特許第6306279号(P6306279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306279
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】温度成層型空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 13/02 20060101AFI20180326BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   F24F13/02 G
   F24F7/06 B
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-137577(P2012-137577)
(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公開番号】特開2014-1892(P2014-1892A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年12月22日
【審判番号】不服2017-1449(P2017-1449/J1)
【審判請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水島 茂
(72)【発明者】
【氏名】植村 聡
(72)【発明者】
【氏名】内山 聖士
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 槙原 進
【審判官】 佐々木 正章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−121808(JP,A)
【文献】 特開2011−185474(JP,A)
【文献】 特開2010−255873(JP,A)
【文献】 特開平5−311956(JP,A)
【文献】 特開2006−258359(JP,A)
【文献】 特開2001−173991(JP,A)
【文献】 特開2000−291989(JP,A)
【文献】 特開平10−288392(JP,A)
【文献】 特開平7−208754(JP,A)
【文献】 特開平4−3830(JP,A)
【文献】 特開昭62−196540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 13/02
F24F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井の高い大空間を内部に有する建物の外部から熱負荷が伝わる領域であるペリメータゾーンにおける設定高さレベルに全体として閉ループを形成するよう配設されるループダクトと、
空気を冷却する冷却コイル及び空気を加熱する温水コイルが内蔵され前記ループダクトへ冷暖房用空気を送り込むための空調機と、
前記ループダクトの下面にその長手方向へ設定ピッチで挿入配置される円筒状部材を有し、該円筒状部材の前記ループダクトの中心軸と平行な上端開口のループダクト内方への差込長さを調節自在に設け、前記空調機によって前記ループダクトへ送り込まれた冷暖房用空気を前記円筒状部材の下端から下降流として吹き出す空気吹出ノズルと、
前記大空間内の前記ループダクトと同一高さレベル又は低いレベルに配設される還気口と
を備えたことを特徴とする温度成層型空調システム。
【請求項2】
前記設定高さレベルが床面から2.5〜6[m]の範囲である請求項1記載の温度成層型空調システム。
【請求項3】
前記建物の天井位置に天井排気口及び該天井排気口から建物内部の空気を外部へ排気する排気ファンを備え、夏期冷房時に排気ファンを所定の間隔で間欠運転するよう構成した請求項1又は2記載の温度成層型空調システム。
【請求項4】
前記空気吹出ノズルの円筒状部材外周面に雄ネジを切り、内周面に前記雄ネジと螺合する雌ネジが切られた固定部材を前記ループダクトの下面に穿設された孔に固着し、該固定部材に対し前記円筒状部材をねじ込むよう構成した請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度成層型空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度成層型空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工場や体育館等の天井の高い大空間を内部に有する建物内に冷暖房による快適な空気環境を形成するには、建物高さ方向全体の空気を混合して全体に一律の空気温度となるよう、室内上部に多数の吹出口を設け、大風量の空調機で所定の吹き出し温度に調和された調和空気を吹出口から供給し、在室する人に向かってまんべんなく調和空気を送風し、天井や壁面に設ける還気口から還気を空調機に戻す、混合空調が行われていた。
【0003】
しかし、このような従来技術では、室内上部空間から調和空気を送風するため、不必要に室内空気を攪拌し、人の存在しない天井付近の空気まで冷暖房を行うこととなり、調和空気を無駄に温調して空調機も大きくなりエネルギーも非常に多く消費してしまう。
【0004】
このような混合空調の弊害を防止する温度成層型の空調システムが、近年、換気方式として導入された置換換気システムの応用として提唱されている。
