(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306263
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】周囲音量の制御
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20180326BHJP
H04R 25/00 20060101ALI20180326BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
H04R1/10 101B
H04R25/00 L
G10K11/178 120
【請求項の数】20
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-509674(P2017-509674)
(86)(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公表番号】特表2017-539106(P2017-539106A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】US2016063348
(87)【国際公開番号】WO2017091583
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2017年3月30日
(31)【優先権主張番号】14/950,448
(32)【優先日】2015年11月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・アレン・ルール
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・エム・ゴーガー・ジュニア
【審査官】
岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/070825(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/041012(WO,A1)
【文献】
特開平7−325589(JP,A)
【文献】
特開2015−173369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
H04R 1/10
3/00− 3/14
25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドホンの外側の環境に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、イヤピースが使用されているときユーザの外耳道に結合されるフィードバックマイクロホンと、前記イヤピースが使用されているとき前記ユーザの前記外耳道に結合されるスピーカと、前記それぞれのマイクロホンと前記スピーカとの間にフィードフォワードおよびフィードバック雑音補償フィルタを実装するデジタル信号プロセッサと、前記デジタル信号プロセッサによって使用されるためのフィルタの組の順序付けされたシーケンスを記憶するメモリとを有するイヤピースであって、
前記フィルタの組の各々が、異なる周波数依存量の音の通過または打消しをもたらし、それによって、耳に達する残留周囲音と組み合わせて、結果としてユーザの耳における全挿入利得となるフィードフォワードフィルタを含み、
所与の周囲音レベルに対する、前記フィルタの組の各々を使用したときの前記耳における総音量レベルが、前記シーケンス内の任意の2つの隣接したフィルタの組の間の大半の変化に対して、前記シーケンス内の前記隣接したフィルタの組を使用したときの前記耳における前記総音量レベルと5dBAを越えて相違しない、イヤピースを備える、装置。
【請求項2】
前記シーケンス内の隣接したフィルタを切り替えたときの前記耳における総音量レベルの変化が、フィルタの全シーケンスにわたって実質的に一定である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記シーケンス内の隣接したフィルタを切り替えたときの前記耳における総音量レベルの前記変化が、フィルタの全シーケンスにわたって実質的に円滑関数である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記関数が、より少ない全雑音低減をもたらすフィルタ間のより少量の変化から、より多い全雑音低減をもたらすフィルタ間のより多量の変化に進行する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
所与の周囲音レベルに対する、前記フィルタの組の各々を使用したときの前記耳における前記総音量レベルが、前記シーケンス内の任意の2つの隣接したフィルタの組の間の大半の変化に対して、前記シーケンス内の前記隣接したフィルタの組を使用したときの前記耳における前記総音量レベルと3dBAを越えて相違しない、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
