(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305983
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】水性フルロロポリマーコーティングを用いてガラス基材をコーティングするための方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20180326BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20180326BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20180326BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20180326BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20180326BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20180326BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20180326BHJP
C03C 25/10 20180101ALI20180326BHJP
【FI】
B05D1/36 B
B05D7/24 302L
B05D7/24 302T
B05D7/24 302Y
B05D3/02 Z
B32B17/10
B32B27/00 101
B32B27/30 D
B32B27/40
C03C25/02 N
【請求項の数】18
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-507027(P2015-507027)
(86)(22)【出願日】2013年4月2日
(65)【公表番号】特表2015-520664(P2015-520664A)
(43)【公表日】2015年7月23日
(86)【国際出願番号】US2013034886
(87)【国際公開番号】WO2013158361
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年3月10日
(31)【優先権主張番号】61/625,245
(32)【優先日】2012年4月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ミン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】メイ・ウエン
(72)【発明者】
【氏名】スコット・ガボリ
(72)【発明者】
【氏名】クルト・エイ・ウッド
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド・パートリッジ
【審査官】
安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4406457(JP,B2)
【文献】
特開2009−046689(JP,A)
【文献】
特開2012−007183(JP,A)
【文献】
特開2006−307174(JP,A)
【文献】
特開2011−251253(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/022055(WO,A1)
【文献】
特表2010−501715(JP,A)
【文献】
特表2011−527374(JP,A)
【文献】
特開2004−143383(JP,A)
【文献】
特開2003−183322(JP,A)
【文献】
特表2015−520256(JP,A)
【文献】
特表2009−522415(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0208312(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00〜B05D7/26
B32B1/00〜B32B43/00
C09D1/00〜C09D201/10
C03C25/00〜C03C25/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上にフルオロポリマーコーティングを形成させるための方法であって、
a)以下のものを含むプライマー組成物を用いて、前記基材の少なくとも1つの側面または少なくとも1つのエッジをコーティングする工程:
1)少なくとも1種のヒドロキシ官能性ポリウレタン、
2)少なくとも1種のポリイソシアネート、
3)少なくとも1種のオルガノシランカップリング剤、
4)場合によっては、抗酸化剤、
5)場合によっては、融合助剤、顔料、染料、濡れ剤、UV吸収剤および熱安定剤からなる群から選択される1種または複数種の添加剤;
b)15〜90%の未反応のイソシアネートまたはヒドロキシル官能基を残して、前記プライマー組成物を硬化させる工程;
c)以下のものを含む水性ヒドロキシ官能性フルオロポリマー組成物を用いて、前記基材のプライマー処理した側面またはエッジをコーティングする工程:
4)ヒドロキシ官能性フルオロポリマー、
5)親水性の脂肪族ポリイソシアネート、
6)場合によっては、顔料、融合助剤、濡れ剤、UV吸収剤および熱安定剤からなる群から選択される1種または複数種の添加剤;ならびに
d)前記コーティングされた基材を硬化させる工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記基材がガラス基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オルガノシランカップリング剤が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとアミノプロピルトリエトキシシランとのブレンド物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン対アミノプロピルトリエトキシシランの比率が、(0.9:1)から(1:0.9)までである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシル官能性フルオロポリマーが、フルオロポリマー−アクリリックハイブリッドポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プライマーコーティング組成物中の前記ポリイソシアネートが、1種または複数種のブロックされたポリイソシアネートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プライマーおよび前記フルオロポリマーコーティング組成物の両方における前記イソシアネートが、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)および/またはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)をベースとする、脂肪族ポリマー性もしくは脂肪族オリゴマー性のイソシアネートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記プライマーコーティング組成物中の前記ポリイソシアネートが、NCO末端基を含み、前記全NCO基の、前記ヒドロキシル官能性ポリウレタンの上での全ヒドロキシル基に対する比率が、0.4〜2である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記フルオロポリマーコーティング組成物中の前記ポリイソシアネートが、NCO末端基を含み、前記全NCO基の、前記ヒドロキシル官能性フルオロポリマーおよびポリオールの上での合計したヒドロキシル基に対する比率が、0.8〜2である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
