特許第6306266号(P6306266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306266
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】摩擦伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/06 20060101AFI20180326BHJP
   F16G 1/00 20060101ALI20180326BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20180326BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20180326BHJP
   F16G 5/08 20060101ALI20180326BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20180326BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20180326BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20180326BHJP
【FI】
   F16G1/06
   F16G1/00 F
   F16G5/20 A
   F16G5/06 A
   F16G5/08
   C08L101/12
   C08L23/00
   C08K3/00
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-522559(P2017-522559)
(86)(22)【出願日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】JP2017000151
(87)【国際公開番号】WO2017168913
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2017年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-64484(P2016-64484)
(32)【優先日】2016年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 伸治
(72)【発明者】
【氏名】川原 英昭
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−270917(JP,A)
【文献】 再公表特許第2012/053176(JP,A1)
【文献】 再公表特許第2012/172717(JP,A1)
【文献】 特開2007−298162(JP,A)
【文献】 特開2014−185076(JP,A)
【文献】 再公表特許第2011/158586(JP,A1)
【文献】 特開2014−209026(JP,A)
【文献】 特開2001−031809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/00−17/00
C08K 3/00
C08L 23/00
C08L 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリ接触面を構成するゴム層を有する摩擦伝動ベルトであって、
前記ゴム層は、ポリオレフィン粒子と、カップリング処理がされていないシリカを含む無機フィラーと、を含有するゴム組成物からなり、
前記ゴム組成物における前記ポリオレフィン粒子の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、50質量部以上であり、
前記ゴム組成物における前記無機フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、35質量部以上であり、
前記ポリオレフィン粒子の最大外径を最小外形で除したアスペクト比は、2.00以下であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記ポリオレフィン粒子及び無機フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、合計で95質量部以上であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
請求項1に記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記ポリオレフィン粒子及び無機フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、合計で105質量部以上であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記ポリオレフィン粒子は、分子量50万以上の超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記無機フィラーは、モンモリロナイト、クレー及び炭酸カルシウムの少なくとも一つを含むことを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記ゴム組成物における前記シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、30質量部以上であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の摩擦伝動ベルトにおいて
記ゴム組成物は、カップリング剤が配合されていないこと特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項8】
請求項5に記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記無機フィラーは、少なくともCa型モンモリロナイトを含むことを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1つに記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記無機フィラーは、モンモリロナイトを含み、
前記ゴム組成物における前記ポリオレフィン粒子及び無機フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、合計で135質量部以上であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1つに記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記ゴム層は、表面ゴム層と、その内側の内側ゴム層とを備え、
