特許第6305847号(P6305847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305847
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】非破壊検査方法および非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/82 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   G01N27/82
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-131933(P2014-131933)
(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公開番号】特開2016-8960(P2016-8960A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 誠
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−177747(JP,A)
【文献】 特表2008−506931(JP,A)
【文献】 特開2011−080950(JP,A)
【文献】 特開2011−007521(JP,A)
【文献】 特開2008−151744(JP,A)
【文献】 米国特許第05720140(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート体内に設けられた鉄筋をコンクリート体の外側から磁石によって磁化させ、その後、該コンクリート体の外側の磁束密度を磁気センサにより測定することで前記鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法であって、
前記磁石を、その両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体の表面に近づけて配置し、適宜移動させて、または移動させずに前記鉄筋を磁化させる着磁工程と、
前記コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に前記磁気センサを配置し、該磁気センサを、前記コンクリート体の表面からの離隔距離を略一定に維持した状態で移動させ、複数の前記離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定する磁束密度測定工程と、
磁束密度測定工程で測定された前記複数の離隔距離における磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、前記鉄筋の破断部の有無を検出する破断検出工程を含むことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
コンクリート体内に設けられた鉄筋をコンクリート体の外側から磁石によって磁化させ、その後、該コンクリート体の外側の磁束密度を磁気センサにより測定することで前記鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法であって、
前記磁石を、その両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体の表面に近づけて配置し、適宜移動させて、または移動させずに前記鉄筋を磁化させる着磁工程と、
前記コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる2つの位置に前記磁気センサを配置し、該磁気センサを、前記コンクリート体の表面からの離隔距離を略一定に維持した状態で移動させ、2つの前記離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定する磁束密度測定工程と、
磁束密度測定工程で測定された前記2つの離隔距離における磁束密度について、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、前記鉄筋の破断部の有無を検出する破断検出工程を含むことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項3】
磁束密度測定工程において、前記コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に複数個の前記磁気センサを同時に配置して移動させ、複数の前記離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を同時に測定することを特徴とする請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
【請求項4】
磁束密度測定工程において、前記コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に1個の前記磁気センサを順次に配置して移動させ、複数の前記離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を順次に測定することを特徴とする請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
【請求項5】
コンクリート体内に設けられた鉄筋をコンクリート体の外側から磁石によって磁化させ、その後、該コンクリート体の外側の磁気を検出して磁束密度を算出することにより前記鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査装置であって、
両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体の表面に近づけて配置し、適宜移動させて、または移動させずに前記鉄筋を磁化させる磁石と、
前記コンクリート体の表面に近づけて対向させる近接面の後方において離隔方向に列設された複数個の磁気センサを備え、該複数個の磁気センサを同時に移動させて、前記コンクリート体の表面からの複数の異なる離隔距離における磁気を同時に検出する磁気検出手段と、
前記複数個の磁気センサから送られる検出信号から、前記複数の離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を算出する磁束密度算出手段と、
磁束密度算出手段によって算出された前記複数の隔離距離における磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、前記鉄筋の破断部の有無を検出する破断検出手段を備えることを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項6】
コンクリート体内に設けられた鉄筋をコンクリート体の外側から磁石によって磁化させ、その後、該コンクリート体の外側の磁気を検出して磁束密度を算出することにより前記鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査装置であって、
両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体の表面に近づけて配置し、適宜移動させて、または移動させずに前記鉄筋を磁化させる磁石と、
前記コンクリート体の表面に近づけて対向させる近接面の後方において離隔方向に列設された2個の磁気センサを備え、該2個の磁気センサを同時に移動させて、前記コンクリート体の表面からの2つの異なる離隔距離における磁気を同時に検出する磁気検出手段と、
前記2個の磁気センサから送られる検出信号から、前記2つの離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を算出する磁束密度算出手段と、
磁束密度算出手段によって算出された前記2つの隔離距離における磁束密度について、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、前記鉄筋の破断部の有無を検出する破断検出手段を備えることを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項7】
