特許第6305998号(P6305998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6305998パワートレインの制御方法および対応するシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305998
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】パワートレインの制御方法および対応するシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20160101AFI20180326BHJP
   H02P 27/04 20160101ALI20180326BHJP
【FI】
   H02P21/00
   H02P27/04
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-519309(P2015-519309)
(86)(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公表番号】特表2016-500997(P2016-500997A)
(43)【公表日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】FR2013051570
(87)【国際公開番号】WO2014006329
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2016年7月1日
(31)【優先権主張番号】1256368
(32)【優先日】2012年7月3日
(33)【優先権主張国】FR
(31)【優先権主張番号】61/672,426
(32)【優先日】2012年7月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】メリエンヌ, リュドヴィック
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−319684(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/007387(WO,A1)
【文献】 特開2004−320945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00
H02P 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に装備され、ロータとステータとを備える電動機を含む、パワートレインの制御方法であって
記電動機のために電圧制御信号(V、V、V)を供給する前記ロータおよび前記ステータの電流(I、I、Iを調節することであって、前記調節される電流および前記電圧制御信号が、複数の軸(d、q、f)を含む回転座標系内に表される、調節することと
前記ロータおよび前記ステータの前記電流の値の測定すること(E00)と
前記測定された電流の値を前記回転座標系変換すること(E12)と
電圧制御信号の関数として前記電流の最小および最大限度を前記電流を使用せずに計算すること(E11)であって、各前記電流の前記最小および最大限度は前記電圧制御信号が適用される際に前記電流が位置すべき範囲を示している、計算すること
前記最小および最大限度と前記測定し変換された電流の値とを比較すること(E30)と
前記比較することの結果において前記測定し変換された電流の値が前記最小および最大限度の間にない場合に、前記ロータおよび前記ステータに適用される前記電圧制御信号を制限することと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記最小および最大限度を計算することが、前記電動機のモデルによって実施される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最小および最大限度を計算することの前に、較正ステップを含む、定常状態での前記電動機モデルの式を解くことを更に含む請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記最小および最大限度を計算することの前に、各電圧制御信号(V、V、V)に関する電流値(I、I、I)を定める伝達関数を決定することと、パラメータ(a、k)によって決まる前記伝達関数を包絡する関数を決定することとを更に含み、前記パラメータが較正によって決定される請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
自動車に装備されており、ロータとステータとを備える電動機を含む、パワートレインの制御システムであって、
記電動機に電圧制御信号(V、V、V)を供給する前記ロータおよび前記ステータの電流(I、I、I)の調節手段であって、前記調節される電流および前記電圧制御信号が、複数の軸(d、q、f)を含む回転座標系内に表される、調節手段と、