前記表面ゴム層は、多孔ゴムからなることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記ポリオレフィン粒子の粒度分布は、粒子径が100〜150μmの範囲にあるものが70質量%以上であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つに記載の摩擦伝動ベルトにおいて、
前記ポリオレフィン粒子の135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]は、5dl/g以上であり、且つ、50dl/g以下であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
プーリ接触面にポリエチレン粒子が分散して露出した摩擦伝動ベルトは公知である。例えば、特許文献1〜3には、超高分子量ポリエチレン粒子を配合したゴム組成物でVリブドベルトの圧縮ゴム層を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−070592号公報
【特許文献2】特開2007−170454号公報
【特許文献3】特開2007−170587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、摩擦伝動ベルトの被水時における異音の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、プーリ接触面を構成するゴム層を有する摩擦伝動ベルトであって、ゴム層は、ポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含有するゴム組成物からなる。ゴム組成物におけるポリオレフィン粒子及び無機フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、合計で85質量部以上である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、摩擦伝動ベルトにおいて、ゴム成分100質量部に対してポリオレフィン粒子及び無機フィラーを合計で85質量部含むゴム組成物でプーリ接触面となるゴム層を形成していることにより、被水時の異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態1に係るVリブドベルトの斜視図である。
図2図2は、実施形態1に係るVリブドベルトのVリブ1個分の断面図である。
図3図3は、ベルト成形型の縦断面図である。
図4図4は、ベルト成形型の一部分の縦断面拡大図である。
図5図5は、実施形態1に係るVリブドベルトの製造方法の第1の説明図である。
図6図6は、実施形態1に係るVリブドベルトの製造方法の第2の説明図である。
図7図7は、実施形態1に係るVリブドベルトの製造方法の第3の説明図である。
図8図8は、実施形態1に係るVリブドベルトの製造方法の第4の説明図である。
図9図9は、自動車の補機駆動ベルト伝動装置のプーリレイアウトを示す図である。
図10図10は、実施形態2に係るVリブドベルトの斜視図である。
図11図11は、実施形態2に係るVリブドベルトのVリブ1個分の断面図である。
図12図12は、実施形態2に係るVリブドベルトの製造方法の第1の説明図である。
図13図13は、実施形態2に係るVリブドベルトの製造方法の第2の説明図である。
図14図14は、実施形態3に係るVリブドベルトの斜視図である。
図15図15は、実施形態3に係るVリブドベルトのVリブ1個分の断面図である。
図16A図16Aは、その他の実施形態に係るローエッジ型Vベルトの斜視図である。
図16B図16Bは、その他の実施形態に係る平ベルトの斜視図である。
図17図17は、ベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
(実施形態1)
図1及び図2は、実施形態1に係るVリブドベルトB(摩擦伝動ベルト)を示す。実施形態1に係るVリブドベルトBは、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動用のベルト伝動装置等に用いられるエンドレスのものである。実施形態1に係るVリブドベルトBは、例えば、ベルト長さが700〜3000mm、ベルト幅が10〜36mm、及びベルト厚さが4.0〜5.0mmである。
【0010】
実施形態1に係るVリブドベルトBは、ベルト内周側の圧縮ゴム層11と中間の接着ゴム層12とベルト外周側の伸張ゴム層13との三重層に構成されたVリブドベルト本体10を備えている。Vリブドベルト本体10の接着ゴム層12の厚さ方向の中間部には、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線14が埋設されている。圧縮ゴム層11の厚さは例えば1.0〜3.6mmであり、接着ゴム層12の厚さは例えば1.0〜2.5mmであり、伸張ゴム層13の厚さは例えば0.4〜0.8mmである。なお、伸張ゴム層13の代わりに背面補強布が設けられた構成であってもよい。
【0011】
圧縮ゴム層11は、複数のVリブ15がベルト内周側に垂下するように設けられている。複数のVリブ15は、各々がベルト長さ方向に延びる断面略逆三角形の突条に形成されていると共に、ベルト幅方向に並設されている。圧縮ゴム層11におけるこれらの複数のVリブ15の表面が動力伝達面としてのプーリ接触面を構成している。各Vリブ15は、例えば、リブ高さが2.0〜3.0mm、基端間の幅が1.0〜3.6mmである。Vリブ数は例えば3〜6個である(図1では6個)。
【0012】
圧縮ゴム層は、ゴム成分に、ポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含む種々の配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム成分を加熱及び加圧してゴム成分を架橋させたゴム組成物で形成されている。従って、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物は、架橋したゴム成分と、そのゴム成分に分散されたポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含む各種の配合剤とを含有する。実施形態1に掛かるVリブドベルトBによれば、プーリ接触面を構成する圧縮ゴム層11が、ポリオレフィン粒子及び無機フィラーを所定量含有するゴム組成物で形成され、プーリ接触面にポリオレフィン粒子が分散して露出しているので、後述の実施例で示すように、被水鳴き(被水時の異音発生)を抑制することができる。ここで、ポリオレフィン粒子及び無機フィラーのゴム組成物における配合量は、ゴム成分100質量部に対して合計で85質量部以上であることが好ましく、95質量部以上であることがより好ましく、105以上であることが更に好ましい。