所与の周囲音レベルに対する、前記フィルタの組の各々を使用したときの前記耳における前記総音量レベルが、前記シーケンス内の任意の2つの隣接したフィルタの組の間の大半の変化に対して、前記シーケンス内の前記隣接したフィルタの組を使用したときの前記耳における前記総音量レベルと1dBAを越えて相違しない、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
所与の周囲音レベルに対する、前記フィルタの組の各々を使用したときの前記耳における前記総音量レベルが、前記シーケンス内の前記隣接したフィルタの組を使用したときの前記耳における前記総音量レベルと典型的な人間に知覚できない量だけ相違する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
ユーザインターフェースをさらに備え、前記ユーザインターフェースが、最初の方向または2番目の方向に作動されたとき、前記シーケンス内の現在のフィルタの対応する次のまたは前のフィルタを選択する二方向制御を提供する、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記ユーザインターフェースが、ボタンの対を備え、前記ボタンのうちの一方が、前記シーケンス内の次のフィルタを選択し、他方のボタンが、前記シーケンス内の前のフィルタを選択する、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記ユーザインターフェースが、連続制御装置を備え、前記シーケンス内のより高いフィルタを選択する第1の方向に前記制御装置を移動させ、前記シーケンス内のより低いフィルタを選択する第2の方向に前記制御装置を移動させる請求項8に記載の装置。
【請求項11】
ヘッドホンの外側の環境に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、イヤピースが使用されているときユーザの外耳道に結合されるフィードバックマイクロホンと、前記イヤピースが使用されているとき前記ユーザの前記外耳道に結合されるスピーカと、前記それぞれのマイクロホンと前記スピーカとの間にフィードフォワードおよびフィードバック雑音補償フィルタを実装するデジタル信号プロセッサと、前記デジタル信号プロセッサによって使用されるためのフィルタの組の順序付けされたシーケンスを記憶するメモリとを有するイヤピースであって、
前記フィルタの組の各々が、異なる周波数依存量の音の通過または打消しをもたらすフィードフォワードフィルタを含み、
前記フィードフォワードフィルタのうちの少なくともいくつかにより、周囲音が第1の周波数範囲において前記スピーカによる音響出力に追加され、周囲音が前記第1の周波数範囲と異なる第2の周波数範囲において前記スピーカによる音響出力によって打ち消される、イヤピースを備える、装置。
【請求項12】
前記第1の周波数範囲が、前記フィードバックフィルタが高レベルの雑音低減をもたらす範囲に対応する、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記第1の周波数範囲が、前記イヤピースが高レベルの受動雑音低減をもたらす範囲に対応する、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
ユーザの耳における全総音量が、実際の頭部上で測定されたとき、少なくとも前記フィルタの組のサブセットに対して、少なくとも3オクターブの周波数にわたって実質的に値が一定である、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
前記3オクターブが音声帯域に対応する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
フィルタの前記シーケンスが、前記音声帯域の外側のレベルを制御しながら前記音声帯域を維持する前記耳における全総音量を提供する、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記フィルタの組の第1のサブセットが、音声帯域の外側のレベルを減少させながら前記音声帯域を維持する前記耳における全総音量を提供し、前記フィルタの組の第2のサブセットが、広い周波数帯域にわたってスペクトル的に平坦であるが全音量レベルを低減する前記耳における全総音量を提供する、請求項11に記載の装置。
【請求項18】
前記フィルタの組のうちの少なくとも2つが、各々が打消しの異なる周波数依存量を提供するフィードバックフィルタをさらに含む、請求項11に記載の装置。
【請求項19】
前記イヤピースの外部のマイクロホンの配列をさらに備え、前記フィルタの組のうちの少なくとも2つが、各々がオーディオの異なる周波数依存量を前記マイクロホン配列から前記スピーカに提供するマイクロホン配列フィルタをさらに含む、請求項11に記載の装置。
【請求項20】