NCO:OHの比率が0.9〜1.1の間である場合、前記プライマーコーティングが、120〜160℃で1〜15分間かけて部分的に硬化される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記プライマーコーティングが0.4〜0.9または1.1〜2のNCO:OHの比率を有し、硬化の際に前記組成物の中で少ない方の前記官能基(イソシアネート基またはヒドロキシル基)の完全な消費が行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記基材に対する前記コーティングの良好な接着性を与えるために、前記フルオロポリマーコーティングを適用する前に前記ブロック剤を放出させる目的で、前記ブロックされたポリイソシアネートが、80〜180℃の高い温度で0.1〜15分間ベーキングされる、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの表面に2層のコーティングを接着させた基材を含む、水性フルオロポリマーでコーティングされた基材であって、第1の層が前記基材の上の少なくとも1つの表面上にコーティングされ、第2の層が前記第1の層の上にコーティングされ、前記第1の層が、
1)少なくとも1種のヒドロキシ官能性ポリウレタン、
2)少なくとも1種のポリイソシアネート、
3)少なくとも1種のオルガノシランカップリング剤、
4)場合によっては、融合助剤、顔料、染料、濡れ剤、UV吸収剤および熱安定剤からなる群から選択される1種または複数種の添加剤;
を含み、前記第2の層が、
1)ヒドロキシ官能性フルオロポリマー、
2)親水性の脂肪族ポリイソシアネート、
を含み、
前記第1の層および第2の層は、その2つの層の間の界面で化学的に結合しかつ/または絡み合わされている、
コーティングされた基材。
【請求項14】
前記基材が、金属、紙、木材、プラスチックス、セラミックスおよびあらゆるタイプのガラスからなる群から選択される、請求項13に記載のコーティングされた基材。
【請求項15】
前記基材が、ガラスまたはガラス繊維である、請求項13に記載のコーティングされた基材。
【請求項16】
前記オルガノシランカップリング剤が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとアミノプロピルトリエトキシシランとのブレンド物を含む、請求項13に記載のコーティングされた基材。
【請求項17】
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン対アミノプロピルトリエトキシシランの比率が、(0.9:1)から(1:0.9)までである、請求項13に記載のコーティングされた基材。
【請求項18】
前記ヒドロキシル官能性フルオロポリマーが、フルオロポリマー−アクリリックハイブリッドポリマーである、請求項13に記載のコーティングされた基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しい水性のフルオロポリマーコーティング組成物を用いてガラス基材をコーティングするための方法に関する。この方法には、ガラス基材にポリウレタンプライマーを適用する工程、およびこのプライマーコーティングを、完全ではなく、部分的に反応させる工程が含まれる。次いで、その部分的に反応させたプライマーコーティングに水性のヒドロキシル官能性フルオロポリマーコーティングを適用し、そのコーティングを完全に硬化させる。本発明はさらに、ガラス基材の上の絡み合わせた多層プライマー/フルオロポリマーコーティングにも関する。最終的なコーティングは、ガラスに対する優れた湿潤接着性、良好な耐候性、耐久性、耐チョーキング性、耐薬品性、および抗吸塵性を有している。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは、それらが光沢保留性、色保留性、耐薬品性、耐水性、耐チョーキング性、および抗生物繁殖性などを含めた優れた耐候性を有しているために、広く各種の高性能コーティング用途において、45年以上も使用されてきている。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、長期間にわたって優れた外観と基材の保護が維持されなければならない建築用途において、極めて優れた機能を果たしてきた。フルオロポリマーをベースとするコーティングの大部分のものは、溶媒系であって、高レベルの揮発性有機化合物(VOC)を発生する。フルオロポリマーラテックスをベースとする水系のコーティングは、高性能コーティングのための環境に優しい(低VOC)手段を提供するので、魅力がある。たとえば、42〜45重量%の固形分含量を有する、KYNAR AQUATEC(登録商標)ポリフッ化ビニリデン−アクリリックハイブリッドラテックス(Arkema Inc.製)をベースとする環境に優しいコーティングは、慣用されるアクリリック、ウレタン、およびシリコーンコーティングよりも良好な耐候性、抗吸塵性、耐汚染性、および耐薬品性を示す。
【0003】
それらの優れた性能から、フルオロポリマーベースのコーティング組成物を各種の基材を保護するために使用できれば望ましい。しかしながら、たとえばガラスのようないくつかの基材では、フルオロポリマーの超疎水性が原因で、フルオロポリマーベースのコーティング組成物の接着性が極めて限定される。ガラスに対するフルオロポリマーコーティングの満足のいく接着性を達成するためには、一般的には、いくつかのタイプの接着剤物質を使用するか、またはたとえば表面エッチングなどのような、高コストで時間のかかるガラス処理を実施することが必要である。
【0004】
フルオロポリマーコーティングが備えている望ましい性質をすべて示し、なおかつガラスに対して優れた直接的な接着性も有する水性フルオロポリマーベースのコーティング組成物が必要とされている。
【0005】
米国特許第4,879,345号明細書には、ガラス基材に対する改良された接着性を与える、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂をベースとする溶媒系のコーティング組成物が記載されている。良好な接着性を得るためには、そのコーティングでは、官能性オルガノシランと、そのオルガノシラン上の官能基と反応する補助的な樹脂とが必要である。その組成物は、直接ガラスに対する良好な乾燥接着性(高湿度処理または水処理する前に試験した接着性)は示すものの、湿潤接着性(高湿度処理または水処理をした後に試験した接着性)は受容不可能であった。実施例の湿潤接着性は、沸騰水の中でわずか30分間ソーキングをした後では、はやくも100%未満になっていた。