【0013】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物のゴム成分としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(以下「EPDM」という。)、エチレン−プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン−ブテンコポリマー(EDM)、エチレン−オクテンコポリマー(EOM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー;クロロプレンゴム(CR);クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM);水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。ゴム成分は、これらのうち1種又は2種以上をブレンドしたものを用いることが好ましく、エチレン−α−オレフィンエラストマーを用いることが好ましく、EPDMを用いることがより好ましい。
【0014】
ゴム組成物に配合されるポリオレフィン粒子は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンなどのホモポリマー;エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂粒子は、これらのうち1種又は2種以上の粒子を用いることが好ましく、ポリエチレンのホモポリマーの粒子を用いることがより好ましい。
【0015】
ゴム組成物におけるポリオレフィン粒子及び無機フィラーの合計の含有量が所定値以上であることに加えて、ポリオレフィン粒子の単独の含有量も所定値以上であることが好ましく、例えばゴム組成物100質量部に対して50質量部以上であることが好ましい。更に、70質量部以上配合することがより好ましく、80質量部以上配合することが更に好ましい。
【0016】
また、ポリオレフィン粒子は、プーリ接触面を構成する圧縮ゴム層11の耐摩耗性を高めると共に被水時における異音発生を抑える観点から、平均分子量(重量平均分子量、数平均分子量)が50万以上の超高分子量ポリオレフィンの粒子であることが好ましく、その平均分子量(重量平均分子量、数平均分子量)は好ましくは100万以上、より好ましくは150万以上である。また、耐屈曲疲労性を高める観点から、好ましくは600万以下である。
【0017】
ポリオレフィン粒子の平均粒径は、プーリ接触面を構成する圧縮ゴム層11の耐摩耗性を高めると共に被水時における異音の発生を抑制する観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは100μm以上であり、また、耐屈曲疲労性を高める観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは170μm以下、更に好ましくは150μm以下である。この平均粒子径は、粒子の走査型電子顕微鏡の観察写真から拡大倍率を考慮して実測した50〜100個の粒子径(最大外径)を算術平均することにより求められる。
【0018】
ポリエチレン粒子の粒度分布は、プーリ接触面を構成する圧縮ゴム層11の耐摩耗性を高めると共に被水時における異音の発生を抑制する観点から、好ましくは粒子径が100〜150μmの範囲にあるものが70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0019】
ポリオレフィン粒子の形状は、プーリ接触面を構成する圧縮ゴム層11の耐摩耗性を高めると共に被水時におけるスリップによる動力伝達能力の低下を抑える観点から球体状に近いことが好ましく、ポリオレフィン粒子の最大外径を最小外径で除したアスペクト比は、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.50以下、更に好ましくは1.30以下である。このアスペクト比は、ポリオレフィン粒子の走査型電子顕微鏡の観察写真から拡大倍率を考慮して実測した50〜100個の最大外径を最小外径で除したものを算術平均することにより求められる。ポリオレフィン粒子は、配合前の形態が、粒子径が10〜50μmの球状粒子が房状に凝集したものである場合、それらの球状粒子が製造時の加熱により融着して一体化することにより球体状乃至楕円体状に形成されたものであることが好ましい。
【0020】
ポリオレフィン粒子の135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]は、プーリ接触面を構成する圧縮ゴム層11の耐摩耗性を高めると共に被水時におけるスリップによる動力伝達能力の低下を抑える観点から、好ましくは5dl/g以上であり、また、耐屈曲疲労性を高める観点から、好ましくは50dl/g以下、より好ましくは30dl/g以下である。
【0021】
ポリオレフィン粒子の融点は、プーリ接触面を構成する圧縮ゴム層11の耐摩耗性を高めると共に被水時におけるスリップによる動力伝達能力の低下を抑える観点から、好ましくは125℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、好ましくは145℃以下である。この融点は、示差走査熱量測定(DSC)により求められる。
【0022】
次に、ゴム組成物に配合される無機フィラーとしては、シリカ、層状珪酸塩、炭酸カルシウム、クレー等が挙げられ、これらの1つ又は複数を用いることが好ましい。ここで、ゴム組成物におけるポリオレフィン粒子及び無機フィラーの合計の含有量が所定値以上であることに加えて、無機フィラーの単独の含有量も所定値以上であることが好ましく、例えばゴム組成物100質量部に対して30質量部以上であることが好ましい。
【0023】
無機フィラーのうちの層状珪酸塩としては、スクメタイト族、バーミキュライト族、カオリン族が挙げられる。スメクタイト族としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト等が挙げられる。バーミキュライト族としては、例えば、3八面体型バーミキュライト、2八面体型バーミキュライト等が挙げられる。カオリン族としては、例えば、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、リザーダイト、アメサイト、クリソタイル等が挙げられる。層状珪酸塩は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。特に、モンモリロナイトを用いることが好ましい。
【0024】
無機フィラーのうちのシリカとしては、カップリング処理のされていないシリカが好ましい。また、シリカは、ゴム組成物において、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上配合することが好ましく、40質量部以上配合することがより好ましい。
【0025】
尚、無機フィラーとしては、シリカ及びモンモリロナイトと共に用いることが好ましい。
【0026】
ゴム組成物における他の配合剤としては、カーボンブラック、加工助剤、加硫助剤、架橋剤、共架橋剤等が挙げられる。
【0027】
