特許第6306135号(P6306135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6306135
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】エレベータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 3/02 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   B66B3/02 P
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-236723(P2016-236723)
(22)【出願日】2016年12月6日
【審査請求日】2016年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】曽根 祐輝
【審査官】 今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−017674(JP,A)
【文献】 特開2015−178397(JP,A)
【文献】 特開2012−162348(JP,A)
【文献】 特開平10−167595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00 − 3/02
B66B 1/00 − 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内に設置された乗りかごと、前記乗りかごを昇降駆動する巻上機と、前記巻上機により駆動され、前記乗りかごを昇降させるロープと、前記巻上機の駆動制御を行なうエレベータ制御装置と、前記乗りかごと前記エレベータ制御装置とを電気的に接続するテールコードと、前記巻上機の駆動軸に取付けられ、前記乗りかごの移動量を検出するパルス発生器と、前記乗りかごの昇降に追従して変位する前記ロープ及び前記テールコードの荷重を検出する荷重検出器とを備えたエレベータにおいて、前記エレベータ制御装置は、
前記昇降路内の基準位置から前記パルス発生器からのパルス数をカウントして各階床位置を含む乗りかごの移動量を当該移動量での前記荷重検出器で検出した荷重と関連付けて予め基準データとして格納しておく格納部と、
前記乗りかごに乗せる負荷分の荷重を常時更新して保持する保持部と、
前記保持部が保持する荷重を勘案して、前記荷重検出器で検出する乗りかごの現在位置の荷重と、前記格納部に格納した基準データとを比較し、その比較結果から前記乗りかごの現在位置を算出する比較演算部と、
を備えるエレベータ制御装置。
【請求項2】
前記比較演算部は、前記荷重検出器で検出する乗りかごの現在位置の荷重を、前記格納部に格納した基準データを線形補間したデータと比較して、その比較結果から前記乗りかごの現在位置を算出する、請求項1記載のエレベータ制御装置。
【請求項3】
前記格納部は、前記荷重検出器で検出した荷重に代えて、前記巻上機の駆動電力値を、各階床位置を含む乗りかごの移動量と関連付けて予め基準データとして格納しておき、
前記比較演算部は、前記巻上機による現在時点の駆動電力値と、前記格納部に格納した基準データとを比較し、その比較結果から前記乗りかごの現在位置を算出する、
請求項1または2記載のエレベータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機に取付けた第1のロータリエンコーダのインクリメンタル信号の異常出力の故障時においても、そのインクリメンタル信号の代替信号を採用することで、ロープスリップ量を加味したエレベータ乗りかごの正確な停止位置を算出することができるエレベータ制御装置が提案されている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5210260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献に記載された技術は、電動機(巻上機)に取付けた第1のパルス発生器と、巻上機とは独立していて非常停止時に発生するロープスリップ等の影響を受けない安全装置(ガバナ)等に取付けた第2のパルス発生器との比較により、ロープスリップ量を演算して、非常停止後のエレベータ乗りかごの位置を算出するものである。したがって、パルス発生器が2系統必要となるために、コストの上昇を招く点や、設置スペース、信頼性等の点で疑問が呈されている。
【0005】
