特許第6306112号(P6306112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306112
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】セメント硬化体除去方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/72 20060101AFI20180326BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C04B41/72
   E04G23/02
【請求項の数】2
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-177904(P2016-177904)
(22)【出願日】2016年9月12日
(62)【分割の表示】特願2016-44460(P2016-44460)の分割
【原出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2017-19720(P2017-19720A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年9月13日
【審判番号】不服2017-4784(P2017-4784/J1)
【審判請求日】2017年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-80952(P2015-80952)
(32)【優先日】2015年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】森田 翔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 拡
(72)【発明者】
【氏名】山本 正人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴大
(72)【発明者】
【氏名】松原 道彦
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 孝志
【合議体】
【審判長】 新居田 知生
【審判官】 山崎 直也
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−282309(JP,A)
【文献】 特開平8−175856(JP,A)
【文献】 実開昭62−189455(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B41/00-41/72
E04G23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着建材を打撃することなく、セメント硬化体が付着した付着建材から前記セメント硬化体を除去するセメント硬化体除去方法であって、
前記付着建材から前記セメント硬化体を除去するセメント硬化体除去環境の下に、前記付着建材を配置する除去工程であって、前記セメント硬化体除去環境は、前記付着建材に付着した前記セメント硬化体の少なくとも一部を加熱可能な加熱手段を備える加熱環境を含む除去工程を含み、
前記加熱環境において、下記式を満たすように、前記付着建材を加熱する、
セメント硬化体除去方法。
700[℃]≦T≦Ts[℃]
(ここで、
T:加熱温度[℃]
Ts:付着建材の焼成温度[℃])
【請求項2】
前記加熱手段は、前記セメント硬化体における前記付着建材から最も遠い側の面から加熱する、
請求項1に記載のセメント硬化体除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント硬化体除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の外壁を形成するコンクリート躯体に対して、下地モルタルや張付モルタル等(以下、セメント硬化体)を介して、煉瓦を張り付けた構造が利用されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、建築物の改修工事においては、このような建築物から煉瓦を一旦取り外し、当該取り外した煉瓦を、改修工事の完了後に壁面に再度取り付ける方法が実施されている。このような方法によれば、煉瓦を新たに焼成して利用する方法や、煉瓦に似せたプリントを壁面に張り付ける方法と比べて、元のデザインを維持することができるばかりか、煉瓦の焼成コストやプリントの作成コストを削減することが可能である。
【0003】
しかし、上記のような改修工事にて煉瓦を一旦取り外す場合、取り外した煉瓦の裏側面に上述したセメント硬化体が付着してしまうことがあり、煉瓦を再利用するためには、このセメント硬化体を煉瓦の裏側面から除去する必要があった。この除去方法は、具体的には、熟練技術を有する者が、煉瓦の裏側面に付着したセメント硬化体を、研磨機等の工具を用いて一枚一枚切削して除去するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−210116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したような、工具を用いて一枚一枚切削して除去を行う方法は、熟練技術が必要となるばかりか、多大な手間、時間、及び費用を要してしまう可能性があった。また、研磨機等を用いて切削作業を行うので、煉瓦自体を破損させてしまう可能性もあった。したがって、煉瓦に付着したセメント硬化体を簡易に除去することが可能であると共に、除去に要する手間、時間、及び費用を削減することが可能であり、かつ煉瓦の破損の可能性を低減することが可能な方法が要望されていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、付着建材(上記の煉瓦に対応)に付着したセメント硬化体を簡易に除去することが可能であると共に、除去に要する手間、時間、及び費用を削減することが可能であり、かつ付着建材の破損の可能性を低減することが可能なセメント硬化体除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載のセメント硬化体除去方法は、付着建材を打撃することなく、セメント硬化体が付着した付着建材から前記セメント硬化体を除去するセメント硬化体除去方法であって、前記付着建材から前記セメント硬化体を除去するセメント硬化体除去環境の下に、前記付着建材を配置する除去工程であって、前記セメント硬化体除去環境は、前記付着建材に付着した前記セメント硬化体の少なくとも一部を加熱可能な加熱手段を備える加熱環境を含む除去工程を含み、前記加熱環境において、下記式を満たすように、前記付着建材を加熱する。
700[℃]≦T≦Ts[℃]
(ここで、
T:加熱温度[℃]
Ts:付着建材の焼成温度[℃])
また、請求項2に記載のセメント硬化体除去方法は、請求項1に記載のセメント硬化体除去方法において、前記セメント硬化体における前記付着建材から最も遠い側の面から加熱する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載のセメント硬化体除去方法によれば、セメント硬化体除去環境の下に付着建材を配置するという極めて簡易な方法によりセメント硬化体を除去し、熟練技術を有する者による手作業を必要とせずに、付着建材に付着したセメント硬化体を簡易に除去することが可能であると共に、除去に要する手間、時間、及び費用を削減することが可能であり、かつ付着建材の破損の可能性を低減することが可能となる。
また、セメント硬化体の少なくとも一部を加熱するので、加熱による組成変化により、セメント硬化体を脆弱化させることができ、極めて簡易にセメント硬化体を除去することが可能となる。
また、下記式を満たすように、付着建材を加熱するので、手作業により簡易に除去できる状態までセメント硬化体を脆弱化させることができ、極めて簡易にセメント硬化体を除去することが可能となると共に、付着建材に影響を及ぼさない程度の温度に抑えることができ、加熱により付着建材が脆弱化してしまったり変色してしまったりすることを防止可能となる。