ヘッドホンの外側の環境に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、イヤピースが使用されているときユーザの外耳道に結合されるフィードバックマイクロホンと、前記イヤピースが使用されているとき前記ユーザの前記外耳道に結合されるスピーカと、前記それぞれのマイクロホンと前記スピーカとの間にフィードフォワードおよびフィードバック雑音補償フィルタを実装するデジタル信号プロセッサと、前記デジタル信号プロセッサによって使用されるためのフィルタの組の順序付けされたシーケンスを記憶するメモリと、二方向入力コマンドを提供するユーザ入力部とを有するイヤピースを動作させる方法であって、
前記ユーザ入力部からコマンドを受け取ることに応答して、
異なる周波数依存量の音の通過または打消しをもたらし、それによって、ユーザの耳に達する残留周囲音と組み合わせて、結果としてユーザの前記耳における全挿入利得となるフィードフォワードフィルタを含むフィルタの組を前記メモリから読み込むステップを含み、
所与の周囲音レベルに対する、前記読み込まれたフィルタの組を使用したときの前記耳における総音量レベルが、前記シーケンス内の任意の2つの隣接したフィルタの組の間の大半の変化に対して、前に読み込んだフィルタの組を使用したときの前記耳における前記総音量レベルと5dBAを越えて相違しない、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドホンを通して聞こえる周囲音の音量を制御することに関する。
【背景技術】
【0002】
参照によりその内容が本明細書に組み込まれている、米国特許第8,798,283号では、ユーザがヘッドホンを装着していないかのように周囲雑音を聞くように、ヘッドホンの受動効果に対抗するフィルタを加えて周囲雑音を打ち消すか、または周囲雑音を許容するかのいずれかのために能動雑音低減(ANR:active noise-reducing)ヘッドホン内にフィルタの2つの組を使用することを説明している。その出願では、そのような特徴を「周囲自然性」を有する「能動ヒアスルー」と定義している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8,798,283号
【特許文献2】米国特許第6,597,792号
【特許文献3】米国特許第6,831,984号
【特許文献4】米国特許第8,416,690号
【特許文献5】米国特許第9,082,388号
【特許文献6】米国特許第8,073,150号
【特許文献7】米国特許第7,412,070号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概して、一態様において、イヤピースが、ヘッドホンの外側の環境に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、イヤピースが使用されているときユーザの外耳道に結合されるフィードバックマイクロホンと、イヤピースが使用されているときユーザの外耳道に結合されるスピーカと、それぞれのマイクロホンとスピーカとの間にフィードフォワードおよびフィードバック雑音補償フィルタを実装するデジタル信号プロセッサと、デジタル信号プロセッサによって使用されるためのフィルタの組の順序付けされたシーケンスを記憶するメモリとを含む。フィルタの組の各々は、異なる周波数依存量の音の通過または打消しをもたらし、それによって、耳に達する残留周囲音と組み合わせて、結果としてユーザの耳における全挿入利得となるフィードフォワードフィルタを含む。所与の周囲音レベルに対する、フィルタの組の各々を使用したときの耳における総音量レベルは、シーケンス内の任意の2つの隣接したフィルタの組の間の大半の変化に対して、シーケンス内の隣接したフィルタの組を使用したときの耳における総音量レベルと5dBAを越えて相違しない。
【0005】
実装形態は、任意の組合せで以下のうちの1つまたは複数を含むことができる。シーケンス内の隣接したフィルタを切り替えたときの耳における総音量レベルの変化は、フィルタの全シーケンスにわたって実質的に一定であり得る。シーケンス内の隣接したフィルタを切り替えたときの耳における総音量レベルの変化は、フィルタの全シーケンスにわたって実質的に平滑関数であり得る。関数は、より少ない全雑音低減をもたらすフィルタ間のより少量の変化から、より多い全雑音低減をもたらすフィルタ間のより多量の変化に進行する。所与の周囲音レベルに対する、フィルタの組の各々を使用したときの耳における総音量レベルは、シーケンス内の任意の2つの隣接したフィルタの組の間の大半の変化に対して、シーケンス内の隣接したフィルタの組を使用したときの耳における総音量レベルと3dBAを越えて相違しない。所与の周囲音レベルに対する、フィルタの組の各々を使用したときの耳における総音量レベルは、シーケンス内の任意の2つの隣接したフィルタの組の間の大半の変化に対して、シーケンス内の隣接したフィルタの組を使用したときの耳における総音量レベルと1dBAを越えて相違しない。所与の周囲音レベルに対する、フィルタの組の各々を使用したときの耳における総音量レベルは、シーケンス内の隣接したフィルタの組を使用したときの耳における総音量レベルと典型的な人間に知覚できない量だけ相違する。ユーザインターフェースが、最初の方向または2番目の方向に作動されたとき、シーケンス内の現在のフィルタの対応する次のまたは前のフィルタを選択する二方向制御を提供する。ユーザインターフェースは、ボタンの対を含むことができ、ボタンのうちの一方はシーケンス内の次のフィルタを選択し、他方のボタンはシーケンス内の前のフィルタを選択する。ユーザインターフェースは、連続制御装置を含むことができ、シーケンス内のより高いフィルタを選択する第1の方向に制御装置を移動させ、シーケンス内のより低いフィルタを選択する第2の方向に制御装置を移動させる。
