(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306158
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】回転電機電源装置、回転電機システムおよび回転電機運転方法
(51)【国際特許分類】
H02P 27/00 20060101AFI20180326BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
H02P27/00
H02P27/06
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-514549(P2016-514549)
(86)(22)【出願日】2014年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2014002346
(87)【国際公開番号】WO2015162649
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】吉満 哲夫
【審査官】
▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−299952(JP,A)
【文献】
特開2008−306914(JP,A)
【文献】
特開昭58−172952(JP,A)
【文献】
H.UEHARA et al.,Polarity Effect of Water Treeing Using New WaterElectrode Method,2013 IEEE Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena,米国,CEIDP,2013年,506-509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/00
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機内の絶縁部分における水トリーの発生を防止するための前記回転電機に電力を供給する回転電機電源装置であって、
交流電力を発生させる交流電力発生部と、
前記交流電力の各相の電圧に等しく重畳する直流電圧分を供給する直流バイアス電力発生部と、
を備え、
前記回転電機に供給される電力の電圧は、アースに対して同一の極性を維持する、
ことを特徴とする回転電機電源装置。
【請求項2】
前記回転電機に供給される電力の電圧はアースに対して負極性であることを特徴とする請求項1に記載の回転電機電源装置。
【請求項3】
前記交流電力発生部は、
商用電源の1相を1次側入力とし2次側を前記回転電機へ供給する1相として出力する第1相用変圧器と、
商用電源の他の1相を1次側入力とし2次側を前記回転電機へ供給する他の1相として出力する第2相用変圧器と、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機電源装置。
【請求項4】
前記交流電力発生部は、
直流電源と、
前記直流電源からの直流電力を交流に変換する直流交流変換装置と、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機電源装置。
【請求項5】
回転電機と、前記回転電機内の絶縁部分における水トリーの発生、進展を防止するために設けられ前記回転電機へ電力を供給する回転電機電源装置を備える回転電機システムであって、
前記回転電機電源装置は、
交流電力を発生させる交流電力発生部と、
前記交流電力の各相の電圧に等しく重畳する直流電圧分を供給する直流バイアス電力発生部と、
を備え、
前記回転電機に供給される電力の電圧は、同一の極性を維持する、
ことを特徴とする回転電機システム。
【請求項6】
回転電機内の絶縁部分における水トリーの発生、進展を防止するための回転電機の運転方法であって、
交流電力の各相に等しく、直流電圧を重畳して、アースに対して同一の極性を維持する電圧の電力を前記回転電機に供給することにより前記回転電機を運転することを特徴とする回転電機運転方法。
【請求項7】
前記回転電機に供給される電力の電圧は負極性であることを特徴とする請求項6に記載の回転電機運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の電源装置、これを用いた回転電機システム、および回転電機の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に配置され、直接に水にさらされ使用されるケーブルは、導電体である銅線を高分子材料等からなる絶縁部で覆われているものがある。ここで、高分子材料には、例えばポリエチレンなどの熱可塑性樹脂や架橋ポリエチレン(Cross−Linked Polyethylene、以下、XLPEと呼ぶ。)等の熱硬化性樹脂が用いられることが多い。