700[℃]≦T≦Ts[℃]
(ここで、
T:加熱温度[℃]
Ts:付着建材の焼成温度[℃])
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1に係る建築物の壁面を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るセメント硬化体除去方法の除去工程中の付着建材を示す図である。
図3】実験Aの結果を示す図である。
図4】実験Bにおける塩酸の結果を示す図であって、図4(a)は40日間浸漬後のモルタルブロックを示す写真、図4(b)はモルタル1gあたりの塩酸の水素物質量[mol/g]を示す表である。
図5】実験Bにおける塩酸の結果を示す図であって、モルタルブロックの溶解度[%]を示す図である。
図6】実験Bにおける硝酸の結果を示す図であって、図6(a)は40日間浸漬後のモルタルブロックを示す写真、図6(b)はモルタル1gあたりの硝酸の水素物質量[mol/g]を示す表である。
図7】実験Bにおける硫酸の結果を示す図であって、図7(a)は40日間浸漬後のモルタルブロックを示す写真、図7(b)はモルタル1gあたりの硫酸の水素物質量[mol/g]を示す表である。
図8】実験Bにおけるクエン酸の結果を示す図であって、図8(a)は40日間浸漬後のモルタルブロックを示す写真、図8(b)はモルタル1gあたりのクエン酸の水素物質量[mol/g]を示す表である。
図9】実験Cの結果を示す図である。
図10】塩化カルシウムの付着条件を示す表である。
図11】張付Mの接着強さ[N/mm]を示すグラフである。
図12】張付Mの界面破壊率[%]を示すグラフである。
図13】外装用MS・EPの接着強さ[N/mm]を示すグラフである。
図14】外装用MS・EPの界面破壊率[%]を示すグラフである。
図15】内装用MSの接着強さ[N/mm]を示すグラフである。
図16】内装用MSの界面破壊率[%]を示すグラフである。
図17】実験D−2の試験体の概要を示す表である。
図18】洗浄プロセス(i)に関する接着性確認試験結果を示す表である。
図19】洗浄プロセス(ii)に関する接着性確認試験結果を示す表である。
図20】実験D−3に関する洗浄の条件を示す表である。
図21】実験D−3の試験結果(塩酸浸漬)を示すグラフである。
図22】実験D−3の試験結果(塩化カルシウム浸漬)を示すグラフである。
図23】実験D−4に関する試験体の一覧表である。
図24】実験D−4に関する塩素イオン濃度測定結果(塩酸浸漬後水浸漬、水の入替え無)を示すグラフである。
図25】実験D−4に関する塩素イオン濃度測定結果(塩化カルシウム浸漬後水浸漬、水の入替え無)を示すグラフである。
図26】実験D−4に関する塩素イオン濃度測定結果(塩酸浸漬後水浸漬、水の入替え有)を示すグラフである。
図27】実験D−4に関する塩素イオン濃度測定結果(塩化カルシウム浸漬後水浸漬、水の入替え有)を示すグラフである。
図28】本発明の実施の形態2に係るセメント硬化体除去方法の除去工程中の付着建材を示す図である。
図29】実験Fの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るセメント硬化体除去方法の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0011】
[実施の形態の基本的概念]
まずは、実施の形態の基本的概念について説明する。各実施の形態は、概略的に、セメント硬化体が付着した付着建材からセメント硬化体を除去するセメント硬化体除去方法に関する。なお、「付着建材」とは、セメント硬化体が付着した様々な建材を含む概念であるが、例えば各実施の形態においては、建築物の外周面に張り付けられて利用される煉瓦であるものとして説明する。また、このセメント硬化体除去方法にてセメント硬化体が除去された付着建材の用途は任意であり、例えば元々付着建材が張り付けられていた建築物と同一の建築物又は異なる建築物に再利用しても構わないし、他の用途に利用しても構わない。ただし、各実施の形態においては、同一の建築物に再利用する場合を想定して説明する。
【0012】
[実施の形態の具体的内容]
次に、実施の形態の具体的内容について説明する。
【0013】
(実施の形態1)
まずは、実施の形態1について説明する。この実施の形態1は、概略的に、付着建材を酸溶液に浸漬することにより、付着建材からセメント硬化体を除去する方法に関する形態である。
【0014】
(構成)
まずは、本実施の形態1に係るセメント硬化体除去方法が適用される建築物1の構成について説明する。図1は、本実施の形態1に係る建築物1の壁面を示す断面図である。この図1に示すように、建築物1の壁面は、躯体2、モルタル3、及び付着建材4を備えて構成されている。なお、本実施の形態においては建築物1の「壁面」とは、外壁であるものとして説明するが、外壁に限らず、柱、梁、又は内壁等にも同様の構造を適用できる。
【0015】
(構成−躯体)
躯体2は、建築物1の壁面を構成するコンクリート製の構造体である。この躯体2は、例えば、建築物1の壁や柱等で構成されており、付着建材4を張り付ける対象となる部分である。なお、本実施の形態1において、躯体2はコンクリート製であるものとして説明するが、これに限らず、あらゆる素材の躯体2を適用することが可能である。また、躯体2の形状や大きさ等についても任意である。
【0016】
(構成−モルタル)
モルタル3は、躯体2と付着建材4の相互間に介装される公知のセメント硬化体である。このモルタル3は、概略的に、下地モルタル3aと、張付モルタル3bとを備えて構成される。
【0017】
下地モルタル3aは、躯体2の不陸整正を行うためのモルタルである。この下地モルタル3aは、躯体2の外面に直接塗布されるモルタルであり、躯体2の不陸を整正することにより、仕上がり時の意匠性を向上させる。なお、下地モルタル3aの厚みや具体的な種類については公知のものを採用できるため、詳細な説明を省略する。
【0018】
張付モルタル3bは、付着建材4を下地モルタル3aに対して張り付けるためのモルタルである。この張付モルタル3bは、下地モルタル3aの表面に塗布されるモルタルであり、付着建材4を下地モルタル3aに対して接着するために充分な接着強度を有するモルタルが適用される。なお、張付モルタル3bの厚みや具体的な種類については公知のものを採用できるため、詳細な説明を省略する。
【0019】
(構成−付着建材)
付着建材4は、躯体2の外表面に対して取り付けられた建材である。この付着建材4は、壁面に沿って縦横に複数並設されており、張付モルタル3bの外側に対して張り付けられている。ここで、各付着建材4の形状や素材は任意であるが、本実施の形態1においては、略直方体形状の公知の煉瓦であるものとして説明するが、煉瓦以外にも様々な建材(タイル等)を用いることができる。また、この付着建材4の形状は任意であるが、本実施の形態1では、図1に示す付着建材4の表面のうち、外部に露出している側の面(以下、表側面)は平坦に形成されており、付着建材4における張付モルタル3bに張り付けられている側の面(以下、裏側面)には、複数の溝部4aが形成されている。この溝部4aは、付着建材4と張付モルタル3bとの間に投錨効果を生じさせて、張付モルタル3bに対する付着建材4の接着力を増大させるためのものであって、当該溝部4aの内部には張付モルタル3bが入り込んでいる。なお、これらの表側面と裏側面とを特に区別する必要の無い場合には、単に付着建材4の「表面」と称して以下では説明する。
【0020】
(セメント硬化体除去方法)
次に、本実施の形態1に係るセメント硬化体除去方法について説明する。
【0021】
(セメント硬化体除去方法−付着建材取得工程)
まずは、セメント硬化体が付着した付着建材4を取得する付着建材取得工程を行う。なお、「セメント硬化体」とは、付着建材4に付着したセメント系の材料であって、本実施の形態1においては下地モルタル3aや張付モルタル3b等のモルタル3を含む概念である。ここで、このように付着建材4を取得する具体的な方法は任意であるが、本実施の形態1においては、下地モルタル3aや張付モルタル3bを壁面に沿ってワイヤーソーで切断することにより、取得するものとして説明する。なお、このような意図的に取り外す方法に限らず、例えば地震動や壁面の経年劣化等によって偶発的に取り外された付着建材4を取得しても当然構わない。
