(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態という。)について以下詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施形態の膜蒸留装置は、処理水が流れる液相部1と、気相部1と、液相部1と気相部1を隔てる疎水性多孔質膜とを有する蒸発部、冷却水が流れる液相部2と、気相部2と、液相部2と気相部2を隔てる冷却体とを有する凝縮部、及び、前記気相部1と前記気相部2を連結する気相部3を備え、並びに、気相部1〜3の圧力が1kPa以上処理水温度における水の飽和蒸気圧以下の間である、膜蒸留装置である。
【0015】
本実施形態の膜蒸留装置は、蒸発部と、凝縮部と、気相部3とを備える。
蒸発部は、疎水性多孔質膜を有する。疎水性多孔質膜は、液相部1と気相部1とを隔てているため、疎水性多孔質膜は、液相部1と接する膜表面と、気相部1と接する膜表面を有する。処理水は液相部1を流れるため、液相部1に接する疎水性多孔質膜の膜表面が、処理水に接する膜表面であり、気相部1に接する疎水性多孔質膜の膜表面が、処理水に接する内表面の他方の膜表面である。
疎水性多孔質膜としては、従来公知の方法により製造され、主たる構成成分としての疎水性高分子からなる多孔質膜であれば特に限定されない。
疎水性高分子としては、水に対する親和性が低い高分子であり、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
疎水性高分子を主たる構成成分とするとは、疎水性多孔質膜を構成する成分において、90質量%以上含むことをいい、膜の強度の観点で、95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。
【0016】
疎水性多孔質膜の形状は、例えば、平膜型、管状型、中空糸型及びスパイラル型等が挙げられる。膜モジュールをコンパクトにする観点で、単位体積当たりの膜面積を大きくとれる中空糸膜が好ましい。
【0017】
蒸発部内に設けられる疎水性多孔質膜として、疎水性多孔中空糸膜を用いる場合を例示して説明する。
蒸発部は、例えば、疎水性多孔中空糸膜を束ねて円筒状の樹脂製、あるいは金属製の容器に収納し、中空糸の端部において、中空糸同士の隙間及び中空糸と容器の隙間を固定用樹脂(ポッティング樹脂)で充填し、中空糸を容器に固定して形成される。中空糸膜の端部は開口しており、容器の上下両端には通水口を有するヘッド部が装着されている。容器の側面には凝縮部と連結するための連結口を備えている。連結口の数は特に限定されず、単独でも複数でもよい。
疎水性多孔中空糸膜の中空内腔が、処理水が流れる液相部1となる。疎水性多孔中空糸膜の外膜側が、蒸発部を構成する容器内において気相部1となる。
疎水性多孔中空糸膜の中空内腔に通液された処理水は、水蒸気として疎水性多孔中空糸膜の膜壁を通過して、気相部1へと移動する。その際、膜壁を移動することができない塩分等の不揮発性の溶質は疎水性多孔中空糸膜により分離される。
疎水性多孔中空糸膜においては、中空内腔を処理水が流れるため、疎水性多孔中空糸膜の内表面が、処理水に接する表面となり、疎水性多孔中空糸膜の外表面が、処理水に接する内表面の他方の膜表面となる。
【0018】
疎水性多孔質膜の製造方法としては、冷却することにより相分離を起こし多孔質層を形成させる熱誘起相分離法や、貧溶剤と接触させることで相分離を起こし多孔質層を形成させる乾湿式法(非溶媒相分離法)を好適に用いることができる。
【0019】
本実施形態において、熱誘起相分離法とは、以下の方法を意味する。
疎水性高分子と、疎水性高分子に対し室温付近では非溶剤だが高温では溶剤となる潜在的溶剤とを、高温(両者の相溶温度以上)で加熱混合して溶融させる。その後、疎水性高分子の固化温度以下にまで冷却することにより、その冷却過程での潜在的溶剤の疎水性高分子に対する溶解力の低下を利用して高分子濃厚相と高分子希薄相(溶剤濃厚相)とに相分離させる。次いで、潜在的溶剤を抽出除去して、相分離時に生成した高分子濃厚相の固化体からなる多孔質膜を得る。
潜在的溶剤の抽出除去により、得られる膜を多孔質膜とすることができ、また、得られる疎水性多孔質膜において、膜表面の表面開孔率や空気透過係数が制御される。
【0020】
疎水性高分子と潜在的溶剤以外に、無機フィラーを加えて加熱混合し、冷却固化後の抽出工程で潜在的溶剤とともに無機フィラーも抽出除去して多孔質膜を得るという方法も熱誘起相分離法の1種として用いることができる。
無機フィラーを用いる場合には、無機フィラーは、疎水性高分子と潜在的溶剤からなる溶融物を保持する担体としての機能を持ち、また、ミクロ相分離の核としての機能を有する。
【0021】
潜在的溶剤の例としては、疎水性高分子が例えばポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンの場合、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)及びフタル酸ジイソデシル等のフタル酸エステル類並びにこれらの混合溶剤等が挙げられる。
潜在的溶剤の例としては、疎水性高分子が例えばポリスルホン及びポリエーテルスルホンの場合、2−(ベンジルオキシ)エタノール、ジメチルスルホキシド、トリメリット酸トリメチル、N−メチルベンゼンスルホン酸アミド及びベンジルアルコール並びにこれらの混合溶剤等が挙げられる。
【0022】
熱誘起相分離法を用いて疎水性多孔中空糸膜を得る好適な方法としては、膜素材高分子である疎水性高分子及びその潜在的溶剤(必要に応じて無機フィラー)を押し出し機等を用いて加熱混合して溶融させ、中空糸成型用紡口(押し出し面に加熱混合物を押し出すための円環状穴と、その円環状穴の内側に、中空部形成流体を吐出するための円形穴を備えたノズル)から溶融物を、円形穴に中空部形成流体を注入しつつ中空糸状に押し出して冷却固化させ、しかる後に潜在的溶剤(及び無機フィラー)を抽出除去する方法が挙げられる。
【0023】
中空部形成流体は、中空糸状押し出し物の中空部が冷却固化の途中でつぶれて閉じてしまわないように中空部内に注入するもので、押し出す溶融物に対して実質的に不活性な(化学的変化を起こさない)気体又は液体を用いる。押し出し後の冷却固化は、空冷又は液冷又は両者の組み合わせで行うことができる。
実質的に不活性な気体又は液体としては、例えば、窒素ガス、空気及び高沸点液体等が挙げられる。
【0024】
潜在的溶剤の抽出及び必要に応じて無機フィラーの抽出は、冷却固化物に対して実質的に不活性でかつ潜在的溶剤及び無機フィラーの溶解力に優れた揮発性の液体又は水溶液を用いて行う。
潜在的溶剤の抽出に用いられる揮発性の液体又は水溶液としては、例えば、アルコール類及び塩化メチレン等が挙げられる。
無機フィラーの抽出に用いられる揮発性の液体又は水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液等が挙げられる。
【0025】
無機フィラーとしては、疎水性シリカを好適に用いることができる。