【0003】
水中に配置されるこれら絶縁ケーブルでは、50Hzや60Hzの商用周波数の交流電圧を発生する電源装置あるいは各種周波数の交流電圧を発生する直流交流変換電源装置から発生する交流電圧が伝播する。上記のような状態でこのような絶縁ケーブルを、交流電圧を作用させた状態で数年間水中で使用すると、XLPE等の絶縁部に水トリーが発生、進展する可能性がある。水トリーとは、長時間にわたって水が共存する状態で、絶縁部に電界が作用したときに、絶縁部の絶縁材料に生じるトリー(樹枝)状の絶縁劣化現象であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−103158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水中で使用される電動機などの回転電機においては、以上のようにその絶縁部が水中環境内に置かれて使用される。このため、水トリー現象の発生を抑制することが、特に水中で使用される回転電機の長期信頼性を確保するために、特に重要な課題である。
【0006】
そこで、本発明は、回転電機の絶縁部の水トリー現象の発生、進展を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、回転電機内の絶縁部分における水トリーの発生を防止するための前記回転電機に電力を供給する回転電機電源装置であって、交流電力を発生させる交流電力発生部と、前記交流電力の
各相の電圧に
等しく重畳する直流電圧分を供給する直流バイアス電力発生部と、を備え、前記回転電機に供給される電力の電圧は、アースに対して同一の極性を維持する、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、回転電機と、前記回転電機内の絶縁部分における水トリーの発生、進展を防止するために設けられ前記回転電機へ電力を供給する回転電機電源装置を備える回転電機システムであって、前記回転電機電源装置は、交流電力を発生させる交流電力発生部と、前記交流電力の
各相の電圧に
等しく重畳する直流電圧分を供給する直流バイアス電力発生部と、を備え、前記回転電機に供給される電力の電圧は、同一の極性を維持する、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、回転電機内の絶縁部分における水トリーの発生、進展を防止するための回転電機の運転方法であって、交流電力
の各相に等しく、直流電圧を重畳して、アースに対して同一の極性を維持する電圧の電力を前記回転電機に供給することにより前記回転電機を運転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転電機の絶縁部の水トリー現象の発生、進展を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る回転電機システムの構成を示す概念的ブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る回転電機電源装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る回転電機電源装置の出力電圧の時間変化を示すグラフである。
【
図4】第1の実施形態に係る回転電機電源装置に駆動される交流電動機への入力の線間電圧の時間変化を示すグラフである。
【
図5】第1の実施形態に係る回転電機運転方法の効果を説明するための水トリーの発生進展実験での水トリーの進展長さの比較を示すグラフである。
【
図6】第1の実施形態に係る回転電機運転方法の効果を説明するための水トリーの発生進展実験での水トリーの幅の比較を示すグラフである。
【
図7】第2の実施形態に係る回転電機電源装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る回転電機電源装置、回転電機システムおよび回転電機運転方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る回転電機システムの構成を示す概念的ブロック図である。本実施形態では、回転電機が交流電動機1の場合を示す。回転電機システム200は、交流電動機(回転電機)1および回転電機電源装置100を有する。交流電動機1は、
図1では、水550の中に置かれている場合を示している。交流電動機1の筐体1aが接地されている。交流電動機1が水550の中に置かれているため、筐体1aの内部にも水550が充満している。このため、交流電動機1内の絶縁物の外部も水550に接している。図示しない導体などの被覆の外側も水550に接しており、被覆の外部は接地電圧(アース)と等しくなっている。
【0014】
