特許第6306237号(P6306237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306237
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】塗装金属板、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/08 20060101AFI20180326BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20180326BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   B05D3/08
   B05D7/14 J
   B32B15/08 G
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-59834(P2017-59834)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-23963(P2018-23963A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2018年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-152240(P2016-152240)
(32)【優先日】2016年8月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成寿
(72)【発明者】
【氏名】平工 大
(72)【発明者】
【氏名】杉田 修一
【審査官】 高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−047669(JP,A)
【文献】 特開2005−186035(JP,A)
【文献】 特開2006−102671(JP,A)
【文献】 特開昭63−151380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D
B32B
B05C7/00−21/00
C23C24/00−30/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面に、JIS B0601:2013に準拠して算出される算術平均粗さRaが0.3〜3.0μmであり、かつX線源としてAlKα線を使用して、X線電子分光法で測定される表面のSi原子濃度が、1.0atm%未満である塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に、30〜1000kJ/mのフレーム処理を行う工程と、
を有する、塗装金属板の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜が、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む、
請求項1に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項3】
金属板と、
前記金属板上に配置された、JIS B0601:2013に準拠して算出される算術平均粗さRaが0.3〜3.0μmであり、X線源としてAlKα線を使用してX線電子分光法で測定される表面のSi原子濃度が1.0atm%未満であり、かつ表面のヨウ化メチレン転落角が15°以上45°以下である塗膜と、
を有
前記塗膜が、フレーム処理された膜である、塗装金属板。
【請求項4】
前記塗膜が、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む、
請求項3に記載の塗装金属板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装金属板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外の建造物や土木構造等には、塗装金属板が多く用いられている。このような塗装金属板では、自動車の排気ガス、工場からの煤煙等に含まれるカーボン系汚染物質(以下、「疎水性カーボン」とも称する)の付着による汚れが問題となっている。特に、雨筋に沿って付着する汚れ(以下、「雨筋汚れ」とも称する)が目立ちやすい。従来の塗装金属板では、このような雨筋汚れが比較的短時間のうちに目立つようになることが避けられず、雨筋汚れが発生し難い塗装金属板が求められていた。
【0003】
近年、塗膜の対水接触角を60°以下、つまり親水性にすることで、雨筋汚れを防止することが提案されている。対水接触角が低い親水性の塗膜表面では、雨水によって疎水性カーボンが浮き上がりやすく、浮き上がった疎水性カーボンが洗い流されると考えられる。塗装金属板表面を親水化する手法の一つとして、オルガノシリケートまたはオルガノシリケートの縮合物を含む有機塗料により、親水性の高い上塗り塗膜を形成する方法が挙げられる(特許文献1)。また、ポリシロキサン樹脂を含む塗膜の表面に、コロナ放電処理を施す方法(特許文献2)や、金属板上に形成された塗膜表面に200W/m/分以上のコロナ放電処理を施す方法(特許文献3)等も提案されている。さらに、ケイ酸からなる粒子や、加水分解性シリル化合物の硬化物を含む塗膜に、フレーム処理、プラズマ処理、またはコロナ放電処理を施す方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第1994/6870号
【特許文献2】特開平5−59330号公報
【特許文献3】特開2000−61391号公報
【特許文献4】特開2006−102671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1〜4の技術では、いずれも塗装金属板の表面の親水性が高まるが、このような処理だけでは、雨筋汚れを十分に抑制することは難しかった。その理由は以下のように推察される。親水性の塗装金属板表面を雨水が筋状に流れ落ちる際、流速の遅い雨筋の縁側では、疎水性カーボンが流動し難く、その場に留まる。一方、雨水によって浮き上がった疎水性カーボンは、縁側の疎水性カーボンに引き寄せられるように移動する。そして徐々に、疎水性カーボンが雨筋の縁側から中央にかけて堆積することで、雨筋汚れが発生する。
【0006】
このような状況を鑑み、本発明はなされたものである。すなわち、本発明は、表面に雨筋汚れが生じ難い、塗装金属板、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の塗装金属板の製造方法を提供する。
