(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、圧力、熱、電界などを駆動源として用いることにより、液状のインクをノズルから記録媒体に向けて吐出させて印刷する記録方式である。このような記録方式は、ランニングコストが低く、高画質化が可能であり、また用途に合わせて各種のインクを印刷できることから、近年、市場が拡大している。
【0003】
従来、インクジェット記録方式に適用されるインクとして、溶媒として水を主成分とする水性インクや有機溶媒を主成分とする油性インクが用いられてきた。しかしながら、高分子基材などの非浸透性の記録媒体上にこれらのインクを用いて画像を形成する場合、印刷後にインクが広がったり、滲んだりしやすいことから、鮮明な画像が得られにくい。このためエネルギー線(例えば、紫外線)の照射によりインクを硬化させる無溶剤タイプのエネルギー線硬化型インクが注目されている。このようなエネルギー線硬化型インクを硬化させる手段として、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプなどが用いられてきたが、これらの照射手段により紫外線を照射すると熱が発生しやすい。そのため、記録媒体として高分子基材を使用した場合、印刷物に波打ちなどが生じやすい。
【0004】
そこで、最近では、小型で発熱の少ない紫外線LEDや紫外線レーザなどの低エネルギーの照射手段を用いることが提案されているが(例えば、特許文献1)、エネルギー線硬化型インクの反応性媒質として使用される(メタ)アクリレート類などの重合性化合物は一般に反応性が低く、高エネルギーを有するエネルギー線が照射されないと、酸素阻害を受けて十分な硬化性が得られないという問題がある。
【0005】
前述の低エネルギーの照射手段によっても十分な硬化性を確保するため、反応点であるエチレン性二重結合を多く有する、反応性の高い重合性化合物を用いることが提案されている。反応性の高い重合性化合物としては、例えば、低分子(メタ)アクリレート類や低分子の多官能(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、反応性の高い低分子(メタ)アクリレート類や低分子の多官能(メタ)アクリレート類などの重合性化合物は、浸透性が強いものが多く、一次皮膚刺激性インデックス(Primary Irritation Index、以下PIIという。)の値が4.0以上と高い。このPII値の高い重合性化合物は、溶解性が高く、エネルギー線硬化型インク組成物中に含まれる顔料や分散剤をも溶かしてしまうため、エネルギー線硬化型インクの分散系を破壊してしまう問題がある。
【0008】
ここで、PII値の異なる重合性化合物と各種顔料との混合状態を表1に示す。表1では、重合性化合物:9質量部と顔料:1質量部とを配合した混合物を、ジルコニアビーズ(直径:0.3mm)を用いたペイントシェイカーで混合し、容器に入れて24時間静置した後、顔料の沈降凝集の度合いを評価した。顔料の沈降凝集の度合いは、容器を逆さに向けたときに顔料沈降物が目視できるか否かによって評価し、目視されない場合には顔料が沈降凝集していないと判断し、目視された場合は顔料が沈降凝集していると判断した。表1において、容器を逆さに向けた時に顔料沈降物が目視されない場合は「A」と表記し、顔料沈降物が目視された場合は「B」と表記した。
【0009】
【表1】
【0010】
表1の結果から分かるように、結晶化度の低いアゾ顔料、キナクリドン顔料を、PII値の高い重合性化合物と組み合わせた場合、顔料が沈降凝集し、顔料沈降物が目視により確認できた。この沈降凝集の原因としては、PII値の高い重合性化合物は、前述したように溶解性が高いため、顔料の表面を溶解し、これにより、顔料の粒子表面が創出して凝集したと考えられる。このように顔料が沈降凝集してしまう重合性化合物を用いて顔料の分散を行った場合、顔料への良好な分散剤の吸着が行われず、顔料分散体の保存安定性は維持できなくなると予想される。従って、PII値の高い重合性化合物を用いた場合の保存安定性に関して更なる改善が要求される。
【0011】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、PII値の高い重合性化合物を用いた場合の保存安定性を改善し、優れた硬化性、溶解性、及び保存安定性を有する顔料分散体、及び、優れた保存安定性及び吐出安定性を有し、低エネルギーの照射であっても硬化性の高い画像を形成可能なエネルギー線硬化型インクジェット用インクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の顔料分散体は、顔料と、重合性化合物と、分散剤と、を含む顔料分散体であって、
上記顔料は、キナクリドン系有機顔料及びアゾ系有機顔料からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、上記重合性化合物の一次皮膚刺激性インデックスであるPII値は4.0〜8.0であり、
上記重合性化合物は、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、及びトリメチロールプロパントリアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、上記顔料の分散平均粒子径が20nm以上300nm以下であり、上記顔料分散体は、上記顔料と上記重合性化合物と上記分散剤とを、固定面であるステーターと回転体であるローターとを備えたメディアレス分散機を用いて分散させてなることを特徴とする。
【0013】