【0022】
(セメント硬化体除去方法−除去工程)
次に、付着建材4からセメント硬化体を除去するセメント硬化体除去環境の下に、付着建材4を配置する除去工程を実施する。図2は、本実施の形態1に係るセメント硬化体除去方法の除去工程中の付着建材4を示す図である。なお、「セメント硬化体除去環境」とは、付着建材4からセメント硬化体を除去可能な環境であって、本実施の形態1においては、付着建材4に付着したモルタル3の少なくとも一部を浸漬可能な酸溶液6を備える酸環境である。
【0023】
このように付着建材4を酸溶液6に浸漬する具体的な方法は任意であるが、本実施の形態1においては、図2に示すように、容器5の内部に酸溶液6を充填し、この酸溶液6に複数の付着建材4を浸漬する。なお、付着建材4の数は任意であるが、図2においては、1つの容器5に対して3つの付着建材4を入れたものを図示している。
【0024】
以下では、酸溶液6に浸漬することで付着建材4からモルタル3を除去できる原理について説明する。すなわち、モルタル3にはCa(OH)もしくはCaCOが含まれており、付着建材4は通常耐酸性の高い物質であるため、モルタル3と付着建材4を同時に酸溶液6に浸漬すると、Ca(OH)は中和反応により、CaCOは弱酸の遊離反応によりCa成分が酸溶液6中に溶解しモルタル3のみが溶解する。このようにモルタル3が溶解することで、付着建材4のみを取り出すことが出来る。なお、必ずしもモルタル3の全部を溶解させる必要はなく、モルタル3の一部のみを溶解させることでも足りる。すなわち、一部のみを溶解させることで、モルタル3の体積を減少させることができると共に、モルタル3と付着建材4との接触面を脆弱化させることができ、残ったモルタル3を手作業(ハンマー等による打撃)で剥離し易くすることができる。
【0025】
ここで、酸溶液6の量は、モルタル3の少なくとも一部を浸漬可能である限りにおいて任意であり、付着建材4が酸溶液6に浸漬していなくても構わないが、本実施の形態1においては、付着建材4及びモルタル3の両方が完全に浸漬される程の過剰な量の酸溶液6を用いる。
【0026】
また、酸溶液6の酸の種類は、モルタル3の少なくとも一部の成分と反応してモルタル3を溶解させることが可能な限り任意であり、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、クエン酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過臭素酸、メタ過ヨウ素酸、過マンガン酸、チオシアン酸、王水、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、酢酸、ギ酸、酒石酸、安息香酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等を用いることができる。なお、以下では、酸溶液6として塩酸を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0027】
(セメント硬化体除去方法−洗浄工程)
洗浄工程は、除去工程の後に、付着建材4の表面を洗浄し、当該付着建材4の表面(特に、裏側面)に付着した酸溶液6の残留塩を除去する工程である。すなわち、付着建材4の表面には、酸溶液6とモルタル3との反応による残留塩(例えば、酸溶液6に塩酸を用いた場合には、塩化カルシウム)が付着しており、この残留塩が付着したまま付着建材4を壁面に再利用すると、接着不良等により壁面から浮いてしまう可能性があり好ましくない。そのため、当該残留塩を付着建材4の表面から除去するために、当該洗浄工程を行う。ここで、洗浄の具体的な方法は任意で、例えば付着建材4を流水にさらしながらブラシ等で擦ることにより洗浄を行っても良いが、より好ましくは付着建材4を水に浸漬しても良い。この点の詳細については後述の実施例の実験D−4において説明する。
【0028】
(セメント硬化体除去方法−検出工程)
検出工程は、付着建材4の表面に付着した酸溶液6の残留塩を検出する工程である。すなわち、上述した塩酸の残留塩である塩化カルシウムは無色透明のため、付着建材4を洗浄した後であっても、塩化カルシウムが確実に除去されたかどうかを目視等で容易に確認することができない。そこで、このような検出工程を行うことにより、付着建材4に付着した残留塩(塩化カルシウム)が上述した洗浄工程において付着建材4から除去できているか否かを確認することができる。
【0029】
このような検出の具体的な方法は任意であるが、本実施の形態1においては、硝酸銀水溶液を噴霧する方法を採用する。具体的には、洗浄後の付着建材4に対して霧吹き等で硝酸銀水溶液を噴霧し、硝酸銀水溶液と塩化カルシウムの反応に基づいて発生する白色沈殿の有無を確認することにより、塩化カルシウムの有無を確認する。なお、このような方法は一例に過ぎず、その他の方法としては例えば、付着建材4を所定の容量の水に浸漬させ、浸漬させた水の塩分濃度を公知の塩分濃度計や検知管等を用いて確認する方法や、蛍光X線分析法により表面の塩素濃度を確認する方法等がある。このように検出工程を行うことで、塩化カルシウムの残留の有無を確認でき、洗浄忘れを防止したり、洗浄方法の改善等に役立てたりすることが可能となる。
【0030】
(実施例)
続いて、本実施の形態1に係るセメント硬化体除去方法の実施例について説明する。この実施例は、セメント硬化体除去方法においてセメント硬化体を除去するために最適な条件を特定するための実験に関するものである。
【0031】
(実験Aについて)
まずは、酸溶液6による浸漬日数とモルタル3の残存量との関係性を確認するために、実験Aを行った。この実験Aは、水素モル濃度の異なる4種の塩酸に、25mm立方のモルタルブロックを40日間浸漬し、浸漬によるモルタル3の変化量を確認する実験である。図3は、実験Aの結果を示す図である。なお、図3における横軸は浸漬日数[日]を示し、縦軸はモルタル3の残存量[g]を示す。なお、用いた4種の塩酸の水素モル濃度[mol/L]は、それぞれ0.1[mol/L]、0.5[mol/L]、1.0[mol/L]、2.0[mol/L]であり、塩酸の量はいずれも200mLである。
【0032】
この図3に示すように、いずれの水素モル濃度の塩酸においても、モルタル3の残存量は日を増す毎に指数関数的に減少していき、40日目には殆ど変化しなくなることが分かる。また、高い水素モル濃度の酸を用いる程、モルタル3の変化量や変化速度が増大することが分かる。
【0033】
(実験Bについて)
続いて、酸の種類毎の特性を検査するために、実験Bを行った。この実験Bは、種類の異なる4種の酸である塩酸、硝酸、硫酸、及びクエン酸に、25mm立方のモルタルブロックをそれぞれ40日間浸漬し、モルタルブロックの状態の推移を確認する実験である。図4は、実験Bにおける塩酸の結果を示す図であって、図4(a)は40日間浸漬後のモルタルブロックを示す写真、図4(b)はモルタル1gあたりの塩酸の水素物質量[mol/g]を示す表である。なお、図4(a)における縦軸は酸の水素モル濃度[mol/L]であり、横軸は浸漬する酸の溶液量[mL]である。また、図4(b)に示す表は、酸の水素モル濃度[mol/L]を示す行の項目「0.1[mol/L]」、「0.5[mol/L]」、「1.0[mol/L]」、「2.0[mol/L]」と、酸の溶液量[mL]を示す列の項目「50mL」、「100mL」、「200mL」、「500mL」が格納されており、行列の各項目の組み合わせに対応する情報として、モルタル1gあたりの酸の水素物質量[mol/g]が格納されている。なお、図4(a)の各モルタルブロックと、図4(b)の行列の各項目の組み合わせに対応する情報とは、相互に対応する位置関係に示されている。なお、これら図4の説明に関しては、後述する図6から図9についても、酸の種類を除いて同様である。
【0034】
