(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の保温椅子の場合、人体が接することとなる表面材の着座面に吸放湿発熱性繊維を設けているため、当該着座面からは、他の部分と比べて積極的に吸放湿が繰り返されることとなる。この吸放湿時には、水分とともに汚れ成分やニオイ成分も運ばれて来るので、このような汚れ成分やニオイ成分は、経時的に堆積して不衛生な状態を招くこととなってしまう。したがって、着座面に相当する部位の表面材は、他の部分に比べて加速度的に不衛生な状態になってしてしまい、且つ、劣化してしまうことが懸念される。それに加えて着座面には、人体の荷重が加わるため、表面材とその下の中芯材の部分も、加速度的に不衛生な状態となり、かつ、劣化し易くなってしまう。
【0007】
したがって、上記従来の保温椅子は、他の部分が綺麗であるにも関わらず、人体と接することとなる着座面の表面材とその下の中芯材とが、黄ばんだり、弾性を失ったりして局部的に急速に不衛生な状態となり、かつ、劣化してしまうといった不都合を生じることとなる。
【0008】
そのため、シートカバーを設けたり座布団を設けたりして局部的に不衛生な状態となったり、劣化したりするのを防止することが考えられるが、この場合、吸放湿発熱性繊維による吸湿作用が十分に得られなくなる。また、このようなシートカバーや座布団を設けることは、公共の電車やバスの場合、その後の洗濯や管理などを考えると採用することはできず、自動車の場合、内装のデザイン性を損なったり、運転時の座席のホールド感が低下してしまうことが懸念される。
【0009】
また、上記従来の保温椅子の場合、人体が接することとなる着座面に吸放湿発熱性繊維を設けているものの、表面材に用いているだけであったため、人体からの水分(不感蒸泄)に作用させるために設ける繊維の量には限界があった。
【0010】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、局部的に不衛生になったり劣化したりすることを防止でき、優れた快適性を発揮することができる車両用座席を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る車両用座席は、座席本体を構成する中芯材の表面に、表面材を被覆して構成される車両用座席であって、座面、背面、ヘッドレストのうちの少なくとも一つの部位において、被使用者の人体と接することとなる部分に
厚み全体の30〜95%の厚みの凹設部が形成され、凹設部には、当該凹設部に合致するように賦形されて、着脱可能となされた吸放湿部材が設けられ、吸放湿部材は、凹設部に設けられた状態で、当該吸放湿部材が被使用者の人体と接するようになされ
、吸放湿材料からなる吸放湿層の上に、当該吸放湿層と同じかそれ以上の厚みを有し、弾性材料によって弾性を有するように構成されるとともに、通気性を有するように構成された弾性通気層が設けられ、これらの外周が被覆材で被覆されてなり、被覆材は、弾性通気層を介して人体と接する面が、通気性を有する通気面となされ、人体からの不感蒸泄による水分が、被覆材の通気面および弾性通気層を介して吸放湿層に吸湿できるようになされたものである。
【0015】
上記車両用座席において、吸放湿部材は、吸放湿材料からなる吸放湿層の上に、弾性材料によって弾性を有するように構成されるとともに、通気性を有するように構成された弾性通気層が設けられ、これらの外周が被覆材で被覆されてなり、凹設部は、吸放湿部材の弾性通気層または吸放湿層の何れを表面にしても設けられるように形成され、被覆材は、弾性通気層を表面にして凹設部に吸放湿部材を設けた際に弾性通気層を介して人体と接する面に、通気性を有する通気面が形成されるとともに、吸放湿層を表面にして凹設部に吸放湿部材を設けた際に吸放湿層を介して人体と接する面にも、通気性を有する通気面が形成されたものであってもよい。
【0016】
上記車両用座席において、吸放湿材料は、25℃40%RHと25℃80%RHとの間の変化で自重の15%以上の水分を吸放湿するものであってもよい。
【0017】
上記車両用座席において、吸放湿材料は、座席1つに付き100g以上使用されているものであってもよい。
【0018】
上記車両用座席において、凹設部は、吸放湿部材によって吸放湿される水分が座席本体に達するのを防止するフィルム、シートまたは樹脂成形体によって形成されているものであってもよい。
【0019】
上記車両用座席において、座面から背面にかけて凹設部が一体的に設けられ、吸放湿部材は、この一体的となった凹設部に合致するように座面から背面にかけて一体的に形成されたものであってもよい。
【0020】
上記車両用座席において、座席本体には凹設部と外部とを連通する通気孔が設けられ、吸放湿部材は、凹設部に設けられた状態で、少なくとも凹設部の通気孔と対向する位置の被覆材の部分が通気性および透湿性を有するように構成され、通気面から吸放湿部材を介して通気孔に連通し、通気面から吸放湿部材内に吸湿した湿気が、当該吸湿部材内に拡散できるようになされたものであってもよい。