【0006】
カナダ国特許第2091847号明細書には、ガラス基材のためのフルオロポリマーベースのコーティング組成物が開示されており、それは、フルオロポリマー樹脂、オルガノシランおよび/またはオルガノチタネート、無機顔料、およびオルガノシランまたはオルガノチタネートと反応する官能基を有さない熱可塑性のポリアクリレート樹脂からなっている。この組成物もまた、有機溶媒系である。最初に、オルガノシランとオルガノチタネートとの混合物であるクリヤコートを用いてガラスをプライマー処理しなければならない。さらに、そのガラスとコーティングとの結合は、ガラスといくつかの無機顔料粒子との間の直接的な化学結合の結果であると考えられる。したがって、カナダ国特許第2091847号明細書は、無機顔料を含むコーティングに対してのみ適用され、クリアなトップコートには適用されない。さらに、カナダ国特許第2091847号明細書においては、そのコーティングの湿潤接着性については記載がない。いずれの従来技術も、溶媒系コーティングである。
【0007】
米国特許第5852106号明細書には、コーティング組成物のための水性ポリウレタンバインダー、およびガラス、好ましくはガラスビンをコーティングするためのそれらの使用が記載されている。そのバインダーには、水に分散させたヒドロキシ官能性ポリウレタン分散体と、水に分散させたブロックされた脂肪族ポリイソシアネート樹脂とが含まれているが、ブロックされたイソシアネート基のヒドロキシル基に対する当量比は、少なくとも0.8:1である。欧州特許第519074号明細書には、2層コーティングで適用される水性ガラスコーティング組成物が記載されているが、そのトップコートには、実質的に次の3種の主成分が含まれている:ポリウレタン分散体、水性エポキシ樹脂、および水性メラミン/ホルムアルデヒド樹脂。これらの完全に架橋されたコーティングは、ガラスに対する優れた接着性を示すものの、フルオロポリマー組成物が備えている優れた耐候性、耐チョーキング性、および耐薬品性は有していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
精力的な検討の結果、ポリウレタンプライマーを用いてプライマー処理され、部分的ではあるが全面的には架橋されていないガラスに対して、環境に優しい(低VOC)水性ヒドロキシル官能性フルオロポリマーコーティング組成物を接着させることが可能であるということが見いだされた。その多層コーティング組成物は、優れた耐候性、耐チョーキング性、耐薬品性、および抗吸塵性を備えている。そのコーティング組成物は、ガラス基材に直接、優れた乾燥接着性および湿潤接着性を有する保護バリヤを与えるのに特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材の上にフルオロポリマーコーティングを形成させるための方法に関し、以下の工程を含んでいる:
a)以下のものを含むプライマー組成物を用いて、前記基材の少なくとも1つの側面または少なくとも1つのエッジをコーティングする工程:
1)少なくとも1種のヒドロキシ官能性ポリウレタン、
2)少なくとも1種のポリイソシアネート、
3)少なくとも1種のオルガノシランカップリング剤、
4)場合によっては、抗酸化剤、
5)場合によっては、融合助剤、顔料、染料、濡れ剤、UV吸収剤および熱安定剤からなる群から選択される1種または複数種の添加剤;
b)15〜90%の未反応のイソシアネートまたはヒドロキシル官能基を残して、前記プライマー組成物を硬化させる工程;
c)以下のものを含む水性ヒドロキシ官能性フルオロポリマー組成物を用いて、前記プライマー処理した基材をコーティングする工程:
1)ヒドロキシ官能性フルオロポリマー、
2)親水性の脂肪族ポリイソシアネート、
3)場合によっては、顔料、融合助剤、濡れ剤、UV吸収剤および熱安定剤からなる群から選択される1種または複数種の添加剤;ならびに
d)前記コーティングされた基材を硬化させる工程。
【0010】
本発明はさらに、少なくとも1つの表面に2層コーティングを接着させた基材を含む、水性フルオロポリマーでコーティングされた基材にも関するが、ここでその第1の層には、以下のものを含み:
1)少なくとも1種のヒドロキシ官能性ポリウレタン、
2)少なくとも1種のポリイソシアネート、
3)少なくとも1種のオルガノシランカップリング剤、
4)場合によっては、融合助剤、顔料、染料、濡れ剤、UV吸収剤および熱安定剤からなる群から選択される1種または複数種の添加剤;
そしてその第2の層には、以下のものを含み、
1)ヒドロキシ官能性フルオロポリマー、
2)親水性の脂肪族ポリイソシアネート、
3)場合によっては、顔料、融合助剤、濡れ剤、UV吸収剤および熱安定剤からなる群から選択される1種または複数種の添加剤;そして
前記第1の層および第2の層は、その界面で化学的に結合されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に引用したすべての参考文献は、参照することにより取り入れたものとする。特に断らない限り、すべての分子量は重量平均分子量であり、そしてすべてのパーセントは、重量パーセントである。
【0012】
本発明は、最初にプライマーを適用し、そのプライマーを硬化させて、それを部分的に反応させ、次いで水性のヒドロキシル官能性フルオロポリマーコーティングを適用し、そのコーティングを硬化させることによる、ガラスに水性フルオロポリマー組成物を接着させるためのプロセスに関する。
【0013】
プライマー:
最初に、ヒドロキシル官能性ウレタンプライマーをガラス基材に適用し、次いで部分的に反応させる。そのプライマーには、ポリオール、ポリイソシアネート、およびオルガノシランが含まれている。そのプライマーは、水溶液もしくは水分散体であってもよいし、あるいは有機溶媒中にあってもよい。環境面からの理由で、低VOCの水性の系が好ましい。
【0014】
ポリオール
本発明のプライマー組成物は、(プライマー固形分の重量を基準にして)0〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%の、1種または複数種の水に分散させるかもしくは水溶性のポリオール、またはヒドロキシル担持ポリマーを含む。それらは、コーティングの性質、たとえば可撓性、靱性、および加水分解安定性を調節するために、プライマー組成物に添加される。それらのポリオールは、以下のもののいずれかであってよい:ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、またはポリカプロラクトンポリオール。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオールが好ましいが、その理由はそれらが良好な抗加水分解性を有しているからである。過剰量のジオールおよび/またはポリオールと共に、ポリエーテルポリオールとジイソシアンテ(特に脂肪族イソシアンテを有するもの)とを付加させることによって製造されるポリウレタンポリオールも好ましい。このタイプのポリウレタンポリオールの1つの例が、BAYHYDROL VP LS 2239(Bayer製)である。
