特許第6306298号(P6306298)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6306298汚水処理プラントの運転方法、運転制御装置及び汚水処理プラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306298
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】汚水処理プラントの運転方法、運転制御装置及び汚水処理プラント
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20180326BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20180326BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C02F3/12 B
   C02F3/34 101C
   C02F3/34 101A
   C02F3/34 101B
   C02F3/00 D
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-164650(P2013-164650)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-208322(P2014-208322A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-68338(P2013-68338)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境サ−ビス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】橘 峰生
(72)【発明者】
【氏名】植地 俊仁
(72)【発明者】
【氏名】安部 剛
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−115790(JP,A)
【文献】 特開平11−226592(JP,A)
【文献】 特開2013−022548(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/100267(WO,A1)
【文献】 特開2006−255548(JP,A)
【文献】 特開2008−018377(JP,A)
【文献】 特許第3763989(JP,B2)
【文献】 特開平11−057799(JP,A)
【文献】 特開平01−254296(JP,A)
【文献】 米国特許第04810386(US,A)
【文献】 特開平11−057766(JP,A)
【文献】 特開2013−022549(JP,A)
【文献】 特開2013−078732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された汚水を生物処理する生物処理槽と、前記貯留槽から前記生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを含む汚水処理プラントの運転方法であって、
前記ポンプ装置及び前記曝気装置を停止する第一運転状態と、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を稼動する第二運転状態とを、一日のうちで切り替えるように運転し、
流入汚水のBOD/SS負荷が所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように第二運転時間を設定する汚水処理プラントの運転方法。
【請求項2】
搬入された汚水を前脱水する前脱水装置と、前記前脱水装置で前脱水された汚水を貯留する貯留槽と、貯留槽に貯留された汚水を生物処理する生物処理槽と、前記貯留槽から前記生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを含む汚水処理プラントの運転方法であって、
前記前脱水装置を稼動するとともに前記ポンプ装置及び前記曝気装置を停止する第一運転状態と、前記前脱水装置を停止するとともに前記ポンプ装置及び前記曝気装置を稼動する第二運転状態とを、一日のうちで切り替えるように運転し、
流入汚水のBOD/SS負荷が所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように第二運転時間を設定する汚水処理プラントの運転方法。
【請求項3】
一日当たりの目標汚水処理量及び当該汚水のBOD、及びMLSSからBOD/SS負荷を算出し、算出したBOD/SS負荷が前記所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理するように前記第二運転時間を設定し、設定した第二運転時間に基づいて、前記第一運転状態と第二運転状態とを切り替えて運転する請求項1または2記載の汚水処理プラントの運転方法。
【請求項4】
前記生物処理槽または前記生物処理槽の前段で汚水に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種を供給する請求項1から3の何れかに記載の汚水処理プラントの運転方法。
【請求項5】
前記生物処理槽または前記生物処理槽の前段で汚水に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種を供給し、
少なくとも前記汚水処理プラントの立上げ時に、前記第一運転状態と第二運転状態とを一日のうちで切り替えるように運転する請求項1から3の何れかに記載の汚水処理プラントの運転方法。
【請求項6】
前記生物処理槽に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種が固形化されたペレットを供給し、
少なくとも前記第一運転状態で前記ペレットに曝気する請求項1から5の何れかに記載の汚水処理プラントの運転方法。
【請求項7】
前記第二運転状態から前記第一運転状態への移行時に、前記ポンプ装置の停止時期よりも前記曝気装置の停止時期を遅延し、
前記第一運転状態から前記第二運転状態への移行時に、前記曝気装置の稼動時期より前記ポンプ装置の稼動時期を遅延する請求項1から6の何れかに記載の汚水処理プラントの運転方法。
【請求項8】
一日のうち相対的に電力需要の多い時間帯に第一運転状態に移行し、一日のうち相対的に電力需要の少ない時間帯に第二運転状態に移行する請求項1から7の何れかに記載の汚水処理プラントの運転方法。
【請求項9】
前記汚水処理プラントで処理される汚水がし尿及び/または浄化槽汚泥である請求項1から8の何れかに記載の汚水処理プラントの運転方法。
【請求項10】
汚水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された汚水を生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを制御する汚水処理プラントの運転制御装置であって、