本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、上記本発明の顔料分散体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PII値の高い重合性化合物を用いた場合の保存安定性を改善し、優れた硬化性、溶解性、及び保存安定性を有する顔料分散体を提供できるとともに、優れた保存安定性及び吐出安定性を有し、低エネルギーの照射であっても硬化性の高い画像を形成可能なエネルギー線硬化型インクジェット用インクを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の顔料分散体は、顔料と、重合性化合物と、分散剤と、を含む顔料分散体であって、上記重合性化合物の一次皮膚刺激性インデックスであるPII値は4.0〜8.0であり、上記顔料の分散平均粒子径が20nm以上300nm以下であり、上記顔料分散体は、上記顔料と上記重合性化合物と上記分散剤とをメディアレス分散機を用いて分散させてなることを特徴とする。通常、PII値の高い重合性化合物は、前述したように、顔料や分散剤に対する溶解性が高いため、顔料の粒子表面に分散剤が吸着しなくなるだけでなく、ビーズ分散を行った場合には顔料の粒子表面を傷つけてしまい、顔料分散体の保存安定性を維持できないという問題がある。これに対し、本発明では、PII値の高い重合性化合物を用いた場合の保存安定性を改善し、硬化性、溶解性、及び保存安定性に優れた顔料分散体を提供できる。
【0016】
(顔料)
本発明の顔料分散体を構成する顔料としては、顔料の分散平均粒子径が20nm以上300nm以下のもの、好ましくは50nm以上200nm以下のものを用いる。分散平均粒子径が20nm未満になると、印刷物の耐候性が低下する傾向にある。分散平均粒子径が300nmを超えると、印刷物の精細さが低下する傾向にあり、また、インクジェット方式で印刷する場合には吐出性が悪くなる傾向にある。顔料の分散平均粒子径は、例えば、大塚電子社製の粒度分布測定装置“FPER−100”を用いて測定する。
【0017】
上記顔料としては、公知の顔料を用いることができるが、特に、キナクリドン系有機顔料やアゾ系有機顔料などの結晶化度の低い顔料を用いた場合に、本発明の効果を発揮させることができる。
【0018】
上記キナクリドン系有機顔料としては、具体的には、C.I.ピグメントオレンジ48、C.I.ピグメントオレンジ49、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントレッド207、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントヴァイオレット19からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0019】
上記アゾ系有機顔料としては、具体的には、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー65、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー81、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー111、C.I.ピグメントイエロー113、C.I.ピグメントイエロー116、C.I.ピグメントイエロー117、C.I.ピグメントイエロー126、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー174、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントオレンジ15、C.I.ピグメントオレンジ16、ピグメントレッド214、ピグメントレッド242からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0020】
上記顔料は、前述した顔料を1種単独のみならず、2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
上記顔料の含有量は、顔料分散体全体に対して、5〜40質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。顔料の含有量が5質量%未満になると、分散する顔料の量が少なくなり、顔料への分散剤の吸着が進まず、分散の効率が低下する。一方、40質量%を超えると、粘性が高くなり、液状状態を維持できなくなる傾向にある。
【0022】
(重合性化合物)
本発明の顔料分散体を構成する重合性化合物には、PII値が4.0〜8.0の重合性化合物を用いる。PII値が4.0〜8.0の重合性化合物としては、具体的には、2−ヒドロキシエチルアクリレート(PII値:7.2)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(PII値:6.1)、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート(PII値:5.2)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(PII値:5.0)、1,4−ブタンジオールジアクリレート(PII値:8.0)、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(PII値:4.1)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(PII値:6.0)、トリメチロールプロパントリアクリレート(PII値:4.6)などの多官能モノマーが挙げられる。
【0023】
上記重合性化合物は、エネルギー線の照射により重合反応又は架橋反応を生起し硬化するものである。この重合性化合物の重合反応又は架橋反応を進行させるためのエネルギー線としては、紫外線、可視光線、α線、γ線、X線、電子線などが挙げられる。
【0024】