【0006】
概して、一態様において、イヤピースは、ヘッドホンの外側の環境に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、イヤピースが使用されているときユーザの外耳道に結合されるフィードバックマイクロホンと、イヤピースが使用されているときユーザの外耳道に結合されるスピーカと、それぞれのマイクロホンとスピーカとの間にフィードフォワードおよびフィードバック雑音補償フィルタを実装するデジタル信号プロセッサと、デジタル信号プロセッサによって使用されるためのフィルタの組の順序付けされたシーケンスを記憶するメモリとを含む。フィルタの組の各々は、異なる周波数依存量の音の通過または打消しをもたらすフィードフォワードフィルタを含み、フィードフォワードフィルタのうちの少なくともいくつかにより、周囲音が第1の周波数範囲においてスピーカによる音響出力に追加され、周囲音が第1の周波数範囲と異なる第2の周波数範囲においてスピーカによる音響出力によって打ち消される。
【0007】
実装形態は、任意の組合せで以下のうちの1つまたは複数を含むことができる。第1の周波数範囲は、フィードバックフィルタが高レベルの雑音低減をもたらす範囲に対応することができる。第1の周波数範囲は、イヤピースが高レベルの受動雑音低減をもたらす範囲に対応することができる。ユーザの耳における全総音量は、実際の頭部上で測定されたとき、少なくともフィルタの組のサブセットに対して、少なくとも3オクターブの周波数にわたって値が実質的に一定であり得る。3オクターブは、音声帯域に対応することができる。フィルタのシーケンスは、音声帯域の外側のレベルを制御しながら音声帯域を維持する耳における全総音量をもたらすことができる。フィルタの組の第1のサブセットは、音声帯域の外側のレベルを減少させながら音声帯域を維持する耳における全総音量をもたらすことができ、フィルタの組の第2のサブセットは、広い周波数帯域にわたってスペクトル的に平坦であるが全音量レベルを低減する耳における全総音量をもたらすことができる。フィルタの組のうちの少なくとも2つは、各々が打消しの異なる周波数依存量を提供するフィードバックフィルタを含むことができる。イヤピースの外部のマイクロホンの配列を含むことができ、フィルタの組のうちの少なくとも2つは、各々がオーディオの異なる周波数依存量をマイクロホン配列からスピーカに提供するマイクロホン配列フィルタを含むことができる。
【0008】
概して、一態様において、ヘッドホンの外側の環境に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、イヤピースが使用されている可能性があるときユーザの外耳道に結合されるフィードバックマイクロホンと、イヤピースが使用されている可能性があるときユーザの外耳道に結合されるスピーカと、それぞれのマイクロホンとスピーカとの間にフィードフォワードおよびフィードバック雑音補償フィルタを実装するデジタル信号プロセッサと、デジタル信号プロセッサによって使用されるためのフィルタの組の順序付けされたシーケンスを記憶するメモリと、二方向入力コマンドを提供するユーザ入力部とを有するイヤピースを動作させるステップが、ユーザ入力部からコマンドを受け取ることに応答して、異なる周波数依存量の音の通過または打消しをもたらし、それによって、耳に達する残留周囲音と組み合わせて、結果としてユーザの耳における全挿入利得となるフィードフォワードフィルタを含むフィルタの組をメモリから読み込むステップを含み、所与の周囲音レベルに対する、読み込まれたフィルタの組を使用したときの耳における総音量レベルは、シーケンス内の任意の2つの隣接したフィルタの組の間の大半の変化に対して、前に読み込んだフィルタの組を使用したときの耳における総音量レベルと5dBAを越えて相違しない。
【0009】
利点は、ユーザが周囲音の音量を全体的に打ち消すことなく自分の所望するレベルまで下げることが可能になることを含む。
【0010】
上述のすべての例および特徴は、任意の技術的に可能なやり方で組み合わせることができる。他の特徴および利点は、説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】能動雑音低減(ANR)ヘッドホンの回路図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
