(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(メタ)アクリレート系樹脂Aは、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートに由来の構成単位を10質量%以上50質量%以下の範囲で含む請求項1に記載のペースト用樹脂組成物。
前記(メタ)アクリレート系樹脂A及び前記(メタ)アクリレート系樹脂Bは、前記(メタ)アクリレート系樹脂Aが集合したポリマー構造部分SAと少なくとも一部が前記ポリマー構造部分SAに結合又は吸着した前記(メタ)アクリレート系樹脂Bとを含み、前記有機溶媒中に分散された分散樹脂として、含有されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のペースト用樹脂組成物。
更に、有機溶媒及び(メタ)アクリレート系樹脂Bの存在下で、(メタ)アクリレート系樹脂Aを合成し、ペースト用樹脂組成物を調製する工程を有する請求項8に記載のペースト組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のペースト用樹脂組成物、並びこれを用いたペースト組成物及びその製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明のペースト用樹脂組成物は、有機溶媒と、有機溶媒の溶解度パラメータ(以下、「SP値」ともいう。)との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下であるSP値を有する(メタ)アクリレート系樹脂Aと、有機溶媒のSP値との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下で、かつ前記有機溶媒と前記(メタ)アクリレート系樹脂AのSP値の差の絶対値より小さい(メタ)アクリレート系樹脂Bとを含有し、前記(メタ)アクリレート系樹脂A及び前記(メタ)アクリレート系樹脂Bの少なくとも一方は、水酸基含有モノマー由来の構成単位を含んでいる。また、本発明のペースト用樹脂組成物は、(メタ)アクリレート樹脂A及び(メタ)アクリレート系樹脂Bにおける水酸基含有モノマー由来の構成単位の比率を、(メタ)アクリレート系樹脂A及び(メタ)アクリレート系樹脂Bの全構成単位の合計量に対して、3質量%以上15質量%以下として構成されている。
このペースト用樹脂組成物は、必要に応じて、更に重合開始剤やその他添加剤等の他の成分を用いて構成することができる。
【0017】
一般には、複数のポリマー成分がある場合のSP値差は大きくしてチキソトロピー性を高めるところ、チキソトロピー性を優先しすぎると、塗工後のレベリング性が不足する。また、無機ペーストには良好な焼成性が要求されるが、焼成性の点から単に(メタ)アクリル系樹脂で構成しようとすると、塗工ノズルでの糸曳きが発生しやすくなる。これらの性状の全てを成り立たせるには、ペーストを構成するポリマー成分の組成バランスを見極めて調節する必要がある。本発明においては、特に、使用する有機溶剤に対して可溶なポリマー成分と不溶なポリマー成分とを、有機溶剤のSP値(溶解度パラメータ)との関係で所定の小さいSP値の範囲で選択し、これらポリマー成分に存在する水酸基の合計量を特定の範囲にすることで、印刷適性に必要なチキソトロピー性を保持しながらも、塗工後の膜にレベリング性が付与され、糸曳きも改善される。また、(メタ)アクリル系の樹脂で構成するので、焼成性にも優れる。
このように、本発明のペースト用樹脂組成物は、蛍光体ペースト、誘電体ペースト、太陽電池の電極ペーストの用途に適している。
【0018】
チキソトロピー性とは、剪断力などの外部応力を加えると結合が破壊されて粘性が低下し、流動性が発現し、静止すると流動性が低下し、再び粘性が回復する性質をいう。
【0019】
本発明において、有機溶媒の溶解度パラメータ(SP値、単位:(cal/cm
3)
0.5)とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値であり、Hildebrandの方法により算出されるものである。
また、本発明において、(メタ)アクリレート系樹脂の溶解度パラメータ(SP値、単位:(cal/cm
3)
0.5)とは、樹脂を構成している構成単位の分子引力定数Gに基づき算出されるものである。
(メタ)アクリレート系樹脂が単独重合体の場合は、下記の計算式により算出されるものであり、共重合体の場合はその樹脂を構成する各構成単位のそれぞれの単独重合体のSP値を下記の計算式により算出し、それらのSP値のそれぞれに各構成単位のモル分率を乗じたものを合算して算出されるものである。
単独重合体のSP値=dΣG/M
ここで、dは、単独重合体の密度(g/l)を表し、ΣGは、構成単位の分子中の分子引力定数の総和を表し、Mは、構成単位の分子量(g/mol)を表す。
【0020】
なお、本明細書中において、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルの両方を意味するものである。
【0021】
以下、本発明のペースト用樹脂組成物を構成する各成分について詳述する。
(有機溶媒)
本発明のペースト用樹脂組成物は、有機溶媒の少なくとも一種を含有する。有機溶媒は、その中に分散される樹脂成分の親疎水性の程度、樹脂成分を分散含有したときのチキソトロピー性、揮発性、レベリング性などを考慮して選択される。
【0022】
有機溶媒の具体例としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、i−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、2−(4−メチルシクロヘキサ−3−エニル)プロパン−2−オール(ターピネオール(別名:テルピネオール))などのアルコール系有機溶媒;
メチルカルビトール、エチルカルビトール、n−プロピルカルビトール、i−プロピルカルビトール、n−ブチルカルビトール、i−ブチルカルビトール、i−アミルカルビトール、フェニルカルビトール、ベンジルカルビトールジエチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、酢酸カルビトールエステルなどのカルビトール系有機溶媒;
炭酸プロピレン、酢酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキサン酸−エチルヘキシル等のエステル系有機溶媒;
アセトン、メチルエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどのケトン系有機溶媒;
イソパラフィン等の炭化水素系有機溶媒;