【0021】
上記車両用座席において、座席本体には凹設部と外部とを連通する通気経路が設けられ、吸放湿部材は、凹設部に設けられた状態で、凹設部の通気経路と対向する位置の被覆材の部分に、通気性および透湿性を有する連通部が設けられ、通気経路に負圧が作用することで、通気面から吸放湿部材内に吸湿した湿気が、連通部から通気経路を介して排気できるようになされたものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、車両用座席は、椅子本体の凹設部に設けた吸放湿部材が、被使用者の人体からの不感蒸泄による水分を吸湿するので、快適な使用感が得られることとなる。また、吸放湿部材は、人体からの不感蒸泄による水分の吸放湿を積極的に繰り返すことにより、この水分とともに運ばれてくる汚れ成分やニオイ成分などが堆積することとなるが、椅子本体から取り外して再生したり、新しいものと交換したりすることで、これら汚れ成分やニオイ成分を取り除くことができる。したがって、車両用座席は、吸放湿部材に汚れ成分やニオイ成分が堆積して局部的に不衛生になったり、劣化したりするのを防止して衛生的で、かつ、優れた耐久性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図1および
図2は本発明に係る自動車用シート1の全体構成の概略を示し、
図3は同自動車用シート1の要部断面を示している。
【0026】
この自動車用シート1は、座席本体2を構成する中芯材21の表面に、表面材22を被覆して構成され、座面2a、背面2b、ヘッドレスト2cのうちの座面2aと背面2bとにおいて、人体4と接することとなる部分に座面凹設部20aおよび背面凹設部20bが形成され、これら座面凹設部20aおよび背面凹設部20bには、当該座面凹設部20aおよび背面凹設部20bに合致するように賦形されて、着脱可能となされた座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bが設けられ、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bは、座面凹設部20aおよび背面凹設部20bに設けられた状態で、当該座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bが人体4と接するようになされている。
【0027】
座席本体2は、座面2aと背面2bとヘッドレスト2cとがそれぞれ別に構成されている。ただし、座席本体2は、自動車に用いられているものであれば、上記したものに限定されるものではなく、例えば、背面2bとヘッドレスト2cとが一体に構成されたものであってもよいし、座面2aと背面2bとヘッドレスト2cが一体的に構成されたものであってもよい。また、後部座席のように複数の座面2aや背面2bが一体に構成されたものであってもよい。この座席本体2は、椅子全体のフォルムを形成する中芯材21の表面に表面材22を被覆して構成される。
【0028】
中芯材21としては、通常使用されているものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、金属製や樹脂製のフレームに、樹脂製の発泡体、樹脂製の網状三次元構造体、コイルスプリングによる構造体、および不織布などの弾性材料を、単体または複合して組み合わせたりして構成したものを使用することができる。また、中芯材21としては、樹脂や金属などの板材をプレス加工、曲げ加工、グラインダー加工などして構成した成形体を使用することもできる。
【0029】
このような中芯材21は、通気性を付与させたものであってもよい。中芯材21が上記発泡体による場合は、非独立発泡の成形体にすることで通気性を得ることができる。中芯材21が上記網状三次元構造体やコイルスプリングの構造体や不織布による場合は、そのままで通気性が得られる。中芯材21が上記成形体による場合は、板面に複数の孔を穿孔することによって通気性を得ることができる。また、中芯材21は、単に通気性を持たせるだけでなく、その内部に空気の溜まりとなる中空部を形成したものであってもよい。
【0030】
表面材22としては、通常の表面材22として使用される繊維素材によって構成したものを使用することができる。この場合、通常の繊維素材としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ウール、天然皮革などの素材を使用することができる。また、自動車で使用するといった用途を考慮して、防融加工が施されたものを使用することが好ましい。
【0031】
