特許第6305888号(P6305888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305888
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】気泡含有水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/26 20060101AFI20180326BHJP
   C04B 24/20 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C04B24/26 D
   C04B24/26 A
   C04B24/20
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-188604(P2014-188604)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-60658(P2016-60658A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】齊田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】濱井 利正
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−294466(JP,A)
【文献】 特開2002−068820(JP,A)
【文献】 特表2004−529050(JP,A)
【文献】 特開2003−020262(JP,A)
【文献】 特開昭61−197456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性粉体、下記(A)成分、下記(B)成分及び水を含有する、気泡含有水硬性組成物であって、
水硬性粉体100質量部に対し(A)成分を0.01質量部以上1質量部以下含有し、
水硬性粉体100質量部に対し(B)成分を0.01質量部以上1質量部以下含有する、
気泡含有水硬性組成物。
<(A)成分>
下記共重合体(AX)、共重合体(AY)及び共重合体(AZ)から選ばれる1種以上の共重合体
〔共重合体(AX)〕
下記一般式(A1)で表される単量体(A1’)と下記一般式(A2)で表される単量体(A2’)とを含む単量体を重合して得られる共重合体
【化1】

〔式中、
、R:それぞれ独立に、水素原子又はメチル基
m1:0以上2以下の整数
AO:炭素数2又は3のアルキレンオキシ基
n1:AOの平均付加モル数であって、4以上300以下の数
X:水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基
を示す。〕
【化2】

〔式中、
、R、R:それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は(CHm2COOM
、M:それぞれ独立に、対イオンを示し、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、有機アンモニウムイオン、又はアンモニウムイオン
m2:0以上2以下の整数
を示す。〕
〔共重合体(AY)〕
前記一般式(A2)で表される単量体(A2’)と下記一般式(A3)で表される単量体(A3’)とを含む単量体を重合して得られる共重合体
YO(RO)n2 (A3)
〔式中、
Y:炭素数2以上5以下のアルケニル基
O:同一又は異なって、炭素数2以上18以下のアルキレンオキシ基
n2:ROで表されるアルキレンオキシ基の平均付加モル数を表し、4以上300以下の数
:水素原子又は炭素数1以上30以下の炭化水素基
を示す。〕
〔共重合体(AZ)〕
不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する下記式(A4)で示される構成単位(A4’)、不飽和カルボン酸系化合物に由来する下記式(A5)で示される構成単位(A5’)及び下記式(A6)で示される構成単位(A6’)を含んで構成されるポリカルボン酸系共重合体であって、
該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、該グラフト鎖の末端は水酸基であり、
該構成単位(A4’)におけるポリアルキレンオキサイド鎖の水酸基側末端部が、炭素数3又は4のアルキレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖の全モル量に対して0.1モル%以上30モル%以下の割合で有する、
ポリカルボン酸系共重合体
【化3】

〔式中、
、R、R10:それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基
:−(CHO−で表される基
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基
a:アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1以上200以下の数
b:1以上20以下の整数
を示す。〕
【化4】

〔式中、
11、R12、R13、R14:それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基、−COOH、−COOM、−COOZを表すか、あるいはR11とR12、若しくはR13とR14は一緒になって酸無水物を形成する。
:対イオンを示し、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、アンモニウムイオン、又はアルカノールアンモニウムイオン、
:炭素数1以上22以下の炭化水素基又は−(AO)−R15で表される基
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基
c:アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1以上200以下の数
15:水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基
を示す。〕
【化5】

〔式中、
:二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを0.1モル以上10モル以下付加させたポリアミドポリアミン変性物が、アミド結合を介して主鎖の炭素原子と結合する基
を示す。〕
<(B)成分>
直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキルスルホン酸及びその塩、並びに直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキル硫酸エステル及びその塩から選ばれる1種以上の化合物
【請求項2】
(A)成分と(B)成分の質量比が、(A)/(B)で、0.1以上2以下である、請求項1に記載の気泡含有水硬性組成物。
【請求項3】
(A)成分と(B)成分と水とを含有する液体組成物を起泡させて得られた気泡を含有する、請求項1又は2記載の気泡含有水硬性組成物。
【請求項4】
次の工程1及び工程2を含む、気泡含有水硬性組成物の製造方法。
<工程1>
下記(A)成分と下記(B)成分と水とを含有する液体組成物を起泡させて気泡を得る工程。
<工程2>
工程1で得られた気泡と水硬性粉体とを混練する工程であって、水硬性粉体100質量部に対して工程1で用いた(A)成分が0.01質量部以上1質量部以下であり、水硬性粉体100質量部に対して工程1で用いた(B)成分が0.01質量部以上1質量部以下である、工程。
<(A)成分>
下記共重合体(AX)、共重合体(AY)及び共重合体(AZ)から選ばれる1種以上の共重合体
〔共重合体(AX)〕
下記一般式(A1)で表される単量体(A1’)と下記一般式(A2)で表される単量体(A2’)とを含む単量体を重合して得られる共重合体
【化6】

〔式中、
、R:それぞれ独立に、水素原子又はメチル基
m1:0以上2以下の整数
AO:炭素数2又は3のアルキレンオキシ基
n1:AOの平均付加モル数であって、4以上300以下の数
X:水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基
を示す。〕
【化7】

〔式中、
、R、R:それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は(CHm2COOM
、M:それぞれ独立に、対イオンを示し、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、有機アンモニウムイオン、又はアンモニウムイオン
m2:0以上2以下の整数
を示す。〕
〔共重合体(AY)〕
前記一般式(A2)で表される単量体(A2’)と下記一般式(A3)で表される単量体(A3’)とを含む単量体を重合して得られる共重合体
YO(RO)n2 (A3)
〔式中、
Y:炭素数2以上5以下のアルケニル基
O:同一又は異なって、炭素数2以上18以下のアルキレンオキシ基
n2:ROで表されるアルキレンオキシ基の平均付加モル数を表し、4以上300以下の数