上記重合性化合物の含有量は、顔料分散体全体に対して、40〜90質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。重合性化合物の含有量が40質量%未満となると、粘性が高くなり、液状状態を維持できなくなる傾向にある。一方、90質量%を超えると、分散する顔料の量が少なくなり、顔料への分散剤の吸着が進まず、分散の効率が低下する。
【0025】
(分散剤)
本発明の顔料分散体を構成する分散剤は、顔料の分散性を向上させるためのものであり、分散剤としては、顔料誘導体や顔料分散剤を用いることができる。
【0026】
上記顔料誘導体としては、例えば、ジアルキルアミノアルキル基を有する顔料誘導体、ジアルキルアミノアルキルスルホン酸アミド基を有する顔料誘導体などが挙げられる。
【0027】
上記顔料分散剤としては、例えば、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物などが挙げられる。これらの中でも、分散安定性の点から、カチオン性基またはアニオン性基を含む高分子化合物が好ましい。
【0028】
市場で入手可能な顔料分散剤としては、ルーブリゾール社製の“SOLSPERSE”、ビックケミー社製の“DISPERBYK”、エフカアディティブズ社製の“EFKA”などが挙げられる。
【0029】
本発明の顔料分散体において、上記顔料と上記分散剤との含有比(質量比)は、1:0.005〜1:1.5であることが好ましく、1:0.01〜1:0.8であることがより好ましい。分散剤の顔料に対する含有比が小さくなりすぎると、顔料に分散剤がうまく吸着せず、分散状態を維持できなくなる。一方、分散剤の顔料に対する含有比が大きくなりすぎると、上記顔料分散体を用いたインク中の分散剤の含有量も増えることになり、インクの印刷物特性が低下する。
【0030】
本発明の顔料分散体は、上記顔料、上記重合性化合物、及び上記分散剤を、メディアレス分散機を用いて分散させることによって得られる。通常、PII値の高い重合性化合物を分散媒として用い、メディア分散(例えばジルコニアビーズ)を行った場合、顔料の粒子界面の創出と分散剤の溶解による脱着により、分散状態を維持できない。これに対し、本発明の顔料分散体は、メディアを含まないメディアレス分散機を用いて製造するため、メディア衝撃による顔料の粒子界面の創出は起こらず、PII値の高い重合性化合物を用いた場合であっても良好な分散状態を維持できる。
【0031】
上記メディアレス分散機としては、固定面であるステーターと、回転体であるローターとを備え、回転体の周速をA[m/s]、分散体粘度をB[P・s]、回転体と固定面とのギャップをC[m]、せん断係数をZとしたとき、Z=A×B÷Cの関係式が成立し、Z≧3000を満足するものを用いることが好ましい。これにより、凝集した顔料をほぐし、分散剤を顔料粒子表面に吸着させることができる。また、顔料分散体のメディアレス分散処理時間をD[h]、顔料分散体の処理量をE[m
3]、回転体と固定面の分散領域面積をF[m
2]、分散処理能力係数をYとしたとき、Y=Z×D×C×F÷Eの関係式が成立し、Y≧0.01を満足することが好ましい。この場合、均一に分散剤を顔料の粒子表面に吸着させ、保存安定性に優れた顔料分散体を製造することができる。
【0032】
本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、上記本発明の顔料分散体を含むことを特徴とする。これにより、保存安定性及び吐出安定性に優れ、低エネルギーの照射であっても硬化性の高い画像を形成できる。
【0033】
本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、例えば、上記本発明の顔料分散体と、公知の溶媒等を混合した後、フィルター等を用いて粗大粒子をろ過し、必要に応じて脱気することにより得られる。なお、インク中の顔料濃度は、1重量%以上20重量%以下が好ましい。1重量%未満では画像の鮮明さに欠け、20重量%より多くなると、ノズルの目詰まりが発生しやすくなる。
【0034】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクには、以下の物質をさらに添加することができる。以下、添加され得る物質について説明する。
【0035】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、重合開始剤をさらに含有することができる。重合開始剤は、活性光、熱、あるいはその両方のエネルギーの付与によりラジカルなどの開始種を発生し、上述した重合性化合物の重合反応又は架橋反応を開始、促進させ、硬化する化合物であり、光重合開始剤であることが特に好ましい。
【0036】
上記光重合開始剤としては、照射される活性光線、例えば、200〜400nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線、LED光線又はイオンビームなどに感度を有するものを適宜選択して使用することができる。
【0037】
具体的な光重合開始剤は、当業者間で公知のものを制限なく使用できる。好ましい光重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)ボレート化合物、(g)アジニウム化合物、(h)メタロセン化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物などが挙げられる。以下、各化合物の具合例を示す。
【0038】
上記(a)芳香族ケトン類の例としては、ベンゾフェノン骨格或いはチオキサントン骨格を有する化合物、α−チオベンゾフェノン化合物、ベンゾインエーテル化合物、α−置換ベンゾイン化合物、ベンゾイン誘導体、アロイルホスホン酸エステル、ジアルコキシベンゾフェノン、ベンゾインエーテル類、α−アミノベンゾフェノン類、p−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、チオ置換芳香族ケトン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキサイド、アシルホスフィン、チオキサントン類、クマリン類などを挙げることができる。
