(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記スクライビング処理により、上記ワークに圧接されずに上記ロール上に残存した物質を、回収して上記容器に戻す回収機構を更に有する、請求項1に記載の物質積層装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、レーザ光を用いた点による積層を行っていたため、積層効率が低い傾向にあった。
また、特許文献1に開示された技術のように、粉体を用いた場合、粉体の精度(粒子径、粒子密度、粒子形状)や積層条件(温度、速度、方向、順序)により、積層後における材質の特性が不安定になる傾向にあった。また、積層後の内部残留応力による変形が生じてしまう場合があった。例えば、内部に分割面や凹みや隙間などが発生してしまう場合があった。
また、粉体を用いる技術では、粉体の保守点検が必要であった。例えば、粉体の保守点検とは、槽内へのごみ混入対策や、金属粉の爆発対策や、槽内の温度管理や、攪拌作業などである。
更に、粉体を用いて積層を行う技術では、原材料を溶融する工程、アトマイズにより粉体を生成する工程、粉体を分級する工程、分級した粉体を積層する工程、及び積層部材を選択溶融する工程を行う必要があり、工程が多いために、コストが高くなる傾向にあった。特に、この技術では、溶融処理を2回行う必要があった。
【0005】
他方で、特許文献2に開示された技術では、マスクパターンを利用して、平行光を一括照射していたため、レーザパワーが必要となり、装置が大型化する傾向にあった。加えて、マスクパターンが消耗品であったため、消耗品コストが発生していた。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、積層後における材質の安定性を確保しつつ、工程数を削減することによりコストなどを低減させることが可能な物質積層装置及び積層部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の第1発明は、物質をワークに積層する物質積層装置であって、溶融状態又は半溶融状態にある物質が入れられた容器と、容器から物質が供給され、ワーク上
で回転することによって半溶融状態の物質を圧接する回転体と、回転体によって圧接された物質を完全に溶融させる溶融用レーザと、ワーク
と回転体及び溶融用レーザ
との相対的位置を複数回
変化させることにより、ワークに物質が積層されるように、回転体及び溶融用レーザ、及び/又はワークを移動させる移動機構と、を有し、回転体はロールであり、ワークに物質を積層しない箇所に応じた、ロール上にある物質の部分に対して、スクライビング処理を行うスクライビング処理用レーザを更に備える、ことを特徴とする。
このように構成された本発明においては、容器から回転体に物質を供給し、回転体をワーク上
で回転させることにより半溶融状態の物質を圧接し、回転体によって圧接された物質を溶融用レーザによって完全に溶融させ、ワーク
と回転体及び溶融用レーザ
との相対的位置を複数回
変化させることにより、ワークに物質を積層する(つまりワーク上に物質の複数の層を積み重ねる)。そのため、従来技術のように粉体を用いて積層を行う構成と比較すると、原材料(粉体)を溶融する工程、アトマイズにより粉体を生成する工程、及び粉体を分級する工程を省くことができる。したがって、本発明によれば、物質をワークに積層するためのトータルのコスト及びエネルギーを低減することができる。また、本発明によれば、半溶融状態の物質を圧接しながら積層するため、材料の密度が高く、材質も安定している積層部材を得ることができる。
また、本発明によれば、回転体としてのロールを用いて、当該ロールの長さ分を線で積層するので、従来技術のように点による積層を行う構成と比較して、積層効率を向上させることができる。更に、本発明によれば、ワークに物質を積層しない箇所に応じた、ロール上にある物質の部分に対して、スクライビング処理を行うので、ワーク上に種々の積層パターンを適切に形成することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、スクライビング処理により、ワークに圧接されずにロール上に残存した物質を、回収して容器に戻す回収機構を更に有する。