疎水性シリカは、親水性シリカをシラン又はシロキサン等の処理剤で化学的に処理することで製造することができる。疎水性シリカは低い吸湿性や優れた分散性を有する。
中でも、平均一次粒子径0.005μm以上0.5μm以下、比表面積30m
2/g以上500m
2/g以下の疎水性シリカが好ましい。
疎水性シリカは、加熱混合時の分散性が良いために得られる膜に構造欠陥が生じにくく、かつ抽出除去はアルカリ性水溶液で容易に行うことができる。疎水性シリカは、分散性に優れ、凝集を起こしにくいため、空気透過係数の点で好的な三次元網目構造を形成しやすい。
【0026】
熱誘起相分離法では、高温で溶解させた製膜原液を室温まで冷却して相分離を誘発させて多孔質膜を得るが、相分離を誘発させる際の冷却速度を調整することにより平均孔径を調整することができる。
冷却速度が速い場合、つまり紡口から冷却槽までの空走距離が短い、あるいは紡速が早いと、孔径が小さくなり、逆に冷却速度が遅い場合、つまり空走距離が長い、あるいは紡速が遅いほど孔径が大きくなる。
【0027】
熱誘起相分離法における製膜原液の組成としては、例えば、疎水性高分子が15質量部以上50質量部以下であり、潜在的溶剤が10質量部以上70質量部以下であり、必要に応じて、無機フィラーが5質量部以上40質量部以下であることが好ましい。
無機フィラーの割合が5質量部以上であれば、空気透過係数の点で好的な三次元網目構造を形成することができ、40質量部以下であれば安定に紡糸できる。
疎水性高分子の製膜原液中の濃度が15質量部以上であることにより、空隙率が高く、十分な強度を有する疎水性多孔中空糸膜を得ることができる。疎水性高分子の製膜原液中の濃度が50質量部以下であることにより、空隙率が高く、優れた透水性能を有する疎水性多孔中空糸膜とすることができる。
【0028】
また、熱誘起相分離法を利用して作製した疎水性多孔中空糸膜を、中空糸の長手方向に延伸してもよい。
延伸操作は、冷却固化後に、潜在的溶剤(及び/又は無機フィラー)を抽出前又は抽出後に行う。延伸による中空糸の伸長は、空隙率及び平均孔径等の開孔性確保の効果を発現しつつ、膜構造を破壊しない適切な範囲内で行うことが好ましい。
【0029】
本実施形態において、非溶媒相分離法とは、以下の方法を意味する。
疎水性高分子及び溶剤(必要に応じて添加剤)を含む製膜原液を貧溶媒と接触させて疎水性高分子を相分離し、脱溶媒(溶媒置換)することにより多孔質膜を得る。
疎水性高分子がポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフッ化ビニリデン等である場合に、非溶媒相分離法によって、疎水性多孔質膜を製造することができる。
【0030】
非溶媒相分離法における製膜原液の組成としては、例えば、疎水性高分子が10質量部以上20質量部以下であり、溶剤が60質量部以上85質量部以下であり、必要に応じて、添加剤が5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
疎水性高分子の濃度が10質量部以上20質量部以下であることが、得られる疎水性多孔質膜の透水性能と強度のバランス及び紡糸操作の安定性の面から好ましい。また、添加剤の濃度が5質量部以上であれば、添加剤による効果が十分に発現でき、20質量部以下であれば安定に紡糸できる。
溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
貧溶媒としては、例えば、水等の非溶剤等が挙げられる。貧溶媒として、非溶剤と製膜原液に用いる溶剤との混合溶剤を用いてもよい。
非溶剤と溶剤との混合溶剤において、溶剤濃度を高くすることにより、相分離が促進され、孔径が大きくなる。
【0031】
非溶媒相分離法では、製膜原液の組成を変更することにより、疎水性多孔質膜の多孔構造や膜特性を変えることができる。例えば、疎水性高分子の濃度が高い製膜原液を用いると、得られる疎水性多孔中空糸膜の疎水性高分子の密度を高くし、膜強度(引張強度)を高くすることができる。疎水性高分子の濃度が低い製膜原液を用いると、得られる疎水性多孔質膜の疎水性高分子密度を低くし、孔径が大きくなる傾向があり、空隙率や空気透過係数を高くすることができる。
また、紡口から貧溶媒を含む凝固液までの空走距離が長いほど、相分離が促進され、孔径が大きくなる。
製膜原液の原液粘度を適正な範囲に調整し、かつ、製膜状態の安定化を図るとともに相分離速度を調整する目的で、親水性の添加剤を用いてもよい。添加剤を用いることで、疎水性多孔質膜の膜構造や膜特性を調節することができる。中でも、親水性の添加剤の濃度が高い製膜原液を用いると、孔径が大きくなる。
添加剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコール等が挙げられる。
【0032】
本実施形態の疎水性多孔質膜は、処理水と接する膜表面の表面開孔率が20%以上であり、かつ、空気透過係数が8.0×10
−7m
3/m
2・sec・Pa以上である。
処理水と接する膜表面の表面開孔率及び空気透過係数が上記一定値以上の膜を用いることにより、蒸発効率と水蒸気透過速度の双方を高めることができ、Fluxが著しく増大した疎水性多孔質膜とすることができる。処理水と接する膜表面の表面開孔率が高いことにより、蒸発効率が高くなると考えられる。また、空気透過係数が高いことにより、水蒸気透過速度が高くなると考えられる。
【0033】
本実施形態において、膜蒸留における透水性能の観点で、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の表面開孔率は20%以上であり、25%以上であることが好ましい。膜の機械的強度の観点、また、減圧下使用における漏水防止の観点で、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の表面開孔率は70%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。
疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の表面開孔率は20%以上70%以下であることが好適であり、当該範囲内で、25%以上であってもよく、あるいは、35%以下であってもよい。一態様において、処理水と接する膜表面の表面開孔率は25%以上35%以下であることが好適である。
本実施形態において、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の表面開孔率は、実施例に記載の方法を参照して、電子顕微鏡写真の画像を画像解析処理ソフトで解析することにより測定することができる。
【0034】
本実施形態において、膜蒸留における透水性能の観点で、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の他方の膜表面の表面開孔率は20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。