カーボンブラックでは、例えば、チャネルブラック;SAF、ISAF、N−339、HAF、N−351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N−234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック;アセチレンブラック等が挙げられる。本実施形態では、カーボンブラックは主に黒色の着色のために配合されており、補強材とすることが目的の場合よりも含有量は少なくて良い。例えば、ゴム成分100質量部に対して15質量部以下であっても良いし、10質量部以下であっても良いし、5質量部以下であっても良い。
【0028】
加工助剤としては、例えば、ステアリン酸、ポリエチレンワックス、脂肪酸の金属塩等が挙げられる。加工助剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物における加工助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜3質量部である。
【0029】
加硫助剤としては、例えば、酸化亜鉛(亜鉛華)や酸化マグネシウムなどの金属酸化物等が挙げられる。加硫助剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。加硫助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば1〜10質量部である。
【0030】
架橋剤としては、例えば、有機過酸化物及び硫黄が挙げられる。架橋剤は、有機化酸化物を単独で用いても、また、硫黄を単独で用いても、更に、それらの両方を併用しても、いずれでもよい。架橋剤の配合量は、有機過酸化物の場合、ゴム成分100質量部に対して例えば0.5〜8質量部であり、また、硫黄の場合、ゴム成分100質量部に対して例えば0.5〜4質量部である。
【0031】
共架橋剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、液状ポリブタジェエン、N,N'−m−フェニレンビスマレイミド等が挙げられる。共架橋剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物における共架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜7質量部である。
【0032】
接着ゴム層12は、断面横長矩形の帯状に構成されている。伸張ゴム層13も、断面横長矩形の帯状に構成されている。伸張ゴム層13の表面は、接触する平プーリとの間で生じる音を抑制する観点から、織布の布目が転写された形態に形成されていることが好ましい。
【0033】
接着ゴム層12及び伸張ゴム層13のそれぞれは、ゴム成分に種々の配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されて架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されている。従って、接着ゴム層12及び伸張ゴム層13のそれぞれは、架橋したゴム成分と各種の配合剤とを含有する。伸張ゴム層13は、平プーリとの接触で粘着が生じるのを抑制する観点から、接着ゴム層12よりもやや硬めのゴム組成物で形成されていることが好ましい。
【0034】
接着ゴム層12及び伸張ゴム層13を形成するゴム組成物のゴム成分としては、例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられるが、圧縮ゴム層11と同一のゴム成分であることが好ましい。
【0035】
配合剤としては、圧縮ゴム層11と同様、カーボンブラックなどの補強材、充填材、加工助剤、加硫助剤、架橋剤、共架橋剤等が挙げられる。
【0036】
圧縮ゴム層11、接着ゴム層12、及び伸張ゴム層13は、同じ配合のゴム組成物で形成されていても、また、別配合のゴム組成物で形成されていても、どちらでもよい。
【0037】
心線14は、ポリエステル繊維(PET)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN)、アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚り糸で構成されている。心線14の直径は例えば0.5〜2.5mmであり、断面における相互に隣接する心線14中心間の寸法は例えば0.05〜0.20mmである。心線14は、Vリブドベルト本体10の接着ゴム層12に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬された後に加熱される接着処理及び/又はゴム糊に浸漬された後に乾燥される接着処理が施されている。
【0038】
(Vリブドベルトの製造方法)
次に、実施形態1に係るVリブドベルトBの製造方法について説明する。
【0039】
実施形態1に係るVリブドベルトBの製造では、図3及び図4に示すように、同心状に設けられた、各々、円筒状の内型21及び外型22を備えたベルト成形型20を用いる。
【0040】
このベルト成形型20では、内型21はゴム等の可撓性材料で形成されている。外型22は金属等の剛性材料で形成されている。外型22の内周面は成型面に構成されており、その外型22の内周面には、Vリブ形成溝23が軸方向に一定ピッチで設けられている。また、外型22には、水蒸気等の熱媒体や水等の冷媒体を流通させて温調する温調機構が設けられている。そして、このベルト成形型20では、内型21を内部から加圧膨張させるための加圧手段が設けられている。
【0041】
実施形態1に係るVリブドベルトBの製造において、まず、ゴム成分に各配合剤を配合し、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混練し、得られた未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形して圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11’を作製する。圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11’には、ポリオレフィン粒子及び無機フィラーを合計で所定量以上配合する。
【0042】
同様に、接着ゴム層用及び伸張ゴム層用の未架橋ゴムシート12’,13’も作製する。また、心線用の撚り糸14’をRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理を行った後、ゴム糊に浸漬して加熱乾燥する接着処理を行う。
【0043】
次いで、図5に示すように、表面が平滑な円筒ドラム24上にゴムスリーブ25を被せ、その上に、伸張ゴム層用の未架橋ゴムシート13’、及び接着ゴム層用の未架橋ゴムシート12’を順に巻き付けて積層し、その上から心線用の撚り糸14’を円筒状の内型21に対して螺旋状に巻き付け、更にその上から接着ゴム層用の未架橋ゴムシート12’、及び圧縮ゴム層用の未架橋ゴムシート11’を順に巻き付けて積層体S’を形成する。なお、このとき、未架橋ゴムシート11’,12’,13’を、列理方向がベルト長さ方向(周方向)となるように巻き付ける。