このように構成された本発明においては、スクライビング処理によってロール上に残存した物質を回収して容器に戻すため、圧接積層に用いられなかった物質が残存した状態でロールが回転していくことで、その後の圧接積層に悪影響を与えてしまうことを抑制することができると共に、圧接積層に用いられなかった物質を適切に再利用することができる。
【0011】
また、本発明の第2発明は、ワークに物質を積層して積層部材を製造する積層部材の製造方法であって、溶融状態又は半溶融状態にある物質を回転体に供給する工程と、回転体をワーク上
で回転させることによって半溶融状態の物質を圧接する工程と、回転体によって圧接された物質を溶融用レーザによって完全に溶融させる工程と、ワーク
と回転体及び溶融用レーザ
との相対的位置を複数回
変化させることにより、ワークに物質が積層されるように、回転体及び溶融用レーザ、及び/又はワークを移動させる工程と、有し、回転体はロールであり、半溶融状態の物質を圧接する工程の前に、ワークに物質を積層しない箇所に応じた、ロール上にある物質の部分に対して、スクライビング処理用レーザによってスクライビング処理を行う工程を更に備える、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、従来技術のように粉体を用いて積層を行う構成と比較すると、原材料(粉体)を溶融する工程、アトマイズにより粉体を生成する工程、及び粉体を分級する工程を省くことができるので、物質をワークに積層するためのトータルのコスト及びエネルギーを低減することが可能となる。また、半溶融状態の物質を圧接しながら積層するため、材料の密度が高く、材質も安定している積層部材を得ることができる。
また、本発明においては、ワークに物質を積層しない箇所に応じた、ロール上にある物質の部分に対して、スクライビング処理を行うので、ワーク上に種々の積層パターンを適切に形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の物質積層装置及び積層部材の製造方法によれば、積層後における材質の安定性を確保しつつ、工程数を削減することによりコストなどを低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による物質積層装置及び積層部材の製造方法について説明する。
なお、本明細書では、「ワーク」の文言は、所定の物質を積層する種々の対象物(積層対象物)を意味する。このワークには、物質が既に積層された部材も含むものとする。つまり、ワーク自体が積層物であってもよい。
【0016】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態による、物質積層装置としての金属積層装置の概略構成図を示している。
【0018】
図1に示すように、金属積層装置1は、主に、溶解炉11と、厚み調節ロール12と、圧接ロール13と、スクライビング処理用レーザ14と、溶融用レーザ15と、回収機構16と、を有する。金属積層装置1は、金属4をワーク5に積層するための装置である。金属4は、例えばアルミ合金であり、ワーク5は、そのような金属4を積層する対象物(積層物)に相当する。例えば、金属積層装置1は、パネル及びリブを有する航空機アルミ合金製大物構造物について、圧延で成形したパネル上に薄膜溶融金属を直接積層するために利用される。
【0019】
溶解炉11は、金属4を溶解する炉であり、溶融状態にある金属4が入れられた容器に相当する。例えば、溶解炉11には、約700℃程度のアルミ合金(A7075などのAl−Zn−Mg−Cu系合金)が、溶融状態にある金属4として入れられている。
【0020】
厚み調節ロール12は、溶解炉11から金属4が供給され、その2つのロール間の距離によって、ワーク5に積層する金属4の厚みを調整する。