前記ポンプ装置及び前記曝気装置を停止制御する第一運転状態と、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を稼動制御する第二運転状態とを切り替えるように運転し、
流入汚水のBOD/SS負荷が所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように第二運転時間を設定する汚水処理プラントの運転制御装置。
【請求項11】
請求項10記載の汚水処理プラントの運転制御装置であって、
一日当たりの目標汚水処理量及び当該汚水のBODを入力する入力部と、
前記入力部に入力された汚水処理量、BOD、及び予め設定されたMLSSからBOD/SS負荷を算出するBOD/SS負荷算出部と、
前記BOD/SS負荷算出部で算出されたBOD/SS負荷が予め設定された所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように前記第二運転時間を設定し、前記第一運転時間及び前記第二運転時間をスケジューリングする運転計画生成部と、
前記運転計画生成部で生成された運転計画に基づいて、前記第一運転状態と第二運転状態とを切り替えて運転する運転制御部と、
を備えている汚水処理プラントの運転制御装置。
【請求項12】
汚水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された汚水を生物処理する生物処理槽と、前記貯留槽から前記生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを含む汚水処理プラントであって、
前記ポンプ装置及び前記曝気装置を停止制御する第一運転状態と、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を稼動制御する第二運転状態とを切り替えるように運転し、流入汚水のBOD/SS負荷が所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように第二運転時間を設定する運転制御装置と、
前記生物処理槽または前記生物処理槽の前段で汚水に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種を供給する土壌微生物活性化剤添加部を備えている汚水処理プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された汚水を生物処理する生物処理槽と、前記貯留槽から前記生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを含む汚水処理プラントの運転方法、及び運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、し尿や浄化槽汚泥を処理する汚水処理プラントが建設される際には、想定される一日あたりの汚水の搬入量から一日あたりに必要となる汚水処理量が計画処理量として定められ、それと、し尿や浄化槽汚泥の混入比から求めた流入水質に基づいて汚水貯留槽や生物処理槽等の容量、生物処理槽への曝気容量、汚水の送水容量等が設計され、各設備から汚水を送水するポンプ装置や生物処理槽へ曝気する曝気装置の仕様等が決定される。そして、これらの設計値によって汚水処理プラントの一日当たりの標準処理量である定格処理量が定まる。
【0003】
搬入された汚水は、し渣の除去等の前処理が行なわれた後に、一旦貯留槽に貯留され、計画処理量に従って貯留槽から生物処理槽に定量的に送水される。そして、生物処理された被処理水は、活性炭ろ過等の高度処理が行なわれた後に河川等に放流される。通常、汚水処理プラントでは、定格処理量の汚水を処理するために、曝気装置が24時間連続的に定格運転状態で稼動している。そして、通常、土日休業する場合、貯留槽の容量は一日の計画処理量の2〜3倍程度の容量に設計され、ポンプ装置によって定量的に計画処理量の汚水を生物処理槽へ送水するように設計されている。
【0004】
特許文献1には、24時間連続的に稼動しながらも、安価な深夜電力を効率的に用いることが可能な汚水処理プラントの運転方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3763989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、下水道の普及や浄化槽の普及によってし尿等の搬入量が低下傾向にあり、また浄化槽汚泥の混入比が増加することにより、全体として汚水処理プラントへの汚水の負荷量は、減少する傾向にある。
【0007】
汚水処理プラントでは、一日あたりの汚水の負荷量が定格処理量に満たないこのような状況下でも、生物処理の途中で運転を停止すると、生物処理槽での処理環境条件が大きく変動し、汚水の浄化処理の程度にばらつきが発生する虞があったため、曝気装置による曝気量を定格より低下させ、ポンプ装置の送水量を定格処理量の汚水を送水する場合よりも少ない送水量で24時間連続的に稼動していた。
【0008】
具体的に、単位MLSS当たり、一日に流入するBOD量であるBOD/SS負荷が所定の計画BOD/SS負荷に満たないような状況下でも、曝気装置による曝気量を定格より低下させ、ポンプ装置の送水量を定格よりも少ない送水量で24時間連続的に稼動していた。
【0009】
そのため、動力効率が悪く電力消費量が嵩むばかりか、商用電源に対する需要が最大となる時間帯も最小となる時間帯もある程度の電力が継続的に消費されていた。特に、汚水が搬入される日中の所定の時間帯には前処理装置も連続的に稼動するため、消費電力が一層増加しており、特に商用電源に対する需要が最大となる時間帯において、消費電力を低減可能な汚水処理プラントの運転方法が望まれていた。
【0010】
ところで、活性汚泥法を採用する汚水処理装置において、処理槽中に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石等のうちの一種または複数種を投与することで、汚泥の微生物叢を、土壌微生物を優勢とするものへ誘導し、汚水処理能力を向上させる、土壌微生物活性化法と呼ばれる技術が存在している。
【0011】
しかし、計画値よりもBOD/SS負荷が低い場合には、汚泥の誘導に要する期間が長くなり、もともと処理能力に余裕がある装置では誘導後も効果が顕在化しにくいことから、低いBOD/SS負荷で処理能力に余裕を持って運転している近年の汚水処理プラントでは土壌微生物活性化法を採用しにくいという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、BOD/SS負荷が計画値より低い汚水処理プラントであっても、エネルギー効率のいい状態で生物処理でき、さらには短期間に活性汚泥の微生物叢が土壌微生物を優勢とするものへと誘導可能な汚水処理プラントの運転方法、運転制御装置及び汚水処理プラントを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明による汚水処理プラントの運転方法の第一特徴構成は、汚水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された汚水を生物処理する生物処理槽と、前記貯留槽から前記生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを含む汚水処理プラントの運転方法であって、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を停止する第一運転状態と、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を稼動する第二運転状態とを、一日のうちで切り替えるように運転し、流入汚水のBOD/SS負荷が所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように第二運転時間を設定する点にある。