【0015】
1つの好ましいヒドロキシ官能性ポリウレタンは、水可溶性かまたは水中に分散可能なものであり、たとえば米国特許第5,852,106号明細書に記載されているような、50〜100重量パーセントの4,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンを含むポリイソシアネート成分と、1種または複数種のポリエーテルポリオールを含み、25〜350mgKOH/g固形分の間のOH価を有するポリオール成分と、塩を形成することが可能な少なくとも1個の基を含むイソシアネート反応性化合物との、反応生成物である。
【0016】
ポリイソシアネート
本発明のポリイソシアネートは、2個以上のN=C=O基を備えている。イソシアネート基が、ポリオールのヒドロキシル基と反応して、架橋されたネットワークを形成し、それが、クリアなプライマーコーティングを形成させるのに役立つ。ウレタン結合は、水素結合が存在することにより、コーティング物質の靱性も改良する。靱性は、コーティングの加水分解安定性および湿潤接着性に役立つ。その物質は、水浸漬試験における膨潤および収縮、および/または温度変化の際に起きる寸法変化が原因で生じる応力を、容易に緩和することができる。したがって、膜の層間剥離やクラックが起きることはない。NCO基はさらに、ガラス基材の上のヒドロキシ官能基(シラノール)と相互反応をし、同様にさらに反応して、強力な界面結合のためのウレタン結合を形成する。そのポリイソシアネートは、ジイソシアネート、オリゴマー性イソシアネート、またはポリマー性イソシアネートであってよい。そのポリイソシアネートが、よりフレキシブルなイソシアネートである、ポリマー性イソシアネートまたはオリゴマー性イソシアネートであるのが好ましい。単純なジイソシアンテートは、極めて剛直なので好ましくない。ポリイソシアネートが、脂肪族たとえば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H
12MDI)、およびイソホロンジイソシアネート(IPDI)をベースとするものであってもよいし、あるいはポリイソシアネートが、芳香族たとえば、トルエンジイソシアネート(TDI)およびメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)をベースとするものであってもよい。
【0017】
安定な水性組成物の一部としてポリイソシアネートを使用しようとするのなら、そのイソシアンテ基はブロックしておかねばならない。ポリイソシアネートは、典型的には、たとえばフェノール、ピリジノール、チオフェノール、メルカプトピリジン、アルコール、メルカプタン、オキシム、アミド、環状アミド、イミド、イミダゾール、アミジン、ピラゾール、1,2,4−トリアゾール、アミン、および活性メチレン化合物のようなブロック用化合物を使用して、ブロックする。一般的に使用されているブロック剤のいくつかの例は、ε−カプロラクタム、メチルエチルケトオキシム(ブタノンオキシム)、ジエチルアミン、ジメチルピラゾール、マロン酸エステル、1,2,4−トリアゾール、3,5−ジメチルピラゾール、およびイミダゾールである。
【0018】
ブロックされたポリイソシアネートは熱の存在下でそのブロック剤を放出し、その結果生じたブロックされていないイソシアネート基が、ヒドロキシル基と反応してウレタン結合を形成するか、または、メチレン−ブロックされたイソシアネートの場合においては、いくぶん弱いエステル結合が形成される。各種のブロック剤が各種の温度でブロック脱離することが知られており、たとえばアルコールは約200℃で、カプロラクタムおよびフェノールは約170℃で、オキシムは約140℃で、ピアゾールは約130℃で、そしてマロン酸エステルは約110℃でブロック脱離する。本発明においてはより低い温度でのブロック脱離(硬化)が好ましく、ブロック脱離が150℃以下であるのが好ましく、140℃以下ならより好ましい。本発明のワンポット水性組成物においては、すべてのポリイソシアネートをブロックして、安定な水性コーティングシステムを維持しなければならない。
【0019】
有機溶媒系のプライマーを使用する場合には、1種または複数種のブロックされていないポリイソシアネートを使用してもよい。ブロックされていないポリイソシアネートの利点は、それらがより低い温度で反応することができる点にある。
【0020】
コーティング組成物において使用されるポリイソシアネートの好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量パーセント、最も好ましくは少なくとも80重量パーセントが、フレキシブルなポリイソシアネートである。
【0021】
1つの好ましいブロックされたポリイソシアンテがBAYHYDUR VP LS 2240(Bayer製)であるが、このものは、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)をベースとする、水に分散させたブロックされた脂肪族ポリイソシアネート樹脂である。それは良好な膜可撓性および靱性を与え、そのことが、ガラスへのコーティングの接着に役立つ。
【0022】
また別の実施態様においては、米国特許第5,852,106号明細書に記載されているポリイソシアネートは、コーティング組成物中に、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90重量%のイソシアネートで構成されている。これらの本発明のイソシアネートは、水溶性であるかまたは水中に分散可能であり、ブロックされたイソシアンテ基を有し、2〜30重量パーセントのイソシアンテ基含量を有するポリイソシアンテ、イソシアンテ基のための可逆性で単官能のブロック剤、ノニオン性の親水性成分、ならびに1〜2個のヒドラジド基および70〜300の分子量を有する安定化成分の、反応生成物である。
【0023】
プライマーコーティング組成物においては、イソシアネート基対ヒドロキシル基のモル比は、0.01〜100の範囲、好ましくは0.1〜5の範囲、より好ましくは0.4〜2の範囲である。
【0024】
シランカップリング剤
プライマーコーティング組成物の中では、1種または複数種のオルガノシランカップリング剤を、ポリオール固形分を基準にして、0.01〜10重量%の量で使用する。シランカップリング剤の中のアルコキシ基が加水分解し、次いでガラスの表面上のヒドロキシル基と反応して、界面化学結合Si−O−Siを形成することができる。シランカップリング剤の上の有機官能基は、コーティング中のNCO基と反応することができる。
【0025】