水蒸気透過速度を高めるためには、膜構造が全体的に疎で均質な構造であることが好適であると考えられる。処理水と接する膜表面の他方の膜表面の表面開孔率が、処理水と接する膜表面の表面開孔率に近似していると、膜構造全体が、均質な構造となると考えられるので、処理水と接する膜表面の他方の膜表面の表面開孔率が高いことは、中でも、水蒸気透過速度の観点から好適である。具体的には、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の表面開孔率は20%以上であることに加えて、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の他方の膜表面の表面開孔率は20%以上であることが好ましい。
膜の機械的強度の観点、また、減圧下使用における漏水防止の観点で、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の他方の膜表面の表面開孔率は70%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。
疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の他方の膜表面の表面開孔率は20%以上70%以下であることが好適であり、当該範囲内で、25%以上であってもよく、あるいは、35%以下であってもよい。一態様において、処理水と接する膜表面の他方の膜表面の表面開孔率は25%以上35%以下であることが好適である。また、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の表面開孔率と、当該膜表面の他方の膜表面の表面開孔率とが、共に、25%以上であることが好適であり、中でも、25%以上70%以下であることが好ましく、25%以上35%以下であることがより好ましい。
本実施形態において、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の他方の膜表面の表面開孔率は、実施例に記載の方法を参照して、電子顕微鏡写真の画像を画像解析処理ソフトで解析することにより測定することができる。
【0035】
本実施形態において、膜蒸留における透水性能の観点で、疎水性多孔質膜の空気透過係数は8.0×10
−7m
3/m
2・sec・Pa以上であり、1.2×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以上であることが好ましく、1.6×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以上であることがより好ましい。膜の機械的強度の観点、また、減圧下使用における漏水防止の観点で、疎水性多孔質膜の空気透過係数は1.0×10
−5m
3/m
2・sec・Pa以下であることが好ましく、3.2×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以下であることがより好ましい。疎水性多孔質膜の疎水性多孔質膜の空気透過係数は8.0×10
−7m
3/m
2・sec・Pa以上1.0×10
−5m
3/m
2・sec・Pa以下であることが好適であり、当該範囲内において、1.2×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以上であることが好ましく、1.6×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以上であることがより好ましく、また、1.0×10
−5m
3/m
2・sec・Pa以下であることが好ましく、3.2×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以下であることがより好ましい。中でも、疎水性多孔質膜の疎水性多孔質膜の空気透過係数は1.6×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以上1.0×10
−5m
3/m
2・sec・Pa以下であることが好ましく、1.6×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以上3.2×10
−6m
3/m
2・sec・Pa以下であることがより好ましい。
本実施形態において、疎水性多孔質膜の空気透過係数は、実施例に記載の方法を参照して、疎水性多孔質膜の処理水と接する膜表面の他方の膜表面に一定圧力の空気を加圧し、処理水と接する膜表面から透過した空気透過量を石鹸膜流量計を用いて測定することができる。
【0036】
本実施形態の疎水性多孔質膜は、膜蒸留における透水性能の観点で、平均孔径が0.20μm以上であり、かつ、空隙率が60%以上であることが好ましい。
【0037】
本実施形態において、膜蒸留における透水性能の観点で、疎水性多孔質膜の平均孔径は0.20μm以上が好ましく、0.50μm以上がより好ましい。
膜表面の撥水性低下に基づく、水が膜内に侵入してしまうウェッティング現象を抑制する観点で、疎水性多孔質膜の平均孔径は10μm以下であることが好ましい。
本実施形態において、疎水性多孔質膜の平均孔径は、実施例に記載の方法を参照して、ASTM:F316−86に記載されている平均孔径の測定方法により測定することができる。
【0038】
本実施形態において、膜蒸留における透水性能の観点で、疎水性多孔質膜の空隙率は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
膜の機械的強度の観点、また、減圧下使用における漏水防止の観点で、疎水性多孔質膜の空隙率は90%以下であることが好ましい。
本実施形態において、疎水性多孔質膜の空隙率は、実施例に記載の方法を参照して測定することができる。
【0039】
本実施形態において、膜蒸留における透水性能と膜の機械的強度の観点で、疎水性多孔質膜の膜厚は10μm〜500μmであることが好ましく、15μm〜300μmであることがより好ましく、20μm〜150μmであることがさらに好ましい。
膜厚が500μm以下であることにより、透水性能低下を抑制することができる。
膜厚が10μm以上であることにより、減圧下使用において膜が変形したり、流路が閉塞されるのを防止することができる。
本実施形態において、疎水性多孔質膜の膜厚は、実施例に記載の方法を参照して、断面の顕微鏡写真により測定することができる。
【0040】
疎水性多孔質膜はフッ素プラズマ処理等の表面処理により膜表面を改質してもよい。
疎水性多孔質膜の膜表面の孔が湿潤すると有効蒸発面積の減少による透水性能の低下、漏水が起こることがしばしば問題になるが、膜表面を改質して撥水性を高めることにより、これらの性能低下を防止できる。撥水性を高めるために、疎水性多孔質膜のフッ素プラズマ処理を行ってもよく、フッ素プラズマ処理としては、プロセスガスにCF
4を用い、プラズマ発生装置で容易に行うことができる。
【0041】
本実施形態において、処理水とは、何らかの目的で精製、あるいは濃縮を必要とする水であり、例えば、水道水、工業用水、河川水、井水、湖沼水、海水、産業廃水(食品工場、化学工場、電子産業工場、製薬工場及び清掃工場等の工場からの廃水)並びに石油や天然ガス生産時に排出される随伴水等が挙げられる。
【0042】