図5は、実験Bにおける塩酸の結果を示す図であって、モルタルブロックの溶解度[%]を示す図である。この図5の行列の各項目は、図4(b)の行列の各項目に対応している。なお、図5の行列の各項目の組み合わせに対応する情報としては、浸漬後40日目のモルタルブロックの溶解度[%]が格納されている。ここで、「溶解度」とは、浸漬後のモルタルブロックの重量減少量を、浸漬前のモルタルブロックの重量で除し、百分率で標記したものである。
【0035】
これらの図4及び図5に示すように、モルタルブロックを塩酸に浸漬することにより、モルタルブロックを溶解させることが可能である。また、塩酸の溶液量又は水素モル濃度を増大させる程、多くのモルタルブロックを溶解させることが可能であり、特に、溶液量500mLで水素モル濃度が2.0mol/Lの場合、溶液量500mLで水素モル濃度が1.0mol/Lの場合、及び、溶液量が200mLで水素モル濃度が2.0mol/Lの場合には、モルタルブロックは100%溶解した。
【0036】
実験Bにおける硝酸の結果を示す図であって、図6(a)は40日間浸漬後のモルタルブロックを示す写真、図6(b)はモルタル1gあたりの硝酸の水素物質量[mol/g]を示す表である。図7は、実験Bにおける硫酸の結果を示す図であって、図7(a)は40日間浸漬後のモルタルブロックを示す写真、図7(b)はモルタル1gあたりの硫酸の水素物質量[mol/g]を示す表である。図8は、実験Bにおけるクエン酸の結果を示す図であって、図8(a)は40日間浸漬後のモルタルブロックを示す写真、図8(b)はモルタル1gあたりのクエン酸の水素物質量[mol/g]を示す表である。これら図6から図8に示すように、硝酸、硫酸、又はクエン酸を用いた場合であっても、塩酸と同様にモルタルブロックを溶解させることができることが分かる。ただし、硫酸を用いた場合には、析出物として発生する硫酸カルシウムが、クエン酸を用いた場合には、析出物としてクエン酸カルシウムやクエン酸水素カルシウムがモルタル3の表面を覆うことにより、酸とモルタル3との反応が遮られてしまい、反応が遅くなる可能性がある。
【0037】
(実験Cについて)
続いて、付着建材4からモルタル3を打撃により剥離し易い条件を特定するために、実験Cを行った。実験Cは、水素モル濃度及び溶液量の異なる酸溶液6に対して、25mm立方のモルタルブロックを40日間浸漬し、その後残ったモルタルブロックを取り出して、ピックとハンマーとを用いて打撃して破壊し、破壊するまでに要する打撃の回数をカウントする実験である。図9は、実験Cの結果を示す図である。ここで、付着建材4の裏側面に残ったモルタル3を打撃で除去する場合、作業効率や付着建材4本体の破損の可能性を考慮すると、除去に要する打撃の回数は、基準回数よりも少ない方が好ましい。この「基準回数」は、例えば付着建材4の強度等に基づいて任意に決定できるが、例えば本実施の形態1において、基準回数は10回であるものとする。
【0038】
ここで、図9を参照すると、基準回数以下の打撃でモルタル3を除去可能な程度に溶解可能な酸は、斜線のハッチングを付した項目の酸であり、これらの酸はいずれも、図5を参照すると、モルタル3の50%以上を溶解した酸である。なお、図5の対応する項目にも同様のハッチングを付している。すなわち、打撃回数を基準回数(10回)以下に抑えるためには、酸によりモルタル3を50%以上溶解する必要がある。ここで、図4(b)を参照すると、モルタル3の50%以上を溶解した酸(図5と同様に対応する項目にハッチングを付している)の、モルタル1gあたりの酸の水素物質量(ML/X[mol/g])は、いずれも5.0×10−3[mol/g]よりも大きいことが分かる。したがって、付着建材4からモルタル3を除去する際の好適な条件として、下記式(1)が成立する。
ML/X[mol/g]≧5.0×10−3[mol/g]・・・(1)
(ここで、
M:酸溶液6の水素モル濃度[mol/L]、
L:酸溶液6の容量[L]、
X:付着建材4に付着したモルタル3の重量[g])
【0039】
なお、上記の各実験では、モルタル3を酸溶液6に浸漬する回数は一回のみであるが、酸溶液6を複数回交換することにより、異なる酸溶液6に複数回モルタル3を浸漬しても良いし、酸溶液6を容器5に流動させて連続的に酸溶液6を添加しても良い。したがって、このような交換や添加を考慮すると、上記式(1)に基づいて、下記式(1)’が成立する。
Σ[i=1 to n](M/X)[mol/g]≧5.0×10−3[mol/g]・・・(1)’
(ここで、
i:酸溶液6を交換又は添加する回数、
n:酸溶液6を交換又は添加する総回数、
:i回目の交換又は添加における酸溶液6の水素モル濃度[mol/L]、
:i回目の交換又は添加における酸溶液6の容量[L]、
X:付着建材4に付着したモルタル3の重量[g])
【0040】
ここで、上記の酸溶液6の水素モル濃度が大きい程、上記の(1)式や、(1)’式を満たし易いが、酸溶液6の水素モル濃度が大きく劇物の条件(10wt%)を満たしてしまうと、作業時の安全上の取り扱いが難しくなる。したがって、劇物の条件(10wt%)に該当しない酸溶液6を用いるために、下記の条件を満たす酸溶液6を用いることが好ましい。
[mol/L]≦100/M[mol/L]・・・(2)
(ここで、
:酸物質の分子量)
【0041】
(実験Dについて)
続いて、酸溶液6の残留塩が、付着建材4の再利用時における壁面への接着に及ぼす影響を調査するために、実験Dを行った。この実験Dは、概略的に、付着建材4であるタイルの裏側面に残留塩を付着させてから、当該タイルを接着剤もしくはモルタルでコンクリート版に対して接着し、引張試験を行って、接着強さ及び界面破壊率を測定する実験である。
【0042】
具体的には、まず、新品のタイルの裏側面に、様々な方法で塩化カルシウムを付着させ、塩化カルシウム付着量の異なるタイルを調製した。図10は、塩化カルシウムの付着条件を示す表である。ここで、「刷毛塗」とは、十分に塩化カルシウム水溶液に浸した刷毛でタイル裏側面の端から端まで塗布し乾燥させたもので、表中の回数は、その繰り返し回数を示している。「浸漬」とは、タイルを塩化カルシウム水溶液への24時間浸漬したものである。「拭き取り」とは、タイルを塩化カルシウム水溶液に浸漬後取り出し、表面の溶液をウェスで軽くふき取ったものである。「洗浄処理」は、塩化カルシウム水溶液浸漬後ただちにタイルを水道水で流水洗浄し、金たわしで十分に洗ったものである。「裏側面付着量」とは、AからFの水準について、初期重量と塩化カルシウム付着後の乾燥重量を測定し、その差分をタイル裏側面1cmあたりの重量に換算したものである。ここで、タイルの裏側面に残留する塩化カルシウムの量は、A>B>C>D>E>F(=0)である。なお、水準Eは、付着した塩化カルシウムを洗浄により十分に除去した状態を想定している。
【0043】
次に、各水準のタイルについて、1種のモルタルと2種のタイル張り用接着剤で300×300×60mmのコンクリート版に接着した。モルタルは、タイル張り付け用既調合モルタル(以下、「張付M」とする)をメーカー標準配合で水と練り混ぜて用いた。タイル張り用弾性接着剤は、外装用変成シリコーン・エポキシ樹脂系弾性接着剤(以下、「外装用MS・EP」とする)と内装用変成シリコーン樹脂系弾性接着剤(以下「内装用MS」とする)の2種類を用いた。タイル接着後、23℃50%RHの環境下で2週間養生した。
【0044】
次に、引張試験として、タイルの表面に、40mm角の引張試験用アタッチメントをエポキシ樹脂で接着し、硬化後、アタッチメントの四周に下地までカッターを入れた。そして、万能試験機を用いて、速度3mm/minにて引張試験を行った。この際に、得られた最大荷重値を接着面積で除し、接着強さを算出した。また、試験体の破断面を観察し、接着面積から接着性の良否を判定する基準となる「タイルと接着剤もしくはモルタルの界面破壊率」を記録した。試験体数は10体で行い平均値を求めた。
【0045】
実験Dの結果を、図11から図16に示す。図11は、張付Mの接着強さ[N/mm]を示すグラフ、図12は、張付Mの界面破壊率[%]を示すグラフである。図13は、外装用MS・EPの接着強さ[N/mm]を示すグラフ、図14は、外装用MS・EPの界面破壊率[%]を示すグラフである。図15は、内装用MSの接着強さ[N/mm]を示すグラフ、図16は、内装用MSの界面破壊率[%]を示すグラフである。なお、図11図13、及び図15中のエラーバーは、引張試験における接着強さの最大値から最小値をまでの範囲を表す。
