(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306192
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】過渡状態中のガスタービンエンジンを制御するための制御システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
F02C 9/28 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
F02C9/28 Z
【請求項の数】16
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-543038(P2016-543038)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公表番号】特表2017-502206(P2017-502206A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】US2014070715
(87)【国際公開番号】WO2015100081
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】14/140,606
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508008865
【氏名又は名称】シーメンス アクティエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ・シー・ミドゥトゥリ
(72)【発明者】
【氏名】ダニー・ダブリュー・コザチュク
【審査官】
高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05896736(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0042258(US,A1)
【文献】
特開平08−042361(JP,A)
【文献】
特開2004−108315(JP,A)
【文献】
特開2009−047164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/057
F02C 9/00
F02C 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンエンジンのための制御システムであって、
空燃比を制御するための少なくとも1つのパラメータに応答するコントローラを備え、前記ガスタービンエンジンの過渡条件中に、前記少なくとも1つのパラメータの測定値は、前記ガスタービンエンジンの前記過渡条件中の少なくとも1つの制御設定値に影響を及ぼす時間遅れを含み、前記コントローラは、前記少なくとも1つの制御設定値を補正するためのバイアスを予測的に決定するようにプログラムされ、
前記バイアスの決定が、理想的なエンジン排気温度応答と測定されたエンジン排気温度応答との差によって決定される前記時間遅れに基づいており、
前記制御システムが、圧縮機への流入空気の流れを制御するための入口案内翼をさらに備え、前記少なくとも1つの制御設定値は、前記ガスタービンエンジンの前記過渡条件中の前記入口案内翼を位置決めするための制御設定値を含む、制御システム。
【請求項2】
前記バイアスは、現在のエンジン条件における定常状態排気温度値に適用される、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記バイアスの決定は、下式、
Texhbias,1 = a×(MWrate×Δtlag×(TexhSS,1-TexhSS,2))+b
に基づいており、
上式で、
Texhbias,1 = 現在のエンジン条件における定常状態排気温度値へのバイアス、
TexhSS,1 = 前記現在のエンジン条件における前記定常状態排気温度値、
TexhSS,2 = 目標エンジン条件における定常状態排気温度値、
MWrate = 前記ガスタービンエンジンのランプ速度、
Δtlag = 前記時間遅れの値、
a = 比例係数、および
b = 場所固有の定数である、請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
燃焼器への少なくとも1つの燃料の流れを制御するための燃料システムをさらに備え、前記少なくとも1つの制御設定値はさらに、前記少なくとも1つの燃料の流れに対する需要量を含む、請求項1に記載の制御システム。
【請求項5】
周囲温度に応じて前記バイアスを調整するように構成されるバイアス調整器をさらに備える、請求項1に記載の制御システム。
【請求項6】
エンジン負荷に応じて前記バイアスを調整するように構成されるバイアス調整器をさらに備える、請求項1に記載の制御システム。
【請求項7】
周囲温度および/またはエンジン負荷に応じて前記バイアスを調整するように構成されるバイアス調整器をさらに備える、請求項1に記載の制御システム。
【請求項8】
ガスタービンエンジンを制御するための方法であって、
少なくとも1つのパラメータに応答するコントローラを用いて空燃比を制御するステップと、