処理水は、透水性能の観点で、水温(処理水温度)が、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
処理水の水温(処理水温度)は、熱交換器やヒーター等の熱源の活用により制御してもよいが、太陽熱の利用や産業プロセス等の排熱を活用して制御することは、加熱に要する熱エネルギーコストが不要となるか又は低減できるためより好ましい。
【0043】
本実施形態において、凝縮部は、例えば、冷却体を円筒状の樹脂製、あるいは金属製の容器に収納し、冷却体の端部において冷却体同士の隙間及び冷却体と容器の隙間を固定用樹脂(ポッティング樹脂)で充填し、冷却体を容器に固定して形成される。冷却体の端部は開口しており、容器の上下両端には通水口を有するヘッド部が装着されている。容器の側面には蒸発部と連結するための連結口を備えている。連結口の数は特に限定されず、単独でも複数でもよい。
冷却体の形状は中空状でも平板状でもよいが、中空管を好適に用いることができる。
【0044】
冷却体は、凝縮部内に設けられ、冷却体の内部領域が、冷却水が流れる液相部2となる。冷却体の外部領域が、凝縮部を構成する容器内において気相部2となる。
液相部1に通液された処理水は、水蒸気として疎水性多孔質膜の膜壁を通過して、気相部1へと移動する。気相部2において、冷却体により冷却され、蒸留水となる。
冷却体を有する凝縮部は採水容器と配管で接続されており、蒸留水は凝縮部から排出され、採水容器に集められる。
【0045】
本実施形態において、冷却水は、冷却体の内部空間である液相部2を流れ、水蒸気を冷却することができる液体であれば特に限定されないが、例えば、水道水、工業用水、河川水、井水、湖沼水、海水、産業廃水(食品工場、化学工場、電子産業工場、製薬工場及び清掃工場等の工場からの廃水)並びに石油や天然ガス生産時に排出される随伴水等が挙げられる。本実施形態においては、処理水として使用する水を、冷却水として用いてもよい。
【0046】
冷却水は、凝縮効率の観点で、水温が、30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましい。
冷却水の水温は、熱交換器やヒーター等の熱源の活用により制御してもよい。
【0047】
本実施形態において、それぞれ独立した容器としての蒸発部と凝縮部とを備え、気相部3は、蒸発部と凝縮部とを連結するように備えることが好ましいが、蒸発部と凝縮部とが、同一容器内に存在した一体型の膜蒸留装置であってもよい。一体型の膜蒸留装置の場合、気相部1〜3の領域を厳密に規定することができるものではないが、一体の気相部が気相部1〜3からなると考えることができる。
【0048】
気相部3は気相部1と気相部2を連結する連結口により連結されている。気相部3の容積は水蒸気透過の観点から大きいほうが好ましい。連結口の数は特に限定されず、単独でも複数でもよい。連結部の形状は円筒状でも角状でもよい。連結部の部材は特に限定されず、樹脂や金属を利用することができるが、連結部で水蒸気が凝縮しないよう高断熱性の材料を利用してもよく、必要に応じて断熱加工を施してもよい。一体型の膜蒸留装置の場合、気相部1〜3といえる気相部全体としての容積が大きいことが好ましい。
【0049】
気相部3は、蒸発部の疎水性多孔質膜と凝縮部の冷却体との最短距離が10mm以上となるように設けられることが好適である。本実施形態においては、気相部の圧力を所定範囲内とすることにより、膜蒸留装置における蒸発部と凝縮部の配置距離の制限が緩和され、疎水性多孔質膜を用いた膜モジュールの設計が容易になり、純水供給システムの省スペース化、コンパクト化が実現可能な膜蒸留装置を提供することができる。
ここで、疎水性多孔質膜と冷却体との最短距離とは、直線距離として、疎水性多孔質膜と冷却体のそれぞれの外周部で最も近い距離を意味する。
最短距離を10mm以上とすることにより、蒸発部と凝縮部の設計を容易にすることができ、最短距離は、30mm以上であってもよい。
本実施形態においては、最短距離を10mm以上とすることで、蒸発部と凝縮部の設計を容易にすることができるが、気相部1〜3の圧力を1kPa以上処理水温度における水の飽和蒸気圧以下の間に制御して膜蒸留を行うことにより、高真空やスイープガスを要せず、コンパクトであるにも関わらず、疎水性多孔質膜を用いていることによる高Fluxを実現しうる膜蒸留装置とすることができる。
中でも、疎水性多孔質膜として、中空糸膜を用いる場合には、蒸発部と凝縮部の距離が近接していなくても、気相部の圧力を所定範囲内とすることにより、純水供給システムの省スペース化、コンパクト化が実現可能な膜蒸留装置を提供することができる。
【0050】
本実施形態においては、気相部1〜3は、連続した空間をなし、気相部1〜3の圧力は、1kPa以上処理水温度における水の飽和蒸気圧以下の間に制御される。
気相部1〜3の圧力が処理水温度における水の飽和蒸気圧以下であるとは、処理水の水温(処理水温度)において、水の飽和蒸気圧(理論値)以下の圧力に気相部1〜3を制御することを意味する。
気相部1〜3の圧力を、1kPa以上とすることにより、減圧装置の減圧に要する消費エネルギーを抑えることができ、処理水温度における水の飽和蒸気圧以下とすることにより、高い透水性能を実現することができる。
消費エネルギーの観点で、該圧力は、1kPa以上であることが好ましく、10kPa以上であることがより好ましい。
透水性能の観点で、該圧力は、処理水温度における水の飽和蒸気圧以下であることが好ましく、処理水温度における水の飽和蒸気圧より5kPa以下の圧力であることがより好ましく、処理水温度の水の飽和蒸気圧より10kPa以下の圧力であることがさらに好ましい。
【0051】
気相部1〜3の圧力を処理水温度における水の飽和蒸気圧以下とするために、気相部1〜3の圧力を減圧する減圧装置として、例えば、ダイアフラム真空ポンプ、ドライポンプ、油回転真空ポンプ、エジェクタ及びアスピレーター等が挙げられる。
圧力を制御する方法として、例えば、真空レギュレーターやリークバルブを用いる方法及び電子式真空コントローラーと電磁弁を用いる方法等が挙げられる。
【0052】
本実施形態の膜蒸留装置を
図2を例示して説明する。
図2に示すように、膜蒸留装置は、蒸発部、凝縮部、気相部を備え、採水容器、減圧装置及び圧力調整器等から構成されていてよい。例えば、処理水は、熱交換器やヒーター等の熱源によって加熱され、高温水として処理水タンクに貯蔵される。
図2Aにおいては、一体型の膜蒸留装置の場合である場合を例示する。容器内で疎水性多孔質膜によって隔てられた空間(液相部1)に処理水が通液され、液相部1を通過する際に、その一部が疎水性多孔質膜から水蒸気として通過して、気相部(Air Gapとして記載される。)へと移動する。水蒸気は、減圧装置により1kPa以上処理水温度における水の飽和蒸気圧以下の間に気相部が制御されていることにより、凝縮部の冷却体上で凝縮される。