【0044】
次いで、積層体S’を設けたゴムスリーブ25を円筒ドラム24から外し、図6に示すように、それを外型22の内周面側に内嵌め状態にセットする。
【0045】
次いで、図7に示すように、内型21を外型22にセットされたゴムスリーブ25内に位置付けて密閉する。
【0046】
続いて、外型22を加熱すると共に、内型21の密封された内部に高圧空気等を注入して加圧する。このとき、図8に示すように、内型21が膨張し、外型22の成型面に、積層体S’のベルト形成用の未架橋ゴムシート11’,12’,13’が圧縮され、また、それらのゴム成分の架橋が進行して一体化すると共に撚り糸14’と複合化し、最終的に、円筒状のベルトスラブSが成型される。このベルトスラブSの成型温度は例えば100〜180℃、成型圧力は例えば0.5〜2.0MPa、成型時間は例えば10〜60分である。
【0047】
そして、内型21の内部を減圧して密閉を解き、内型21と外型22との間でゴムスリーブ25を介して成型されたベルトスラブSを取り出し、ベルトスラブSを所定幅に輪切りして表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが得られる。なお、必要に応じて、ベルトスラブSの外周側、つまり、Vリブ15側の表面を研磨してもよい。
【0048】
次に、図9は、実施形態1に係るVリブドベルトBを用いた自動車の補機駆動ベルト伝動装置30のプーリレイアウトを示す。この補機駆動ベルト伝動装置30は、VリブドベルトBが4つのリブプーリ及び2つの平プーリの6つのプーリに巻き掛けられて動力を伝達するサーペンタインドライブ方式のものである。
【0049】
この補機駆動ベルト伝動装置30は、最上位置にリブプーリのパワーステアリングプーリ31が設けられ、そのパワーステアリングプーリ31の下方にリブプーリのACジェネレータプーリ32が設けられている。また、パワーステアリングプーリ31の左下方には平プーリのテンショナプーリ33が設けられており、そのテンショナプーリ33の下方には平プーリのウォーターポンププーリ34が設けられている。更に、テンショナプーリ33の左下方にはリブプーリのクランクシャフトプーリ35が設けられており、そのクランクシャフトプーリ35の右下方にリブプーリのエアコンプーリ36が設けられている。これらのプーリは、例えば、金属のプレス加工品や鋳物、ナイロン樹脂、フェノール樹脂などの樹脂成形品で構成されており、また、プーリ径がφ50〜150mmである。
【0050】
この補機駆動ベルト伝動装置30では、VリブドベルトBは、Vリブ15側が接触するようにパワーステアリングプーリ31に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面側が接触するようにテンショナプーリ33に巻き掛けられた後、Vリブ15側が接触するようにクランクシャフトプーリ35及びエアコンプーリ36に順に巻き掛けられ、更に、ベルト背面側が接触するようにウォーターポンププーリ34に巻き掛けられ、そして、Vリブ15側が接触するようにACジェネレータプーリ32に巻き掛けられ、最後にパワーステアリングプーリ31に戻るように設けられている。プーリ間で掛け渡されるVリブドベルトBの長さであるベルトスパン長は例えば50〜300mmである。プーリ間で生じ得るミスアライメントは0〜2°である。
【0051】
尚、本実施形態のベルトにより被水鳴きが抑制される理由としては、次のように考えられる。まず、本願で言う被水鳴きは、被水した際に、伝動ベルトのプーリ接触面とプーリと摩擦面間において、いわゆるスティックスリップ現象が生じることによる。伝動ベルトが被水すると摩擦係数が低下するので、摩擦面において濡れている部分と濡れていない部分とが混在した状態になると、部分によって摩擦力が異なる状態となる。これは、スティックスリップ現象、ひいては異音が発生しやすい状態である。
【0052】
これに対し、摩擦面の全体が濡れた状態になると、スティックスリップ現象は抑制される。従って、プーリ接触面を構成するゴム層について、無機フィラーを含有するゴム組成物により形成することにより、プーリ接触面を濡れやすくしてスティックスリップ現象を抑制できる。また、プーリ接触面を構成するゴム層にポリオレフィン粒子を配合することにより動力伝達能力の低下を抑制している。プーリ接触面に露出したこのような粒子の部分については、濡れているとメニスカス力により伝動ベルトとプーリとの摩擦力を増し、スティックスリップ現象を発生させる原因となる。これについて、本開示のベルトでは、ポリオレフィン粒子を用いることで粒子の部分を濡れにくくし、メニスカス力の発生を抑制することで、スティックスリップ現象及び異音の発生を抑制している。尚、ポリオレフィン粒子には、プーリ接触面を構成するゴム層の耐摩耗性を向上する効果もある。
【0053】
また、以上のことから、無機フィラーのうちのシリカとしては、カップリング処理を施していないシリカを用いることが好ましい。つまり、ゴム組成物にシリカを配合する場合、ゴム成分に対するシリカの分散性を向上させるために、シランカップリング剤等によってシリカを処理するのが一般的である。しかしながら、本実施形態においては、シリカはカップリング処理を行うこと無しに用いることが好ましい。更に、ゴム組成物の配合剤としてもカップリング剤を用いないことが好ましい。このようにすると、親水性の高いシリカが配合されたゴム組成物となり、被水時にベルトのプーリ接触面が濡れやすくなるので、異音抑制のために望ましい。
【0054】
同様に、無機フィラーのうちのモンモリロナイトとしては、Ca型のモンモリロナイトが好ましい。モンモリロナイトにはNa、K、Ca2+、Mg2+のような陽イオンが吸着されており、最も多く吸着されている陽イオンがNaであるNa型と、Ca2+であるCa型とがある。Ca型のモンモリロナイトはNa型に比べて吸着性に優れるので、プーリ接触面を濡れやすくする本実施形態の目的に適している。
【0055】
(実施形態2)
図10及び図11は、実施形態2に係るVリブドベルトBを示す。なお、実施形態1と同一名称の部分は、実施形態1と同一符号を用いて示す。
【0056】
実施形態2に係るVリブドベルトBでは、圧縮ゴム層11は、表面ゴム層11aと内側ゴム部11bとを有する。表面ゴム層11aは、Vリブ15の表面全体に沿うように層状に設けられ、表面ゴム層11aにおけるこれらの複数のVリブ15の表面が動力伝達面としてのプーリ接触面を構成している。表面ゴム層11aの厚さは例えば50〜500μmである。内側ゴム部11bは、表面ゴム層11aの内側に設けられ、圧縮ゴム層11における表面ゴム層11a以外の部分を構成している。
【0057】
表面ゴム層11aは、実施形態1における圧縮ゴム層11と同様、架橋したゴム成分と、そのゴム成分に分散した合計で所定量のポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含む各種の配合剤とを含有するゴム組成物で形成されている。
【0058】