好適なシランカップリング剤としては、アミノ、チオール、硫黄、ヒドロキシル、酸無水物、カルボン酸、アミド、イソシアネート、マスクされたイソシアネート、およびエポキシ官能基を含む、アルコキシ(たとえばメトキシまたはエトキシ)シランが挙げられる。例としては、以下のものが挙げられる:3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ならびに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン。1つの実施態様においては、そのオルガノシランカップリング剤が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとアミノプロピルトリエトキシシランとの混合物であって、その比率が(0.1:1)から(10:1)まで、好ましくは(0.5:1)から(2:1)の間の範囲である。2−パック型コーティングシステムにおいては、シランは、ヒドロキシル官能性フルオロポリマーと共に、水パックの中に存在させる。
【0026】
任意成分の添加剤
プライマーコーティング溶液にはさらに、高温下で硬化させたときのコーティングの湿潤接着性を改良するための任意成分の添加剤、たとえばIRGANOX 1010が含まれていてもよい。それは、立体障害フェノール性抗酸化剤の、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)である。それは、高温でのコーティングの硬化プロセスの際の熱酸化的分解から、コーティング物質を保護する。それが、コーティングの湿潤接着性を顕著に改良することができるということが見いだされた。1つの実施態様においては、IRGANOX 1010を、メチルイソアミルケトンの中に20%の濃度で溶解させてから、プライマーコーティング組成物に添加する。ポリウレタン固形分を基準にしたIRGANOX 1010の濃度は、0.1〜10%の範囲、好ましくは0.5〜5%の範囲である。コーティング組成物には、濡れ、脱泡、およびレベリング性を改良するための添加剤がさらに含まれていてもよい。
【0027】
プライマーコーティングは、スプレー法、ブラシ法、ディッピング法およびロールコーティング法など、各種の方法で適用することができる。プライマーのベーキングは、プライマー中での、ブロックされたイソシアネート基およびブロックされていないイソシアネート基の、ヒドロキシル基に対する当量比に依存する。その比が低い(たとえば、<0.8)かまたは高い(>1.3)場合には、プライマーは、完全ベーキング条件、たとえば、150℃×30分間で硬化させることができる。しかしながら、その比が1に近い、たとえば0.9〜1.1の範囲である場合には、プライマーは、不充分な時間でベーキングしなければならず、たとえばベーキング時間を、30分間から10分間に短縮するべきである。
【0028】
フルオロポリマーコーティングの優れた湿潤接着性が達成されるのは、乾燥させた後にプライマー層の中に過剰なイソシアネート官能基またはヒドロキシル官能基が存在していて、トップ層のフルオロポリマーコーティングの中のヒドロキシル基またはイソシアンテ基と反応して硬化した場合に限られる。そのようになれば、界面に化学結合が形成される。
【0029】
フルオロポリマーベースのトップコートを適用する前に、NCO:OHの比率が、1に近い、たとえば0.9〜1.1であるときには、そのプライマー層を部分的に硬化させることによって、過剰のイソシアネート官能基またはヒドロキシル官能基を作り出すことができる。ウレタン結合を形成するNCO基とOH基との反応の程度が、95%未満であるのが好ましく、90%未満であればより好ましい。プライマーの中でブロックされたポリイソシアネートが使用されているのなら、ガラスに対する良好な湿潤接着性を得るためには、そのプライマーコーティングを十分に高い温度でベーキングするべきであるということが見いだされた。特定の理論に拘束される訳ではないが、トップのフルオロポリマーコーティングを乾燥および硬化させているときに、プライマーからブロック剤が抜け出すことができないというのが、1つの仮説である。トラップされたブロック剤は、そのコーティングの湿潤接着性に悪影響を及ぼすことになるであろう。フルオロポリマーコーティングを適用する前に、プライマーコーティングを80〜180℃で0.1〜15分間ベーキングして、ブロック剤を放出させるべきである。好ましくは、プライマーコーティングを、120〜160℃で1〜15分間ベーキングするべきである。プライマーの硬化レベルが高すぎると、フルオロポリマーコーティングが、プライマーの中に貫入して、絡み合いおよび相互貫入ポリマーネットワークもしくは架橋を形成することが不可能となるであろう。硬化のレベルは、ベーキング(硬化)時間および温度を調節することによって、制御することができる。
【0030】
過剰のイソシアネート官能基またはヒドロキシル官能基は、プライマー組成物の中に過剰量のイソシアネート官能基またはヒドロキシル官能基を備えておくことによっても達成することが可能である。NCO:OHの比率が、1からかなり離れている、たとえば0.4〜0.9または1.1〜2である場合には、プライマー層を、組成物の中で少ない方の官能基(イソシアネート基またはヒドロキシル基)を完全に消費できるような条件で、ベーキングすることができる。プライマーコーティングは、120〜180℃で15分超で完全に硬化させることができる。たとえば、プライマーコーティングを、150℃で10分超、たとえば30分間でベーキングさせることができる。
【0031】
フルオロポリマーコーティング組成物
次いで、ヒドロキシル官能性フルオロポリマー、脂肪族ポリイソシアネート、ならびに場合によっては顔料およびその他の慣用される添加剤たとえば、融合助剤、濡れ剤、UV吸収剤、加熱安定剤などを含む水性フルオロポリマーコーティング組成物を用いて、プライマー処理されたガラスをコーティングする。トップコートのフルオロポリマーラテックスのNCO基対ヒドロキシル基の当量比は、0.1〜10、好ましくは0.7〜5である。
【0032】
ヒドロキシ官能性フルオロポリマー
本発明のコーティング組成物には、少なくとも1種のヒドロキシル官能性(または酸官能性)のフルオロポリマーが含まれる。ヒドロキシル官能性は、いくつかの手段によってフルオロポリマーの中に組み入れることができ、たとえば以下の手段が挙げられるが、これらに限定される訳ではない:1種または複数種のフルオロモノマーとフッ素化もしくは非フッ素化ヒドロキシ官能性モノマーとの直接的共重合、重合後の反応もしくはグラフト化によるフルオロポリマーの上への組み込み、フルオロポリマーとヒドロキシル官能性を有する混和性ポリマーとをブレンドすることによる組み込み。
【0033】
コーティング組成物の中のフルオロポリマーが、ヒドロキシ官能性フルオロポリマーと1種または複数種の非ヒドロキシ官能性フルオロポリマーとのブレンド物であってもよい。フルオロポリマーのブレンド物の場合においては、フルオロポリマーの少なくとも50重量パーセント、好ましくは少なくとも70重量パーセント、より好ましくは少なくとも80重量パーセント、さらにより好ましくは少なくとも90重量パーセントがヒドロキシ官能性である。コーティング組成物の中のフルオロポリマーが、ヒドロキシル官能性フルオロポリマー100パーセントであってもよい。
【0034】
