特許第6305961号(P6305961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6305961-リチウムイオン二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305961
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20180326BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20180326BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180326BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180326BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   H01M10/0525
   H01M10/0566
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M2/16 P
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-154088(P2015-154088)
(22)【出願日】2015年8月4日
(65)【公開番号】特開2017-33827(P2017-33827A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年8月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】オートモーティブエナジーサプライ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小原 健児
(72)【発明者】
【氏名】須賀 創平
(72)【発明者】
【氏名】篠原 功一
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】青柳 成則
(72)【発明者】
【氏名】西山 淳子
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−157136(JP,A)
【文献】 特開平09−147834(JP,A)
【文献】 特開2001−319640(JP,A)
【文献】 特表2014−529898(JP,A)
【文献】 特開平11−135154(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/053200(WO,A1)
【文献】 特開2013−201150(JP,A)
【文献】 特開2014−097656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 2/16
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層が正極集電体に配置された正極と、
負極活物質層が負極集電体に配置された負極と、
セパレータと、
電解液と、
を含む発電要素を含むリチウムイオン二次電池であって、
負極活物質層が黒鉛を含み、
正極活物質層が一般式LixNiyCozMn(1-y-z)2(ここでxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以下である。)で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含み、
該セパレータの熱収縮率が13%以下であり、
該負極の容量(A)と該正極の容量(C)との比であるA/C比が1.05以上1.25以下であり、
該電池を5Vまで充電した時の該正極比容量と該負極比容量との比である過剰比が1以上である、
前記リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
該電池の出力と容量との比(W/Wh)の値が25未満である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
該電池の容量が5Ah以上である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池、特にリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されている。このような車載電源用電池としてリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池は、開発が進むにしたがい高容量化が図られ、それに伴い安全性の確保が必須となっている。
【0003】
満充電状態のリチウムイオン二次電池に更に充電されてしまった電池は、一般に過充電状態にあるとされ、不安定な状態にあるといえる。正極材料としてエネルギー密度の高い層状結晶構造を有するリチウム複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池を過充電状態にすると、正極からリチウムイオンが際限なく負極に移動しうる。ところが負極に収容できるリチウムイオンの容量(すなわち負極容量)には限度があるため、負極に収容されなかったリチウムイオンが析出するおそれがある。
【0004】
過充電対策として、リチウムイオン二次電池の電圧を監視して過充電を防止する方法や、特定の添加剤を電解液に加えることによって電気化学的に過充電を保護する方法がある。
【0005】