[1]金属板の表面に、JIS B0601:2013に準拠して算出される算術平均粗さRaが0.3〜3.0μmであり、かつX線源としてAlKα線を使用して、X線電子分光法で測定される表面のSi原子濃度が、1.0atm%未満である塗膜を形成する工程と、前記塗膜に、30〜1000kJ/mのフレーム処理を行う工程と、を有する、塗装金属板の製造方法。
【0008】
[2]前記塗膜が、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む、[1]に記載の塗装金属板の製造方法。
【0009】
また、本発明は、以下の塗装金属板も提供する。
[3]金属板と、前記金属板上に配置された、JIS B0601:2013に準拠して算出される算術平均粗さRaが0.3〜3.0μmであり、X線源としてAlKα線を使用してX線電子分光法で測定される表面のSi原子濃度が1.0atm%未満であり、かつ表面のヨウ化メチレン転落角が15°以上45°以下である塗膜と、を有する、塗装金属板。
[4]前記塗膜が、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む、[3]に記載の塗装金属板。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、表面に雨筋汚れが生じ難い、塗装金属板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aはフレーム処理用バーナーのバーナーヘッドの側面図であり、図1Bは、当該バーナーヘッドの正面図であり、図1Cは、当該バーナーヘッドの底面図である。
図2図2Aはフレーム処理用バーナーのバーナーヘッドの側面図であり、図2Bは、当該バーナーヘッドの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、塗装金属板、およびその製造方法に関する。前述のように、従来は、塗装金属板の表面を親水化することで、雨筋汚れを防止することが一般的であった。しかしながら、このような手法では、雨水によって浮き上がった疎水性カーボンが雨筋に沿って堆積しやすく、雨筋汚れが発生しやすかった。
【0013】
本発明者らは、雨筋汚れを防止するためには、(1)塗装金属板の表面の親水性、および(2)塗装金属板の表面粗度のバランスが重要であることを見出した。例えば、疎水性かつ滑らかな表面を有する塗装金属板では、表面に付着した疎水性カーボンが、雨水によって表面に押し広げられ、雨筋に沿って付着しやすい。一方、当該表面では、疎水性カーボンが容易に移動できる。そのため、雨筋に沿って付着した疎水性カーボンに、他の領域に付着した疎水性カーボンが引き寄せられて堆積し、比較的短期間のうちに雨筋汚れが発生する。一方、親水性かつ滑らかな表面を有する塗装金属板では、塗膜表面に付着した疎水性カーボンの移動はある程度抑制されるものの、雨水によって浮きあがった疎水性カーボンが、雨筋に沿って徐々に堆積する。そのため、経時で雨筋汚れが発生する。
【0014】
これに対し、本発明では、金属板の表面に、算術平均粗さRaが0.3〜3.0μmである塗膜を形成し、さらに、当該塗膜にフレーム処理を行う。当該方法によれば、適度な表面凹凸を有し、かつ均一に親水性が高い塗膜(ヨウ化メチレン転落角が15°以上45°以下である塗膜)を有する塗装金属板が得られる。当該塗装金属板では、塗膜表面の凹凸によって、疎水性カーボンが表面を移動し難く、雨水によって浮き上がっても移動し難い。さらに、塗膜表面が親水性であることによっても、疎水性カーボンの移動がある程度抑制される。したがって、塗装金属板表面を雨水が筋状に流れたとしても、疎水性カーボンが塗膜表面を移動し難く、雨筋汚れが発生し難い。
【0015】
なお、塗膜の算術平均粗さRaが3.0μmを超える場合、塗膜表面の凹凸による障壁が非常に大きくなる。そのため、塗膜表面の親水性を向上させなくても、雨筋汚れの発生を防止できることが期待される。ただし、塗膜の算術平均粗さRaが3.0μmを超えると、塗膜の表面粗度が大きすぎるため、塗装金属板の曲げ加工性が低下したり、雨筋汚れ以外の汚れが発生しやすくなる。一方、塗膜の算術平均粗さRaが0.3μm未満である場合には、表面の凹凸による障壁が十分でなく、たとえ塗膜表面の親水性を高めたとしても、疎水性カーボンが移動しやすくなる。つまり、十分な雨筋汚れ防止性能が得られ難くなる。
【0016】
なお、塗膜表面を親水化する方法としては、前述の特許文献4に記載されているように、フレーム処理の他に、コロナ放電処理、プラズマ処理等も知られている。しかしながら、コロナ放電処理では、処理にムラが生じやすく、塗膜表面に親水性領域の高い領域と親水性の低い領域の両方が生じる。そして、親水性の低い領域を基点に疎水性カーボンが寄り集まりやすいことから、十分な雨筋汚れ防止性能が得られない。また、プラズマ処理では、大掛かりな装置が必要であり、さらには均一に親水性を高めるためには、非常に時間がかかる。これに対し、フレーム処理によれば、短時間で効率良く、さらには大掛かりな装置を用いることなく、ムラなく塗膜を親水化できる、との利点がある。
【0017】
つまり、本発明の方法で得られる塗装金属板は、前述のように雨筋汚れが生じ難い。したがって、各種建築物の外装建材等に適用可能である。以下、本発明の塗装金属板の製造方法における、各工程について説明する。
【0018】
(塗膜の形成工程)
本工程では、金属板の表面に、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997に相当)に準拠して算出される算術平均粗さRaが0.3〜3.0μmである塗膜を形成する。上記算術平均粗さRaは、雨筋汚れが生じ難くなるだけでなく、雨筋汚れ以外の汚れも発生し難くなる、との観点から0.4〜2.5μmであることがより好ましく、0.5〜2.0μmであることがさらに好ましい。なお、塗膜表面の算術平均粗さの調整方法は特に制限されないが、例えば、後述の無機粒子や有機粒子の量や組み合わせ等によって調整することができる。また、上記塗膜表面の形状は、触針式表面粗さ計により測定する。
【0019】
また、当該塗膜は、X線電子分光法(以下、「XPS」とも称する)で測定される表面のSi原子濃度が、1.0atm%未満であり、0.7atm%以下であることが好ましい。塗膜表面のケイ素原子の量は、XPSにより以下の条件で測定される値である。
XPS分析装置 : KRATOS社製AXIS−NOVA
X線源 : 単色化AlKα(1486.6eV)
分析領域 : 300×700μm
分析室真空度 : 1.0×10−7Pa
【0020】