「フルオロモノマー(fluoromonomer)」という用語または「フッ素化モノマー(fluorinated monomer)」という表現は、アルケンの重合に関わる二重結合に結合された、少なくとも1個のフッ素原子、フルオロアルキル基、またはフルオロアルコキシ基を含む、重合可能なアルケンを意味している。「フルオロポリマー」という用語は、少なくとも1種のフルオロモノマーを重合させることによって形成されるポリマーを意味していて、それに含まれるのは、本質的に熱可塑性である、すなわち、金型成形法プロセスおよび押出し法プロセスで実施されるように、熱を加えて流動させることによって有用な部品に成形することが可能な、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、およびより高次のポリマーである。熱可塑性ポリマーは、典型的には結晶融点を示す。
【0035】
本発明を実施するのに有用なフルオロモノマーとしては、たとえば、フッ化ビニリデン(VDFまたはVF2)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ化ビニル、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペンタフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロペン、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アリルエーテル、非フッ素化アリルエーテル、フッ素化ジオキソール、およびそれらの組合せなどが挙げられる。本発明を実施するのに有用なフルオロポリマーとしては、上述のフルオロモノマーの重合反応生成物、たとえばフッ化ビニリデン(VDF)のみを重合させることにより作製されるホモポリマーが挙げられる。上述のフルオロモノマーのコポリマー、ターポリマー、およびより高次のポリマー、たとえばフッ化ビニリデンの高次ポリマーも、本発明の実施において好適に採用することができる。
【0036】
本発明のコポリマーとしては、VDFと、TFE、HFP、またはトリフルオロエチレンとのコポリマーが挙げられる。好ましいコポリマーは、約71〜約99重量パーセントのVDFを含み、それに対応する約1〜約29重量パーセントのTFE、HFP、またはトリフルオロエチレンを含むものであろう。本発明のプロセスにより作製されるターポリマーとしては、VDF、HFP、およびTFEのターポリマー、ならびにVDF、トリフルオロエテン、およびTFEのターポリマーが挙げられる。好ましいターポリマーは、少なくとも71重量パーセントのVDFを含み、他のコモノマーが、各種の割合で、合計して多くともそのターポリマーの29重量パーセントになるように存在しいるものであってよい。
【0037】
その他の有用なフルオロポリマーとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:ポリフッ化ビニル(PVF)、クロロテトラフルオロエチレン(CTFE)、ポリテトラフルロエチレン(PTFE)、フッ素化ポリエチレンビニルエーテル、およびフッ素化エチレンビニルエステル(FEVE)。
【0038】
フルオロポリマーおよびコポリマーは、公知の方法の溶液重合、エマルション重合、および懸濁重合を使用して得ることができる。一実施態様においては、フルオロコポリマーが、フルオロ系界面活性剤を使用しないエマルションプロセスを使用して形成される。
【0039】
フルオロモノマーと共重合させる、有用なヒドロキシル官能性コモノマーとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:ヒドロキシル基含有の(メタ)アクリレート、アクリル酸、およびアクリル酸系エステルたとえば(メタ)アクリル酸アルキル、ビニルエステルたとえば重合後に部分的または全面的に加水分解させた酢酸ビニル。
【0040】
フルオロモノマーと、ヒドロキシル官能性モノマーとを直接共重合させることに加えて、他の官能性モノマーをフルオロモノマーと共重合させ、その後で、1つまたは複数の重合後反応を行わせて、ヒドロキシ官能性を導入することもできる。フルオロモノマーと共重合させ、重合後にヒドロキシル官能化させることが可能な、有用な官能性モノマーとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、マレイン酸エステルたとえば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ−n−プロピル、マレイン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジ−2−メトキシエチル、フマル酸エステルたとえば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジ−n−プロピル、フマル酸ジイソプロピル、酸無水物たとえば無水マレイン酸、ビニルエステル。フルオロポリマーに官能基をグラフトさせてから、後反応でヒドロキシル官能性を与えることも可能である。たとえば、放射線を用いてフルオロポリマーの上に無水マレイン酸をグラフトさせ、その無水物を加水分解させてヒドロキシ官能性を与えることも可能である。
【0041】
また別の実施態様においては、そのヒドロキシル官能性ポリマーを、(官能性または非官能性の)フルオロポリマーと、そのフルオロポリマーと混和性がある他のポリマーとのブレンド物とすることもできる。たとえば、ヒドロキシル官能性ポリアルキル(メタ)アクリレートは溶融状態でポリフッ化ビニリデンと混和性があるということは公知である。フルオロポリマーと混和性ポリマーとを直接ブレンドしたものを使用した際の1つの問題点は、ヒドロキシル官能性ポリマーのみが、ガラス基材にヒドロキシル−ウレタン結合を介して化学的に結合され、フルオロポリマーは、より弱い物理的な絡み合いによってのみ付着しているであろうということである。このことによって、接着結合がより弱くなる。
【0042】
また別の実施態様においては、ヒドロキシル官能性アクリリック変性フルオロポリマーハイブリッドを使用することも可能である。それらのアクリリックフルオロポリマーハイブリッドは、ラテックスエマルションプロセスにより、シードとしてフルオロポリマーを使用し、次いでそのフルオロポリマーシードの存在下に、少なくとも1種のヒドロキシル官能性(メタ)アクリレートモノマーを含む1種または複数種の(メタ)アクリリックモノマーを重合させることによって形成させる。これによって、ポリマーネットワークが形成されるが、そこでは、フルオロポリマーとアクリリックポリマーとが、物理的に密接に絡み合わされている。これらのハイブリッドポリマーの形成は、米国特許第6,680,357号明細書および米国特許出願公開第2011−0118403号明細書に記載されている(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。
【0043】
本発明の好ましい実施態様は、PVDFシードを使用し、そのフルオロポリマーシードの存在下にヒドロキシル官能性メタクリレートモノマーを重合させた、ヒドロキシル官能性アクリリック変性フルオロポリマーである。そのPVDFシードは、好ましくは、75〜95%のVDFと5〜25%のHFPのコポリマーである。