特許文献1には、可逆的酸化還元剤(レドックスシャトル添加剤)を電解液に添加したリチウムイオン二次電池が提案されている。特許文献1に提案されるリチウムイオン二次電池は、正極材料としてリン酸遷移金属リチウムを用い、負極は、正極容量に対する負極容量の比率が単位面積換算で105%以上180%以下とし、そして電解液にレドックスシャトル添加剤としてリチウムフルオロボレートを添加している。特許文献1には正極材料としてエネルギー密度の高い層状結晶構造を有するリチウム複合酸化物を用いることは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−178936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電池が過充電状態になったときに起こりうる発熱を防止し、安全性を維持することができるリチウムイオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態におけるリチウムイオン二次電池は、正極活物質層が正極集電体に配置された正極と、負極活物質層が負極集電体に配置された負極と、セパレータと、電解液と、を含む発電要素を含む。ここで負極活物質層は黒鉛を含む。そして実施形態のリチウムイオン二次電池を5Vまで充電した時の正極比容量と負極比容量との比である過剰比は1以上であり、セパレータの熱収縮率は13%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、安全性を維持することができると共に、過充電状態になっても電池内部での発熱反応が起こりにくいため、電池の温度の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一の実施形態のリチウムイオン二次電池を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を以下に説明する。本実施形態において正極とは、正極活物質と、バインダーと、必要な場合導電助剤との混合物を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。負極とは、負極活物質と、バインダーと、必要な場合導電助剤との混合物を負極集電体に塗布して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。セパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、本実施形態においては特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータと電解液とを含む発電要素とは、電池の主構成部材の一単位であり、通常、正極と負極とがセパレータを介して重ねられて(積層されて)、この積層物が電解液に浸漬されている。
【0012】
実施形態のリチウムイオン二次電池は、外装体の内部に該発電要素が含まれて成り、好ましくは、発電要素は該外装体内部に封止されている。封止されているとは、発電要素が外気に触れないように、外装体材料により包まれていることを意味する。すなわち外装体は、発電要素をその内部に封止することが可能な袋形状をしている。
【0013】
すべての実施形態において用いることができる負極は、負極活物質を含む負極活物質層が負極集電体に配置された負極を含む。好ましくは、負極は、負極活物質、バインダーおよび場合により導電助剤の混合物を銅箔などの金属箔からなる負極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た負極活物質層を有している。各実施形態において、負極活物質が、黒鉛を含むことが好ましい。黒鉛は構造が安定しており、高容量電池の負極材料に適している。負極活物質は黒鉛粒子のほか非晶質炭素を含むこともできる。黒鉛と非晶質炭素とをともに含む混合炭素材を用いると、電池の回生性能が向上する。
【0014】
黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形状をしていることが好ましい。また非晶質炭素は、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことを意味する。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。非晶質炭素は粒子の形状をしていることが好ましい。
【0015】
負極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる添加剤を適宜使用することができる。
【0016】
負極活物質層に用いられるバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブラジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0017】
すべての実施形態において用いることができる正極は、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体に配置された正極を含む。好ましくは、正極は、正極活物質、バインダーおよび場合により導電助剤の混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。正極活物質として、リチウム遷移金属酸化物を用いることができ、たとえば、リチウム・ニッケル系酸化物(たとえばLiNiO)、リチウムコバルト系酸化物(たとえばLiCoO)、リチウムマンガン系酸化物(たとえばLiMn)およびこれらの混合物を使用することが好ましい。また正極活物質として、一般式LiNiCoMn(1−y−z)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いることができる。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以下である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1−y−z≦0.4とすることが望ましい。また、コバルトの割合が大きくなると高コストとなり容量も減少するため、z<y、z<1−y−zとすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1−y−z、y>zとすることが特に好ましい。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、層状結晶構造を有することが好ましい。
【0018】