前述の特許文献1等では、オルガノシリケートまたはこれらの縮合物を含む塗料によって、形成する塗膜の耐水性を高めている。しかしながら、塗膜表面へのシリコン濃化が不十分であると、安定した親水性が得られ難い。また、塗膜表面を確実に親水化するためには、オルガノシリケート等を多量に使用することが必要であるが、このような塗料は貯蔵安定性が低く、塗膜形成時に均一に塗布し難いとの課題がある。これに対し、本発明では、オルガノシリケート等のSiを含む化合物を実質的に用いることなく、後述のフレーム処理によって塗膜の耐水性を高める。そのため、厚みや親水性にムラがない塗膜が得られる。
【0021】
ここで、本工程では、金属板の表面に、樹脂組成物を塗布し、これを硬化させて塗膜を得る。金属板の表面に樹脂組成物を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法から適宜選択することが可能である。樹脂組成物の塗布方法の例には、ロールコート法や、カーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法および浸漬引き上げ法が含まれる。これらの中でも、ロールコート法が上記算術平均粗さRaを有する塗膜を得やすいとの観点から好ましい。
【0022】
また、樹脂組成物の硬化方法は、樹脂組成物中の樹脂の種類等に応じて適宜選択され、例えば加熱による焼き付け等とすることができる。焼付け処理時の温度は、樹脂組成物中の樹脂等の分解を防止し、かつ均質な塗膜を得るとの観点から、120℃〜300℃であることが好ましく、150℃〜280℃であることがより好ましく、180〜260℃であることがさらに好ましい。焼付け処理時間は特に制限されず、上記と同様の観点から、3〜90秒であることが好ましく、10〜70秒であることがより好ましく、20〜60秒であることがさらに好ましい。
【0023】
また、金属板上に形成する塗膜の厚みは、塗装金属板の用途等に応じて適宜選択されるが、通常3〜30μmの範囲内である。当該厚みは、焼付け塗膜の比重とサンドブラスト等による塗膜除去前後の塗装金属板の重量差から重量法によって求めた値である。塗膜が薄すぎる場合、塗膜の耐久性および隠蔽性が不十分となることがある。一方、塗膜が厚すぎる場合、製造コストが増大するとともに、焼付け時にワキが発生しやすくなることがある。
【0024】
ここで、樹脂組成物を塗布する金属板は、一般的に建築板として使用されている金属板を使用することができる。このような金属板の例には、溶融Zn−55%Al合金めっき鋼板等のめっき鋼板;普通鋼板やステンレス鋼板等の鋼板;アルミニウム板;銅板等が含まれる。金属板には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されていてもよい。さらに、当該金属板は、本発明の効果を損なわない範囲で、エンボス加工や絞り成形加工等の凹凸加工がなされていてもよい。
【0025】
金属板の厚みは特に制限されず、塗装金属板の用途に応じて適宜選択される。例えば、塗装金属板を金属サイディング材に使用する場合には、金属板の厚みは0.15〜0.5mmとすることができる。
【0026】
一方、塗膜を形成するための樹脂組成物は、硬化によって金属板表面に所望の表面粗度を有する塗膜を形成可能なものであれば特に制限されない。本工程で塗布する樹脂組成物は、例えば、樹脂や硬化剤、無機粒子、有機粒子、着色顔料等を含む組成物とすることができる。
【0027】
樹脂は、樹脂組成物を塗布して得られる塗膜のバインダとなる成分である。当該樹脂の例には、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アミノ−ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アミノ−アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の高分子化合物が挙げられる。これらの中でも、汚れ付着性が低いことから、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アミノ−ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アミノ−アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましく、特に耐候性が高いことから、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂であることが好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合させた公知の樹脂とすることができる。多価カルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸及びこれらの無水物;2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類及びこれらの無水物;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸類及びこれらの無水物;γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;トリメリット酸、トリメジン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸類;等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価カルボン酸由来の構造を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0029】
一方、多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ドデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物等のグリコール類;トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価アルコール由来の構造を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0030】
上記樹脂が、ポリエステル樹脂である場合、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」とも称する)で測定される数平均分子量は、2,000〜8,000であることが好ましい。数平均分子量が2,000より小さくなると塗装金属板の加工性が低下することがあり、塗膜ワレが発生しやすくなることがある。また、数平均分子量が8,000より大きくなると、得られる塗膜の架橋密度が低くなる。そのため、塗膜の耐候性が低下することがある。加工性と耐候性のバランスから数平均分子量は3,000〜6,000であることが特に好ましい。