なお、厚み調節ロール12を用いて、ワーク5に積層する金属4の厚みを調整することに限定はされず、厚み調節ロール12を用いる代わりに、溶湯を圧接ロール13に吹き付けるメルトスピニング法を用いて、金属4の厚みを調整してもよい。メルトスピニング法を用いる場合には、溶湯を噴射するノズルと圧接ロール13との距離や、圧接ロール13の回転速度などを調整することによって、ワーク5に積層する金属4の厚みを調整すればよい。ここで挙げた方法以外にも、材料の厚みを調整する種々の方法が知られており、それらの方法を適用してもよい。
【0021】
圧接ロール13は、半溶融状態の金属4をワーク5に圧接積層するための、円柱形状を有する回転体である。具体的には、圧接ロール13は、厚み調節ロール12を通過した金属4が供給され、矢印A11に示すようにワーク5に押し付けられた状態で、矢印A12に示すように回転しながらワーク5上を移動することにより、金属4をワーク5に圧接する。ここで、溶解炉11内の金属4は溶融状態にあるが、溶解炉11から圧接ロール13へ金属4が供給される段階で冷えることにより、圧接ロール13上の金属4は半溶融状態となる。そのため、半溶融状態の金属4が圧接ロール13によってワーク5上に圧接されることとなる。上記で例示したアルミ合金を金属4として用いた場合には、このアルミ合金は圧接ロール13及びワーク5上で約600℃程度になっている。
なお、「溶融状態」とは、完全な液体の状態に相当し、「半溶融状態」とは、固体と液体とが共存した固液共存状態(言い換えると半凝固状態/半硬化状態)に相当する。
【0022】
スクライビング処理用レーザ14(
図1ではレーザヘッドのみを図示している)は、例えば半導体レーザであり、ワーク5に未だ圧接を行っていない圧接ロール13上の金属4の部分(つまり、これからワーク5に対して圧接が行われる圧接ロール13上の金属4の部分)に向けて、レーザ光を照射する。具体的には、スクライビング処理用レーザ14は、ワーク5に金属4を積層しない箇所に応じた、圧接ロール13上にある金属4の部分に対して、レーザ光を照射することにより蒸発させる処理(スクライビング処理)を行う。このスクライビング処理については、詳細は後述する。
【0023】
溶融用レーザ15(
図1ではレーザヘッドのみを図示している)は、例えば半導体レーザであり、ワーク5に向けてレーザ光を照射する。具体的には、溶融用レーザ15は、圧接ロール13によってワーク5上に圧接された金属4に対してレーザ光を照射することにより、半溶融状態にある金属4を完全に溶融させる。例えば、溶融用レーザ15は、ワーク5上の最も上の金属層とその下の金属層とが一体化するように、金属4を完全に溶融させる。
なお、「完全に溶融」とは、固体と液体とが共存した半溶融状態にある金属4の全体が完全な液体の状態になるように溶融させることに相当する。
【0024】
回収機構16は、上述したスクライビング処理により、ワーク5に圧接されずに圧接ロール13上に残存している金属4を、回収して溶解炉11に戻す機構である。具体的には、回収機構16は、圧接ロール13に残存している金属4を剥ぎ取るスクレーパー、及びスクレーパーによって剥ぎ取られた金属4を溶解炉11に搬送する搬送路などを有する。
【0025】
なお、ワーク5上に金属4が既に積層されている場合には、厳密には、圧接ロール13は、積層された金属4の部分を回転しながら移動し、その金属4の部分に新たな金属4を圧接することとなるが、本明細書においては、そのような場合にも、説明を簡単にするために、圧接ロール13がワーク5上を移動するという表現や、圧接ロール13がワーク5上に金属4を圧接するという表現を用いるものとする(第2実施形態で示すボールについても同様である)。
【0026】
次に、
図2を参照して、スクライビング処理について具体的に説明する。
【0027】
図2(A)は、圧接ロール13及びスクライビング処理用レーザ14の斜視図を示している。具体的には、積層開始時(例えばワーク5に金属4の一層目を形成する時)に行われるスクライビング処理を説明するための図を示している。
