(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0013】
図1及び
図2は、本発明のある実施形態である超電導コイル10を示している。超電導コイル10は、巻枠20、コイル本体30、電極40、及び非配設部70等を有している。
【0014】
巻枠20は、巻芯21、上部フランジ22、及び下部フランジ23を有している。この巻枠20は非磁性材料により形成されており、例えば樹脂で一体成形することができる。なお、巻枠20は、巻芯21、上部フランジ22、及び下部フランジ23を別箇に形成し、これを接合する構成とすることもできる。
【0015】
巻芯21は、後述するテープ型超電導線材50が巻回される際に巻回中心となるものである。上部フランジ22は、巻芯21の上部に設けられている。また下部フランジ23は、巻芯21の下部に設けられている。
【0016】
上部フランジ22と下部フランジ23は同一直径とされており、また巻芯21の直径よりも大きく設定されている。このため、巻枠20は全体としてボビン状の形状を有する。
【0017】
コイル本体30は、複数(本実施形態では4個)のコイル巻回体32A〜32Dを有している。このコイル巻回体32A〜32Dは、巻枠20の巻芯21に上下方向(
図1(B)に矢印Z1,Z2で示す方向)に同軸状に積層されている。また各コイル巻回体32A〜32Dは、テープ型超電導線材50をパンケーキ形状に巻回したものである。
【0018】
テープ型超電導線材50は、例えばRE−123系酸化物超電導体(REBa2Cu3O7−X:REは希土類元素)を用いることができる。このテープ型超電導線材50は、テープ状とされた基材上にRE−123系酸化物超電導体等の超電導材を成膜したものである。
【0019】
またテープ型超電導線材50が超電導状態を実現するため、超電導コイル10は図示しない冷凍機(例えば、ギフォード・マクマホン冷凍機等)により冷却される。この冷却時における冷却効率を高めるため、巻枠20にテープ型超電導線材50を巻回する際、巻回されるテープ型超電導線材50の間に充填材60を充填し固化することが行われている(
図3の右端部を参照)。
【0020】
よって、各コイル巻回体32A〜32Dは、平面視した状態ではテープ型超電導線材50と充填材60が交互に積層された状態となっている。
【0021】
また充填材60は、低温時における熱伝導性、絶縁性等に優れた材料が好ましい。この充填材60としては、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。この充填材60は接着剤と等価の機能も有するため、積層されるテープ型超電導線材50の間に充填材60が配設された場合、この積層されるテープ型超電導線材50は充填材60により固定された状態となる。
【0022】
また複数のコイル巻回体32A〜32Dは、それぞれが電気的に接続されている。そして、この接続された複数のコイル巻回体32A〜32Dの両端部には、超電導コイル10を外部接続するための電極40が接合される。
【0023】
電極40は、電極本体41、固定部42、及び線材接合部43を有している。この電極40は、例えば導電性が良好である銅により形成することができる。特にその中でも、電気特性の良好な純度の高い無酸素銅を用いることが望ましい。なお、電極40の材料として、銅以外の導電性材料を用いることも可能である。
【0024】
電極40は、巻枠20の上部フランジ22に固定される。電極40は、電極本体41の側方に延出する固定部42を有している。この固定部42は、固定ボルト47が挿通される挿通孔が形成されている。また、上部フランジ22の挿通孔と対応する位置には、固定ボルト47が締結されるボルト孔が形成されている。
【0025】
電極40は、固定ボルト47を挿通孔を挿通しボルト孔に固定することにより上部フランジ22に固定される。電極40が上部フランジ22に固定された状態で、電極本体41は上部フランジ22から上方向に立設した状態となる。
【0026】
このように、電極40は巻枠20に固定ボルト47を用いて固定されるため、固定状態において電極40が巻枠20に対して変位するようなことはない。
【0027】
前記のように、テープ型超電導線材50の両端部は電極40に接合され、電気的に接続される。電極40の下部には線材接合部43が形成されている。
【0028】
テープ型超電導線材50の端部は、例えばはんだ付け等の接合方法を用いて線材接合部43に接合される。この接合状態において、テープ型超電導線材50の端部は線材接合部43に電気的に接続されると共に機械的に固定される。よって接合位置において、テープ型超電導線材50の端部と線材接合部43との間で変位が生じるようなことはない。
【0029】
ここで、電極40とテープ型超電導線材50が接合される近傍位置に注目する。
【0030】
図3は、
図2に矢印Aで示す破線で示す部分を拡大して示す概略構成図である。前記のように、巻枠20にテープ型超電導線材50を巻回する際、テープ型超電導線材50が積層される(重ね合わされる)部分には充填材60が充填される。
【0031】
しかしながら本実施形態では、対向するテープ型超電導線材50の間に充填材60が配設されていない領域を設けている(以下、この充填材60が配設されていない領域を非配設部70という)。この非配設部70は、
図2及び
図3に示されるように、テープ型超電導線材50の一端部に接合された電極40から、テープ型超電導線材50の他端部に接合された電極40に向けて(
図2及び
図3に矢印X2で示す方向に向けて)、所定範囲に亘り設けられている。
【0032】
この非配設部70の形成範囲(
図3に矢印L1で示す)は、電極40がテープ型超電導線材50に接合された接合範囲(
図3に矢印L2で示す)のテープ型超電導線材50が延出している側の端部の位置(
図3に矢印P1で示す位置。以下、境界位置P1という)から、充填材60が配設された端部の位置(
