特許第6305764号(P6305764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和シェル石油株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6305764-グースアスファルト組成物 図000005
  • 特許6305764-グースアスファルト組成物 図000006
  • 特許6305764-グースアスファルト組成物 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305764
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】グースアスファルト組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 95/00 20060101AFI20180326BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20180326BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20180326BHJP
   E01C 7/18 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C08L95/00
   C08L53/02
   C08L91/00
   E01C7/18
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-273382(P2013-273382)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127374(P2015-127374A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186913
【氏名又は名称】昭和シェル石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】若松 一浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康彦
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−233074(JP,A)
【文献】 特開2012−136662(JP,A)
【文献】 特開2012−136661(JP,A)
【文献】 特開2008−156568(JP,A)
【文献】 特開2007−270042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 95/00
C08L 53/02
C08L 91/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤脱れきアスファルト:50〜70質量%と、
石油系溶剤抽出油:10〜20質量%と、
25%トルエン溶液粘度が5000mPa・s以下の水添熱可塑性エラストマー:2.5質量%以上と、
軟化点が95℃以上の石油樹脂5質量%以上及びワックス9質量%以上、又は上記石油樹脂15質量%以上とを含有すること
を特徴とするグースアスファルト組成物。
【請求項2】
上記溶剤脱れきアスファルトは、プロパン脱れきアスファルトであり、
上記水添熱可塑性エラストマーは、SEBSであること
を特徴とする請求項1記載のグースアスファルト組成物。
【請求項3】
軟化点が130℃以上の上記石油樹脂10質量%以上及び上記ワックス10質量%以上を含有すること
を特徴とする請求項1又は2記載のグースアスファルト組成物。
【請求項4】
更にカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン:0.2〜1質量%含有すること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載のグースアスファルト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性に優れ、かつ重交通舗装に求められる強度を発揮させる上で好適なグースアスファルト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼製床版を用いた鉄橋や高架道路では近年の交通量の増加に伴い、一般のアスファルト舗装よりも耐久性に優れ、しかも交通荷重による衝撃や繰り返し曲げに対する撓み追従性に優れているグースアスファルトが用いられている。またグースアスファルトは、空隙が殆ど存在しないため水密性が高く、防水層としての機能も発揮することができる。更にこのグースアスファルトは、一般のアスファルトと比較して舗設時における流動性が高い。このため、グースアスファルトを舗設施工に使用する際には、この高い流動性を利用して鋼床よりなる施工基面上に流し込み、アスファルトフィニッシャにより平らに敷きならす。この過程で、鋼床版における継手部のボルトや段差部等、隅々までこのグースアスファルトを充填することが可能となる。