図2(A)に示すように、積層開始時には、ワーク5に金属4を積層しない箇所に対応する、圧接ロール13上にある金属4の部分(以下では適宜「金属4b」と表記する。)に対して、スクライビング処理用レーザ14からのレーザ光を照射することによって、その金属4bの一部分を蒸発させる。他方で、ワーク5に金属4を積層する箇所に対応する、圧接ロール13上にある金属4の部分(以下では適宜「金属4a」と表記する。)に対しては、スクライビング処理用レーザ14からのレーザ光を照射しない。なお、上記のように、圧接ロール13上にある金属4bの一部分を蒸発させることに限定はされず、金属4bの全部を蒸発させてもよい。
【0028】
このようなスクライビング処理は、圧接ロール13とスクライビング処理用レーザ14とを同期制御することによって実現される。例えば、圧接ロール13が回転している間に圧接ロール13上の金属4bの部分に対してレーザ光が適切に照射されるように、その金属4bの面積などに応じて、圧接ロール13の回転速度の制御と、スクライビング処理用レーザ14を移動させる制御とが同期して行われる。
【0029】
図2(B)は、
図2(A)中の切断線V−Vに沿った断面拡大図を示している。
図2(B)に示すように、スクライビング処理用レーザ14からのレーザ光が照射された金属4bの部分と、スクライビング処理用レーザ14からのレーザ光が照射されていない金属4aの部分との間に、破線領域A21に示すような段差が生じている。これは、スクライビング処理用レーザ14からのレーザ光によって、段差A21に相当する金属4bが蒸発されたためである。また、金属4aの部分と金属4bの部分との間にも、スクライビング処理用レーザ14からのレーザ光を照射することにより、矢印A22に示すような切れ目を形成する。この切れ目A22は、圧接ロール13によるワーク5への圧接時に、圧接ロール13上で金属4aの部分と金属4bの部分とが分離し易くなるように形成している。
【0030】
図2(C)は、
図2(A)及び(B)に示したような積層開始時におけるスクライビング処理後に、圧接ロール13によってワーク5に圧接された金属4の層の斜視図を示している。
図2(C)に示すように、金属4aの部分に対応する層のみがワーク5上に形成され、金属4bの部分に対応する層がワーク5上に形成されていないことがわかる(矢印A23参照)。これは、圧接ロール13上の段差A21がない金属4aの部分のみがワーク5に当接し、圧接ロール13上の段差A21がある金属4bの部分はワーク5に当接しなかったためである。なお、金属4bの部分は、圧接ロール13上に残存し、上述した回収機構16によって回収されて溶解炉11に戻される。
【0031】
図2(D)は、ワーク5上に積層対象が形成された後(ワーク5に少なくとも一層以上の金属層が形成された後)に行われるスクライビング処理を説明するための図を示している。
図2(D)も、
図2(A)中の切断線V−Vに沿った断面図に相当する。
図2(D)に示すように、ワーク5に積層対象が形成された後には、圧接ロール13上における金属4aの部分と金属4bの部分との間にのみ、スクライビング処理用レーザ14からのレーザ光を照射することにより、矢印A24に示すような切れ目を形成する。つまり、積層開始時のように、段差A21を形成するように金属4bの部分にレーザ光を照射しない。したがって、ワーク5に積層対象が形成された後には、圧接ロール13上の金属4に対して切れ目A24のみを形成するようにスクライビング処理を行えばよいので、積層時間が短縮されることとなる。
【0032】
図2(D)に示したスクライビング処理後に圧接ロール13でワーク5に圧接すると、これまでの圧接積層では金属4aの部分のみがワーク5上に積層されているので、圧接ロール13上の金属4aの部分のみが、ワーク5上に積層された部分に当接して圧接されることとなる。一方で、これまでの圧接積層では金属4bの部分はワーク5上に積層されていないので、圧接ロール13上の金属4bの部分は、ワーク5上に積層された部分に当接しない。そのため、金属4bの部分は、圧接ロール13上に残存し、上述した回収機構16によって回収されて溶解炉11に戻される。
【0033】
なお、複数の層にわたって、ワーク5上で同じ平面形状を有する金属4の層を形成することに限定はされず、各層において、ワーク5上で異なる平面形状を有する金属4の層を形成してもよい。
【0034】
次に、
図3を参照して、本発明の第1実施形態による金属積層装置1が適用された全体装置構成例について説明する。