n−メチルピロリドン等のアミン系有機溶媒;
などを挙げることができる。
【0023】
有機溶媒の溶解度パラメータ(SP値)は、後述する(メタ)アクリレート系樹脂A(不溶ポリマーA)のSP値と(メタ)アクリレート系樹脂B(可溶ポリマーB)のSP値の関係などから決定されるが、好ましくは、8.0(cal/cm
3)
0.5以上11.0(cal/cm
3)
0.5以下である。SP値が前記範囲内であることで、不揮発分を高濃度に含む組成に調製したときの粘度を低く維持し、チキソトロピー性も得られる。中でも、有機溶媒のSP値は、上記同様の理由から、8.5(cal/cm
3)
0.5以上9.5(cal/cm
3)
0.5以下の範囲がより好ましい。
【0024】
また、有機溶媒としては、沸点が180℃以上280℃以下の範囲にある有機溶媒が好ましい。沸点が180℃以上であることで、スクリーン印刷に適し、スクリーン印刷に用いられたときの塗工時の塗工作業性が軽減される。また、沸点が280℃以下であることで、レべリング性の点で有利である。
中でも、上記同様の理由から、沸点は200℃以上260℃以下がより好ましい。
【0025】
上記した有機溶媒の中でも、本発明における有機溶媒としては、比較的高沸点で大気中に揮発し難く、チキソトロピー性を良好に維持しやすい点から、アルコール系有機溶媒、カルビトール系有機溶媒が好ましく、更には、より良好なチキソトロピー性が得られる点で、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、テキサノールがより好ましい。その中でも、沸点247℃のブチルカルビトールアセテートが特に好ましい。
【0026】
本発明のペースト用樹脂組成物中における有機溶媒の含有量としては、後述する不溶ポリマーA及び可溶ポリマーBの総量に対して、30〜60質量%が好ましい。有機溶媒の含有量が前記範囲内であることで、高不揮発分でチキソトロピー性を有する組成物が得られやすく、スクリーン印刷した際に高さ、形状の良好な構造物を形成することができる。
【0027】
−(メタ)アクリレート系樹脂A−
本発明のペースト用樹脂組成物は、有機溶剤に不溶なポリマーとして、有機溶媒のSP値(溶解度パラメータ)との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下であるSP値を有する(メタ)アクリレート系樹脂A(以下、「不溶ポリマーA」ともいう。)の少なくとも一種を含有する。有機溶媒に不溶とは、有機溶媒に対して不溶ポリマーAの極性が異なるために、不溶ポリマーAが有機溶媒に溶解せずに有機溶媒中に分散していることをいう。
【0028】
不溶ポリマーAは、ポリマー自体のSP値を高め、チキソトロピー性を持たせるためには、単独重合体としたときのSP値が有機溶媒のSP値から離れていて比較的SP値の高い単量体で構成されるのが好ましい。しかし、あまりSP値が高くなり過ぎると、チキソトロピー性の点では有利なものの、成膜時のレベリング性が低下する。そのため、SP値を、後述する(メタ)アクリレート系樹脂Bと同様に、有機溶媒のSP値との差の絶対値を0.5(cal/cm
3)
0.5以下の範囲とする。
これにより、後述する可溶ポリマーである(メタ)アクリレート系樹脂BのSP値との差が大きくなりすぎないようにし、チキソトロピー性とレベリング性とのバランスを図っている。また、本発明では、不溶ポリマーAを構成する単量体として(メタ)アクリレート系の単量体が用いられることで、同時に焼成性が向上し、ペーストとして焼成後の残渣がより抑えられる。
また、有機溶媒とのSP値の差が0.5(cal/cm
3)
0.5以下の小さい範囲であることで、有機溶媒と不溶ポリマーAとの間に親和性を有している。不溶ポリマーAは、有機溶媒への溶解度が低く完全に溶解せずに分散状態で存在するポリマーであるが、有機溶媒との親和性を付与することで、ペーストを調製したときのレベリング効果を与えることができる。
【0029】
不溶ポリマーAは、少なくとも、有機溶媒との間のSP値の差が0.5(cal/cm
3)
0.5以下である重合体であれば、いずれの形態の樹脂であってもよいが、本発明においては、単独重合体のSP値と有機溶媒のSP値との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下である単量体の単独重合体もしくは共重合体、又は前記差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下の単量体と前記差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5を超える他の少なくとも一種の単量体との共重合体のいずれであってもよい。
【0030】
不溶ポリマーを形成するモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、i−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、i−ノニルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレートなどの、アクリル酸のアルキル又はアリールエステル(好ましくは、アルキル部位(シクロアルキルを含む)の炭素数=1〜18、アリール部位の炭素数=6〜8);
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、i−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、i−ノニルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、i−ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどの、メタクリル酸のアルキル又はアリールエステル(好ましくは、アルキル部位(シクロアルキルを含む)の炭素数=1〜18、アリール部位の炭素数=6〜8);
スチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンなどの芳香族ビニル;
などのラジカル重合性不飽和モノマーを挙げることができる。
【0031】
また、前記ラジカル重合性不飽和モノマーと共に、下記の官能基モノマーを共重合することができる。すなわち、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸などの、カルボキシル基含有単量体(好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸);
アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−n−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド基もしくは置換アミド基含有単量体(好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミド);
2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、メタリルアルコールなどの水酸基含有単量体(好ましくは2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の、ヒドロキシ低級アルキル(メタ)アクリレート〔好ましくは、低級アルキルの炭素数=1〜4〕);
アミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタアクリレートなどのアミノ基もしくは置換アミノ基含有単量体(好ましくは、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタアクリレート等の、N,N−ジ低級アルキルアミノ低級アルキル(メタ)アクリレート〔好ましくは、2つの低級アルキルはいずれも炭素数=1〜4〕);
グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルアリルエーテル、グリシジルメタリルエーテル、グリシジルビニルエーテルなどのエポキシ基含有単量体;
ビニルメルカプタン、アリルメルカプタンなどのメルカプト基含有単量体;
(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン等の、1分子中に2個以上のラジカル重合性不飽和基を有する単量体;などである。
【0032】
不溶ポリマーAを形成するモノマーは、有機溶媒への溶解性、組成物としたときの粘度、チキソトロピー性、及び焼成性を考慮して、その種類及びポリマーに占める割合が選択される。
【0033】
中でも、不溶ポリマーAとしては、焼成性の観点から、メタクリレート系単量体を重合させた重合体が好ましく、特には、メタクリレート系単量体の単独重合体、又はメタクリレート系単量体と他の少なくとも一種の単量体との共重合体が好ましい。
【0034】
前記メタクリレート系単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、i−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート(2−EHMA)、i−ノニルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、i−ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、及びベンジルメタクリレートなどの単量体が好適に挙げられる。不溶ポリマーAを構成するメタクリレート系単量体は、これらの単量体を含む群(群X)より選ばれる一種又は二種以上を用いることができる。
【0035】
また、本発明における不溶ポリマーAは、白度をコントロールし、粒子を安定化させることができる観点からは、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートに由来の構成単位を有することが好ましい。炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレートなどが挙げられる。
このような構成単位の不溶ポリマーA中における比率は、不溶ポリマーAの全質量に対して、10質量%以上50質量%以下の範囲が好ましい。炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートに由来の構成単位の比率が10質量%以上であることで、適度なチキソトロピー性を有しながら、レベリング性に優れ、且つ長期貯蔵時の粒子の沈降や分離が起こりにくい安定的な粒子とすることができる。また、該比率が50質量%以下であることで、焼成性を向上させることができる。該構成単位の比率としては、上記同様の理由から、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0036】
不溶ポリマーAを構成する単量体の単独重合体のSP値と有機溶媒のSP値との差の絶対値としては、成膜したときのレベリング性の点で、0.1(cal/cm
3)
0.5以上6.5(cal/cm
3)
0.5以下であることが好ましい。
【0037】
また、不溶ポリマーAは、水酸基含有モノマー由来の構成単位を含んでいることが好ましい。水酸基を有することで、分散性とレベリング性を向上させることができる。
水酸基含有単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2−HEA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコールなどが挙げられる。中でも、ヒドロキシ低級アルキルメタクリレート(低級アルキルの炭素数=1〜4)が好ましく、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等が特に好ましい。
【0038】
不溶ポリマーAとしては、単独重合体のSP値と有機溶媒のSP値との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下のメタクリレート単量体と、アクリル酸のアルキル又はアリールエステルとの共重合体が好ましく、更には、単独重合体のSP値と有機溶媒のSP値との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下であってアルキル部位(シクロアルキルを含む)の炭素数1〜18のメタクリレート単量体と、ヒドロキシ低級アルキルメタクリレート(低級アルキルの炭素数=1〜4)と、アクリル酸のアルキルエステル(好ましいアルキル部位の炭素数=1〜3)との共重合体であることがより好ましい。
不溶ポリマーAがアクリル酸のアルキルエステルを含むポリマーであることで、安定的な粒子となり貯蔵安定性に優れる。また、不溶ポリマーAがメタクリレート単量体を含むポリマーであることで、スクリーン印刷後に焼成して構造物(焼成体)を得る場合の焼成性が向上し、焼成残渣の軽減が図れる。これは、メタクリレート単量体である2−ヒドロキシエチルメタクリレートとアクリル酸のアルキルエステル(好ましいアルキル部位の炭素数=1〜3)とを少なくとも共重合した共重合体である場合により好適な効果が得られる。
【0039】
不溶ポリマーAの平均分子量は、重量平均分子量で10,000〜300,000が好ましく、より好ましくは100,000〜250,000である。
【0040】