【0005】
換気方式としての置換換気システムは、空気の温度差による換気力を利用した自然換気に更に送風機で換気する機械換気を組み合わせたもので、床レベルから室温より少し低い温度の新鮮空気を外部から供給すると、室内の熱負荷によって空気が加熱され上昇気流となり、この上昇気流の力を利用して天井レベルに熱い空気を導くことで室内の換気力として利用し、居住域の空気を清浄に保つものである。
【0006】
この置換換気システムを空調方式として応用し、空調機への還気を、室温より少し低い温度として温調し、床面近傍に吹出口を有する給気ユニットから低風速で水平方向へ吹き出し、その温調空気は室内熱負荷により熱上昇流となって、周囲の空気をゆっくり上昇させて天井付近に熱い空気として滞留させ、該熱い空気が天井面に設置した還気口から、空調機へ還気されるか、或いはその一部が熱い排気として排出されるようにした空調システムが、温度成層型の空調システムである。
【0007】
このような工場や体育館等の大空間を内部に有する建物において、冷暖房を行うための温度成層型の空調システムは、例えば、図12図15に示されるようなものがある。
【0008】
前記温度成層型の空調システムは、建物1の外壁、或いは外壁と内部室間仕切り壁との間の非空調通路等、建物1の外部から熱負荷が伝わる領域であるペリメータゾーンにおける建物1の床面レベルに、前述の床面近傍の吹出口である、多数の孔が穿設されたパンチングメタル等の金属板で形成された給気ユニット2を、建物1の周方向に所要間隔をあけて複数配備すると共に(図13参照)、該各給気ユニット2の背面側における建物1の外側、或いは外壁と内部室間仕切り壁との間の非空調通路に、各給気ユニット2へ冷暖房用空気を送り込むための空調機3を設置し、前記給気ユニット2の上方に、前記建物1内の空気を前記空調機3に吸い込むための還気口4を設けることによって構成されている。
【0009】
前記従来の温度成層型の空調システムにおいては、夏期冷房時、空調機3から冷房用空気が給気ユニット2へ送り込まれ、該給気ユニット2から冷房用空気が建物1内へ低速で床面に沿って吹き出され、該建物1内の温度を下げながら室内熱負荷での熱上昇気流の発生も行われ、還気口4から建物1内の熱負荷により高温になった空気が吸い込まれて前記空調機3に循環されるようになっている。
【0010】
一方、冬期暖房時には、空調機3から暖房用空気が給気ユニット2へ送り込まれ、該給気ユニット2から暖房用空気が建物1内へ吹き出され、該建物1内の温度を上げることが行われ、還気口4から建物1内の空気が吸い込まれて前記空調機3に循環されるようになっている。
【0011】
尚、大空間の暖房に関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。この技術は、燃料燃焼による空気加熱を行う温風暖房機から供給される高温の空気を、建屋のペリメータ外側の外壁に沿って流すことで、コールドドラフト現象による侵入冷気を加温して、大空間で天井が高い場合に生じる上下温度差を低減し、室内の対流を利用して暖房するものである。
【0012】
又、大空間ではないが、冷暖房用空気を室内下部の空調領域空気吹出口から床面に沿って水平に吹き出して室内に温度成層をなして冷暖房を行い、室内上方の空気を還気口から吸い込んで空調機に循環させる温度成層型の空調システムに関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献2がある。
【0013】
更に又、床面から給気し居住域(インテリアゾーン)に温度成層を形成して、汚染質は上昇気流に乗せて搬送し天井面の排気口から排出する、いわゆる置換換気に関する技術を示すものとしては、例えば、非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−121808号公報
【特許文献2】特開2002−310450号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】REHVA Federation of European Heating and Air-conditioning Associations 編集、社団法人 空気調和・衛生工学会 翻訳・編集、「置換換気ガイドブック−基礎と応用−」、初版第1刷、社団法人 空気調和・衛生工学会 発行、平成19年3月26日、P.10〜13、P.22,23、P.72,73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、置換換気がなされている居室における気流パターンは対象居室に存在する発熱体と吸熱体からの対流に支配される。暖かい空気層は空間上部に、冷たい空気層は空間の下部に形成される。空気は水平方向の空気層内では容易に移動するが、空気層の間を上下に移動するには、より大きな駆動力がファン等に必要となる。(非特許文献1参照)
【0017】
又、特許文献2に開示されたものでは、内壁に設けた吹出口から吹き出す冷風はコアンダ効果(壁面や天井に接近して吹き出された気流は、その面に吸い寄せられて付着するように流れる傾向があるという気流現象)により低層域に留まろうとする。
【0018】