図3は、金属積層装置1が適用された積層部材の製造装置100の概略構成図を示している。具体的には、
図3は、金属積層装置1の圧接ロール13を形成する円柱の長さ方向に沿って、積層部材の製造装置100を観察した側面図を示しており、説明の便宜上、一部分を透視した図を示している。なお、「積層部材」は、金属4が積層された部材に相当する。
【0035】
図3に示すように、積層部材の製造装置100は、主に、上述した金属積層装置1と、金属積層装置1を移動可能に構成された、移動機構としてのガントリー31と、ワーク5が載置されるステージ32と、金属積層装置1の圧接ロール13やワーク5などを取り囲む熱遮断壁33と、を有する。積層部材の製造装置100は、これら以外にも、熱遮断壁33の上部を覆うテレスコカバーや、ワーク5を装置100内に搬入したり、ワーク5を装置100から取り出したりするための開閉可能な開口部などを有していてもよい。
【0036】
金属積層装置1全体は、ガントリー31に取り付けられており、ガントリー31によって、
図3中に示すX方向、Y方向及びZ方向に移動される。基本的には、ガントリー31は、金属積層装置1の圧接ロール13によって、ワーク5の全体にわたって金属4を圧接積層するために(つまりワーク5全体に金属4の複数の層を形成するために)、金属積層装置1をX方向、Y方向及びZ方向に移動させる。
【0037】
金属積層装置1のスクライビング処理用レーザ14は、このような金属積層装置1全体の移動とは独立して、Y方向及びZ方向に移動可能に構成されていると共に、矢印A31方向に回動可能に構成されている。スクライビング処理用レーザ14は、
図2(A)〜(D)に示したようなスクライビング処理が実現されるように、Y方向及びZ方向に移動されると共に、矢印A31方向に回動される。同様に、金属積層装置1の溶融用レーザ15も、金属積層装置1全体の移動とは独立して、Y方向及びZ方向に移動可能に構成されていると共に、矢印A32方向に回動可能に構成されている。溶融用レーザ15は、圧接ロール13によってワーク5上に圧接された金属4に隈なくレーザ光を照射して完全溶融させるように、Y方向及びZ方向に移動されると共に、矢印A32方向に回動される。
【0038】
典型的には、金属積層装置1は、ガントリー31によって以下のように移動される。金属積層装置1は、ワーク5上に金属4の1つの層を形成する際に、ワーク5のX方向における始端から終端まで圧接ロール13などが移動するように、ガントリー31によってX方向における一方向(
図3では右方向)に向かって移動される。そして、金属積層装置1は、1つの層の形成が完了すると、つまり圧接ロール13(厳密には溶融用レーザ15)がワーク5のX方向における終端まで到達すると、ワーク5に次の層を形成するために、当該金属積層装置1が持ち上がるように上方向(つまりZ方向における一方向)にガントリー31によって移動された後に、圧接ロール13などがワーク5のX方向における始端まで移動するように、ガントリー31によってX方向における他方向(
図3では左方向)に向かって移動される。この後、金属積層装置1は、圧接ロール13などがワーク5のX方向における始端まで到達すると、当該金属積層装置1が降りるように下方向(つまりZ方向における他方向)にガントリー31によって移動された後に、上記と同様にして、ガントリー31によってX方向における一方向(
図3では右方向)に向かって移動される。
このようにして、金属積層装置1がガントリー31によってX方向に複数回往復されることにより、ワーク5に複数の金属4の層が形成されることとなる、つまりワーク5に金属4が積層されることとなる。
【0039】
ここで、ワーク5のY方向における長さが圧接ロール13のY方向における長さよりも長い場合には、金属積層装置1は、ワーク5のY方向に延びる積層すべき箇所全体にわたって圧接ロール13などが移動するように、ガントリー31によってY方向にも移動される。例えば、金属積層装置1は、ワーク5のX方向における一端から他端までの圧接ロール13などの移動が完了するごと、ガントリー31によってY方向に移動される。この場合、ワーク5においてY方向に並ぶ金属4の層の間に継ぎ目が現れないように、金属積層装置1をY方向に移動させる量などを調整するとよい。