図2Bにおいては、処理水タンク中の高温水は送液ポンプによって蒸発部内の疎水性多孔中空糸膜の中空内腔(液相部1)に通液され、疎水性多孔中空糸膜内腔を処理水が通過する際に、その一部が疎水性多孔中空糸膜から水蒸気として通過して、気相部1へと移動する。水蒸気は、減圧装置により1kPa以上処理水温度における水の飽和蒸気圧以下の間に気相部1〜3が制御されていることにより、気相部2を通り、凝縮部の気相部3へと移動する。通過した水蒸気は凝縮部内の冷却体の内腔を対向する冷却水によって凝縮部の冷却体上で凝縮され、蒸留水が得られる。冷却水は、冷却タンクから送液ポンプによって冷却体中を通液される。冷却体上で凝縮され得られた蒸留水は、採水容器に集められる。気相部1〜3は、減圧装置によって圧力が一定に調整されている。
気相部1〜3の圧力は、通常、圧力計によりモニタリングすることができる。圧力計は、
図2に例示される膜蒸留装置では、圧力調整器に備えられており、その場合、気相部1〜3の圧力は、気相部1〜3、採水容器、圧力調整器、その間をつなぐ配管トータルの圧力としてモニタリングしてもよい。
【0053】
本実施形態においては、膜蒸留で得られるFluxについては、処理水温度により適宜設定され得るものであり、処理水温度が65℃における場合に限定されるものではないが、例えば、処理水温度が65℃における場合には、Fluxは、50kg/m
2/hであることがより好ましく、65kg/m
2/hであることがより好ましく、80kg/m
2/hであることがさらに好ましい。
【0054】
本実施形態の膜蒸留装置は、処理水に含まれるイオン、有機物、無機物等を高度に除去して精製する用途、あるいは、処理水から水を除去して濃縮する用途に好適に用いることができる。当該用途として、例えば、海水淡水化、超純水製造(半導体工場等)、ボイラー水製造(火力発電所等)、燃料電池システム内水処理、産業廃水処理(食品工場、化学工場、電子産業工場、製薬工場及び清掃工場等)、透析用水製造、注射用水製造、随伴水処理(重質油、シェールオイル、シェールガス及び天然ガス等)並びに海水からの有価物回収等が挙げられる。
【0055】
本実施形態の膜蒸留装置は、他の水処理技術と組み合わせた複合システムとして使用することもできる。例えば、RO(Reverse Osmosis)の原理を用いたRO法で処理した際に生成する濃縮水をさらに本実施形態の膜蒸留装置で精製することによりトータルの水回収率を高めることに利用できる。また、FO(Forward Osmosis)の原理を用いたFO法で使用されるDS(Draw Solution)の回収手段として本実施形態の膜蒸留装置を利用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明するが、本実施形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下、疎水性多孔中空糸膜についての測定方法を記載するが、該測定方法を参照することで疎水性多孔質膜の各測定を行うことができる。
【0057】
(重量平均分子量)
疎水性高分子の重量平均分子量は、GPC装置(東ソー社製HLC−8220GPC、カラムとして、Shodex社製KF−606M(6.0mmID×15cm)1本+Shodex社製KF−601(6.0mmID×15cm)1本)を用いてGPC法により測定した。GPC試料は疎水性高分子を1.0mg/mL濃度になるようにN−メチルピロリドンあるいはジメチルホルムアミド等の有機溶媒に溶解し、0.45ミクロンフィルター(ジーエルサイエンス社製クロマトディスク25N)で濾過した濾液をGPC試料とした。また、校正曲線はポリメタクリル酸メチルを用いて作成し、換算分子量として試料の重量平均分子量を算出した。
【0058】
(外径、内径、膜厚)
疎水性多孔中空糸膜の外径、内径は、中空糸膜長手方向に垂直な向きにカミソリ等で薄く切り、顕微鏡を用いて断面の外径、内径をそれぞれ測定した。膜厚(mm)は算術平均により下記式(1)から算出し、膜厚(μm)として求めた。
【0059】
【数1】
【0060】
(空隙率)
疎水性多孔中空糸膜を一定長さにカミソリで切り、電子天秤を用いて中空糸の重量を測定し、空隙率を下記式(2)から算出した。
【0061】
【数2】
【0062】
(平均孔径)
ASTM:F316−86に記載されている平均孔径の測定方法(別称:ハーフドライ法)により測定した。
約10cm長の疎水性多孔中空糸膜に対し、液体としてエタノールを用いて、25℃、昇圧速度0.01atm/秒での標準測定条件で行った。
平均孔径は、下記式により求めることができるが、
平均孔径[μm]=2860×(使用液体の表面張力[dyne/cm])/(ハーフドライ空気圧力[Pa])
エタノールの25℃における表面張力は21.97dyne/cmであるので、下記式により平均孔径を求めた。
平均孔径[μm]=62834/(ハーフドライ空気圧力[Pa])
【0063】
(表面開孔率)
疎水性多孔中空糸膜の膜表面の電子顕微鏡写真は走査型電子顕微鏡(日立社製S−4700)を用いて、加速電圧1.0kV、二次電子検出条件にて倍率5000〜50000倍で撮影した。疎水性多孔中空糸膜の内表面及び外表面の表面開孔率は電子顕微鏡写真の画像を画像解析処理ソフトで処理して求めた。画像解析ソフトは、例えばImageJ(フリーソフト)を使用して処理を行う。とり込んだ画像の孔部分を黒、非孔部分を白となるように強調・フィルタ操作を実施する。その後、孔部をカウントし、孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる場合には、ポリマー鎖を非孔部分とみなしてカウントする。表面開孔率は下記式から算出した。
表面開孔率[%]=100×(各孔面積の総和)/(測定範囲の面積)
(測定範囲の面積)は、(各孔面積の総和)+(各非孔部分面積の総和)である。また、測定範囲境界上の孔は除外しないものとする。
【0064】
(空気透過係数)
疎水性多孔中空糸膜を樹脂製の容器に固定し、中空糸外側に一定圧力の空気を加圧し、中空糸内側から透過した空気透過量を石鹸膜流量計を用いて測定し、空気透過係数を下記式(3)から算出した。
【0065】
【数3】
【0066】
(Flux)
膜蒸留を行い、採水容器に得られた膜蒸留水の採水量を電子天秤を用いて測定し、Fluxを下記式(4)から算出した。
【0067】
【数4】
【0068】
(水の導電率)
膜蒸留水の導電率は、電気伝導率計(EUTECH INSTRUMENTS社製EC Testr(登録商標)11+)を用いて測定した。
【0069】
(実施例1)
平均一次粒径0.016μm、比表面積110m
2/gの疎水性シリカ(日本アエロジル社製AEROSIL−R972)23質量部とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)31質量部とフタル酸ジブチル(DBP)6質量部をヘンシェルミキサーで混合し、これに重量平均分子量290000のポリフッ化ビニリデン(PVDF、クレハ製KFポリマー#1000)40質量部を添加し、再度ヘンシェルミキサーで混合した。この混合物を2軸混練押し出し機で混合しペレット化した。