【0039】
上記(b)芳香族オニウム塩としては、周期律表の第V、VI及びVII族の元素、具体的にはN、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、Te、又はIの芳香族オニウム塩が含まれる。ヨードニウム塩類、スルホニウム塩類、ジアゾニウム塩類(置換基を有してもよいベンゼンジアゾニウムなど)、ジアゾニウム塩樹脂類(ジアゾジフェニルアミンのホルムアルデヒド樹脂など)、N−アルコキシピリジニウム塩類などが好適に使用される。これらの塩は活性種としてラジカルや酸を生成する。
【0040】
上記(c)有機過酸化物としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれる。
【0041】
上記(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物の例としては、ロフィンダイマー類が挙げられる。
【0042】
上記(e)ケトオキシムエステル化合物の例としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オンなどが挙げられる。
【0043】
上記(f)ボレート化合物の例としては、米国特許第3,567,453号明細書、米国特許第4,343,891号明細書、欧州特許第109,772号明細書、欧州特許第109,773号明細書に記載されている化合物が挙げられる。
【0044】
上記(g)アジニウム化合物の例としては、特開昭63−138345号公報、特開昭63−142345号公報、特開昭63−142346号公報、特開昭63−143537号公報、特公昭46−42363号公報に記載されているN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0045】
上記(h)メタロセン化合物の例としては、チタノセン化合物、鉄−アレーン錯体を挙げることができる。
【0046】
上記(i)活性エステル化合物の例としては、ニトロベンズルエステル化合物、イミノスルホネート化合物などが挙げられる。
【0047】
上記(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物の好ましい例としては、たとえば、若林ら著、Bull.Chem.Soc.Japan,42,2924(1969)に記載されている化合物や、F.C.SchaeferなどによるJ.Org.Chem.29、1527(1964)に記載されている化合物を挙げることができる。
【0048】
上述した化合物の中でも、硬化性の点から、芳香族ケトン類が好ましく、ベンゾフェノン骨格或いはチオキサントン骨格を有する化合物がより好ましく、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキサイドが特に好ましい。
【0049】
上記重合開始剤は、前述の化合物を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
上記重合開始剤の含有量は、顔料分散体又はインク中の全固形分に対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。0.1質量%以上であれば、十分な硬化性が得られ、20質量%以下であれば、顔料分散体又はインクの低温保管時にも析出・沈殿することによる不具合を防ぐことができる。
【0051】
上記重合開始剤と上記重合性化合物との含有比(質量比)は、0.5:100〜30:100であることが好ましく、1:100〜15:100であることがより好ましい。質量比が0.5:100以上であれば、十分な硬化性が得られ、30:100以下であれば、顔料分散体又はインクの低温保管時にも析出・沈殿することによる不具合を防ぐことができる。
【0052】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、及びニトロセルロースよりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂をさらに含有することができる。この場合、粘度を所望の領域に調整し易くなる。
【0053】
上記アクリル系樹脂としては、三菱レイヨン社製の“ダイヤナールBR113”、ジョンソンポリマー社製の“ジョンクリル”、積水化学社製の“エスレックP”などが挙げられる。上記ポリエステル系樹脂としては、ユニチカ社製の“エリーテル”、東洋紡社製の“バイロン”などが挙げられる。上記ポリウレタン系樹脂としては、東洋紡社製の“バイロンUR”、大日精化社製の“NT−ハイラミック”、大日本インキ化学工業社製の“クリスボン”、日本ポリウレタン社製の“ニッポラン”などが挙げられる。上記塩化ビニル系樹脂としては、日信化学工業社製の“SOLBIN”、積水化学社製の“セキスイPVC−TG”、“セキスイPVC−HA”、ダウケミカル社製のUCARシリーズなどが挙げられる。上記ニトロセルロースとしては、旭化成社製の“HIG”、“LIG”、“SL”、“VX”、ダイセル化学工業社製の“RS”、“SS”などが挙げられる。
【0054】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、被記録媒体に対する濡れ性の向上及びハジキの防止を目的として、表面調整剤をさらに含有することができる。
【0055】