【0040】
なお、上記では、ワーク5を固定し、金属積層装置1を移動させる例を示したが、これに限定はされない。他の例では、金属積層装置1を固定し、ワーク5を移動させてもよい(この場合、ワーク5が載置されるステージ32を移動させればよい)。更に他の例では、金属積層装置1及びワーク5の両方を移動させてもよい。要は、圧接ロール13、スクライビング処理用レーザ14及び溶融用レーザ15などがワーク5に対して相対的に移動すればよい。
【0041】
次に、
図4を参照して、本発明の第1実施形態による積層部材の製造方法について説明する。
図4は、本発明の第1実施形態による積層部材の製造方法を示すフローチャートである。
【0042】
まず、ステップS11において、溶解炉11で金属4を溶融させ、溶融された金属4を圧接ロール13に供給する。次いで、ステップS12に進み、ワーク5に金属4を積層しない箇所に応じた、圧接ロール13上にある金属4の部分に対して、スクライビング処理用レーザ14からのレーザ光を照射させるスクライビング処理を行う。次いで、ステップS13に進み、圧接ロール13をワーク5に押し付けた状態で、圧接ロール13を回転させながらワーク5上を移動させることにより、半溶融状態の金属4をワーク5に圧接積層する。次いで、ステップS14に進み、圧接ロール13によってワーク5上に圧接された金属4に対して、溶融用レーザ15からのレーザ光を照射することにより、金属4を完全に溶融させる。例えば、ワーク5上の最も上の層とその下の層とが少なくとも一体化するように、金属4を完全に溶融させる。
【0043】
次いで、ステップS15に進み、ワーク5に対する造形が終了したか否かを判定する。造形が終了した場合、本実施形態による積層部材の製造方法が終了する。この後、当該積層部材の仕上げ加工などが行われる。一方で、造形が終了していない場合、ステップS16に進み、圧接ロール13などをワーク5上の次の積層ポイントに移動させるべく、ガントリー31によって金属積層装置1を移動させる。例えば、ワーク5に次の層を形成すべく、金属積層装置1をZ方向(上方向)に移動させた後に、金属積層装置1をワーク5のX方向における始端まで移動させる。そして、ステップS11に戻り、上述したステップS11以降の処理を再度実行する。
【0044】
次に、本発明の第1実施形態による作用効果について説明する。第1実施形態によれば、溶融状態にある金属4を溶解炉11から圧接ロール13に供給して、この金属4を圧接ロール13によってワーク5に圧接積層するため、従来技術のように粉体を用いて積層を行う構成と比較すると、原材料(粉体)を溶融する工程、アトマイズにより粉体を生成する工程、及び粉体を分級する工程を省くことができる。そのため、第1実施形態によれば、金属4をワーク5に積層するためのトータルのコスト及びエネルギーを低減することができる。
【0045】
また、第1実施形態によれば、半溶融状態の金属4を圧接ロール13によって圧接しながら積層するため、材料の密度が高く、材質も安定している積層部材を得ることができる。更に、第1実施形態によれば、圧接ロール13を用いて、当該圧接ロール13の長さ分を線で積層するため、従来技術のように点による積層を行う構成と比較して、積層効率を向上させることができる。
【0046】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態と第2実施形態との相違点を簡単に述べると、第2実施形態は、圧接ロール13の代わりにボールを用いて圧接積層する点で、第1実施形態と異なる。具体的には、第2実施形態では、ボールペン構造を利用して圧接積層を行う金属積層装置を採用する。
なお、以下では、第1実施形態と異なる構成について主に説明し、第1実施形態と同様の構成については説明を適宜省略する。つまり、ここで特に説明しない構成については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0047】
図5は、本発明の第2実施形態による、物質積層装置としての金属積層装置の概略構成図を示している。
【0048】