磁気検出手段として、前記近接面の後方において離隔方向に列設された複数個の磁気センサからなる磁気センサ列が、複数列設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載の非破壊検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋、ビル又はコンクリートポールなどの、鉄筋コンクリート構造物の体内に設けられている鉄筋の破断の有無を検出する非破壊検査方法および非破壊検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート体内に設けられた鉄筋の破断を検出する非破壊検査方法が知られている。
例えば、特許第3734822号公報(特許文献1)に記載された非破壊検査方法は、永久磁石を、コンクリート体に埋設された検査対象の鉄筋の長手方向に沿って、コンクリート体表面を移動させることにより鉄筋を磁化させ、その後、磁気センサによってコンクリート体の表面から漏れる磁束密度を測定し、更に得られた測定値の微分値を算出して鉄筋の破断部の有無を検出するものである。
【0003】
しかしながら、前記の特許文献1に記載された非破壊検査方法は、鉄筋の破断部の有無を、コンクリート体表面からの離隔距離が単一の磁気センサによって測定した磁束密度の微分値のみに基づいて検出するため、例えば、コンクリート体内に埋設された検査対象鉄筋以外の強磁性体や、他の環境磁場の影響等により、前記磁束密度の微分値が大きく変動した場合には、鉄筋の破断の有無を正確に検出することが難しいという問題があった。また、かかる特許文献1に記載された非破壊検査方法では、測定した磁束密度の微分値と比較するための閾値を予め設定しておく必要があるが、設定する閾値の大きさを間違えると、正確な破断検出ができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3734822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、従来の非破壊検査方法では、検査対象の鉄筋以外からの磁気の影響により、また、検査前の閾値の誤設定などによって、鉄筋の破断部の有無の検出精度が低下するという課題があった。
そこで本発明は、検査対象の鉄筋以外の強磁性体や環境磁場等の影響を受け難く、さらに、検査前の閾値設定などを不要とした、鉄筋の破断部の有無を極めて正確に検出することができる非破壊検査方法および非破壊検査装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明のうち特許請求の範囲の請求項1に記載する発明は、コンクリート体内に設けられた鉄筋をコンクリート体の外側から磁石によって磁化させ、その後、該コンクリート体の外側の磁束密度を磁気センサにより測定することで前記鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法であって、前記磁石を、その両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体の表面に近づけて配置し、適宜移動させて、または移動させずに前記鉄筋を磁化させる着磁工程と、前記コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に前記磁気センサを配置し、該磁気センサを、前記コンクリート体の表面からの離隔距離を略一定に維持した状態で移動させ、複数の前記離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定する磁束密度測定工程と、磁束密度測定工程で測定された前記複数の離隔距離における磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、前記鉄筋の破断部の有無を検出する破断検出工程を含むことを特徴とする非破壊検査方法である。
【0007】
ここで、鉄筋とは、一般的な鉄筋コンクリート構造物に多用される断面形状が円形の丸鋼や表面に突起を設けた異形棒鋼に限らず、断面形状が矩形、その他の多角形の鋼材、H形鋼であってもよい。また、通水や通気等に使用する内部が空洞の鋼管であってもよく、さらに、プレストレスト・コンクリート工法に使用するPC鋼棒、PC鋼線又はPC鋼撚線といったPC鋼材、あるいはこれらを内部に通して使用するシース管やシース管内のPC鋼材であってもよい。
【0008】
前記着磁工程において鉄筋を磁化させる際に、磁石をコンクリート体の表面に近づけて配置するには、磁石をコンクリート体の表面の所定位置に一時的に近づければよく、必ずしも磁石を直接コンクリート体の表面に当接させる必要はなく、静止させる必要もない。その後、配置した磁石を適宜移動させて、例えば鉄筋の長手方向に沿って移動させることにより鉄筋を磁化させる。
なお、大型の磁石であって鉄筋の長手方向における検査対象範囲と同等以上の長さを有するものを使用する場合には、かかる大型の磁石をコンクリート体の表面に近づけて配置するだけで鉄筋の検査対象範囲の全体を磁化させることができるので、磁石を移動させる必要はない。
また、磁石は、永久磁石または電磁石のいずれであってもよく、また、形状は直方体、コ字形またはU字形等の任意であってよい。
【0009】
前記磁束密度測定工程において、磁気センサを、コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に配置するには、例えば、複数個の磁気センサを所定間隔毎にコンクリート体の表面から離れる方向に列置すればよい。また、別の配置方法として、1個の磁気センサを、前記コンクリート体の表面から離れる方向に向かって所定間隔毎に、順次に配置するようにしてもよい。なお、このように所定位置に配置する複数個または1個の磁気センサは、各々所定位置に一時的に配置すれば良いのであって、その位置に静止させる必要もない。
【0010】
次いで、前記所定位置に配置した複数個または1個の磁気センサを、前記コンクリート体の表面からの離隔距離を略一定に維持した状態で移動させて磁束密度を測定する。その際、前記磁気センサを移動させるには、例えば、コンクリート体の表面から離れる方向に所定間隔毎に列置した複数個または1個の磁気センサを、コンクリート体の表面からの離隔距離を略一定に維持した状態で、鉄筋の長手方向に沿ってコンクリート体表面の上方の空間を移動させながら磁束密度を測定すればよい。
また他の方法として、前記磁気センサを、コンクリート体表面の上方の空間において、鉄筋の長手方向と直交する方向に往復移動させつつ少しずつ鉄筋の長手方向に移動させて、鉄筋の各位置における磁束密度を測定し、その測定結果を分析することで、鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を求めることもできる。
【0011】
破断検出工程では、前記複数の離隔距離における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜に選択し、それら両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって鉄筋の破断部の有無を検出する。例えば、鉄筋の長手方向において、前記両磁束密度の差が0になる部分を見つけ、その部分の付近における前記両磁束密度の差の正負の状態を調べることによって、鉄筋の破断部の有無を検出する。
また、前記両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、鉄筋の破断部の有無を検出してもよい。例えば、前記両磁束密度の鉄筋の長手方向に沿った増減変化を、それぞれ線グラフの変化曲線として表して、これらの両変化曲線が交差する交点を見つけ、その交点の付近における両変化曲線の相対位置を調べることによって、鉄筋の破断部の有無を検出する。