【0014】
流入汚水のBOD/SS負荷が予め想定されている負荷よりも低い場合に、比較的消費電力が大きなポンプ装置及び曝気装置を停止する第一運転状態と、そのようなポンプ装置及び曝気装置をほぼ定格で稼動させる第二運転状態とを、一日のうちで切り替え、第二運転状態でBOD/SS負荷を高めて一日分の汚水を処理することによって、ポンプ装置及び曝気装置を動力効率のいい状態で運転できるようになり、電力消費量を減少させることができる。
【0015】
本発明による汚水処理プラントの運転方法の第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、搬入された汚水を前脱水する前脱水装置と、前記前脱水装置で前脱水された汚水を貯留する貯留槽と、貯留槽に貯留された汚水を生物処理する生物処理槽と、前記貯留槽から前記生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを含む汚水処理プラントの運転方法であって、前記前脱水装置を稼動するとともに前記ポンプ装置及び前記曝気装置を停止する第一運転状態と、前記前脱水装置を停止するとともに前記ポンプ装置及び前記曝気装置を稼動する第二運転状態とを、一日のうちで切り替えるように運転し、流入汚水のBOD/SS負荷が所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように第二運転時間を設定する点にある。
【0016】
汚水処理プラントに搬入された汚水を生物処理するに先立って、汚水に含まれる汚濁物質を固形物として除去するために、凝集剤が添加された汚水を攪拌して脱水する脱水装置等を含む前脱水装置が設けられる処理方式(浄化槽汚泥対応型脱窒素処理方式)がある。前脱水装置で固形分が除去されると汚水のBODがさらに低くなる。このような前脱水装置は専ら汚水の搬入時に稼動し、搬入が無いときは稼動する必要がない。そこで、ポンプ装置及び曝気装置を停止する第一運転状態のときに前処理装置を稼動し、ポンプ装置及び曝気装置を稼動する第二運転状態でBOD/SS負荷を高めて効率的に処理するときに前処理装置を停止するように運転を切り替えることにより、汚水処理プラントでの一日における消費電力の平準化を図ることができる。
【0017】
本発明による汚水処理プラントの運転方法の第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、一日当たりの目標汚水処理量及び当該汚水のBOD、及びMLSSからBOD/SS負荷を算出し、算出したBOD/SS負荷が前記所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理するように前記第二運転時間を設定し、設定した第二運転時間に基づいて、前記第一運転状態と第二運転状態とを切り替えて運転する点にある。
【0018】
第二運転時間が短ければ、一日当たりの目標汚水処理量を処理しきれず、逆に第二運転時間が長ければ、プラントのエネルギー効率が悪くなるが、上述の構成によれば、一日当たりの目標汚水処理量を処理するための、過不足ない第二運転時間を算出し、プラントを運転できるようになる。
【0019】
本発明による汚水処理プラントの運転方法の第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記生物処理槽または前記生物処理槽の前段で汚水に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種を供給する点にある。
【0020】
上述の構成によれば、生物処理槽内の活性汚泥へ、腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種(以下、これらを「土壌微生物活性化剤」と記す。)を供給することで、活性汚泥の微生物叢が土壌微生物を優勢とするものへと誘導され、土壌微生物活性化法による汚水処理が可能になり、その状態を安定的に維持できる。
【0021】
尚、供給する土壌微生物活性化剤の形態は、例えば、汚泥の微生物叢を誘導する誘導立ち上げ期には、溶解しやすく摂取されやすい粉末状の形態が好ましく、誘導した汚泥を維持する誘導安定期には、固形化した形態を用いることが好ましい。
【0022】
本発明による汚水処理プラントの運転方法の第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記生物処理槽または前記生物処理槽の前段で汚水に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種を供給し、少なくとも前記汚水処理プラントの立上げ時に、前記第一運転状態と第二運転状態とを一日のうちで切り替えるように運転する点にある。
【0023】
誘導立ち上げ期において、BOD/SS負荷が低いと誘導に要する期間が長くなるが、上述の構成によれば、一日分の汚水が一日より短い第二運転状態の時間だけで処理されるため、低負荷で24時間運転する場合に比べて、第二運転状態でのBOD/SS負荷が高くなり、誘導立ち上げ期を短期間で完了することができる。
【0024】
本発明による汚水処理プラントの運転方法の第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記生物処理槽に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種が固形化されたペレットを供給し、少なくとも前記第一運転状態で前記ペレットに曝気する点にある。
【0025】
上述の構成によれば、一度土壌微生物優勢が達成された後の誘導安定期において、生物処理槽に設置されたリアクターから土壌微生物活性化剤を継続的に供給することができる。
【0026】
リアクターとは固形化した土壌微生物活性化剤のペレットを充填する容器であり、曝気によってリアクター内に上向流を起こさせることで土壌微生物活性化剤を溶出させ、処理槽内の活性汚泥へ供給する。処理槽の曝気装置が停止する第一運転状態においても、土壌微生物活性化剤は供給し続ける必要があるため、リアクターには別個の曝気装置を備え付け、少なくとも第一運転状態において稼動させることで、リアクター内の上向流を維持する。
【0027】