【0031】
一方、アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルをモノマー成分として含む樹脂であればよく、(メタ)アクリル酸エステルと共に、他のモノマー成分を一部に含んでいてもよい。本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリルおよび/またはメタクリルをいう。アクリル樹脂を構成するモノマー成分の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−、i−、またはt−ブチル、(メタ)アクリル酸へキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル等の炭素数1〜18のエステル基を有する(メタ)アクリルエステルまたは(メタ)アクリルシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の炭素数2〜8のヒドロキシアルキルエステル基を有する(メタ)アクリルヒドロキシエステル;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−置換(メタ)アクリルアミド系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸;グリシジル(メタ)アクリレート等が含まれる。アクリル樹脂は、これらのモノマー成分を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0032】
上記樹脂がアクリル樹脂である場合、その数平均分子量は特に制限されないが、塗膜硬度、耐候性に優れた塗膜を得る観点から、1,000〜200,000であることが好ましく、5,000〜100,000であることがより好ましく、10,000〜50,000であることがさらに好ましい。
【0033】
樹脂組成物中における樹脂の量は、塗装金属板の用途や、樹脂の種類に応じて適宜選択される。得られる塗膜の強度等の観点から、樹脂組成物の固形分100質量部に対して、上記樹脂を25〜60質量部含むことが好ましく、30〜50質量部含むことがより好ましい。
【0034】
一方、樹脂組成物が含む硬化剤は、塗膜の性状や物性(例えば塗膜表面硬度や耐久性)等を調整するための成分であり、硬化剤の一例として、上記樹脂を架橋可能な化合物が挙げられる。硬化剤は、樹脂の種類に応じて適宜選択される。例えば、上記樹脂がポリエステル樹脂である場合には、硬化剤は、メラミン系硬化剤であることが好ましい。メラミン系硬化剤の例には、メチロールメラミンメチルエーテル等のメチル化メラミン系樹脂硬化剤;メチロールメラミンブチルエーテル等のn−ブチル化メラミン系樹脂硬化剤;メチルとn−ブチルとの混合エーテル化メラミン樹脂硬化剤等が含まれる。
【0035】
樹脂組成物中における硬化剤の量は、塗装金属板の用途や、樹脂の種類に応じて適宜選択されるが、上記樹脂に対して、上記硬化剤を5〜20質量部含むことが好ましく、7〜15質量部含むことがより好ましい。硬化剤の量が上記範囲であると、得られる塗膜の硬化性が良好になる。
【0036】
また、樹脂組成物が無機粒子や有機粒子を含むと、得られる塗膜の算術平均粗さRaを0.3〜3.0μmに調整しやすくなる。ここで、無機粒子または有機粒子の平均粒子径は4〜80μmであることが好ましく、10〜60μmであることがより好ましい。無機粒子または有機粒子の平均粒子径が上記範囲であると、得られる塗膜の算術平均粗さRaが上記範囲に収まりやすい。ここで、無機粒子や有機粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法で測定される値である。なお、無機粒子や有機粒子の形状は特に制限されないが、所望の算術平均粗さRaに調整しやすいとの観点から、略球状であることが好ましい。
【0037】
無機粒子の例には、シリカ、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスビーズ、ガラスフレークが含まれる。また、有機粒子の例には、アクリル樹脂やポリアクリロ二トリル樹脂からなる樹脂ビーズが含まれる。これらの樹脂ビーズは、公知の方法を用いて製造したものであってもよく、市販品であってもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社製の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチックAR650ML(平均粒径80μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社製の「タフチック A−20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK−30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK−50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK−80(平均粒径80μm)」等が含まれる。
【0038】
樹脂組成物中における無機粒子および/または有機粒子の量は、塗膜の所望の表面粗さRaや、粒子の種類に応じて適宜選択される。ただし、得られる塗膜の算術平均表面粗さRaを上記範囲に調整するとの観点から、無機粒子および/または有機粒子の合計量は、樹脂組成物の固形分100質量部に対して2〜40質量部であることが好ましく、10〜30質量部であることがより好ましい。
【0039】
またさらに、樹脂組成物は、必要に応じて着色顔料を含んでいてもよい。着色顔料の平均粒子径は、例えば0.2〜2.0μmとすることができる。このような着色顔料の例には、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、カーボンブラック、コバルトブルー等が含まれる。なお、樹脂組成物が着色顔料を含む場合、その量は、樹脂組成物の固形分100質量部に対して、20〜60質量部であることが好ましく、30〜55質量部であることがより好ましい。
【0040】