:水素原子又は炭素数1以上30以下の炭化水素基
を示す。〕
〔共重合体(AZ)〕
不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する下記式(A4)で示される構成単位(A4’)、不飽和カルボン酸系化合物に由来する下記式(A5)で示される構成単位(A5’)及び下記式(A6)で示される構成単位(A6’)を含んで構成されるポリカルボン酸系共重合体であって、
該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、該グラフト鎖の末端は水酸基であり、
該構成単位(A4’)におけるポリアルキレンオキサイド鎖の水酸基側末端部が、炭素数3又は4のアルキレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖の全モル量に対して0.1モル%以上30モル%以下の割合で有する、
ポリカルボン酸系共重合体
【化8】

〔式中、
、R、R10:それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基
:−(CHO−で表される基
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基
a:アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1以上200以下の数
b:1以上20以下の整数
を示す。〕
【化9】

〔式中、
11、R12、R13、R14:それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基、−COOH、−COOM、−COOZを表すか、あるいはR11とR12、若しくはR13とR14は一緒になって酸無水物を形成する。
:対イオンを示し、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、アンモニウムイオン、又はアルカノールアンモニウムイオン、
:炭素数1以上22以下の炭化水素基又は−(AO)−R15で表される基
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基
c:アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1以上200以下の数
15:水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基
を示す。〕
【化10】

〔式中、
:二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを0.1モル以上10モル以下付加させたポリアミドポリアミン変性物が、アミド結合を介して主鎖の炭素原子と結合する基
を示す。〕
<(B)成分>
直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキルスルホン酸及びその塩、並びに直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキル硫酸エステル及びその塩から選ばれる1種以上の化合物
【請求項5】
工程1での(A)成分と(B)成分の質量比が、(A)/(B)で、0.1以上2以下である、請求項4に記載の気泡含有水硬性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡含有水硬性組成物及び気泡含有水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性粉体(セメントや石膏など)は水と反応して強固な硬化体となる。硬化する前に、予め起泡剤を添加して系中に気泡を存在させておくことで、硬化体密度を低減することができる。硬化体密度の低減は、単位体積当たりの水硬性粉体の使用量の低減と軽量化につながり、製造された硬化体コストや輸送コストを削減できるため、起泡剤は非常に有用な添加剤である。しかし、硬化体密度が低下すると同時に強度も低下することが知られているため、強度と硬化体密度のトレードオフが課題であった。
【0003】
特許文献1には、石膏及び水と組み合わせて、式H(CHOSO(式中、nは6〜16であり、アルキルサルフェート組成物中の炭素原子の平均数は10〜11の範囲であり、Mは1価のカチオンである)のアルキルサルフェートを含む界面活性剤組成物を含有する石膏プラスター組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物及びポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート共重合物からなる群より選ばれた1種以上の水溶性高分子と、アルキル硫酸エステル塩とを含有した石膏スラリー用分散剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−529050号公報
【特許文献2】特開2003−20262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、強度の高い硬化体が得られる気泡含有水硬性組成物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
水硬性粉体、下記(A)成分、下記(B)成分及び水を含有する、気泡含有水硬性組成物であって、
水硬性粉体100質量部に対し(A)成分を0.01質量部以上1質量部以下含有し、
水硬性粉体100質量部に対し(B)成分を0.01質量部以上1質量部以下含有する、
気泡含有水硬性組成物に関する。
<(A)成分>
下記共重合体(AX)、共重合体(AY)及び共重合体(AZ)から選ばれる1種以上の共重合体
〔共重合体(AX)〕
下記一般式(A1)で表される単量体(A1’)と下記一般式(A2)で表される単量体(A2’)とを含む単量体を重合して得られる共重合体
【0008】
【化1】
【0009】
〔式中、
、R:それぞれ独立に、水素原子又はメチル基
m1:0以上2以下の整数
AO:炭素数2又は3のアルキレンオキシ基
n1:AOの平均付加モル数であって、4以上300以下の数
X:水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基
を示す。〕
【0010】
【化2】
【0011】
〔式中、
、R、R:それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は(CHm2COOM
、M:それぞれ独立に、対イオンを示し、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、有機アンモニウムイオン、又はアンモニウムイオン、
m2:0以上2以下の整数
を示す。〕
〔共重合体(AY)〕
前記一般式(A2)で表される単量体(A2’)と下記一般式(A3)で表される単量体(A3’)とを含む単量体を重合して得られる共重合体
YO(RO)n2 (A3)
〔式中、
Y:炭素数2以上5以下のアルケニル基
O:同一又は異なって、炭素数2以上18以下のアルキレンオキシ基
n2:ROで表されるアルキレンオキシ基の平均付加モル数を表し、4以上300以下の数
:水素原子又は炭素数1以上30以下の炭化水素基
を示す。〕
〔共重合体(AZ)〕
不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する下記式(A4)で示される構成単位(A4)、不飽和カルボン酸系化合物に由来する下記式(A5)で示される構成単位(A5)及び下記式(A6)で示される構成単位(A6)を含んで構成されるポリカルボン酸系共重合体であって、
該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、該グラフト鎖の末端は水酸基であり、
該構成単位(A4)におけるポリアルキレンオキサイド鎖の水酸基側末端部が、炭素数3又は4のアルキレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖の全モル量に対して0.1モル%以上30モル%以下の割合で有する、
ポリカルボン酸系共重合体
【0012】
【化3】
【0013】
〔式中、
、R、R10:それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基
:−(CHO−で表される基
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基
a:アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1以上200以下の数
b:1以上20以下の整数
を示す。〕
【0014】
【化4】
【0015】
〔式中、
11、R12、R13、R14:それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基、−COOH、−COOM、−COOZを表すか、あるいはR11とR12、若しくはR13とR14は一緒になって酸無水物を形成する。