本発明による汚水処理プラントの運転方法の第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記第二運転状態から前記第一運転状態への移行時に、前記ポンプ装置の停止時期よりも前記曝気装置の停止時期を遅延し、前記第一運転状態から前記第二運転状態への移行時に、前記曝気装置の稼動時期より前記ポンプ装置の稼動時期を遅延する点にある。
【0028】
第二運転状態から第一運転状態への移行時に、ポンプ装置と曝気装置を直ちに停止すると、その直前に生物処理槽に流入した汚水が十分に生物処理される前に槽内が嫌気状態に移行するため、好気性微生物によるアンモニアの硝化が阻害され、次に第二運転状態に移行したときに未硝化のアンモニアがそのまま生物処理水として流出される虞があるが、ポンプ装置の停止時期よりも曝気装置の停止時期を遅延させることによって、しばらくの間生物処理槽を好気状態に維持してアンモニアの硝化を促進することができ、これによって第二運転状態に移行したときに未硝化のアンモニアがそのまま流出されるといった不都合が回避できる。
【0029】
また、第一運転状態である程度時間が経過して嫌気状態に移行した生物処理槽では脱窒処理が進み汚水中に窒素ガスが溶解した状態になっており、ポンプ装置と曝気装置を直ちに稼動すると、窒素ガスが十分に脱気されること無く後段に送水され、沈殿等の固液分離を悪化させるという問題が発生するが、曝気装置の稼動時期よりポンプ装置の稼動時期を遅延させることによって、汚水中に溶解した窒素ガスが速やかに脱気されるようになる。さらに、第一運転状態から第二運転状態への移行時に、ポンプ装置と曝気装置を直ちに稼動すると、上述と同様に、第一運転状態で嫌気状態になった生物処理槽に流入した汚水が十分に硝化されることなく、未硝化のアンモニアがそのまま生物処理水として流出される虞があるが、曝気装置の稼動時期よりポンプ装置の稼動時期を遅延させることによって、嫌気状態の生物処理槽を好気状態に移行させて、アンモニアの硝化を促進する環境に移行することができ、これによって第二運転状態に移行したときに未硝化のアンモニアがそのまま流出されることが回避でき、速やかに定常運転に移行することができる。
【0030】
本発明による汚水処理プラントの運転方法の第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、一日のうち相対的に電力需要の多い時間帯に第一運転状態に移行し、一日のうち相対的に電力需要の少ない時間帯に第二運転状態に移行する点にある。
【0031】
例えば、一日のうち相対的に電力需要の多い時間帯に第一運転状態に移行し、一日のうち相対的に電力需要の少ない時間帯に第二運転状態に移行すると、電力需要の多い時間帯での電力の使用を低減することが可能になり、電力負荷の平準化に資することができる。そして、例えば一日のうち相対的に電力需要の少ない時間帯が深夜であり、深夜の電力料金が昼間に比べて安価に設定されている場合には、汚水処理プラントの運転コストも大幅に低減するようになる。
【0032】
本発明による汚水処理プラントの運転方法の第九の特徴構成は、同請求項9に記載した通り、上述の第一から第八の何れかの特徴構成に加えて、前記汚水処理プラントで処理される汚水がし尿及び/または浄化槽汚泥である点にある。
【0033】
本発明は汚水処理に広く利用可能であるが、特に、有機汚泥負荷の高い、し尿や浄化槽汚泥の処理に好適である。
【0034】
本発明による汚水処理プラントの運転制御装置の第一の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、汚水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された汚水を生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを制御する汚水処理プラントの運転制御装置であって、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を停止制御する第一運転状態と、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を稼動制御する第二運転状態とを切り替えるように運転し、流入汚水のBOD/SS負荷が所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように第二運転時間を設定する点にある。
【0035】
本発明による汚水処理プラントの運転制御装置の第二の特徴構成は、同請求項11に記載した通り、請求項10記載の汚水処理プラントの運転制御装置であって、一日当たりの目標汚水処理量及び当該汚水のBODを入力する入力部と、前記入力部に入力された汚水処理量、BOD、及び予め設定されたMLSSからBOD/SS負荷を算出するBOD/SS負荷算出部と、前記BOD/SS負荷算出部で算出されたBOD/SS負荷が予め設定された所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように前記第二運転時間を設定し、前記第一運転時間及び前記第二運転時間をスケジューリングする運転計画生成部と、前記運転計画生成部で生成された運転計画に基づいて、前記第一運転状態と第二運転状態とを切り替えて運転する運転制御部とを備えている点にある。
【0036】
本発明による汚水処理プラントの特徴構成は、同請求項12に記載した通り、汚水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された汚水を生物処理する生物処理槽と、前記貯留槽から前記生物処理槽に汚水を送水するポンプ装置と、前記生物処理槽に曝気する曝気装置とを含む汚水処理プラントであって、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を停止制御する第一運転状態と、前記ポンプ装置及び前記曝気装置を稼動制御する第二運転状態とを切り替えるように運転し、流入汚水のBOD/SS負荷が所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように第二運転時間を設定する運転制御装置と、前記生物処理槽または前記生物処理槽の前段で汚水に腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石のうちの一種または複数種を供給する土壌微生物活性化剤添加部を備えている点にある。
【発明の効果】
【0037】
以上説明した通り、本発明によれば、BOD/SS負荷が計画値より低い汚水処理プラントであっても、エネルギー効率のいい状態で生物処理でき、さらには短期間に活性汚泥の微生物叢が土壌微生物を優勢とするものへと誘導可能な汚水処理プラントの運転方法、運転制御装置及び汚水処理プラントを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明による制御装置を含む汚水処理プラントの説明図
図2】運転制御装置により実行される制御手順のフローチャート