本発明は前記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ロープ式エレベータに付帯する構造を増やすことなく、非常停止時などにロープスリップが発生した場合の乗りかごの位置を正確に推定することが可能なエレベータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のエレベータ制御装置は、昇降路内に設置された乗りかごと、前記乗りかごを昇降駆動する巻上機と、前記巻上機により駆動され、前記乗りかごを昇降させるロープと、前記巻上機の駆動制御を行なうエレベータ制御装置と、前記乗りかごと前記エレベータ制御装置とを電気的に接続するテールコードと、前記巻上機の駆動軸に取付けられ、前記乗りかごの移動量を検出するパルス発生器と、前記乗りかごの昇降に追従して変位する前記ロープ及び前記テールコードの荷重を検出する荷重検出器とを備えたエレベータにおいて、前記エレベータ制御装置は、前記昇降路内の基準位置から前記パルス発生器からのパルス数をカウントして各階床位置を含む乗りかごの移動量を当該移動量での前記荷重検出器で検出した荷重と関連付けて予め基準データとして格納しておく格納部と、前記乗りかごに乗せる負荷分の荷重を常時更新して保持する保持部と、前記保持部が保持する荷重を勘案して、前記荷重検出器で検出する乗りかごの現在位置の荷重と、前記格納部に格納した基準データとを比較し、その比較結果から前記乗りかごの現在位置を算出する比較演算部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係るエレベータ全体の構成を示す図。
図2】同実施形態に係る主としてエレベータ制御装置の機能構成を示す回路ブロック図。
図3】同実施形態に係るエレベータ設置時に実行する基準データ生成モード時の処理内容を示すフローチャート。
図4】同実施形態に係る基準データ生成モード時の乗りかごの移動速度と検出荷重の変化を例示する図。
図5】同実施形態に係る緊急停止後の乗りかご現在位置の正確なデータを算出する処理内容を示すフローチャート。
図6】同実施形態に係る緊急停止時を含む乗りかごの移動速度と検出荷重の変化を例示する図。
図7】第2の実施形態に係る主としてエレベータ制御装置の機能構成を示す回路ブロック図。
図8】同実施形態に係るエレベータ設置時に実行する基準データ生成モード時の処理内容を示すフローチャート。
図9】同実施形態に係る基準データ生成モード時の乗りかごの移動速度と巻上機トルクの変化を例示する図。
図10】同実施形態に係る緊急停止後の乗りかご現在位置の正確なデータを算出する処理内容を示すフローチャート。
図11】同実施形態に係る緊急停止時を含む乗りかごの移動速度と巻上機トルクの変化を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るエレベータシステム全体の構成を示す図である。なお、ここで言う「エレベータ」とは、基本的には「乗りかご」のことである。
【0009】
同図中、乗りかご10とつり合い錘11とが、巻上機12によって駆動されるメインロープ13によって保持されており、ここでは図示しない昇降路内を上下に昇降する。
【0010】
乗りかご10とつり合い錘11とはコンペンロープ14によって接続されている。さらに乗りかご10は、図示しない乗りかご内機器の制御のためにテールコード15によってエレベータ制御装置18と接続されている。メインロープ13の端部には荷重検出器16が取付けられており、その検出信号が不図示の配線によりエレベータ制御装置18に取込まれる。
【0011】
また、巻上機12の回転軸にはパルス発生器17が取付けられており、巻上機12の回転によって発生されるパルスが、乗りかご10の移動量を得るべく、不図示の配線を介して前記エレベータ制御装置18に取込まれる。
【0012】
なお図示はしないが、前記乗りかご10の昇降路内には、乗りかご10の移動範囲の上限と下限となる各位置に独立したスイッチが設置される他、各階の停止位置には、乗りかご10の通過を検知するためのセンサが設けられ、それらスイッチ及びセンサでの検出信号がそれぞれ前記エレベータ制御装置18へ出力されるものとする。
【0013】
また上記構成は、巻上機12及びエレベータ制御装置18を、昇降路上の機械室に設置する場合について説明しているが、巻上機12、エレベータ制御装置18を共に昇降路内に設置するMRL(マシンルームレス)構造のエレベータシステムに適用することも考えられる。
【0014】