不溶ポリマーAのSP値は、有機溶媒のSP値との差が絶対値で0.1以上0.5以下となる範囲にあることが好ましい。組成物中に分散含有される樹脂成分自体のSP値が有機溶媒のSP値とある程度離れていることで、後述する可溶ポリマーBとのSP値の差を保つことができ、印刷適性に必要なチキソトロピー性が得られる。チキソトロピー性に加え、圧力応答性を向上させる観点から、不溶ポリマーAのSP値と有機溶媒のSP値との差の絶対値は、0.1以上0.2以下の範囲がより好ましい。
【0041】
不溶ポリマーAの溶解度パラメータ(SP値、単位:(cal/cm
3)
0.5;以下、SPAと略記することがある。)は、有機溶媒のSP値や可溶ポリマーBのSP値との関係などから決定されるが、上記の点から、好ましくは9.0(cal/cm
3)
0.5以上であり、9.2(cal/cm
3)
0.5以上がより好ましく、9.3(cal/cm
3)
0.5以上が特に好ましい。該SP値の上限値は、11.0(cal/cm
3)
0.5である。
SP値の求め方については、既述した通りである。
【0042】
不溶ポリマーAを構成している単量体のうち、前記群Xより選ばれる単量体由来の構成単位の不溶ポリマーA中に占める比率が、不溶ポリマーA中の全構成単位の合計量に対して、質量基準で25%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。
【0043】
−(メタ)アクリレート系樹脂B−
本発明のペースト用樹脂組成物は、有機溶剤に可溶なポリマーとして、有機溶媒のSP値(溶解度パラメータ)との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下であり、かつこの絶対値が既述の有機溶媒と(メタ)アクリレート系樹脂Aとの間の溶解度パラメータの差の絶対値より小さい(メタ)アクリレート系樹脂B(以下、「可溶ポリマーB」ともいう。)の少なくとも一種を含有する。有機溶媒に可溶とは、有機溶媒に対して樹脂Bの極性が近いために、樹脂Bが有機溶媒に溶解していることをいう。
【0044】
可溶ポリマーBは、有機溶媒とのSP値の差の絶対値が、有機溶媒と既述の(メタ)アクリレート系樹脂A(不溶ポリマーA)のSP値(SPA)の差の絶対値より小さいポリマーであるため、既述の不溶ポリマーAに比べ、単独重合体としたときのSP値が有機溶媒のSP値により近いSP値を持つ単量体を少なくとも用いて構成される。これにより、可溶ポリマーB自体のSP値が不溶ポリマーAに比べて低くなり、既述の不溶ポリマーAのSP値との差が保たれ、印刷適性に必要なチキソトロピー性が得られる。しかも、可溶ポリマーBの単量体として(メタ)アクリレート系の単量体が用いられることで、同時に焼成性が向上し、ペーストとして焼成後の残渣の発生も抑えられる。
【0045】
可溶ポリマーBは、有機溶媒とのSP値の差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下であることで、有機溶媒に対する親和性が高く、分散性をより良好に維持することができ、レベリング性が高められる。
【0046】
可溶ポリマーBは、既述の不溶ポリマーAと同様に、有機溶媒との間のSP値の差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下である重合体であれば、いずれの形態の樹脂であってもよい。本発明においては、単独重合体のSP値と有機溶媒のSP値との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下である単量体の単独重合体もしくは共重合体、又は前記差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下の単量体と前記差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5を超える他の少なくとも一種の単量体との共重合体のいずれであってもよい。
【0047】
既述の不溶ポリマーAと可溶ポリマーBとが互いに結合又は吸着することで後述するような分散樹脂として分散含有される場合は、可溶ポリマーBは、不溶ポリマーAとの結合又は吸着に有利な性質と、有機溶媒への溶解性とを兼ねそなえる観点から、二種以上のモノマーの共重合体であるのが好ましい。
【0048】
可溶ポリマーを形成するモノマーとしては、既述の不溶ポリマーAを構成するモノマーと同様のモノマーが挙げられる。可溶ポリマーBを形成するモノマーは、有機溶媒への溶解性、組成物としたときの粘度、チキソトロピー性、及び焼成性を考慮して、その種類及びポリマーに占める割合が選択される。
該モノマーとして、例えば、アクリル酸のアルキル又はアリールエステル、メタクリル酸のアルキル又はアリールエステル、芳香族ビニル単量体等のラジカル重合性不飽和モノマーのほか、カルボキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、水酸基含有単量体、及び置換アミノ基含有単量体等の官能基モノマーが好適に挙げられる。これらモノマーの詳細については、既述の不溶ポリマーAで説明した通りであり、各々の好ましい態様も同様である。
【0049】
可溶ポリマーBは、(メタ)アクリレート系樹脂であり、アクリル酸のアルキル又はアリールエステル、及びメタクリル酸のアルキル又はアリールエステルから選ばれるモノマーと、カルボキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、水酸基含有単量体、及び置換アミノ基含有単量体から選ばれるモノマーとの共重合により形成されるポリマーがより好ましい。
更に好ましくは、可溶ポリマーBは、アルキル部位(シクロアルキルを含む)の炭素数1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、アルキル部位の炭素数1〜4のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及びアルキル部位の炭素数1〜4のN,N−ジ−アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートから選ばれるモノマーとの共重合により形成されるのが好ましい。
上記のように、(メタ)アクリレート系樹脂を用いることで、上記のように焼成性が向上し、焼成残渣の軽減が図れる。
【0050】
単独重合体のSP値と有機溶媒のSP値との差の絶対値が0.5(cal/cm
3)
0.5以下である単量体は、メタクリレート系モノマーが特に好ましい。好ましい具体例としては、2−エチルヘキシルメタクリレート(2−EHMA)、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート及びグリシジルメタクリレートなどを好適に挙げることができる。