このように、特許文献2に開示されたものは、自然対流を利用した技術であり、垂直温度分布は50%ルールに従う。因みに、50%ルールとは、非特許文献1に記載されているように、床近傍の空気温度が給気温度(例えば、16[℃])と排気温度(例えば、34[℃])の中間(例えば、25[℃])であることをいう。又、非特許文献1では、排気口の位置について述べているが、これは排気口と同様に機械的に空気を空調機3へ吸い込む還気口4についても同様のことが言える。
【0019】
仮に、図9(c)に示されるように、排気口や還気口4が吹出口と同等の高さ(例えば、3[m]前後)にあって低い場合、室内の垂直温度の勾配は、
(34−25)/3=3[℃/m]
となり、排気口や還気口4が天井近くの高さ(図9(b)に示されるように、例えば、6[m]程度)にある場合の室内の垂直温度の勾配が、
(34−25)/6=1.5[℃/m]
となるのに比べ、温度勾配が急となる。因みに、温熱環境に関する国際規格としてのISO7730では、温度勾配は、床上0.1[m]から1.1[m]の間において、3[℃/m]より小さくすべきであると述べられている。即ち、排気口や還気口4の高さが低い場合は、垂直温度の勾配が急となり、ISO7730の規定を満たさない場合があり、室内は良好な環境とならない。
【0020】
又、図9(c)に示されるように、3[℃/m]の垂直温度の勾配の場合、室内の居住者の姿勢が座位の場合1.1[m]、立位の場合1.5[m]程度の高さに顔面があり、16[℃]の吹き出し温度にもかかわらず、顔面高さの空気温度は28〜30[℃]程度となり不快な環境となってしまう。
【0021】
こうした理由により、自然対流を利用している特許文献2に開示されているような従来の温度成層型のものの場合、機械的に空気を空調機3へ吸い込む還気口4を天井近くに設置しなくてはならないが、このように還気口4を天井近くに設置すると、室内の上部熱気を吸い込むこととなり、空調機3の消費エネルギーが大きくなるという不具合を有していた。
【0022】
そして、図12及び図13に示されるような従来の温度成層型の空調システムにおいて、夏期冷房時に、前記空調機3から給気ユニット2へ冷房用空気を送り込み、該給気ユニット2から建物1内へ冷房用空気を吹き出すと、図14に示されるように、冷房用空気は、床面に沿うように流れて建物1内部に冷気が溜まっていき、温度成層が形成されるものの、前記コアンダ効果により低温空気が低層域に留まることによる温度成層を良好に形成するためには、垂直方向の温度勾配を適切にするために、還気口4を高い位置に設置する必要があり、空調機3の消費エネルギーが大きくなって充分な省エネルギー化を図ることができなかった。
【0023】
又、冬期暖房時に、前記空調機3から給気ユニット2へ暖房用空気を送り込み、該給気ユニット2から建物1内へ暖房用空気を吹き出すと、図15に示されるように、低速で水平方向へ吹き出される暖房用空気は、自身の高い温度による上昇気流によりコアンダ効果が得られず、吹き出された直後から上昇するため、床面に暖房用空気が行き渡らず足元に冷気溜りが生じやすかった。
【0024】
更に又、前記給気ユニット2が建物1の床面レベルにその周方向へ所要間隔をあけて複数配備されるため、暖房用空気も冷房用空気も局所的にしか吹き出されず、建物1内部の温度や湿度のムラが生じやすくなると共に、床面に接するように前記給気ユニット2を配置することによってフロアスペースの一部が利用できなくなっていた。
【0025】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、夏期冷房時には高さ方向に小さい体積の低温空気層を有する温度成層を形成することで充分な省エネルギー化を図り、且つ冬期暖房時には空調機を夏期と同じ風量で運転しながらコールドドラフトを抑制して足元の冷気溜りの発生を抑えつつ、建物内部の高さ方向に小さい体積領域を温度や湿度のムラなく均一に暖房空調することができ、更に、フロアスペースを最大限効率的に利用できる温度成層型空調システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、天井の高い大空間を内部に有する建物の外部から熱負荷が伝わる領域であるペリメータゾーンにおける設定高さレベルに全体として閉ループを形成するよう配設されるループダクトと、
空気を冷却する冷却コイル及び空気を加熱する温水コイルが内蔵され前記ループダクトへ冷暖房用空気を送り込むための空調機と、
前記ループダクトの下面にその長手方向へ設定ピッチで挿入配置される円筒状部材を有し、該円筒状部材の前記ループダクトの中心軸と平行な上端開口のループダクト内方への差込長さを調節自在に設け、前記空調機によって前記ループダクトへ送り込まれた冷暖房用空気を前記円筒状部材の下端から下降流として吹き出す空気吹出ノズルと、
前記大空間内の前記ループダクトと同一高さレベル又は低いレベルに配設される還気口と
を備えたことを特徴とする温度成層型空調システムにかかるものである。
【0027】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0028】
空調機から冷暖房用空気をループダクトへ送り込むと、冷暖房用空気は、空気吹出ノズルの円筒状部材の下端から下降流として吹き出される。