周囲音をフィルタリングするための多数の異なるフィルタを提供することによって、ヘッドホンの組により、ユーザは、知覚するのに辛うじて十分な音の大きさからヘッドホンなしで体験するはずの自然なレベルまで、またはさらには実際の存在するレベルを超えて音量を上げるために、自分の選ぶ任意の音量レベルにおいて自分の周りの世界を聞くことが可能になり得る。重要なことには、周囲音のスペクトルバランスが維持されるので、それはあらゆるレベルにおいて自然に音を出すことである。これにより、ヘッドホンユーザには世界に対する音量制御が効果的に与えられる。
【0013】
図1は、以下に説明する特徴を提供するように装備されたヘッドホンの全対的な構成図を示す。単一のイヤホン100が示され、ほとんどのシステムがイヤホンの対を含む。イヤピース102が、出力変換器またはスピーカ104と、システムマイクロホンとも呼ばれるフィードバックマイクロホン106と、フィードフォワードマイクロホン108とを含む。スピーカ104は、イヤカップを前部音量部110と後部音量部112とに分ける。システムマイクロホン106は、典型的には前部音量部110内に配置され、前部音量部110はクッションまたはイヤチップ114によってユーザの耳に結合される。ANRヘッドホン内の前部音量部の構成の態様は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,597,792号に説明される。いくつかの例において、後部音量部112は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,831,984号に説明されるように、1つまたは複数のポート116によって外部環境に結合される。フィードフォワードマイクロホン108は、イヤカップ102の外側に収納され、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,416,690号に説明されるように封入することができる。いくつかの例において、複数のフィードフォワードマイクロホンが使用され、それらの信号は組み合わされ、または別々に使用される。本明細書においてフィードフォワードマイクロホンへの参照は、複数のフィードフォワードマイクロホンを有する設計を含む。インイヤ式の実装形態が、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第9,082,388号に説明される。
【0014】
マイクロホンおよびスピーカは、すべて、ANR回路118に結合される。ANR回路は、追加の入力を通信マイクロホン120または音源122から受け取ることができる。デジタルANR回路の場合、例えば、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,073,150号に説明されているデジタルANR回路の場合、ANR回路用のソフトウェアまたは構成パラメータは、記憶装置124から得ることができ、またはそれらは追加のプロセッサ130によって提供することができる。ANRシステムは、電力供給装置126によって電力供給され、電力供給装置126は、例えば、電池、音源122の一部、または通信システムであり得る。いくつかの例において、ANR回路118、記憶装置124、電源126、通信マイクロホン120、および音源122のうちの1つまたは複数は、イヤピース102の内側に配置され、またはイヤピース102に取り付けられ、または2つのイヤホン100が提供されるとき2つのイヤピースの間で分けられる。いくつかの例において、ANR回路など、構成部品によっては、イヤホン間で重複されるものがあるが、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,412,070号に説明されるように、電力供給装置など、1つのイヤホン内だけに配置されるものもある。ANRヘッドホンシステムによって制御される周囲雑音は、音響雑音源128として表される。
【0015】
本明細書は、能動雑音低減システムの高度な操作により達成されるヒアスルーの改善に関し、具体的には、周囲音の自然性を維持しながら、その音量レベルに対する制御をユーザに与えることに関する。異なるヒアスルートポロジーを
図2Aから
図2Cまでに示す。
図2Aに示す簡単なバージョンでは、ANR回路はオフにされ、周囲音200がイヤカップを通過し、またはイヤカップの周りを通過することが可能になり、受動監視がもたらされる。これにより、周囲音量制御が何も提供されず、耳に達する残留音は、自然な音を出さない可能性がある。