【0003】
グースアスファルトは、アスファルトに、天然のアスファルトであるトリニダートレークアスファルト又は熱可塑性エラストマー等の改質材を混合したアスファルト組成物に骨材及びフィラーを配合して構成される。
【0004】
また、このようなグースアスファルトをアスファルトフィニッシャにより敷きならす技術も従来において各種提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−147858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、昨今の交通量の著しい増加に伴い、仮にグースアスファルトにより舗装された鉄橋や高架道路であっても、わだち掘れの発生等の問題が無視できない状況になっている。このため、耐わだち掘れ性(DS値)を向上させつつ、従来のグースアスファルトと同様に高い流動性を活かした流し込みによる舗設が可能な新たなグースアスファルトの開発が期待されている。特に高度成長期に舗装された橋梁や高速道路の老朽化が深刻となっており、これらを補修する際において、耐わだち掘れ性に優れた新たなグースアスファルトに入れ替えたいというニーズも顕在化していた。
【0007】
そこで、本発明は上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、耐わだち掘れ性(DS値)を向上させつつ、従来と同様に高い流動性を活かした流し込みによる舗設が可能なグースアスファルト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のグースアスファルト組成物は、上述した課題を解決するために、溶剤脱れきアスファルト:50〜70質量%と、石油系溶剤抽出油:10〜20質量%と、 25%トルエン溶液粘度が5000mPa・s以下の水添熱可塑性エラストマー:2.5質量%以上と、軟化点が95℃以上の石油樹脂5質量%以上及びワックス9質量%以上、又は上記石油樹脂15質量%以上とを含有することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載のグースアスファルト組成物は、請求項1記載の発明において、上記溶剤脱れきアスファルトは、プロパン脱れきアスファルトであり、上記水添熱可塑性エラストマーは、SEBSであることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載のグースアスファルト組成物は、請求項1又は2記載の発明において、軟化点が130℃以上の上記石油樹脂10質量%以上及び上記ワックス10質量%以上を含有することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載のグースアスファルト組成物は、請求項1〜3のうち何れか1項記載の発明において、更にカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン:0.2〜1質量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上述した構成からなる本発明によれば、流動性の高いグースアスファルトが提供可能となることから流し込み工法に基づいて、鋼床の上にグースアスファルトからなる層を形成させることができ、特に締め固め等の処理を行う必要が無く、施工労力の軽減、施工コストの抑制を実現することが可能となる。
【0013】
また、本発明を適用したグースアスファルトは、その高い流動性に基づいて、鋼床の表面に突出された緊締部材等の隅々にまで充填することが可能となり、舗装内部に微小な空隙が残存するのを防止できる。これに加えて、グースアスファルトは、たわみ追従性にもより優れ、交通量の増加にともない道路に負荷される繰り返し荷重や衝撃荷重が増加した場合においても舗装内部に微小なクラックの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】鋼床よりなる施工基面上にグースアスファルト組成物を舗設する例を示す図である。
図2】DS値の測定方法の詳細について説明するための図である。
図3】DS値の測定試験開始時刻を起点としたときの試験時間(分)に対する沈下量(mm)の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用したグースアスファルト組成物の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明を適用したグースアスファルト組成物は、溶剤脱れきアスファルト:50〜70質量%と、石油系溶剤抽出油:10〜20質量%と、25%トルエン溶液粘度が5000mPa・s以下の水添熱可塑性エラストマー:2.5質量%以上と、軟化点が95℃以上の石油樹脂5質量%以上及びワックス9質量%以上、又は上記石油樹脂15質量%以上とを含有してなる。以下、各成分組成の詳細並びにその含有量を限定した理由について説明をする。以下の各成分組成における質量%は、単に%と記載する。