このようにして構成される椅子本体2の座面2aは、中央の前部から後部にかけて、被使用者が着座した際に、当該被使用者の人体4の臀部、大腿部後面および下腿部後面と接することとなる部分に、座面凹設部20aが設けられている。この座面凹設部20aは、基となる座面2aの厚みによっても異なるが、座面2aの全体の厚みの30%〜95%程度の深さで形成される。また、座面凹設部20aの大きさとしては、臀部、大腿部後面および下腿部後面と接することとなる部分に設けられるものに限定されるものではなく、人体4の臀部に相当する部分と接することとなる部分に設けられるものであってもよいし、人体4の臀部および大腿部後面部と接することとなる部分に設けられるものであってもよい。
【0032】
また、椅子本体2の背面2bは、中央の中間部から上部にかけて、被使用者が着座した際に、当該被使用者の人体4の背中上部と接することとなる部分に、背面凹設部20bが設けられている。この背面凹設部20bは、基となる背面2bの厚みによっても異なるが、背面2bの全体の厚みの30%〜95%程度の深さで形成される。また、背面凹設部20bの大きさとしては、人体4の背中上部と接することとなる部分に設けられるものに限定されるものではなく、人体4の背中全体と接することとなる部分、すなわち、背面2bの中央の下部から上部にかけて設けられるものであってもよい。
【0033】
座面吸放湿部材3aは、上記座面凹設部20aに合致する大きさに形成されており、この座面凹設部20aに設けた状態で、座席本体2と一体化して、座席本体2に着座した被使用者の人体4と接することができるようになされている。
【0034】
背面吸放湿部材3bは、上記背面凹設部20bに合致する大きさに形成されており、この背面凹設部20bに設けた状態で、座席本体2と一体化して、座席本体2に着座した被使用者の人体4と接することができるようになされている。
【0035】
座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bは、弾性層31の上に吸放湿層32を設け、これらの外周を被覆材33で被覆して構成されている。
【0036】
弾性層31としては、中芯材21に使用されるものと同じ樹脂製の発泡体や、樹脂製の網状三次元構造体、樹脂製の不織布を使用することができる。シート全体での感触を統一させるために、中芯材21に使用されているものと合わせることが好ましい。
【0037】
吸放湿層32としては、ウールと同等以上、好ましくはウールの3倍以上の吸放湿性を有する吸放湿繊維を使用することができる。この吸放湿層32は、弾性層31の上に積層されてなり、座面凹設部20aに座面吸放湿部材3aを設けた状態および背面凹設部20bに背面吸放湿部材3bを設けた状態で、被覆材33を介して吸放湿層32が人体4と接する側に来るように設けられる。
【0038】
吸放湿繊維としては、繊維自体が非常に強い高架橋構造になっていて染料を受け付ける非晶領域が小さく、非常に隙間の少ない繊維構造となっている吸放湿発熱性繊維が挙げられる。すなわち、このような吸放湿発熱性繊維は、水分を吸湿する時に、吸放湿発熱性繊維の官能基と水分子との反応(水和反応)による熱の発生、および水分子のエントロピーの変化に基づく熱の発生を生じる。このうち、水分子のエントロピー変化に基づく熱の発生量は、吸放湿時に、繊維自体が体積変化を伴わないことによってより大きくなる。したがって、上記したように、繊維自体が非常に強い高架橋構造になっていて染料を受け付ける非晶領域が小さい吸放湿発熱性繊維は、体積変化(膨潤)がし難く、吸湿時の熱の発生量が大きいが、染色性が極めて悪くなる。このような吸放湿発熱性繊維としては、塩基型、金属塩基型のアクリル酸系のものを使用することができる。具体的なものとしては、例えば、アクリレート系吸放湿発熱性繊維(東洋紡績社製 商品名 ブレスサーモ(N−38)、商品名 エクス(G−800)、東邦レーヨン社製 商品名 サンバーナ)などが挙げられる。このアクリレート系吸放湿発熱性繊維は、出発繊維としてアクリルニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維が用いられる。AN系重合体は、AN単重合体、ANと他の単量体との共重合体のいずれでも良い。この他の単量体としては、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン;アクリル酸エステル;メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸などのスルホン酸含有単量体およびその塩;メタアクリル酸、イタコン酸などのカルボン酸含有単量体およびその塩;アクリルイミド、スチレン、酢酸ビニルなどの単量体を挙げることができるが、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。
【0039】