【0046】
図11に示すように、張付Mについて、すべての水準において1.0N/mm以上の平均接着強さを示した。なお、塩化カルシウムの付着量の多い、AとBでは、他の水準と比較するとやや低い接着強さであり、界面破壊率もやや高かった。また、タイルの裏足の凹凸の凸部において界面破壊が生じている状況がみられた。
【0047】
また、図13に示すように、外装用MS・EPについて、接着強さは塩化カルシウムが全く付着していないFが最も高く、その他は付着量によらず0.6N/mm以上の平均接着強さが確認できた。ただし、図14に示すように、塩化カルシウムの付着量の多いA、Bでは界面破壊率が高い結果となった。
【0048】
また、図15に示すように、内装用MSについて、概ね塩化カルシウムの付着量が多いほど接着強さが低い傾向が見られた。また、図16に示すように、洗浄処理したE以外では、付着量によらずタイルの裏側面に塩化カルシウムが付着していると界面破壊率は高い結果となった。
【0049】
以上の図11から図16に示すように、張付Mは、接着強さと界面破壊率との結果から、塩化カルシウムの付着による接着性への影響は小さいと考えられる。また、外装用MS・EPは、塩化カルシウムの付着が多いと界面破壊率が高くなる傾向が見られ、若干の影響はあるが、塩化カルシウムの付着量を抑えるもしくは洗浄により、接着性の確保が可能であると考えられる。内装用MSは、張付Mや外装用MS・EPに比べ、残留塩による接着性阻害の影響を受けやすいが、十分な洗浄により、接着性を確保できると考えられる。以上より、タイルに付着した塩化カルシウムを主とした残留塩を洗浄等により除去することで接着性を確保できると考えられる。したがって、本実施の形態のように、付着建材4の洗浄を行う洗浄工程を行うことにより、付着建材4を壁面に再利用した際に残留塩が壁面への接着を阻害してしまうことを防止可能である。
【0050】
(実験D−2について)
続いて、付着建材4に付着した塩化カルシウムを主とした残留塩の好適な洗浄工程を特定するために、実験D−2を行った。すなわち、酸浸漬によりモルタルを除去したタイルの裏面には塩化カルシウムを主成分とする塩が残っており、タイル張りの際、接着性に悪影響を及ぼすことが分かっている。そこで、当該実験D−2では、この塩を洗い流すための二種類の洗浄方法(タイル表面の流水洗浄(以下、洗浄プロセス(i)、及びタイルの水浸漬洗浄(以下、洗浄プロセス(ii))を実施し、各洗浄プロセス後のタイルの接着性を比較する実験を行った。
【0051】
具体的には、当該実験D−2では、まず、試験体を、1mol/Lの塩酸(モルタル1gあたり1.0×10−2mol以上の物質量となる溶液量)に所定の期間浸漬し、タイルに付着したモルタルを除去した後、酸溶液から取り出し、洗浄プロセス(i)又は洗浄プロセス(ii)を実施した。なお、洗浄プロセス(i)は、具体的には、水道水により流水しながらSUS製の金たわしで擦って洗った。また、洗浄プロセス(ii)は、具体的には、用いた塩酸と同量の水に21日間浸漬し、7日目と14日目には水の入替えを行い、水浸漬後にタイルの流水洗浄を行った。
【0052】
次に、洗浄したタイルを乾燥させて、その後に、3種類のタイル張付け材(上述した「張付M」、「外装用MS・EP」、「内装用MS」)を用いてコンクリート平板にタイル張りを行った。図17は、実験D−2の試験体の概要を示す表である。この図17に示すように、試験体としては、8種類の実建物から取出した解体タイルを用いた。
【0053】
そして、試験体は施工後23±2℃、(50±10)RH%下で2週間以上養生し、その後、エポキシ樹脂で引張試験用治具を取付け、万能試験機を用いて3mm/minの速度で引張試験を行い、引張強度を算出した。破壊面を観察の上、接着面積から接着性の良否を判定する基準となる破壊位置・破壊面積比率を記録した。引張試験の試験体数はそれぞれのタイル試験体について、洗浄プロセス(i)では5体、洗浄プロセス(ii)では6体行い、引張強度と破壊面積比率について平均値を算出した。図18は、洗浄プロセス(i)に関する接着性確認試験結果を示す表、図19は、洗浄プロセス(ii)に関する接着性確認試験結果を示す表である。
【0054】
これら図18及び図19の表中にはそれぞれ、引張試験後の接着強さ、界面破壊率(タイルと張付け材界面)、主な破壊箇所を示した。洗浄プロセス(i)では、それぞれの張付け材において一定の接着強さが確認できたが、外装用MS・EPや内装用MSにおいて、一部のタイル試験体においてタイル側の薄層凝集破壊やタイルと接着剤の界面破壊が見られた。一方洗浄プロセス(ii)では、外装用MS・EP、内装用MS共にほぼ接着剤の凝集破壊であり、接着強度についても洗浄プロセス(i)の結果よりも高くなっており、より良好な接着性が確認できた。張付Mについては洗浄プロセス(ii)のタイル試験体Gにおいて界面破壊率が高い結果となったが、洗浄プロセス(i)、洗浄プロセス(ii)共に1N/mm〜2N/mm以上の接着強さが確認できた。
【0055】
以上より、塩酸浸漬によりモルタルを除去したタイルの洗浄方法は、タイル表面を流水洗浄のみ実施するよりもタイルを水に一定期間浸漬することが接着性を確保する上で効果的であることがわかった。
【0056】
(実験D−3について)
続いて、洗浄の具体的な手法によりタイルの接着性に差が生じるかを確認するために、実験D−3を行った。この実験D−3は、酸浸漬によりモルタルを除去したタイルの裏面に残った塩を除去するために、様々な条件で洗浄を行い、洗浄後のタイルに残った塩を測定して比較する実験である。
【0057】
図20は、実験D−3に関する洗浄の条件を示す表である。試験は50二丁(I類・施釉)のタイルを1mol/Lに調製した塩酸および塩化カルシウム水溶液に1日浸漬させ残留塩の付着を模擬し、浸漬後「濡れ」(溶液取出し後、濡れたままの状態)と「乾き」(溶液取出し後、そのまま乾燥させた状態)の2つの水準のタイル試験体についてそれぞれ洗浄を行った。ここで、洗浄方法はタイル試験体の「水浸漬」、「流水洗浄」、「擦り洗い」の3種類の洗浄方法について検討した。「水浸漬」については、タイル試験体一枚当たりの水浸漬量を100ml、300mlとし7日間浸漬を行った。「流水洗浄」については、蛇口から出た水で洗浄したものと蛇口に市販のシャワーヘッドを取り付け、シャワーモードで洗浄したもの、高圧モードで洗浄したもので流水洗浄した。流水時間は2秒、10秒について検討した。「擦り洗い」については、タイル試験体をタワシ、スポンジ、手の3つの方法で洗浄を行い、それぞれについて擦り回数を2回と5回について検討をした。
【0058】
そして、洗浄後のタイル試験体について、タイルの裏面の蛍光X線分析を行うことで、タイル裏面に残留する塩酸や塩化カルシウム中の塩素分を測定し、洗浄状況を評価した。図21は、実験D−3の試験結果(塩酸浸漬)を示すグラフ、図22は、実験D−3の試験結果(塩化カルシウム浸漬)を示すグラフである。ここで、図21に示すように、塩酸浸漬したタイル試験体については、洗浄後にタイル試験体裏面から検出される元素に占める塩素の割合は1mass%以下となっており、洗い方の違いによらず大きな違いは見られなかった。一方、図22に示すように、塩化カルシウム浸漬したタイル試験体については、洗浄後にタイル裏面から検出される元素に示す塩素の割合は水浸漬後の結果が最も塩素の割合が低く、1mass%以下となっており、効果的に洗浄できていることが分かった。この理由は、タイルを溶液に浸漬することでタイル内部に塩分が浸透しており、表面の洗浄のみでは十分に除去できず、水に浸漬することで内部まで浸透した塩分は水に溶出し、除去できるためと考えられる。なお、塩酸については揮発性が高いことから、洗浄条件に関わらずタイルに付着した塩は揮発し検出されなかったと考えられる。
【0059】
(実験D−4について)
続いて、タイル内部に浸透した塩分を水浸漬によって十分に除去できる条件を検討するために、実験D−4を行った。すなわち、酸浸漬によりモルタルを除去したタイルの洗浄方法は、処理後のタイルを水に浸漬し残留塩を除去する方法が最も効果的であるということが、上述した実験D−2及び実験D−3により分かったため、水浸漬の詳細な条件について検討した。