【0017】
溶剤脱れきアスファルト:50〜70%
本発明を適用したグースアスファルト組成物に使用されるアスファルトとしては、原油の常圧蒸留残油を減圧蒸留する工程において得られる減圧蒸留残油から溶剤により潤滑油成分を抽出して得られる溶剤脱れきアスファルトである。本発明では、この溶剤脱れきアスファルトのうち、溶剤としてプロパン、又はプロパンとブタンを使用するプロパン脱れきアスファルトを使用することが望ましい。
【0018】
プロパン脱れきアスファルトは、例えばJISK2207の下で25℃における針入度が12(1/10mm)、軟化点が63.5℃、180℃における粘度は132mPa・s、15℃における密度が1062kg/m3であるのものを使用するようにしてもよい。但し、プロパン脱れきアスファルトにおけるこれらの物性はあくまで一例であり、これに限定されるものではないことは勿論である。
【0019】
溶剤脱れきアスファルトの含有量が50%未満の場合、石油系溶剤抽出油の割合が多くなるため、対わだち掘れ性を向上させることができない。一方、アスファルト含有量が70%を超えると、石油系溶剤抽出油の割合が少なくなり、作業温度において流動しにくくなり施工性が低下する。また水添熱可塑性エラストマーとの相溶性が低下する虞もある。よって、アスファルト含有量は、50〜70%とする。
【0020】
石油系溶剤抽出油:10〜20%
石油系溶剤抽出油は、原油から潤滑油を製造する際の溶剤抽出過程で生成される抽出油であり、芳香族分及びナフテン分に富んだ油状物質である(「石油製品のできるまで」,図6−1"一般的な潤滑油製造工程",石油連盟発行,昭和46年11月,p.99、及び「新石油辞典」,石油学会編,1982年,p.304参照)。この石油系溶剤抽出油は、アスファルト組成物に添加されたときに、軟化剤として作用する成分であり、沸点が350℃以上、60℃における動粘度が300~800mm2/s、引火点が250℃以上で、芳香族含有量が65%以上であることが望ましい。
【0021】
このような石油系溶剤抽出油としては、例えば、原油精製の工程において、フェノール、N−メチルピロリドン、液体二酸化硫黄及びフルフラール等の溶剤により抽出されるブライトストックの溶剤抽出分がある。この石油系溶剤抽出油の含有量が10%未満の場合、流動性が低下して良好な作業性が得られなくなる。一方、石油系溶剤抽出油の含有量が20%を超えると、対わだち掘れ性が低下するよって、石油系溶剤抽出油の含有量は10〜20%とする。
【0022】
水添熱可塑性エラストマー:2.5%以上
水添熱可塑性エラストマーは、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が用いられる。SEBSはスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)中のブタジエンブロックを完全に水素添加処理することによって二重結合をなくし、SBSよりも耐熱性・耐候性を大幅に向上したものである。しかしながら、この水添処理によって分子鎖の屈曲性が変化するため、改質アスファルトに与える添加効果もSBSとは異なる。なお、この水添熱可塑性エラストマーは、は、ブタジエンブロックを完全に水素添加処理することによって二重結合をなくすものであれば、SEBS以外のSEPS等、いかなるものも含まれるが、以下の説明では、この水添熱可塑性エラストマーとしてSEBSを採用する場合を例にとり説明をする。
【0023】
SEBSを採用する理由としては、実際にグースアスファルトは、240℃程度で施工を行うため、通常のSBSでは分解しゲル化してしまうが、SEBSは使用温度が高くても十分に性状を維持できるためである。 SEBSは、スチレン含有量が20~40%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が5000mPa・s以下の範囲にある必要がある。好ましくは、スチレン含有量は25~35%、且つ、25%トルエン溶液粘度500〜3000mPa・s、より好ましくはスチレン含有量は27~33%、且つ、25%トルエン溶液粘度1000〜1500mPa・sである。
【0024】
なお、本発明を適用したグースアスファルトにおいては、あくまでDS値については、主として後述する石油樹脂とワックスにより発現させることを前提としている。しかし、石油樹脂+ワックスもしくは石油樹脂単体でDS値を向上させるべく、これのみの濃度を上げると却って硬化しすぎて脆性破壊を起こす可能性がある。このため、弾力性のあるSEBSを添加することにより、DS値の向上と硬化による脆性破壊の防止とを両立させる。
【0025】
また、この水添熱可塑性エラストマーとしてのSEBSの含有量は、2.5%以上としている。このSEBSの含有量が2.5%未満の場合には、混合される石油樹脂やワックスとの関係においてDS値が低下してしまうためである。