以上のアクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物を架橋剤として導入する方法が適用される。この方法においては、窒素含有量の増加を1.0〜10.0重量%に調整し、ヒドラジン系化合物の濃度を5〜60重量%、温度を50〜120℃とした状態で5時間以内で処理する。この方法は工業的に好ましい。ここで、窒素含有量の増加とは、原料のアクリル系繊維の窒素含有量とヒドラジン系化合物を架橋剤として導入された状態のアクリル系繊維の窒素含有量との差をいう。この窒素含有量の増加が、上記の下限(1.0重量%)に満たない場合は、最終的に満足し得る物性の繊維を得ることができず、さらに難燃性、抗菌性などの特性を得ることができない。また、窒素含有量の増加が、上記の上限(10.0重量%)を超えた場合には、高吸放湿性が得られない。したがって、ここで使用するヒドラジン系化合物としては、窒素含有量の増加が上記の範囲となるような化合物であれば特に限定されない。このようなヒドラジン系化合物としては、例えば、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等や、エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミン基を複数個含有する化合物を挙げることができる。
【0040】
なお、この架橋工程においては、ビドラジン系化合物が加水分解反応により架橋されずに残存した状態のニトリル基を実質的に消失させるとともに、1.0〜4.5meq/gの塩型カルボキシル基と残部にアミド基を導入する方法が適用される。その方法としては、アルカル金属水酸化物、アンモニアなどの塩基性水溶液、あるいは硝酸、硫酸、塩酸などの鉱酸の水溶液を含浸させるか、またはその水溶液中に原料繊維を浸漬した状態で加熱処理する方法、あるいは、上記した架橋剤の導入と同時に加水分解反応を起こす方法を用いることができる。なお、この加水分解反応が、酸による加水分解である場合は、カルボキシル基を塩型に変換させる必要がある。また、セルロース系繊維を改質し、セルロースの親水基の量を増やすようにしたり、水和反応を起こし発熱しやすい官能基、例えばカルボキシル基、水酸基等に置き換え発熱効果を高めるように改質した素材の利用も考えられる。
【0041】
この吸放湿繊維は、自動車用シート1の一脚に要求される吸湿量に応じて使用量が決定され、この使用量によって吸放湿層32の厚みが決定される。例えば、自動車用シート1を使用する被使用者が成人とした場合、人体4からの不感蒸泄は、900ミリリットル/1日(呼気含む)とされている。よって37.5g/hrの水分を処理すれば、車内湿度の上昇は防止できる。ここで、吸放湿層32を構成する吸放湿繊維として、環境温度20度以上の条件で相対湿度40%から80%への変化で一時間に自重の約15〜20%の水分を吸湿する性能を有するものを使用する場合、原綿100gの使用で一時間当たり15〜20gの水分を吸湿することができる。したがって、37.5gの水分を吸湿するには、187.5g〜250gの原綿を使用した吸放湿層32を構成すれば、車内湿度の上昇を1時間防止できる。30分を基準にすれば、その半分の約100gの原綿を使用すれば良い。また、車内の結露防止を考えた場合、車内温度が20度、車内湿度が80%RH、窓温度が10度であった場合、20度×80%RHの絶対湿度が11.75g/m
3、10度での飽和水分量は9.3g/m
3であるため、その差の2.45g/m
3の水分を処理すれば、結露を防止することができることとなる。よって前述の原綿を20g使用すれば、1時間に3g〜4gの水分を吸湿することができ、車内の結露を防止することができる。人体4の不感蒸泄を基準にして吸放湿層32を形成することがより好ましい。
【0042】
なお、上記した吸放湿繊維の使用量は、自動車用シート1の一脚に要求される量、すなわち、座面吸放湿部材3aと背面吸放湿部材3bとの合計で必要とされる吸放湿繊維の使用量あって、自動車用シート1に座面吸放湿部材3aのみしか設けていない場合、この座面吸放湿部材3aのみで上記した吸放湿繊維の使用量を満たす必要があり、背面吸放湿部材3bのみしか設けていない場合、この背面吸放湿部材3bのみで上記した吸放湿繊維の使用量を満たす必要がある。
【0043】
また、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bは、吸放湿層32の厚みに対して弾性層31の厚みが薄すぎると、すわり心地が低下することとなるので、弾性層31は、吸放湿層32と同じかそれ以上の厚みを有することが好ましく、より好ましくは吸放湿層32の倍以上の厚みを有することが好ましい。
【0044】
被覆材33は、上記した弾性層31と吸放湿層32とを被覆することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、座席本体2の表面に被覆されている表面材22と同じものを使用することができる。ただし、被覆材33のうち、人体4が接する部分、すなわち、人体4と吸放湿層32とに挟持されることとなる露出部分330は、人体4からの不感蒸泄による水分を吸放湿層32が吸湿できるように、通気性および透湿性を有するものが使用される。また、それ以外の座面凹設部20aまたは背面凹設部20bに接して収納される収納部分331は、吸湿した水分を座席本体2に放湿させてしまわないように、通気性および透湿性を有しないものの方が良い。通気性および透湿性を有しないものとしては、例えば、樹脂製のフィルム、人工皮革、樹脂製のフィルムと生地の貼り合せ素材(2layer,3layer)などを使用することができる。