その場合、エレベータ制御装置18は昇降路内の乗りかご10用のレールから突出したブラケット部や昇降路壁面等に固定され、巻上機12も前記レールの最上部に設置したマシンビーム部に設けられることとなるが、荷重検出器16がメインロープ13の端部に設置されていれば、同様の機能を実施可能となる。
【0015】
図2は、主として前記エレベータ制御装置18で乗りかご10の現在位置推定データを算出するための機能構成を示す回路ブロック図である。前記パルス発生器17から発生された、乗りかご10の昇降に応じた移動量分のパルスが加算器21に随時与えられる。この加算器21にはまた、乗りかご基準位置記憶部20から基準位置データが与えられ、その加算値である乗りかご現在位置データが基準データ処理部22へ出力される。
【0016】
基準データ処理部22は、後述する基準データ生成モード時において、前記加算器21からの乗りかご現在位置データと、前記荷重検出器16から与えられる荷重とを関連付けて基準データとして基準データ格納部23に格納させる。また基準データ格納部23には、前記メインロープ13の質量データDm、テールコード15の質量データDt、コンペンロープ14の質量データDc等の各固定値データも併せて格納される。
【0017】
基準データ処理部22は、前記基準データ格納部23に格納される基準データを適宜読出して、積載条件演算部24、比較演算部25へ送出する。
【0018】
積載条件演算部24は、前記荷重検出器16から与えられる現時点での荷重と、前記基準データ処理部22から与えられる基準データ等とにより、現在位置での積載条件、すなわち乗りかご10に乗り込んでいる乗客の質量Mpを算出し、算出結果を乗客質量保持部26に保持させる。
【0019】
さらに積載条件演算部24は、荷重検出器16から与えられる荷重から乗客質量保持部26に保持する乗客質量Mpを減じた差を算出して、算出結果を前記比較演算部25へ出力する。
【0020】
比較演算部25は、前記積載条件演算部24から与えられる荷重と、前記基準データ処理部22が前記基準データ格納部23から読出す基準データとにより、乗りかご現在位置推定データを算出する。
【0021】
なお、前記乗りかご基準位置記憶部20、加算器21、基準データ処理部22、基準データ格納部23、積載条件演算部24、比較演算部25、及び乗客質量保持部26は、電気/電子的なハードウェア回路またはコンピュータソフトウェアまたはそれらの組合せによって実現されるもので、乗りかご10に対する制御全般を実行するエレベータ制御装置18にあって、前記図2では本実施形態で特徴的な動作を行なう機能上の回路構成を抽出してブロック化して示している。
【0022】
次に前記実施形態の動作について説明する。
まず、図3により、本エレベータシステムをビルディングに設置した当初に、乗りかご10に何も乗せない無負荷の状態で1回のみ実行する、基準データ生成モード時の動作について説明する。
【0023】
その当初にエレベータ制御装置18は、乗りかご基準位置記憶部20に記憶される基準位置データに従って乗りかご10を昇降路内での基準位置まで移動させる(ステップS101)。
【0024】
当該基準位置は任意の位置として良いが、本実施形態では、乗りかご10が最下階床位置よりも低い移動可能な最下位置とする。前述した如く前記基準位置には独立したスイッチが設置され、当該スイッチでの検出結果がその基準位置に応じた数値データとして与えられる仕様となっている。
【0025】
その後、エレベータ制御装置18では乗りかご10を一定速度で一定方向(本実施形態では上方向)に移動させる(ステップS102)。この移動状態で各階床の停止位置に設置されたセンサの検出があるか否かにより、各階の停止位置を通過したか否かを判断する(ステップS103)。
【0026】
ここで各階床の停止位置に設置されたセンサの検出がなく、各階の停止位置を通過していないと判断した場合(ステップS103のNO)、エレベータ制御装置18ではまだ終端階に到達していないことを確認した上で(ステップS106)、再び前記ステップS102からの処理に戻る。
【0027】
こうしてエレベータ制御装置18では、前記ステップS102,S103,S106の処理を繰返し実行し、乗りかご10を一定速度で一定方向に移動させながら、各階床の停止位置に設置されたセンサの検出があるか、終端階に到達するのを待機する。
【0028】