【0026】
軟化点が95℃以上の石油樹脂5%以上及びワックス9%以上
石油樹脂は、石油精製過程において熱分解留分中に存在する不飽和炭化水素の重合物であり、分子量が100〜2000程度、一般には200〜1500であり、軟化点が60〜150℃程度である淡黄色の材料である。この石油樹脂としては、C5系石油樹脂等の脂肪族系石油樹脂(以下、C5系石油樹脂という)、C9系石油樹脂等の芳香族系石油樹脂(以下、C9系石油樹脂という)、ジシクロペンタジエン系石油樹脂等の脂環族系石油樹脂(以下、DCPDという)、C5/C9共重合系石油樹脂などの石油樹脂(以下、C5/C9系石油樹脂という)、並びにこれら石油樹脂を水添して得られる水添石油樹脂が使用できる。
【0027】
この石油樹脂の軟化点が95℃未満の場合には、軟化点がDS値の測定温度である60℃に近くなるため、DS値が低下してしまう恐れが生じるという問題点が生じる。
【0028】
ワックスは、石油樹脂と同様に耐わだち掘れ性を向上させる。しかし、ワックスは石油樹脂に比べると施工時の流動性を向上させる力が劣る。
【0029】
よって、上述した石油樹脂が5%未満、又はワックスが9%未満の場合には、混合されるSEBSとの関係においてDS値が低下してしまう。このため、所望の耐わだち掘れ性を確保することができなくなってしまったり、施工時の流動性が低下するという問題点がある。
【0030】
このため、本発明を適用したグースアスファルト組成物においては、DS値の低下を防止し、施工時の流動性を確保する観点から、石油樹脂5%以上及びワックス9%以上含有するものとする。
【0031】
なお、DS値をより向上させる観点から、軟化点が130℃以上の石油樹脂10質量%以上及びワックス10質量%以上とを含有することが望ましい。
【0032】
石油樹脂15%以上
本発明を適用したグースアスファルト組成物においては、上述した石油樹脂5%以上及びワックス9%以上を添加する代替として、石油樹脂15%以上添加するようにしてもよい。かかる場合には、ワックスの含有量は、9%未満とされていてもよいし、或いはワックスの含有量は0%とされていてもよい。
【0033】
石油樹脂の含有量が15%未満の場合には、混合されるワックスやSEBSとの関係において、DS値が低下してしまう。このため、所望の耐わだち掘れ性を確保することができなくなるという問題点がある。
【0034】
このため、本発明を適用したグースアスファルト組成物においては、DS値の低下を防止する観点から、石油樹脂15%以上含有するものとする。
【0035】
カルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン:0.2〜1%
【0036】
本発明では、アスファルト組成物と骨材の剥離を防止するために、剥離防止剤を添加することが好ましい。
【0037】
剥離防止剤として樹脂酸が好適に使用できるが、樹脂酸とはカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンであって、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、パラストリン酸のうち何れか1種以上を含有するロジンのことである。
【0038】
また、この樹脂酸としては、上述したロジンに加え、不均化ロジン、アビエチン酸を起源とするダイマー酸若しくはトリマー酸、又はこれらのうちの2種以上の混合物を使用することができる。
【0039】
ここでロジンとしては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどが使用される。これらロジンは、原産地、原材料、採取方法の違いにより上述したガムロジン、ウッドロジン等の如き分類が可能となるが、少なくとも松脂の水蒸気蒸留時の残渣成分として得られるものである。このロジンでは、成分としてアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、サンダラコピマール酸、イソピマール酸等を含む混合物である。このロジンは、通常約80℃で軟化し、90〜100℃で溶融する。なお、ロジン中にはアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸などの各種樹脂酸が含まれているが、これら樹脂酸をそれぞれ精製して単独で使用するようにしてもよい。
【0040】
本発明では好ましいロジンとしてガムロジンを使用したが、これによって制限をうけるものではない。
【0041】
仮にこの樹脂酸の含有量が0.2%未満では、樹脂酸の効果が充分ではなく、最終生成物としての剥離防止及び相溶性の向上を図ることができない。これに対して、この樹脂酸の含有量が3重量%を超えてしまうと、この剥離防止及び相溶性の向上という効果が飽和してしまうばかりでなく、高価な樹脂酸の添加量が増加することによる原料コストの上昇が著しくなるという問題が生じる。また、樹脂酸の含有量を3%を超えて添加しても、剥離防止及び相溶性の向上はこれ以上大幅に向上するものではなく、却って原料コストの面において不利となる。このため、樹脂酸の含有量は、0.2〜3%(より好ましくは0.2〜1%)とされていることが望ましい。