図3】本発明が適用可能な汚水処理プラントの別実施形態の説明図
図4】本発明が適用可能な汚水処理プラントの別実施形態の説明図
図5】本発明が適用可能な汚水処理プラントの別実施形態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明による汚水処理プラントの運転方法、運転制御装置及び汚水処理プラントを説明する。
【0040】
ここでは、浄化槽汚泥対応型脱窒素処理方式を採用した汚水処理プラント1を例に説明する。図1に示すように、汚水処理プラント1は、搬入されたし尿や浄化槽汚泥を受け入れて前処理を行なう前処理設備2と、前処理された汚水を前脱水する前脱水設備2´と、前脱水した汚水を生物処理によって浄化する生物処理設備3と、生物処理された後の被処理水を放流に適した状態に後処理する後処理設備4と、生物処理等で発生した余剰汚泥等を処理する汚泥処理設備5とを備えている。
【0041】
前処理設備2は、受入槽21と前貯留槽23とを備え、受入槽21と前貯留槽23の間に前処理装置である除さ装置22が設置される。前貯留槽23と貯留槽25の間に前脱水装置24を含む前脱水設備2´が設置されている。
【0042】
し尿収集車両等によって搬入されたし尿や浄化槽汚泥等の汚水は、先ず受入槽21に投入され、カッター付きポンプP1によって固形物が粉砕されながら除さ装置22に送られ、後段の機械破損の原因となり、また生物処理に適さないし渣等の固形異物が除さ装置22によって除去された後に前貯留槽23に貯留される。
【0043】
さらに、前貯留槽23の汚水はポンプP2によって前脱水装置24に送られ、有機汚濁物が分離された後に貯留槽25に貯留される。貯留槽25に貯留された汚水は、ポンプP3によって生物処理設備3に送水される。
【0044】
ポンプP2から前脱水装置24の経路に無機凝集剤が投入され、有機汚濁物が凝集されて前脱水装置24で除去されるのである。前脱水装置24では、汚水中のBODやSSとともにリンや窒素がある程度脱水汚泥とともに汚水から分離され、後段の生物処理設備で処理すべき負荷が軽減される。そのため、生物処理設備3内の汚水を希釈したり、生物処理設備3の後段でリンやCODを除去するための高度処理を簡略化することができる。
【0045】
搬入される汚水量が変動する場合でも安定して連続処理可能なように、受入槽21は汚水処理プラント1の計画時の一日あたりの定格処理量の半日から一日分を貯留可能な容量に設定され、貯留槽25は定格処理量の数日分を貯留可能な容量に設定されている。
【0046】
生物処理設備3には、脱窒素槽31と硝化槽32と二次脱窒素槽33と再曝気槽34が順に設置され、各槽の汚水に曝気する曝気装置35aが設置されている。曝気装置35aは、ブロワファンBと各槽に設置された散気ノズルと配管等を備えている。
【0047】
また、硝化槽32には、土壌微生物活性化剤を供給するための土壌微生物活性化剤添加部としてペレット化された土壌微生物活性化剤が充填され、底部に曝気装置35bが設けられた容器であるリアクター7が設置されている。既に説明したが、土壌微生物活性化剤とは、腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石等をいい、これらのうちの一種または複数種を用いることができる。リアクター7内の土壌微生物活性化剤が水中で曝気装置35bにより攪拌され、徐々に溶解して土壌性微生物が誘導される。尚、土壌微生物活性化剤添加部は硝化槽32に設ける態様に制限されるものではなく、再曝気槽34にも備えることができる。
【0048】
つまり、活性汚泥に土壌微生物活性化剤を供給することにより、活性汚泥を構成する微生物叢が変化する。その結果、汚泥の濃縮性及び沈殿性が改善して、悪臭を防除するとともに、汚泥発生量を低減することができるようになる。腐植とは、動植物及び微生物の遺体が土壌中で生物群集により分解を受けて生成したポリフェノール類、キノン類、アミノ化合物が、酵素、微生物の酸化酵素、無機イオン、粘土鉱物等の触媒作用により重縮合し、土壌固有の暗色無定形コロイド状高分子化合物に変化していた物質、及び分解過程にある生物遺体成分であり、土壌性微生物を優先維持できるとともに、汚泥の凝集作用や悪臭成分の除去作用等を有する。つまり、土壌微生物活性化剤によって土壌菌群を誘導することができる。
【0049】
貯留槽25からポンプP3によって送水される汚水は、先ず脱窒素槽31に導かれ、その後硝化槽32に移送され、脱窒素槽31と硝化槽32を循環することにより硝化・脱窒素処理される。比較的嫌気状態に維持される脱窒素槽31では、脱窒菌によって汚水から窒素が分離され、分離された窒素が曝気装置35aから槽内に供給される僅かな量の気泡によって攪拌されながら脱気される。
【0050】
曝気装置35aから槽内に供給される所定量の気泡によって好気状態に維持される硝化槽32では、硝化菌によってアンモニアが硝化、つまり硝酸イオン及び亜硝酸イオンに酸化される。硝化槽32で硝化された汚水の一部がポンプP4で脱窒素槽31に循環供給されて、脱窒素処理、つまり硝酸イオン及び亜硝酸イオンが窒素に還元される。
【0051】
また、硝化槽32では、汚泥中の微生物叢を土壌微生物優勢へと誘導するため、土壌微生物活性化剤の供給が行われる。
【0052】
一度誘導が達成された後の誘導安定期には、硝化槽32内に設置されたリアクター7に充填された固形の土壌微生物活性化剤が、下部からの曝気によって発生する上向流によって溶出することで供給される。曝気装置35aが停止する第一運転状態時でも、リアクター7に備え付けられた曝気装置35bを稼動させることで、土壌微生物活性化剤の供給が維持される。
【0053】
リアクター用曝気装置35bは、第二運転状態移行時に停止する必要はないが、曝気装置35aによってリアクター7に充填された固形の土壌微生物活性化剤が溶出するのであれば、曝気装置35bを停止させてもよい。
【0054】
硝化槽32で生物処理された汚水は、比較的嫌気状態に維持される二次脱窒素槽33に移送されて脱窒素処理され、その後再曝気槽34に移送される。再曝気槽34には、膜分離装置36が浸漬設置されており、槽内の汚水は膜分離装置36に接続されたポンプP5で吸引され、膜分離装置36によって固液分離された被処理水が後処理設備4に送水される。膜分離装置36の下部には曝気装置35aの散気ノズルが配置され、気泡によって分離膜表面が洗浄される。
【0055】
尚、膜分離装置36に用いられる分離膜として、限外濾過膜、精密濾過膜等が採用される。膜の形態は、中空糸膜、平膜、チューブラー膜などが採用される。
【0056】
再曝気槽34の汚泥の一部は、ポンプP6によって返送汚泥として脱窒素槽31に返送され、ポンプP7によって余剰汚泥として前貯留槽23に送られる。
【0057】
前貯留槽23に送られた余剰汚泥は前脱水装置24で汚水から分離され、分離された汚泥は汚泥処理設備5で処理される。汚泥処理設備5には、汚泥焼却炉等の減量処理と、堆肥化等の資源化処理が含まれる。
【0058】