また、樹脂組成物は、必要に応じて有機溶剤等の溶媒を含んでいてもよい。溶媒が有機溶剤である場合、当該有機溶剤は、上記樹脂や硬化剤、無機粒子や有機粒子等を十分に溶解、または分散させることが可能なものであれば特に制限されない。有機溶剤の例には、トルエン、キシレン、Solvesso(登録商標)100(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)150(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)200(商品名、エクソンモービル社製)等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;等が含まれる。樹脂組成物は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの中でも、樹脂との相溶性等の観点から、好ましくはキシレン、Solvesso(登録商標)100、Solvesso(登録商標)150、シクロヘキサノン、n−ブチルアルコールである。
【0041】
樹脂組成物の調製方法は特に制限されない。例えば、公知の塗料と同様の方法により、上記材料を混合し、攪拌もしくは分散することで、調製することができる。
【0042】
(フレーム処理工程)
本工程では、前述の算術平均粗さを有する塗膜に、30〜1000kJ/mのフレーム処理を行う。塗膜をフレーム処理することで、塗膜表面にOH基を導入することができ、塗膜表面の親水性を高めることができる。また、フレーム処理では、塗膜表面全体をムラなく親水化できる。したがって、前述のように、塗膜表面での疎水性カーボンの移動を十分に抑制することが可能となる。
【0043】
フレーム処理は、塗膜を形成した金属板を、ベルトコンベア等の搬送機に載置し、一定方向に移動させながら、フレーム処理用バーナーで火炎を放射する方法等とすることができる。
【0044】
ここで、フレーム処理量は、100〜600kJ/mであることがより好ましい。なお、本明細書における「フレーム処理量」とは、LPガス等の燃焼ガスの供給量を基準として計算される塗装金属板の単位面積当たりの熱量である。当該フレーム処理量は、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドと塗膜表面との距離、塗膜の搬送速度等によって調整できる。フレーム処理量が30kJ/m未満では、処理にムラが生じることがあり、塗膜表面を一様に親水化することが難しい。一方、フレーム処理量が1000kJ/mを超えると、塗膜が酸化して黄変することがある。
【0045】
ここで、塗膜がポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む場合、フレーム処理後の塗膜表面は、X線源としてAlKα線を使用してX線電子分光法で測定される表面の酸素原子濃度と炭素原子濃度との比(O原子濃度/C原子濃度)が0.25以上であることが好ましく、0.30以上であることがより好ましい。上記酸素原子濃度および炭素原子濃度の比は、塗膜表面に酸素が導入されたことを示し、上記比が0.25以上であれば、塗膜表面に十分な量のOH基等が導入されているといえる。なお、塗膜にコロナ放電処理を行った場合にも、酸素原子濃度と炭素原子濃度との比を上記範囲とすることは可能である。ただし、前述のように、コロナ放電処理では、塗膜表面を均一に親水化することが難しい。塗膜表面が均一に処理されているか否かは、酸素原子濃度と炭素原子濃度との比では判別が難しいが、以下のヨウ化メチレン転落角によって確認することができる。
【0046】
本発明におけるフレーム処理後の塗膜表面のヨウ化メチレン転落角は、15°以上45°以下であることが好ましく、20°以上35°以下であることがより好ましい。ここで、ヨウ化メチレン転落角は、塗膜表面の親水性が高い場合や、塗膜表面の粗度が粗い場合に高くなるが、特に塗膜表面の親水性が不均一であると、45°超となる。例えば、コロナ放電処理で塗膜を表面処理した場合には、ヨウ化メチレン転落角が45°超となる。これに対し、本発明では、フレーム処理を行うことから、ヨウ化メチレン転落角を45°以下とすることができる。なお、ヨウ化メチレン転落角が15°未満であると、塗膜表面の親水性が不十分であり、十分な雨筋汚れ性が得られ難くなるが、フレーム処理によれば、容易に15°以上とすることができる。
【0047】
なお、コロナ放電処理を行った場合、ヨウ化メチレン転落角が45°より大きくなる理由は、以下のように考えられる。表面に親水基および疎水基をそれぞれ同数ずつ有する2種類の塗膜が有り、一方は親水基と疎水基との分布に偏りが無く、他方は親水基と疎水基との分布に偏りが有ると仮定する。このとき、両者の静的接触角は、親水基および疎水基の分布に左右され難く、略同一となる。これに対し、両者の動的接触角(ヨウ化メチレン転落角)は、親水基および疎水基の分布によって左右され、異なる値となる。ヨウ化メチレン転落角を測定する際、親水基および疎水基の分布が不均一であると、親水基の密度が高い部分にヨウ化メチレン滴が吸着される。つまり、親水基と疎水基との分布に偏りが有ると、分布ムラがない場合と比較してヨウ化メチレン滴が動き難くなり、転落角が大きくなる。前述のように、コロナ放電処理を行うと、塗膜表面に親水基が多数導入されるものの、その分布にはムラがある。したがって、コロナ放電処理を行った膜では、転落角が45°を超える高い値となる。
【0048】
ヨウ化メチレン転落角は、以下のように測定される値である。まず、水平に保持した塗膜上に2μlのヨウ化メチレンを滴下する。その後、接触角測定装置を用いて、2度/秒の速度で塗膜の傾斜角度(水平面と塗膜とが成す角度)を大きくする。このとき、接触角測定装置に付属しているカメラによって、ヨウ化メチレンの液滴を観察する。そして、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間の傾斜角度を特定し、5回の平均値を当該塗膜のヨウ化メチレン転落角とする。なお、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間とは、ヨウ化メチレンの重力下方向の端点および重力上方向の端点の両方が動き出す瞬間とする。
【0049】
以下、本発明のフレーム処理に使用可能なフレーム処理用バーナーの一例を説明するが、フレーム処理方法は当該方法に限定されない。
【0050】
フレーム処理用バーナーは、燃焼性ガスを供給するためのガス供給管と、当該ガス供給管から供給された燃焼性ガスを燃焼させるバーナーヘッドと、これらを支えるための支持部材と、を有する。図1に、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドの模式図を示す。図1Aはバーナーヘッドの側面図であり、図1Bは、当該バーナーヘッドの正面図であり、図1Cは、当該バーナーヘッドの底面図である。なお、便宜上、図1Aおよび図1Bでは炎口22bに該当する部分を太線で強調して記載しているが、実際、炎口22bは側面および正面から視認されない。