かかる破断検出工程における鉄筋の破断部の有無の検出は、一般的な電子計算機等による情報処理によって行うことができるが、上記両磁束密度の変化曲線をモニター画面等に表示し、その表示内容に基づいて検査員が破断部の有無を判定するようにしてもよい。また、電子計算機等による情報処理と、検査員による判定とを併せて行うようにしてもよい。
【0012】
次に、本発明のうち特許請求の範囲の請求項2に記載する発明は、コンクリート体内に設けられた鉄筋をコンクリート体の外側から磁石によって磁化させ、その後、該コンクリート体の外側の磁束密度を磁気センサにより測定することで前記鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法であって、前記磁石を、その両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体の表面に近づけて配置し、適宜移動させて、または移動させずに前記鉄筋を磁化させる着磁工程と、前記コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる2つの位置に前記磁気センサを配置し、該磁気センサを、前記コンクリート体の表面からの離隔距離を略一定に維持した状態で移動させ、2つの前記離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定する磁束密度測定工程と、磁束密度測定工程で測定された前記2つの離隔距離における磁束密度について、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、前記鉄筋の破断部の有無を検出する破断検出工程を含むことを特徴とする非破壊検査方法である。
【0013】
かかる非破壊検査方法は、磁束密度測定工程における磁気センサの配置位置について、前記請求項1に記載する非破壊検査方法におけるコンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置を、2つの位置のみに限定したものである。
【0014】
同じく特許請求の範囲の請求項3に記載する発明は、磁束密度測定工程において、前記コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に複数個の前記磁気センサを同時に配置して移動させ、複数の前記離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を同時に測定することを特徴とする請求項1または2に記載の非破壊検査方法である。
【0015】
同じく特許請求の範囲の請求項4に記載する発明は、磁束密度測定工程において、前記コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に1個の前記磁気センサを順次に配置して移動させ、複数の前記離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を順次に測定することを特徴とする請求項1または2に記載の非破壊検査方法である。
【0016】
次に、特許請求の範囲の請求項5に記載する発明は、コンクリート体内に設けられた鉄筋をコンクリート体の外側から磁石によって磁化させ、その後、該コンクリート体の外側の磁気を検出して磁束密度を算出することにより前記鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査装置であって、両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体の表面に近づけて配置し、適宜移動させて、または移動させずに前記鉄筋を磁化させる磁石と、前記コンクリート体の表面に近づけて対向させる近接面の後方において離隔方向に列設された複数個の磁気センサを備え、該複数個の磁気センサを同時に移動させて、前記コンクリート体の表面からの複数の異なる離隔距離における磁気を同時に検出する磁気検出手段と、前記複数個の磁気センサから送られる検出信号から、前記複数の離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を算出する磁束密度算出手段と、磁束密度算出手段によって算出された前記複数の隔離距離における磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、前記鉄筋の破断部の有無を検出する破断検出手段を備えることを特徴とする非破壊検査装置である。
【0017】
同じく特許請求の範囲の請求項6に記載する発明は、コンクリート体内に設けられた鉄筋をコンクリート体の外側から磁石によって磁化させ、その後、該コンクリート体の外側の磁気を検出して磁束密度を算出することにより前記鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査装置であって、両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体の表面に近づけて配置し、適宜移動させて、または移動させずに前記鉄筋を磁化させる磁石と、前記コンクリート体の表面に近づけて対向させる近接面の後方において離隔方向に列設された2個の磁気センサを備え、該2個の磁気センサを同時に移動させて、前記コンクリート体の表面からの2つの異なる離隔距離における磁気を同時に検出する磁気検出手段と、前記2個の磁気センサから送られる検出信号から、前記2つの離隔距離における前記鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を算出する磁束密度算出手段と、磁束密度算出手段によって算出された前記2つの隔離距離における磁束密度について、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、前記鉄筋の破断部の有無を検出する破断検出手段を備えることを特徴とする非破壊検査装置である。
【0018】
かかる非破壊検査装置は、前記請求項5に記載する非破壊検査装置の磁気検出手段における複数個の磁気センサを、2個の磁気センサのみに限定したものである。
【0019】
さらに、特許請求の範囲の請求項7に記載する発明は、磁気検出手段として、前記近接面の後方において離隔方向に列設された複数個の磁気センサからなる磁気センサ列が、複数列設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載の非破壊検査装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に記載する非破壊検査方法であって、コンクリート体の表面からの複数の異なる離隔距離における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定し、これら複数の離隔距離における磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、鉄筋の破断部の有無を検出する方法によれば、比較的簡易な計算処理によって破断部の有無を検出できるので、一般的な情報処理機器を用いて自動的かつ即座に破断部の有無を検出することができる。また、2つの磁束密度の差の正負変化に着目した方法なので、検査前に磁束密度の微分値と比較するための閾値などを設定する必要がなく、閾値の誤設定などによる検出精度の低下を招くこともない。
【0021】
さらに、前記両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって鉄筋の破断部の有無を検出する方法によれば、例えば、前記両磁束密度の鉄筋の長手方向における増減変化を、それぞれ線グラフの変化曲線として表して、かかる両変化曲線が交差する交点を見つけ、その交点の付近における両変化曲線の相対位置を調べることによって、鉄筋の破断部の有無を検出することができる。この場合に、両変化曲線をモニター画面等に表示することで、検査員が容易かつ正確に破断部の有無を判定することができる。また、検査対象の鉄筋以外からの磁気や環境磁場などの検査の障害となる磁気が存在する場合には、それらの影響が前記両変化曲線のいずれか一方または両方に、特徴的な形状として現れるため、検査員が両変化曲線を比較観察することで、容易に障害となる磁気の存在に気付くことができ、検査員の誤判定などによる鉄筋の破断部の検出精度の低下を防ぐことができる。