後処理設備4には、活性炭原水槽41と処理水槽43と滅菌槽44が設置され、活性炭原水槽41と処理水槽43の間に活性炭吸着設備42が配置されている。膜分離装置36を介して送水され、活性炭原水槽41に貯留されたた被処理水は、ポンプP8を介して活性炭吸着設備42に送水され、CODや着色成分が吸着された後に処理水槽43に貯留され、さらに滅菌槽44で次亜塩素酸等によって滅菌された後に河川等に放流される。
【0059】
上述した複数のポンプP1〜P8及びブロワファンBを構成する電動機は、何れも三相誘導電動機が用いられている。三相誘導電動機は、一定電圧の下では定格負荷時と比較して軽負荷時の効率が悪化する特性があり、負荷変動に対応する必要があれば、端子電圧の制御等複雑な制御系が必要になる。本実施形態では、負荷変動を抑制して定格負荷運転を可能にすることで、効率の低下を抑制することができる。
【0060】
上述の汚水処理プラント1は、コンピュータが組み込まれた運転制御装置6によって運転管理される。以下、運転制御装置6によって制御される汚水処理プラント1の運転方法について詳述する。
【0061】
図1に示すように、運転制御装置6は、操作装置61と演算装置62と信号入出力装置63等を備えている。操作装置61は運転条件等を入力する複数の入力キーでなる入力部と、入力条件や制御状態等を表示する液晶等でなる表示部を備えている。
【0062】
信号入出力装置63は、演算装置62と汚水処理プラント1との間のインターフェースであり、汚水処理プラント1を運転する各ポンプ装置等の各種のアクチュエータに制御信号を出力する出力回路や、各種のアクチュエータからのモニタ信号及び汚水処理プラント1に設置された各種のセンサからの検出信号を入力する入力回路が設けられている。
【0063】
演算装置62にはコンピュータが組み込まれ、予め設定されたプログラムに基づいて、操作装置61を介して入力された運転条件や信号入出力装置63を介して入力されたモニタ信号及び検出信号に基づいて所定の制御演算を実行し、その結果、信号入出力装置63に各種のアクチュエータを作動または停止する制御信号を出力する。
【0064】
運転制御装置6は、一日のうち相対的に電力需要の多い時間帯に、ポンプP1,P2、前処理装置の一例である除さ装置22、前脱水装置24、さらにリアクター用曝気装置35bを稼動制御するとともに、生物処理槽で生物処理をする際に稼動させる必要のあるポンプ装置、具体的にはポンプP3〜P8及び曝気装置35aを停止制御する第一運転状態と、一日のうち相対的に電力需要の少ない時間帯に、ポンプP1,P2及び除さ装置22や前脱水装置24を停止制御し、ポンプP3〜P8、曝気装置35a及びリアクター用曝気装置35bを定格運転状態で稼動制御する第二運転状態とを切り替えるように運転する。第二運転状態では少なくとも曝気装置35aは定格で稼動されることが好ましく、ポンプP3は定格運転状態で連続または間歇的に稼動され、汚水が定量的に生物処理槽に送水されることが好ましい。
【0065】
ここで、ポンプを定格で稼動するとは、予め定められた単位時間当たりの流量、揚程で送水可能な仕様点での運転に必要な消費電力の±20%程度の範囲内、好ましくは±15%程度の範囲内、さらに好ましくは±10%程度の範囲内の消費電力で稼動することをいい、このようにポンプを定格で稼動する状態を定格運転状態という。
【0066】
そして、運転制御装置6は、第二運転状態から第一運転状態への移行時に、ポンプP3〜P8の停止時期よりも曝気装置35aの停止時期を遅延制御し、第一運転状態から第二運転状態への移行時に、曝気装置35aの稼動時期よりポンプP3〜P8の稼動時期を遅延制御する。
【0067】
このように制御すれば、汚水処理プラント1が構築された地域で、電力需要の多い時間帯での電力の使用を低減することが可能になるとともに、一日を通してポンプP3〜P8及び曝気装置35aを連続稼動させなくとも、ポンプP3〜P8及び曝気装置35aの稼動時間帯にポンプP3〜P8及び曝気装置35aを例えば定格処理量に対応する稼動条件で稼動すれば、一日に搬入される汚水のBODが低い場合でも、この限られた時間帯でBOD/SS負荷を高めた状態で処理できるようになる。
【0068】
また、第二運転状態から第一運転状態への移行時に、ポンプP3〜P8と曝気装置35aを直ちに停止すると、その直前に生物処理槽31〜34、特に硝化槽32に流入した汚水が十分に生物処理される前に槽内が嫌気状態に移行するため、好気性微生物によるアンモニアの分解処理が阻害され、次に第二運転状態に移行したときに未分解のアンモニアがそのまま河川に放水されるような虞があるが、ポンプP3〜P8の停止時期よりも曝気装置35aの停止時期を遅延させることによって、しばらくの間生物処理槽31〜34を好気状態に維持することによりアンモニアの硝化を促進することができ、これによって次に第二運転状態に移行したときに未分解のアンモニアがそのまま放水されるといった不都合が回避できる。
【0069】
また、第一運転状態である程度時間が経過して嫌気状態に移行した生物処理槽31〜34では脱窒処理が進み汚水中に窒素ガスが溶解した状態になっており、ポンプP3〜P8と曝気装置35aを直ちに稼動すると、窒素ガスが十分に脱気されること無く後段に送水されるという問題が発生するが、曝気装置35aの稼動時期よりポンプP3〜P8の稼動時期を遅延させることによって、汚水中に溶解した窒素ガスが速やかに脱気されるようになる。特に脱窒素槽31での窒素の脱気処理が捗るようになる。
【0070】
さらに、第一運転状態から第二運転状態への移行時に、ポンプP3〜P8と曝気装置35aを直ちに稼動すると、上述と同様に、第一運転状態で嫌気状態になった硝化槽32に流入した汚水が十分に硝化されることなく、未分解のアンモニアがそのまま放水される虞があるが、曝気装置35aの稼動時期よりポンプP3〜P8の稼動時期を遅延させることによって、嫌気状態の硝化槽32を好気状態に移行させて、アンモニアの硝化を促進する環境に移行することができ、これによって第二運転状態に移行したときに未分解のアンモニアがそのまま流出されることが回避でき、速やかに定常運転に移行することができる。
【0071】
尚、第一運転状態への移行時や第二運転状態への移行時には、生物処理槽内の溶存酸素濃度が定常状態の1.5倍から5倍、好ましくは2倍から4倍、さらに好ましくは、2.5倍から3.5倍、例えば定常状態で1〜2mg/L程度の溶存酸素濃度よりも高い3〜4mg/L程度の溶存酸素濃度に高めることが好ましい。
【0072】
そのために、槽内、好ましくは硝化槽32に溶存酸素濃度を計測するセンサが設けられ、前記センサが計測した溶存酸素濃度の値が信号入出力装置63を介して演算装置62に入力されるように構成されている。演算装置は、入力された信号値に基づいて目標の溶存酸素濃度になった時点で、第一運転状態への移行時には曝気装置35aを停止し、第二運転状態への移行時にはポンプP3〜P8を稼動させるように制御する。
【0073】
一日のうち相対的に電力需要の少ない時間帯が深夜であり、深夜の電力料金が昼間に比べて安価に設定されている場合には、深夜時間帯に第二運転状態となるように制御すれば、汚水処理プラント1の運転コスト、特に電力料金が大幅に低減するようになる。
【0074】