【0051】
バーナーヘッド22は、ガス供給管23と接続された略四角柱状の筐体22aと、当該筐体の底面に配置された炎口22bとを有し、ガス供給管23から供給された燃焼性ガスを炎口22bで燃焼させる。
【0052】
バーナーヘッド22の筐体22a内部の構造は、一般的なフレーム処理用バーナーと同様の構造とすることができ、例えばガス供給管23から供給された燃焼性ガスを炎口22bに流動させるための流路等が形成されていてもよい。また、正面視したときの筐体22aの幅は、フレーム処理する塗膜の幅に合わせて適宜選択される。また、側面視したときの筐体22aの幅は、炎口22bの塗膜の搬送方向の幅(図1AにおいてLで表される幅)等に合わせて適宜選択される。
【0053】
一方、炎口22bは、筐体22aの底面に設けられた貫通孔である。炎口22bの形状は特に制限されないが、矩形状や丸穴形状とすることができる。ただし、フレーム処理を塗膜の幅方向に均一に行うとの観点から、矩形状であることが特に好ましい。また、炎口22bの塗膜の搬送方向に垂直方向の幅(図1BにおいてWで表される幅)は、フレーム処理する塗膜の幅と同等もしくは大きければよく、例えば40〜50cm程度とすることができる。一方、炎口22bの塗膜の搬送方向の幅(図1AにおいてLで表される幅)は、燃焼性ガスの吐出安定性等に応じて適宜設定することができ、例えば1〜8mm程度とすることができる。
【0054】
ガス供給部23は、一方がバーナーヘッド22と接続され、他方がガス混合部(図示せず)と接続されたガスの流路である。ガス混合部は、燃焼ガスボンベ等の燃焼ガス供給源(図示せず)と、空気ボンベ、酸素ボンベ、コンプレッサーエアー、ブロアーによるエアー等の助燃ガス供給源(図示せず)と接続されており、燃焼ガスと助燃ガスとを予め混合するための部材である。なお、ガス混合部からガス供給部23に供給される燃焼性ガス(燃焼ガスと助燃ガスとの混合ガス)中の酸素の濃度は一定であることが好ましく、ガス混合部は、必要に応じてガス供給部23に酸素を供給するための酸素供給器を具備していることが好ましい。
【0055】
上記燃焼ガスの例には、水素、液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)、アセチレンガス、プロパンガス、およびブタン等が含まれる。これらの中でも所望の火炎を形成しやすいとの観点から、LPG又はLNGが好ましく、特にLPGが好ましい。一方、上記助燃ガスの例には、空気または酸素が含まれ、取扱性等の面から、空気であることが好ましい。
【0056】
ガス供給部23を介してバーナーヘッド22に供給される燃焼性ガス中の燃焼ガスと助燃ガスとの混合比は、燃焼ガス及び助燃ガスの種類に応じて適宜設定することができる。例えば、燃焼ガスがLPG、助燃ガスが空気である場合、LPGの体積1に対して、空気の体積を24〜27とすることが好ましく、25〜26とすることがより好ましく、25〜25.5とすることがさらに好ましい。また、燃焼ガスがLNG、助燃ガスが空気である場合、LNGの体積1に対して、空気の体積を9.5〜11とすることが好ましく、9.8〜10.5とすることがより好ましく、10〜10.2とすることがさらに好ましい。
【0057】
当該フレーム処理用バーナーでは、塗膜を移動させながら、塗膜のフレーム処理を行う。このとき、バーナーヘッド22の炎口22bから、塗膜に向けて燃焼性ガスを吐出しつつ、当該燃焼性ガスを燃焼させることで、上記フレーム処理を行うことができる。バーナーヘッド22と塗膜との距離は、前述のように、フレーム処理量に応じて適宜選択されるが、通常10〜120mm程度とすることができ、25〜100mmとすることが好ましく、30〜90mmとすることがより好ましい。バーナーヘッドと塗膜との距離が近すぎる場合には、金属板の反り等によって、塗膜とバーナーヘッドとが接触してしまうことがある。一方、バーナーヘッドと塗膜との距離が遠すぎる場合には、フレーム処理に多大なエネルギーが必要となる。なお、フレーム処理時には、フレーム処理用バーナーから塗膜表面に対して垂直に火炎を放射してもよいが、塗膜表面に対して一定の角度を成すように、フレーム処理用バーナーから塗膜表面に対して火炎を放射してもよい。
【0058】
また、塗膜の移動速度は、前述のフレーム処理量に応じて適宜選択されるが、通常5〜70m/分であることが好ましく、10〜50m/分であることがより好ましく、20〜40m/分であることがさらに好ましい。塗膜を5m/分以上の速度で移動させることにより、効率的にフレーム処理を行うことができる。一方で、塗膜の移動速度が速すぎる場合には、塗膜の移動によって気流が生じやすく、フレーム処理を十分に行うことができないことがある。
【0059】
なお、上記では、筐体22aに一つのみ炎口22bを有するバーナーヘッド22を示したが、バーナーヘッド22の構造は、上記構造に限定されない。例えば、図2に示すように、バーナーヘッド22は、炎口22bと平行に補助炎口22cを有していてもよい。図2Aはバーナーヘッドの側面図であり、図2Bは、当該バーナーヘッドの底面図である。なお、便宜上、図2Aでは炎口22bや補助炎口22cに該当する部分を太線で強調して記載しているが、実際、炎口22bや補助炎口22cは側面から視認されない。ここで、炎口22bと補助炎口22cとの間隔は、2mm以上であることが好ましく、例えば2mm〜7mmとすることができる。このとき、筐体22aは、補助炎口22cから非常に微量の燃焼性ガスが通過するような構造を有する。補助炎口22cから吐出される燃焼性ガスの量は、炎口22bから吐出される燃焼性ガスの5%以下であることが好ましく3%以下であることが好ましい。補助炎口22cで生じる火炎は、塗膜の表面処理に殆ど影響を及ぼさないが、補助炎口22cを有することで、炎口22bから吐出される燃焼性ガスの直進性が増し、揺らぎが少ない火炎が形成される。
【0060】
また、本工程では、上述のフレーム処理前に、塗膜表面を40℃以上に加熱する予熱処理を行ってもよい。熱伝導率が高い金属板(例えば、熱伝導率が10W/mK以上の金属板)表面に形成された塗膜に、火炎を照射すると、燃焼性ガスの燃焼によって生じた水蒸気が冷やされて水となり、一時的に塗膜の表面に溜まる。そして、当該水がフレーム処理時のエネルギーを吸収して水蒸気となることで、フレーム処理が阻害されることがある。これに対し、塗膜表面(金属板)を予め加熱しておくことで、火炎照射時の水の発生を抑えることができる。
【0061】
