分析(ガスクロマトグラフィーによる分析)を行った。得られたGCチャートを
図6に示す。