図3に矢印P2で示す位置。以下、配設端部位置P2という)までをいう。
【0033】
非配設部70の形成範囲では、
図2及び
図3に示されるように、対向するテープ型超電導線材50同士の間には間隙部71が形成されるか、或いは、図示しないが対向する一対のテープ型超電導線材50が接触した状態となる。
【0034】
この非配設部70は、例えばコイル本体30の製造工程時において、テープ型超電導線材50を巻回する際に非配設部70とする範囲にわたり充填材60を配設しないことにより形成することができる。また、予め非配設部70に該当する範囲に離型剤を塗布しておくことにより、非配設部70に該当する範囲の充填材60をテープ型超電導線材50を巻回した後に取り除くことも可能である。
【0035】
なお、非配設部70に該当する範囲の充填材60は必ずしも取り除く必要はない。離型剤を配設した場合には、非配設部70と充填剤60との間に離型剤が介在することになる。離型剤は充填材60と積層されるテープ型超電導線材50とを固定するものではないため、充填剤が非配設部70に介在しても、実質的に充填材60が配設されてない状態と等価となる。また、テープ型超電導線材50同士の間に接着剤としての機能を有さない充填剤を介在させてもよい。このように、実質的に充填材60が配設されてない状態と等価となる領域についても、非配設部70というものとする。
【0036】
ところで前記のように、超電導コイル10が機能するためには、テープ型超電導線材50を超電導状態とする必要があり、このため超電導コイル10は図示しない冷凍機により冷却される。
【0037】
冷凍機によりコイル本体30(テープ型超電導線材50)に対して冷却処理が行われることにより、積層されたテープ型超電導線材50の間に配設された充填材60も冷却される。前記のように充填材60はエポキシ樹脂等の樹脂であり、テープ型超電導線材50は前記の超電導材料を含むものである。
【0038】
よって、テープ型超電導線材50の熱収縮率(熱線膨張係数)と、充填材60の熱収縮率(熱線膨張係数)は異なっている。即ち、冷却した場合にテープ型超電導線材50に発生する収縮(図に黒塗りの矢印で示す)の大きさと、充填材60に発生する収縮(図に白抜きの矢印で示す)に差が発生する。
【0039】
このため、冷却を行った際にテープ型超電導線材50と充填材60との間の熱収縮差により両者間に応力が発生する可能性があることは前述した通りである。
【0040】
また電極40は、巻枠20(上部フランジ22)に固定ボルト47を用いて機械的に強固に固定されている。よって、仮に
図6に示す参考例のように、非配設部70を設けることなくテープ型超電導線材50の全範囲に充填材60を配設した場合、配設端部位置Pにおいて応力集中が発生する可能性が高い。
【0041】
これ対して本実施形態では、境界位置P1から配設端部位置P2までの所定範囲に充填材60が配設されていない非配設部70が形成されている。この非配設部70は、充填材60が存在しないためテープ型超電導線材50と充填材60との熱収縮率差に起因した応力の発生を低減するか、或いはなくすることができる。
【0042】
特に本実施形態では、応力集中が発生し易い境界位置P1を含む領域に非配設部70が設けられている。このため、応力集中によりテープ型超電導線材50に損傷が生じることを有効に防止することができる。
【0043】
次に、非配設部70の位置及び長さ(
図3に矢印L1で示す)について説明する。
【0044】
非配設部70は前記のようにテープ型超電導線材50と充填材60との熱収縮率差に起因した応力の発生を低減するものであるため、応力集中が発生しやすい境界位置P1を含むことが好ましい。
【0045】
また、
図5に示すように電極40の下部位置に充填材60を配設しても(この充填材60を特に電極下充填材60aという)、この電極下充填材60aの長さは短い。また電極40の直下位置では、テープ型超電導線材50及び充填材60の熱収縮は、上部フランジ22に強固に固定された電極40により規制される。このため、電極40の下部位置に必ずしも非配設部70を設ける必要はない。
【0046】
よって非配設部70は、少なくとも境界位置P1よりも他方の電極に向けた方向(
図3に矢印X2で示す方向)に形成することが好ましい。
【0047】
また、非配設部70の長さL1は、上記の熱応力の発生を抑制するためには長く設定することが望ましい。しかしながら、超電導コイル10を構成するテープ型超電導線材50には、磁場からローレンツ力が印加される。
【0048】
このローレンツ力は、
図4に矢印Fで示すように、テープ型超電導線材50の延在方向に対し直交する方向に印加される。充填材60が配設された非配設部70以外の領域では、充填材60に対して機械的強度が低いテープ型超電導線材50は、充填材60により保持される。よって、テープ型超電導線材50がローレンツ力により損傷するようなことはない。
【0049】
しかしながら非配設部70においては、このローレンツ力をテープ型超電導線材50のみで受けることになる。よって、非配設部70の範囲は、テープ型超電導線材50がローレンツ力により影響を受けない範囲に設定することが好ましい。
【0050】
よって本実施形態では、非配設部70の範囲は少なくとも境界位置P1を含み、ローレンツ力により非配設部70におけるテープ型超電導線材50が損傷を受けない範囲に設定されている。
【0051】
このように設定した非配設部70を設けることにより、テープ型超電導線材50と充填材60との熱収縮差に起因して発生する応力集中によるテープ型超電導線材50の損傷、及びローレンツ力によるテープ型超電導線材50の損傷の何れをも防止することができ、信頼性の高い超電導コイル10を実現することができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能なものである。