内側ゴム部11bは、架橋したゴム成分と各種の配合剤とを含有するゴム組成物で形成されている。内側ゴム部11bを形成するゴム組成物は、ポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含有していても良い。尚、内側ゴム部11bを形成するゴム組成物は、接着ゴム層12又は伸張ゴム層13を形成するゴム組成物と同一であってもよい。
【0059】
以上の構成の実施形態2に係るVリブドベルトBによれば、プーリ接触面を構成する表面ゴム11aが、合計で所定量以上のポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含有するゴム組成物で形成されている。これによりプーリ接触面の親水性が高められ且つプーリ接触面にポリオレフィン粒子が分散して露出しているので、後述の実施例で示すように、被水時における異音の発生を抑えることができる。
【0060】
実施形態2に係るVリブドベルトBを製造するには、圧縮ゴム層11の表面ゴム層用及び内側ゴム部用の未架橋ゴムシート11a’,11b’を作製する。表面ゴム層用の未架橋ゴムシート11a’には、合計で所定量以上のポリオレフィン粒子及び無機フィラーを配合する。次いで、実施形態1と同様の方法により、図12に示すように、表面が平滑な円筒ドラム24上に被せたゴムスリーブ25上に、伸張ゴム層用の未架橋ゴムシート13’、及び接着ゴム層用の未架橋ゴムシート12’を順に巻き付けて積層し、その上から心線用の撚り糸14’を円筒状の内型21に対して螺旋状に巻き付け、更にその上から接着ゴム層用の未架橋ゴムシート12’、並びに圧縮ゴム層11における内側ゴム部用の未架橋ゴムシート11b’、及び表面ゴム層用の未架橋ゴムシート11a’を順に巻き付けて積層体S’を形成する。そして、この積層体S’により図13に示すような円筒状のベルトスラブSを成型する。
【0061】
その他の構成及び作用効果は実施形態1と同一である。
【0062】
(実施形態3)
図14及び図15は、実施形態3に係るVリブドベルトBを示す。なお、実施形態1と同一名称の部分は、実施形態1と同一符号を用いて示す。
【0063】
実施形態3に係るVリブドベルトBでは、圧縮ゴム層11は、表面ゴム層11aと内側ゴム部11bとを有する。表面ゴム層11aは、多孔ゴムで形成され、Vリブ15の表面全体に沿うように層状に設けられ、ベルト内周側のプーリ接触面を構成している。表面ゴム層11aの厚さは例えば50〜500μmである。内側ゴム部11bは、中実ゴムで形成され、表面ゴム層11aの内側に設けられ、圧縮ゴム層11における表面ゴム層11a以外の部分を構成している。
【0064】
ここで、本出願における「多孔ゴム」とは、内部に多数の中空部を有すると共に表面に多数の凹孔16を有する架橋済みのゴム組成物を意味し、中空部及び凹孔16が分散して配された構造並びに中空部及び凹孔16が連通した構造のいずれも含まれる。また、本出願における「中実ゴム」とは、「多孔ゴム」以外の中空部及び凹孔16を含まない架橋済みのゴム組成物を意味する。
【0065】
表面ゴム層11aは、実施形態1における圧縮ゴム層11と同様、架橋したゴム成分と、そのゴム成分に分散した合計で所定量以上のポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含む各種の配合剤とを含有するゴム組成物で形成されている。表面ゴム層11aは、それに加えて多孔ゴムであることから、その形成前の未架橋ゴム組成物に、多孔ゴムを構成するための未膨張の中空粒子及び/又は発泡剤が配合されている。
【0066】
未膨張の中空粒子としては、例えば、熱可塑性ポリマー(例えばアクリロニトリル系ポリマー)等で形成されたシェルの内部に溶剤が封入された粒子等が挙げられる。中空粒子は、1種だけ用いても、また、2種以上を用いても、どちらでもよい。中空粒子の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部である。発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミドを主成分とするADCA系発泡剤、ジニトロソペンタメチレンテトラミンを主成分とするDPT系発泡剤、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドを主成分とするOBSH系発泡剤、ヒドラゾジカルボンアミドを主成分とするHDCA系発泡剤などの有機系発泡剤等が挙げられる。発泡剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。発泡剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部である。
【0067】
表面ゴム層11aは多孔ゴムであるので、その表面には多数の凹孔16が形成されている。凹孔16の平均孔径は、好ましくは10〜150μmである。凹孔16の平均孔径は、表面画像で測定される50〜100個の数平均によって求められる。
【0068】
内側ゴム部11bは、架橋したゴム成分と各種の配合剤とを含有するゴム組成物で形成されている。内側ゴム部11bを形成するゴム組成物は、中空部及び凹孔16を除いた表面ゴム層11aを形成するゴム組成物と同一であってもよい。
【0069】
内側ゴム部11bを形成するゴム組成物は、ポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含有していても良い。尚、内側ゴム部11bを形成するゴム組成物は、接着ゴム層12又は伸張ゴム層13を形成するゴム組成物と同一であってもよい。
【0070】
以上の構成の実施形態3に係るVリブドベルトBによれば、プーリ接触面を構成する表面ゴム11aが、合計で所定量以上のポリオレフィン粒子及び無機フィラーを含有するゴム組成物で形成され、プーリ接触面の親水性が高められ且つプーリ接触面にポリオレフィン粒子が分散して露出しているので、後述の実施例で示すように、被水時における異音の発生を抑えることができる。
【0071】
実施形態3に係るVリブドベルトBを製造するには、圧縮ゴム層11の表面ゴム層用及び内側ゴム部用の未架橋ゴムシート11a’,11b’を作製する。表面ゴム層用の未架橋ゴムシート11a’には、合計で所定量以上のポリオレフィン粒子及び無機フィラーに加えて、中空粒子及び/又は発泡剤を配合する。次いで、実施形態2と同様の方法により(図12及び図13参照)、表面が平滑な円筒ドラム24上に被せたゴムスリーブ25上に、伸張ゴム層用の未架橋ゴムシート13’、及び接着ゴム層用の未架橋ゴムシート12’を順に巻き付けて積層し、その上から心線用の撚り糸14’を円筒状の内型21に対して螺旋状に巻き付け、更にその上から接着ゴム層用の未架橋ゴムシート12’、並びに圧縮ゴム層11における内側ゴム部用の未架橋ゴムシート11b’、及び表面ゴム層用の未架橋ゴムシート11a’を順に巻き付けて積層体S’を形成する。そして、この積層体S’により円筒状のベルトスラブSを成型する。
【0072】
その他の構成及び作用効果は実施形態1と同一である。
【0073】
(その他の実施形態)