前記ステップS103において、各階床の停止位置に設置されたセンサの検出があったと判断した場合(ステップS103のYES)、エレベータ制御装置18の基準データ処理部22では、その検出があった時点で荷重検出器16から得られる、無負荷状態での荷重を当該階床位置での基準データとして格納すると共に(ステップS104)、加算器21から得られる、基準位置データとパルス発生器17からのパルス数の加算値とを当該階床位置のデータとして、直前のステップS104で格納した基準データに関連付けて付帯して格納させる(ステップS105)。
【0029】
その後にエレベータ制御装置18では、前記センサの検出があった階床が終端の階床ではないことを確認した上で(ステップS106のNO)、再び前記ステップS102からの処理に戻る。
【0030】
こうして図3の処理を継続して実行し、各階床位置であると検出する毎に、無負荷状態で荷重検出器16から得られる荷重と、基準位置からのパルス発生器17のパルス数よりなる当該階床での位置データとを関連付けて基準データとして格納していく。
【0031】
そして、前記ステップS106において、センサの検出があった階床が終端の階床であることを判断した時点で(ステップS106のYES)、エレベータ制御装置18では基準データ処理部22による基準データ格納部23への全階床分の基準データの格納を終えたものとして、前記図3の処理を終了する。
【0032】
図4は、前記図3の基準データ生成モード時の処理を実行する過程で得られる、乗りかご10の移動速度S1と荷重検出器16で得られる荷重L1の変化を例示する図である。ここでは、乗りかご10の基準位置が1階であるものとして、1階から移動を開始し、一定の速度となってから当該速度を維持し、最上階の5階を超えて、停止するまでの過程を例示している。
【0033】
これに対応する荷重検出器16からの荷重L1においては、乗りかご10が移動を開始して一定速度で上昇する間、検出される値が一次直線状に漸次減少する場合を例示している。
【0034】
なお、前記乗りかご10が昇降可能な全行程の長さをL、最下部を基準位置とした現在の位置までの距離をxとした場合に、前記荷重検出器16で検出する荷重Wは、次式(1)によって定義することができる。すなわち、
W=Mc+Mp+2Dm(L−x)+Dt(x/2)+Dcx …(1)
(但し、Mc:乗りかご10の全体質量、
Mp:乗りかご10内の乗客質量、
Dm:メインロープの単位質量、
Dt:テールコードの単位質量、
Dc:コンペンロープの単位質量。)
で表される。前記式(1)中の固定値であるL,Dm,Dt,Dcは、いずれも基準データ生成モード時に、併せて前記基準データ格納部23に格納しておくものとする。
【0035】
前記ステップS104において、基準データの一部として基準データ格納部23に格納される荷重検出器16で取得される荷重Wは、最下部を基準位置とした当該階床位置までの距離をx、基準データ生成モード時の乗りかご10内の乗客質量をMとして、前記式(1)に代入することで、
=Mc+M+2Dm(L−x)+Dt(x/2)+Dcx …(2)
として求められる。
【0036】
前述した通り、基準データ生成モード時には乗りかご10を乗客なしの無負荷状態で運転させるため、M=0(ゼロ)であり、前記式(2)は、次式
1=Mc+2Dm(L−x)+Dt(x/2)+Dcx …(2)′
として表され、基準データ処理部22は前記式(2)′中のWに相当する荷重を基準データとして基準データ格納部23に格納する。
【0037】
また、前記エレベータシステムにおいて、基準データ生成モード時ではない、通常の運転時においては、乗りかご10を適宜必要な階床で停止、戸開し、その後の乗客の乗り降りの有無に拘わらず、次に戸閉して移動を開始する都度、前記積載条件演算部24により前記式(1)中の乗客質量Mpが積載条件演算部24により算出され、乗客質量保持部26に更新して保持される。
【0038】
すなわち、前記式(1)を変形して
Mp=W−Mc−2Dm(L−x)−Dt(x/2)−Dcx …(3)
となる。
【0039】
前記式(3)中の現在位置xは、加算器21の出力する現在位置データが基準データ処理部22により積載条件演算部24に送出される。また固定値である前記L,Dm,Dt,Dcは、いずれも基準データ格納部23から読出されて基準データ処理部22により積載条件演算部24に送出される。
【0040】
したがって積載条件演算部24は、乗りかご10を戸閉して移動を開始する都度、前記式(3)により随時乗客質量Mpを算出して、乗客質量保持部26の保持内容を更新設定する。
【0041】
次に、本エレベータシステムにおいて、なんらかの原因で乗りかご10を緊急停止させる状況が発生した場合の動作について説明する。この場合、メインロープ13を駆動する巻上機12においてロープスリップが発生する可能性があり、結果としてその時点で加算器21から得られる乗りかごの現在位置データが正確ではない可能性が生じる。
