【実施例1】
【0049】
以下に、本発明で使用した試験方法、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の例において単に%のみ記載されている場合は、質量%を示すものとする。
【0050】
本発明では、実験的検討を行うために得たサンプルについて、表1に示すように、流動性、DS値、針入度、粘度、軟化点からなる性能試験を行う。以下、詳細な試験方法について説明をする。なお、流動性とDS値は骨材を混ぜた混合物試験であり、針入度、粘度、軟化点はいずれもアスファルト組成物単体での試験結果である。 表1中の各成分組成における数値はいずれも含有量(質量%)を示す。
【0051】
【表1】
先ず流動性については、作成したグースアスファルト混合物に表3に示す条件で骨材を混合し、直径200mm、高さ250mmの円筒状の容器から240℃にてバットに流し入れ、自重にて平らになるかどうかを目視で確認した。その結果、自重で平らになったものについては、“○”とし、自重では平らにならず、塊状になってとどまるもの(塊状のまま冷え固まるもの)については“×”とした。
【0052】
DS値(動的安定度)は、道路舗装体の強度を測定する指標として専ら使用されるものであるが、アスファルト組成物を防水材、粘着材の用途等に適用する際においても、同様に強度の向上が求められる場合があることから、結果的にDS値を介してこれを評価することも十分に考えられる。このため、本件に関しては、DS値を評価指標としつつも、道路舗装のみならず、防水材、粘着材を始めとしたいかなる用途に適用するようにしてもよい。
【0053】
以下、このDS値を測定する方法について説明をする。DS値(動的安定度)は、高温時のアスファルト組成物の耐流動性(わだち掘れしにくさ)を評価する指標であり、ホイールトラッキング試験機を用いて測定を行う。ホイールトラッキング試験は、夏場の路面を想定して60℃で実施する。アスファルト組成物を後述する表1に記載する所定の粒度に調整した骨材(岩石を砕いた石)と混合した供試体を60℃で5時間以上養生し、車輪を1時間走行させる。例えば
図2に示すように、30×30×5cmからなる供試体5を養生した。実際に供試体を作製してから、DS値の測定を開始するまでの時間は特に限定されないが、長期間、高温で保管されたりした場合、性状が変化する可能性がある。このため、一般的には本発明アスファルト組成物を1.8kg調製した後、直径16cm、高さ17cm、板厚1mmの鉄缶に入れ、室温まで放冷し、アスファルト組成物の調整が完了してから48時間以内に、鉄缶に入れたまま、240℃に保った空気循環式オーブンにアスファルト組成物を入れ、3時間保持し加熱したものを使用する。
【0054】
次に、この供試体5に対して、車輪11により686N(70kgf、もしくは70kg重)の下向きの荷重を負荷しつつ、図中矢印方向に向けて42回/分のペースで往復走行させる。ちなみに、この車輪11による走行位置は、ずらすことなく同一の走行路とする。
【0055】
図3は、DS値の測定試験開始時刻を起点としたときの試験時間(分)に対する沈下量(mm)の例を示している。試験開始時刻を起点として試験時間が増加するにつれて、車輪11の往復走行による沈下量が増加する。この沈下量は、供試体5の表面から深さ方向への沈下深さ(mm)である。
DS値を測定する際には、最初の試験開始時点から45分経過前までの沈下量は考慮に入れない。その理由として、最初の試験開始時点から45分経過前までは、添加した骨材との噛み合わせ等の要因に基づいて沈下量が決まるため、本来的な意味での耐流動性を評価することができなくなるためである。
【0056】
DS値を測定する際には、あくまで試験開始時刻を起点とし、45分経過後から60分経過後までの、15分間におけるアスファルト組成物の変形量d(mm)に着目する。このdは、試験開始時刻を起点として60分経過時における沈下量と、試験開始時刻を起点として45分経過時における沈下量との差を求めることにより算出することができる。DS値は、下記の式(2)から求めることができる。
【0057】
DS値(回/mm)=45分経過時〜60分経過時までのタイヤ走行回数(回)/d(mm)・・・・・・・・・・(2)
から求めることができる。車輪11による往復頻度が、42(回/分)である場合、(2)式を変形すると以下の(2)´式に書き換えることができる。
DS値(回/mm)=630(回)/d(mm)・・・・・・・・・・(2)´
【0058】
この(2)´式の分子は、42(回/分)×15(分)=630(回)を意味する。即ち、このDS値は、d(mm)に対する、15分間のタイヤ走行回数で求めることが可能となる。このDS値が高いほど、アスファルト組成物自体の変形量が少なく、轍掘れに強い材料となり、強度が高いことを意味している。
【0059】
なおDS値は、アスファルト組成物のみを用いて試験するのではなく、実際の道路舗装と同様に、表2に示す骨材(砕石、石灰岩粉など)と、アスファルト組成物を後述する所定の条件で混合し、成型した供試体を用いて測定する。
【0060】