【0042】
また、剥離防止剤の中には滑材としての性能を併せ持つものもあり、これらは前述の剥離防止効果に加えて、施工・転圧時の締め固め性を向上させる滑剤としても働く。
【0043】
脂肪酸又は脂肪酸アミドは、はく離防止剤、並びに滑剤として機能させるために添加されるものである。脂肪酸は、例えばステアリン酸、パルチミン酸、ミリスチン酸等の飽和脂肪酸や、オレイン酸、リノール酸、リシレノン酸等の不飽和脂肪酸に代表されるものであるがこれに限定されるものではない。
【0044】
脂肪酸アミドは、例えばステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミド(EBS)等に代表されるものであるがこれに限定されるものではない。
【0045】
仮にこの脂肪酸又は脂肪酸アミドの含有量が0.2%未満では、効果が充分ではなく、最終生成物としてのはく離防止剤、並びに滑剤として機能の向上を図ることができない。これに対して、この脂肪酸又は脂肪酸アミドの含有量が3重量%を超えてしまうと、このはく離防止剤、並びに滑剤として機能向上という効果が飽和してしまうばかりでなく、高価な脂肪酸、又は、脂肪酸アミドの添加量が増加することによる原料コストの上昇が著しくなるという問題が生じる。即ち、脂肪酸又は脂肪酸アミドの含有量を3%を超えて添加しても、はく離防止剤、並びに滑剤としての機能向上はこれ以上大幅に向上するものではなく、却って原料コストの面において不利となる。
【0046】
上述の如き成分組成からなるグースアスファルト組成物は、例えば図1に示すように鋼床3よりなる施工基面上に舗設される。かかる場合において、グースアスファルト組成物は、アスファルトプラントにおいて上述した成分組成となるように製造され、更に粗骨材及びフィラーを配合し、専用運搬車で更に200〜240℃程度にクッキングしつつ施工現場へ搬送される。そして、鋼床3上に加熱状態のグースアスファルト2を専用のアスファルトフィニッシャを用いて流し込む。この過程では、上述した成分からなる本発明を適用したグースアスファルト2は、流動性が非常に高い。このため、鋼床3にグースアスファルト2を流し込むだけで、鋼床3の表面に突出されたボルト等の緊締部材4や図示しない段差部等の隅々にまで充填することが可能となる。ちなみに、この鋼床3とグースアスファルト2との間にエポキシ等からなる防水性の接着層を設けるようにしてもよい。最後に、このグースアスファルト2の上層に一般的なアスファルトコンクリート1を充填することでこれを舗装する。
【0047】
このように、本発明を適用したグースアスファルト2では、流し込み工法を採用するため、鋼床3の上にグースアスファルト2からなる層が形成された後、特に締め固め等の処理を行う必要が無く、施工労力の軽減、施工コストの抑制を実現することが可能となる。
【0048】
また、本発明を適用したグースアスファルト2は、その高い流動性に基づいて、鋼床3の表面に突出された緊締部材4等の隅々にまで充填することが可能となり、舗装内部に微小な空隙が残存することを防止できる。これに加えて、グースアスファルト2は、たわみ追従性にもより優れ、交通量の増加にともない道路に負荷される繰り返し荷重や衝撃荷重が増加した場合においても舗装内部に微小なクラックの発生を防止できる。このため、本発明を適用したグースアスファルト2を適用することにより、耐わだち掘れ性(DS値)を向上させることが可能となる。特に橋梁の舗装にグースアスファルト2が用いられる場合には、橋梁上を走行する車両による橋桁自体の揺れが多くなるが、係る場合においても本発明を適用したグースアスファルト2を適用することで、耐わだち掘れ性(DS値)を向上させることが可能となる。特にこのような舗装に用いられるグースアスファルト2の取替えは、アスファルトコンクリート1次体を一度引き剥がす必要があるため、一度舗設されるとその後20〜30年間は、そのまま使用し続ける場合が多い。しかしながら、上述した構成からなる本発明によれば、20〜30年間以上に亘り耐わだち掘れ性を好適に発揮することが可能となる。特にこのアスファルトコンクリート1の下層にあるグースアスファルト2において優れた耐わだち掘れ性を発揮させることにより、その上層のアスファルトコンクリート1も含めて舗装全体の耐久性を向上させることにつながる。
【実施例1】
【0049】
以下に、本発明で使用した試験方法、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の例において単に%のみ記載されている場合は、質量%を示すものとする。
【0050】