:対イオンを示し、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、アンモニウムイオン、又はアルカノールアンモニウムイオン、
:炭素数1以上22以下の炭化水素基又は−(AO)−R15で表される基
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基
c:アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1以上200以下の数
15:水素原子又は炭素数1以上22以下の炭化水素基
を示す。〕
【0016】
【化5】
【0017】
〔式中、
:二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを0.1モル以上10モル以下付加させたポリアミドポリアミン変性物が、アミド結合を介して主鎖の炭素原子と結合する基
を示す。〕
<(B)成分>
直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキルスルホン酸及びその塩、並びに直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキル硫酸エステル及びその塩から選ばれる1種以上の化合物
【0018】
また、本発明は、次の工程1及び工程2を含む、気泡含有水硬性組成物の製造方法に関する。
<工程1>
前記(A)成分と前記(B)成分と水とを含有する液体組成物を起泡させて気泡を得る工程。
<工程2>
工程1で得られた気泡と水硬性粉体とを混練する工程であって、水硬性粉体100質量部に対して工程1で用いた(A)成分が0.01質量部以上1質量部以下であり、水硬性粉体100質量部に対して工程1で用いた(B)成分が0.01質量部以上1質量部以下である、工程。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、強度の高い硬化体が得られる気泡含有水硬性組成物及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
水硬性組成物に混入させる泡は、粒径が大きい方が硬化体の密度の低減には有利であるが、安定性は劣るため、均一に水硬性組成物中に分布させることが困難である。本発明では、(A)成分が分散剤として機能し、(B)成分が起泡剤として機能し、これらを組み合わせることにより、比較的粒径の大きな泡が安定して均一に水硬性組成物中に存在するため、硬化体の密度が小さくなる気泡を混入させた水硬性組成物の硬化体の強度が下がりにくいと推定される。上記のように比較的粒径の大きな泡が安定して均一に水硬性組成物中に存在するのは、本発明の(A)成分が(B)成分の起泡性と類似の性能を持ち、(B)成分の起泡性を阻害しないためであると考えられる。
【0021】
<(A)成分>
(A)成分は、前記共重合体(AX)、共重合体(AY)及び共重合体(AZ)から選ばれる1種以上の共重合体である。
【0022】
〔共重合体(AX)〕
共重合体(AX)は、前記一般式(A1)で表される単量体(A1’)と前記一般式(A2)で表される単量体(A2’)とを含む単量体を重合して得られる共重合体である。なお、共重合体(AX)からは、共重合体(AY)と共重合体(AZ)は除かれる。
【0023】
一般式(A1)中、R、Rは、それぞれ、水素原子又はメチル基である。圧縮強度向上の観点から、Rは水素原子が好ましい。圧縮強度向上の観点から、Rはメチル基が好ましい。m1は0以上2以下の整数であり、圧縮強度向上の観点から、0が好ましい。
AOは炭素数2のアルキレンオキシ基及び炭素数3のアルキレンオキシ基から選ばれるアルキレンオキシ基であり、圧縮強度向上の観点から、炭素数2のアルキレンオキシ基が好ましい。
n1は、AOの平均付加モル数であり、4以上300以下の数である。n1は、凝結遅延を抑制する観点と圧縮強度向上の観点から、100以上が好ましく、105以上がより好ましく、110以上が更に好ましく、共重合の容易性の観点と圧縮強度向上の観点から、200以下が好ましく、150以下がより好ましい。n1は、水硬性組成物の粘性を低減する観点と圧縮強度向上の観点から、4以上が好ましく、8以上がより好ましく、そして、50以下が好ましく、30以下がより好ましい。
Xは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、水硬性組成物の流動保持性の観点と圧縮強度向上の観点から、水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0024】
単量体(A1’)としては、(1)メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、メトキシポリブチレングリコール、メトキシポリスチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸から選ばれるカルボン酸とのエステル化物、(2)アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸から選ばれるカルボン酸へのエチレンオキサイド(以下、EOと表記する場合もある)及び/又はプロピレンオキサイド(以下、POと表記する場合もある)付加物が挙げられる。単量体(A1’)は、圧縮強度向上の観点から、メトキシポリエチレングリコールとアクリル酸又はメタリル酸とのエステル化物が好ましく、メトキシポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル化物がより好ましい。
【0025】
一般式(A2)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は(CHm2COOMである。圧縮強度向上の観点から、R、Rは、それぞれ、水素原子が好ましい。Rは、メチル基が好ましい。M、Mは、それぞれ、対イオンを示し、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン又は置換アルキルアンモニウムイオンであり、ナトリウムイオンが、圧縮強度向上の観点から、好ましい。
【0026】
単量体(A2’)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体、及びこれらの無水物もしくは塩、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2以上8以下)アンモニウム塩が挙げられる。圧縮強度向上の観点から、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、並びに無水マレイン酸から選ばれる単量体であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、及びこれらのアルカリ金属塩から選ばれる単量体である。メタクリル酸及びメタクリル酸のアルカリ金属塩から選ばれる単量体が更に好ましい。
【0027】
共重合体(AX)は、単量体(A1’)と単量体(A2’)のモル比(A1’)/(A2’)は、水硬性組成物の流動保持性の観点と圧縮強度向上の観点から、5/95以上が好ましく、8/92以上がより好ましく、そして、50/50以下が好ましく、40/60以下がより好ましく、38/62以下が更に好ましい。
【0028】
共重合体(AX)の全構成単量体中、単量体(A1’)と単量体(A2’)の合計量は、圧縮強度向上の観点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましく、実質100質量%がより更に好ましい。
【0029】
単量体(A1’)と単量体(A2’)の合計質量に対する単量体(A2’)の質量の割合は、圧縮強度向上の観点から、4質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、そして、25質量%以下が好ましく、16質量%以下がより好ましい。
【0030】
共重合体(AX)の重量平均分子量は、水硬性組成物の流動保持性の観点と圧縮強度向上の観点から、20000以上が好ましく、30000以上がより好ましく、40000以上が更に好ましく、そして、150000以下が好ましく、100000以下がより好ましい。なお、共重合体(AX)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(ポリエチレングリコール換算)によるものであり、具体的な条件は後述の実施例の通りである。
【0031】
共重合体(AX)は、例えば反応容器に水を仕込み昇温し、その中で単量体(A1’)と単量体(A2’)とを連鎖移動剤等の存在下、所定のモル比(A1’)/(A2’)で反応させ、熟成後、中和することにより製造することができる。
【0032】
〔共重合体(AY)〕
共重合体(AY)は、前記一般式(A2)で表される単量体(A2’)と前記一般式(A3)で表される単量体(A3’)とを含む単量体を重合して得られる共重合体である。なお、共重合体(AY)からは、共重合体(AX)と共重合体(AZ)は除かれる。
【0033】
単量体(A2’)は、共重合体(AX)で説明した単量体を使用する。好ましい単量体(A2’)も共重合体(AX)と同じである。
【0034】