正極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる添加剤を適宜使用することができる。
【0019】
正極活物質層に用いられるバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブラジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0020】
すべての実施形態において用いることができる電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(以下「DMC」と称する。)、ジエチルカーボネート(以下「DEC」と称する。)、ジ−n−プロピルカーボネート、ジ−t−プロピルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネート、ジ−イソブチルカーボネート、またはジ−t−ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(以下「PC」と称する。)、エチレンカーボネート(以下「EC」と称する。)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0021】
電解液は、上記の成分の他、添加剤を含有することができる。電解液に加えることができる添加剤は、電池の充放電の過程で、電気化学的に分解し、電極その他に被膜を形成することができる物質であることが好ましい。とりわけ、負極表面上に負極構造を安定化させることができる添加剤を用いることが特に望ましい。このような添加剤として、環状ジスルホン酸エステル(たとえば、メチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル)、環状スルホン酸エステル(たとえば、スルトン)、鎖状スルホン酸エステル(たとえば、メチレンビスベンゼンスルホン酸エステル、メチレンビスフェニルメタンスルホン酸エステル、メチレンビスエタンスルホン酸エステル)等の、分子内に硫黄を含有する化合物を含む添加剤(以下、「含硫黄添加剤」と称する。)を挙げることができる。この他、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成することができる添加剤として、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、メタクリル酸プロピレンカーボネート、アクリル酸プロピレンカーボネート等を加えることもできる。さらに電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する他の添加剤として、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。これらの添加剤は、含硫黄添加剤の、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる添加剤である。添加剤は、電解液全体の重量に対して、20重量%以下、好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下の割合で含まれている。
【0022】
実施形態において、セパレータはオレフィン系樹脂層から構成される。ここでオレフィン系樹脂層は、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα−オレフィンを重合または共重合させたポリオレフィンから構成される層である。実施形態では、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンから構成される層であることが好ましい。オレフィン系樹脂層がこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。
【0023】
オレフィン系樹脂に架橋を施したセパレータを用いることが好ましい。一分子中に複数の重合基を有する多官能性物質(トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等)による化学架橋を施したポリマーや、電離放射線を照射してラジカルを生成することにより重合した電子架橋ポリマー等を用いることができる。
【0024】
特にセパレータの熱収縮率が13%以下であることが好ましい。ここでセパレータ等を含むフィルム材料の熱収縮率は、フィルム材料に熱をかけたときに、どれだけ寸法が変化する(減少する)かを表す数値であり、たとえばJIS−C−2151、JIS−C−2318、ASTMDD−1204等に準じて測定することができる。本明細書では、熱収縮率の値は、フィルム材料の試験片を熱風循環式恒温槽内に懸垂して、25℃から180℃まで30分間かけて昇温し、次いで室温まで冷却した後に測定した試験片の面積の収縮率を表す。すなわち熱収縮率は、以下の式:
100×[(試験前のフィルム材料の面積)−(試験後のフィルム材料の面積)]/(試験前のフィルム材料の面積)
で計算することができる。熱収縮率が13%を超えるセパレータは、微小短絡で生じる発熱によりセパレータの破膜面積が広がり、大電流が流れるおそれがある。
【0025】
セパレータはオレフィン系樹脂層と耐熱性微粒子層とを有していてもよい。耐熱性微粒子層を有しているセパレータは、電池の発熱を防止することができるほか、セパレータの熱収縮を抑制することもできる。耐熱性微粒子として、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子を用いることができる。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α−アルミナ、β−アルミナ、θ−アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。このように、オレフィン系樹脂層と耐熱性樹脂層とを有するセパレータを、本明細書では「セラミックセパレータ」と称することがある。
【0026】