前記ロータおよび前記ステータの前記電流の値の測定手段と
前記測定された電流の値の前記回転座標系への変換手段と
電圧制御信号の関数として前記電流の最小および最大限度を前記電流を使用せずに計算する計算手段であって、各前記電流の前記最小および最大限度は前記電圧制御信号が適用される際に前記電流が位置すべき範囲を示している、計算手段
記最小および最大限度と前記測定し変換された電流の値とを比較する比較手段とを含み、
前記比較することの結果において前記測定し変換された電流の値が前記最小および最大限度の間にない場合に、前記調節手段は前記ロータおよび前記ステータに適用される前記電圧制御信号を制限することを特徴とするシステム。
【請求項6】
前記最小および最大限度の計算手段が、前記電動機のモデルを含む請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
定常状態での前記電動機モデルの一連の式を解く手段を含む請求項に記載のシステム。
【請求項8】
電圧制御信号(V、V、V)に関する電流値(I、I、I)を定める伝達関数の決定手段と、パラメータ(a、k)によって決まる前記伝達関数を包絡する関数の決定手段とを更に含む請求項5または6に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の制御に関し、詳細には、巻線型ロータを有する同期電動機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
巻線型ロータを有する同期電動機は、ステータと呼ばれる固定部分と、ロータと呼ばれる可動部分とを含む。ステータは、120ずらされ、かつ交流を供給される3つのコイルを含む。ロータは、直流を供給される1つのコイルを含む。ステータの相電流は、ロータおよびステータの抵抗およびインダクタンス、並びにロータおよびステータ間の相互インダクタンスによって決まる。
【0003】
従来、制御信号をステータおよびロータの電流を管理するために、制御信号が使用されている。電流の測定値によって決まる調節が、このように実施される。
【0004】
これらの測定値を供給するセンサの1つが、例えば常にゼロの強度値を示して、動作不良であるならば、調節は、電流値を増加させるために、制御信号値を増加させる。このために、制御信号値は、最大値に達するまで相違することがあり、このことは、特に高い、更には破壊的な強度値の電流の出現を引き起こす。例として、400ボルトに達する制御信号値に達することが可能であり、このことは、40000アンペアに及ぶ電流の出現を引き起こす。当然ながら、かかる電流は制御のために使用されるトランジスタ、例えば絶縁ゲートバイポーラタイプのトランジスタ(英語で「IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor」)にとって破壊的である。
【0005】
特許文献1および特許文献2において、電気機械のモデルを用いて直流を調節することが提案されたことに留意されたい。
【0006】
センサの動作不良を検出する方法を記載する、特許文献3も参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2001−268980号
【特許文献2】米国特許第5047699号 明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0008492号 明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、特にセンサの動作不良の場合に、電動機の調節を改善することである。
【0009】
一実施形態によれば、自動車に装備され、ロータとステータとを備える電動機を含む、パワートレインの制御方法であって、電動機に制御信号を送出するロータおよびステータの電流の調節を含み、前記調節すべき電流および前記制御信号が、複数の軸を含む回転座標系、例えばParkの座標系内に表される方法が提案される。
【0010】
一般的な特徴によれば、方法は、例えばセンサアセンブリによって供給される、ロータおよびステータの電流値の測定と、これらの測定の前記回転座標系内における変換と、前記制御信号に応じた各電流の最小および最大限度の決定と、前記最小および最大限度との測定信号の比較とを含む。
【0011】
このようにして、センサの動作不良の場合に間違っていることがある測定値と無関係に、最小および最大限度が決定される。これらの限度は、制御信号を適用する時に電流が位置すべき範囲を特に示す。比較の時に、測定信号が限度外にあるならば、1つまたは複数のセンサが動作不良であり、かつ電動機の使用を制限することが好ましいと考えられる。したがって、一層安定した動作および調節の改善が得られる。
【0012】
最小および最大限度の決定は、電動機のモデルを用いて実施できる。このモデルは、制御信号を電流に関連付ける一連の式を含んでも良い。これらの式は、Parkの座標系内に投影される電流および制御信号に適用され、かつParkの座標系内の抵抗およびインダクタンスの値、相互インダクタンス値または正弦波電気信号の周波数のようなパラメータによって決まっても良い。