また、単量体(A3’)について、上記一般式(A3)において、Yは、炭素数2以上5以下のアルケニル基を表し、圧縮強度向上の観点から、炭素数4又は5のアルケニル基がより好ましい。例えば、炭素数2のアルケニル基としてはビニル基等が好ましく、炭素数3のアルケニル基としてはアリル基等が好ましく、炭素数4のアルケニル基としてはメタリル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基等が好ましく、炭素数5のアルケニル基としては、3−メチル−3−ブテニル基、4−ペンテニル基、3−ペンテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、1,1−ジメチル−2−プロペニル基等が好ましい。中でも、メタリル基、3−メチル−3−ブテニル基が更に好ましい。
【0035】
上記一般式(A3)において、ROは、同一又は異なって、炭素数2以上18以下のアルキレンオキシ基を表す。圧縮強度の向上の観点から、ROの炭素数は2以上であり、また、8以下が好ましく、4以下がより好ましい。そして、ROの炭素数は2以上8以下が好ましく、2以上4以下が好ましい。例えば、ROとしては、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基、イソブチレンオキシ基、メチルエチレンオキシ基、オクチレンオキシ基、スチレンオキシ基等が挙げられ、圧縮強度の向上の観点から、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基が好ましく、エチレンオキシ基がより好ましい。
また、(RO)n2で表されるポリアルキレングリコール鎖は、2種以上のアルキレンオキシ基により形成されるものであってもよく、この場合は、2種以上のアルキレンオキシ基がランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよいが、圧縮強度向上の観点から、ランダム付加が好ましい。
【0036】
上記一般式(A3)ではまた、全アルキレンオキシ基100モル%中に占めるエチレンオキシ基の割合が、分散性と圧縮強度向上の観点から、50モル%以上であることが好適である。より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上、また、100モル%以下が好ましい。より更に好ましくは100モル%、すなわちエチレンオキシ基のみによって、(RO)n2で表されるポリアルキレングリコール鎖が形成されることである。また、2種以上のアルキレンオキシ基を有する場合の組み合わせとしては、(エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基)、(エチレンオキシ基、ブチレンオキシ基)、(エチレンオキシ基、スチレンオキシ基)が好ましい。中でも、(エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基)がより好ましい。
【0037】
上記アルキレンオキシ基の平均付加モル数(ポリアルキレングリコール鎖の平均鎖長)n2は、4以上300以下の数である。水硬性組成物の粘性を下げる観点と硬化遅延性を抑える観点と圧縮強度向上の観点から、n2は20以上が好ましく、30以上がより好ましい。また、n2は100以下が好ましく、80以下がより好ましく、60以下が更に好ましい。
【0038】
なお、ポリアルキレングリコール鎖の平均鎖長(アルキレンオキシ基の平均付加モル数)とは、ポリカルボン酸系共重合体が有する、上記ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(A3’)に由来するポリアルキレングリコール鎖1モル中に付加しているアルキレンオキシ基のモル数の平均値を意味する。
【0039】
上記一般式(A3)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上30以下の炭化水素基を表すが、炭化水素基の炭素数が増大するに従って疎水性が大きくなり、分散性が充分とはならないため、炭化水素基の炭素数としては、1以上20以下が好ましい。より好ましくは1以上12以下、更に好ましくは1以上10以下、より更に好ましくは1以上6以下、より更に好ましくは1以上4以下である。
【0040】
の上記炭化水素基としては、例えば、アルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状)、フェニル基、アルキル置換フェニル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が、圧縮強度向上の観点から、好ましい。中でも、アルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状)が好ましい。上記Rとしてより好ましくは、水素原子、メチル基又はエチル基である。
【0041】
単量体(A3’)としては、例えば、不飽和アルコールにアルキレングリコール(アルキレンオキサイド)を付加反応して得ることができる。不飽和アルコールとしては、不飽和結合を有する基及び水酸基を有するものであれば特に限定されないが、圧縮強度向上の観点から、二重結合を有する基と水酸基とを有するものが好ましく、二重結合を有する基と水酸基とをそれぞれ1つずつ有するものがより好ましい。更に好ましくは、上記不飽和アルコールが、下記一般式(A3−1)で表される化合物である形態である。
YO−(RO)n2’−H (A3−1)
〔式中、
Y:炭素数2以上5以下のアルケニル基
O:同一又は異なって、炭素数2以上18以下のアルキレンオキシ基
n2’:ROで表されるアルキレンオキシ基の平均付加モル数を表し、0以上300以下の数
を示す。〕
【0042】
上記一般式(A3−1)において、n2’は、0以上300以下の数であるが、圧縮強度向上の観点から、n2’の範囲としては、0以上200以下が好ましい。より好ましくは0以上100以下、更に好ましくは0以上50以下、より更に好ましくは0以上25以下、より更に好ましくは0以上10以下、より更に好ましくは0以上4以下である。また、n2’は、1以上であることも好ましい。n2’が1以上の場合、50以下が好ましい。より好ましくは1以上25以下、更に好ましくは1以上10以下、より更に好ましくは1以上5以下、より更に好ましくは1以上3以下、より更に好ましくは1以上2以下、より更に好ましくは1である。更に、n2’は0の場合も好ましい。n2’が0の場合、上記一般式(A3)で表される化合物は、Yが炭素数2以上5以下の不飽和アルコールに相当する。
【0043】
上記不飽和アルコールの具体例としては、例えば、メタリルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のアルコールの他、これらアルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられ、アルキレンオキサイド付加物としては、圧縮強度向上の観点から、その平均付加モル数n2’が比較的少ないものが好ましい。
【0044】
上記不飽和アルコールの中でも、メタリルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、メタリルアルコール−1EO(メタリルアルコールにEOが1モル付加したもの)、アリルアルコール−1EO(アリルアルコールにEOが1モル付加したもの)、3−メチル−3−ブテン−1−オール−1EO(3−メチル−3−ブテン−1−オールにEOが1モル付加したもの)、メタリルアルコール−2EO(メタリルアルコールにEOが2モル付加したもの)、アリルアルコール−2EO(アリルアルコールにEOが2モル付加したもの)、3−メチル−3−ブテン−1−オール−2EO(3−メチル−3−ブテン−1−オールにEOが2モル付加したもの)が、圧縮強度向上の観点から、より好ましい。
【0045】
上記アルキレンオキサイドとしては、圧縮強度向上の観点から、炭素数2以上18以下のアルキレンオキサイドが好ましい。より好ましくは炭素数2以上8以下のアルキレンオキサイドであり、更に好ましくは、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等が挙げられる。中でも、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが好ましく、より好ましくはエチレンオキサイドである。また、2種以上のアルキレンオキサイドを用いてもよく、この場合、付加反応形態としては、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態であってもよいが、圧縮強度向上の観点から、ランダム付加が好ましい。
【0046】