オレフィン系樹脂層と耐熱性微粒子層とを有するセラミックセパレータは、オレフィン系樹脂膜の表面上に耐熱性微粒子層を積層した形態を有する。耐熱性微粒子層は、オレフィン系樹脂膜の片面上にのみ設けることができ、両面上に設けることもできる。耐熱性微粒子層全体の厚さの割合は、オレフィン系樹脂層の厚さの1/10から1/2、好ましくは1/8から1/3程度であることが好適である。耐熱性微粒子層の厚さを厚くしすぎると、電解液中に含まれる含硫黄添加剤の分解物が増加する可能性があり、薄くしすぎるとセパレータの耐熱性の向上効果が期待できない。
【0027】
ここで、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の構成例を、図面を用いて説明する。図1はリチウムイオン二次電池の断面図の一例を表す。リチウムイオン二次電池10は、主な構成要素として、負極集電体11、負極活物質層13、セパレータ17、正極集電体12、正極活物質層15を含む。図1では、負極集電体11の両面に負極活物質層13が設けられ、正極集電体12の両面に正極活物質層15が設けられているが、各々の集電体の片面上のみに活物質層を形成することもできる。負極集電体11、正極集電体12、負極活物質層13、正極活物質層15、及びセパレータ17が一つの電池の構成単位、すなわち発電要素である(図中、単電池19)。セパレータ17は、耐熱性微粒子層と、オレフィン系樹脂膜とから構成されていてよい(いずれも図示せず)。このような単電池19を、セパレータ17を介して複数積層する。各負極集電体11から延びる延出部を負極リード25上に一括して接合し、各正極集電体12から延びる延出部を正極リード27上に一括して接合してある。なお正極リードとしてアルミニウム板、負極リードとして銅板が好ましく用いられ、場合により他の金属(たとえばニッケル、スズ、はんだ)または高分子材料による部分コーティングを有していてもよい。正極リードおよび負極リードはそれぞれ正極および負極に溶接される。このように複数の単電池を積層してできた電池は、溶接された負極リード25および正極リード27を外側に引き出す形で、外装体29により包装される。外装体29の内部には電解液31が注入されている。外装体29は、2枚の積層体を重ね合わせ、周縁部を熱融着した形状をしている。なお図1では、負極リード25と正極リード27は、外装体29の対向する辺にそれぞれ設けられている(「両タブ型」という。)が、負極リード25と正極リード27とを外装体29の一の辺に設ける(すなわち負極リード25と正極リード27とを外装体29の一の辺から外側に引き出す。「片タブ型」という。)こともまた可能である。
【0028】
上記のように作成したリチウムイオン二次電池を5Vまで充電した時に、正極比容量と負極比容量との比が1以上であることが好ましい。「リチウムイオン二次電池を5Vまで充電した時」とは、電池を過充電状態にまで充電したことの目安である。過充電状態にまで充電した場合に、正極比容量(すなわち正極が単位体積あたりリチウムイオンをどれだけ放出できるか)と負極比容量(すなわち負極が単位体積あたりリチウムイオンをどれだけ許容できるか)とのバランスを適正に維持していることが、過充電状態の電池の安全性を保つために重要である。正極比容量と負極比容量との比が1未満となると、正極容量に対して負極が過剰にあることとなり、電池の容量が低下しうる。各電極活物質の選択や、電極活物質とその他の添加剤との配合を適正なものにする等の工夫により、正極比容量と負極比容量との比を1以上にすることができる。たとえば、正極活物質の正極集電体への塗工量を増やしたり、負極活物質の負極集電体への塗工量を減らしたりすることができる。なお、正極と負極の比容量のバランスを適正に維持するという観点から、リチウムイオン二次電池を5Vまで充電した時の正極比容量と負極比容量との比は2以下であることが好ましい。本明細書では、リチウムイオン二次電池を5Vまで充電した時の、正極比容量と負極比容量との比を「過剰比」と記載することがある。
【0029】
上述の負極の容量(A)と正極の容量(C)との比(以下「A/C比」と称する。)が、1.25以下となるように負極と正極とを作成することが好ましい。A/C比が大きいことは1の負極のリチウムイオン受け入れ量が1の正極のリチウムイオン放出量に比べて大きいことを表し、すなわち負極にリチウムイオンが大量に受容されうることを意味する。負極容量が大き過ぎると電池の過充電時に安全性を維持することが困難になりうるため、A/C比は適正な値に保つことが重要である。なお、高い電池容量を得るためには、A/C比は1.05以上であることが望ましい。
【0030】
さらに別の実施形態において、電池の出力と容量との比(W/Wh)の値が25未満であることが好ましい。ここで電池の出力は、10秒間の平均出力を表している。航続距離が100kmを超えるような車両用の高容量リチウムイオン二次電池を提供するには、複数の電池(セル)を組み合わせた組電池(バッテリーパック)にする。この場合、一つ一つの電池に要求される出力は必要以上に高くする必要がない。ここで電池の出力と容量との比(出力容量比)は、2以上25未満の範囲にあることが好ましい。出力容量比が2未満であると、抵抗が高すぎて車両用電池として用いる際に負荷特性に追従できない。また出力容量比が25以上の電池は、一般的には薄膜の電極を使用するため、面積当たりの容量が不足しうる。
【0031】
なお、高容量バッテリーパック用の電池として使用するためには、電池の容量が5Ah以上であることが非常に好ましい。先に述べた適正な出力容量比とのバランスを考慮すると、電池の容量は5Ah以上70Ah以下であることが好ましい。
【実施例】
【0032】
<負極の作製>
負極活物質として、表面被覆天然黒鉛粉末(比容量390mAh/g)、導電助剤としてカーボンブラック粉末、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF、クレハW#7200、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン株式会社)とを、固形分質量比で94:6の割合でイオン交換水中に添加して撹拌し、これらの材料を水中に均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚み8μmの銅箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、水を蒸発させることにより負極活物質層を形成した。更に、負極活物質層を空孔率35%となるようにプレスして、負極集電体の片面上に負極活物質層を塗布した負極を作製した。この負極を表中では「Gr」と記載する。