【0013】
方法は、最小および最大限度の決定ステップに先立って、較正ステップを含む、定常状態での電動機モデルの式を解くステップを含んでも良い。
【0014】
定常状態で、電流および制御信号の間に、解くことが更に容易で、かつ一次の式が得られる。較正ステップ後に、式のあらゆるパラメータ、特には(制御信号によってしか決まらない)各電流に関する前記最小および最大限度を得るための、その最小および最大値を決定できる。
【0015】
変形形態において、方法は、最小および最大限度の決定ステップに先立って、各制御信号に関する電流値を定める伝達関数の決定と、パラメータによって決まる前記伝達関数を包絡する関数の決定とを含んでも良く、前記パラメータは、較正によって決定される。
【0016】
伝達関数を包絡する前記関数は、特に電気周波数によって決まる電流値に最小および最大限度を与えることを可能にする。このようにして、定常状態であった先の変形形態に対してより良い決定が得られる。
【0017】
一実施形態によれば、自動車に装備されており、ロータとステータとを備える電動機と、電動機に制御信号を送出するロータおよびステータの電流の調節手段とを含む、パワートレインの制御システムであって、前記調節すべき電流および前記制御信号が、複数の軸を含む回転座標系内に表される、制御システムが提案される。
【0018】
一般的な特徴によれば、システムは、ロータおよびステータの電流値の測定手段と、これらの測定の前記回転座標系内における変換手段と、前記制御信号に応じた各電流の最小および最大限度の決定手段と、前記最小および最大限度との測定信号の比較手段とを含む。
【0019】
最小および最大限度の決定手段は、電動機のモデルを含んでも良い。
【0020】
システムは、定常状態でのモデルの一連の式を解く手段を含んでも良い。
【0021】
変形形態において、システムは、各制御信号に関する電流値を定める伝達関数の決定手段と、パラメータに応じて前記伝達関数を包絡する関数の決定手段とを含んでも良い。
【0022】
他の目的、特徴および利点は、専ら非限定的な例として与えられ、かつ添付図面を参照してなされる次の明細書を読めば明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による電気パワートレインの制御方法のステップを示す図である。
図2】本発明の一実現および実施形態による第1の変形形態の結果を示す図である。
図3】本発明の一実現および実施形態による第2の変形形態の結果を示す図である。
図4】本発明の一実現および実施形態による第2の変形形態の結果を示す図である。
図5】本発明の一実現および実施形態による第2の変形形態の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、自動車に装備され、電動機を含む、パワートレインの制御方法を実施するステップを概略的に表した。当該方法は、ロータおよびステータ内を循環する電流の第1測定ステップ(ステップE00)を含み、このことにより、一方で電流値を、かつ他方で制御信号、すなわちこれらの電流を得るために適用される電圧を得られるようになる。例えば電動機または電気機械のモデルを用いて、電流値の最小および最大限度を、制御信号を用いて作成できる(ステップE11)。その上、測定電流に対してParkの変換を適用できる(ステップE12)。最後に、比較ステップE30の際に、測定および変換された値が、限度内に含まれるか確認する。値が、限度内にあるならば(ステップE40)、センサの動作不良がなく、かつ調節を継続できると評価でき、これに当たらない場合、電動機を保護するように調節を制限でき、かつ安全性を高められる。
【0025】
特に電動機のモデルを用いた、限度の取得を以下記載する。
【0026】
d、qおよびfと印を付けた3本の軸を含むParkの座標系において、同期電動機を含むパワートレインは、次式によって規定される:
【0027】
【0028】
ただし:
:d軸上の電動機の制御信号
:q軸上の電動機の制御信号
:f軸上の電動機の制御信号
:d軸上の電機子の等価インダクタンス
:q軸上の電機子の等価インダクタンス
:ロータのインダクタンス
:ステータ巻線の等価抵抗
:ロータの抵抗
:ステータおよびロータ間の相互インダクタンス
:d軸上の電流
:q軸上の電流
:f軸上の電流
α:例えば1または1.5に等しい、Parkの変換における電力保存定数
ω:機械の磁界の回転速度rad/s(同期機に関して、機械の極の対の数を乗じたロータの回転速度に等しい)
【0029】
電流値の最小および最大限度を供給する、これらの式の解法を簡略にするために、定常状態での、すなわち導き出された項が、式Eq.1においてゼロであると考えて、これらの式を書き直すことができる。このようにして、制御信号および速度に応じて各電流を表すことができる:
【0030】
【0031】