前記ガスタービンエンジンの過渡条件中に、前記ガスタービンエンジンの前記過渡条件中の少なくとも1つの制御設定値に影響を及ぼす時間遅れを含む、前記少なくとも1つのパラメータの値を測定するステップと、
前記少なくとも1つの制御設定値を補正するためのバイアスを予測的に決定するステップと、
を含む、方法において、
前記制御するステップは、部分的にエンジン排気温度測定結果に基づく制御するステップを含み、前記少なくとも1つのパラメータは、測定されたエンジン排気温度を含み、
前記バイアスを決定する前記ステップは、理想的なエンジン排気温度応答と測定されたエンジン排気温度応答との差によって決定される前記時間遅れに基づいており、
前記方法が、入口案内翼を用いて圧縮機への流入空気の流れを制御するステップを含み、前記少なくとも1つの制御設定値は、前記ガスタービンエンジンの前記過渡条件中の前記入口案内翼を位置決めするための制御設定値を含む、方法。
【請求項9】
現在のエンジン条件における定常状態排気温度値に前記バイアスを適用するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記バイアスを決定する前記ステップは、下式、
Texhbias,1 = a×(MWrate×Δtlag×(TexhSS,1-TexhSS,2))+b
に基づいており、
上式で、
Texhbias,1 = 現在のエンジン条件における定常状態排気温度値へのバイアス、
TexhSS,1 = 前記現在のエンジン条件における前記定常状態排気温度値、
TexhSS,2 = 目標エンジン条件における定常状態排気温度値、
MWrate = 前記ガスタービンエンジンのランプ速度、
Δtlag = 前記時間遅れの値、
a = 比例係数、および
b = 場所固有の定数である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
入口案内翼を用いて圧縮機への流入空気の流れを制御するステップをさらに含み、前記少なくとも1つの制御設定値は、前記ガスタービンエンジンの前記過渡条件中の前記入口案内翼を位置決めするための制御設定値を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
燃焼器への少なくとも1つの燃料の流れを制御するステップをさらに含み、前記少なくとも1つの制御設定値はさらに、前記少なくとも1つの燃料の流れに対する需要量を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
周囲温度に応じて前記バイアスを調整するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
エンジン負荷に応じて前記バイアスを調整するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記時間遅れが、測定されたエンジン排気温度応答と理想的なエンジン排気温度応答との比較に基づいている、請求項1に記載の制御システム。
【請求項16】
前記時間遅れが、測定されたエンジン排気温度応答と理想的なエンジン排気温度応答との比較に基づいている、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、ガスタービンエンジンなどの、発電のための制御システムおよび方法に関し、より詳細には、ランピング(ramping)などの過渡状態中のガスタービンエンジンを制御するための制御システムおよび方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
ガスタービン発電所などの発電システムは、燃焼効率を改善するために高機能の燃焼部品およびプロセスを含む。最近の市場動向は、ガスタービンエンジンに対して高速ランピング能力を要求する。例えば、風力エネルギーの利用による発電の出現に伴って、電力会社は、風変動にかかわらず一定のグリッド発電を維持するためにガスタービンを風力タービン使用地(wind turbine fields)と相互接続することもある。したがって、高速ランピング能力を有することは、ガスタービンエンジンが、商用発電を一定のレベルに維持しかつ任意の他のグリッド外乱を軽減するのに有用となり得るように、望ましい能力になりつつある。この技術分野においてなされた進歩にもかかわらず、これらの高速ランピング条件中に、適切なエンジン燃焼力学を維持しかつ次に排出量の許容できるレベルを提供することができる制御システムおよび方法の必要性があり続ける。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、図面を考慮して下記の記述において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】エンジンの過渡条件中の理想的なエンジン排気温度応答を測定されたエンジン排気温度応答に対して比較して概念化するために使用され得るそれぞれのプロット例を示す図である。
【
図2】エンジンの過渡条件中の実際の燃焼器空燃比(AFR)を理想的な燃焼器AFRに対して比較して概念化するために使用され得るそれぞれのプロット例を示す図である。