【0044】
ポリイソシアネート
フルオロポリマートップコートにおいて使用するためのポリイソシアネートは、ブロックされたポリイソシアンテまたはブロックされていないポリイソシアンテのいずれであってもよい。良好な耐候性能を得るためには、脂肪族ポリイソシアンテを使用するのが好ましい。プライマー層に良好に接着するためには、選択されるポリイソシアネートが、硬化されたフルオロポリマートップコートに十分な可撓性を与えるようにするべきである。別の言い方をすれば、硬化されたフルオロポリマーが、硬化の後ではゴム状の物質であるべきである。それがブロックされていないポリイソシアンテであるのならば、それは、コーティング溶液の粘度が上がりすぎるより前に、そのコーティングプロセスを実施するに十分な時間が得られるようなポリイソシアネートであるべきである。
【0045】
フルオロポリマーコーティング組成物においては、イソシアネート基対ヒドロキシル基のモル比は、0.01〜100の範囲、好ましくは0.5〜5の範囲、より好ましくは0.8〜2の範囲である。
【0046】
任意成分の添加剤
トップコート組成物の中に融合助剤たとえば、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(DPMAc)を存在させてもよい。これらは、コーティングされる基材の上に連続コーティングを形成させるのに役立つ。融合助剤はさらに、マルチ−パート型コーティングシステムの中へブロックされていないポリイソシアンテを分散させるのを助けるための非水性溶媒として使用することも可能である。
【0047】
その他の添加剤としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:顔料、染料、濡れ剤、UV吸収剤、熱安定剤、および典型的にはコーティング組成物に見いだされる典型的な有効レベルのその他の添加剤。
【0048】
基材
本発明のコーティング組成物は、基材に対して、その基材にいかなる(化学的または物理的)前処理もすることなく、適用することができる。最善の結果を得るためには、たとえば、窓ふき用の組成物を用いてガラスを清浄化するように、基材を清浄化しておくのが好ましい。そのコーティングは、処理した基材にも使用することは可能ではあるが、良好な接着性を得るための処理は必要ない。
【0049】
そのコーティング組成物は、ヒドロキシル−表面官能基を有する各種の基材と共に使用することができる。それには、多孔質物質、非多孔質物質の両方が含まれる。有用な基材としては、金属、紙、木材、プラスチックス、セラミックスおよびあらゆるタイプのガラスなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。本発明のコーティングは、ガラスの上にフルオロポリマーコーティングを適用する手段として、特に有用である。
【0050】
コーティングは、基材に対して公知の方法により適用することができるが、そのような方法としては、たとえばスプレー法、ブラシ法、ディッピング法およびロールコーティング法、スピンコーティング法、カーテンコーティング法、ブレードコーティング法、インクジェット法などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。コーティングは、50〜70℃の範囲内で5〜10分間、次いで100〜180℃で10〜30分間、高温でベーキングすることによって硬化させることができる。硬化には、水の蒸発と、ポリマーに接着性および架橋を与えるウレタン結合を形成させるための各種のヒドロキシル基とNCO基との間の反応とが含まれる。
【0051】
本発明に基づくコーティング組成物およびプロセスは、ガラス基材が必要とされる各種の用途で使用することができる。いくつかの例として、以下のものが挙げられる:光電池のエッジガラスコーティング、繊維ガラスコーティング、外装建築コーティングたとえばテクスチャード&デコラティブコーティング、丈の長い構造ガラスウォール&カーテン、セラミックタイプの物質たとえば磁器およびセラミックフリットコーティングしたガラスへのコーティングなど。特許請求されているコーティング組成物/方法は、各種その他の基材、たとえば金属、紙、プラスチックス、および木材に適用することも可能である。それは、場合によっては、ガラスにフルオロポリマーフィルムを接着させるための接着剤層としても使用することができる。
【0052】
トップコートは、スプレー法、ブラシ法、ディッピング法およびロールコーティング法など、各種の方法で適用することができる。トップコートは、50〜70℃の範囲内で5〜10分間、次いで100〜180℃で10〜30分間、高温でベーキングすることによって硬化させることができる。
【0053】
コーティングおよび硬化プロセス:
本発明のコーティング組成物およびプロセスを使用するとき、ガラス表面の清浄度は、良好な湿潤接着性を達成するための決定的条件ではない。従来からのガラスコーティングの手順では、ガラスを複数の工程(洗剤および溶媒洗浄を含む)または超音波撹拌の手段を用いて清浄化し、次いで乾燥させ、清浄化した表面のさらなる汚染を防止するために、直ちに使用する必要がある。時として、ガラスはさらに、化学薬品たとえば塩基性溶液またはフッ化水素酸を用いて前処理をするか、あるいは、研磨工程を用いて強い物理的な結合を得るための粗い表面を作る必要がある。本発明のプロセスにおいては、コーティングを適用する前のガラスの清浄化は極めて簡単であり、最初に洗剤を用いて洗い、次いでD.I水で洗い流す。清浄化されたガラスシートを空気乾燥させた後、それらをプラスチックの袋の中である時間、たとえば1週間保存してから、コーティングを適用することもできる。優れた接着性を示した本発明の実施例はいずれも、この清浄化手順に従ったものである。
【0054】
乾燥および硬化プロセスにおいては、最初にプライマーをベーキングし、次いでトップのフルオロポリマーコーティングを適用し、先に記したように、最初に低温で、次いで高温でベーキングする。
【0055】
硬化させた本発明のコーティングは、それらが極めて低いVOCを有していて環境に優しく、直接ガラスに対しての優れた接着性(85℃の熱水中500時間のソーキング後で、100%の接着性)、さらにはフルオロポリマー組成物が備えている優れた耐候性、耐チョーキング性、および耐薬品性を有しているという点で特に望ましく、有利なものである。
【0056】