もう一種類の負極を作成した。負極活物質として、ハードカーボン(400mAh/g)、導電助剤としてカーボンブラック粉末、バインダー樹脂としてPVDFとを、固形分質量比で94:6の割合でイオン交換水中に添加して撹拌し、これらの材料を水中に均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚み8μmの銅箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、水を蒸発させることにより負極活物質層を形成した。更に、負極活物質層を空孔率35%となるようにプレスして、負極集電体の片面上に負極活物質層を塗布した負極を作製した。この負極を表中では「HC」と記載する。
【0033】
<正極の作製>
正極活物質として、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM433、すなわちニッケル:コバルト:マンガン=4:3:3、以下、「NCM」と称する。)と、導電助剤としてカーボンブラック粉末と、バインダー樹脂としてPVDF(クレハW#7200、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン株式会社)とを、固形分質量比で93:3:3の割合で、溶媒であるN−メチル−ピロリドン(以下、「NMP」を称する。)に添加した。さらに、この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で撹拌することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み15μmのアルミニウム箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。さらに、正極活物質層を空孔率25%となるようにプレスして、正極集電体の片面上に正極活物質層を塗布した正極を作製した。
さらに混合正極を作製した。ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM433、すなわちニッケル:コバルト:マンガン=4:3:3)とD50粒子径が10μmのLiMnO(以下、「LMO1」と称する。)とを、それぞれ表に記載した割合で混合した混合正極活物質と、導電助剤としてカーボンブラック粉末と、バインダー樹脂としてPVDF(クレハW#7200、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン株式会社)とを、固形分質量比で正極活物質:導電助剤:バインダー樹脂=90:5:5の割合で、溶媒であるNMPに添加した。さらに、この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で撹拌することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み15μmのアルミニウム箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。さらに、正極活物質層を空孔率30%となるようにプレスして、正極集電体の片面上に正極活物質層を塗布した正極を作製した。
【0034】
<セパレータ>
以下の5種類のセパレータを用意した:
PP01:ポリプロピレン、厚み25μm、熱収縮率40%、突き刺し伸度50%
CL01:ポリプロピレン(電子架橋あり)、厚み25μm、熱収縮率12%、突き刺し伸度2%
CL02:ポリプロピレン(電子架橋あり)、厚み25μm、熱収縮率13%、突き刺し度1%
CL03:ポリプロピレン(電子架橋あり)、厚み25μm、熱収縮率17%、突き刺し度5% CC01:ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン積層体(酸化アルミニウムコーティングあり)、厚み20μm、熱収縮率13%、突き刺し度30%
なお、セパレータの熱収縮率と突き刺し伸度の測定法については後述する。
【0035】
<電解液>
エチレンカーボネート(以下、「EC」と称する。)とプロピレンカーボネート(以下、「PC」と称する。)とジエチルカーボネート(以下、「DEC」と称する。)とを、EC:PC:DEC=25:5:70(体積比)の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が0.9mol/Lとなるように溶解させたものに対して、添加剤として環状ジスルホン酸エステル(メチレンメタンジスルホンネート(MMDS)とビニレンカーボネート(VC)とをそれぞれ濃度が1重量%となるように溶解させたものを用いた。
【0036】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した各負極板と正極板を、各々所定サイズ(負極:254mm×184mm、正極:250mm×180mm)の矩形に切り出した。このうち、端子を接続するための未塗布部にアルミニウム製の正極リード端子を超音波溶接した。同様に、正極リード端子と同サイズのニッケル製の負極リード端子を負極板における未塗布部に超音波溶接した。セパレータの両面に上記負極板と正極板とを両活物質層がセパレータを隔てて重なるようにし、正極リードと負極リードがともに一辺側に揃うように配置して、電極板積層体を得た。2枚のアルミニウムラミネートフィルムの長辺の一方を除いて三辺を熱融着により接着して袋状のラミネート外装体を作製した。ラミネート外装体に上記電極積層体を挿入した。電解液を注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により封止することによって、いわゆる片タブ型の積層型リチウムイオン電池を得た。この積層型リチウムイオン電池について初期充放電を行った後、高温エージングを行い、電池容量5Ahの積層型リチウムイオン電池を得た。