【
図3】本発明の態様を具体化する制御システムが有益であるガスタービンシステムの一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明者らは、限定されない一例では、40MW/minに至るまでのかつ潜在的にはさらにより高いランピング速度を含むこともある、比較的高速のランピング条件を伴うこともあるなどの、過渡条件中のガスタービンエンジンの運転に関連して起こり得るある問題を革新的に克服した。本発明者らは、測定されたエンジン排気温度の遅れが、エンジンの空燃比(AFR)の変動につながることもあり、それが次に、そのような過渡状態中の窒素酸化物(NOx)の高排出量および高燃焼不安定性をもたらすこともあることを賢明にも理解した。本発明者らは、一実施形態例では、測定されたエンジン排気温度の遅れの影響を取り除くまたは少なくとも実質的に低減する、革新的な制御システムおよび方法を提案する。
【0006】
図1は、プロット6によって表される、エンジンのランピング条件などの過渡状態中の理想的なエンジン排気温度応答(プロット4)を測定されたエンジン排気温度応答(プロット5)に対して比較するために使用され得るそれぞれのプロット例を示す。この例では、理想的なエンジン排気温度応答と測定されたエンジン排気温度との間の約30秒の時間遅れ(矢印7によって表される)を理解することができる。
【0007】
測定されたエンジン排気温度のそのような時間遅れの結果として、エンジン空燃比(AFR)は、エンジンのランピング条件中に変動することもある。これは、
図2で理解することができ、この図ではプロット8は、実際の測定された燃焼器AFRの一例を表し、プロット9は、理想的な燃焼器AFRを表す。プロット8上の円11は、比較的高い排出量および高い燃焼不安定性の傾向がある領域を表す。エンジンが定常状態運転に達した後、測定された排気温度およびAFRは、理想的な排気温度およびAFRと実質的に一致し、結果として、排出量および燃焼力学要件を満たすことができる。
【0008】
図3は、例示的ガスタービンシステム10の概略図を示し、ガスタービンシステム10のある構成要素は、本明細書ではエンジンと呼ばれることもあり、ガスタービンシステム10にとっては、本発明の態様が有益である。本発明の実施形態は、様々なガスタービンまたは他の発電システムとともに使用され得ることを理解されたい。システム10は、周囲空気流14を吸い込むために圧縮機12を含んでもよく、周囲空気流14は、圧縮機12へ、次いで燃焼器20へと空気流を制御するための入口案内翼(IGV)16によって調節されてもよい。圧縮空気18は、燃焼器20に提供され、燃焼ガス22は、タービン24に提供され、タービン24でエネルギーが、シャフト26を回転させるために取り出される。シャフト26は、圧縮機12および発電機(図示せず)などの付属装置に動力を供給してもよい。
【0009】
システム10は、燃料システム30を含んでもよく、燃料システム30は一実施形態例では、可燃燃料32の少なくとも1つの制御可能な流れを燃焼器20に提供してもよい。コントローラ40は、実行可能命令を有するプロセッサもしくはコンピュータ、デジタルもしくはアナログ制御システム、または入力信号もしくはデータパケットを受け取り、データを処理し、命令を実行し、適切な出力信号を生成し、かつデータパケットを送信するための他のデバイスの形で提供されてもよい。コントローラ40は、本発明の様々な態様を実行するための適切な制御モジュールおよびデータベースを有して構成されてもよい。一実施形態例では、コントローラ40は、空燃比を制御するための少なくとも1つのパラメータに応答してもよい。エンジンのランピング条件などの過渡状態中に、そのようなパラメータの測定値は、エンジンの過渡条件中の少なくとも1つの制御設定値に影響を及ぼす時間遅れを含む。本発明の態様によれば、コントローラ40は、そのような制御設定値を補正するために、エンジン排気温度(Texh)バイアスなどの補正を予測的に決定するようにプログラムされてもよい。
【0010】
一実施形態例では、コントローラ40は、部分的にエンジンTexh測定結果に基づくエンジン制御を提供する。本発明の態様を限定することなく、コントローラ40は、出口温度制御(OTC)コントローラと呼ばれてもよく、そのようなパラメータは、熱電対などの温度センサ42によって測定され得るものなど、測定されたエンジン排気温度を含んでもよい。一般に、時間遅れを提示しかつ空燃比を制御するために使用され得るコントローラ40に提供される任意の温度測定値または表示度数は、そのような測定値または表示度数が取得され得る場所にかかわらず、本発明の態様が有益であることを理解されたい。したがって、エンジン排気温度測定という用語は、エンジン排気場所に限定される必要はない。例えば、そのような測定は、ブレード経路(blade path)温度測定、または同様の測定を含んでいる。一実施形態例では、バイアスの決定は、少なくとも部分的にエンジンの過渡条件中のエンジンのランプ速度および測定されたエンジン排気温度の時間遅れに基づいてもよい。一実施形態例では、バイアスは、現在のエンジン条件における定常状態エンジンTexh値に適用されてもよい。