【0022】
さらに、請求項1に記載する非破壊検査方法では、複数の異なる離隔距離における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定し、これら複数の離隔距離における磁束密度から2つの磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度に基づいて鉄筋の破断部の有無を検出するが、このように、複数の離隔距離における磁束密度から2つを選択することで、より正確に測定された2つの磁束密度を選ぶことができ、鉄筋の破断の有無の検出精度を高めることができる。
【0023】
例えば、コンクリート体内の鉄筋が、コンクリート体表面に極めて近い位置に埋設されている場合、前記着磁工程において鉄筋を磁化させると、磁化の程度が強過ぎて、その磁束密度を測定した際に、磁気センサの検出能力の上限を超えてしまって正確に測定できないことがある。このような場合には、複数の異なる離隔距離における磁束密度のうち、コンクリート体表面からなるべく遠い2つの磁束密度を選択することによって、磁気センサの検出能力の範囲内で正確に測定できる2つの磁束密度に基づいて、鉄筋の破断部の有無を検出することができる場合がある。鉄筋から発せられる磁気の磁束密度は、鉄筋に近いほど大きく、鉄筋から離れるにしたがって小さくなるからである。
【0024】
また、コンクリート体内の鉄筋が、コンクリート体の深い位置に埋設されている場合、前記着磁工程において鉄筋を磁化させると、磁化の程度が弱くなってしまい、測定して得られる磁束密度の増減幅が小さくなり過ぎることがある。このような場合には、複数の異なる離隔距離における磁束密度のうち、コンクリート体表面になるべく近い2つの磁束密度を選択することで、測定値の増減幅が比較的に大きい2つの磁束密度に基づいて、鉄筋の破断部の有無をより正確に検出することができる場合がある。
【0025】
次に、請求項2に記載する非破壊検査方法によれば、磁束密度測定工程における磁気センサの配置位置を、最小限の2つの位置に限定したことにより、検査をより簡易に行うことができ、検査員の作業負荷を軽減することができる。
【0026】
さらに、本発明の請求項3に記載する非破壊検査方法によれば、磁束密度測定工程において、コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に複数個の磁気センサを同時に配置して移動させ、複数の前記離隔距離における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を同時に測定するようにしたので、前記複数の離隔距離における磁束密度の測定を、1回の測定作業でまとめて行うことができ、検査員の作業負荷を軽減することができる。
【0027】
また、複数個の磁気センサを同時に移動させることで、移動経路における複数個の磁気センサの相対的な位置関係を常に一定に維持することができるため、複数個の磁気センサ間の測定誤差の発生を防ぐことができる。
【0028】
さらに、鉄筋の長手方向における磁束密度を、複数個の磁気センサによって同時に測定することで、測定結果から即座に2つの磁束密度の差を求めたり、磁束密度の変化曲線を作成したりすることができる。つまり、磁気センサを移動させて磁束密度の測定を行う作業と、略同時並行して鉄筋の破断部の有無を検出することができるため、例えば、鉄筋の破断部が存在する付近のコンクリート体表面にマーキング作業を行うような場合には、このマーキング作業を磁束密度の測定作業と同時に行うことができ、さらにマーキング作業を自動化することが可能となるため便宜である。
【0029】
また、本発明の請求項4に記載する非破壊検査方法によれば、磁束密度測定工程において、コンクリート体の表面からの離隔距離が異なる複数の位置に1個の磁気センサを順次に配置して移動させ、複数の前記離隔距離における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を順次に測定するようにしたので、検査に使用する磁気センサの数量を1個にすることができ、コスト低減に資することができる。
【0030】
次に、本発明の請求項5に記載する非破壊検査装置によれば、前記請求項1および前記請求項3に記載する非破壊検査方法を、効率的かつ確実に行うことができる。
【0031】
また、本発明の請求項6に記載する非破壊検査装置によれば、前記請求項2および前記請求項3に記載する非破壊検査方法を、効率的かつ確実に行うことができる。
【0032】
さらに、本発明の請求項7に記載する非破検査装置によれば、磁気検出手段として、コンクリート体の表面に近づけて対向させる非破壊検査装置の近接面の後方に、離隔方向に列設された複数個の磁気センサからなる磁気センサ列が、複数列設けられているため、検査対象鉄筋から発せられる磁気と、検査対象鉄筋以外の強磁性体等から発せられる検査の障害となる磁気との判別を、より正確かつ容易にできるため、検査対象鉄筋の破断部の有無の検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】磁石を両磁極がコンクリート体に埋設された破断部の無い鉄筋の長手方向に沿うように、コンクリート体の表面に近づけて配置した場合における磁気の状態を示す説明図である。
図2】コンクリート体に埋設された破断部の有る鉄筋が磁化された場合における磁気の状態を示す説明図である。
図3】破断部の無い鉄筋の長手方向に沿った、該鉄筋からの3つの異なる離隔距離における磁束密度の垂直成分の測定結果を示すグラフである。
図4】破断部の有る鉄筋の長手方向に沿った、該鉄筋からの3つの異なる離隔距離における磁束密度の垂直成分の測定結果を示すグラフである。
図5】磁石を両磁極がコンクリート体に埋設された破断部の有る鉄筋の長手方向に沿うように、コンクリート体の表面に近づけて配置した状態を示す説明図である。
図6】非破壊検査装置をコンクリート体の表面に近づけて配置した場合の概略構成図である。
図7図6の非破壊検査装置を左側方から見た場合の概略構成図である。
図8】非破壊検査装置の別の実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明にかかる非破壊検査方法および非破壊検査装置の実施形態を説明する。
【0035】
(1)非破壊検査方法
本発明の非破壊検査方法は、着磁工程、磁束密度測定工程および破断検出工程を含む、鉄筋の破断部の有無を検出するための検査方法である。以下、各工程について説明する。
【0036】
(1−1)着磁工程
図1において、1はコンクリート体であり、このコンクリート体1には検査対象となる鉄筋2が埋設されている。
まず、図1に示すように、コンクリート体1の表面3に磁石4を近づけて、その両磁極を鉄筋2の長手方向に沿わせ、N極が図左にS極が図右になるよう配置すると、磁石4から発せられる磁力線5で示す磁気の影響で、鉄筋2が磁化されて矢印で示す方向の磁束2Aが発生する。
【0037】
本実施形態における磁石4は、Nd系のような希土類金属からなる略直方体形状の永久磁石であるため、その両磁極が鉄筋2の長手方向に沿うよう配置すると、磁石5内部の磁束M1が鉄筋2の長手方向と略平行になる。
なお、磁石4の両磁極の向きは、本実施形態とは逆に、S極を図左としN極を図右としてもよい。また、磁石4は、そのまま剥き出しの状態でもよいが、コンクリート体の表面に近づけたまま移動させ易くするための機能を有するケース等に収容し、または複数の磁石を組み合わせるなど、ユニット化したものであってもよい。
【0038】
その後、磁石4を鉄筋2の長手方向(図1のX方向)に移動させて、鉄筋2の検査対象範囲の全体を磁化させる。その際、鉄筋2を十分に磁化させるために、磁石4を鉄筋2の長手方向に沿わせて、X方向及び−X方向に複数回往復移動させてもよい。また、磁石4の移動軌道は、必ずしも鉄筋2の直上(すなわち、磁石4のY方向における位置と鉄筋2のY方向における位置とが同じ場合)である必要はない。
【0039】
(1−2)磁束密度測定工程