【0045】
なお、上記実施の形態では、被覆材33の収納部分331に通気性および透湿性を有しないものを使用しているが、被覆材33の収納部分331の少なくとも一部には露出部分330と同じように通気性および透湿性を有するものを使用し、この収納部分331と接することとなる座面凹設部20a内および背面凹設部20b内に、通気性および透湿性を有しないものを使用するものであってもよい。また、被覆材33の収納部分331と、この収納部分331接することとなる座席凹設部20aおよび背面凹設部20bのとの双方に、通気性および透湿性を有しないものを使用するものであってもよい。この場合、通気性および透湿性を有しない座面凹設部20aおよび背面凹設部20bとしては、塩化ビニルシートなどの樹脂シートをヒートシールして形成したものであってもよいし、ポリエチレンなどの樹脂材料によって成形されたものであってもよい。
【0046】
このようにして構成される自動車用シート1は、被使用者が座ると、被使用者の人体4が接することとなる部分に、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを設けているので、これら座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bが、人体4からの不感蒸泄による水分を積極的に吸湿することとなる。したがって、被使用者は、不感蒸泄による水分で汗ばむことも無く、快適に着席することができる。
【0047】
また、気温の低い冬季には、空気中の飽和水蒸気圧が低いので、自動車に乗り込んですぐに、人体4からの不感蒸泄による水分で車内空間が飽和水蒸気圧に達してしまい、窓ガラスが結露してしまうが、この自動車用シート1の場合、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bによって人体4からの不感蒸泄による水分を積極的に吸湿するので、このような窓ガラスの結露を防止することができる。
【0048】
さらに、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bは、被覆材33を介して人体4と接することとなる吸放湿層32に吸放湿繊維を使用しており、この吸放湿繊維は吸湿時に吸着熱によって発熱するので、この吸着熱によって被使用者は暖かさを得ることができる。また、吸放湿繊維は、吸放湿とともに、汚れ成分やニオイ成分を積極的に捕集するので、車内の浄化および消臭を行うこともできることとなる。
【0049】
さらに、この自動車用シート1の場合、被使用者の人体4からの不感蒸泄による水分を、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bから積極的に吸放湿するため、座席本体2は、これら水分の吸放湿や、車内の汚れ成分やニオイ成分などの吸着が防げることとなる。したがって、座席本体2は、長期間にわたって衛生的に保つことができ、かつ、劣化を防止することができる。
【0050】
一方、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bは、水分の吸湿時に、汚れ成分やニオイ成分などを積極的に繰り返し吸着するので、これら汚れ成分やニオイ成分が堆積し、座席本体2よりも不衛生な状態となり易く、かつ、劣化が加速することとなる。またそれらは座席本体2の座面凹設部20aおよび背面凹設部20bから取り外すことができるので、取り外し後洗浄するか、新しいものと交換することで再生することができる。
よって、車内から汚れ成分やニオイ成分を積極的に捕集して、取り除くことができるようになる。
【0051】
なお、
図3に示す座面吸放湿部材3aにおいて、吸放湿層32を構成する吸放湿繊維は、綿の状態で設けられるが、被覆材33のうち、露出部分330の裏面に編み込まれた状態で吸放湿層32を構成するように設けられるものであってもよい。
【0052】
図4は、夏季に使用するのに好適な座面吸放湿部材3aを示している。
図4において、
図3と同部材には同符号を付して説明を省略する。
【0053】
この座面吸放湿部材3aは、弾性層31と吸放湿層32とが上下逆に構成されている、すなわち、吸放湿層32の上に弾性層31を設け、これらの外周を被覆材33で被覆して構成されている。
【0054】
また、被覆材33のうち、人体4が接する部分、すなわち、人体4と弾性層31とに挟持されることとなる露出部分330は、通気性および透湿性を有するものが使用されている。また、この露出部分330と吸放湿層32とに挟持されることとなる弾性層31も、通気性および透湿性を有するものが使用されている。これによって人体4からの不感蒸泄による水分は、露出部分330と弾性層31とを介して吸放湿層32に吸湿できるようになされている。また、露出部分330以外の収納部分331は、吸湿した水分を座席本体2に放湿して当該座席本体2を劣化させてしまわないように、通気性および透湿性を有しないものが使用されている。