単量体(A3’)として具体的には、例えば、ビニルアルコールアルキレンオキサイド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキサイド付加物、3−ブテン−1−オールアルキレンオキサイド付加物、イソプレニルアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキサイド付加物、3−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキサイド付加物、2−メチル−3−ブテン−2−オールアルキレンオキサイド付加物、2−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキサイド付加物、2−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキサイド付加物等が好ましい。
【0047】
単量体(A3’)としてより具体的には、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノメタリルエーテル、エトキシポリエチレングリコールモノメタリルエーテル、プロポキシポリエチレングリコールモノメタリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコールモノメタリルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールモノメタリルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノメタリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3−メチル−2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−3−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(1,1−ジメチル−2−プロペニル)エーテル、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、エトキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、1−プロポキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、シクロヘキシルオキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、フェノキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、メトキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル、エトキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル、エトキシポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル、フェノキシポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル等が、圧縮強度向上の観点から、好ましい。
【0048】
次に、共重合体(AY)を得る方法について説明する。
共重合体(AY)を得る方法としては、重合開始剤を用いて、単量体(A2’)及び単量体(A3’)、並びに、必要に応じてその他の単量体を含む単量体成分を共重合させればよいが、共重合体(AY)を構成する構成単位が上述した範囲内となるように、単量体成分に含まれる単量体の種類や使用量を適宜設定することが好ましい。すなわち、共重合体(AY)を構成する構成単位の割合が上述した好適な範囲となるように、単量体成分に含まれる単量体の種類や使用量を適宜設定することが好ましい。
【0049】
したがって、共重合体(AY)を得るために使用される全単量体成分100質量%に対し、単量体(A2’)及び単量体(A3’)のそれぞれの含有量を1質量%以上とすることが好適である。
また、単量体(A2’)及び単量体(A3’)の合計量100質量%中に占める単量体(A2’)の含有割合としては、圧縮強度向上の観点から、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に16質量%以下である。
また、単量体(A2’)及び単量体(A3’)の合計量100質量%中に占める単量体(A3’)の含有割合としては、圧縮強度向上の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは84質量%以上であり、そして、好ましくは96質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは94質量%以下である。
【0050】
また上記単量体(A2’)及び単量体(A3’)の合計の比率(質量%)としては、共重合体(AY)の全構成単量体100質量%に対し、70質量%以上100質量%以下であることが、圧縮強度向上の観点から、好ましい。すなわち、その他の単量体の含有割合は、全単量体成分100質量%に対し、0質量%以上30質量%以下であることが好ましい。共重合体(AY)の全構成単量体100質量%中の単量体(A2’)及び単量体(A3’)の合計の比率としてより好ましくは80質量%以上100質量%以下、更に好ましくは90質量%以上100質量%以下、より更に好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0051】
また分散性の高い共重合体(AY)を高収率で得るためには、共重合体(AY)の全構成単量体100モル%に対して単量体(A3’)が占める割合が、圧縮強度向上の観点から、50モル%以下であることが好ましい。より好ましくは48モル%以下である。
【0052】
上記共重合は、溶液重合や塊状重合等の通常の方法で行うことができる。溶液重合は回分式でも連続式でも行うことができ、その際に使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物等が挙げられる。中でも、原料単量体及び得られる重合体の溶解性の観点から、水及び炭素数1以上4以下の低級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、その中でも、水が脱溶剤工程を省略できる点でより好ましい。
【0053】
共重合体(AY)の重量平均分子量(Mw)としては、その取り扱い性やセメント組成物の保持性等と圧縮強度向上の観点から、重量平均分子量(Mw)が50万以下であることが好適である。より好ましくは30万以下、更に好ましくは20万以下、より更に好ましくは10万以下である。また、ある程度セメント粒子に吸着した方が性能を発揮しやすく、Mwが大きいほど吸着力が大きくなるという観点から、Mwは3000以上であることが好ましい。より好ましくは5000以上であり、更に好ましくは7000以上であり、より更に好ましくは1万以上、より更に好ましくは2万以上である。なお、共重合体(AY)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(ポリエチレングリコール換算)によるものであり、具体的な条件は後述の実施例の通りである。
【0054】
〔共重合体(AZ)〕
共重合体(AZ)は、不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する前記式(A4)で示される構成単位(A4’)、不飽和カルボン酸系化合物に由来する前記式(A5)で示される構成単位(A5’)及び前記式(A6)で示される構成単位(A6’)を含んで構成されるポリカルボン酸系共重合体であって、
該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、該グラフト鎖の末端は水酸基であり、
該構成単位(A4’)におけるポリアルキレンオキサイド鎖の水酸基側末端部が、炭素数3又は4のアルキレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖の全モル量に対して0.1モル%以上30モル%以下の割合で有する、
ポリカルボン酸系共重合体である。なお、共重合体(AZ)からは、共重合体(AX)と共重合体(AY)は除かれる。
【0055】
共重合体(AZ)の構成単位(A4’)において、一般式(A4)中のポリアルキレンオキサイド鎖−(AO)−は、好ましくは主としてエチレンオキサイドからなる。また、アルキレンオキサイド鎖の平均付加モル数aは、分散性能を改善する点で、好ましくは30以上、より好ましくは50以上である。
構成単位(A4’)において、ポリアルキレンオキサイド鎖の水酸基側の末端部は、炭素数3のプロピレンオキサイド又は炭素数4のブチレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖全モル数に対して0.1モル%以上30モル%以下の範囲で含有する。減水性、スランプ保持性及びコンクリート粘性等を改良する観点と圧縮強度向上の観点から、前記末端部は、炭素数3のプロピレンオキサイド又は炭素数4のブチレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖全モル数に対して、好ましくは0.1モル%以上20モル%以下の範囲で、より好ましくは0.1モル%以上10モル%以下又は12モル%以上20モル%以下の範囲で、更に好ましくは、0.5モル%以上5モル%以下又は15モル%以上20モル%以下の範囲で含有する。