本発明では、実験的検討を行うために得たサンプルについて、表1に示すように、流動性、DS値、針入度、粘度、軟化点からなる性能試験を行う。以下、詳細な試験方法について説明をする。なお、流動性とDS値は骨材を混ぜた混合物試験であり、針入度、粘度、軟化点はいずれもアスファルト組成物単体での試験結果である。 表1中の各成分組成における数値はいずれも含有量(質量%)を示す。
【0051】
【表1】
先ず流動性については、作成したグースアスファルト混合物に表3に示す条件で骨材を混合し、直径200mm、高さ250mmの円筒状の容器から240℃にてバットに流し入れ、自重にて平らになるかどうかを目視で確認した。その結果、自重で平らになったものについては、“○”とし、自重では平らにならず、塊状になってとどまるもの(塊状のまま冷え固まるもの)については“×”とした。
【0052】
DS値(動的安定度)は、道路舗装体の強度を測定する指標として専ら使用されるものであるが、アスファルト組成物を防水材、粘着材の用途等に適用する際においても、同様に強度の向上が求められる場合があることから、結果的にDS値を介してこれを評価することも十分に考えられる。このため、本件に関しては、DS値を評価指標としつつも、道路舗装のみならず、防水材、粘着材を始めとしたいかなる用途に適用するようにしてもよい。
【0053】
以下、このDS値を測定する方法について説明をする。DS値(動的安定度)は、高温時のアスファルト組成物の耐流動性(わだち掘れしにくさ)を評価する指標であり、ホイールトラッキング試験機を用いて測定を行う。ホイールトラッキング試験は、夏場の路面を想定して60℃で実施する。アスファルト組成物を後述する表1に記載する所定の粒度に調整した骨材(岩石を砕いた石)と混合した供試体を60℃で5時間以上養生し、車輪を1時間走行させる。例えば図2に示すように、30×30×5cmからなる供試体5を養生した。実際に供試体を作製してから、DS値の測定を開始するまでの時間は特に限定されないが、長期間、高温で保管されたりした場合、性状が変化する可能性がある。このため、一般的には本発明アスファルト組成物を1.8kg調製した後、直径16cm、高さ17cm、板厚1mmの鉄缶に入れ、室温まで放冷し、アスファルト組成物の調整が完了してから48時間以内に、鉄缶に入れたまま、240℃に保った空気循環式オーブンにアスファルト組成物を入れ、3時間保持し加熱したものを使用する。
【0054】
次に、この供試体5に対して、車輪11により686N(70kgf、もしくは70kg重)の下向きの荷重を負荷しつつ、図中矢印方向に向けて42回/分のペースで往復走行させる。ちなみに、この車輪11による走行位置は、ずらすことなく同一の走行路とする。
【0055】
図3は、DS値の測定試験開始時刻を起点としたときの試験時間(分)に対する沈下量(mm)の例を示している。試験開始時刻を起点として試験時間が増加するにつれて、車輪11の往復走行による沈下量が増加する。この沈下量は、供試体5の表面から深さ方向への沈下深さ(mm)である。
DS値を測定する際には、最初の試験開始時点から45分経過前までの沈下量は考慮に入れない。その理由として、最初の試験開始時点から45分経過前までは、添加した骨材との噛み合わせ等の要因に基づいて沈下量が決まるため、本来的な意味での耐流動性を評価することができなくなるためである。
【0056】
DS値を測定する際には、あくまで試験開始時刻を起点とし、45分経過後から60分経過後までの、15分間におけるアスファルト組成物の変形量d(mm)に着目する。このdは、試験開始時刻を起点として60分経過時における沈下量と、試験開始時刻を起点として45分経過時における沈下量との差を求めることにより算出することができる。DS値は、下記の式(2)から求めることができる。
【0057】
DS値(回/mm)=45分経過時〜60分経過時までのタイヤ走行回数(回)/d(mm)・・・・・・・・・・(2)
から求めることができる。車輪11による往復頻度が、42(回/分)である場合、(2)式を変形すると以下の(2)´式に書き換えることができる。
DS値(回/mm)=630(回)/d(mm)・・・・・・・・・・(2)´
【0058】
この(2)´式の分子は、42(回/分)×15(分)=630(回)を意味する。即ち、このDS値は、d(mm)に対する、15分間のタイヤ走行回数で求めることが可能となる。このDS値が高いほど、アスファルト組成物自体の変形量が少なく、轍掘れに強い材料となり、強度が高いことを意味している。
【0059】
なおDS値は、アスファルト組成物のみを用いて試験するのではなく、実際の道路舗装と同様に、表2に示す骨材(砕石、石灰岩粉など)と、アスファルト組成物を後述する所定の条件で混合し、成型した供試体を用いて測定する。
【0060】
本発明を適用したグースアスファルト組成物を用いてDS値を測定するための、具体的な方法を以下に示す。
【0061】
骨材としては、硬質砂岩からなる砕石を使用し、細粒分(粒子径の小さい構成成分)の配合調製には石灰岩を粉砕した石粉を使用し、供試体を作製する。なお海砂や回収ダストなど、前記の砕石および石粉以外の材料は、DS値変動の要因となるので使用しない。