【0060】
ここで、タイル内部に浸透する塩分量はタイルの吸水率により異なることが考えられるため、試験体には吸水率の異なる4種類のタイル(試験体)を用いた。図23は、実験D−4に関する試験体の一覧表である。この図23に示すように、試験体としてはJIS A−5209の吸水率区分がI類(吸水率3.0%以下)、II類(吸水率10.0%以下)、及びIII類(吸水率50.0%以下)のタイルを用いて実験を行った。なお、II類については二種類のタイルを用いた。また、各タイル試験体の大きさは、50二丁タイルの表面積と同様になるよう切断しすべての試験体を同じ大きさとした(ただし、タイル小口面は表面積には含まない)。そして、試験体は、1mol/Lに調製した塩化カルシウム水溶液および塩酸に28日間浸漬し、浸漬後取出したタイルは「濡れ」(溶液取出し後、濡れたままの状態)と「乾き」(溶液取出し後、そのまま乾燥させた状態)の2つの水準のタイル試験体について水浸漬を行った。なお、水の浸漬量は試験条件によってタイル試験体一枚当たり150mlから500mlとした。また、試験体を浸漬している水は「入替え有」、「入替え無」の2つの条件を設け、「入替え有」については、試験体を水に浸漬してから24時間後、その後は7日間毎に新しい水へ入れ替えを行い、「入替え無」については試験体の水浸漬開始後、水の入替えを行わない条件とした。各仕様における試験体数は1体として試験を実施した。
【0061】
そして、このような水浸漬開始後に、タイル内部に浸透した塩分が水に溶出する状況を評価するため、試験体を浸漬している水の塩素イオン濃度の測定を定期的に行った。塩素イオン濃度の測定には塩素イオン用検知管を用いた。なお、塩素イオン濃度の測定は試験体を水に浸漬後、1分後、1時間後、3時間後、6時間後、24時間後、その後7日間毎に28日後まで測定を行った。ただし、水の「入替え有」の試験体については水入替え直前の塩素イオン濃度の測定を行った。
【0062】
そして、水浸漬28日後の試験体について、タイル試験体裏面への塩分の残留状況を確認するため蛍光X線分析による材料分析を行い、溶液浸漬前のタイル試験体および溶液浸漬後のタイル試験体に付着する塩分量との比較を行った。
【0063】
図24は、実験D−4に関する塩素イオン濃度測定結果(塩酸浸漬後水浸漬、水の入替え無)を示すグラフ、図25は、実験D−4に関する塩素イオン濃度測定結果(塩化カルシウム浸漬後水浸漬、水の入替え無)を示すグラフ、図26は、実験D−4に関する塩素イオン濃度測定結果(塩酸浸漬後水浸漬、水の入替え有)を示すグラフ、図27は、実験D−4に関する塩素イオン濃度測定結果(塩化カルシウム浸漬後水浸漬、水の入替え有)を示すグラフである。
【0064】
これらの図24から図27に示すように、吸水率が最も小さいタイル試験体Cにおいては水浸漬により溶出する塩素分は低い結果となった。また、最も吸水率の大きいタイル試験体Sは水浸漬により塩素分を多く溶出しており、水浸漬後7日間経たないうちにほとんど溶液浸漬により吸収した塩素分を溶出する結果となった。このように、吸水率の相違により、塩素分を溶出し切るまでの期間に差異があるものの、吸水率の差異に関わらず、いずれのタイルにおいても、タイルを少なくとも7日間水浸漬することにより、グラフの傾きが小さくなり、溶液が略飽和状態となったことが分かる。したがって、タイルの内部に浸透した塩素イオンを溶出し切るためには、タイルを少なくとも7日間水浸漬することが好ましいと考えられる。
【0065】
特に、吸水率の小さいI類のタイル試験体は溶液浸漬によりほとんど塩素分を吸収せず、溶出する塩素分も小さいため、1日間水浸漬することで充分に塩素イオンを溶出できると考えられる。また、吸水率の大きいIII類のタイル試験体は溶液浸漬による塩素分の吸収が多いが、水浸漬時に溶出する速度が早いため、I類のタイル試験体と同様に、1日間水浸漬することで充分に塩素イオンを溶出できると考えられる。
【0066】
なお、水浸漬後のタイルが十分に接着性を確保できているということは、上述した実験D−2の図17及び図19より明らかである。すなわち、吸水率区分がI類の水浸漬したタイル(建物名A〜F)、及びII類の水浸漬したタイル(建物名G,H)は、図19に明らかなように十分な接着性が確保できていることが分かる。なお、吸水率区分がIII類の水浸漬したタイルについては図示していないが、図24から図27に鑑みれば、III類もI類やII類と同様に塩素イオンを溶出し切っており、I類やII類と同程度の接着性が確保できているものと考えられる。
【0067】
また図24から図27を比較すると、水替えの有無による塩素分の溶出速度への影響はほとんどないことが明らかとなった。ただし、水の入替えをせず水浸漬中の塩素イオン濃度が高い状態であると、水浸漬後のタイルの表面には塩分が残留している可能性があるため、水浸漬中に水を入替え、水浸漬終了後に表面を流水洗浄することが望ましい。
【0068】
なお、タイルの接着性阻害要因となる塩化カルシウムのタイル裏面への残留を確認する方法として、(I)硝酸銀をタイル裏面に噴霧して白色沈殿の生成を確認する方法(以下、AgNO噴霧法)や、(II)確認するタイルを所定の容量の水に浸漬させ、浸漬させた水の塩分濃度を塩素イオン用検知管を用いて測定する方法(以下、検知管法)、及び(III)XRF分析により残留するタイル裏面の塩素分を確認する方法などが考えられる。
【0069】
ここで、これまでの検討により、酸浸漬によるモルタル除去後のタイルの接着性を確保するためには、タイル内部まで浸透する塩を十分に除去することが重要であることが分かっている。この内部に浸透する塩の除去を確認できる手法は「検知管法」であり、かつ、他の手法と比較してコストも安く確認できる手法である。
さらに、タイルの吸水率が分からない場合であっても、検知管法により塩分濃度を随時測定しながら水浸漬することにより、接着に適する程度に塩が除去されたかを確認することができる。
【0070】
(実験Eについて)
続いて、付着建材4に付着した酸溶液6の残留塩の有無を確認するために、実験Eを行った。この実験Eは、概略的に、付着建材4であるタイルに硝酸銀水溶液を噴霧して、硝酸銀水溶液と塩化カルシウムの反応に基づいて発生する白色沈殿の有無を確認することにより、タイルに付着した残留塩(塩化カルシウム)の有無を確認する実験である。
【0071】
具体的には、上記の実験Dにおける水準AからFのそれぞれのタイルの裏側面に対して、濃度0.1%の硝酸銀水溶液を霧吹きに入れて噴霧し、白色沈殿の有無を確認した。結果としては、水準AからDのタイルでは白色沈殿が目視でき、残留塩が付着していることが確認でき、水準E及びFのタイルでは白色沈殿が目視できず、残留塩の付着量が極めて少ない、又は残留塩が付着していないことが確認できた。このように、残留塩の付着の有無を視える化し、白色沈殿が検出できなくなるまで上記の洗浄処理を行うことにより、残留塩による接着性阻害が生じてしまうことを防止できる。
【0072】
(実施の形態1の効果)
このように、本実施の形態1のセメント硬化体除去方法によれば、セメント硬化体除去環境の下に付着建材4を配置するという極めて簡易な方法によりモルタル3を除去し、熟練技術を有する者による手作業を必要とせずに、付着建材4に付着したモルタル3を簡易に除去することが可能であると共に、除去に要する手間、時間、及び費用を削減することが可能であり、かつ付着建材4の破損の可能性を低減することが可能となる。
【0073】
また、モルタル3の少なくとも一部を酸溶液6に浸漬するので、モルタル3を酸溶液6に溶解させて除去することができ、極めて簡易にモルタル3を除去することが可能となる。
【0074】
また、下記式(1)を満たすように、付着建材4を酸溶液6に浸漬するので、手作業によるモルタル3の除去が可能な程度に、モルタル3を溶解させることが可能となる。
Σ[i=1 to n](M/X)[mol/g]≧5.0×10−3[mol/g]・・・(1)
(ここで、
i:酸溶液6を交換又は添加する回数、
n:酸溶液6を交換又は添加する総回数、