可溶ポリマーBを構成するメタクリレート単量体は、これらの単量体を含む群(群Y)より選ばれる一種又は二種以上が好ましい。
【0051】
可溶ポリマーBを構成する単量体の単独重合体のSP値と有機溶媒のSP値との差の絶対値としては、成膜したときのレベリング性の点で、0以上6.5以下であることが好ましく、0以上3以下であることが好ましい。
【0052】
また、可溶ポリマーBは、水酸基含有モノマー由来の構成単位を含んでいることが好ましい。水酸基を有することで、分散性とレベリング性を向上させることができる。
水酸基含有単量体としては、既述の不溶ポリマーAで挙げたものと同様のものを挙げることができる。具体的な例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2−HEA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコールなどが挙げられる。中でも、ヒドロキシ低級アルキルメタクリレート(低級アルキルの炭素数=1〜4)が好ましく、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等が好適である。
【0053】
本発明においては、既述の(メタ)アクリレート樹脂A(不溶ポリマーA)及び(メタ)アクリレート系樹脂B(可溶ポリマーB)において、不溶ポリマーA及び可溶ポリマーBに占める水酸基含有モノマー由来の構成単位の合計の比率は、不溶ポリマーA及び可溶ポリマーBの全構成単位の合計量に対して、3質量%以上15質量%以下の範囲とする。
上記のように不溶ポリマーA及び可溶ポリマーBの有機溶媒とのSP値差を0.5(cal/cm
3)
0.5以下と小さくし、水酸基含有モノマー由来の構成単位の含有比率を上記範囲とすることで、ペーストを調製した場合に、適度なチキソトロピー性を有しながら、無機粒子の分散性に優れる。換言すれば、水酸基含有モノマー由来の構成単位の比率が3質量%未満であると、チキソトロピー性が悪く、分散性が低下し、塗工時のレベリング性にも劣る。また、水酸基含有モノマー由来の構成単位の比率が15質量%を超えると、塗工時の吐出の際に途切れずに塗工することが困難になり、糸曳き性も悪化する。
水酸基含有モノマー由来の構成単位の比率としては、上記同様に理由から、5質量%以上13質量%以下が好ましく、5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0054】
水酸基含有モノマーは、既述の(メタ)アクリレート樹脂A(不溶ポリマーA)及び(メタ)アクリレート系樹脂B(可溶ポリマーB)の少なくとも一方に含まれていればよい。しかしながら、糸曳き性の観点から、水酸基含有モノマーが不溶ポリマーAに含まれていることが好ましく、水酸基含有モノマーは、可溶ポリマーBに含まれず不溶ポリマーAのみに含まれていることがより好ましい。
【0055】
本発明における不溶ポリマーA及び可溶ポリマーBは、600℃以下での低温焼成が可能で焼成残渣も軽減される観点から、(メタ)アクリレート系樹脂が用いられる。
【0056】
可溶ポリマーBの平均分子量は、重量平均分子量で10,000〜300,000が好ましく、より好ましくは100,000〜250,000である。
【0057】
可溶ポリマーBのSP値は、有機溶媒のSP値との差が絶対値で0以上0.1未満となる範囲にあることが好ましい。組成物中に分散含有される樹脂成分自体のSP値が有機溶媒のSP値とある程度離れていることで、後述する不溶ポリマーAとのSP値の差を保つことができ、印刷適性に必要なチキソトロピー性が得られる。
【0058】
可溶ポリマーBの溶解度パラメータ(SP値、単位:(cal/cm
3)
0.5;以下、SPBと略記することがある。)は、有機溶媒のSP値や、不溶ポリマーAのSP値との関係などから決定されるが、好ましくは、8.0(cal/cm
3)
0.5以上9.5(cal/cm
3)
0.5以下であり、より好ましくは8.5(cal/cm
3)
0.5以上9.0(cal/cm
3)
0.5以下である。
SP値の求め方については、既述した通りである。
【0059】
可溶ポリマーBを構成している単量体のうち、前記群Yより選ばれる単量体由来の構成単位の可溶ポリマーB中に占める比率が、可溶ポリマーB中の全構成単位の合計量に対して、質量基準で25%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。
【0060】
また、本発明においては、不溶ポリマーAのSP値(SPA)と可溶ポリマーBのSP値(SPB)とは、SPA>SPBを満たすことが好ましい。SPAがSPBより大きいことで、SPAと前記有機溶媒のSP値との差がある程度得られ、有機溶媒中での分散安定性がより高められる点で有利である。より好ましくは、SPA及びSPBは、下記式1を満たす。尚、「||」は絶対値を表す。
0.1≦|SPA−SPB|≦1.0 ・・・(式1)
SPAからSPBを減算した差の絶対値が0.1以上であることは、少なくとも不溶な部分が存在することを意味する。また、SPAからSPBを減算した差の絶対値が1.0(cal/cm
3)
0.5以下であることは、SPAとSPBの値が比較的近いことを示す。したがって、不溶ポリマーAと可溶ポリマーBとの親和性が高く、有機溶媒中に可溶ポリマーBの一部が溶解しているときにも、不溶ポリマーAが集合したポリマー構造部分SA(以下、単に「ポリマー構造部分SA」ともいう。)に可溶ポリマーBが強固に繋がった状態が保たれるので、安定した分散性及びチキソトロピー性が確保され、安定性の高い非水ディスパージョンが得られる。
中でも、「SPA−SPB」の絶対値(|SPA−SPB|)は、0.1〜0.6の範囲がより好ましく、0.1〜0.4の範囲が更に好ましい。
【0061】
有機溶媒中における、可溶ポリマーBに対する不溶ポリマーAの比率(A/B;質量比)としては、0.5/1以上5/1以下の範囲であることが好ましい。比率A/Bが0.5/1以上であると、レベリング性の点で有利であり、5/1以下であると、分散安定性の点で有利である。
前記比率A/Bは、1/1以上3/1以下の範囲がより好ましい。有機溶媒に可溶な可溶ポリマーBに対する、有機溶媒に不溶性の不溶ポリマーAの比率が大きいことで、より良好なチキソトロピー性が確保できる。
【0062】
本発明においては、不溶ポリマーA及び可溶ポリマーBを、不溶ポリマーAが集合したポリマー構造部分SAと、少なくとも一部が該ポリマー構造部分SAに結合又は吸着した可溶ポリマーBとを含む分散樹脂として、有機溶媒中に分散含有することができる。すなわち、不溶ポリマーAと可溶ポリマーBとは、不溶ポリマーAが集合してポリマー構造部分SAを構成し、該ポリマー構造部分SAに可溶ポリマーBの少なくとも一部が結合又は吸着した状態で有機溶媒に分散されている。