【0055】
なお、この収納部分331は、この収納部分331と接することとなる座面凹設部20a内に、通気性および透湿性を有しないものを使用している場合には、通気性および透湿性を有するものであってもよい。
【0056】
背面吸放湿部材3bも、座面吸放湿部材3aと同様に構成されている。
【0057】
この座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを使用した自動車用シート1は、人体4からの不感蒸泄による水分を、被覆材33の露出部分331および弾性層31を介して吸放湿層32で吸湿することができる。この際、上記した実施例の自動車用シート1よりも弾性層31が余分に介在するため、弾性層31は、十分な通気性および透湿性を有したものを使用する必要がある。したがって、弾性層31としては、樹脂製の網状三次元構造のものを使用することが好ましい。
【0058】
この自動車用シート1によると、上記した実施例の自動車用シート1と同様に優れた吸湿性等の効果を得ることができる。また、吸放湿層32と人体4との間に被覆材33だけでなく、弾性層31が介在するので、吸湿時の発熱によって被使用者が暑く感じることを防止することができる。したがって、この座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを使用した自動車用シード1は、夏季に使用する場合に好適なものとなる。
【0059】
図5は、座面吸放湿部材3aのさらに他の実施の形態を示している。
【0060】
すなわち、この座面吸放湿部材3aは、弾性層31と吸放湿層32との区別が無く、弾性層31と、吸放湿層32とが一体化した複合層34を形成する構成となっている。
【0061】
この複合層34を構成するには、まず、樹脂製の網状三次元構造体からなる弾性層31を用意しておく。そして、吸放湿層32を構成する吸放湿繊維、を網状三次元構造体に付着ささせて複合層34を構成する。付着方法は、バインダーを用いる方法が一般的で、予めバインダー処理した網状三次元構造体に吸放湿繊維をエアー圧で絡ませることができる。また吸放湿繊維に溶融繊維(一般的にはポリエステル系)を混合(混繊)し、網状三次元構造体にエアーで絡ませ、その後熱風処理で溶融繊維を溶解させ網状三次元構造体と一体化させる方法もある。
一体化の方法は、上記限りではない。
【0062】
背面吸放湿部材3bも、座面吸放湿部材3aと同様に構成されている。
【0063】
この座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを使用した自動車用シート1は、人体4からの不感蒸泄による水分を、被覆材33の露出部分331を介して複合層34で吸湿することができる。
【0064】
したがって、この自動車用シート1によると、上記した実施例の自動車用シート1と同様に優れた吸湿性等の効果を得ることができる。また、弾性層31と吸放湿層32とを複合した複合層34を使用しているため、吸湿時の発熱によって被使用者が感じる熱は、上記した
図3に示す座面吸放湿部材3aと、
図4に示す座面吸放湿部材3aとの中間ぐらいとなる。したがって、冬季や夏季といった季節に限定されるものではなく、年間を通して使用するのに好適な構成となる。
【0065】
図6は、座面吸放湿部材3aのさらに他の実施の形態を示している。
【0066】
すなわち、この座面吸放湿部材3aは、座面凹設部20aに対して、
図6(a)に示すように、吸放湿層32を上にして当該座面凹設部20aに取り付けることができるとともに、
図6(b)に示すように、裏返しにして弾性層31を上にして当該座面凹設部20aに取り付けることができるように形成されている。したがって、座面吸放湿部材3aの被覆材33は、吸放湿層32を上にして座面凹設部20aに取り付けた際に露出する露出部分330と、裏返しにして弾性層31を上にして座面凹設部20aに取り付けた際に露出する露出部分330とが通気性および透湿性を有するように構成されている。一方、座面凹設部20aは、座面吸放湿部材3aが吸湿した水分が座席本体2に移行しないように、通気性および透湿性が無い素材によって形成されている。
【0067】
背面吸放湿部材3bもこの座面吸放湿部材3aと同様に裏返して使用できるように構成されており、背面凹設部20bも、座面凹設部20aと同様に、通気性および透湿性が無い素材によって形成されている。
【0068】
この座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを使用した自動車用シート1によると、吸放湿層32が上となるように、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを、座面凹設部20aおよび背面凹設部20bに取り付けて使用すれば、上記