磁石4を撤去した後、コンクリート体表面3からの離隔距離が異なる複数の位置に磁気センサを配置し、その磁気センサをコンクリート体表面3からの離隔距離を略一定に維持した状態で移動させ、複数の前記離隔距離における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定する。
例えば、図2に示すように、コンクリート体表面3からの離隔距離が異なるA、B、Cの各破線で示す空間部分の図左端位置に、各々1個ずつ計3個の磁気センサを配置し、各磁気センサを同時にA、B、Cの各破線に沿わせて図左端位置から右方向に移動させて、鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定することができる。なお、使用する磁気センサを1個として、A、B、Cの各破線で示す図左端位置に順次配置して各破線に沿わせて移動させて鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定するようにしても良い。
【0040】
かかる方法で測定した鉄筋の長手方向に沿った磁束密度の測定結果を、図3および図4に示す。
図3は、破断部の無い鉄筋の長手方向(X方向)に沿った、該鉄筋から3つの異なる離隔距離における磁束密度の垂直成分(Z方向の成分)の増減変化を示したグラフである。
より詳しくは、測定対象の鉄筋は、コンクリート体中にコンクリート体表面と略平行に埋設された直径16mmの異形棒鋼であって破断部は無く、コンクリートの芯かぶり厚は100mmである。グラフの変化曲線E1、E2、E3は、それぞれコンクリート体表面からの離隔距離が25mm、50mm、75mm(鉄筋の中心からの離隔距離は、それぞれ125mm、150mm、175mm)の各位置における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度の垂直成分の増減変化を示している。また、図3のグラフの横軸は、鉄筋のX方向の位置(単位:mm)を表しており、縦軸は、当該位置における磁束密度の垂直成分(単位:μT)を表している。
【0041】
変化曲線E1、E2、E3は、いずれも緩やかな右上がりの形状であるが、コンクリート体表面(および鉄筋)からの離隔距離が最も小さい変化曲線E1の傾斜が最も大きく、該離隔距離が最も大きい変化曲線E3の傾斜が最も小さくなっている。鉄筋から発せられる磁気の磁束密度は、鉄筋に近いほど大きく、鉄筋から離れるにしたがって小さくなるからである。
【0042】
また、前記の各変化曲線が右上がりの形状を示すのは、鉄筋の磁化方法と関係がある。すなわち本実施形態では、図1に示すように、磁石4を、そのS極を図右にしてN極を図左にして鉄筋2の長手方向に沿うように配置し、鉄筋2の長手方向の図左から図右に向かって移動させることによって鉄筋2を磁化させたことで、鉄筋2の左側寄りの部分は、磁石4のN極の影響を強く受けて磁束密度の垂直成分が下向き(−Z方向)として現れ、他方、鉄筋2の右側寄りの部分は、磁石4のS極の影響を強く受けて磁束密度の垂直成分が上向き(Z方向)として現れるのである。
【0043】
したがって、本実施形態とは異なり、磁石4の両磁極の相対位置を本実施形態と逆にして鉄筋を磁化させた場合には、磁束密度の垂直成分を示す変化曲線は右下がりの形状となる。
また、本実施形態では、鉄筋から生ずる磁束密度について、その垂直成分(Z方向の成分)を測定の対象としているが、測定の対象を水平成分(X方向またはY方向の成分)として、その測定値に基づいて破断部の有無を検出することも可能である。
【0044】
次に図4は、破断部の有る鉄筋の長手方向(X方向)に沿った、該鉄筋からの3つの異なる離隔距離における磁束密度の垂直成分(Z方向の成分)の増減変化を示したグラフである。
より詳しくは、測定対象の鉄筋は、コンクリート体中にコンクリート体表面と略平行に埋設された直径16mmの異形棒鋼であって、グラフの横軸の略0mm位置に対応する箇所に破断部が有り、コンクリートの芯かぶり厚は100mmである。グラフの変化曲線F1、F2、F3は、それぞれコンクリート体表面からの離隔距離が25mm、50mm、75mm(鉄筋の中心からの離隔距離は、それぞれ125mm、150mm、175mm)の各位置における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度の垂直成分の増減変化を示している。また、図4のグラフの横軸は、鉄筋のX方向の位置(単位:mm)を表しており、縦軸は、当該位置における磁束密度の垂直成分(単位:μT)を表している。
【0045】
変化曲線F1、F2、F3は、いずれも、グラフの横軸の0mm位置(破断部Hの位置)よりも左側(負側)において上向きの凸形状部を有し、右側(正側)において下向きの凸形状部を有する、いわゆるS字形の曲線であり、コンクリート体表面(および鉄筋)からの離隔距離が最も小さい変化曲線F1は、上向きおよび下向きの凸形状部がいずれも最も大きくなっており、該離隔距離が最も大きい変化曲線F3は、上向きおよび下向きの凸形状部がいずれも最も小さくなっている。鉄筋から発せられる磁気の磁束密度は、鉄筋に近いほど大きく、鉄筋から離れるにしたがって小さくなるからである。
【0046】
これらの変化曲線F1、F2、F3が前記S字形の曲線となる理由を図2および図5に基づいて説明する。
図5のように、N極を図左にS極を図右にした磁石4を、コンクリート体1に埋設された破断部Hの有る鉄筋2の長手方向に沿うように、コンクリート体表面3に近づけて配置し、次いでX方向に移動して鉄筋2を磁化させると、鉄筋2の破断部H以外の部分は磁化されるが、破断部Hは磁化されない。ここで、破断部Hを原点位置として、X方向負側に位置する鉄筋2Nには、図2に示すようにX方向の磁束2ANが生じ、また、X方向正側に位置する鉄筋2Pには、同じくX方向の磁束2APが生じる。
【0047】
磁石4をコンクリート体表面3から撤去した後の、鉄筋2Nおよび鉄筋2Pから生じる磁力線の様子を図2に示す。磁力線51は鉄筋2Nから生じたものであり、磁力線52は鉄筋2Pから生じたものである。この場合、鉄筋2Nの左端部上方のさらにコンクリート体表面3の上方には、−Z方向の磁束5N1が生じる一方、鉄筋2Nの右端部上方では、磁束5N1とは逆向きの磁束5N2が生じる。また、鉄筋2Pの左端部上方では、−Z方向の磁束5P1が生じる一方、鉄筋2Pの右端部上方では、磁束5P1とは逆向きの磁束5P2が生じる。
【0048】
そのため、鉄筋2N及び2Pを含む鉄筋2全体に沿ったコンクリート体表面3の上方での磁束密度の垂直成分を測定すると、図4に示すように、グラフの横軸の0mm位置(破断部Hの位置)よりも左側(負側)において上向きの凸形状部を有し、右側(正側)において下向きの凸形状部を有するS字形の曲線が得られるのである。
なお、本実施形態とは異なり、磁石4の両磁極の相対位置を本実施形態と逆にして鉄筋を磁化させた場合には、前記図4の各変化曲線とは逆に、グラフの横軸の0mm位置よりも左側において下向きの凸形状部を有し、右側において上向きの凸形状部を有する変化曲線となる。
【0049】
(1−3)破断検出工程
(1−3−1) 鉄筋の破断部の有無を検出する工程を説明する。すなわち、前記の磁束密度測定工程で測定された、コンクリート体表面からの複数の異なる離隔距離における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって鉄筋の破断部の有無を検出する工程である。
【0050】
例えば、図4には、前記のとおり、グラフの横軸の約0mm位置に相当する部分に破断部がある鉄筋の長手方向に沿った、該鉄筋からの3つの異なる離隔距離における磁束密度の垂直成分の増減変化を示す3つの変化曲線(F1、F2、F3)が示されているが、これらから、一例として変化曲線F1および変化曲線F3を選択し、かかる両変化曲線によって表される両磁束密度の差を求めることとする。
つまり、変化曲線F1に示すコンクリート体表面からの離隔距離が25mm(鉄筋の中心からの離隔距離は125mm)の場合の磁束密度の測定値(以下「F1値」という)から、変化曲線F3に示すコンクリート体表面からの離隔距離が75mm(鉄筋の中心からの離隔距離は175mm)の場合の磁束密度の測定値(以下「F3値」という)を差し引くことによって差を求める。