本発明を適用したグースアスファルト組成物を用いてDS値を測定するための、具体的な方法を以下に示す。
【0061】
骨材としては、硬質砂岩からなる砕石を使用し、細粒分(粒子径の小さい構成成分)の配合調製には石灰岩を粉砕した石粉を使用し、供試体を作製する。なお海砂や回収ダストなど、前記の砕石および石粉以外の材料は、DS値変動の要因となるので使用しない。
【0062】
骨材の粒度を調整するために使用する石灰岩を粉砕した石粉は、JIS A 5008「舗装用石灰石粉」に適合する、通過質量百分率がふるい目600μmで100%、150μmで90〜100%、75μmで70〜100%であり、水分が1%以下であるものを使用する。
【0063】
石粉以外の骨材は硬質砂岩からなる砕石を使用し、以下(1)〜(6)に示す性状を満足するものを使用する。
【0064】
(1)吸水率1.5%未満、望ましくは1.0%未満。(JIS A 1110)
ここでは吸水率0.64%の砕石を使用している。骨材の吸水率が高いと、被覆されたアスファルトを骨材が吸収し、結果的に混合物中のアスファルト量が少ない配合となる。また吸水率の高い骨材は、使用時の湿度や表面の湿潤状態によってアスファルトの吸収量が大きく変化し、結果として混合物中のアスファルト量が変動することになる。
【0065】
従って、混合物中のアスファルト量を一定に保つために、吸水率は1.5%未満、望ましくは1.0%未満とする必要がある。
【0066】
(2)見掛密度2.60g/cm3以上、2.70g/cm3以下(JIS A 1110)
ここでは見掛密度2.66g/cm
3の砕石を使用した。
【0067】
(3)安定性6%以下、望ましくは3%以下(JIS A 1122)
ここでは安定性2.4%の砕石を使用した。ここでいう安定性とは、凍結融解に対する安定性を規定したものである。この安定性の数値が小さいほど、凍結融解時の骨材破壊が少ない。舗装設計施工指針では12%以下と規定しているが、骨材の性状のばらつきを抑制するために、当該指針の規定の半分としている。
【0068】
(4)すり減り減量20%以下、望ましくは15%以下(JIS A 1121)
ここではすり減り減量12.6%の砕石を使用した。すり減り減量試験は、骨材の硬さおよびすり減りに対する抵抗、すなわち骨材の耐久性を評価する試験である。すり減り減量が20%を越えるとわだち掘れが大きくなるので(非特許文献1参照。)、ここではすり減り減量を20%以下、望ましくは15%以下とした。
【0069】
(5)軟石量5.0%以下、望ましくは3.0%以下(JIS A 1126)
ここでは軟石量2.5%の砕石を使用した。軟石量は、黄銅の棒(モース硬度3〜4)によりひっかき跡が付くかを判定する試験で、骨材が黄銅よりも硬いか、軟らかいかを判定する試験である。軟石量はすり減り減量試験と同様に、骨材の硬さおよびすり減りに対する抵抗、すなわち骨材の耐久性を評価する試験である。軟石量は一般的に5%以下である必要がある。(舗装調査・試験法便覧A008参照。)
【0070】
(6)細長,あるいは扁平な石片の含有量10.0%以下、望ましくは5.0%以下(舗装設計施工指針(規制値)および舗装調査・試験法便覧A008(試験法))
ここでは細長、あるいは扁平な石片の含有量2.8%の砕石を使用した。ここでいう石片は、一般には長軸/短軸比が3以上のものを細長、あるいは扁平な石片として使用する。細長,あるいは扁平な石片が混入すると、舗装もしくは試験用の供試体が、ある方向からの荷重に対して、変形しやすくなる可能性がある。すなわち細長,あるいは扁平な石片が多く混入していると、それらが向きを揃えて配向し、その向きと平行な荷重に対しては、垂直な荷重に対するよりも変形しやすくなる。
【0071】
従って、耐わだち掘れ性能(DS値)を測定する際には、細長あるいは扁平な石片の混入量を制限しないと、得られる値が大きく変動する事となる。
【0072】
これらの性状を満足する砕石、および石粉を骨材として使用し、また表2に示す骨材配合を調整し、表3に示す条件で供試体を作製した。
【0073】
実際に供試体の作製は、アスファルト組成物と骨材との混合からなる。混合は、240℃に加熱されているアスファルト組成物933g、300℃に加熱されてなるとともに上述した粒度に合成した(以下、その調整した粒度を合成粒度という。)骨材を10844g準備する。
【0074】
まず骨材をミキサーに入れ、骨材のみを60秒間混合し、均一にした。混合を一時止め、933gのアスファルト混合物をミキサーに投入した後、これらアスファルト組成物と骨材とを180秒にわたって混合した。なお、混合する際の温度は、260℃程度となる。
【0075】
混合を終了したこれらアスファルト組成物と骨材とをホイールトラッキング試験用型枠(内寸 縦30.0cm、横30.0cm、深さ5.0cm)に入れた。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
なお、混合の使用した装置は、直径200mm 高さ250mmとされている。また、混合後転圧を行うことなく、そのままの状態で型枠に流し込み、試験を行っている。
【0078】