【0029】
通常のダクトからの空気吹出ノズルは、ダクト内への差込長さを0[cm]とするような接続をするが、この場合、ダクト長手方向に直交する空気吹出ノズルの断面形状寸法を、空調機のダクトに対する接続箇所から、ダクト長手方向最遠箇所まで同じ形状、同じ寸法として均等に吹き出すのは著しく困難である。その原因として、以下の三点が考えられる。
【0030】
その1)空調ダクトの元側に備わる空調機が内蔵する送風機から吐出される、全ての空気吹出口から吹き出す空気量の合算量を同じ断面積のダクト内を通過させるため、まだ空気吹出口から空気量が減少していないダクト元側は、ダクト末端と比較して高速となる。元側に設けた空気吹出口上方ダクト内のダクト延長方向速度が大、つまり動圧が大となり、そこまでの摩擦抵抗を無視すると、送風機で生じた全圧のうちのその位置における動圧が占める割合が大きく、トレードオフとしてダクトの周囲へ押し出す静圧は小さくなっている。よって、ダクト内静圧が小さいことにより元側の空気吹出口からの吹き出しが弱く、風量が小さくなる。
【0031】
その2)ダクトの延長方向に配置される各空気吹出口から空調空気の一部が流出していくと、その下流の空調ダクト内を流れる空気量が減少し、空気の流速が減少するものの、ダクトの長手方向直交断面形状が同じ、つまりダクト断面積が同じなので、動圧が小さくなっていくものの、全圧も空気量減少分小さくなっていくので、静圧が上昇しない。
【0032】
その3)ダクトの元側から中間に掛けての空気吹出口から、期待している空気量が吹き出されないので、ダクト内に余分な空気が残存し、その下流にある空気吹出口の設計合計風量よりも大量の空気が、結局ダクトの末端近くまで持ち越され、該ダクトの閉鎖されている末端で空気の動圧が失われると、全圧が静圧に急激に変換され、前記ダクトの末端付近の空気吹出口から多量の空気が吹き出す。
【0033】
上記のようなメカニズムを理由として、ダクトの長手方向に沿って不均一な吹出し風量となり、ダクトの末端近くからの吹出し風量が多いダクト装置となってしまうと考えられる。
【0034】
ここで、前記空気吹出ノズルのループダクト内方への前記差込長さを0[cm]より大とした場合、ループダクト内を流れる空気が空気吹出ノズルの差込部分による影響を受け、上流側の流れが持ち上げられて空気吹出ノズルに流れ込み、その下流側に渦が発生し、これが大きな流路抵抗を生じさせることとなる。このため、ループダクト全長に亘る各空気吹出ノズルの位置で、ループダクト内を流れる空気の運動エネルギーである動圧から静圧への変換が進み、それぞれの空気吹出ノズルから所定の風量をループダクト長手方向と直交する方向に押し出す静圧が、各空気吹出ノズルの円筒状部材のループダクトの中心軸と平行な上端開口位置で得られて、各空気吹出ノズルで均一な吹き出し風量が得られることとなる。
【0035】
この空気吹出ノズルは、円筒状部材の内径をφ60〜150[mm]とし、円筒状部材での通過風速を2〜7[m/s]としているので、前記空気吹出ノズル下端の高さを床面から2.3[m]以上の位置とすれば、居住者が座位で位置する1.1〜1.2[m]の高さ位置では、風速を0.5[m/s]未満とすることができる。よって、夏期冷房時、前記空気吹出ノズルの真下であっても、気流が肌に触れて不快と感じる、いわゆるドラフト感がほとんどなく、しかも、ゆっくりとした気流が床面に沿って形成されることにより、温度成層が形成される。
【0036】
建物の外部から熱負荷が伝わる領域であるペリメータゾーンにループダクトを設定高さレベルに設置し、該ループダクトに前記均一に空気を吹き出す空気吹出ノズルを挿入配置することにより、吹出し当初は下降流であった気流がペリメータゾーンを包み込むように床に同速度で到達し、一部気流は床面に沿って、他の一部気流は床面にぶつかって少し上方へそれぞれ押し出し流れを形成する。そして、還気口がループダクトと同一高さか又は低いレベルに配設されるのでループダクト下方に冷気が澱むこととなる。
【0037】
この結果、夏期冷房時の室内温度分布は、ループダクトより下層の作業エリアのみが冷房され、上層の人がいないエリアは冷房されないため、大きな省エネルギー効果が得られる。
【0038】
冬期暖房時も夏期冷房時と同じ風量で吹き出すので、前記空気吹出ノズルの真下であっても、前記ドラフト感がほとんどなく、しかも、冬期、建物の外壁から侵入しようとする冷気を、多数の空気吹出ノズルから吹き下ろす吹き出し風により形成される、建物内の壁面に沿ったカーテン状の暖房気流によって遮断することが可能となる。この結果、吹出ダクトから建物内へ暖房用空気を吹き出した際に、該暖房用空気が吹き出された直後から上昇するようなことが避けられ、足元に冷気溜りが生じにくくなって、足元まで快適な暖房が実現される。又、特許文献1に記載の温風暖房機は、重油やガス等の燃料を燃焼させて空気を加熱し、温風の温度を吹き出し直後で40[℃]以上130[℃]以下にするようになっているが、本発明の加熱は、45〜55[℃]の温水を熱媒とする温水コイルを用いて、暖房時における空気吹出ノズルからの温風の吹き出し温度は40[℃]未満でも暖房気流が成立することから、前記空調機としての要求は、熱媒となる温水を加熱してその温度を55[℃]まで上昇させて温水コイルへ導入すれば良いので、空調機と別体の加熱源としては、一般的なヒートポンプ熱源の利用が可能となる。更に本発明では、燃料の燃焼を必要としないので、1次エネルギー換算のエネルギー消費を大きく削減できる。