図3に示した座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bと同様に、吸放湿層32による吸着熱によって被使用者は暖かく感じることができ、冬季に好適なものとなる。また、弾性層31が上となるように、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを、座面凹設部20aおよび背面凹設部20bに取り付けて使用すれば、上記
図4に示した座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bと同様に、吸放湿層32による吸湿時の発熱によって被使用者が暑く感じることを防止することができ、夏季に好適なものとなる。したがって、季節に応じて使用面を選択して使用すれば、快適な自動車用シート1とすることができる。
【0069】
なお、上記各実施の形態において、座席本体2の座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bは、人体4からの水分を吸湿する際、これら座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bの吸放湿層32の一部分で局部的に吸湿するのではなく、吸放湿層32の全体に湿気が十分に拡散しながら吸湿されることが好ましい。そのため、座席本体2は、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bの吸湿層32の全体に湿気を拡散させるための構成として、弾性層31および吸放湿層32の全体に湿気を帯びた空気が行き渡り易い構成としておくことが好ましい。具体的には、
図7に示すように、座席本体2は、座面凹設部20aに、座席本体2の外部に連通する複数の通気孔23を設けて空気の逃げ場を複数個所設けることで、弾性層31および吸放湿層32の全体に湿気を帯びた空気を拡散できる構成とし、座面吸放湿部材3aは、収納部分331の全体が、露出部分330と同様に通気性および透湿性を有するように構成しておくことが考えられる。
【0070】
ただし、被覆材33の収納部分331の全体に通気性および透湿性を持たせた場合、座面吸放湿部材3aの座面凹設部20aに面する表面材22の部分は、座面吸放湿部材3aからの湿気を帯びた空気によって座席本体2が吸湿して劣化してしまわないように、通気性および透湿性を有しない素材のものが使用される。また、この被覆材33は、収納部分331の全体が通気性および透湿性を有するように構成されているが、少なくとも通気孔23と接する部分だけが通気性および透湿性を有するように構成されたものであってもよい。
図7は座面吸放湿部材3aの構成について述べているが、背面吸放湿部材3bについても同様に構成されていてもよい。
【0071】
この構成によると、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bは、露出部分330だけでなく、通気孔23の方向にも通気性および透湿性を確保して解放されているので、自動車用シート1に座った被使用者の人体4からの不感蒸泄による水分を、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bの露出部分330から吸湿する際、湿気は、弾性層31および吸放湿層32の全体に拡散できることとなる。
【0072】
なお、通気孔23は、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bの空気の逃げ場を確保するために設けたものであって、人体4とは接していないため、人体4からの不感蒸泄による水分は、人体4が接する座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bの露出部分330から吸湿が行われる。したがって、人体4からの不感蒸泄による水分が通気孔23に及ぶことは無いが、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bが飽和状態に近く、かつ、車内の湿度が低いような場合、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bの湿気の一部が通気孔23から放出されることが考えられる。しかし、このような場合、湿気の大半は露出部分330から放出され、通気孔23を通過する湿気の通過量は極限られた少量となるので、この通気孔23に面する中芯材21や表面材22を劣化させたり、不衛生にしたりすることにはならない。したがって、通気孔23は、椅子本体2を穿孔するだけでも良いが、通気孔23の内周面が通気性や透湿性を有しないように加工されていてもよい。また、
図7に示すように、通気孔23を穿孔する椅子本体2の中芯材21の部分を薄く形成し、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを厚く形成する構成としてもよい。薄く形成した中芯材21としては、鋼板製や樹脂板製のパンチング板やメッシュ板、高強度の板状に成形した網状三次元構造体を使用することができる。