例えば、汚水が搬入される午前8時から正午までの時間帯を含む日中に、主に第一運転状態となって前処理装置と前脱水装置が稼動し、その後、夜間に第二運転状態となって生物処理設備が稼動するように制御するのが好ましい。しかし、これは一例であり、少なくとも一日のうち相対的に電力需要の多い時間帯に第一運転状態となり、一日のうち相対的に電力需要の少ない時間帯に第二運転状態になるように切り替えるものであればよい。
【0075】
図2には、上述した運転制御装置6により実行する制御手順が示されている。初期に汚水処理プラント1及び運転制御装置6に電源を投入し、オペレータが操作装置61の入力部を介して一日当たりの目標汚水処理量及び当該汚水のBODを入力すると(S1)、先ず当該汚水処理量とBOD及び予め設定されたMLSSからBOD/SS負荷が算出される(S2)。
【0076】
次にステップS2で算出されたBOD/SS負荷が予め設定した所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、計画値である所定のBOD/SS負荷で生物処理されるように一日当たり稼動すべき第二運転状態に要する第二運転時間を設定し、第一運転状態に要する第一運転時間及び第二運転時間をスケジューリングする(S3)。
【0077】
その後、生成した運転計画に基づいて、第一運転状態と第二運転状態とを切り替えるように運転を開始する(S4)。ここで、ステップS2を実行する運転制御装置6によりBOD/SS負荷算出部が構成され、ステップS3を実行する運転制御装置6により運転計画生成部が構成されている。
【0078】
例えば、目標処理量が50m/日で、BODが50Kg/mであると入力すると、一日当たりのBODは2500Kg/日であると算出される。脱窒素槽31と硝化槽32でのMLSSが10000mg/l、つまり10Kg/mであり、その合計容量が500mである場合、BOD/SS負荷が以下の数式で算出される。
BOD/SS負荷=2500Kg/日÷(10Kg/m×500m
=0.5Kg/Kg・日
【0079】
BOD/SS負荷の初期の計画値が0.5であるなら24時間連続運転することにより、計画値のBOD/SS負荷の通り処理できる。
【0080】
しかし、目標処理量が50m/日で、BODが25Kg/mであると入力すると、BOD/SS負荷は0.25Kg/Kg・日となるので、計画値のBOD/SS負荷の1/2の負荷になる。従来ならこのような場合にポンプの送水量を半分に低下させて24時間連続運転していたのであるが、本発明では運転計画生成部によって、連続運転時間を1日のうちの12時間に設定する。
【0081】
つまり、第1運転状態を12時間、第2運転状態を12時間に設定する。第1運転状態の開始時刻は、し尿や浄化槽汚泥が搬入される午前中の所定時刻、例えば午前7時に設定し、第2運転状態の開始時刻は午後7時に設定する。
【0082】
第1運転状態の開始時刻または第2運転状態の開始時刻の何れかが、操作装置61の入力部を介してオペレータによって入力設定可能に構成してもよい。その場合、運転計画生成部は設定した時刻に対応する運転状態を開始するように運転計画を設定する。
【0083】
また、目標処理量が50m/日で、BODが10Kg/mであると入力されると、BOD/SS負荷は0.1Kg/Kg・日となるので、計画値のBOD/SS負荷の1/5の負荷になる。この場合は、第2運転時間が24/5=4.8時間であると設定され、例えば電力需要の低い深夜時間帯に第2運転状態を開始するように運転計画を設定する。
【0084】
図2の説明に戻り、第一運転状態であるときに(S5,Y)、第二運転状態への移行時刻になると(S6,Y)、曝気装置35aを稼動し(S7)、その後硝化槽32の溶存酸素濃度が所定値以上(例えば、4mg/L以上)になると(S8,Y)、ポンプP3〜P8を稼動し、さらに前処理装置や前脱水装置を停止して第二運転状態への移行を完了する(S9)。
【0085】
ステップS5で、第二運転状態であれば(S5,N)、汚水投入延べ時間の経過を待って(S10,Y)、ポンプP3〜P8を停止し(S11)、その後硝化槽32の溶存酸素濃度が所定値以上(例えば、4mg/L以上)になると(S12,Y)、曝気装置35aを停止し、さらに前処理装置や前脱水装置を稼動して第一運転状態への移行を完了する(S13)。
【0086】
尚、前処理装置や前脱水装置を備えていない汚水処理プラント1、或は前処理装置や前脱水装置を制御対象としない汚水処理プラントでは、ステップS9やステップS13で説明した前処理装置や前脱水装置の停止または稼動の切替処理は不要となる。
【0087】
即ち、演算装置62のうちステップS7からステップS9を実行する部位によって、第二運転状態への移行時刻に第二運転状態に移行するため、まず曝気装置35aを稼動し、硝化槽32の溶存酸素濃度が所定値以上になった後に前記ポンプ装置を稼動する送水遅延制御部が構成され、演算装置62のうちステップS11からステップS13を実行する部位によって、第二運転状態への移行時刻から汚水投入延べ時間の経過後に第一運転状態に移行するため、まずポンプ装置を停止し、硝化槽32の溶存酸素濃度が所定値以上になった後に曝気装置35aを停止する曝気遅延制御部が構成される。
【0088】
尚、硝化槽32の溶存酸素濃度を検出するセンサに代えて第二運転状態への移行時や第一運転状態への移行時に溶存酸素濃度が目標値になる時間を設定可能なタイマーを備えて、タイマーがカウントアップしたときにポンプを稼動、もしくは曝気装置を停止するように送水遅延制御部及び曝気遅延制御部を構成してもよい。
【0089】
一日当たりの目標汚水処理量及び当該汚水のBODは季節等によって変動する値であり、また、時の経過に従って変動する値であるので、例えば、数ヶ月単位から一週間単位で定期的に変更設定すればよく、その値に応じて第二運転状態への移行時刻も適宜設定すればよい。また、深夜時間帯で電力が安価になる場合には、そのような時間帯で第二運転状態に切り替えるように自動設定する機能を備えていてもよい。
【0090】
本発明による運転方法を適用した汚水処理プラントについて、実処理量が定格処理量の70%程度であるとしてシミュレーションすると、日中の9時から20時までを第一運転状態とし、20時から9時までを第二運転状態とすることができた。その結果、ポンプ装置による送水量や曝気装置による曝気量を低下させることにより24時間連続的に稼動する場合に比べて、一日の総消費電力は約13%程度削減することができ、9時から20時までの消費電力は約26%程度削減することができた。
【0091】
また、BOD/SS負荷が高い状態で生物処理する際に、土壌微生物活性化剤添加部から土壌微生物活性化剤を供給することによって、活性汚泥の微生物叢を、土壌微生物を優勢とするものへと効率的に誘導し、その結果、汚水に対する浄化処理能力が向上して水質の向上、臭気の低減を図ることができるようになった。さらに、フロック形成能の向上により汚泥沈降性が向上し、膜分離装置の目詰まりの発生が抑制でき、粘性が低下して発泡が抑制され消泡剤の使用量も低減でき、汚泥そのものの発生量も低減できるようになった。
【0092】