得られたペレットを2軸混練押し出し機で溶融混練し(240℃)、押し出し機先端のヘッド(235℃)内の押し出し口に装着した中空糸成形用紡口の押し出し面にある外径0.5mm、内径0.4mmの溶融物押し出し用円環穴から溶融物を押し出した。同時に、溶融物押し出し用円環穴の内側にある直径0.3mmの中空部形成流体吐出用の円形穴から中空部形成流体として窒素ガスを吐出させ、中空糸状押し出し物の中空部内に注入した。中空糸状押し出し物を空走距離4.5cmにて水浴(20℃)中に導入し、14m/分の速度で巻き取った。
得られた中空糸状物を塩化メチレン中に浸漬して中空糸状物中のDOP及びDBPを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、50質量%エチルアルコール水溶液中に浸漬した後、15質量%水酸化ナトリウム水溶液中に60℃にて1時間浸漬して、中空糸状物中の疎水性シリカを抽出除去した。その後、水洗し、乾燥してポリフッ化ビニリデン製多孔中空糸膜を得た。得られたポリフッ化ビニリデン製多孔中空糸膜50cm長に対し25℃雰囲気下で張力をかけて100cm長まで伸ばした後、張力を開放する延伸操作を行った。
延伸操作を行って得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図7に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜49本を内径20mmのポリスルホン製のケースに収納した蒸発モジュール(蒸発部)と、内径1mm、外径2mmのステンレス管20本を蒸発部で用いたものと同一のケースに収納した凝縮モジュール(凝縮部)を作製し、
図2に示すように蒸発部内の疎水性多孔中空糸膜の外表面と凝縮部内のステンレス管外表の最短距離が30mmになるように、蒸発部と凝縮部を連結した。凝縮部の取出口は採水容器と配管で連結しており、
図2に示すように採水容器からは系内の圧力を調整するため、
図2における減圧装置と圧力調整器として、真空ポンプと真空制御装置を配置した。
蒸発部の疎水性多孔中空糸膜の中空内腔に、65℃の模擬海水(3.5質量%塩化ナトリウム水溶液)を600mL/minの流量で流し、凝縮部のステンレス管の内部領域である内腔には30℃の冷却水を600mL/minの流量で流して冷却し、モジュール系内の圧力が10kPaになるよう真空ポンプで調整し、膜蒸留を行った。
実験開始から30分後に採水容器に溜まる水を採取した。Fluxは80.9kg/m
2/hと高い値であり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0070】
(実施例2)
高密度ポリエチレン(ρ=0.968、ハイゼックス社製2208J)を原料とし、中空二重紡口を用い、ポリマー押出量16g/min、中空N
2量23mL/min、紡速200m/min、紡糸ドラフト比3400にて溶融紡糸して、中空糸を得た。
得られた中空糸をオーブン中で115℃にて2時間アニール処理し、未延伸膜を得た。
得られた未延伸膜を用いて、以下連続的に、冷延伸、熱延伸、熱セットを行った。
すなわち、室温下で30%の冷延伸を行い、つづいて100℃で200%、115℃でさらに40%の2段延伸を行ったのち、128℃空気加熱槽中で、ロール間の速度調整により、2段熱セットを行い、疎水性多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図8に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜60本を用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは79.5kg/m
2/hと高い値であり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図3、5及び6に示す。
【0071】
(実施例3)
平均一次粒径0.016μm、比表面積110m
2/gの疎水性シリカ(日本アエロジル社製AEROSIL−R972)23質量部とDOP33質量部とDBP4質量部をヘンシェルミキサーで混合し、これに重量平均分子量290000のポリフッ化ビニリデン(クレハ製KFポリマー#1000)40質量部を添加し、再度ヘンシェルミキサーで混合した。この混合物を2軸混練押し出し機で混合しペレット化した。
得られたペレットを2軸混練押し出し機で溶融混練し(230℃)、押し出し機先端のヘッド内の押し出し口に装着した中空糸成形用紡口の押し出し面にある溶融物押し出し用円環穴から溶融物を押し出した。同時に、溶融物押し出し用円環穴の内側にある中空部形成流体吐出用の円形穴から中空部形成流体として窒素ガスを吐出させ、中空糸状押し出し物の中空部内に注入した。中空糸状押し出し物を空走距離20cmにて水浴(40℃)中に導入し、10m/分の速度で巻き取った。
得られた中空繊維を連続的に一対の第一の無限軌道式ベルト引き取り機で10m/分の速度で引き取り、空間温度40℃に制御した第一の加熱槽(0.8m長)を経由して、さらに第一の無限軌道式ベルト引き取り機と同様な第二の無限軌道式ベルト引き取り機で20m/分の速度で引き取り2.0倍に延伸した。次いで、空間温度80℃に制御した第二の加熱槽(0.8m長)を経由させた後に、冷却水槽の水面に位置する一対の周長が約0.2mであり且つ4山の凹凸ロールに170rpmの回転速度で中空繊維を連続的に挟んで冷却し、その後、第三の無限軌道式ベルト引き取り機で15m/分の速度で引き取り1.5倍まで延伸糸を収縮させた後、周長約3mのカセで巻き取った。
得られた中空糸状物を塩化メチレン中に浸漬して中空糸状物中のDOP及びDBPを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、50質量%エチルアルコール水溶液中に浸漬した後、5質量%水酸化ナトリウム水溶液中に40℃にて1時間浸漬して、中空糸状物中の疎水性シリカを抽出除去した。その後、水洗し、乾燥してポリフッ化ビニリデン製多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図9に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜21本を用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは57.8kg/m
2/hと高い値であり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0072】
(実施例4)
平均一次粒径0.016μm、比表面積110m
2/gの疎水性シリカ(日本アエロジル社製AEROSIL−R972)23質量部とDOP31質量部とDBP6質量部をヘンシェルミキサーで混合し、これに重量平均分子量が310000のポリフッ化ビニリデン(SOLVAY社製Solef(登録商標)6010)40質量部を添加し、再度ヘンシェルミキサーで混合した。この混合物を2軸混練押し出し機で混合しペレット化した。
得られたペレットを2軸混練押し出し機で溶融混練し(240℃)、押し出し機先端のヘッド内の押し出し口に装着した中空糸成形用紡口の押し出し面にある溶融物押し出し用円環穴から上記溶融物を押し出した。同時に、溶融物押し出し用円環穴の内側にある中空部形成流体吐出用の円形穴から中空部形成流体として窒素ガスを吐出させ、中空糸状押し出し物の中空部内に注入した。中空糸状押し出し物を空走距離20cmにて水浴(40℃)中に導入し、20m/分の速度で巻き取った。