【0011】
一実施形態例では、バイアスの決定は、下式、
Texh
bias,1 = a×(MW
rate×Δt
lag×(Texh
SS,1-Texh
SS,2))+b
に基づいており、
上式で、
Texh
bias,1 = 現在のエンジン条件における定常状態排気温度(Texh)値へのバイアス、
Texh
SS,1 = 現在のエンジン条件における定常状態Texh値、
Texh
SS,2 = 目標エンジン条件における定常状態Texh値、
MW
rate = エンジンのランプ速度、
Δt
lag = 遅れ時間の値、
a = 比例係数、および
b = 場所固有の(site-specific)定数である。
【0012】
前述の式から理解できるように、エンジン排気温度バイアスは、エンジンのランプ速度、遅れ時間値、ならびに現在のエンジン条件および目標エンジン条件におけるエンジン排気温度値の差に比例する。例えば、遅れが、補正されないままであった場合、コントローラは、エンジンが実際に目標条件に達したことを適切に決定することができず、コントローラは、測定されたエンジン排気温度の遅れ値が最終的に追い付くまで、IGVおよび/または燃料流量設定値についてこの間違った決定を補償しようと試みることもある。このバイアスは本質的に、エンジンが定常状態値から燃焼過剰(overfire)にも燃焼不足(underfire)にもならず、したがって燃焼不安定性および高排出量を回避する条件を予測することによってランピング条件について新しい疑似エンジン状態を規定する。Texhバイアス値が決定された後、適切な制御論理表が、以下の表1に示されるように作り出されてもよい。一実施形態例では、そのような制御論理表は本質的に、周囲温度および/またはエンジン負荷に応じてコントローラ40によって決定されるバイアスを調整するように構成されるバイアス調整器44として機能する。
【0014】
決定されたバイアスに基づいて補正される一制御設定例は、エンジンの過渡条件中の入口案内翼16を位置決めするための制御設定値である。補正されてもよい別の制御設定例は、エンジンの過渡条件中の燃焼器20への可燃燃料32の制御可能な流れに対する需要量を制御することである。
【0015】
測定されたエンジン排気温度の遅れの影響を取り除くまたは少なくとも実質的に低減するために過渡条件中のガスタービンエンジンにおいて使用され得る、本発明のある装置例の態様、および本明細書で開示される方法は、任意の適切なプログラミング言語またはプログラミング技法を使用する任意の適切なプロセッサシステムによって実施されてもよいことを理解されたい。システムは、例えばハードウェア実施形態、ソフトウェア実施形態またはハードウェアおよびソフトウェア要素を両方とも備える実施形態を伴ってもよい、任意の適切な回路の形を取ることができる。一実施形態では、システムは、ソフトウェアおよびハードウェア(例えば、プロセッサ、センサ、その他)として実施され、それらは、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコード、その他を含んでもよいが、しかしそれらに限定されない。さらに、プロセッサシステムのパーツは、コンピュータまたは任意の命令実行システムによってまたはそれと関連して使用するためにプログラムコードを提供するコンピュータで使用可能な媒体またはコンピュータ可読媒体からアクセス可能なコンピュータプログラム製品の形を取ることができる。コンピュータ可読媒体の例は、半導体またはソリッドステートメモリ、磁気テープ、取り外し可能なコンピュータディスケット、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、リジッド磁気ディスクおよび光ディスクなどの、非一時的有形コンピュータ可読媒体を含んでもよい。光ディスクの現在の例は、コンパクトディスク−読み出し専用メモリ(CD−ROM)、コンパクトディスク−読み出し/書き込み(CD−R/W)およびDVDを含む。インターフェースディスプレイは、タブレット、フラットパネルディスプレイ、PDA、または同様のものであってもよい。
【0016】
本発明の様々な実施形態が、本明細書で示され、述べられたが、そのような実施形態が、ほんの一例として提供されることは、明らかであろう。多数の変形、変更および置換は、本明細書における発明から逸脱することなくなされてもよい。それに応じて、本発明は、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲によってのみ限定されることが、意図されている。
【符号の説明】
【0017】
4 理想的なエンジン排気温度応答のプロット
5 測定されたエンジン排気温度応答のプロット
6 エンジンの過渡状態のプロット
7 矢印
8 測定された燃焼器空燃比のプロット
9 理想的な燃焼器空燃比のプロット
10 ガスタービンシステム
11 高排出量および高燃焼器不安定性の傾向がある領域
12 圧縮機
14 周囲空気流
16 入口案内翼(IGV)
18 圧縮空気
20 燃焼器
22 燃焼ガス
24 タービン
26 シャフト
30 燃料システム
32 可燃燃料
40 コントローラ
42 温度センサ
44 バイアス調整器