【0039】
一方、本発明では、夏期冷房時、設定高さレベルに設置されたループダクト下面の空気吹出ノズルから冷風を下降流として供給する方式であって、空気吹出ノズルから供給された冷風は、設定高さレベル以下の体積部分において室内に積極的に拡散しようとするため、ループダクト直下からの冷房が可能となる。即ち、冷房区域はループダクト高さに依存するため、ファンの空気搬送力に頼る機械換気として空気を空調機へ吸い込む還気口を、ループダクト高さまで又はそれ以下に下げたとしても、室内温度は、ループダクトが配設される高さまでは略一定となり、良質な垂直温度勾配が得られる。これにより、本発明では還気口から上部の熱気層を吸い込むことがないため、空調機の消費エネルギーを従来と比較して大幅に抑えることが可能となる。
【0040】
つまり、従来の温度成層空調のように、温度成層が床上から天井直下にかけて一次直線の垂直温度勾配をなすのではなく、本発明では、床上からループダクトが配設される高さまでは空気温度が略一定、即ち垂直温度勾配がほとんどない状態であり、且つループダクトに勾配変化点を有し、それより上方へ向けてある勾配を有する一次直線的リニアな垂直温度勾配をなすような空気温度分布の状態になるので、還気口の位置を下げやすい温度成層が得られる。
【0041】
しかも、本発明では、従来の空調システムのように、吹出ダクトを建物の床面レベルにその周方向へ所要間隔をあけて複数配備しなくて済み、ループダクトを床面から設定高さレベルに配設すれば良く、建物内部の温度や湿度のムラが生じにくくなると共に、前記吹出ダクトによってフロアスペースの一部が利用できなくなってしまう心配もなく、空間の有効活用が可能となり、非常に好ましい。
【0042】
前記温度成層型空調システムにおいては、前記設定高さレベルが床面から2.5〜6[m]の範囲であるようにすることができる。
【0043】
又、前記温度成層型空調システムにおいては、前記建物の天井位置に天井排気口及び該天井排気口から建物内部の空気を外部へ排気する排気ファンを備え、夏期冷房時に排気ファンを所定の間隔で間欠運転するよう構成することができ、このようにすると、前記設定高さレベルより上方に形成される温度勾配を有する温度成層の最高温の空気を排気することが可能となり、熱溜まりを所定の温度に維持し、且つ前記設定高さレベルより下方の冷房区域の温度成層を乱さないようにすることが可能となる。
【0044】
更に又、前記温度成層型空調システムにおいては、前記空気吹出ノズルの円筒状部材外周面に雄ネジを切り、内周面に前記雄ネジと螺合する雌ネジが切られた固定部材を前記ループダクトの下面に穿設された孔に固着し、該固定部材に対し前記円筒状部材をねじ込むよう構成することができ、このようにすると、吹出口の構成が簡単であり、吹き出し量の調整も容易となり、ダクトの製造が安価に行えると共に、ダクト設置時や設置後の調整も容易に行える。
【発明の効果】
【0045】
本発明の温度成層型空調システムによれば、夏期冷房時には高さ方向に小さい体積の低温空気層を有する温度成層を形成することで充分な省エネルギー化を図り、且つ冬期暖房時には空調機を夏期と同じ風量で運転しながらコールドドラフトを抑制して足元の冷気溜りの発生を抑えつつ、建物内部の高さ方向に小さい体積領域を温度や湿度のムラなく均一に暖房空調することができ、更に、フロアスペースを最大限効率的に利用できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の温度成層型空調システムの実施例を示す全体概要斜視図である。
図2】本発明の温度成層型空調システムの実施例を示す全体概要側面図である。
図3】本発明の温度成層型空調システムの実施例を示す全体概要平面図である。
図4】本発明の温度成層型空調システムの実施例における空気吹出ノズルを示す断面図である。
図5】本発明の温度成層型空調システムの実施例における夏期冷房時の気流と風速分布を示す実験データ図である。
図6】本発明の温度成層型空調システムの実施例における冬期暖房時の気流と風速分布を示す実験データ図である。
図7】本発明の温度成層型空調システムの実施例における夏期冷房時の室内温度分布を示す実験データ図である。
図8】本発明の温度成層型空調システムの実施例における冬期暖房時の室内温度分布を示す実験データ図である。
図9】(a)は本発明の温度成層型空調システムの実施例における夏期冷房時の室内温度勾配を示す線図、(b)は従来の空調システムの一例において排気口(還気口)の高さが高い場合の夏期冷房時の室内温度勾配を示す線図、(c)は従来の空調システムの一例において排気口(還気口)の高さが低い場合の夏期冷房時の室内温度勾配を示す線図である。
図10】本発明の温度成層型空調システムの実施例において、床上+1500[mm]の高さでの温度を基準とする各高さでの温度差が、還気口高さを1[m](ループダクト高さは3[m])、還気口高さを3[m](ループダクト高さも3[m])、還気口高さを6[m](ループダクト高さも6[m])で変化させた場合にどの程度異なるかを示す実験データ線図である。