塗膜を予熱する手段は特に限定されず、一般に乾燥炉と呼ばれる加熱装置を使用することができる。例えば、バッチ式の乾燥炉(「金庫炉」とも称する。)を使用することができ、その具体例には、株式会社いすゞ製作所製低温恒温器(型式 ミニカタリーナ MRLV−11)、株式会社東上熱学製自動排出型乾燥器(型式 ATO−101)、および株式会社東上熱学製簡易防爆仕様乾燥器(型式 TNAT−1000)等が含まれる。
【0062】
以上の塗膜形成工程およびフレーム処理工程によれば、金属板と、当該金属板上に配置された、JIS B0601:2013に準拠して算出される算術平均粗さRaが0.3〜3.0μmであり、X線源としてAlKα線を使用してX線電子分光法で測定される表面のSi原子濃度が1.0atm%未満であり、かつ表面のヨウ化メチレン転落角が15°以上45°以下である塗膜と、を有する塗装金属板が得られる。当該塗装金属板は、塗膜表面の親水性が一様に高く、耐雨筋汚れ性が非常に高い。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されない。
【0064】
以下の方法により、塗装金属板を作製し、それぞれについて、雨筋汚れ防止性を評価した。
【0065】
1.金属板の準備
板厚0.27mm、A4サイズ、片面当りめっき付着量90g/mの溶融Zn−55%Al合金めっき鋼板を金属板として準備し、表面をアルカリ脱脂した。その後、当該表面に、塗布型クロメート(日本ペイント株式会社製 NRC300NS)を、Crの付着量が50mg/mとなるように塗布した。さらに、エポキシ樹脂系プライマー塗料(日本ファインコーティングス株式会社製 700P)を、乾燥膜厚が5μmとなるようにロールコーターで塗布した。続いて、基材の最高到達板温215℃となるように焼き付け、プライマー塗膜を形成しためっき鋼板(以下、単に「めっき鋼板」とも称する)を得た。
【0066】
2.塗膜の形成
2−1.ポリエステル樹脂系の塗膜の形成(実施例1〜12、比較例1〜10、および参考例1、2)
数平均分子量5,000、ガラス転移温度30℃、水酸基価28mgKOH/gの高分子ポリエステル樹脂(DIC株式会社製)と、メトキシ基90モル%のメチル化メラミン樹脂(三井サイテック製 サイメル303)とを混合し、ベースとなるポリエステル樹脂/メラミン塗料を得た。ポリエステル樹脂とメチル化メラミン樹脂の配合比は70/30とした。
【0067】
上記ポリエステル樹脂/メラミン塗料に、平均粒径10μmのマイカ(株式会社ヤマグチマイカ製 SJ−010)、平均粒径5.5μmの疎水性シリカ(富士シリシア株式会社製 サイシリア456)、平均粒径12μmの疎水性シリカ(富士シリシア化学株式会社製 サイリシア476)、平均粒径24μmのポリアクリロニトリル系微粒子(東洋紡社製 タフチック A−20)および平均粒径40μmのアクリル樹脂系微粒子(東洋紡社製 タフチック AR650MX)を、塗膜の所望の表面粗度Ra(表2に示す塗膜の表面粗度Ra)に応じて表1に示すような組成(樹脂組成物の固形分に対する量)で、1種または2種以上添加した。なお、無機粒子および有機粒子の添加量の合計は、調製する樹脂組成物の固形分量に対して3〜24質量%とした。また同時に、着色顔料として、平均粒径0.28μmの酸化チタン(テイカ株式会社製 JR−603)を、表1に示すような組成で、樹脂組成物の固形分量に対して38〜49質量%添加した。なお、酸化チタンの添加量は、樹脂組成物の固形分量に対して、無機粒子、有機粒子、および酸化チタンの合計が52〜62質量%となるように調整した。
【0068】
その後、触媒として、ドデシルベンゼンスルフォン酸を、上記ポリエステル樹脂/メラミン塗料の固形分量に対して1質量%加えた。さらに、ジメチルアミノエタノールを加えて塗膜形成用の樹脂組成物を得た。なお、ジメチルアミノエタノールの添加量は、ドデシルベンゼンスルフォン酸の酸当量に対してアミン当量が1.25倍となる量とした。
【0069】
上記樹脂組成物を、乾燥膜厚が18μmとなるように上述のめっき鋼板にロールコーターで塗布し、最高到達板温225℃で焼き付けた。そして、JIS B0601:2013に準拠して算出される算術平均粗さRaが0.24〜3.1μmである塗膜(実施例1〜12、比較例1から10、および参考例1、2の塗膜)を得た。なお、当該塗膜表面の形状は、下記に示す触針式表面粗さ計により測定した。
使用装置 : アルバックファイ社製 Dektak150
測定条件 : 触針式
垂直方向分解能 : 0.1nm/6.5μm、1nm/65.5μm、8nm/524μm
触針圧 : 3mg
走査時間 : 60s
触針半径 : 2.5μm
走査距離 : 1mm
【0070】
2−2.アクリル樹脂系の塗膜の形成(実施例13〜16、および比較例11〜16)
アクリル樹脂(株式会社日本触媒製 アロセット5534−SB60)37.85質量部(固形分量)、平均粒径0.28μmの酸化チタン顔料(テイカ株式会社製 JR−603)37.85質量部、シクロヘキサノン10質量部、およびブタノール25質量部を混合し、ビーズミルで混練した。その後、硬化剤として、メラミン樹脂(DIC株式会社製 スーパーベッカミンL−155−70)15.06質量部(固形分量)を加え、ベースとなるアクリル樹脂/メラミン塗料を調製した。
【0071】
このアクリル樹脂塗料に、平均粒径10μmのマイカ(株式会社ヤマグチマイカ製 SJ−010)、平均粒径5.5μmの疎水性シリカ(富士シリシア株式会社 サイシリア456)、平均粒径12μmの疎水性シリカ(富士シリシア化学株式会社製 サイリシア476)、平均粒径24μmのポリアクリロニトリル系微粒子(東洋紡社製 タフチック A−20)、および平均粒径40μmのアクリル樹脂系微粒子(東洋紡社製 タフチック AR650MX)を、塗膜の所望の表面粗度Ra(表2に示す塗膜の表面粗度Ra)に応じて表1に示す組成(樹脂組成物の固形分に対する量)で1種または2種以上添加し、樹脂組成物とした。なお、無機粒子および有機粒子の添加量の合計は、調製する樹脂組成物の固形分量に対して19〜24質量%とした。また同時に、着色顔料として、平均粒径0.28μmの酸化チタン(テイカ株式会社製 JR−603)を、表1に示すような組成で、樹脂組成物の固形分量に対して38〜40質量%添加した。また、無機粒子および有機粒子の添加量の合計は、樹脂組成物の固形分量に対して59〜62質量%とした。
【0072】
上記樹脂組成物を、乾燥膜厚が18μmとなるように上述のめっき鋼板にロールコーターで塗布し、最高到達板温225℃となるように焼き付けた。これにより、JIS B0601:2013に準拠して算出される算術平均粗さRaが0.54〜2.02μmである塗膜(実施例13〜16、および比較例11〜16)を得た。なお、当該塗膜表面の形状は、上述の触針式表面粗さ計により測定した。