【0063】
この分散樹脂は、少なくとも、不溶ポリマーAが集合したポリマー構造部分SAと、このポリマー構造部分に少なくとも一部が結合又は吸着した可溶ポリマーBとを有しており、ポリマー構造部分SAは有機溶媒中に溶解せず、これに結合又は吸着している可溶ポリマーBが有機溶媒に溶解した状態となって分散状態を保つことができる。つまり、分散樹脂を構成するポリマー構造部分SAは、不溶ポリマーAが集合して形成された粒子状の核を形成しており、この粒子核に可溶ポリマーBが結合又は吸着した構造となることで、粒子核(不溶ポリマーA)の一部に有機溶媒に溶解する部分ができ、有機溶媒中で分散安定性を保つことができる。
【0064】
本発明のペースト用樹脂組成物は、少なくとも一部の可溶ポリマーBがポリマー構造部分SAに結合又は吸着した非水分散樹脂を分散含有するが、ポリマー構造部分SAに結合又は吸着していない可溶ポリマーBが有機溶媒中に浮遊して存在している態様がより好ましい。このような可溶ポリマーBが有機溶媒中に存在することで、非水分散樹脂と無機材料との混和性や、無機材料の分散性が向上し、レベリング性に優れたペーストを得ることができる。
【0065】
可溶ポリマーB及び不溶ポリマーAを前記分散樹脂の態様で含有する場合、分散樹脂が有機溶媒中に分散されて非水分散樹脂を形成する。この分散樹脂は、あらかじめ有機溶媒中にグラフト共重合体を形成しておき、その後に分散粒子核形成のための重合が行なわれて合成されたものでもよい。
非水分散樹脂は、有機溶媒中に分散されて非水ディスパージョンを形成する。この非水分散樹脂は、あらかじめ有機溶媒中に有機溶媒に可溶なポリマー(可溶ポリマーB)を形成しておき、このポリマーの存在下、有機溶媒に不溶なポリマー(不溶ポリマーA)を形成するモノマーを重合させたものであってもよいし、あらかじめ有機溶媒に可溶なポリマー部分と有機溶媒に不溶性のポリマー部分とがブロック又はグラフトされた重合体を形成しておき、この重合体の存在下、有機溶媒に不溶なポリマーを形成するモノマーを重合させたものでもよい。
これらの重合方法のうち、あらかじめ有機溶媒中に有機溶媒に可溶なポリマーを形成しておき、このポリマーの存在下、有機溶媒に不溶なポリマーを形成するモノマーを重合させる方法が、簡易に非水分散樹脂を得られる点から、好ましい。
有機溶媒に可溶なポリマー存在下、有機溶媒に不溶なポリマーを形成するモノマーを重合させることにより非水分散樹脂を得る方法において、前記有機溶媒に可溶なポリマーは、有機溶剤中で溶液重合により合成することができる。この可溶ポリマーは、ペースト用樹脂組成物を構成する有機溶媒と同じ有機溶媒中に、モノマー及び必要に応じて重合開始剤や連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流温度で攪拌しながら数時間加熱反応させることにより好適に合成することができる。このとき、有機溶媒、モノマー、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤は、その少なくとも一部を逐次添加してもよい。重合温度は、一般に30〜180℃(好ましくは60〜150℃)が好ましい。
続いて、有機溶媒に可溶なポリマーが存在する有機溶媒中で、有機溶媒に不溶性のポリマー部分を与えるモノマーを、重合開始剤及び必要に応じて連鎖移動剤とともに窒素気流中又は有機溶媒の還流温度で攪拌しながら数時間加熱して重合させることにより、有機溶媒に不溶性の不溶ポリマーと、可溶ポリマー部分に不溶ポリマー部分が結合した共重合体が生成する。生成した有機溶媒に不溶性のポリマーが、前記共重合体の不溶ポリマー部分とともに粒子核を形成し、有機溶媒に不溶性の不溶ポリマーが集合したポリマー構造部分SA、及び少なくとも一部が前記ポリマー構造部分SAに結合又は吸着した可溶ポリマーBを有する分散樹脂粒子を得ることができる。
【0066】
重合に用いる重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、カプロイルパーオキシド、ジ−i−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルペロキシ−2−エチルヘキサネートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス−i−ブチルニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などを、各々単独で又は組み合わせて用いることができる。
前記重合開始剤のうち、有機溶媒に可溶なポリマーが存在する有機溶媒中で、有機溶媒に不溶性のポリマー構造部分SAを与えるモノマーを重合する際は、水素引き抜き能の高い有機過酸化物を使用することが好ましい。水素引き抜き能の高い重合開始剤を使用することで、効率的に可溶ポリマー中の不安定な水素原子が引き抜かれ、ここに不溶性のポリマー部分Aを与えるモノマーが付加する。これにより、可溶ポリマー部分と不溶ポリマー部分とが結合したグラフト又はブロック共重合体が生成し、生成した有機溶媒に不溶性の重合体が前記グラフト又はブロック共重合体の不溶ポリマー部分とともに粒子核を形成することができる。
【0067】
重合開始剤の使用量は、モノマーの合計100質量部に対して、通常は0.01〜5質量部の範囲であり、好ましくは0.02〜2質量部である。
【0068】
また、連鎖移動剤の例としては、特開2000−095917号公報の段落番号[0051]に記載の化合物を用いることができる。連鎖移動剤を用いる場合、その使用量は、モノマーの合計100質量部に対して、0.005〜3質量部が好ましい。
【0069】
本発明のペースト用樹脂組成物において、前記非水分散樹脂の割合は、前記有機溶媒100質量部に対して、30質量部以上が好ましく、30〜60質量部がより好ましい。換言すれば、本発明のペースト用樹脂組成物中の不揮発分量は、30質量%以上が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。
有機溶媒に対する非水分散樹脂の割合が30質量部以上、つまり非水分散樹脂が有機溶媒に対して少な過ぎない範囲であることで、不揮発分量の高い組成物が得られ、これを用いて焼成したときには熱収縮が抑えられる。また、非水分散樹脂の割合が60質量部以下、つまり非水分散樹脂が有機溶媒に対して多過ぎない範囲であることで、低粘度が維持され、良好なチキソトロピー性が発揮される。
【0070】