図11】本発明の温度成層型空調システムの実施例において、還気口高さを1[m](ループダクト高さは3[m])、還気口高さを3[m](ループダクト高さも3[m])、還気口高さを6[m](ループダクト高さも6[m])で変化させた場合に、夏期冷房負荷が従来と比べどの程度削減されるかを示す実験データグラフである。
図12】従来の空調システムの一例を示す全体概要側面図である。
図13】従来の空調システムの一例を示す全体概要平面図である。
図14】従来の空調システムの一例における夏期冷房時の気流を示す側面図である。
図15】従来の空調システムの一例における冬期暖房時の気流を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0048】
図1図11は本発明の温度成層型空調システムの実施例であって、図中、図12図15と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、建物1内の外部との境界となるペリメータゾーンにおける設定高さレベルHに全体として閉ループを形成するようループダクト5を配設し、空気を冷却する冷却コイル(図示せず)及び空気を加熱する温水コイル(図示せず)が内蔵され前記ループダクト5へ冷暖房用空気を供給ダクト6を介して送り込むための空調機3を、前記ループダクト5と同一高さレベルに設け、前記ループダクト5の下面にその長手方向へ設定ピッチPで空気吹出ノズル7を挿入配置し、前記建物1内の空気を前記空調機3に吸い込むよう前記ループダクト5と同一高さレベルに還気口4を配設したものである。
【0049】
前記設定高さレベルHは、床面から2.5〜6[m]の範囲とし、又、前記設定ピッチPは、ループダクト5の全長、その他の条件に応じて適宜選定すれば良く、例えば、500〜2000[mm]とすることができる。
【0050】
前記建物1の天井位置には、天井排気口10及び該天井排気口10から建物1内部の空気を外部へ排気する排気ファン11を備え、夏期冷房時に排気ファン11を所定の間隔で間欠運転するよう構成してある。尚、前記排気ファン11の間欠運転の間隔は、予め夏期に本発明の温度成層型空調システムについて排気ファン11を停止したまま運転し、天井近傍の温度がある温度に達するまでの温度上昇速度を計測しておき、該温度上昇速度に基づいて排気ファン11の運転停止タイマ時間を決定したり、或いは天井直下に形成される温度成層の高温空気部分体積に見合う量の空気を換気するのに必要な換気回数に基づいて必要な時間を決定したりすることができ、例えば、前記排気ファン11を1時間に一回、例えば天井部の最高温度から2[℃]低い温度層までの高温空気部分体積の0.5回分体積風量を、2.5回分を一時間で換気できる容量の排気ファン11にて12分かけて排気する相当量といった形で設定すれば良い。0.5回分体積風量をゆっくり排気することにより、天井部の最高温度からそれより1[℃]低い空気の大部分は排出され、ループダクト5の所定の設定高さより高い位置の温度成層は維持できるからである。又、前記建物1の側面には、排気によって建物1内が負圧になってしまうことを防止するための外気取入口12を設けてある。
【0051】
前記空気吹出ノズル7は、図4に示す如く、外周面に雄ネジが切られた円筒状部材7aと、該円筒状部材7aの下端に設けられた吹出口7bとからなり、内周面に前記雄ネジと螺合する雌ネジが切られた固定部材8を前記ループダクト5の下面に穿設された孔9に固着し、該固定部材8に対し前記円筒状部材7aをねじ込むことにより、該円筒状部材7aの前記ループダクト5の中心軸と平行な上端開口のループダクト5内方への差込長さSを調節自在に設け、前記空調機3によって前記ループダクト5へ送り込まれた冷暖房用空気を前記円筒状部材7aの下端に設けられた吹出口7bから下降流として吹き出すようにしてある。
【0052】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0053】
空調機3から供給ダクト6を介して冷暖房用空気をループダクト5へ送り込むと、冷暖房用空気は、空気吹出ノズル7の円筒状部材7aの下端に設けられた吹出口7bから下降流として吹き出される。
【0054】
ここで、仮に、前記空気吹出ノズル7の円筒状部材7aの差込長さS(図4参照)を0[cm]とした場合、ループダクト5内におけるその下面に近い部分の空気だけが前記空気吹出ノズル7に流れ、前記ループダクト5の下面より上の流れは空気吹出ノズル7の影響をほとんど受けずに通過するため、ループダクト5内の静圧が小さくなり、前記空気吹出ノズル7からの吹き出しが弱くなって吹き出し風量が小さくなるのに対し、前記差込長さSを0[cm]より大とした場合、ループダクト5内を流れる空気が空気吹出ノズル7の差込部分による影響を受け、上流側の流れが持ち上げられて空気吹出ノズル7に流れ込み、その下流側に渦が発生し、これが大きな流路抵抗を生じさせることとなる。このため、ループダクト5全長に亘る各空気吹出ノズル7の位置で、ループダクト5内を流れる空気の運動エネルギーである動圧から静圧への変換が進み、それぞれの空気吹出ノズル7から所定の風量をループダクト5の長手方向と直交する方向に押し出す静圧が、各空気吹出ノズル7の円筒状部材7aのループダクト5の中心軸と平行な上端開口位置で得られて、各空気吹出ノズル7で均一な吹き出し風量が得られることとなる。