図5に示すように、金属積層装置2は、主に、るつぼ21と、加熱コイル22と、ロータ23と、ボール24と、溶融用レーザ25と、を有する。第2実施形態による金属積層装置2も、上述した第1実施形態による金属積層装置1と同様に、例えばアルミ合金などの金属4を、積層対象物としてのワーク5に積層するための装置である。しかしながら、第1実施形態による金属積層装置1は、典型的には、大物構造物を適用対象としていたのに対して、第2実施形態による金属積層装置2は、典型的には、複雑形状を有する、比較的小型の構造物を適用対象とする。
【0049】
るつぼ21は、半溶融状態にある金属4(金属4の溶湯)が入れられた容器に相当する。例えば、るつぼ21には、約600℃程度のアルミ合金(A7075などのAl−Zn−Mg−Cu系合金)が、半溶融状態にある金属4として入れられている。
なお、第2実施形態における「半溶融状態」とは、ロータにより凝固途中の金属材料を機械的に強撹拌し、デントライトを分断した状態に相当する。
【0050】
加熱コイル22は、るつぼ21の外周に巻き付けられており、るつぼ21を誘電加熱するために用いられる。ロータ23は、るつぼ21内に入れられており、るつぼ21内の金属4を攪拌するように動作すると共に(矢印A41参照)、るつぼ21内の金属4を下方のボール24に向けて押し出すように動作する(矢印A42参照)。なお、るつぼ21内の金属4をロータ23によって攪拌しているのは、引け巣の発生が少ない、品質の安定したダイカストを実現するためである。
【0051】
ボール24は、半溶融状態の金属4をワーク5上に圧接積層するための、球形の回転体である。具体的には、ボール24は、一般的な筆記具のボールペンと同様の構造が適用され、るつぼ21の下方の先端部に回転可能に保持されている。ボール24には、矢印A42に示すようなロータ23の動作によって、るつぼ21内の金属4が連続供給される。そして、ボール24は、矢印A43に示すようにワーク5に押し付けられた状態で、矢印A44に示すように回転しながらワーク5上を移動することにより、供給された金属4をワーク5に圧接する。ボール24の径には、積層対象物の複雑さやサイズに応じたものが適用される。
なお、るつぼ21には半溶融状態の金属4が入れられ、ボール24には半溶融状態の金属4が供給されるため、ボール24やボール24周辺の部材には比較的低温の金属4が接触することとなる。そのため、ボール24やボール24周辺の部材は消耗しにくい。
【0052】
溶融用レーザ25(
図5ではレーザヘッドのみを図示している)は、例えば半導体レーザであり、ワーク5に向けてレーザ光を照射する。具体的には、溶融用レーザ25は、ボール24によってワーク5上に圧接された金属4に対してレーザ光を照射することにより、半溶融状態にある金属4を完全に溶融させ、焼結処理を行う。
【0053】
次に、
図6を参照して、本発明の第2実施形態による金属積層装置2が適用された全体装置構成例について説明する。
図6は、金属積層装置2が適用された積層部材の製造装置200の概略構成を示す斜視図である。
【0054】
図6に示すように、積層部材の製造装置200は、主に、上述した金属積層装置2と、金属積層装置2を移動可能に構成された、移動機構としてのガントリー41(
図6では一部分のみを示している)と、ワーク5が載置されるステージ42と、を有する。積層部材の製造装置200は、これら以外にも、金属積層装置2のボール24やワーク5などを取り囲む熱遮断壁や、熱遮断壁の上部を覆うテレスコカバーや、ワーク5を装置200内に搬入したり、ワーク5を装置200から取り出したりするための開閉可能な開口部などを有していてもよい。
【0055】
金属積層装置2全体は、ガントリー41に取り付けられており、ガントリー41によって、
図6中に示すX方向、Y方向(ロール方向)及びZ方向に移動される。基本的には、ガントリー41は、金属積層装置2のボール24によって、ワーク5における積層すべき箇所全体にわたって金属4を圧接して、ボール24によってワーク5上に圧接された金属4に対して、金属積層装置2の溶融用レーザ25からのレーザ光を照射して完全溶融させることによって、ワーク5に金属4の複数の層を形成するために、金属積層装置2をX方向及びY方向に移動させる。