図2Bに示すバージョンでは、直接トークスルーの特徴が、トークスルーマイクロホン信号を提供するために通信マイクロホン120を使用する。これはANR回路または何らかの他の回路によって内部スピーカ104に結合されて、イヤカップ内に周囲音を直接再現する。ANRシステムのフィードバック部分は、変更されないままにされ、トークスルーマイクロホン信号を、再現される、またはオフにされる通常のオーディオ信号として扱う。トークスルー信号は、一般に、音声帯域に帯域制限され、1つの通信マイクロホンだけが通常使用されるので、一般に、モノラルだけである。通信マイクロホンは、耳から遠くにある、すなわち、口のところにある、または、コードに沿ったところにある傾向もあり、したがって、マイクロホンにおいて拾われた音は、耳の中で聞こえる音と同じ音を出さない。このような理由のため、直接トークスルーシステムは、ユーザが自分の周りの環境を、電話を通して聴いているかのような人工的な音を出す傾向がある。音量レベルは制御することができるが、周囲音は自然な音にならない。いくつかの例において、フィードフォワードマイクロホンは、トークスルーマイクロホンとして2つの機能を果たし、それが検知する音は打ち消されるのではなく再現される。左および右の両方のイヤピース上のフィードフォワードマイクロホンが通過された場合、ある空間聴覚が提供されるが、イヤピース内のフィードフォワードマイクロホンからの音を単純に再現することは、その信号とイヤピースを通る周囲音の受動伝送との相互作用を考慮に入れないので、それらは自然な音の体験を提供するために組み合わされない。
【0016】
われわれは、能動ヒアスルーを、ユーザが環境内の周囲音の一部または全部を聞くことができるように、ヘッドセットの能動雑音打消しパラメータを変える特徴を表すものと定義する。われわれは、周囲自然性を、ヘッドセットが存在しないかのように(音量の変化を別にすれば)能動ヒアスルーが自然な音を出すことを意味するものとさらに定義する。能動ヒアスルーの目的は、ヘッドセットをまったく装着していないかのように、ユーザに環境を聞かせることであり、さらに、その音量レベルを制御させることである。すなわち、
図2Bにおけるように、直接トークスルーが人工的な音になる傾向があり、
図2Aにおけるように、受動監視は、周囲音をヘッドセットの受動減衰によって雑然としたままにするが、能動ヒアスルーは、周囲音を完全に自然な音にさせることを目指す。
【0017】
図2Cに示すように、周囲音を検知するために1つまたは複数のフィードフォワードマイクロホン108(1つだけを図示する)を使用することによって、およびそれ以外の場合適用されるのとは異なる打消しを用いて、すなわち、通常のノイズキャンセリング(NC)動作で、制御された量の周囲音200がイヤカップ102中を通過することを可能にするために、少なくともフィードフォワード雑音打消しループに対してANRフィルタを調整することによって、能動ヒアスルー(HT)が提供される。選択された音量レベルにより、フィルタは、結果としてある周波数範囲においては雑音の正味の追加となり、他の周波数範囲においては雑音の正味の減少となり得る。いくつかの異なるフィルタを提供することにより、ヘッドホンは、周囲音の自然性を維持しながら、通過される周囲音のレベルを制御することが可能になる。フィルタは、ユーザになじみのある形で提示されるシーケンスで配列され、したがって、ユーザは、例えば、つまみ、スライダ、またはアップ/ダウンボタンを用いて、シーケンス中を線形的に移動することができる。ユーザは、人が音を追加し、それが音を減少させるようなフィルタの詳細を気にしなくてよい。むしろ、ユーザは、単純に世界の「より多く」または「より少なく」を聞くことを選ぶだけである。
【0018】
ユーザにとって心地よい周囲音量制御を提供することは、いくつかの特定の特徴を有するフィルタの組を必要とする。第一に、フィルタの組の数がある。米国特許第8,798,283号は、ANRに1つ、ヒアスルーに1つ、およびユーザ自身の音声を管理するために1つの3つを提案した。Bose CorporationからのQuiet Comfort(登録商標) 20 Noise Canceling Headphone(登録商標)は、2つのフィルタの組を提供する。他の市販用製品は、4つのフィルタの組を提供している。われわれは、直観的な制御を提供するために、周囲音の「音量制御」として多数のフィルタの組が必要であることをユーザが理解するであろうということを見出している。連続的目盛が提供されるのが理想的であるが、記憶容量および処理能力の実際の検討を所与とすると、ある有限数のステップが使用される。究極的には、ステップの数は、提供される雑音低減の全範囲の関数およびステップサイズである。
【0019】
フィードフォワードフィルタおよびそれらの効果は、いくつかのやり方で特徴づけることができる。各フィルタは単独で応答を有し、それはフィードフォワード経路において減衰の量を生じる。その減衰とヘッドホンの他の効果、フィードバックがあればフィードバックとの組合せ、およびヘッドホンの受動効果は、結果として、耳における全挿入利得となる。ユーザによって直接体験されるのは挿入利得であるので、それが、われわれがフィルタを特徴づける際に参照するものである。ステップサイズは、隣接したフィルタの組から生じる挿入利得(すなわち、周囲音量制御目盛を上下する2つの隣接した増分において提供されるフィードフォワードフィルタから生じる挿入利得)間の差の量に対応する。ステップサイズ上の上限は、ステップ間のレベルの変化が円滑な移行として知覚されるように選択されるべきである。