【0055】
因みに、前記ループダクト5内の風速分布は、空気が進行する方向と直交する断面において、ループダクト5を構成する上下面並びに左右側面に近い箇所では内面の摩擦抵抗により低速となる傾向を示し、ループダクト5内面直近でほぼ風速が0になり、ループダクト5の内部の中心部までは風速が増加する傾向を示すため、差込長さSは、0[cm]より長くループダクト5の内部高さの1/2(中心線までの距離)以下の範囲であれば良い。
【0056】
そして、実験装置として製作した断面が幅70[cm]、高さ40[cm]の矩形形状で全長が略70[m]のループダクト5において、内径がφ60[mm]で前記設定ピッチPを2000[mm]とした空気吹出ノズル7の差込長さSを、10[cm]にした場合と0[cm]にした場合とで、各空気吹出ノズル7毎の吹出量を計測する実験を行ったところ、差込長さSが0[cm]の場合は各吹出口7bからの吹出量にバラつきが見られるのに対し、差込長さSが10[cm]の場合は吹出量にバラつきはほとんど見られず略一定値となることが確認されている。尚、前記空調機3からの送風量を9800[m3/h]にした場合、各空気吹出ノズル7からの吹出量はおよそ200[m3/h]となり、前記空調機3からの送風量を4900[m3/h]にした場合、各空気吹出ノズル7からの吹出量はおよそ100[m3/h]となった。又、空気吹出ノズル7の円筒状部材7aの内径をφ60〜150[mm]とし、円筒状部材7aでの通過風速を2〜7[m/s]としているので、前記空気吹出ノズル7下端の高さを床面から2.3[m]以上の位置とすれば、居住者が座位で位置する1.1〜1.2[m]の高さ位置では、風速を0.5[m/s]未満とすることができる。
【0057】
図5は本発明の温度成層型空調システムの実施例における夏期冷房時の気流と風速分布を示す実験データ図であって、前記ループダクト5の設定高さレベルHをH=5[m]とし、前記空気吹出ノズル7からの吹出量がおよそ200[m3/h]である場合、前記ループダクト5の下面から1000[mm]程度下がった位置(床面から4[m]の高さ位置)での風速は、およそ2.73[m/s]であるが、空気吹出ノズル7の真下であっても、床面から1.5[m]の高さ位置での風速は、およそ0.29[m/s]となり、床面から0.5[m]の高さ位置での風速は、およそ0.26[m/s]となり、気流が肌に触れて不快と感じる、いわゆるドラフト感がほとんどなく、しかも、風速がおよそ0.08[m/s]程度のゆっくりとした気流が床面に沿って形成されることにより、温度成層が形成される。この結果、夏期冷房時の室内温度分布は、図7に示すようになり、下層の作業エリアのみが冷房され、上層の人がいないエリアは冷房されないため、大きな省エネルギー効果が得られる。尚、図5のデータはH=5[m]のものであるが、H=2.5〜6[m]の範囲であれば、夏期冷房時の気流と風速分布は、上述と同じような傾向を示すものとなる。
【0058】
図6は本発明の温度成層型空調システムの実施例における冬期暖房時の気流と風速分布を示す実験データ図であって、前述と同様、前記ループダクト5の設定高さレベルHをH=5[m]とし、前記空気吹出ノズル7からの吹出量がおよそ200[m3/h]である場合、前記ループダクト5の下面から1000[mm]程度下がった位置(床面から4[m]の高さ位置)での風速は、およそ3.11[m/s]であるが、空気吹出ノズル7の真下であっても、床面から1.5[m]の高さ位置での風速は、およそ0.24[m/s]となり、床面から0.5[m]の高さ位置での風速は、およそ0.27[m/s]となり、前記ドラフト感がほとんどなく、しかも、冬期、建物1の外壁から侵入しようとする冷気を、建物1内の壁面に沿ったカーテン状の暖房気流によって遮断することが可能となる。この結果、図15に示されるように、給気ユニット2から建物1内へ暖房用空気を吹き出した際に、該暖房用空気が吹き出された直後から上昇するようなことが避けられ、足元に冷気溜りが生じにくくなって、本実施例における冬期暖房時の室内温度分布は、図8に示すようになり、足元まで快適な暖房が実現される。尚、図6のデータはH=5[m]のものであるが、H=2.5〜6[m]の範囲であれば、冬期暖房時の気流と風速分布は、上述と同じような傾向を示すものとなる。
【0059】
又、特許文献1に記載の温風暖房機は、重油やガス等の燃料を燃焼させて空気を加熱し、温風の温度を吹き出し直後で40[℃]以上130[℃]以下にするようになっているが、本実施例の加熱は、45〜55[℃]の温水を熱媒とする温水コイルを用いて、暖房時における空気吹出ノズルからの温風の吹き出し温度は40[℃]未満でも暖房気流が成立することから、前記空調機としての要求は、熱媒となる温水を加熱してその温度を55[℃]まで上昇させて温水コイルへ導入すれば良いので、空調機と別体の加熱源としては、一般的なヒートポンプ熱源の利用が可能となる。更に本実施例では、燃料の燃焼を必要としないので、1次エネルギー換算のエネルギー消費を大きく削減できる。
【0060】