【0042】
そのため、エレベータ制御装置18では主として積載条件演算部24、比較演算部25を用い、乗りかご10の現在位置のより正確なデータを算出する。
【0043】
図5は、この緊急停止後にエレベータ制御装置18で実行される処理内容を例示するフローチャートである。同図においてエレベータ制御装置18では、緊急停止発生後にまず荷重検出器16からの荷重を積載条件演算部24が取得し、得た荷重からその時点で乗客質量保持部26が保持している乗客質量Mpを減じる。
【0044】
その差「W−Mp」が、前記式(2)におけるWに相当する値となるもので、こうして乗りかご10に乗客が乗っている状態でも、荷重検出器16からの荷重を、基準データ生成モード時の積載条件に相当する荷重検出器16の検出値に変換して比較演算部25へ出力する(ステップT101)。
【0045】
次いで比較演算部25が、この算出した値を用い、基準データ処理部22を介して基準データ格納部23に格納されている基準データをサーチさせ、データ中で荷重が一致する基準データがあるか否かを判断する(ステップT102)。
【0046】
ここで一致する基準データがあると判断した場合(ステップT102のYES)、乗りかご10はちょうど階床位置のいずれかにあることになるので、エレベータ制御装置18ではその基準データ中で関連付けられている乗りかご10の階床位置をそのまま現在の乗りかごの推定位置データとして出力し(ステップT103)、以上でこの図5の処理を終了すると共に、緊急停止後の最寄りの階床位置まで移動して停止させる動作に移行する。
【0047】
また前記ステップT102において、算出した荷重値と一致する荷重値を含む基準データがなかったと判断した場合(ステップT102のNO)、比較演算部25が、前記ステップT101で算出した荷重を挟んで、その荷重より大きい荷重で最も近い荷重を有する基準データと、より小さい荷重で最も近い荷重を有する基準データとを基準データ処理部22により基準データ格納部23から読出させた上で、それら2点の基準データにより現在位置xを得る線形補間演算を実行し、算出した結果を乗りかご10の現在の推定位置として出力し(ステップT104)、以上でこの図5の処理を終了すると共に、緊急停止後の最寄りの階床位置まで移動して停止させる動作に移行する。
【0048】
図6は、乗りかご10の通常運転時に緊急停止し、その後に最寄りの階床へ乗りかご10を移動させた場合の、移動速度S2と荷重検出器16での荷重L2の変化を例示する図である。
【0049】
速度S2で示すように、乗りかご10が通常走行によって、比較的高い一定速度で移動している際に、なんらかの要因による外乱を検知して緊急停止している。荷重S2においても、乗りかご10が前記比較的高い一定速度で上昇するに連れて一次直線状に漸次減少している。
【0050】
前記外乱により荷重L2の値が大きく増減した後、乗りかご10の停止により当該増減幅が順次減少している。荷重S2がようやく安定した状態となった時点で運転を再開し、今度は比較的低い一定速度でそれまでの移動方向を維持して上昇し、それに連れて荷重S2も一次直線状に漸次減少する。
【0051】
この低速での定速度運行に際して前述した図5の処理を実行することで、乗りかご10の正確な現在位置が推定できるため、エレベータ制御装置18では迅速に最寄りの階床を認識して乗りかご10を当該階床で停止させることで、緊急停止が発生してから乗客を降ろすまでの時間をより短縮できる。
【0052】
[第2の実施形態]
次いで第2の実施形態について説明する。
なお、本実施形態に係るエレベータシステム全体の構成については、前記図1に示した内容と基本的に同様であるものとして、同一部分には同一符号を用いることとして、その図示と説明とを省略する。
【0053】
図7は、主として前記エレベータ制御装置18で乗りかご10の現在位置推定データを算出するための機能構成を示す回路ブロック図である。この図7においても、前記図2で説明したエレベータ制御装置18の構成と重複する部分が多いため、同一部分には同一符号を用いて重複した内容の説明は省略して、以下、相違する部分を記述する。
【0054】
前記荷重検出器16で検出された荷重は、巻上機トルク演算部31に与えられる。この巻上機トルク演算部31は、荷重検出器16から得た荷重と、その時点の前記巻上機12に供給されている電力値、すなわち電圧値と電流値、及び巻上機12の回転数により巻上げトルクを演算し、算出した巻上げトルクを前記基準データ処理部22及び積載条件演算部24へ出力する。