上記表面調整剤の具体例としては、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類などのアニオン性表面調整剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類などのノニオン性表面調整剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類などのカチオン性表面調整剤、シリコン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤などが挙げられる。
【0056】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、重合開始剤の感度を向上させる目的で、公知の増感剤を含有することができる。増感剤としては、例えば、多核芳香族類、キサンテン類、シアニン類、メロシアニン類、チアジン類、アクリジン類、アントラキノン類、クマリン類などの化合物類に属し、かつ350nmから450nm域に吸収波長を有する増感色素が挙げられる。
【0057】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、重合開始剤の感度を一層向上させる、あるいは酸素による重合阻害を抑制するなどの目的で、共増感剤を含有することができる。共増感剤の例としては、アミン類が挙げられ、具体的には、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、p−メチルチオジメチルアニリンなどが挙げられる。
【0058】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、ポットライフを向上させる目的で、貯蔵安定剤を含有することができる。貯蔵安定剤としては、公知の貯蔵安定剤を使用できる。
【0059】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、インクの極性や粘度、表面張力、顔料の溶解性・分散性の向上、導電性の調整、及び印字性能の調整などの目的に応じて、公知の溶剤を含有することができる。例えば、高沸点有機溶媒などが挙げられる。
【0060】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、保存性を高める目的で、ゲル化防止剤を含有することができる。ゲル化防止剤の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、ベンゾキノン、p−メトキシフェノール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノンモノブチルエーテル、TEMPO、TEMPOL、クペロン;チバ社製の“IRGASTAB UV10”、“IRGASTAB UV22”;ALBEMARLE社製の“FIRSTCURE ST−1”;などが挙げられる。
【0061】
本発明の顔料分散体及び本発明のエネルギー線硬化型インクジェット用インクは、ポリマー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤などの公知の添加剤をさらに含有することができる。紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤に関しては、公知の化合物を適宜選択して用いればよいが、具体的には、例えば、特開2001−181549号公報に記載されている添加剤などを用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、特に指摘がない場合、下記において、「部」は「質量部」を意味する。
【0063】
まず、下記の実施例及び比較例において、顔料分散体に使用した材料を表2にまとめた。
【0064】
【表2】
【0065】
次に、下記実施例及び比較例で使用する顔料分散体を構成する各成分とその配合量について表3に示した。
【0066】
【表3】
【0067】
(実施例1〜2及び比較例1〜2)
エム・テクニック社製のメディアレス分散機“クレアミックスCLM−1.5S”に、表2に示す顔料、分散剤、重合性化合物、及びゲル化防止剤を、表3に示す配合量で投入し、ローターの回転数を16000rpmとして、4時間メディアレス分散を行い、実施例1〜2及び比較例1〜2の各顔料分散体を作製した。
【0068】
以上のようにして作製した実施例1〜2及び比較例1〜2の各顔料分散体について、分散直後の顔料の分散平均粒子径を、大塚電子社製の粒度分布測定装置“FPER−100”を用いて測定した。
【0069】
また、実施例1〜2及び比較例1〜2の各顔料分散体の保存安定性を評価した。具体的には、実施例1〜2及び比較例1の各顔料分散体に分散媒を250部加え、顔料濃度を15質量%にした後、60℃で1週間保存前後の粘度を測定した。上記分散媒としては、実施例1及び2では、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを用い、比較例1では、2−エチルヘキシルアクリレートを用いた。一方、比較例2の顔料分散体は、顔料濃度が15質量%であったため、分散媒を加えずに、60℃で1週間保存前後の粘度を測定した。粘度は、東機産業社製の“R100型粘度計”を用いて、25℃、コーン回転数100rpmの条件下で粘度を測定した。そして、60℃での保存前後の粘度の変化率が、10%以下のものは保存状態が良好であると判断し、表3において「A」と表記した。一方、10%を超えるものは保存状態は良好ではないと判断し、表3において「B」と表記した。
【0070】
表3に示したように、顔料の分散平均粒子径が300nmを超える比較例1及び2は、60℃で保存前後の粘度の変化率が10%を超え、保存安定性が良好ではなかった。一方、PII値が4.0以上の重合性化合物を用いた場合であっても、顔料の分散平均粒子径が300nm以下である実施例1及び実施例2は、60℃で保存前後の粘度の変化率が10%以下で、保存安定性に優れることが分かった。