すると、図4のグラフ横軸の約−900mm未満の範囲で差(F1値−F3値)は0より小さな数値(負数)となり、約−900mmで差は0となり、約−900mmを超えて約0mm未満の範囲で差は0より大きな数値(正数)となり、約0mmで差は再び0となり、約0mmを超えて約900mm未満の範囲で差は0より小さな数値(負数)となり、約900mmで差は再び0となり、約900mmを超える範囲で差は0より大きな数値(正数)となる。
【0051】
このように、図4のグラフ横軸の約−900mm、約0mmおよび約900mmの3つの位置において差(F1値−F3値)が0になっているが、鉄筋のこれら3つの位置に相当する部分について、約−900mmおよび約900mmに相当する部分には破断は無く、約0mmに相当する部分のみに破断が有る。
そこで、さらに前記3つの位置の左右両側における差(F1値−F3値)に着目すると、鉄筋に破断が無い約−900mmおよび約900mmの位置では、いずれも左側(負方向側)における差は負数であり、右側(正方向側)における差は正数である。これに対し、鉄筋に破断が有る約0mmの位置では、左側における差は正数であり、右側における差は負数であって、かかる点において特徴的である。
以上より、コンクリート体表面からの異なる2つの離隔距離における磁束密度について、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することで、鉄筋の破断部の有無を検出できることが解る。
【0052】
次に、鉄筋に破断部が無い場合について説明する。図3には、破断部が無い鉄筋の長手方向に沿った、該鉄筋からの3つの異なる離隔距離における磁束密度の垂直成分の増減変化を示す3つの変化曲線(E1、E2、E3)が示されているが、これらから、一例として変化曲線E1および変化曲線E3を選択し、かかる両変化曲線によって表される両磁束密度の差を求めることとする。
つまり、変化曲線E1に示すコンクリート体表面からの離隔距離が25mmの場合の磁束密度の測定値(以下「E1値」という)から、変化曲線E3に示すコンクリート体表面からの離隔距離が75mmの場合の磁束密度の測定値(以下「E3値」という)を差し引くことによって差を求める。すると、図3のグラフ横軸の約0mm未満の範囲で差(E1値−E3値)は0より小さな数値(負数)となり、約0mmで差は0となり、約0mmを超える範囲で差は0より大きな値(正数)となる。
【0053】
これは、前記図4において変化曲線F1およびF3によって表される両磁束密度の差が0であるにもかかわらず鉄筋に破断が無い位置では、かかる位置の左側(負方向側)における差(F1値−F3値)は負数であり、右側(正方向側)における差は正数であるという事実と合致する。したがって、コンクリート体表面からの異なる2つの離隔距離における磁束密度について、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することで、鉄筋の破断部の有無を検出できることが解る。
【0054】
以上のとおり、2つの離隔距離における両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、鉄筋の破断部の有無を検出する方法によれば、比較的簡易な計算処理によって破断部の有無を検出できるので、一般的な情報処理機器を用いて自動的かつ即座に破断部の有無を検出することができる。
また、2つの磁束密度の差の正負変化に着目した方法なので、検査前に磁束密度の微分値と比較するための閾値などを設定する必要がなく、閾値の誤設定などによる検出精度の低下を防ぐことができる。
【0055】
(1−3−2) 次に、鉄筋の破断部の有無を検出する他の工程を説明する。すなわち、前記の磁束密度測定工程で測定された、コンクリート体表面からの複数の異なる離隔距離における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、鉄筋の破断部の有無を検出する工程である。
【0056】
例えば、前記の場合と同様に、図4に示すとおり、破断部がある鉄筋からの3つの異なる離隔距離における磁束密度の垂直成分を示す3つの変化曲線から、一例として、コンクリート体表面からの離隔距離が25mm(鉄筋の中心からの離隔距離は125mm)の場合における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度の垂直成分を示す変化曲線F1と、該離隔距離が75mm(鉄筋の中心からの離隔距離は175mm)の場合における鉄筋の長手方向に沿った磁束密度の垂直成分を示す変化曲線F3とを選択し、かかる両変化曲線が交差する交点と相対位置を判別することとする。
【0057】
まず、変化曲線F1と変化曲線F3とが交差する交点は、図4のグラフ横軸の約−900mm、約0mmおよび約900mmの3つの位置に存在する。
また、これらの交点の左右両側における変化曲線F1とF3の相対位置は、グラフ横軸の約−900mm未満の範囲では変化曲線F1が低位置(磁束密度が小さい位置)にあり変化曲線F3が高位置(磁束密度が大きい位置)にあり、約−900mmで両変化曲線は交差し、約−900mmを超えて約0mm未満の範囲では変化曲線F1が高位置にあり変化曲線F3が低位置にあり、約0mmで両変化曲線は再び交差し、約0mmを超えて約900mm未満の範囲では変化曲線F1が低位置にあり変化曲線F3が高位置にあり、約900mmで両変化曲線は再び交差し、約900mmを超える範囲では変化曲線F1が高位置にあり変化曲線F3が低位置にある。
【0058】
このように、図4のグラフ横軸の約−900mm、約0mmおよび約900mmの3つの位置において変化曲線F1とF3とが交差しているが、鉄筋のこれら3つの位置に相当する部分について、約−900mmおよび約900mmに相当する部分には破断は無く、約0mmに相当する部分のみに破断が有る。
そこで、さらに前記3つの位置の左右両側における変化曲線F1とF3の相対位置に着目すると、鉄筋に破断が無い約−900mmおよび約900mmの位置では、いずれも左側(負方向側)において変化曲線F1が低位置にあり変化曲線F3が高位置にあり、右側(正方向側)において変化曲線F1が高位置にあり変化曲線F3が低位置にある。これに対し、鉄筋に破断が有る約0mmの位置では、左側において変化曲線F1が高位置にあり変化曲線F3が低位置にあり、右側において変化曲線F1は低位置にあり変化曲線F3は高位置にあり、かかる点において特徴的である。
【0059】
以上より、コンクリート体表面からの異なる2つの離隔距離におけるそれぞれの磁束密度について、これら両磁束密度の鉄筋の長手方向における増減変化を示す両変化曲線の交点の位置と、かかる交点の付近における両変化曲線の相対位置を判別することで、鉄筋の破断部の有無を検出できることが解る。
【0060】
次に、鉄筋に破断部が無い場合について説明する。図3には、破断部が無い鉄筋の長手方向に沿った、該鉄筋からの3つの異なる離隔距離における磁束密度の垂直成分の増減変化を示す3つの変化曲線(E1、E2、E3)が示されているが、これらから、一例として変化曲線E1および変化曲線E3を選択し、かかる両変化曲線が交差する交点と相対位置を判別することとする。
【0061】
まず、変化曲線F1と変化曲線F3とが交差する交点は、図3のグラフ横軸の約0mmの位置に存在する。
また、かかる交点の左右両側における変化曲線F1とF3の相対位置は、グラフ横軸の約0mm未満の範囲では変化曲線E1が低位置(磁束密度が小さい位置)にあり変化曲線E3が高位置(磁束密度が大きい位置)にあり、約0mmで両変化曲線は交差し、約0mmを超える範囲では変化曲線E1が高位置にあり変化曲線E3が低位置にある。
【0062】
これは、前記図4において変化曲線F1とF3とが交差しているにもかかわらず鉄筋に破断が無い位置では、かかる位置の付近での変化曲線F1とF3の相対位置は、左側(負方向側)において変化曲線F1が低位置にあり変化曲線F3が高位置にあり、また、右側(正方向側)において変化曲線F1が高位置にあり変化曲線F3が低位置にあるという事実と合致する。したがって、