幾つかの項を再編成して、これらの式を書き直すことができる:
【0032】
【0033】
更に、(特に温度によって決まり得る)電動機または機械の異なるパラメータの最小および最大値を得られるようにする、較正ステップまたはテストを実施して、これらのパラメータを認識できる。この場合に、Gx/x(ただし、xは、d、qおよびfから選択される)と印を付けた各パラメータの最小および最大値が得られる。したがって、これらの値は、制御信号のあらゆる値に関して、かつあらゆる瞬間に、電流の最小および最大限度を供給できる。このようにして比較ステップE30を実施できる。
【0034】
図2に、最小および最大限度IqminおよびIqmaxに囲まれた電流Iの変化例を表した。少なくとも(例えば制御信号が変化しない)安定期間において、信号Iが2つの限度間に十分含まれることに留意されたい。これらの限度外の値の測定は、例えばセンサの動作不良によって示すことができる。
【0035】
特に図3図5を参照して、非定常状態に良く適した、本発明の他の変形形態を以下記載する。
【0036】
図3に、各制御信号および電流I、すなわちトルクを供給するための主電流の間の正規化伝達関数を表した。更に正確には、(TFdqと印を付けた)制御信号Vおよび電流Iの間の伝達関数と、(TFqqと印を付けた)制御信号Vおよび電流Iの間の伝達関数と、(TFfqと印を付けた)制御信号Vおよび電流Iの間の伝達関数とを表した。これらの伝達関数は、式Eq.1を用いて得られる。
【0037】
電流の最小および最大限度を得るために、図3を考慮して、これらの曲線を包絡することが可能な2つの関数(またはフィルタ)を選択できる。例えば二次関数を選択できる。更に、いわゆる緩速の、すなわちあらゆる周波数に関して、伝達関数よりも小さい利得を有するフィルタと、いわゆる急速の、すなわちあらゆる周波数に関して、伝達関数よりも大きい利得を有するフィルタとを選択できる。
【0038】
非限定的な例として、Fl(緩速フィルタ)およびFr(急速フィルタ)と印を付けた次のフィルタを選択できる。
【0039】
【0040】
ただし:
a、k:決定すべきパラメータ
z:離散要素
【0041】
較正ステップを実施して、主電流Iに関して、図4に示すような、周波数応答を与えるパラメータaおよびkの値が得られる。この図に、図3ですでに表した伝達関数TFdq、TFqqおよびTFfq を表し、かつ(Flqと印を付けた)緩速フィルタおよび(Frqと印を付けた)急速フィルタの伝達関数を表した。あらゆる周波数に関して、下側包絡線と、上側包絡線とが得られる。
【0042】
ここで2つの異なるパラメータが使用されるが、較正ステップを簡略にし、かつ記憶媒体を限定するために、唯一のパラメータを使用することが、完全に可能である。
【0043】
電流の1つの各電圧に関して、aおよびkを決定することが好ましいことに留意されたい。例えば、電流Iに関して、6つの表を予測でき、うち3つがaの値(各制御信号に1つ)を含み、かつ、うち3つがkの値(各制御信号に1つ)を含む。各表中の異なる値は、異なる速度に関して決定できる。
【0044】
較正ステップを容易にするために、以下に示すように(sと印を付けた変数を有する)ラプラス変換を使用して伝達関数を書くことができることに注目すべきである。
【0045】
【0046】
ただし:
【0047】
図3および図4でピークが得られる、特に周波数ωで、式Eq.5の伝達関数の利得を計算して、パラメータkに関する正しい値を決定でき、この周波数は、較正によって決定できる。更に、ωに関する利得をゼロと決定して、パラメータaに関する正しい値が得られる。
【0048】
このようにして、全ての可能な周波数に関して包絡線を形成する緩速および急速フィルタが得られる。更に、これらのフィルタにより、電流の変化を辿ることができる。例えば、電流に関して望ましい値が、測定値よりも大きいならば、測定されたレベルよりも常に大きい限度を供給するために、いわゆる急速フィルタを使用すべきである。反対に、電流に関して望ましい値が、測定値よりも小さいならば、限度で、電流よりも急速に減少することを妨げることが必要であり、その場合緩速フィルタを適用する:このようにして、限度が、電流よりも緩速に減少する。
【0049】
例として、(デジタルフィルタである)フィルタの適用は、したがって次の通りであっても良い:
【0050】
【0051】
式Eq.6において、eは、入口でのデータを表し、sは、ろ過された出口でのデータを表す。
【0052】
このようにして、電流Iが、電流と同じように変化する、包絡線IqminおよびIqmaxによって囲まれる図5に示したような限度が得られる。電流Iが、限度を決して越えず、このことは、センサの正しい動作に対応することに留意されたい。
【0053】
以上に記載した2つの変形形態が、パワートレインの制御システムに搭載されることに特に適することに注目できる。実際にこれらの制御システムは、限定された計算およびメモリ能力を有するマイクロプロセッサタイプの計算手段を一般的に含む。
図1
図2
図3
図4
図5