【0055】
基準データ処理部22は、前記第1の実施形態での荷重検出器16からの荷重に代えて、巻上機トルク演算部31から得た巻上げトルクを用いて基準データを生成して基準データ格納部23に格納する。
【0056】
また前記積載条件演算部24も、荷重検出器16からの荷重に代えて、巻上機トルク演算部31から得た巻上げトルクを用いて、現在位置での乗りかご10の積載条件、すなわち乗りかご10に乗り込んでいる乗客の質量Mpに対応した巻上機トルクを算出し、算出結果を乗客質量保持部26に保持させる。
【0057】
さらに積載条件演算部24は、巻上機トルク演算部31から与えられる巻上げトルクから、乗客質量保持部26に保持する、乗客質量Mpに相当するトルク値を減じた差を算出して、基準データ中の無負荷の巻上げトルクに相当する算出結果を前記比較演算部25へ出力する。
【0058】
比較演算部25は、前記積載条件演算部24から与えられる巻上げトルクと、前記基準データ処理部22が前記基準データ格納部23から読出す基準データとにより、乗りかご現在位置推定データを算出する。
【0059】
なお、前記乗りかご基準位置記憶部20、加算器21、基準データ処理部22、基準データ格納部23、積載条件演算部24、比較演算部25、乗客質量保持部26及び巻上機トルク演算部31は、電気/電子的なハードウェア回路またはコンピュータソフトウェアまたはそれらの組合せによって実現されるもので、乗りかご10に対する制御全般を実行するエレベータ制御装置18にあって、前記図7では本実施形態で特徴的な動作を行なう機能上の回路構成を抽出してブロック化して示している。
【0060】
次に前記実施形態の動作について説明する。
まず、図8により、本エレベータシステムをビルディングに設置した当初に、乗りかご10に何も乗せない無負荷の状態で1回のみ実行する、基準データ生成モード時の動作について説明する。
【0061】
その当初にエレベータ制御装置18は、乗りかご基準位置記憶部20に記憶される基準位置データに従って乗りかご10を昇降路内での基準位置まで移動させる(ステップS201)。
【0062】
当該基準位置は任意の位置として良いが、本実施形態では、乗りかご10が最下階床位置よりも低い移動可能な最下位置とする。前記基準位置には独立したスイッチが設置され、当該スイッチでの検出結果がその基準位置に応じた数値データとして与えられる仕様となっているものとする。
【0063】
その後、エレベータ制御装置18では乗りかご10を一定速度で一定方向(本実施形態では上方向)に移動させる(ステップS202)。この移動状態で各階床の停止位置に設置されたセンサの検出があるか否かにより、各階の停止位置を通過したか否かを判断する(ステップS203)。
【0064】
ここで各階床の停止位置に設置されたセンサの検出がなく、各階の停止位置を通過していないと判断した場合(ステップS203のNO)、エレベータ制御装置18ではまだ終端階に到達していないことを確認した上で(ステップS206)、再び前記ステップS202からの処理に戻る。
【0065】
こうしてエレベータ制御装置18では、前記ステップS202,S203,S206の処理を繰返し実行し、乗りかご10を一定速度で一定方向に移動させながら、各階床の停止位置に設置されたセンサの検出があるか、終端階に到達するのを待機する。
【0066】
前記ステップS203において、各階床の停止位置に設置されたセンサの検出があったと判断した場合(ステップS203のYES)、エレベータ制御装置18の基準データ処理部22では、その検出があった時点で、荷重検出器16から得られる無負荷状態での荷重から巻上機トルク演算部31が算出した巻上機トルクを、当該階床位置での基準データとして格納すると共に(ステップS204)、加算器21から得られる、基準位置データとパルス発生器17からのパルス数の加算値とを当該階床位置のデータとして、直前のステップS204で格納した基準データに関連付けて付帯して格納させる(ステップS205)。
【0067】
その後にエレベータ制御装置18では、前記センサの検出があった階床が終端の階床ではないことを確認した上で(ステップS206のNO)、再び前記ステップS202からの処理に戻る。
【0068】
こうして図8の処理を継続して実行し、各階床位置であると検出する毎に、無負荷状態で荷重検出器16の荷重から巻上機トルク演算部31が算出する巻上機トルクと、基準位置からのパルス発生器17のパルス数よりなる当該階床での位置データとを関連付けて基準データとして格納していく。