【0056】
構成単位(A4’)は、例えば、不飽和脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物等の化合物に由来する構成単位である。不飽和脂肪族アルコールとしては、炭素数3以上8以下の不飽和脂肪族アルコールが挙げられ、より具体的には、2−プロペン−1−オール(アリルアルコール)、3−メチル−3−ブテン−1−オールが挙げられる。
構成単位(A4’)は、圧縮強度向上の観点から、3−メチル−3−ブテン−1−オールのアルキレンオキサイド付加物に由来するものが好ましい。
構成単位(A4’)は、これら化合物のうち単独あるいは複数の組合せに由来する構成単位であってよい。
【0057】
共重合体(AZ)の構成単位(A5’)は、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などの化合物に由来する構成単位である。より良い性能を発現するためにはフマル酸を相当な割合で、例えば重合体の総質量に対して10質量%以上含有することが、圧縮強度向上の観点から、好ましい。
構成単位(A5’)において酸(−COOH)及び/または酸塩(−COOM)が含まれる場合、これらは酸の形態でも中和された形態でも良いが、圧縮強度向上の観点から、部分中和又は完全中和された形態が製品形態として好ましい。
【0058】
また構成単位(A5’)の−COOZは酸から誘導される基であり、Zは、具体的には、炭素数1乃至22のアルキル基、ポリオキシアルキレン基、(アルコキシ)ポリオキシアルキレン基が挙げられる。−COOZをより具体的に示すと、(i)メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ii)メトキシポリエチレングリコールモノマレート、メトキシポリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールモノマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(アルコキシ)ポリアルキレングリコールマレート、(iii)メトキシポリエチレングリコールモノフマレート、メトキシポリエチレングリコールジフマレート、ポリエチレングリコールモノフマレート、ポリエチレングリコールジフマレート等の(アルコキシ)ポリアルキレングリコールフマレート、が挙げられる。アルキレンオキサイドは単独付加又は混合付加することができ、二種以上のアルキレンオキサイドを用いる場合にはブロック付加、ランダム付加何れの形態であっても良い。フマル酸誘導体の具体例としてはメトキシポリエチレングリコールジフマレートを挙げることができる。
構成単位(A5’)において、フマル酸及び/又はフマル酸誘導体に由来する構成単位を含む場合には、それら構成単位を、全構成単位(A5’)の全質量に対して、圧縮強度向上の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上、そして、100質量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0059】
なお、構成単位(A5’)では、−COOH、−COOM、−COOZが混在していてもよい。すなわち、複数存在する−COOHの一部を中和すれば−COOHと−COOMとを混在させることができる。また、複数存在する−COOHの一部をZとなる化合物で化学修飾すれば−COOHと−COOZとを混在させることができる。更に、これらの手法を組み合わせることにより、−COOH、−COOM、−COOZの任意の組み合わせを混在させることができる。
【0060】
共重合体(AZ)は、ポリアルキレンオキサイド鎖が、平均付加モル数50以上のエチレンオキサイド鎖の末端に、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドが結合してなるポリアルキレンオキサイド鎖(該プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドは該アルキレンオキサイド鎖の全モル数に対して0.1モル以上20モル%以下の割合で含有する)を有する不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する構成単位(A4’)と、フマル酸由来の単量体を相当な割合(重合体の総質量に対して10質量%以上)で含む構成単位(A5’)とを含んでなることが、圧縮強度向上の観点から、好ましい。
【0061】
構成単位(A6’)中、Zを構成する二塩基酸としては総炭素数が2以上10以下の脂肪族飽和二塩基酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられ、ポリアルキレンポリアミンとしてはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、あるいはエチレン単位と窒素原子を多く含む混合体である高分子ポリエチレンポリアミンの混合物等を挙げることができる。
【0062】
構成単位(A6’)は、これら二塩基酸とポリアルキレンポリアミンの縮合物であるポリアミドポリアミン及び/又は、該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを0.1モル以上10モル以下付加させたポリアミドポリアミン変性物が、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等とアミド結合を介し、主鎖の炭素原子と結合してなる単量体である。圧縮強度向上の観点から、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイドが好ましい。
これらポリアミドポリアミン又はポリアルキレンオキサイド変性ポリアミドポリアミンは水溶液で塩基性を示す性質を有するものもある為、ポリカルボン酸系共重合体(AZ)の中和剤として作用することもある。
【0063】
共重合体(AZ)は、構成単位(A4’)、構成単位(A5’)及び構成単位(A6’)の合計100質量%中、構成単位(A4’)の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、そして、好ましくは90質量%以下である。
また、共重合体(AZ)は、構成単位(A4’)、構成単位(A5’)及び構成単位(A6’)の合計100質量%中、構成単位(A5’)の割合が、好ましくは8質量%以上、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
また、共重合体(AZ)は、構成単位(A4’)、構成単位(A5’)及び構成単位(A6’)の合計100質量%中、構成単位(A6’)の割合が、好ましくは2質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下である。
【0064】
共重合体(AZ)は、構成単位(A4’)、構成単位(A5’)及び構成単位(A6’)以外の構成単位(A7’)を含有することができる。
構成単位(A7’)の由来となる化合物としては、(メタ)アクリル酸(塩)、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリル酸アルキル、スチレン、(メタ)アクリルアミド等の慣用のポリカルボン酸系セメント分散剤用単量体として例示される化合物であり、構成単位(A4’)乃至(A6’)と重合体を形成可能な化合物であればその種類は特に限定されない。
構成単位(A7’)の割合は、共重合体(AZ)の全構成単位中、0質量%以上30質量%以下の範囲にあることが、圧縮強度向上の観点から、好ましい。
【0065】
共重合体(AZ)を得るにあたり、構成単位(A4’)の由来となる不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法、及び共重合体(AZ)を得る重合方法は特に限定されない。
ただし、上記不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物製造時のアルキレンオキサイド付加反応においては、重合活性基(不飽和基)がその重合活性を失わない、重合活性基の位置を転移させない、及び、副生するジオール分を低減することなどに留意して製造される必要がある。なお、これら重合活性基を有するアルコールのポリアルキレンオキサイド付加物は、製造後に精製過程の有無に係わらず重合用原料とし使用することができる。
共重合体(AZ)の製造方法に於いては、溶剤重合、水溶液重合、連続式、バッチ式の何れの方法においても同様の重合物を得ることができるが、一般的に水溶液重合で行われることが多い。
【0066】
構成単位(A6’)の製造方法は、通常のアマイド化法に従い、二塩基酸とポリアミドポリアミンを縮合させ、更にマレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸とのアマイド基を形成し、必要に応じアルキレンオキサイドを付加する方法、二塩基酸とポリアミドポリアミンとの縮合物或いはアルキレンオキサイドを付加したアルキレンオキサイド変性ポリアミドポリアミンを形成させポリカルボン酸系重合体にグラフト化させる方法、ポリアミドポリアミンを形成後ポリカルボン酸系重合体にグラフト化させたポリマー水溶液にアルキレンオキサイドを付加する方法等を挙げることができる。