本発明のペースト組成物は、既述の本発明のペースト用樹脂組成物と、無機粒子とを用いて構成されており、必要に応じて他の成分を含有していてもよい。ペースト用樹脂組成物の詳細については、既述の通りであり、好ましい態様も同様である。本発明のペースト組成物は、既述の本発明のペースト用樹脂組成物が用いられるので、印刷に支障を来さないチキソトロピー性を保ちつつも、ペースト状とし成膜したときのレベリング性に優れ、糸曳きも生じにくい。また、良好な焼成性が付与される。
【0071】
ペースト組成物に含有される無機粒子としては、例えば、金属、ガラス、珪素化合物(シリカ、ケイ砂、二酸化珪素等)、カーボンブラック等の顔料、炭酸カルシウム、クレー、タルクなどの粒子が挙げられる。
【0072】
無機粒子のペースト組成物中における含有量は、ペースト組成物の全質量に対して、50〜95質量%が好ましい。
【0073】
本発明のペースト組成物の製造方法は、ペースト用樹脂組成物と無機粒子とを少なくとも混合することによりペースト組成物を調製する工程を設けて構成されている。さらに、他の工程が設けられてもよい。具体的には、更に、有機溶媒及び(メタ)アクリレート系樹脂Bの存在下で、(メタ)アクリレート系樹脂Aを合成し、ペースト用樹脂組成物を調製する工程を設けて好適に構成される。この場合、既述のように、(メタ)アクリレート系樹脂Aが集合したポリマー構造部分SAと少なくとも一部がポリマー構造部分SAに結合又は吸着した(メタ)アクリレート系樹脂Bとを含む樹脂を含有するペースト用樹脂組成物が調製され、このペースト用樹脂組成物を無機粒子と混合したペースト組成物が得られる。これにより、無機粒子との混和性が向上して無機粒子の分散性を高めることができ、ペースト組成物のレベリング性をより良好なものとすることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0075】
<共重合体(B)溶液の調製>
以下に示すようにして、可溶ポリマーである(メタ)アクリレート系樹脂Bとして、共重合体(B)を調製した。
【0076】
(製造例1−1)
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、ブチルカルビトールアセテート(BCA;沸点=247℃)630.0質量部、メタノール(MeOH)70.0質量部を仕込んだ。次いで、別の容器に2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)62.0質量%、メチルメタクリレート(MMA)18.0質量%、及びブチルアクリレート(BA)20.0質量%からなる単量体混合物1531.3質量部を用意し、このうち525質量部を反応器に仕込み、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(ABN−E)0.40質量部を添加した。添加後、加熱し、還流温度で30分間保った。この中にさらに、残りの単量体混合物1006.3質量部、BCA236.3質量部、MeOH26.3質量部、及びABN−E1.30質量部からなる混合物を90分間かけて逐次滴下した。更に60分間同温度で保ってから、BCA472.5質量部、MeOH52.5質量部、及びABN−E2.63質量部を30分間かけて逐次滴下した。更に180分間同温度で保ってから、BCAで希釈後冷却し、重合体B1溶液(可溶ポリマーBの溶液)を得た。
【0077】
各モノマーの単独重合体のSP値、有機溶媒のSP値、得られた重合体B1溶液の不揮発分、並びに重合体B1のTg、SP値、及び重量平均分子量(Mw)等を下記表1に示す。
なお、Mwは、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)により、TSK−GEL GMHXL(東ソー製 スチレン系ポリマー充填剤)をカラムとして測定し、ポリスチレン換算して得られた値である。
【0078】
(製造例1−2〜1−17)
前記製造例1−1において、単量体の組成を下記表1に示すように変更したこと以外は、製造例1−1と同様にして、共重合体B2〜B17溶液を得た。
【0079】
(製造例1−18)
ブチルカルビトールアセテート(BCA)100.0質量部中に、エチルセルロース20.0質量部を溶解し、EC溶液を得た。
【0080】
(実施例1):非水分散樹脂の調製
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、ブチルカルビトールアセテート(BCA)158.6質量部、メタノール(MeOH)99.8質量部、及び前記製造例1−1で得られた「重合体B1溶液」1218.0質量部を仕込み、還流温度に昇温した。昇温後、これにn−ブチルメタクリレート(nBMA)59.0質量%、エチルアクリレート(EA)36.0質量%及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)5.0質量%からなる単量体混合物974.4質量部と、BCA280.1質量部と、MeOH136.1質量部と、t−ブチルペロキシ2−エチルヘキサネート(PB−O)7.62質量部とを90分間かけて逐次滴下した。滴下終了後、同温度で60分間保持した。その後、さらにBCA203.1質量部及びPB−O20.31質量部を90分間かけて逐次滴下し、更に90分間同温度で保った。その後、これをBCAで希釈し、MeOHを抽出し、冷却した。
以上のようにして、重合体B1(可溶ポリマーB)溶液中に、nBMA/2HEMA/EA共重合体(不溶ポリマーA)が分散した非水分散樹脂溶液を得た。この分散樹脂溶液の重合体B1の一部は不溶ポリマーAのポリマー構造部分に結合又は吸着して存在し、さらに一部は浮遊して存在する状態にある。
【0081】
ここで用いた単量体の組成、単量体の単独重合体のSP値、得られた樹脂分散溶液の不揮発分、nBMA/2HEMA/EA共重合体のSP値、Tg、及びMwを下記表1に示す。なお、Mwは、上記同様の方法にて測定した。
【0082】
(実施例2〜15)
実施例1において、重合体B1溶液を、下記表1に記載の単量体組成を有する共重合体B2〜B15に代えると共に、有機溶媒の種類、不溶ポリマーAの単量体組成を下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂分散溶液(ペースト用樹脂組成物)を得た。各樹脂分散溶液の不揮発分濃度は、下記表1に記載の通りである。
【0083】
(比較例1〜2)
実施例1において、重合体B1溶液を、下記表1に記載の単量体組成を有する共重合体B16〜B17に代えると共に、不溶ポリマーAの単量体組成を下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂分散溶液(ペースト用樹脂組成物)を得た。各樹脂分散溶液の不揮発分濃度は、下記表1に記載の通りである。
【0084】
(比較例3)
前記製造例1−18のEC溶液を樹脂分散溶液(ペースト用樹脂組成物)として用いた。不揮発分濃度は、下記表1に記載の通りである。