【0037】
<初期充放電>
電池の残容量(以下、「SOC」と称する。)0%から100%まで、雰囲気温度55℃で、初期充放電を行った。充放電の条件は、以下の通りである:0.1C電流で4.1Vまで定電流充電(CC充電)、その後4.1Vで定電圧充電(CV充電)し、次いで0.1C電流での定電流放電(CC放電)を、2.5Vまで行う。
【0038】
<過充電容量>
SOC0%から1C電流で電池電圧5Vまで充電した。電池電圧5V到達時の電池の容量(この値を「X」(mAh)とする。)を測定し、この値を正極の過充電容量とした。
【0039】
<加温試験>
作製した電池を電池電圧4.15Vまで放電し、恒温槽内で1分間に1℃の割合で150℃まで昇温した。周囲温度150℃に到達時の電池電圧変化を測定した。
このときの電池の様子を、電池が発火している場合(発火)、電池が発熱している場合(発熱)、電池電圧および電池温度に変化なし(変化なし)の3種類に分類した。
【0040】
<電極容量>
SOC0%の電池を解体し、正極の総面積を測定した(a[cm])。上記のXの値を用いて過充電容量をx=X/aの式により計算し(単位:mAh/cm)、この値を正極の過充電比容量とした。
一方、解体電池から取り出した負極をEC/DEC溶媒で洗浄し、直径12mmに打ち抜いて、金属リチウムを正極として用いたコインセルを作製した。このコイン電池を0.1C電流で24時間CC/CV充電し、コイン電池の容量を測定した(この値を「Y」(mAh)とする。)。そして負極の面積あたりの容量「y」を計算し(単位:mAh/cm)、これを負極の比容量とした。本明細書では、「y」の値が負極の過充電容量にほぼ等しいとして、以下の計算に用いるものとする。
【0041】
<過剰比>
上記のxおよびyの値からx/yを計算し、過剰比とした。なお、負極比容量に対する正極過充電比容量の値である過剰比とは、先にも説明したとおり、正極のリチウムイオンの放出容量と負極のリチウムイオンの許容量とのバランスを表す指標となる。
【0042】
<SOC−OCV(残容量−開放電圧)の測定>
電池電圧3Vの状態からSOCが50%となるまで0.2CC電流でCC充電した。この状態で1時間放置した後の電池電圧を、50%SOC−OCV(単位:V)、すなわち残容量50%の電池の開放電圧の値とした。
【0043】
<電池容量>
上記の50%SOC−OCVの値(単位:V)と、0.2c電流での充電による電池容量の値(単位:Ah)との積を、電池容量(単位:Wh)とした。
【0044】
<出力の測定>
上記の50%SOC−OCVの状態から25℃で10秒間で下限電圧(3V)に達するための最大電流値を測定した。このとき50%SOC−OCVの値と、最大電流値(単位:A)との積を、電池出力(単位:W)とした。
【0045】
<熱収縮率>
セパレータを熱風循環式恒温槽内に懸垂して、25℃から180℃まで30分間かけて昇温し、次いで室温まで冷却した後に測定した試験片の面積を測定した。熱収縮率は、100×[(試験前のセパレータの面積)−(試験後のセパレータの面積)]/(試験前のセパレータの面積)で計算した。
【0046】
<突き刺し強度>
試料であるセパレータを固定し、試料面に直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を毎分50±0.5mmの速度で突き刺し、針が貫通するまでの最大荷重を測定した。
【0047】
【表1】
【0048】
参考例1〜8、ならびに比較例2および3は、上記したセパレータのうちPP01を用いて実験を行った。
過剰比は、混合正極中のNCMの割合が増加するにつれて増加する。そして、負極材料として黒鉛を使用し、過剰比が100%を超える比較例2および3は、加温試験で発熱が観測された。一方、負極材料としてハードカーボンを使用し、過剰比が100%を超える参考例3および4は、加温試験において変化が見られなかった。このように、混合正極中のNCMの割合を少なくし、負極材料としてハードカーボンを用いれば、少なくとも加温試験においては良好な結果を得ることができると推定される。しかしながらリチウムイオン二次電池の車載用の大容量電池としての使用を考慮した場合、容量の増加と電極材料の劣化の防止の点から、(1)混合正極中のNCMの割合をできるだけ増加させること、および(2)負極材料として黒鉛を使用すること、の2点の要求を満たすことが必要である。そこでA/C比を調整することでこれら2点を維持することができるかどうか検討した。参考例5〜8においては、A/C比を1.5に調整することで、過剰比が100%を超えないようにした。参考例5〜8の加温試験の結果から、A/C比を大きくすることは上記2点の要求を満たすための一手段であることがわかった。A/C比を大きくすることは、負極活物質の負極集電体上への塗布量を増やすことを意味し、その分、負極の重量、すなわち電池の重量が増加しうる。そこで上記の2点の要求を満たすための、他の手段を検討した。
【0049】
実施例1〜実施例5は、熱収縮率が13%以下であるセパレータを使用した実験例である。いずれの実施例でも加温試験で発熱が観測されなかった。これらの実施例に係る電池はいずれも過剰比が100%を超えるが、上記セパレータの使用により電池の温度上昇を抑制することができることがわかる。一方で、過剰比が100%を超え、熱収縮率が13%を超えるセパレータを使用した比較例1は、加熱試験で発熱が観測されることがわかる。すなわち、各電極材料の組み合わせと各電極比容量の割合を考慮しつつ適切なセパレータを選択することにより、高容量、高エネルギー密度を有しかつ安全性の高い電池を得ることができる。
【0050】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0051】
10 リチウムイオン二次電池
11 負極集電体
12 正極集電体
13 負極活物質層
15 正極活物質層
17 セパレータ
25 負極リード
27 正極リード
29 外装体
31 電解液
図1