【0056】
なお、上記では、ワーク5を固定し、金属積層装置2を移動させる例を示したが、これに限定はされない。他の例では、金属積層装置2を固定し、ワーク5を移動させてもよい(この場合、ワーク5が載置されるステージ42を移動させればよい)。更に他の例では、金属積層装置2及びワーク5の両方を移動させてもよい。要は、ボール24及び溶融用レーザ25などがワーク5に対して相対的に移動すればよい。
【0057】
次に、
図7を参照して、本発明の第2実施形態による積層部材の製造方法について説明する。
図7は、本発明の第2実施形態による積層部材の製造方法を示すフローチャートである。
【0058】
まず、ステップS21において、ワーク5に積層すべき金属4を、るつぼ21に供給する。次いで、ステップS22に進み、加熱コイル22に通電してるつぼ21を誘電加熱することにより、るつぼ21内の金属4を半溶融状態にし、ロータ23を回転させることにより(
図5中の矢印A41参照)、るつぼ21内の金属4を攪拌する。次いで、ステップS23に進み、ロータ23を上下方向に移動させることにより(
図5中の矢印A42参照)、るつぼ21内の半溶融状態にある金属4をボール24に供給する。
【0059】
次いで、ステップS24に進み、ボール24をワーク5に押し付けた状態で、ボール24を回転させながらワーク5上を移動させることにより、半溶融状態の金属4をワーク5に圧接積層する。次いで、ステップS25に進み、ボール24によってワーク5上に圧接された金属4に対して、溶融用レーザ25からのレーザ光を照射することにより、金属4を完全に溶融させる。
【0060】
次いで、ステップS26に進み、ワーク5に対する造形が終了したか否かを判定する。造形が終了した場合、本実施形態による積層部材の製造方法が終了する。この後、当該積層部材の仕上げ加工などが行われる。一方で、造形が終了していない場合、ステップS27に進み、ボール24などをワーク5上の次の積層ポイントに移動させるべく、ガントリー41によって金属積層装置2を移動させる。そして、ステップS23に戻り、上述したステップS23以降の処理を再度実行する。
【0061】
次に、本発明の第2実施形態による作用効果について説明する。第2実施形態によれば、半溶融状態にある金属4をボール24に供給して、この金属4をボール24によってワーク5に圧接積層するため、従来技術のように粉体を用いて積層を行う構成と比較すると、原材料(粉体)を溶融する工程、アトマイズにより粉体を生成する工程、及び粉体を分級する工程を省くことができる。そのため、第2実施形態によれば、金属4をワーク5に積層するためのトータルのコスト及びエネルギーを低減することができる。また、第2実施形態によれば、半溶融状態の金属4をボール24によって圧接しながら積層するため、材料の密度が高く、材質も安定している積層部材を得ることができる。
【0062】
更に、第2実施形態によれば、第1実施形態で示した圧接ロール13よりもワーク5に当接する面積が小さいボール24を用いて圧接積層を行うため、第1実施形態よりも、複雑形状を有する積層対象物に対して圧接積層を行う場合に有利となる。
なお、第2実施形態は、複雑形状を有する積層対象物や小型の積層対象物への適用に限定されるものではなく、大きな径を有するボール24を採用することにより、第1実施形態で示したような大型の積層対象物などに対しても適用可能である。
【0063】
[変形例]
上述した実施形態では、金属積層装置1、2を移動させる移動機構としてガントリー31、41を示したが、ガントリー31、41を移動機構として用いることに限定はされず、ガントリー31、41以外の公知の種々の移動機構を用いてもよい。また、ガントリー31、41のような金属積層装置1、2を移動させる構造体のみを移動機構とすることに限定はされず、モータや制御装置(コンピュータなど)を移動機構に含めてもよい。
【0064】
上述した実施形態では、ワーク5に積層する金属4としてアルミ合金を例示したが、本発明は、アルミ合金以外にも、鉄や銅やチタンなどの種々の金属材料に適用可能である。また、本発明は、金属材料だけでなく、セラミックスにも適用可能である。