【0085】
(評価)
上記の実施例1〜15及び比較例1〜3で調製した樹脂分散溶液(ペースト用樹脂組成物)の各々について、下記の評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0086】
−1.焼成性−
乾燥させた樹脂約10mgをアルミ皿にのせ、熱重量/分析装置(SIIナノテクノロジー社製、EXSTAR6000 TG/DTA6200)を用いて窒素雰囲気下、昇温温度10℃/minで常温から600℃まで昇温した。その後、室温まで冷却し、樹脂の採取樹脂量に対する残渣の比率(残渣率)を算出し、この残渣率を指標として以下の評価基準にしたがって評価した。
残渣率(%)=(採取樹脂量−樹脂減少量)/(採取樹脂量)×100
<評価基準>
A:残渣率:2%未満
B:残渣率:2%以上7%未満
C:残渣率:7%以上
【0087】
−2.チキソトロピー性−
調製した樹脂分散溶液を動的粘弾性測定機(Anton Paar社製 Physica MCR301)を用いて評価温度25℃、使用コーン 25mmφ、2°、測定ギャップ 103μm、剪断速度0.01〜60[1/s]の剪断速度領域における剪断粘度を測定した。剪断速度1[1/s]の粘度η
1と剪断速度10[1/s]の粘度η
10の比(=η
1/η
10)を求め、チキソトロピー性(チキソ性)を評価する指標とした。評価は、下記の評価基準にしたがって行なった。なお、粘度比は、高いほどチキソトロピー性が高く、印刷性に優れていることを示す。
<評価基準>
A:粘度比が1.5以上であり、優れた印刷性を示した。
B:粘度比が1.2以上1.5未満であり、良好な印刷性を示した。
C:粘度比が1.2未満であり、印刷性に劣っていた。
【0088】
−3.圧力応答性−
調製した樹脂分散溶液を動的粘弾性測定機(Anton Paar社製 Physica MCR301)を用いて評価温度=25℃、使用コーン=25mmφ、2°、測定ギャップ=103μmにて下記の測定条件でのクリープリカバリーを測定した。クリープリカバリーの結果より、(1)測定後のズリ歪み量をr1、(2)測定後の回復量をr2とし、r2/r1から回復率を算出した。その回復率をノズル塗工時のポンプに対する圧力応答性を評価する指標とした。評価は、下記の評価基準にしたがって行なった。なお、回復率が低いほど圧力応答性に優れていることを示す。
<測定条件> 圧力20Pa×60sec → 圧力0Pa×120sec
<評価基準>
A:回復率が0.5未満であり、ノズル塗工時のポンプ供給性が良好である。
B:回復率が0.5以上1.0未満であり、ノズル塗工時のポンプ供給性がやや良好である。
C:回復率が1.0以上であり、ノズル塗工時のポンプ供給性が悪い。
【0089】
−4.レベリング性−
(1)ガラスペースト化
上記の実施例1〜15及び比較例1〜2で調製した樹脂分散溶液をガラス粉末75質量部に対して11.1質量部添加し、BCAにて不揮発分80%になるように調整後、三本ロールミル(ノリタケカンパニーリミテド製 N−R42A)を用いて以下の分散条件に従いガラスペーストを調製した。また、比較例3で調製したEC溶液をガラス粉末75質量部に対して25.0質量部添加し、BCAにて不揮発分80%になるように調整後、同様の操作にてガラスペーストを調整した。
分散条件:ロールギャップ:F/C間=50μm
C/A間=50μm
ロール速度 :F/C/A=50rpm/100rpm/200rpm
ロール通過回数:3回
(2)レベリング評価
調製したガラスペーストを動的粘弾性測定機(Anton Paar社製 Physica MCR301)を用いて、評価温度:25℃、使用コーン:25mmφ、2°、測定ギャップ:103μm、剪断速度:0.01〜60[1/s]の剪断速度領域における剪断粘度を測定した。剪断速度0.1[1/s]の粘度をスクリーン印刷性のレベリング性を評価する指標とした。評価は、下記の評価基準にしたがって行なった。なお、剪断速度0.1[1/s]の粘度は、低いほどレベリング性が高く、印刷性に優れていることを示す。
<評価基準>
A:剪断速度0.1[1/s]の剪断粘度:1000Pa・s未満
B:剪断速度0.1[1/s]の剪断粘度:1000Pa・s以上2000Pa・s未満
C:剪断速度0.1[1/s]の剪断粘度:2000Pa・s以上
【0090】
−5.糸曳き性−
上記の「4.レベリング性」で調製したガラスペーストを動的粘弾性測定機(Anton Paar社製 Physica MCR301)を用いて評価温度25℃、使用コーン 25mmφ、2°、測定ギャップ 103μm、剪断速度1000(1/s)の剪断速度領域における剪断粘度及び第一法線応力差を測定した。剪断速度1000(1/s)の第一法線応力差をスクリーン印刷性の糸曳き性を評価する指標とした。評価は、下記の評価基準にしたがって行なった。なお、第一法線応力差は、低いほど糸曳き性が低く、印刷性に優れていることを示す。
<評価基準>
A:剪断速度1000[1/s]の第一法線応力差が100Pa未満であり、印刷時に糸曳きがほとんどなく良好である。
B:剪断速度1000[1/s]の第一法線応力差が100Pa以上200Pa未満であり、印刷時の糸曳き性が少ない。
C:剪断速度1000[1/s]の第一法線応力差が200Pa以上であり、印刷時に糸曳きしやすい。
【0091】
【表1】
【0092】
前記表1中のモノマーの詳細は、以下の通りである。
・2EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート
・MMA:メチルメタクリレート
・nBMA:ノルマルブチルメタクリレート
・BA:ブチルアクリレート
・2HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
・EA:エチルアクリレート
【0093】
前記表1に示されるように、実施例では、得られた樹脂溶液(ペースト用樹脂組成物)は、高不揮発分に調製されており、良好なチキソトロピー性を保持しながら、レベリング性及び糸曳き性に優れていた。また、実施例の樹脂溶液は、塗工時にペーストが途切れるようなことのない良好な圧力応答性を示した。したがって、実施例の樹脂溶液は、良好な印刷適性を有し、スクリーン印刷性に適するものである。スクリーン印刷したときには、従来に比べ、より形状の良好な構造物を形成することが可能である。また、焼成後の炭素成分の残存が著しく軽減された。
これに対し、比較例では、チキソトロピー性を優先すると、圧力応答性、糸曳き性に劣り、圧力応答性を高めようとすると、チキソトロピー性が不足するのみならず、レベリング性及び糸曳き性が低下してしまった。なお、従来から利用されているエチルセルロースを用いた組成では、焼成性を満足することは困難であった。