【0062】
骨材の粒度を調整するために使用する石灰岩を粉砕した石粉は、JIS A 5008「舗装用石灰石粉」に適合する、通過質量百分率がふるい目600μmで100%、150μmで90〜100%、75μmで70〜100%であり、水分が1%以下であるものを使用する。
【0063】
石粉以外の骨材は硬質砂岩からなる砕石を使用し、以下(1)〜(6)に示す性状を満足するものを使用する。
【0064】
(1)吸水率1.5%未満、望ましくは1.0%未満。(JIS A 1110)
ここでは吸水率0.64%の砕石を使用している。骨材の吸水率が高いと、被覆されたアスファルトを骨材が吸収し、結果的に混合物中のアスファルト量が少ない配合となる。また吸水率の高い骨材は、使用時の湿度や表面の湿潤状態によってアスファルトの吸収量が大きく変化し、結果として混合物中のアスファルト量が変動することになる。
【0065】
従って、混合物中のアスファルト量を一定に保つために、吸水率は1.5%未満、望ましくは1.0%未満とする必要がある。
【0066】
(2)見掛密度2.60g/cm3以上、2.70g/cm3以下(JIS A 1110)
ここでは見掛密度2.66g/cm3の砕石を使用した。
【0067】
(3)安定性6%以下、望ましくは3%以下(JIS A 1122)
ここでは安定性2.4%の砕石を使用した。ここでいう安定性とは、凍結融解に対する安定性を規定したものである。この安定性の数値が小さいほど、凍結融解時の骨材破壊が少ない。舗装設計施工指針では12%以下と規定しているが、骨材の性状のばらつきを抑制するために、当該指針の規定の半分としている。
【0068】
(4)すり減り減量20%以下、望ましくは15%以下(JIS A 1121)
ここではすり減り減量12.6%の砕石を使用した。すり減り減量試験は、骨材の硬さおよびすり減りに対する抵抗、すなわち骨材の耐久性を評価する試験である。すり減り減量が20%を越えるとわだち掘れが大きくなるので(非特許文献1参照。)、ここではすり減り減量を20%以下、望ましくは15%以下とした。
【0069】
(5)軟石量5.0%以下、望ましくは3.0%以下(JIS A 1126)
ここでは軟石量2.5%の砕石を使用した。軟石量は、黄銅の棒(モース硬度3〜4)によりひっかき跡が付くかを判定する試験で、骨材が黄銅よりも硬いか、軟らかいかを判定する試験である。軟石量はすり減り減量試験と同様に、骨材の硬さおよびすり減りに対する抵抗、すなわち骨材の耐久性を評価する試験である。軟石量は一般的に5%以下である必要がある。(舗装調査・試験法便覧A008参照。)
【0070】
(6)細長,あるいは扁平な石片の含有量10.0%以下、望ましくは5.0%以下(舗装設計施工指針(規制値)および舗装調査・試験法便覧A008(試験法))
ここでは細長、あるいは扁平な石片の含有量2.8%の砕石を使用した。ここでいう石片は、一般には長軸/短軸比が3以上のものを細長、あるいは扁平な石片として使用する。細長,あるいは扁平な石片が混入すると、舗装もしくは試験用の供試体が、ある方向からの荷重に対して、変形しやすくなる可能性がある。すなわち細長,あるいは扁平な石片が多く混入していると、それらが向きを揃えて配向し、その向きと平行な荷重に対しては、垂直な荷重に対するよりも変形しやすくなる。
【0071】
従って、耐わだち掘れ性能(DS値)を測定する際には、細長あるいは扁平な石片の混入量を制限しないと、得られる値が大きく変動する事となる。
【0072】
これらの性状を満足する砕石、および石粉を骨材として使用し、また表2に示す骨材配合を調整し、表3に示す条件で供試体を作製した。
【0073】
実際に供試体の作製は、アスファルト組成物と骨材との混合からなる。混合は、240℃に加熱されているアスファルト組成物933g、300℃に加熱されてなるとともに上述した粒度に合成した(以下、その調整した粒度を合成粒度という。)骨材を10844g準備する。
【0074】
まず骨材をミキサーに入れ、骨材のみを60秒間混合し、均一にした。混合を一時止め、933gのアスファルト混合物をミキサーに投入した後、これらアスファルト組成物と骨材とを180秒にわたって混合した。なお、混合する際の温度は、260℃程度となる。
【0075】
混合を終了したこれらアスファルト組成物と骨材とをホイールトラッキング試験用型枠(内寸 縦30.0cm、横30.0cm、深さ5.0cm)に入れた。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
なお、混合の使用した装置は、直径200mm 高さ250mmとされている。また、混合後転圧を行うことなく、そのままの状態で型枠に流し込み、試験を行っている。
【0078】
針入度(25℃)は、JIS K 2207「石油アスファルト−針入度試験方法」で測定した。この値は7〜20程度(0.1mm)が好ましい。
【0079】