【0069】
そして、前記ステップS206において、センサの検出があった階床が終端の階床であることを判断した時点で(ステップS206のYES)、エレベータ制御装置18では基準データ処理部22による基準データ格納部23への全階床分の基準データの格納を終えたものとして、前記図8の処理を終了する。
【0070】
図9は、前記図8の基準データ生成モード時の処理を実行する過程で得られる、乗りかご10の移動速度S1と巻上機トルク演算部31で算出される巻上機トルクT1の変化を例示する図である。ここでは、乗りかご10の基準位置が1階であるものとして、1階から移動を開始し、一定の速度となってから当該速度を維持し、最上階の5階を超えて、停止するまでの過程を例示している。
【0071】
これに対応する巻上機トルク演算部31が算出する巻上機トルクT1においては、その当初に乗りかご10が無負荷であり、且つ前記つり合い錘11が一般に乗りかご10の積載量の1/2に設定されていることにより、マイナス側に大きく低下した後、乗りかご10が移動を開始して一定速度で上昇する間、荷重検出器16で検出される荷重が増加するのに伴って、巻上機トルク演算部31で算出される値のマイナス分が一次直線状に漸次縮小する場合を例示している。
【0072】
前記ステップS204において、基準データの一部として基準データ格納部23に格納される、荷重検出器16の荷重から算出される巻上機トルクは、最下部を基準位置とした当該階床位置までの距離、基準データ生成モード時の乗りかご10内の乗客質量を0(ゼロ)とした場合の値である。
【0073】
また、前記エレベータシステムにおいて、基準データ生成モード時ではない、通常の運転時においては、乗りかご10を適宜必要な階床で停止、戸開し、その後の乗客の乗り降りの有無に拘わらず、次に戸閉して移動を開始する都度、前記積載条件演算部24により乗客質量Mpに対応した巻上機トルクが積載条件演算部24により算出され、乗客質量保持部26に更新して保持される。
【0074】
積載条件演算部24は、乗りかご10を戸閉して移動を開始する都度、随時乗客質量Mpに対応する巻上機トルクを算出して、乗客質量保持部26の保持内容を更新設定する。
【0075】
次に、本エレベータシステムにおいて、なんらかの原因で乗りかご10を緊急停止させる状況が発生した場合の動作について説明する。この場合、メインロープ13を駆動する巻上機12においてロープスリップが発生する可能性があり、結果としてその時点で加算器21から得られる乗りかごの現在位置データが正確ではない可能性が生じる。
【0076】
そのため、エレベータ制御装置18では主として積載条件演算部24、比較演算部25、及び巻上機トルク演算部31を用い、乗りかご10の現在位置のより正確なデータを算出する。
【0077】
図10は、この緊急停止後にエレベータ制御装置18で実行される処理内容を例示するフローチャートである。同図においてエレベータ制御装置18では、緊急停止発生後にまず荷重検出器16で得た荷重から巻上機トルク演算部31が巻上機トルクを算出し、積載条件演算部24に出力する。積載条件演算部24では積載条件演算部24から与えられる巻上機トルクからその時点で乗客質量保持部26が保持している乗客質量Mpに相当する巻上機トルクを減じる。
【0078】
その差が、無負荷状態における巻上機トルクとなるもので、こうして乗りかご10に乗客が乗っている状態でも、荷重検出器16で得た荷重から算出した巻上機トルクを、基準データ生成モード時の無負荷の積載条件に相当する巻上機トルクに変換して比較演算部25へ出力する(ステップT201)。
【0079】
次いで比較演算部25が、この算出した値を用い、基準データ処理部22を介して基準データ格納部23に格納されている基準データをサーチさせ、データ中で巻上機トルクが一致する基準データがあるか否かを判断する(ステップT202)。
【0080】
ここで一致する基準データがあると判断した場合(ステップT202のYES)、乗りかご10はちょうど階床位置のいずれかにあることになるので、エレベータ制御装置18ではその基準データ中で関連付けられている乗りかご10の階床位置をそのまま現在の乗りかごの推定位置データとして出力し(ステップT203)、以上でこの図10の処理を終了すると共に、緊急停止後の最寄りの階床位置まで移動して停止させる動作に移行する。
【0081】