したがって、コンクリート体表面からの異なる2つの離隔距離における磁束密度について、これら両磁束密度の鉄筋の長手方向における増減変化を示す両変化曲線が交差する交点の位置と、かかる交点の付近における両変化曲線の相対位置を判別することで、鉄筋の破断部の有無を検出できることが解る。
【0063】
以上のとおり、2つの離隔距離における両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって鉄筋の破断部の有無を検出する方法によれば、両変化曲線をモニター画面等に表示することで、検査員が容易かつ正確に破断部の有無を判定することができる。また、検査対象の鉄筋以外からの磁気や環境磁場などの検査の障害となる磁気が存在する場合には、それらの影響が前記両変化曲線のいずれか一方または両方に、特徴的な形状として現れるため、検査員が両変化曲線を比較観察することで、容易に障害となる磁気の存在に気付くことができ、検査員の誤判定などによる鉄筋の破断部の検出精度の低下を防ぐことができる。
【0064】
(1−4)非破壊検査方法の発明の効果
本実施形態の非破壊検査方法では、その破断検出工程において、2つの離隔距離における両磁束密度の差(例えば前記のF1値−F3値)を求めて正負の変化を判別することによって鉄筋2の破断部Hの有無を検出する方法によれば、比較的簡易な計算処理によって自動的かつ即座に破断部Hの有無を検出することができる。
【0065】
また、同じく破断部検出工程において、2つの離隔距離における両磁束密度の変化曲線(例えば図4における変化曲線F1およびF3)の交点と相対位置を判別することによって鉄筋2の破断部Hの有無を検出する方法によれば、検査員が、両変化曲線の交点とその付近における両変化曲線の相対位置を観察することで、容易かつ正確に破断部Hの有無を判定することができる。
さらに、検査対象の鉄筋以外からの検査の障害となる磁気が存在する場合には、その影響が前記両変化曲線のいずれか一方または両方に、特徴的な形状として現れることから、検査員が両変化曲線を観察することで、容易に障害となる磁気の存在に気付くことができ、鉄筋2の破断部Hの検出精度の低下を防ぐことができる。
【0066】
また、本実施形態の非破壊検査方法では、例えば図2に示すように、コンクリート体表面3からの離隔距離が異なるA、B、Cの各破線で示すそれぞれの位置における鉄筋2の長手方向に沿った磁束密度を測定し、これら3つの離隔距離における磁束密度から2つの磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度に基づいて鉄筋2(2Nおよび2P)の破断部Hの有無を検出するが、このように3つの離隔距離における磁束密度から2つを選択することで、より正確に測定された2つの磁束密度を選ぶことができ、鉄筋2の破断Hの有無の検出精度を高めることができる。
【0067】
例えば、コンクリート体1内の鉄筋2が、コンクリート体表面3に極めて近い位置に埋設されている場合、前記着磁工程において鉄筋2を磁化させると、磁化の程度が強過ぎて、その磁束密度を測定した際に、磁気センサの検出能力の上限を超えてしまって正確に測定できないことがある。このような場合には、破線A、B、Cで示す3つの離隔距離における磁束密度のうち、コンクリート体表面3から遠い破線Bおよび破線Cの2つの離隔距離における磁束密度を選択することによって、磁気センサの検出能力の範囲内で正確に測定できる2つの磁束密度に基づいて、鉄筋2の破断部Hを検出することができる場合がある。
【0068】
また、コンクリート体1内の鉄筋2が、コンクリート体1の深い位置に埋設されている場合、前記着磁工程において鉄筋を磁化させると、磁化の程度が弱くなってしまい、測定して得られる磁束密度の増減幅が小さくなり過ぎることがある。このような場合には、破線A、B、Cで示す3つの離隔距離における磁束密度のうち、コンクリート体表面3に近い破線Aおよび破線Bの2つの離隔距離における磁束密度を選択することで、測定値の増減幅が比較的に大きい2つの磁束密度に基づいて、鉄筋2の破断部Hをより正確に検出することができる場合がある。
【0069】
また、本実施形態の非破壊検査方法によれば、図2に示すように、コンクリート体表面3からの離隔距離が異なるA、B、Cの各破線に沿って3個の磁気センサ(図示せず)を同時に移動させ、3つの離隔距離における磁束密度を同時に測定するようにしたので、前記3つの離隔距離における磁束密度の測定を、1回の測定作業でまとめて行うことができ、検査員の作業負荷を軽減することができる。
【0070】
さらに、3個の磁気センサを同時に移動させることで、移動経路における各磁気センサの相対的な位置関係を常に一定に維持することができるため、各磁気センサ間の測定誤差の発生を防ぐことができる。
【0071】
また、鉄筋2の長手方向における磁束密度を3個の磁気センサによって同時に測定することで、測定結果から即座に2つの磁束密度の差を求めたり、磁束密度の変化曲線を作成したりすることができる。つまり、磁気センサを移動させて磁束密度の測定を行う作業と、略同時並行して鉄筋2の破断部Hの有無を検出することができるため、例えば、鉄筋2の破断部Hが存在する付近のコンクリート体表面にマーキング作業を行うような場合には、このマーキング作業を磁束密度の測定作業と同時に行うことができ、さらにマーキング作業の自動化が可能となるため便宜である。
【0072】
(2)非破壊検査装置
(2−1)全体構成
非破壊検査装置6は、上述の非破壊検査方法を確実かつ効率的に実施することができる装置であり、図5図7に示すように、磁石4、本体部7およびモニター部16とから構成されている。また、本体部7は、磁気検出手段としての3個の磁気センサ10、磁束密度算出手段12および破断検出手段14を備えている。
【0073】
非破壊検査装置6を用いて前記の非破壊検査を行う場合の概要は次のとおりである。
まず、磁石4は、前記の非破壊検査方法の着磁工程において使用するものであり、かかる着磁工程では、磁石4を、その両磁極が前記鉄筋の長手方向に沿うように前記コンクリート体表面3に近づけて配置し、適宜移動させて鉄筋2を磁化させる。
【0074】
次に、磁気検出手段としての3個の磁気センサ10および磁束密度算出手段12は、前記の非破壊検査方法の磁束密度測定工程において使用する。かかる磁束密度測定工程では、3個の磁気センサ10を、それぞれコンクリート体表面3からの離隔距離が異なる3つの位置に配置し、そのままコンクリート体表面3からの離隔距離を略一定に維持した状態で同時に移動させて磁気を検出する。さらに磁束密度算出手段12によって、前記3個の磁気センサ10から送られる検出信号から、3つの離隔距離における鉄筋2の長手方向に沿った磁束密度を算出する。
【0075】
さらに、破断検出手段14は、前記の非破壊検査方法の破断検出工程において使用する。かかる破断検出工程では、磁束密度算出手段12によって算出された前記3つの隔離距離における磁束密度から、破断検出手段14によって、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、または、かかる両磁束密度の変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、鉄筋2の破断部Hの有無を検出する。
【0076】
以下、非破壊検査装置6の主要な構成部分について説明する。
【0077】
(2−2)磁石
磁石4は、コンクリート体1内に埋設された検査対象の鉄筋2を磁化するものであり、例えば図5に示すように、磁石4を両磁極が鉄筋2の長手方向に沿うようにしてコンクリート体表面3に近づけて配置し、鉄筋2の長手方向に沿って移動させることにより鉄筋2を磁化させる。
本実施形態の磁石4は、Nd系のような希土類金属からなる略直方体形状の永久磁石であり、扱い易くするために、取手を付けた直方体状の筐体(図示せず)の中に収められている。なお、磁石4は、本実施形態のような永久磁石ではなく電磁石であってもよく、また、形状は直方体に限らず、コ字形またはU字形等の任意であってよい。さらに、本実施形態のように筐体に収めた形態でなく、そのまま剥き出しの状態でもよく、さらに複数の磁石を組み合わせてユニット化したものであってもよい。