隣接したフィルタの組の間のおおよそ3dBAの典型的な周囲雑音に対する耳における全音量レベルの平均的変化を提供することは、それが、人々が典型的には知覚することができる全音域音圧レベル間の差に合致するので、優れた出発点であり得る。ステップ間の知覚された差が十分に小さい場合、4dBAまたは5dBAなどの、より大きなステップを使用することができる。具体的には、個別の「アップ/ダウン」ボタンが使用されたとき、ユーザが変更がなされたことに自信があり、すなわち、ユーザが差を明確に聞くことができるように、より大きなステップを所望することができる。他の例において、連続制御が使用されるときなど、一様のより円滑な移行を行うために、より小さいステップを使用することができる。ステップサイズは、差がより顕著である、より音の大きなレベル間の累進的により小さなステップにより、シーケンス内の位置とともに変わることが望ましいことでもあり得る。例えば、最大ANR(下部の曲線302a)と最大世界音量(上部の曲線302l)との間の12の目標挿入利得曲線302a〜302lを示す
図3参照。より高い音量に対応する曲線は、高雑音低減曲線がデバイスの性能によって制約される1kHzあたりのこぶ部を除いて、互いにより近接する。
【0020】
図3にも示される、すべての音量レベルにおいて自然音の周囲音を提供するフィルタの別の属性は、挿入利得がヘッドホンによって再現された周波数の範囲にわたって平坦でないことであり、フィルタによって同じではないことである。具体的には、フィードフォワードフィルタは、より高い周波数においてヘッドホンによって受動的に通過されるものにわたって、およびフィードバックシステムによって打ち消されないが、フィードバックおよび受動減衰が全応答において各々支配的であるところの間のクロスオーバー領域において音を打ち消す、より低い周波数にわたって環境音を追加するように設計される。
【0021】
世界の外側の音量をそのスペクトル特性を歪ませずに制御することに加えて、これらのフィルタの組は、何らかのやり方で聴覚を高めるカスタム周囲音を提供するのに使用することもできる。一例において、音声帯が制限された能動ヒアスルーは、いくつかの異なる減衰レベルにおいて自然な音声を提供する。これはすべてのオーディオを減衰されたレベルにおいて通過させるように設計された広帯域フィルタとは異なる。オーディオをすべての周波数において通過させるように整形される代わりに、フィルタのシーケンスは、少なくとも3オクターブにわたって(すなわち、300Hzから3kHzまでの典型的な音声帯域のあたりの)実質的に同じ応答を提供するが、より低いおよびより高い周波数において雑音低減が変化する。別の例において、シーケンスは、シーケンスがいくつかのステップにわたって一方から他方に円滑に変形する少なくとも2つの異なる雑音低減応答を有する。さらに別の例において、最大世界音量における音声指向の目標は、環境を聴くためにある減衰を有する広帯域の平坦な応答に変形する。これは、人々が互いに話をすることができるように最大設定が背景雑音を除去するが、中間設定は人々に低減された音量において音楽を楽しませるコンサートにおいて特に有用であり得る。これは
図3に示す曲線の組の効果である。これらの曲線に合致した全挿入利得を提供するのに使用される実際のK
htフィルタは、米国特許第8,798,283号に説明されているように見出され、曲線はその特許に提案されているようにT
htig=0を使用するのではなく、オプティマイザT
htigの目標として働く。
【0022】
フィードフォワードフィルタだけを制御する上記の議論は、すべての仕事がそれらのフィルタによってなされることを提案するとみなしてはならない。いくつかの例において、低周波数におけるフィードバック減衰は、低減することができ、それによって、低周波数においてフィードフォワード雑音低減が何も必要とされない点まで、より多くの周囲音が中に入る。各センサ経路は、フィードバックを使用して1つの目的を達成し(例えば、ユーザ自身の自己音声を平坦にし、それによって、例えば、ある量の外部雑音も打ち消される)、フィードフォワード/ヒアスルーを使用してユーザの耳におけるある周囲目標を達成し、指向性マイクロホン配列を使用してユーザの真向かいに座っている人の声を増幅することができるように、別の自由度を提供する
【0023】
いくつかの実装形態を説明してきた。それにもかかわらず、本明細書に説明する発明概念の範囲を逸脱することなく追加の変更を加えることができ、したがって、他の実施形態は以下の特許請求の範囲内にあることが理解されよう。
【符号の説明】
【0024】
100 イヤホン
102 イヤピース、イヤカップ
104 出力変換器、スピーカ
106 フィードバックマイクロホン、システムマイクロホン
108 フィードフォワードマイクロホン
110 前部音量部
112 後部音量部
114 クッション、イヤチップ
116 ポート
118 ANR回路
120 通信マイクロホン
122 音源
124 記憶装置
126 電力供給装置、電源
128 音響雑音源
130 プロセッサ
200 周囲音
302a、302b、302c、302d、302e、302f、302g、302h、302i、302j、302k、302l 曲線