:i回目の交換又は添加における酸溶液6の水素モル濃度[mol/L]、
:i回目の交換又は添加における酸溶液6の容量[L]、
X:付着建材4に付着したモルタル3の重量[g])
【0075】
また、i回目の交換又は添加における酸溶液6の水素モル濃度Mが、下記式(2)を満たすように、付着建材4を酸溶液6に浸漬するので、劇物に該当しない酸溶液6を用いてモルタル3の除去を行うことができ、安全かつ容易な除去が可能となる。
[mol/L]≦100/M[mol/L]・・・(2)
(ここで、
:酸物質の分子量)
【0076】
また、除去工程の後に、付着建材4の表面を洗浄し、当該付着建材4の表面に付着した酸溶液6の残留塩を除去するので、付着建材4を壁面に再利用した際に残留塩が壁面への接着を阻害してしまうことを防止可能となる。
【0077】
また、除去工程の後に、付着建材4の表面に付着した酸溶液6の残留塩を検出するので、残留塩の有無を確認して残留塩を除去でき、付着建材4を壁面に再利用した際に残留塩が壁面への接着を阻害してしまうことを一層防止可能となる。
【0078】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。この実施の形態2は、概略的に、付着建材4を加熱することにより、付着建材4からセメント硬化体を除去する方法に関する形態である。なお、本実施の形態2に係るセメント硬化体除去方法が適用される建築物1の構成については、実施の形態1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0079】
(セメント硬化体除去方法)
以下では、本実施の形態2に係るセメント硬化体除去方法について説明する。
【0080】
(セメント硬化体除去方法−付着建材取得工程)
まずは、セメント硬化体が付着した付着建材4を取得する付着建材取得工程を行う。なお、この付着建材取得工程は、実施の形態1と同様に実施できるので、詳細な説明を省略する。
【0081】
(セメント硬化体除去方法−除去工程)
次に、付着建材4から付着建材4に付着したセメント硬化体を除去するセメント硬化体除去環境の下に、付着建材4を配置する除去工程を実施する。図28は、本実施の形態2に係るセメント硬化体除去方法の除去工程中の付着建材4を示す図である。なお、「セメント硬化体除去環境」とは、付着建材4からセメント硬化体を除去可能な環境であって、本実施の形態2においては、付着建材4に付着したセメント硬化体の少なくとも一部を加熱可能な加熱手段を備える加熱環境である。
【0082】
このように付着建材4を加熱する具体的な方法は任意であるが、本実施の形態2においては、図28に示すように、加熱炉7の内部に複数の付着建材4を並べて配置し、加熱炉7により所定時間加熱する。この加熱炉7は、付着建材4に付着したセメント硬化体の少なくとも一部を加熱可能な加熱手段である。なお、付着建材4の数は任意であるが、図2においては、1つの加熱炉7に対して3つの付着建材4を入れたものを図示している。
【0083】
以下では、加熱により付着建材4からモルタル3を除去できる原理について説明する。すなわち、モルタル3は高温に加熱することで内部の成分組成が変化して脆弱化するため、付着建材4から剥離し易くなる。具体的なモルタル3の成分組成の変化の一例を以下に示す。まず、モルタル3中のセメント分には、Ca(OH)やCaCOが含まれており、このCa(OH)は、温度によって組成を変え、膨張や収縮が起こる。このCa(OH)における、加熱炉7の温度が450℃から500℃となった際の反応を下記式(α)に示す。このCaCOにおける、加熱炉7の温度を上昇させて温度が750℃付近となった際の反応を下記式(β)に示す。
Ca(OH)→CaO+HO・・・(α)
CaCO→CaO+CO・・・(β)
【0084】
これらの上記式(α)及び(β)に示すように、モルタル3中のCa(OH)が、加熱に伴ってCaOとなって収縮し、CaCOは、加熱に伴ってCaOとなって収縮し、このことによりモルタル3に微細な亀裂が入ってモルタル3が脆弱化していると考えられる。
【0085】
ここで、加熱の具体的な手段は任意で、本実施の形態2のような加熱炉7に限られず、モルタル3を加熱可能な限り任意の手段を適用できる。例えば加熱炉7のようにモルタル3を囲繞するものに限らず、モルタル3を直火で加熱するものであっても構わない。また、付着建材4の向きは任意であるが、より効果的には、モルタル3が加熱炉7における最も高温の面(加熱面)に接触するような向きで付着建材4を配置して加熱を行うことが好ましい。
【0086】
(実施例)
続いて、本実施の形態2に係るセメント硬化体除去方法の実施例について説明する。この実施例は、セメント硬化体除去方法においてセメント硬化体を除去するために最適な条件を特定するための実験に関するものである。
【0087】
(実験Fについて)
まずは、モルタル3を除去するために最適な加熱炉7の温度を確認するために、実験Fを行った。この実験Fは、加熱炉7に、モルタル3が付着した付着建材4を収容して80分間加熱を行い、加熱が完了した付着建材4を加熱炉7から取り出してハンマーで打撃し、モルタル3を除去できるまでに要する打撃の回数を計測する実験である。なお、加熱炉7の温度を、200℃、300℃、500℃、700℃、900℃、1050℃、1150℃とした場合のそれぞれについて上記の実験を行った。図29は、実験Fの結果を示す図である。ここで、付着建材4の裏側面に残ったモルタル3を打撃で除去する場合、作業効率や付着建材4本体の破損の可能性を考慮すると、除去に要する打撃の回数は、基準回数よりも少ない方が好ましい。この「基準回数」は、例えば付着建材4の強度等に基づいて任意に決定できるが、例えば本実施の形態2において、基準回数は10回であるものとする。
【0088】
ここで、図29を参照すると、基準回数以下の打撃でモルタル3を除去可能なのは、加熱炉7の加熱温度を500℃から1150℃とした場合である。すなわち、打撃回数を基準回数(10回)以下に抑えるためには、加熱炉7の温度を500℃以上に設定する必要がある。したがって、加熱炉7の温度は500℃以上とすることが好ましいが、あまりに高温であると、付着建材4自体に亀裂が入って脆弱化してしまったり、付着建材4が変色してしまったりしてしまう可能性があり好ましくない。特に付着建材4の焼成温度(例えばタイルの場合1200℃)以上の温度で加熱してしまうと、付着建材4に亀裂や変色が顕著に生じてしまう可能性があるため、焼成温度以下の温度で加熱することが好ましい。したがって、上記に基づくと、下記式(3)を満たすように、付着建材4を加熱することが好ましい。なお、ハンマーを使用せずに手による剥離が可能な温度(700℃以上)であればより好ましい。
500[℃]≦T≦Ts[℃]・・・(3)
T:加熱温度[℃]
Ts:付着建材の焼成温度[℃])
【0089】
(実施の形態2の効果)
このように、本実施の形態2のセメント硬化体除去方法によれば、モルタル3の少なくとも一部を加熱するので、加熱による組成変化により、モルタル3を脆弱化させることができ、極めて簡易にモルタル3を除去することが可能となる。
【0090】
また、下記式(3)を満たすように、付着建材4を加熱するので、手作業により簡易に除去できる状態までモルタル3を脆弱化させることができ、極めて簡易にモルタル3を除去することが可能となると共に、付着建材4に影響を及ぼさない程度の温度に抑えることができ、加熱により付着建材4が脆弱化してしまったり変色してしまったりすることを防止可能となる。
500[℃]≦T≦Ts[℃]・・・(3)
(ここで、
T:加熱温度[℃]
Ts:付着建材4の焼成温度[℃])
【0091】
〔実施の形態に対する変形例〕
以上、本発明に係る実施の形態1、2について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0092】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、上述の内容に限定されるものではなく、発明の実施環境や構成の細部に応じて異なる可能性があり、上述した課題の一部のみを解決したり、上述した効果の一部のみを奏することがある。例えば、実施の形態1、2に係るセメント硬化体除去方法によって、付着建材4に付着したセメント硬化体を簡易に除去することが可能でない場合や、除去に要する手間、時間、及び費用を削減することが可能でない場合であっても、従来と異なる技術によりセメント硬化体を除去できている場合には、本願発明の課題が解決されている。