上記実施形態1〜3では、VリブドベルトBを示したが、特にこれに限定されるものではなく、摩擦伝動ベルトであれば、例えば、図16Aに示すようなベルト内周側のプーリ接触面を構成する圧縮ゴム層11を有するローエッジ型のVベルトBであってもよく、また、図16Bに示すようなベルト内周側のプーリ接触面を構成する内側ゴム層17を有する平ベルトBであってもよい。
【実施例】
【0074】
(Vリブドベルト)
以下の実施例1〜13及び比較例1〜5のVリブドベルトを作製した。尚、それぞれの構成については表1、表2にも示す。
【0075】
<実施例1>
密閉式のバンバリーミキサーのチャンバーにゴム成分としてのEPDMを投入して素練りし、次いで、このゴム成分100質量部に対して、ISAFカーボンブラック2質量部、ポリエチレン樹脂粒子(三井化学社製の商品名:ハイゼックスミリオン240S、平均分子量200万程度)をゴム成分100質量部に対して50質量部、シリカ(デグッサ社製、商品名:ウルトラジルVN3)を40質量部、層状珪酸塩(株式会社ホージュン、商品名:モンモリロナイト穂高)を40質量部、炭酸カルシウム(白石工業株式会社製、商品名:ACTIFORT 700)を5質量部、中空粒子(積水化学工業社製、商品名:EM403)を2.6質量部、発泡剤(三協化成株式会社製、商品名:セルマイクCE)を7.3質量部、ステアリン酸0.5質量部、酸化亜鉛5質量部、純度40質量%の有機過酸化物架橋剤(日油株式会社、商品名:ペロキシモンF40)を8質量部(純度を考慮した実質成分は3.2質量部)、及び共架橋剤(精工化学株式会社、商品名:ハイクロスM)を2質量部、投入配合して混練し、得られた未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層の表面ゴム層を形成した上記実施形態3と同様の構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例1とした。
【0076】
用いたシリカ(ウルトラジルVN3)は、カップリング処理のされていないシリカである。また、モンモリロナイト穂高は、Ca型をソーダ灰により改質したモンモリロナイトである。
【0077】
また、ポリオレフィン粒子及び無機フィラーの配合量の合計は、ポリオレフィン粒子、シリカ、層状珪酸塩及び炭酸カルシウムの合計であるから、135質量部である(表1、表2には当該合計量も記載している)。
【0078】
尚、圧縮ゴム層の内側ゴム部、並びに接着ゴム層及び背面ゴム層を、EPDMをゴム成分とする他のゴム組成物で形成した。また、心線をポリエチレンテレフタレート繊維製の撚り糸で構成した。そして、ベルト長さを900mm、ベルト幅を21.36mm、ベルト厚さを4.3mmとし、リブ数を6個とした。また、Vリブ側の表面は研磨した。
【0079】
<実施例2>
実施例1で用いた未架橋ゴム組成物において、無機フィラーの1つであるモンモリロナイトとして、株式会社ホージュン社製の商品名:ベンゲルブライト11を40質量部(ゴム成分100質量部に対して。以下でも同じ)用いた。その他の点では実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例2とした。
【0080】
<実施例3>
実施例2で用いた未架橋ゴム組成物において、ポリエチレン樹脂粒子の配合量を70質量部とし、且つ、発泡剤を配合しないものとした。その他の点では実施例2と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例3とした。
【0081】
<実施例4>
実施例2で用いた未架橋ゴム組成物において、ポリエチレン樹脂粒子の配合量を100質量部とし、中空粒子の配合量を3.1質量部とし、且つ、発泡剤を配合しないものとした。その他の点では実施例2と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例4とした。
【0082】
<実施例5>
実施例1で用いた未架橋ゴム組成物において、ポリエチレン粒子として三井化学社製の商品名:ハイゼックスミリオン630Mを80質量部、モンモリロナイトとして株式会社ホージュン社製の商品名:ベンゲルW−100を20質量部用いた。また、発泡剤を配合しないものとした。その他の点では実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例5とした。
【0083】
用いたポリオレフィン粒子(ハイゼックスミリオン630M)の平均分子量は590万程度である。また、用いたモンモリロナイト(ベンゲルW−100)はNa型のモンモリロナイトである。
【0084】
<実施例6>
実施例5で用いた未架橋ゴム組成物において、モンモリロナイトとしてベンゲルブライト11を40質量部用いた。また、中空粒子を2.7質量部とした。その他の点では実施例5と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例6とした。
【0085】
<実施例7>
実施例6で用いた未架橋ゴム組成物において、シリカとしてウルトラジルVN3を30質量部用いた。また、カーボンブラックの配合量を12質量部とした。その他の点では実施例6と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例7とした。
【0086】
<実施例8>
実施例5で用いた未架橋ゴム組成物において、ポリエチレン粒子としてハイゼックスミリオン240Sを80質量部用いた。その他の点では実施例5と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例8とした。
【0087】
<実施例9>
実施例8で用いた未架橋ゴム組成物において、モンモリロナイトとしてベンゲルブライト11を40質量部用いた。また、中空粒子を2.7質量部とした。その他の点では実施例8と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例9とした。
【0088】
<実施例10>
実施例9で用いた未架橋ゴム組成物において、カーボンブラックとしてHAFカーボン2質量部を用いた。また、シリカの配合量を60質量部とした。モンモリロナイトは配合しないものとした。その他の点では実施例9と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例10とした。
【0089】
<実施例11>
実施例9で用いた未架橋ゴム組成物において、ポリエチレン粒子としてハイゼックスミリオン240Sを50質量部用いた。また、シリカの配合量を50質量部とした。モンモリロナイトは配合しないものとした。その他の点では実施例9と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例11とした。
【0090】
<実施例12>
実施例11で用いた未架橋ゴム組成物において、ポリエチレン粒子の配合量を40質量部とした。その他の点では実施例11と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例12とした。