得られた中空繊維を連続的に一対の第一の無限軌道式ベルト引き取り機で20m/分の速度で引き取り、空間温度40℃に制御した第一の加熱槽(0.8m長)を経由して、さらに第一の無限軌道式ベルト引き取り機と同様な第二の無限軌道式ベルト引き取り機で40m/分の速度で引き取り2.0倍に延伸した。次いで、空間温度80℃に制御した第二の加熱槽(0.8m長)を経由させた後に、20℃の冷却水槽の水面に位置する一対の周長が約0.20mであり且つ4山の凹凸ロールに170rpmの回転速度で中空繊維を連続的に挟んで周期的に曲げつつ冷却し、その後、第三の無限軌道式ベルト引き取り機で30m/分の速度で引き取り1.5倍まで延伸糸を収縮させた後、周長約3mのカセで巻き取った。
得られた中空糸状物を塩化メチレン中に浸漬して中空糸状物中のDOP及びDBPを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、50質量%エチルアルコール水溶液中に浸漬した後、5質量%水酸化ナトリウム水溶液中に40℃にて1時間浸漬して、中空糸状物中のシリカを抽出除去した。その後、水洗し、乾燥してポリフッ化ビニリデン製多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図10に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜40本を用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは55.2kg/m
2/hと高い値であり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0073】
(実施例5)
シリカ除去後の延伸操作を行わなかった以外は実施例1と同様の方法で疎水性多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図11に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜49本を用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは55.1kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0074】
(実施例6)
平均一次粒径0.016μm、比表面積110m
2/gの疎水性シリカ(日本アエロジル社製AEROSIL−R972)34質量部とDOP34質量部とDBP7質量部をヘンシェルミキサーで混合し、これに重量平均分子量290000のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KFポリマー#1000)25質量部を添加し、再度ヘンシェルミキサーで混合した。この混合物を2軸混練押し出し機で混合しペレット化した。
得られたペレットを2軸混練押し出し機で溶融混練し(250℃)、押し出し機先端のヘッド(245℃)内の押し出し口に装着した中空糸成形用紡口の押し出し面にある溶融物押し出し用円環穴から溶融物を押し出した。同時に、溶融物押し出し用円環穴の内側にある中空部形成流体吐出用の円形穴から中空部形成流体として窒素ガスを吐出させ、中空糸状押し出し物の中空部内に注入した。中空糸状押し出し物を空走距離30cmにて水浴(30℃)中に導入し、30m/分の速度で巻き取った。
得られた中空糸状物を塩化メチレン中に浸漬して中空糸状物中のDOP及びDBPを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、40質量%エチルアルコール水溶液中に浸漬した後、20質量%水酸化ナトリウム水溶液中に70℃にて1時間浸漬して、中空糸状物中の疎水性シリカを抽出除去した。その後、水洗し、乾燥してポリフッ化ビニリデン製多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図12に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜34本を用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは51.7kg/m
2/hと高い値であり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0075】
(実施例7)
溶融物押し出し用円環穴及び中空部形成流体吐出用の円形穴の径が異なる中空糸成形用紡口を用いた以外は実施例4と同様の方法により、疎水性多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図13に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜35本を用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは49.1kg/m
2/hと高い値であり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0076】
(実施例8)
2台の押出機を用いて、内層として実施例3の組成の混合物を、外層として実施例4の溶融混練物を、同時にノズルから押し出し、共押し出しにより2層構造としたこと以外は、実施例3と同様にして、2層疎水性多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜35本を用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは55.0kg/m
2/hと高い値であり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0077】
(実施例9)
実施例2の紡糸条件において、ポリマー吐出量を14.5g/min、中空N
2量を20mL/minとした以外は同一の紡糸、アニール処理を行い、未延伸膜を得た。
得られた未延伸膜を用いて、131℃空気加熱槽中で、ロール間の速度調整により、2段熱セットを行う以外は、実施例2と同様の方法により、以下連続的に、冷延伸、熱延伸、熱セットを行い、疎水性多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図14に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜60本を用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは37.9kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0078】
(実施例10)
重量平均分子量が75万であるポリフッ化ビニリデン(SOLVAY社製Solef(登録商標)6020)13質量部と、エチレングリコール9質量部とを、N−メチル−2−ピロリドン78質量部に50℃で溶解させ製膜原液とした。