針入度(25℃)は、JIS K 2207「石油アスファルト−針入度試験方法」で測定した。この値は7〜20程度(0.1mm)が好ましい。
【0079】
粘度(180℃)は、JPI−5S−54−99「アスファルト−回転粘度計による粘度試験方法」の条件の下、測定温度180℃、使用スピンドルSC4−21、スピンドル回転数50回転/分で測定した。
【0080】
軟化点は、JIS K 2207「石油アスファルト−軟化点試験方法」で測定した。
【0081】
以下、本発明を適用した改質アスファルト組成物において、効果を検証するための実施例と比較例について、詳細に説明をする。
【0082】
この表1において、使用したプロパン脱れきアスファルトの性状は、代表的な性状として針入度が12(1/10mm)、軟化点が63.5℃、15℃における密度が1062kg/m
3であるものである。また、使用したエキストラクトは、代表的な性状が60℃における動粘度が542mm
2/s、15℃における密度が976.6kg/m
3である。
【0083】
使用したSEBS1は、スチレン含有量が28〜30%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sである。SEBS2は、スチレン含有量が28〜30%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が8800mPa・sである。
【0084】
使用した石油樹脂1は、軟化点が140℃であり、石油樹脂2は、軟化点が100℃である。
【0085】
使用したワックス1は、融点が112℃であり、ワックス2は、融点が131℃である。
【0086】
実施例1〜12は、何れも本発明において規定した範囲に包含される。これら実施例のうち、実施例1〜8、11、12は、石油樹脂5%以上、ワックス9%以上含有しているものであり、実施例9、10は、石油樹脂15%以上含有しているものである。
【0087】
これら実施例1〜12は、何れも流動性が“○”であるから優れたものとなっており、DS値も400回/mmを超えており、優れた耐わだち掘れ性を示すことが示されていた。
【0088】
特に実施例1〜4は、石油樹脂10質量%以上及びワックス10質量%以上とを含有しており、しかもロジン又はダイマー酸(カルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペン)を0.2〜1.0%含有している。しかもこの実施例1〜4は、いずれも石油樹脂1を添加しており、当該石油樹脂1の軟化点は140℃とされている。
【0089】
このため、実施例1〜4、12は、いずれも流動性に優れており、DS値も700(回/mm)とされている。
【0090】
表1における参考例は、グースアスファルトの現行品であり、グースファルト20/40を75%、中米カリブ海のトリニダッド島に産する 天然アスファルト(レイクアスファルト:TLA)を25%配合したものである。グースファルト20/40は針入度30、軟化点58.5℃、密度1046kg/m
3 引火点348℃、TLAは針入度3、軟化点95℃、密度1392kg/m
3 引火点252℃である。
【0091】
比較例1、3、9は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であり、石油樹脂が5%以上であるものの、ワックスが9%未満であることから、DS値が低下し、耐わだち掘れ性が悪化していた。
【0092】
比較例2、4は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であるものの、石油樹脂が5%未満であり、かつワックスが9%未満であることから、DS値が低下し、耐わだち掘れ性が悪化していた。
【0093】
比較例5は、石油樹脂が5%以上であり、かつワックスが9%以上であるが、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sであるものの、その含有量が2.5%未満であることから、DS値が低下し、耐わだち掘れ性が悪化していた。
【0094】
比較例6〜8は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であり、ワックスが9%以上であるが、石油樹脂が5%未満であり、DS値が低下し、耐わだち掘れ性が悪化していた。
【0095】
比較例10は、石油樹脂が5%以上であり、かつワックスが9%以上であるものの、SEBSの25%トルエン溶液粘度が8800mPa・sであることから、流動性が低下してしまっていた。
【0096】
比較例11は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であり、石油樹脂が5%未満であることから、流動性が低下してしまっていた。
【0097】
比較例12は、SEBSにおいて25%トルエン溶液粘度が1200mPa・sでその含有量が2.5%以上であり、ワックスが20%以上とされているためDS値は良好であったが、石油樹脂が0%であることから流動性が低下してしまっていた。