さらには、通常の活性汚泥法と比較して、汚水の浄化処理能力が高く、また臭気の発生が少なくなるので脱臭設備を簡略化でき、汚水のCODや色度を大きく低減できるために、後段に必要とされる高度処理設備を縮小でき、さらには汚泥発生量が少なくなるため、余剰汚泥の処理設備を小型化できる等、様々な設備コストを低減することができるようになる。
【0093】
以上の説明では、オペレータが操作装置61の入力部を介して一日当たりの目標汚水処理量及び当該汚水のBODを入力すると、運転制御装置6によって、BOD/SS負荷が算出され、その後第一運転状態と第二運転状態とが自動切換え運転される例を説明したが、本発明による運転方法は、オペレータがBOD/SS負荷を算出して、その結果に基づいて運転スケジュールを策定し、第一運転状態と第二運転状態とを手動で切り替えるように構成されてもよい。
【0094】
つまり、一日当たりの目標汚水処理量及び当該汚水のBOD、及びMLSSからBOD/SS負荷を算出し、算出したBOD/SS負荷が前記所定のBOD/SS負荷よりも低い場合に、前記所定のBOD/SS負荷で生物処理するように前記第二運転時間を設定し、設定した第二運転時間に基づいて、前記第一運転状態と第二運転状態とを切り替えて運転するものであればよい。
【0095】
次に、本発明による運転方法が適用可能な汚水処理プラントの別実施形態について説明する。
図3には、標準脱窒素処理方式が採用された汚水処理プラント1Aが示されている。尚、ここでは上述した浄化槽汚泥対応型脱窒素処理方式が採用された汚水処理プラント1と基本的な構成は同じであるため、相違する箇所を重点的に説明する。
【0096】
汚水処理プラント1Aの生物処理設備3Aには、脱窒素槽31Aと硝化槽32Aと二次脱窒素槽33Aと再曝気槽34Aと沈殿槽37Aが順に設置されている。
【0097】
上述したような予め有機物汚泥を積極的に除去する前脱水装置24を備えておらず、再曝気槽に備えた膜分離装置36に代えて沈殿槽37Aを備えている。そして、沈殿槽37Aの上澄み液からリンやCODを除去する高度処理設備38Aを備えている。沈殿槽37Aに溜まった汚泥の一部は、ポンプP6aによって返送汚泥として脱窒素槽31に返送され、ポンプP7により余剰汚泥として脱水機39Aへ移送されて脱水され、汚泥処理設備5Aで処理される。
【0098】
高度処理設備38Aは、凝集剤を投入して攪拌する混和槽38aと、さらに高分子ポリマーでなる凝集剤を投入して固形分を凝集させる凝集槽38bと、それらが投入された被処理水を沈殿させる凝集沈殿槽38cを備えている。凝集沈殿槽38cに溜まった汚泥の一部は、ポンプP6bによって凝集汚泥として脱窒素槽31Aに返送される。
【0099】
このような形態の汚水処理プラント1Aであっても、上述した運転方法、及び運転制御装置を適用可能である。
【0100】
図4には、高負荷脱窒素処理方式が採用された汚水処理プラント1Bが示されている。尚、ここでは上述した標準脱窒素処理方式が採用された汚水処理プラント1Aと相違する箇所を重点的に説明する。
【0101】
汚水処理プラント1Bの生物処理設備3Bには、深層反応槽31Bと硝化槽32Bと脱窒素槽33Bと再曝気槽34Bと沈殿槽37Bが順に設置されている。
【0102】
深層反応槽31Bは、10m程度の深さの生物処理槽で、その上部に循環ポンプ槽31aが連設されている。循環ポンプ槽31aからポンプP4Bで引き抜かれた一部の汚水が深層反応槽31Bに循環供給され、その循環経路にエジェクタ機構が組み込まれて循環汚水と共に空気が供給されるように構成されている。
【0103】
エジェクタ機構に連通する空気供給経路にバルブが設置され、バルブの開度を周期的に制御することにより、循環汚水と共に供給される空気量が調整され、深層反応槽31B内で無酸素状態と好気状態とが数時間間隔で切り替え可能に構成されている。例えば、1時間の嫌気処理と2時間の好気処理を繰り返すようにバルブが開閉され、嫌気処理と好気処理が3時間周期で繰り返される。
【0104】
深層反応槽31Bは、深さが5m程度の脱窒素槽31に比べて水深が倍程度深いため、槽底付近では水圧が高く酸素の溶存効率が高くなり、高効率の処理ができる。そのため、流入する汚水の負荷が高くても希釈水を供給する必要は無い。
【0105】
このような形態の汚水処理プラント1Bであっても、上述した運転方法、及び運転制御装置を適用可能である。この場合、深層反応槽31Bが好気処理となっている(ポンプP4B運転中でバルブが開放されている状態)ときにポンプP3等を停止する第一運転状態に移行し、深層反応槽31Bの溶存酸素濃度が所定値以上になるとバルブを閉止してエジェクタ機構を介した給気を停止することが好ましい。尚、このとき、同時にポンプP4Bを停止してもよい。
【0106】
また、深層反応槽31Bが嫌気処理となっているときに第二運転状態に移行する場合には、先ず、バルブを開放してエジェクタ機構を介した給気を再開し、深層反応槽31Bの溶存酸素濃度が所定値以上になった後に、ポンプP3等を運転するように制御することが好ましい。深層反応槽31Bが好気処理となっているときには、深層反応槽31Bの溶存酸素濃度が所定値以上であれば、直ちにポンプP3等を運転すればよい。
【0107】
つまり、深層反応槽31Bが好気処理となっているときに第一運転状態に移行し、または、第二運転状態に移行することが好ましい。
【0108】
図5には、高負荷(膜分離)脱窒素処理方式が採用された汚水処理プラント1Cが示されている。尚、ここでは上述した高負荷脱窒素処理方式が採用された汚水処理プラント1Bと相違する箇所を重点的に説明する。
【0109】
汚水処理プラント1Cの生物処理設備3Cには、深層反応槽31Cと硝化槽32Cと脱窒素槽33Cと再曝気槽34Cが順に設置されている。沈殿槽37Bを備えず、代わりに再曝気槽34Cに膜分離装置36Cが浸漬設置されている。
【0110】
また、高度処理設備38Cには、無機系の凝集剤のみを添加する混和槽38dと膜分離装置が浸漬設置された凝集膜分離槽38eを備えている。
【0111】
このような形態の汚水処理プラント1Cであっても、上述した運転方法、及び運転制御装置を適用可能である。この場合も、深層反応槽31Cが好気処理または嫌気処理の何れの状態にあるかに応じた第一運転状態及び第二運転状態への切替のための制御は、上述した高負荷脱窒素処理方式が採用された汚水処理プラント1Bの深層反応槽31Bに対するものと同様である。
【0112】
上述した実施形態は本発明の一態様であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成や制御態様は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0113】
1,1A,1B,1C:汚水処理プラント
2:前処理設備
2´:前脱水装置
21:受入槽
22:除さ装置
23:前貯留槽
24:前脱水装置
25:貯留槽
3:生物処理設備
31:脱窒素槽
32:硝化槽
33:二次脱窒素槽
34:再曝気槽
35a,35b:曝気装置
4:後処理設備
5:汚泥処理設備
6:運転制御装置
61:操作装置
62:演算装置
63:信号入出力装置
7:リアクター

図1
図2
図3
図4
図5