【0067】
共重合体(AZ)の重量平均分子量は、減水性、スランプの保持性の観点から、3,000以上500,000の範囲が好ましい。より好ましくは、重量平均分子量が10,000以上100,000以下の範囲であることが、更に減水性及びスランプ保持性を発現するため望ましい。また水溶液重合においてラジカル重合開始剤等の種類及び/又は使用量を調整することにより、分子量を制御することが可能であるが、連鎖移動剤等を併用すれば分子量分布の制御を行うことも可能である。なお、共重合体(AZ)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(ポリエチレングリコール換算)によるものであり、具体的な条件は後述の実施例の通りである。
【0068】
なお共重合体(AZ)は、本発明の効果を損なわない限り、共重合体(AZ)と、各々の重合工程、アルキレンオキサイド付加工程等で発生した未反応成分及び/又は副反応物とを含む混合物を用いることができる。
【0069】
(A)成分としては、混練時間の短縮の観点と圧縮強度向上の観点から、共重合体(AX)が好ましい。中でも一般式(A1)中のn1は、凝結遅延を抑制する観点と圧縮強度向上の観点から、100以上が好ましく、105以上がより好ましく、110以上が更に好ましく、共重合の容易性の観点と圧縮強度向上の観点から、200以下が好ましく、150以下がより好ましい。
【0070】
<(B)成分>
(B)成分は、直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキルスルホン酸及びその塩、並びに直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキル硫酸エステル及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である。
【0071】
(B)成分は、強アルカリ領域での耐塩性の観点と圧縮強度向上の観点から、直鎖アルキル基の炭素数が8以上10以下の直鎖アルキル硫酸エステル及びその塩から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0072】
(B)成分は、起泡を安定させることと泡の直径を大きくすることを両立する観点と圧縮強度向上の観点から、アルキル基の炭素数が8以上であり、10以下である。水硬性組成物の硬化体の強度の観点から、アルキル基の炭素数は8が好ましい。安定で大きな起泡を得る観点と圧縮強度向上の観点から、アルキル基の炭素数は10が好ましい。
【0073】
<水硬性粉体>
本発明の水硬性組成物に使用される水硬性粉体は、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸セメント、及びメーソンリーセメントから選ばれるセメントが好ましい。また、セメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加されたものでもよい。石膏は高品質の中和石膏、さまざまな不純物を含む天然石膏、りん酸の副産物であるりん酸石膏、火力発電で発生する排煙脱硫石膏などのいずれの石膏も用いることが出来る。これらの石膏成分としては、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム−α−半水和物、硫酸カルシウム−β−半水和物、又は無水硫酸カルシウム、及びそれらの混和物から選択され、硫酸カルシウム−β−半水和物を含有していることが好ましい。
【0074】
<骨材>
本発明の水硬性組成物は、骨材を含有することができる。骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。細骨材として、JIS A0203−2302で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JISA0203−2303で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0075】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体100質量部に対し(A)成分を0.01質量部以上1質量部以下含有する。水硬性粉体の分散性の観点から(A)成分の含有量は、圧縮強度向上の観点から、水硬性粉体100質量部に対し、0.01質量部以上であり、0.03質量部以上が好ましく、0.04質量部以上がより好ましい、また、(A)成分の含有量は、水硬性粉体100質量部に対し、1質量部以下であり、0.4質量部以下が好ましく、0.15質量部以下がより好ましく、0.12質量部以下が更に好ましい。
【0076】
本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体100質量部に対し(B)成分を0.01質量部以上1質量部以下含有する。起泡性の観点と圧縮強度向上の観点から、(B)成分の含有量は、水硬性粉体100質量部に対し、0.01質量部以上であり、そして、1質量部以下であり、0.4質量部以下が好ましく、0.15質量部以下がより好ましい。
【0077】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分と(B)成分の質量比が、(B)成分による起泡効果を十分に発現させる観点と圧縮強度向上の観点から、(A)/(B)で、0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。また、2以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。
【0078】
本発明の水硬性組成物の水(W)と水硬性粉体(P)の質量比〔(W)/(P)×100(%)〕は、水硬性組成物の流動性の観点と圧縮強度向上の観点から、35%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化後の強度の観点から、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
【0079】
本発明では、気泡が、(A)成分と(B)成分と水とを含有する液体組成物を起泡させて得られた気泡であることが好ましい。本発明では、圧縮強度向上の観点から、水硬性組成物が、気泡を、前記の(W)/(P)の質量比となるように含有することが好ましい。
【0080】
本発明の水硬性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の成分を含有することもできる。例えば以下のものが挙げられる。
・早強剤又は促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、沃化カルシウム等の可溶性カルシウム塩、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物等、水酸化カリウム、炭酸塩、蟻酸又はその塩等。
・防水剤:樹脂酸又はその塩、脂肪酸エステル、油脂、シリコーン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
・消泡剤:ジメチルポリシロキサン系、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル系、鉱油系、油脂系、オキシアルキレン系、アルコール系、アミド系等。
・防錆剤:亜硝酸塩、燐酸塩、酸化亜鉛等。
【0081】
本発明の水硬性組成物としては、セメントペースト、石膏ペースト、コンクリート、モルタルなどが挙げられる。
【0082】
本発明の水硬性組成物は、密度が好ましくは0.3g/cm以上、より好ましくは0.5g/cm以上、そして、2.0g/cm以下、より好ましくは1.5g/cm以下の硬化体の製造に適している。
【0083】
<水硬性組成物の製造方法>
本発明の水硬性組成物の製造方法は、次の工程1及び工程2を含む、水硬性組成物の製造方法である。
<工程1>
下記(A)成分と下記(B)成分と水とを含有する液体組成物を起泡させて気泡を得る工程。
<工程2>
工程1で得られた気泡と水硬性粉体とを混練する工程であって、水硬性粉体100質量部に対して工程1で用いた(A)成分が0.01質量部以上1質量部以下であり、水硬性粉体100質量部に対して工程1で用いた(B)成分が0.01質量部以上1質量部以下である、工程。
【0084】
工程1での(A)成分と(B)成分の質量比は、(B)成分による起泡効果を十分に発現させるためと圧縮強度向上の観点から、(A)/(B)で、0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。また、2以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。
【0085】