粘度(180℃)は、JPI−5S−54−99「アスファルト−回転粘度計による粘度試験方法」の条件の下、測定温度180℃、使用スピンドルSC4−21、スピンドル回転数50回転/分で測定した。
【0080】
軟化点は、JIS K 2207「石油アスファルト−軟化点試験方法」で測定した。
【0081】
以下、本発明を適用した改質アスファルト組成物において、効果を検証するための実施例と比較例について、詳細に説明をする。
【0082】
この表1において、使用したプロパン脱れきアスファルトの性状は、代表的な性状として針入度が12(1/10mm)、軟化点が63.5℃、15℃における密度が1062kg/m3であるものである。また、使用したエキストラクトは、代表的な性状が60℃における動粘度が542mm2/s、15℃における密度が976.6kg/m3である。
【0083】
使用したSEBS1は、スチレン含有量が28〜30%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sである。SEBS2は、スチレン含有量が28〜30%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が8800mPa・sである。
【0084】
使用した石油樹脂1は、軟化点が140℃であり、石油樹脂2は、軟化点が100℃である。
【0085】
使用したワックス1は、融点が112℃であり、ワックス2は、融点が131℃である。
【0086】
実施例1〜12は、何れも本発明において規定した範囲に包含される。これら実施例のうち、実施例1〜8、11、12は、石油樹脂5%以上、ワックス9%以上含有しているものであり、実施例9、10は、石油樹脂15%以上含有しているものである。
【0087】
これら実施例1〜12は、何れも流動性が“○”であるから優れたものとなっており、DS値も400回/mmを超えており、優れた耐わだち掘れ性を示すことが示されていた。
【0088】
特に実施例1〜4は、石油樹脂10質量%以上及びワックス10質量%以上とを含有しており、しかもロジン又はダイマー酸(カルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン)を0.2〜1.0%含有している。しかもこの実施例1〜4は、いずれも石油樹脂1を添加しており、当該石油樹脂1の軟化点は140℃とされている。
【0089】
このため、実施例1〜4、12は、いずれも流動性に優れており、DS値も700(回/mm)とされている。
【0090】
表1における参考例は、グースアスファルトの現行品であり、グースファルト20/40を75%、中米カリブ海のトリニダッド島に産する 天然アスファルト(レイクアスファルト:TLA)を25%配合したものである。グースファルト20/40は針入度30、軟化点58.5℃、密度1046kg/m3 引火点348℃、TLAは針入度3、軟化点95℃、密度1392kg/m3 引火点252℃である。
【0091】
比較例1、3、9は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であり、石油樹脂が5%以上であるものの、ワックスが9%未満であることから、DS値が低下し、耐わだち掘れ性が悪化していた。
【0092】
比較例2、4は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であるものの、石油樹脂が5%未満であり、かつワックスが9%未満であることから、DS値が低下し、耐わだち掘れ性が悪化していた。
【0093】
比較例5は、石油樹脂が5%以上であり、かつワックスが9%以上であるが、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sであるものの、その含有量が2.5%未満であることから、DS値が低下し、耐わだち掘れ性が悪化していた。
【0094】
比較例6〜8は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であり、ワックスが9%以上であるが、石油樹脂が5%未満であり、DS値が低下し、耐わだち掘れ性が悪化していた。
【0095】
比較例10は、石油樹脂が5%以上であり、かつワックスが9%以上であるものの、SEBSの25%トルエン溶液粘度が8800mPa・sであることから、流動性が低下してしまっていた。
【0096】
比較例11は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であり、石油樹脂が5%未満であることから、流動性が低下してしまっていた。
【0097】
比較例12は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であり、ワックスが20%以上とされているためDS値は良好であったが、石油樹脂が0%であることから流動性が低下してしまっていた。
【符号の説明】
【0098】
1 アスファルトコンクリート
2 グースアスファルト
3 鋼床
4 緊締部材
5 供試体
11 車輪
図1
図2
図3