回転電機電源装置100は、直流バイアス電力発生部10および交流電力発生部20を有する。直流バイアス電力発生部10は、たとえば直流電源である。交流電力発生部20は、3相交流電力を発生する。交流電力発生部20で発生した3相交流電力は、電力移送部40を介して、交流電動機1に供給される。
【0015】
後述するように、交流電力発生部20で発生した交流電力の電圧は、直流バイアス電力発生部10による直流分だけシフトする。直流分の電圧値は、交流電力の電圧の片振幅値より大きくする。この結果、交流電動機1に出力される電力の各相の電圧は、極性が正負に交番せずに、アースに対して極性が一方向に維持されている。ただし、後述するように、交流電動機1に出力される電力の線間電圧は正負に交番する。このため、交流電動機1は、通常の交流電動機を用いることでよい。
【0016】
図2は、第1の実施形態に係る回転電機電源装置の構成を示すブロック図である。交流電力発生部20は、第1相用変圧器21および第2相用変圧器22を有する。第1相用変圧器21は、交流電動機1のU相に接続されている第1相に設けられている。第1相用変圧器21は、商用電源500のある1相を1次側入力とし、2次側は交流電動機1のU相に接続され、2次側出力を交流電動機1のU相に出力する。
【0017】
第2相用変圧器22は、交流電動機1のV相に接続されている第2相に設けられている。第2相用変圧器22は、商用電源500の他の1相を1次側入力とし、2次側は交流電動機1のV相に接続され、2次側出力を交流電動機1のV相に出力する。ここで、商用電源500の第2相用変圧器22に入力される1相は、第1相用変圧器21に入力される1相に対して、位相が60度(π/3ラジアン)だけ遅れている。
【0018】
第3相は交流電動機1のW相に接続されている。第3相には、変圧器は設けられていない。第1相、第2相および第3相は、互いに並列に直流バイアス電力発生部10に接続されている。
【0019】
図3は、第1の実施形態に係る回転電機電源装置の出力電圧の時間変化を示すグラフである。今、交流電動機1に供給される電力について、第1相の電圧をVu、第2相の電圧をVv、第3相の電圧をVwとすると、それぞれの電圧は次の式(1)、式(2)および式(3)により与えられる。
V
U=V
0sin(ωt)−V
DC (1)
V
V=V
0sin(ωt−π/3)−V
DC (2)
V
W=−V
DC (3)
ここで、V
0は交流電力発生部20の出力電圧の片振幅値を、V
DCは直流バイアス電力発生部10の出力電圧値を示す。
図3では、V
0は負の値であり、かつ、|V
0|<V
DCの場合を示す。この場合は、
図3に示すように、交流電力発生部20の出力電圧は、各相とも負の値を維持しており、交流電動機1の導体の電位は常に負となる。
【0020】
図4は、第1の実施形態に係る回転電機電源装置に駆動される交流電動機への入力の線間電圧の時間変化を示すグラフである。今、U相、V相間の線間電圧をV
UV、V相、W相間の線間電圧をV
VW、W相、U相間の線間電圧をV
WUで表す。このとき、各線間電圧は、次の式(4)、式(5)および式(6)の結果となる。
V
UV=V
U−V
V
=[V
0sin(ωt)−V
DC]
―[V
0sin(ωt−π/3)−V
DC]
=V
0sin(ωt+π/3) (4)
V
VW=V
V−V
W
=[V
0sin(ωt−π/3)−V
DC]−[−V
DC]
=V
0sin(ωt−π/3) (5)
V
WU=V
W−V
U
=[−V
DC]−[V
0sin(ωt)−V
DC]
=V
0sin(ωt)=V
0sin(ωt−π) (6)
各線間電圧V
UV、V
VW、およびV
WUは、
図4に示すように、互いに平衡した3相交流となる。
【0021】
図5は、第1の実施形態に係る回転電機運転方法の効果を説明するための水トリーの発生進展実験での水トリーの進展長さの比較を示すグラフである。また、
図6は、第1の実施形態に係る回転電機運転方法の効果を説明するための水トリーの発生進展実験での水トリーの幅の比較を示すグラフである。
【0022】
図5および
図6は、「2013 IEEE CONFERENCE ON ELECTRICAL INSULATION AND DIELECTRIC PHENOMINA (IEEE―CEIDP 2013)」での論文「Polarity Effect of Water Treeing Using New Water Electrode Method」より引用した図である。
【0023】
図5および
図6は、試験体に複数ケースの電圧を印加して、水トリーの成長を比較した試験結果を示したものである。それぞれの横軸は、3種類の印加電圧を示しており、それぞれの印加電圧について、最小値、平均値、最大値を並べている。印加電圧の種類の表示は、「sine」は正弦波波形の電圧を示す。「p−fcr」は、正弦波電圧と同一の波形において負側の位相区間の電圧を正側に反転させて全サイクルを正側とした正極性の電圧をしめす。また、「n―fcr」は、正弦波電圧と同一の波形において正側の位相区間の電圧を負側に反転させて全サイクルを負側とした負極性の電圧を示している。