また前記ステップT202において、算出した巻上機トルクと一致する巻上機トルクを含む基準データがなかったと判断した場合(ステップT202のNO)、比較演算部25が、前記ステップT201で算出した巻上機トルクを挟んで、その巻上機トルクより大きい巻上機トルクで最も近い巻上機トルクを有する基準データと、より小さい巻上機トルクで最も近い巻上機トルクを有する基準データとを基準データ処理部22により基準データ格納部23から読出させた上で、それら2点の基準データにより現在位置xを得る線形補間演算を実行し、算出した結果を乗りかご10の現在の推定位置として出力し(ステップT204)、以上でこの図10の処理を終了すると共に、緊急停止後の最寄りの階床位置まで移動して停止させる動作に移行する。
【0082】
図11は、乗りかご10の通常運転時に緊急停止し、その後に最寄りの階床へ乗りかご10を移動させた場合の、移動速度S2と荷重検出器16の荷重から巻上機トルク演算部31が算出する巻上機トルクT2の変化を例示する図である。ここでは乗りかご10に、つり合い錘11の重さを超える、定員の半数より多い乗員が存在した場合について例示している。
【0083】
速度S2で示すように、乗りかご10が通常走行によって、比較的高い一定速度で移動している際に、なんらかの要因による外乱を検知して緊急停止している。巻上機トルクT2においても、移動初期の立ち上がりから移動速度の上昇につれて漸次減少し、前記比較的高い一定速度となる際に上昇した後、前記外乱による乗りかご10の停止に合わせて急増減し、一旦0(ゼロ)となっている。
【0084】
その後、運転を再開した時点で巻上機トルクT2は再度の移動初期の立ち上がりから、今度は比較的低い一定速度で乗りかご10が運転されるのにつれて漸次増加している。
【0085】
この低速での定速度運行に際して前述した図10の処理を実行することで、乗りかご10の正確な現在位置が推定できるため、エレベータ制御装置18では迅速に最寄りの階床を認識して乗りかご10を当該階床で停止させることで、緊急停止が発生してから乗客を降ろすまでの時間をより短縮できる。
【0086】
加えて前記第2の実施形態では、前記第1の実施形態での荷重検出器16で得た荷重に代えて、巻上機12に必要な巻上機トルクの値を用いている。そのため、緊急停止時などに乗りかご10内で乗客が移動するなど、荷重の変動による影響を受けにくく、より安定して高い精度で乗りかご10の現在位置を推定することができる。
【0087】
このように各実施形態について説明した如く、ロープ式エレベータに付帯する構造を増やすことなく、非常停止時などにロープスリップが発生した場合の乗りかごの位置を正確に推定することが可能となる。
【0088】
加えて前記各実施形態では、乗りかご10に乗せている負荷分の荷重あるいはその荷重に相当する巻上機トルクを常時更新して保持し、その時点で得られる荷重検出器16の出力から無負荷状態での同値を算出した上で、基準データとの比較を行なうものとしたため、無負荷状態で生成された基準データに整合して、より正確に現在位置を推定できる。
【0089】
さらに前記各実施形態では、基準データで該当する荷重あるいはその荷重に相当する巻上機トルクと一致するものがない場合に、最も近い2つの基準データを用いた線形補間演算により乗りかご10の現在位置を算出するものとしたため、演算を行なう部位での処理の負担を軽減し、より迅速に乗りかご10の現在位置を算出することができる。
【0090】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
10…乗りかご、11…つり合い錘、12…巻上機、13…メインロープ、14…コンペンロープ、15…テールコード、16…荷重検出器、17…パルス発生器、18…エレベータ制御装置、20…乗りかご基準位置記憶部、21…加算器、22…基準データ処理部、23…基準データ格納部、24…積載条件演算部、25…比較演算部、26…乗客質量保持部(Mp)、31…巻上機トルク演算部。
【要約】
【課題】ロープ式エレベータに付帯する構造を増やすことなく、非常停止時などにロープスリップが発生した場合の乗りかごの位置を正確に推定すること。
【解決手段】昇降路内の基準位置からパルス発生器からのパルス数をカウントして各階床位置を含む乗りかごの移動量を当該移動量での荷重検出器で検出した荷重と関連付けて予め基準データとして格納しておく基準データ格納部23と、荷重検出器16で検出する乗りかごの現在位置の荷重と、基準データ格納部23に格納した基準データとを比較してその結果から乗りかごの現在位置を算出する基準データ処理部22、積載条件演算部24及び比較演算部25とを備える。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11