【0073】
また、上記した各実施の形態において、座席本体2は、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bが吸湿した水分を吸湿しないようにしているため、これら座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bが吸湿して飽和状態になると、被覆材33の露出部分330から放湿して、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを再生しなければならない。このような場合に、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bの再生を促進するための構成として、
図8に示すように、座席本体2の座面凹設部20aに、座席本体2の外部に連通する通気経路24を設け、当該通気経路24に負圧を作用させる構成としてもよい。例えば、通気経路24の先端を、自動車走行時に風圧を受ける位置に設けたベンチュリ管25に接続し、バルブ26によって開閉可能な構成とすることが考えられる。
【0074】
この場合、座面吸放湿部材3aは、通気経路24と接することとなる部分に、通気経路24と弾性層31および吸放湿層32とを連通させるために、通気性および透湿性を有する連通部332を形成しておく必要がある。この連通部332は、通気経路24と接する被覆材33の部分に設けられているが、座面凹設部20a内に通気性および透湿性を有しないものを用いている場合、座面吸放湿部材3aは、少なくとも通気経路24と接する部分が通気性および透湿性を有していれば、被覆材33全体が、露出部分330と同じように通気性および透湿性を有するように構成されたものであってもよい。
図8は座面吸放湿部材3aの再生を促進する構成について述べているが、背面吸放湿部材3bについても同様に構成されていてもよい。
【0075】
この構成によると、座面吸放湿部材3aが、自動車用シート1に座った被使用者の人体4からの不感蒸泄による水分を吸湿して飽和状態となった場合に、バルブ26を開ければ、ベンチュリ管25が走行時の風圧を受けて通気経路24が負圧となり、座面吸放湿部材3aの弾性層31および吸放湿層32の湿度の高い空気を外部に排気することができることとなる。したがって、座面吸放湿部材3aが吸湿して飽和状態の場合でも、これら座面吸放湿部材3aを再生することができることとなる。なお、ベンチュリ管25を使用しなくても、負圧を生じる位置であれば、自動車走行時にボディーやシャシーの表面の、空気が流れる位置に通気経路24の先端部を設けるように構成したものであってもよい。また、通気経路24にファン(図示省略)を設けて排気するように構成したものであってもよい。ファン(図示省略)を用いて排気する場合、自動車走行時以外でも排気できるとともに、車外だけでなく車内に排気することもできる。ただし、車内に排気する場合、大きな効果が得にくいので、車外に排気できるように切り替えられるように構成されていることが好ましい。同様に構成することで、背面吸放湿部材3bについても再生することができることとなる。
【0076】
なお、上記した各実施の形態において、自動車用シート1は、座席本体2の座面凹設部20aおよび背面凹設部20bに、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを設ける構成となっているが、座面凹設部20aに座面吸放湿部材3aだけを設けた構成のものであってもよいし、背面凹設部20bに背面吸放湿部材3bだけを設けた構成のものであってもよい。ただし、この場合、座面吸放湿部材3aだけ、または背面吸放湿部材3bだけで、所定の吸放湿性を満たすように吸放湿層32を構成しなければならない。
【0077】
また、
図9に示すように、座面凹設部20aと背面凹設部20bとが一体的に構成された座席凹設部200を構成し、この座席凹設部200に、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを一体的に構成した座席吸放湿部材30を設けるように構成したものであってもよい。
【0078】
さらに、本実施の形態において、自動車用シート1は、座面2aと背面2bとにそれぞれ座面凹設部20aおよび背面凹設部20bを設けて、これら座面凹設部20aおよび背面凹設部20bに、座面吸放湿部材3aおよび背面吸放湿部材3bを設けるように構成されているが、
図9に示すように、ヘッドレスト2cに頭部凹設部20cを設けて、当該頭部凹設部20cに合致するように頭部吸放湿部材3cを設けるように構成したものであってもよい。
【0079】
さらに、本実施の形態においては、自動車用シート1について述べているが、電車、バス、飛行機などのシートについても、同様に構成することができる。
また、寝床用ベッド特に病院用ベッドにおいては、同様に適応できるものである。