一方、図12図15に示される如く、建物1内の床面レベルに給気ユニット2を複数配備すると共に(図13参照)、該給気ユニット2の上方に、前記建物1内の空気を前記空調機3に吸い込むための還気口4を設けるようにした従来の空調システムにおいて、仮に、図9(c)に示されるように、排気口や還気口4を吹出口と同等の高さ(例えば、3[m]前後)に設けると、垂直温度の勾配が急となって、ISO7730の規定を満たさない場合があり、室内は良好な環境とならないことから、前記排気口や還気口4は天井近くの高さ(図9(b)に示されるように、例えば、6[m]程度)に配設せざるを得ない。そして、このように還気口4を天井近くに設置すると、室内の上部熱気を吸い込むこととなり、空調機3の消費エネルギーが大きくなるという不具合を有していたわけである。しかし、本実施例では、夏期冷房時、高さ2.5〜6[m]の位置に設置されたループダクト5下面の空気吹出ノズル7の吹出口7bから冷風を下降流として供給する方式であって、空気吹出ノズル7の吹出口7bから供給された冷風は、2[m]ほど下降すると、積極的に室内に混合拡散しようとするため、ループダクト5直下からの冷房が可能となる。即ち、冷房区域はループダクト5高さに依存するため、機械的に空気を空調機3へ吸い込む還気口4をループダクト5高さまで下げたとしても、図9(a)に示すように、室内温度は、ループダクト5が配設される3[m]の高さまでは略一定となり、良質な垂直温度勾配が得られる。これにより、本実施例では還気口4から上部の熱気層を吸い込むことがないため、空調機3の消費エネルギーを従来と比較して大幅に抑えることが可能となる。
【0061】
前記建物1の天井位置には、天井排気口10及び該天井排気口10から建物1内部の空気を外部へ排気する排気ファン11を備え、夏期冷房時に排気ファン11を所定の間隔(例えば、12分/1時間の運転)で間欠運転するよう構成してあるので、前記設定高さレベルHより上方に形成される温度勾配を有する温度成層の最高温の空気をゆっくり排気することが可能となり、例えば天井部の最高温度から2[℃]低い温度層までの高温空気である熱溜まりを所定の温度に維持し、且つ前記設定高さレベルHより下方の冷房区域の温度成層を乱さないようにすることが可能となる。
【0062】
又、図10は本実施例において、前記還気口4の高さをループダクト5と同じ高さとして、3[m]と6[m]で変化させ、もう一つはループダクト5の高さを3[m]とし還気口4の高さを1[m]とした場合に、床上+1500[mm]の高さでの温度を基準とする各高さでの温度差がどの程度異なるかを示す実験データ線図であって、この図10からも明らかなように、還気口4の高さを3[m]と6[m]で変化させても、床上+1500[mm]の高さでの温度を基準とする各高さでの温度差は略等しくなることが確認され、更に、ループダクト5の高さを3[m]のまま還気口4の高さを1[m]に低下させても、床上+1500[mm]の高さでの温度を基準とする各高さでの温度差は略等しくなることが確認されている。
【0063】
更に又、図11は本実施例において、前記還気口4の高さをループダクト5と同じ高さとして、3[m]と6[m]で変化させ、もう一つはループダクト5の高さを3[m]とし還気口4の高さを1[m]とした場合に、夏期冷房負荷が従来と比べどの程度削減されるかを示す実験データグラフであって、全館空調となる従来タイプのものでは空調機3の処理全熱量がおよそ66[kW]となるのに対し、還気口4の高さを6[m]にすると、空調機3の処理全熱量はおよそ47[kW]となり、従来に比べおよそ29%の削減効果が得られ、還気口4の高さを3[m]にすると、空調機3の処理全熱量はおよそ40[kW]となり、前記還気口4の高さを6[m]にした場合より更に9%削減されて従来に比べおよそ38%の削減効果が得られることが確認され、更に、ループダクト5の高さを3[m]とし還気口4の高さを1[m]とすると冷房区域をより体積縮小できることから、従来に比べておよそ40%の削減効果があることが確認されている。
【0064】
しかも、本実施例では、図12及び図13に示される従来の空調システムのように、給気ユニット2を建物1の床面レベルにその周方向へ所要間隔をあけて複数配備しなくて済み、ループダクト5を床面から2.5〜6[m]の範囲に配設すれば良く、建物1内部の温度や湿度のムラが生じにくくなると共に、前記給気ユニット2によってフロアスペースの一部が利用できなくなってしまう心配もなく、空間の有効活用が可能となり、非常に好ましい。
【0065】
こうして、夏期冷房時には高さ方向に小さい体積の低温空気層を有する温度成層を形成することで充分な省エネルギー化を図り、且つ冬期暖房時には空調機3を夏期と同じ風量で運転しながらコールドドラフトを抑制して足元の冷気溜りの発生を抑えつつ、建物1内部の高さ方向に小さい体積領域を温度や湿度のムラなく均一に暖房空調することができ、更に、フロアスペースを最大限効率的に利用できる
【0066】
尚、本発明の温度成層型空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0067】
1 建物
3 空調機
4 還気口
5 ループダクト
7 空気吹出ノズル
7a 円筒状部材
7b 吹出口
8 固定部材
9 孔
10 天井排気口
11 排気ファン
H 設定高さレベル
P 設定ピッチ
S 差込長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15