得られた製膜原液を二重環紡糸ノズル(最外径1.5mm、中間径0.7mm、最内径0.5mm)から内部液の水と共に押し出し、300mmの空走距離を通し、50℃の水中で凝固させ、その後別の槽にて50℃の水中で脱溶媒を行った。さらに、乾燥機にて60℃で8時間乾燥を行い、疎水性多孔中空糸膜を得た。
得られた疎水性多孔中空糸膜の性質を表1に、電子顕微鏡写真及び黒白2値化後の像を
図15に示す。
得られた疎水性多孔中空糸膜を20本用い、実施例1と同様の方法により膜蒸留を行った。
Fluxは38.0kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を表1並びに
図5及び6に示す。
【0079】
(実施例11)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに20kPaに変更した以外は実施例2と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは28.7kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を
図3に示す。
【0080】
(実施例12)
模擬海水の温度を65℃の代わりに55℃に変更した以外は実施例2と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは36.2kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を
図4に示す。
【0081】
(実施例13)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに8kPaに変更した以外は実施例12と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは46.8kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を
図4に示す。
【0082】
(実施例14)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに15kPaに変更した以外は実施例12と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは5.5kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を
図4に示す。
【0083】
(比較例1)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに26kPaに変更した以外は実施例2と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは1.0kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を
図3に示す。
【0084】
(比較例2)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに30kPaに変更した以外は実施例2と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは0.6kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を
図3に示す。
【0085】
(比較例3)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに50kPaに変更した以外は実施例2と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは0.0kg/m
2/hであり、膜蒸留水は全く得られず、導電率は測定できなかった。結果を
図3に示す。
【0086】
(比較例4)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに100kPaに変更した以外は実施例2と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは0.0kg/m
2/hであり、膜蒸留水は全く得られず、導電率は測定できなかった。結果を
図3に示す。
【0087】
(比較例5)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに20kPaに変更した以外は実施例12と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは0.4kg/m
2/hであり、得られた膜蒸留水の導電率は25℃で0.0μS/cmであった。結果を
図4に示す。
【0088】
(比較例6)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに30kPaに変更した以外は実施例12と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは0.0kg/m
2/hであり、膜蒸留水は全く得られず、導電率は測定できなかった。結果を
図4に示す。
【0089】
(比較例7)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに50kPaに変更した以外は実施例12と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは0.0kg/m
2/hであり、膜蒸留水は全く得られず、導電率は測定できなかった。結果を
図4に示す。
【0090】
(比較例8)
モジュール系内の圧力を10kPaの代わりに100kPaに変更した以外は実施例12と同様の方法で膜蒸留を行った。Fluxは0.0kg/m
2/hであり、膜蒸留水は全く得られず、導電率は測定できなかった。結果を
図4に示す。
【0091】
実施例2及び11並びに比較例1〜4における、モジュール系内の圧力とFluxの関係を
図3として示す。
実施例12〜14及び比較例5〜8における、モジュール系内の圧力とFluxの関係を
図4として示す。
図3及び
図4の結果から、気相部1〜3の圧力を処理水温度の水の飽和蒸気圧以下とすることにより、優れたFluxを得ることができることが理解できる。
【0092】
実施例1〜10において、それぞれ得られた疎水性多孔中空糸膜の内表面の開孔率及びFluxの関係を
図5として示す。
実施例1〜10において、それぞれ得られた疎水性多孔中空糸膜の空気透過係数及びFluxの関係を
図6として示す。
図5及び
図6の結果から、疎水性多孔中空糸膜の内表面の表面開孔率と空気透過係数を一定値以上とすることにより、膜蒸留において優れたFluxを得ることができることが理解できる。
【0093】
【表1】
【0094】
本出願は、2014年7月10日出願の日本特許出願(特願2014−142543号)及び2015年5月1日出願の日本特許出願(特願2015−94364号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。