図5の縦軸は、水トリーの長さ(mm)、
図6の縦軸は、水トリーの幅(mm)を示している。
【0024】
試験結果では、
図5および
図6に示すように、正極性の電圧を印加した場合は、水トリーの長さ、幅ともに、正弦波を印加した場合に比べて大きくなっている。また、負極性の電圧を印加した場合は、水トリーの長さは、正弦波を印加した場合とほぼ同程度であるが、水トリーの幅は、正弦波を印加した場合に比べて小さくなっている。このように、この試験結果では、水トリーの進展は、印加電圧の種類によって影響を受けることが示されている。
【0025】
本実施形態では、交流電圧のレベルを全サイクルにわたりアースに対して負側として負極性の電圧とした電力を、通常の交流電動機に供給することによって、水トリーの進展を抑制することができる。
【0026】
[第2の実施形態]
図7は、第2の実施形態に係る回転電機電源装置の構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。第1の実施形態における交流電力発生部20に代えて、本第2の実施形態においては、交流電力発生部として直流交流変換装置30が設けられている。
【0027】
本実施形態における直流交流変換装置30は、三相ブリッジ回路である。直流交流変換装置30は、直流電源31、直流電源31に並列に設けられて交流電動機1のU相、V相、W相にそれぞれ対応する第1変換部32a、第2変換部32b、第3変換部32c、および抵抗35を有する。
【0028】
第1変換部32a、第2変換部32b、第3変換部32cは、同一の構成である。ここで、第1変換部32aを例に説明する。第1変換部32aは、電気的に直列に配列されたスイッチング素子33aおよび33bを有する。スイッチング素子33aはたとえば、サイリスタなどでよい。スイッチング素子33aおよび33bは全体として直流電源31に電気的に並列に設けられている。スイッチング素子33aは、1方向の電流路でありスイッチング動作により流路が開閉する。スイッチング素子33aに並列に、ダイオード34aが設けられており、ダイオード34aの電流の順方向は、スイッチング素子33aの流路方向とは逆方向である。スイッチング素子33bにも同様に、並列にダイオード34bが設けられている。平衡三相交流を生ずるようにそれぞれのスイッチング素子のスイッチング動作を行わせるようにされている。
【0029】
以上のような本実施形態は、第1の実施形態と同様に、交流電圧の発生と、交流電圧レベルを全サイクルにわたる負側へのバイアスが行われる。このように、負極性の電圧とした電力を、通常の交流電動機に供給することによって、水トリーの進展を抑制することができる。
【0030】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。たとえば、各実施形態では、回転電機が交流電動機の場合を示したがこれに限定されず、たとえば、同期調相器などでもよい。また、交流電力発生部20で発生する電力が三相交流の場合を示したが、これに限定されない。回転磁界が発生できれば3相以外でもよい。また、直流バイアス電力発生部も実施形態に限らず、結果的に回転電機に供給される電力の電圧がアースに対して同一の極性を維持できればよい。
【0031】
また、各実施形態では、印加電圧が負極性の場合を示したが、正極性の場合であってもよい。これは、直流電圧を印加する場合は水トリーの発生が小さいという知見により、水トリーの発生起点や水質の差により、正極性であっても同様な効果が期待されるためである。また、実施形態では、交流電動機が水没している場合を示したが、これに限定されない。水中に設けられていない場合にも適用できる。
【0032】
このようにして、直流バイアスを持ち、発生電源電圧が片極性になるように形成された回転電機電源装置100で供給された電圧波形によって、回転コイルを形成するケーブルが周囲のアース電極である水に対して片極性が維持され、水トリーの発生、進展が抑制される。
【0033】
さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0034】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0035】
1…交流電動機(回転電機)、10…直流バイアス電力発生部、20…交流電力発生部、21…第1相用変圧器、22…第2相用変圧器、30…直流交流変換装置(交流電力発生部)、31…直流電源、32a…第1変換部、32b…第2変換部、32c…第3変換部、33a、33b…スイッチング素子、34a、34b…ダイオード、35…抵抗、40…電力移送部、100…回転電機電源装置、200…回転電機システム、500…商用電源、550…水