本発明の基づくコーティング組成物およびプロセスは、ガラス基材が必要とされる各種の用途において特に有用である。いくつかの例としては、以下のものが挙げられる:平面または曲面のガラスの表面、たとえば窓、自動車、屋根、太陽電池モジュール、照明、ディスプレイ、ドア、家具、コンデンサー、コンテナー、包装材料、ボウルおよびプレート、彫刻などに用いられるガラスの上のコーティング、ガラスのエッジの上、たとえばガラスのエッジがさらに損傷されないようにするため、またはガラスの衝撃強さを改良するための用途のためのコーティング、CdTe、CIGS、a−Si、a−Si/μc−Si PV技術を含む薄膜太陽電池モジュールおよび結晶性シリコン太陽電池モジュールに使用されるガラスのエッジの上へのコーティング、ならびに、単層もしくは多層ガラスシートを含めたその他のデバイスの上のガラスのエッジの上へのコーティング。さらなる例としては、以下のものが挙げられる:ガラス繊維、繊維ガラスのためのコーティング、外装建築コーティングたとえば、テクスチャード&デコラティブコーティング、構造ガラスウォール&カーテン、その他セラミックタイプの材料たとえば、磁器、花崗岩、石材、煉瓦、コンクリート、およびセラミックフリットコーティングしたガラスの上のコーティングなど。特許請求されているコーティング組成物/方法は、各種その他の基材、たとえば金属、紙、プラスチックス、木材、および上述の基材を各種組み合わせた複合材料などに適用することも可能である。それは、場合によっては、ガラスにフルオロポリマーフィルムを接着させるための接着剤層としても使用することができる。当業者ならば、ここで提供される記述および実施例に基づいて、この技術のための類似の用途を容易に思いつくことが可能であろう。
【0057】
本発明のコーティング組成物およびプロセスは、それらが極めて低いVOCを有していて環境に優しく、ガラスに対しての優れた接着性(85℃の熱水中500時間のソーキング後で、100%の接着性)、さらにはフルオロポリマー組成物が備えている優れた耐候性、耐チョーキング性、および耐薬品性を有しているという点で特に望ましく、有利なものである。
【実施例】
【0058】
以下の実施例は、本発明のさらなる各種の態様を説明しようとするものであるが、いかなる態様においても、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0059】
原料物質:
ポリフッ化ビニリデン−アクリリックハイブリッドラテックス、Arkema Inc.から、KYNAR AQUATEC RC10267として入手可能。
BAYHYDROL VP LS 2239:水に分散させたヒドロキシ官能性ポリウレタン分散体、Bayer Material Scienceから入手可能。
BAYHYDUR VP LS 2240:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)をベースとする、水に分散させたブロックされた脂肪族ポリイソシアネート樹脂(水/MPA/キシレン(56:4.5:4.5)の中の溶液)、Bayer Material Scienceから入手可能。
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランおよびアミノプロピルトリエトキシシラン(AmPTEOS)、Gelestから入手可能。
BAYHYDUR XP 2655:ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)をベースとする親水性脂肪族ポリイソシアネート、Bayer Material Scienceから入手可能。
【0060】
配合および試験方法:
それぞれのコーティング組成物は、表1に列記した成分を穏やかに撹拌しながら合わせることにより、調製した。次いで、それぞれの組成物を、清浄化し乾燥させたガラス基材(4インチ×4インチ)に8milのスクェアを使用して適用した。そのガラス基材は、Windex洗剤を使用して清浄化し、次いでD.I水で洗い流し、空気中で乾燥させてから、コーティング組成物を適用した。
【0061】
接着性は、ASTM D 3359の碁盤目法を使用し、膜に付けた切れ目の上に粘着テープを貼り付けてから剥がすことによって評価した。それぞれのパネルに、PAT クロスハッチャーを用いて、碁盤目を付けた。1/10インチの間隔で11本の平行線の切り傷を付け、次いで、それらの組の上に、それらとは直角の方向に1/10インチの間隔で平行な切り傷を付けた。次いで、碁盤目を付けた領域について試験をしたが、それには、「けがき」をした領域の上に#99 Permacel Tapeを押さえつけ、90度の角度でテープを急速に引きはがし、コーティングと基材との間の欠陥を調べた。接着性は、「けがき」をした領域に残っている格子の数で報告する。その数が大きい程、接着性は良好である。たとえば、100%は、コーティングの剥がれが無かったことを意味し、0%は全部の膜が剥がれたことを意味している。本発明においては、乾燥接着性および湿潤接着性の両方を評価した。乾燥接着性は、コーティングを硬化させた後に試験した。湿潤接着性は、85℃の熱水に500時間コーティングをソークさせた後に試験した。
【0062】
実施例および比較例
以下の実施例を用いて、本発明を説明する。実施例1〜3においては、BAYHYDUR VP LS 2240対BAYHYDROL VP LS 2239の比率を変えて、NCO:OHの比を変化させた。NCO:OHの比は、実施例1において1に近く(すなわち、1.05)、実施例2においては1.35、実施例3においては0.53であった。NCO:OHの比に基づいて、プライマー層のベーキング条件を変化させた。実施例1においては、NCO基とOH基を部分的に反応させるために、プライマーを150℃で10分間ベーキングした。実施例2においては、BAYHYDROL VP LS 2239の中のヒドロキシル基を完全に反応させるために、プライマーを150℃で30分間ベーキングした。実施例3においては、BAYHYDUR VP LS 2240の中のイソシアネート基を完全に反応させるために、プライマーを150℃で30分間ベーキングした。プライマー層をベーキングした後で、フルオロポリマー配合のトップコートを適用した。そのフルオロポリマーコーティングにおけるNCO:OHの比は、1.47であった。トップコートを適用した後で、そのコーティングシステム全体を、55℃で10分間ベーキングし、それに続けて150℃で30分間ベーキングした。それらの乾燥接着性および湿潤接着性試験の結果を表2に示す。
【0063】
表2のリストには3つの比較例が入っている。比較例1は、プライマー層を含まない対照サンプルである。比較例2および3においては、フルオロポリマーコーティング組成物を適用する前に、プライマーを150℃で30分かけて完全に硬化させるか、全く硬化させないか、のいずれかである。
【0064】
実施例1〜3は、85℃の水中での500時間のソーキングの後でも、100%の乾燥接着性および湿潤接着性を有していた。それらの結果は、フルオロポリマーベースのトップコートを適用する前に、プライマーコーティングを部分的に硬化させてNCO基およびOH基を残すか、または添加された過剰のNCO基またはOH基で硬化させるかのいずれかのときにのみ、優れた湿潤接着性が達成されたということを示している。それとは対照的に、比較例1〜2では、プライマーを適用しなかった場合、またはプライマーを完全に硬化させてNCO基またはOH基が残らないようにした場合には、ガラスに対する接着性が乏しい。比較例3は、プライマーの中で使用されたブロックされたイソシアネートのために、良好な湿潤接着性を得るためにはそのプライマーを、ブロック剤が放出されるようにベーキングしなければならないということを示していた。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】