工程2では、水硬性粉体の分散性の観点と圧縮強度向上の観点から、水硬性粉体100質量部に対して工程1で用いた(A)成分が0.01質量部以上、好ましくは0.03質量部以上、より好ましくは0.04質量部以上、そして、1質量部以下、好ましくは0.4質量部以下、より好ましくは0.15質量部以下、更に好ましくは0.12質量部以下である。この割合となるように、水硬性粉体と工程1で得られた気泡とを混合する。
【0086】
工程2では、起泡性の観点と圧縮強度向上の観点から、水硬性粉体100質量部に対して工程1で用いた(B)成分が0.01質量部以上、そして、1質量部以下、好ましくは0.4質量部以下、より好ましくは0.15質量部以下である。この割合となるように、水硬性粉体を工程1で得られた気泡と混合する。
【0087】
工程2での、工程1で得られた気泡と水硬性粉体との混練は、一般にモルタルやコンクリートの製造に用いられている混練機により行うことができる。混練機は、傾胴ミキサ、パン型ミキサ、強制二軸ミキサ、ジクロスミキサなどが使用でき、中でも強制二軸ミキサ(例えばIHI社製DAM60)やジクロスミキサ(例えば北川鉄工所製のWHQ−60A)の使用が好ましい。
【0088】
本発明の製造方法は、本発明の水硬性組成物の製造に好適である。本発明の水硬性組成物で述べた事項は、本発明の製造方法に適宜適用することができる。
【実施例】
【0089】
(A)成分、及び比較重合体として以下のものを用いた。なお、表では(A)成分、(B)成分に該当しない成分も、便宜上、それらの成分の欄に記載した。
【0090】
[(A)成分]
・共重合体(AX):メタクリル酸/メタクリル酸EO付加物共重合体(=90/10モル比、12.5/87.5質量比)、EO平均付加モル数120、Mw.40,000、ナトリウム塩
・共重合体(AY):アクリル酸/イソプレニルポリエチレンオキサイド共重合体(=76/24モル比、9.6/90.4質量比)、EO平均付加モル数47、Mw.50,000、ナトリウム塩
・共重合体(AZ):国際公開第2008/032800号(再表2008/032800)の製造例B2の方法で得られたポリカルボン酸系重合体〔構成単量体として、3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO2PO付加物(ブロック付加物、PO3.8モル%)、無水マレイン酸、フマル酸、及び前記公報の製造例A1で得られたポリアミドポリアミンA1を含む。重量平均分子量29,000〕
【0091】
[比較重合体]
・NSF:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、Mw.20,000、花王株式会社製、マイテイ150
【0092】
共重合体(AX)、共重合体(AY)、共重合体(AZ)は、それぞれ、以下の条件にてH−NMR、GPCで分析を行った。
*GPC条件
装置:GPC(HLC−8320GPC)東ソー株式会社製
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CHCN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算(分子量87500、250000、145000、46000、24000)
H−NMR条件
装置:MR−400(Agilent)
重溶媒:重水
標準物質:3−(トリメチルシリル)−2,2’,3,3’−テトラジュウテロプロピオン酸(略称:TMSP−d
【0093】
また、比較重合体のNSFは以下の条件にて分析を行なった。
*GPC条件
カラム:G4000SWXL+G200SWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:30mMCHCOONa/CHCN=6/4(pH=6.9)
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:UV(280nm)
サンプルサイズ:2mg/mL,0.01mL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸換算
H−NMR条件
共重合体(AX)、共重合体(AY)、共重合体(AZ)と同様の条件
【0094】
<実施例1及び比較例1>
(1)セメントペースト配合
【0095】
【表1】

【0096】
表中の成分は以下である。
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製/住友大阪セメント株式会社製=50質量%/50質量%)(密度3.16g/cm
W:和歌山市水道水
【0097】
(2)セメントペーストの製造
発泡前を基準として表1の単位量となる量の水と、表2の添加量となる(A)成分、(B)成分とをハンドミキサー(ナショナル社製、ハンドミキサー MK−H3)により高速(速度3)で30秒攪拌、混合し、発泡前を基準として表1の単位量となる量のセメントを加え、再び前記ハンドミキサーで高速で1〜2分攪拌、混合し、気泡を含有するセメントペーストを製造した。製造は20℃の条件で行った。ここで、(A)成分の添加量は、セメントペーストのフローが120〜180mmの間となる量を採用した。セメントペーストフローの測定は、混練によって得られたセメントペーストを、上部内径50mm、底部内径50mm、高さ50mmのコーンに充填し、引き抜き後の値(mm)を測定した。なお、(A)成分、(B)成分の添加量は、セメント100質量部に対して表2の通りとした。
【0098】
(3)セメントペーストの強度試験
上記で得られたセメントペーストを、JIS A 1132に基づき、円柱型プラモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)に、二層詰め方式により充填し、20℃で気中養生を施した。養生後に脱型したセメントペーストの硬化体の7日強度をJIS A 1108に基づいて圧縮強度を測定した。
また、強度試験の直前の供試体の密度を、アルキメデスの原理を利用して算出した。具体的には、水中の供試体質量と空気中の供試体質量を測定し、以下の式1を利用して算出した。
また、以下の式2より供試体の密度を1.3g/cmに補正した際の予想強度(以下、補正値1.3という)を算出した。ここで、同じ実施例又は比較例について、表2に示す(B)成分の添加量が少ない方の供試体の密度を「密度1」、その強度を「強度1」とし、(B)成分の多い方の供試体の密度を「密度2」、その強度を「強度2」とした。
【0099】

供試体の密度=(供試体の気中質量)/{(供試体の気中質量)―(供試体の水中質量)} …式1
【0100】
【数1】
【0101】
これらの結果を表2に示した。
【0102】
【表2】
【0103】
表2中、(A)成分、(B)成分の添加量は、セメント100質量部に対する質量部である。
表2の結果より、(A)成分の所定のポリカルボン酸系共重合体と、(B)成分の所定のアルキル硫酸塩又はアルキルスルホン酸塩とを用いた場合は、気泡を含有するセメントペーストから製造した硬化体の7日後の圧縮強度がより向上することがわかる。
【0104】
<実施例2及び比較例2>
(1)石膏ペースト配合
【0105】
【表3】
【0106】
表中の成分は以下である。
G:サクラ印焼石膏(吉野石膏株式会社製)
W:和歌山市水道水
【0107】
(2)石膏ペーストの製造
発泡前を基準として表3の単位量となる量の水と、表4の添加量となる(A)成分、(B)成分とをハンドミキサー(ナショナル社製、ハンドミキサー MK−H3)により高速(速度3)で30秒攪拌、混合し、発泡前を基準として表3の単位量となる量の石膏を加え、再び前記ハンドミキサーで高速で1〜2分攪拌、混合して気泡を含有する石膏ペーストを製造した。製造は20℃の条件で行った。ここで、(A)成分の添加量は、石膏ペーストのフローが120〜180mmの間となる量を採用した。石膏ペーストフローの測定は、混練によって得られた石膏ペーストを、上部内径50mm、底部内径50mm、高さ50mmのコーンに充填し、引き抜き後の値(mm)を測定した。なお、(A)成分、(B)成分の添加量は、石膏100質量部に対して表4の通りとした。
【0108】
(3)石膏ペーストの強度試験
上記で得られた石膏ペーストを、JIS A 1132に基づき、円柱型プラモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)に、二層詰め方式により充填し、20℃で気中養生を施した。養生後に脱型した石膏ペーストの硬化体の7日強度をJIS A 1108に基づいて圧縮強度を測定した。
また、強度試験の直前の供試体密度を、実施例1の式1により算出した。
更に、以下の式3より供試体の密度を1.5g/cmに補正した際の予想強度(以下、補正値1.5という)を算出した。ここで、同じ実施例又は比較例について、表4に示す(B)成分の添加量が少ない方の供試体の密度を「密度1」、その強度を「強度1」とし、(B)成分の多い方の供試体の密度を「密度2」、その強度を「強度2」とした。
【0109】
【数2】
【0110】
これらの結果を表4に示した。
【0111】
【表4】
【0112】
表4の結果より、(A)成分の所定のポリカルボン酸系共重合体と、(B)成分の所定のアルキル硫酸塩とを用いた場合は、気泡を含有する石膏ペーストから製造した硬化体の7日後の圧縮強度がより向上することがわかる。