【0091】
<実施例13>
実施例11で用いた未架橋ゴム組成物において、ポリエチレン粒子の配合量を30質量部とした。その他の点では実施例11と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを実施例13とした。
【0092】
<比較例1>
実施例1で用いた未架橋ゴム組成物において、カーボンブラックとしてISAFカーボン22質量部を用いた。ポリエチレン粒子としてハイゼックスミリオン240Sを20質量部用いた。シリカは配合しないものとした。モンモリロナイトとしてモンモリロナイト穂高を40質量部用いた。炭酸カルシウムは配合しないものとした。発泡剤は配合しないものとした。その他の点では実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを比較例1とした。
【0093】
<比較例2>
比較例1で用いた未架橋ゴム組成物において、カーボンブラックとしてISAFカーボン42質量部を用いた。モンモリロナイトとして、株式会社ホージュン社製の商品名:ベンゲルHVPを40質量部用いた。中空粒子は2.9質量部用いた。その他の点では比較例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを比較例2とした。
【0094】
用いたモンモリロナイト(ベンゲルHVP)は、Na型のモンモリロナイトである。
【0095】
<比較例3>
比較例1で用いた未架橋ゴム組成物において、カーボンブラックとしてISAFカーボン42質量部を用いた。ポリエチレン粒子としてハイゼックスミリオン240Sを30質量部用いた。シリカとしてウルトラジルVN3を20質量部用いた。モンモリロナイトとしてベンゲルブライト11を20質量部用いた。炭酸カルシウムを5質量部用いた。中空粒子は2.7質量部用いた。その他の点では比較例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを比較例3とした。
【0096】
<比較例4>
比較例1で用いた未架橋ゴム組成物において、カーボンブラックとしてISAFカーボン42質量部を用いた。ポリエチレン粒子としてハイゼックスミリオン240Sを50質量部用いた。モンモリロナイトとしてベンゲルブライト11を30質量部用いた。発泡剤としてセルマイクCEを7.3質量部用いた。その他の点では比較例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを比較例4とした。
【0097】
<比較例5>
比較例1で用いた未架橋ゴム組成物において、カーボンブラックとしてISAFカーボン42質量部を用いた。ポリエチレン粒子としてハイゼックスミリオン630Mを80質量部用いた。モンモリロナイトは配合しないものとした。中空粒子は2.7質量部用いた。その他の点では比較例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、それを比較例5とした。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
(試験評価方法)
図17はベルト走行試験機40のプーリレイアウトを示す。
【0101】
このベルト走行試験機40は、最下位置にプーリ径が140mmの亜鉛メッキしたリブプーリである駆動プーリ41が設けられ、その右斜め上方にプーリ径が100mmのリブプーリである第1従動プーリ42(エアコンプーリ)が設けられ、また、駆動プーリ41及び第1従動プーリ42の左斜め上方にプーリ径が60mmのリブプーリである第2従動プーリ43(オルタネータプーリ)が設けられ、更に、第1従動プーリ42左側方にプーリ径が95mmの平プーリであるアイドラプーリ44が設けられている。そして、このベルト走行試験機40は、VリブドベルトBのリブプーリである駆動プーリ41、第1及び第2従動プーリ42及び43にVリブ側が接触すると共に、平プーリであるアイドラプーリ44に背面側が接触して巻き掛けられるように構成されている。
【0102】
実施例1〜13及び比較例1〜5のそれぞれについて、上記ベルト走行試験機40を用いて被水鳴き(被水時の異音発生の有無)について試験した。このためには、試験対象のベルトをベルト走行試験機40の各プーリに巻き掛け、所定のベルト張力が負荷されるようにアイドラプーリ44を位置決めし、第1及び第2従動プーリ42及び43に負荷(第1従動プーリ42:1.5MPa、第2従動プーリ43:20A)を与え、雰囲気温度25℃の下、駆動プーリ41を750±120rpmの回転数で回転させてベルト走行させた。駆動プーリ41のベルト巻き掛かり始め部分に10mlの水を滴下して、負荷されている張力における鳴きの有無を確認した。
【0103】
試験は、ベルト張力が1300Nから200Nの範囲について行った。但し、ベルト張力はアイドラプーリ44の位置によって調整しているので厳密に100N単位で設定することは困難である。従って、実際の試験としては、1300Nを越える値から200Nを下回る値まで行っている。つまり、1300Nを越える程度の張力で試験を開始し、異音の発生が無ければ、アイドラプーリ44の位置を調整して100N程度張力を下げ、再び注水時の異音の有無を確認した。順次ベルト張力を下げて行き、鳴きが発生した場合はその際の張力を記録した(前記通り張力を正確に設定することは困難であるため、100N単位の値とはなっていない)。
【0104】
(試験結果)
結果を表1及び表2に示す。張力の数値のみを記載している場合は、その値にベルト張力を下げた際に被水鳴きが発生したことを意味する。数値と共に「一瞬」と記載している場合、その値にベルト張力を下げてベルトを走行させ、注水した後に短時間だけ異音が発生したが、ベルトの走行を継続させるとその後は異音が無くなったことを意味する。また、「無し」とはベルト張力1300Nから200Nまでの全張力領域において被水鳴きが発生しなかったことを意味する。
【0105】
無機フィラー及びポリエチレン粒子の合計の配合量が60〜80質量部である比較例1〜5では、ベルト張力を200Nに下げるまでに(690Nから1330Nまでの範囲で)、一瞬ではない鳴きが発生している。これに対し、前記合計配合量が85質量部である実施例13ではベルト張力440Nにて一瞬のみ鳴きが発生するだけであり、被水鳴きは抑制されている。前記合計配合量が95質量部である実施例12ではベルト張力270Nで一瞬のみ鳴き発生であり、被水鳴きは更に抑制されている。前記合計配合量が105〜185である実施例1〜11の場合、いずれもベルト張力1300Nから200Nの全範囲で被水鳴きの発生は無く、被水鳴きは十分に抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、摩擦伝動ベルトの技術分野において有用である。
【符号の説明】
【0107】
B Vリブドベルト,Vベルト,平ベルト(摩擦伝動ベルト)
11 圧縮ゴム層
11a 表面ゴム層
17 内側ゴム層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17