【0078】
(2−3)磁気検出手段
磁気検出手段としての3個の磁気センサ10は、本体部7内に設置されており、図6および図7に示すとおり、本体部7の筐体底面であり使用時にコンクリート体表面3に近づけて対向させる近接面9の後方(図6では上方)において、離隔方向(図6では真上方向)に向かって列設されている。
また、本体部7には、筐体両側面の前後部分に1個ずつ計4個の車輪8が回動自在に取り付けてあり、この車輪8をコンクリート体表面3に接触させつつ移動させることで、本体部7内の3個の磁気センサ10について、それぞれコンクリート体表面3からの離隔距離を略一定に維持した状態で移動させることができるようになっている。
【0079】
したがって、かかる磁気検出手段によれば、例えば図6に示すように、本体部7を鉄筋2(2N、2P)の長手方向に沿わせてコンクリート体表面3の上を移動させつつ、3個の磁気センサ10を起動させることで、コンクリート体表面3からの3つの異なる離隔距離における磁気を同時に検出することができる。
なお、磁気センサ10としては、高感度のMIセンサ、フラックスゲート型センサ、ホール素子または超伝導量子干渉素子などを採用することができる。
【0080】
(2−4)磁束密度算出手段
次に、磁束密度算出手段12は、本体部7内に設置されており、前記3個の磁気センサ10から送られる磁気の検出信号から、前記3つの離隔距離における鉄筋2の長手方向に沿った磁束密度の垂直成分を演算して求める。
なお、本実施形態は、磁束密度の垂直成分を算出するものであるが、磁束密度の他の方向成分、例えば水平成分を算出するものであってもよい。
また、算出した磁束密度は、記憶手段13に保存するようにすればよい。
【0081】
ここで、磁束密度を正確に算出するには、磁束密度の測定値と測定位置の対応関係が正確であることが必要である。したがって、本体部7内に距離センサ11を設けて、磁束密度の測定と同時に本体部7の移動距離を測定することが望ましい。本実施形態の非破壊検査装置6では、本体部7に取り付けられた4個の車輪8の回転数によって移動距離を測定する距離センサ11が採用されている。
なお、例えば本体部7が、高精度の位置決め機構を有する場合には、距離センサ11を備えなくても、本体部7の位置およびその位置における磁束密度を直接対応させることが可能である。
【0082】
(2−5)破断検出手段
次に、破断検出手段14では、磁束密度算出手段12によって算出された前記3つの離隔距離における磁束密度から、2つの離隔距離における磁束密度を適宜選択し、かかる両磁束密度の差を求めて正負の変化を判別することによって、鉄筋2の破断部Hの有無を検出する。また、かかる両磁束密度の変化曲線を作成し、両変化曲線の交点と相対位置を判別することによって、鉄筋2の破断部Hの有無を検出するようにすることもできる。
【0083】
これらの方法で検出した破断部Hの有無とその位置等の情報は、記憶手段13に保存されると共に、送信手段15によって、本体部7から離れた場所にあるモニター部16の受信手段18に電送される。モニター部16では、受信した検査結果や測定した磁束密度に基づいて作成されたグラフの変化曲線などを、液晶パネルなどからなる表示手段17に表示できるようになっている。
また、本体部7にカメラ(図示せず)を取り付けて、撮影した画像データをモニター部16に電送するようにすれば、検査現場以外の場所において現場のコンクリート体の状態などを確認できるため便宜である。
【0084】
(2−6)非破壊検査装置の他の実施形態
図8に示す非破壊検査装置は、磁気検出手段として9個の磁気センサ10を備えるものである。9個の磁気センサ10のうち、「A、B、C」の3個からなる磁気センサ列は、前記の3個の磁気センサを列設した実施形態と同じ配置であり、これに、「Al、Bl、Cl」からなる磁気センサ列と、「Ar、Br、Cr」からなる磁気センサ列とが、本体部7の筐体幅方向(図8の左右方向)において略左右対称の位置に付加された形態となっている。
また、磁気センサ10のうち、本体部7の筐体幅方向に隣り合う3個の磁気センサ「A、Al、Ar」は、近接面9からの離隔距離が略同一であり、同様に隣り合う3個の磁気センサ「B、Bl、Br」および「C、Cl、Cr」についても、それぞれ近接面9からの離隔距離が略同一である。
【0085】
このように、中央の磁気センサ列(A、B、C)に加えて、本体部7の左側と右側の両側か、いずれか一方に新たな磁気センサ列(Al、Bl、ClまたはAr、Br、Cr)を設けることにより、鉄筋2から発せられる磁気と、検査対象鉄筋以外の強磁性体等から発せられる検査の障害となる磁気との判別を、より正確かつ容易に行うことができるようになる。
例えば、検査対象の鉄筋2と略直交する鉄筋(図示せず。図8の左右方向に延びる鉄筋であり、以下「直交鉄筋」という。)が鉄筋2の近辺に埋設されているような場合には、かかる直交鉄筋からの磁気の影響によって、鉄筋2の略真上に配置された磁気センサ列(A、B、C)による測定結果だけでは、鉄筋2の破断部の検出が困難な場合がある。しかし、本体部7の左側または右側に磁気センサ列を設けることで、直交鉄筋が存在する場合でも、その影響を勘案したうえで、鉄筋2の破断部Hの有無を正確に検出することが可能となる。
【0086】
一例を説明すると、図8において、磁気センサAと磁気センサAlまたはArとでは、鉄筋2からの離隔距離が、磁気センサAは小さく磁気センサAlまたはArは大きいため、鉄筋2から発せられる磁束密度の垂直成分については、磁気センサAによる測定値は、磁気センサAlまたはArによる測定値よりも大きくなる。
これに対し、直交鉄筋と磁気センサAとの離隔距離と、直交鉄筋と磁気センサAlまたはArとの離隔距離は略同じであるため、直交鉄筋から発せられる磁束密度の垂直成分については、磁気センサAによる測定値と磁気センサAlおよびArによる測定値とが略同じ大きさになる。
したがって、異なる磁気センサ列に属する複数の磁気センサ(例えばA、Al、Ar)の磁束密度の測定値を比較することによって、直交鉄筋から発せられる磁束密度の大きさを推定することができるため、かかる直交鉄筋の磁束密度の影響を勘案したうえで、鉄筋2の破断部Hの有無を正確に検出することができるのである。
【0087】
以上のとおり、本実施形態の非破壊検査装置は、3個の磁気センサ10からなる磁気センサ列を3列有し、合計で9個もの磁気センサ10を備えることから、検査対象の鉄筋2から発せられる磁気と、検査対象鉄筋以外から発せられる検査の障害となる磁気との判別を、極めて正確に行うことができる。そのためコンクリート体1内に、検査対象鉄筋以外の強磁性体が多数埋設されている場合でも、鉄筋2の破断部Hの有無の検出を高精度で行うことができるものである。
【0088】
なお、本発明の効果を奏する限りにおいて、複数の磁気センサ列は、本体部7の筐体幅方向(図8の左右方向)において、必ずしも略左右対称に配置されている必要はなく、また、各磁気センサ列に属する磁気センサの数が異なっていても差し支えない。さらに筐体幅方向に隣り合う複数の磁気センサについて、近接面9からの離隔距離が略同一でなくても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本願発明の非破壊検査方法及び非破壊検査装置は、橋、ビル又はコンクリートポールなどの、コンクリート体内に設けられている鉄筋の破断の有無を検出する非破壊検査に利用できるものである。
【符号の説明】
【0090】
1 ・・コンクリート体
2 ・・鉄筋
2 ・・磁化された鉄筋に生じる磁束
3 ・・コンクリート体表面
4 ・・磁石
5 ・・磁力線
6 ・・非破壊検査装置
7 ・・本体部
8 ・・車輪
9 ・・近接面(筐体底面)
10 ・・磁気センサ
11 ・・距離センサ
12 ・・磁束密度算出手段
13 ・・記憶手段
14 ・・破断検出手段
15 ・・送信手段
16 ・・モニター部
17 ・・表示手段
18 ・・受信手段
H ・・破断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8