【0093】
(寸法や材料について)
発明の詳細な説明や図面で説明した建築物1やモルタル3や付着建材4の各部の寸法、形状、比率、材料等は、あくまで例示であり、その他の任意の寸法、形状、比率、材料等とすることができる。
【0094】
(各実施の形態の相互関係)
各実施の形態に示した特徴は、相互に入れ替えたり、一方の特徴を他方に追加したりしてもよい。また、各実施の形態に係る方法のいずれか一方のみを行ったり、両方を行ったりしてもよい。例えば、実施の形態2のようにモルタル3を加熱して、モルタル3の大部分を付着建材4から除去してから、残りのモルタル3を実施の形態1のように酸溶液6で仕上げとして除去しても良い。また、付着建材4の素材に応じて酸環境と加熱環境とを使い分けても構わない。例えば、付着建材4が加熱によって変色し得る素材である場合には酸溶液6でモルタル3を除去し、付着建材4が酸によって変色し得る素材である場合には加熱でモルタル3を除去しても良い。また、付着建材4に付着したモルタル3の厚みや表面積に応じて酸環境と加熱環境とを使い分けても構わない。例えば、モルタル3の厚みが小さい場合(例えば、10mm未満)やモルタル3の表面積が小さい場合(例えば、10m未満)には、加熱を行わなくとも、酸のみで除去可能であるものとし、酸溶液6のみでモルタル3を除去しても良い。
【0095】
(酸浸漬や加熱の範囲)
各実施の形態においては、付着建材4も含めて酸環境や加熱環境に置いたが、付着建材4に付着したモルタル3のみをこれらの環境に配置しても良い。特に酸や加熱により付着建材4が変色してしまう可能性がある場合には、付着建材4が酸に浸漬されたり加熱されたりしないようにモルタル3のみを酸環境や加熱環境に置くことが好ましい。具体的には、例えば付着建材4をラッピングもしくは保護した上で酸環境や加熱環境に置いても良い。
【0096】
(付記)
付記1のセメント硬化体除去方法は、セメント硬化体が付着した付着建材から前記セメント硬化体を除去するセメント硬化体除去方法であって、前記付着建材から前記セメント硬化体を除去するセメント硬化体除去環境の下に、前記付着建材を配置する除去工程を含む。
【0097】
付記2のセメント硬化体除去方法は、付記1に記載のセメント硬化体除去方法において、前記セメント硬化体除去環境は、前記付着建材に付着した前記セメント硬化体の少なくとも一部を浸漬可能な酸溶液を備える酸環境を含む。
【0098】
付記3のセメント硬化体除去方法は、付記2に記載のセメント硬化体除去方法において、前記酸環境において、下記式(1)を満たすように、前記付着建材を前記酸溶液に浸漬する。
Σ[i=1 to n](M/X)[mol/g]≧5.0×10−3[mol/g]・・・(1)
(ここで、
i:酸溶液を交換又は添加する回数、
n:酸溶液を交換又は添加する総回数、
:i回目の交換又は添加における酸溶液の水素モル濃度[mol/L]、
:i回目の交換又は添加における酸溶液の容量[L]、
X:付着建材に付着したセメント硬化体の重量[g])
【0099】
付記4のセメント硬化体除去方法は、付記3に記載のセメント硬化体除去方法において、前記i回目の交換又は添加における酸溶液の水素モル濃度Mが、下記式(2)を満たす。
[mol/L]≦100/M[mol/L]・・・(2)
(ここで、
:酸物質の分子量)
【0100】
付記5のセメント硬化体除去方法は、付記2から4のいずれか一項に記載のセメント硬化体除去方法において、前記除去工程の後に、前記付着建材の表面を洗浄し、当該付着建材の表面に付着した前記酸溶液の残留塩を除去する洗浄工程を含む。
【0101】
付記6のセメント硬化体除去方法は、付記2から5のいずれか一項に記載のセメント硬化体除去方法において、前記除去工程の後に、前記付着建材の表面に付着した前記酸溶液の残留塩を検出する検出工程を含む。
【0102】
付記7のセメント硬化体除去方法は、付記1から6のいずれか一項に記載のセメント硬化体除去方法において、前記セメント硬化体除去環境は、前記付着建材に付着した前記セメント硬化体の少なくとも一部を加熱可能な加熱手段を備える加熱環境を含む。
【0103】
付記8のセメント硬化体除去方法は、付記7に記載のセメント硬化体除去方法において、前記加熱環境において、下記式(3)を満たすように、前記付着建材を加熱する。
500[℃]≦T≦Ts[℃]・・・(3)
(ここで、
T:加熱温度[℃]
Ts:付着建材の焼成温度[℃])
【0104】
(付記の効果)
付記1記載のセメント硬化体除去方法によれば、セメント硬化体除去環境の下に付着建材を配置するという極めて簡易な方法によりセメント硬化体を除去し、熟練技術を有する者による手作業を必要とせずに、付着建材に付着したセメント硬化体を簡易に除去することが可能であると共に、除去に要する手間、時間、及び費用を削減することが可能であり、かつ付着建材の破損の可能性を低減することが可能となる。
【0105】
付記2記載のセメント硬化体除去方法によれば、セメント硬化体の少なくとも一部を酸溶液に浸漬するので、セメント硬化体を酸溶液に溶解させて除去することができ、極めて簡易にセメント硬化体を除去することが可能となる。
【0106】
付記3記載のセメント硬化体除去方法によれば、下記式(1)を満たすように、付着建材を酸溶液に浸漬するので、手作業によるセメント硬化体の除去が可能な程度に、セメント硬化体を溶解させることが可能となる。
Σ[i=1 to n](M/X)[mol/g]≧5.0×10−3[mol/g]・・・(1)
(ここで、
i:酸溶液を交換又は添加する回数、
n:酸溶液を交換又は添加する総回数、
:i回目の交換又は添加における酸溶液の水素モル濃度[mol/L]、
:i回目の交換又は添加における酸溶液の容量[L]、
X:付着建材に付着したセメント硬化体の重量[g])
【0107】
付記4記載のセメント硬化体除去方法によれば、i回目の交換又は添加における酸溶液の水素モル濃度Mが、下記式(2)を満たすように、付着建材を酸溶液に浸漬するので、劇物に該当しない酸溶液を用いてセメント硬化体の除去を行うことができ、安全かつ容易な除去が可能となる。
[mol/L]≦100/M[mol/L]・・・(2)
(ここで、
:酸物質の分子量)
【0108】
付記5記載のセメント硬化体除去方法によれば、除去工程の後に、付着建材の表面を洗浄し、当該付着建材の表面に付着した酸溶液の残留塩を除去するので、付着建材を壁面に再利用した際に残留塩が壁面への接着を阻害してしまうことを防止可能となる。
【0109】
付記6記載のセメント硬化体除去方法によれば、除去工程の後に、付着建材の表面に付着した酸溶液の残留塩を検出するので、残留塩の有無を確認して残留塩を除去でき、付着建材を壁面に再利用した際に残留塩が壁面への接着を阻害してしまうことを一層防止可能となる。
【0110】
付記7記載のセメント硬化体除去方法によれば、セメント硬化体の少なくとも一部を加熱するので、加熱による組成変化により、セメント硬化体を脆弱化させることができ、極めて簡易にセメント硬化体を除去することが可能となる。
【0111】
付記8記載のセメント硬化体除去方法によれば、下記式(3)を満たすように、付着建材を加熱するので、手作業により簡易に除去できる状態までセメント硬化体を脆弱化させることができ、極めて簡易にセメント硬化体を除去することが可能となると共に、付着建材に影響を及ぼさない程度の温度に抑えることができ、加熱により付着建材が脆弱化してしまったり変色してしまったりすることを防止可能となる。
500[℃]≦T≦Ts[℃]・・・(3)
(ここで、
T:加熱温度[℃]
Ts:付着建材の焼成温度[℃])
【符号の説明】
【0112】
1 建築物
2 躯体
3 モルタル
3a 下地モルタル
3b 張付モルタル
4 付着建材
4a 溝部
5 容器
6 酸溶液
7 加熱炉
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