【0073】
3.表面処理
3−1.フレーム処理(実施例1〜16、比較例7、8、および参考例1、2)
上述の塗膜を形成しためっき鋼板を、株式会社東上熱学製 自動排出型乾燥器(型式 ATO−101)を用いて、設定温度80℃、風速2.0m/sの条件で、5分間熱処理した。
【0074】
その後、上記塗膜を形成しためっき鋼板を搬送機に載せて、塗膜にフレーム処理を行った。フレーム処理用バーナーには、Flynn Burner社(米国)製のF−3000を使用した。また、燃焼性ガスには、LPガス(燃焼ガス)と、クリーンドライエアーとを、ガスミキサーで混合した混合ガス(LPガス:クリーンドライエアー(体積比)=1:25)を使用した。また、各ガスの流量は、バーナーの炎口の1cmに対してLPガス(燃焼ガス)が0.48〜2.61L/分、クリーンドライエアーが12.00〜65.25L/分となるように調整した。なお、塗膜の搬送方向のバーナーヘッドの炎口の長さ(図1AにおいてLで表される長さ)は4mmとした。一方、バーナーヘッドの炎口の搬送方向と垂直方向の長さ(図1AにおいてWで表される長さ)は、450mmとした。さらに、バーナーヘッドの炎口と塗膜表面との距離は、所望のフレーム処理量に応じて15〜50mmとした。さらに、塗膜の搬送速度を10〜70m/分の範囲内で変更することで、フレーム処理量が表2に示す値となるよう、調整した。各実施例および比較例におけるフレーム処理量は、下記の表2に示す。
【0075】
3−2.コロナ放電処理(比較例9、10、13〜16)
上述の塗膜を形成しためっき鋼板の塗膜表面をコロナ放電処理した。コロナ放電処理には、春日電機株式会社製の下記の仕様のコロナ放電処理装置を使用した。
(仕様)
・電極セラミック電極
・電極長さ 430mm
・出力 310W
また、塗膜のコロナ放電処理回数は、いずれも1回とした。コロナ放電処理量は、処理速度によって調整した。具体的には、4.8m/分または2.8m/分で処理することにより、コロナ放電処理量150W・分/mまたは250W・分/mとした。
【0076】
[評価]
各実施例および比較例で得られた塗装金属板について、以下の方法で、塗膜表面のSi原子濃度、O原子濃度、およびC原子濃度の測定、対水接触角の測定、ヨウ化メチレン転落角の測定、ならびに耐雨筋汚れ性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
(1)塗膜表面のSi原子濃度、O原子濃度、およびC原子濃度の測定
XPS分析装置(KRATOS社製AXIS−NOVA)により、以下の条件で塗膜表面のSi原子濃度、O原子濃度、およびC原子濃度を測定した。
X線源 : 単色化Al Kα(1486.6eV)
分析領域 : 300×700μm
分析室真空度 : 1.0×10−7Pa
【0078】
(2)対水接触角の測定
実施例、比較例、および参考例で作製した塗装金属板の塗膜表面の対水接触角を測定した。測定は気温23±2℃、相対湿度50±5%の恒温恒湿度室で0.01ccの精製水の水滴を形成して、協和界面科学株式会社製の接触角計DM901を使用して測定した。
【0079】
(3)ヨウ化メチレン転落角の測定
水平に保持した塗膜上に2μlのヨウ化メチレンを滴下した。その後、接触角測定装置(協和界面科学社製 DM901)を用いて、2度/秒の速度で塗膜の傾斜角度(水平面と塗膜とが成す角度)を大きくした。このとき、接触角測定装置に付属しているカメラによって、ヨウ化メチレンの液滴を観察した。そして、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間の傾斜角度を特定し、5回の平均値を当該塗膜のヨウ化メチレン転落角とした。なお、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間とは、ヨウ化メチレンの液滴の重力下方向の端点および重力上方向の端点の両方が移動し始める瞬間とした。
【0080】
(4)耐雨筋汚れ性の評価
耐雨筋汚れ性は、以下のように評価した。
まず、垂直暴露台に実施例、比較例、および参考例で作製した塗装金属板をそれぞれ取り付けた。さらに、当該塗装金属板の上部に、地面に対して角度20°となるように、波板を取り付けた。このとき、雨水が塗装金属板表面を筋状に流れるように、波板を設置した。この状態で、屋外暴露試験を6ヶ月間行い、汚れの付着状態を観察した。耐雨筋汚れ性の評価は、暴露前後の塗装金属板の明度差(ΔL)で、以下のように評価した。
×:ΔLが2以上の場合(汚れが目立つ)
△:ΔLが1以上2未満の場合(雨筋汚れは目立たないが視認できる)
〇:ΔLが1未満の場合(雨筋汚れがほとんど視認できない)
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
上記表2に示されるように、塗膜表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上3.0μm以下であり、かつ塗膜表面をフレーム処理した場合(実施例1〜16)には、いずれもヨウ化メチレン転落角が15°以上45°以下となり、雨筋汚れが生じ難かった。これに対し、塗膜形成後の塗膜表面の算術平均粗さRaが0.3μm未満である場合(比較例2、7、および8)、塗膜の凹凸による障壁が小さく、表面の親水性を高めた(フレーム処理を行った)としても、ヨウ化メチレン転落角が十分に高まらず(15°未満となり)、疎水性カーボンが移動して集まりやすかった。その結果、雨筋汚れが確認された。
【0084】
一方、算術平均粗さRaが3.0μmを超える場合(参考例1および2)には、塗膜表面の凹凸が障壁となり、疎水性カーボンの移動が阻害されたため、フレーム処理の有無に関わらず、雨筋汚れは生じなかった。
【0085】
また、塗膜表面をコロナ放電処理した場合(比較例9、10、13〜16)には、表面の親水性は高まり、表面のO原子濃度/C原子濃度が高まるものの、ヨウ化メチレン転落角が45°を超え、耐雨筋汚れ性は低かった。コロナ放電による処理では、親水基の導入にムラがあり、親水性の領域と疎水性の領域とが海島状に形成されたと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の製造方法で得られる塗装金属板は、表面に雨筋汚れが生じ難い。したがって、当該塗装金属板は、各種建築物の外装建材等に適用が可能である。
【符号の説明】
【0087】
22 バーナーヘッド
22a 筐体
22b 炎口
22c 補助炎口
23 ガス供給管
図1
図2