特許第6306334号(P6306334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306334
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】放射線検出器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20180326BHJP
   G01T 1/202 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   G01T1/20 B
   G01T1/20 E
   G01T1/20 G
   G01T1/202
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-252419(P2013-252419)
(22)【出願日】2013年12月5日
(65)【公開番号】特開2015-38458(P2015-38458A)
(43)【公開日】2015年2月26日
【審査請求日】2016年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-147885(P2013-147885)
(32)【優先日】2013年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】堀内 弘
(72)【発明者】
【氏名】會田 博之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤也
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−108974(JP,A)
【文献】 特開2008−224357(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/027671(WO,A1)
【文献】 米国特許第07180068(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G21K 4/00
C09K 11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を電気信号に変換する光電変換基板と、
前記光電変換基板に接して外部から入射した放射線を光に変換するシンチレータ層と
を具備し、
前記シンチレータ層は、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体であり、前記蛍光体中の前記賦活剤の濃度が1.6mass%±0.4mass%でかつ面内方向および膜厚方向の前記賦活剤の濃度分布が±15%以内である
ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記シンチレータ層は、膜厚200nm以下の領域において、面内方向および膜厚方向の前記賦活剤の濃度分布が±15%以下である
ことを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記シンチレータ層は、柱状結晶構造を有する
ことを特徴とする請求項1または2記載の放射線検出器。
【請求項4】
光を電気信号に変換する光電変換基板と、前記光電変換基板に接して外部から入射した放射線を光に変換するシンチレータ層とを具備する放射線検出器の製造方法であって、
前記シンチレータ層は、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体であり、
前記蛍光体中の前記賦活剤の濃度が1.6mass%±0.4mass%でかつ面内方向および膜厚方向の前記賦活剤の濃度分布が±15%以内となるように、CsIとTlとを材料源とした気相成長法により前記シンチレータ層を形成する
ことを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線を検出する放射線検出器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代のX線診断用画像検出器として、アクティブマトリクスや、CCDおよびCMOS等の固体撮像素子を用いた平面形の放射線検出器であるX線検出器が注目を集めている。このX線検出器にX線を照射することにより、X線撮影像またはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。
【0003】
X線検出器は、光を電気信号に変換する光電変換基板、およびこの光電変換基板に接して外部から入射したX線を光に変換するシンチレータ層を備えている。そして、入射X線によりシンチレータ層で変換された光が光電変換基板に到達することで電荷に変換され、この電荷が出力信号として読み出され、所定の信号処理回路等にてデジタル画像信号に変換される。
【0004】
また、シンチレータ層にハロゲン化物であるCsIを用いた場合は、CsI単体では、入射X線を可視光に変換することができないことから、一般的な蛍光体と同様に入射X線に対する光の励起を活性化させるため、賦活剤を含有させている。
【0005】
X線検出器においては、光電変換基板の受光感度のピーク波長が可視光領域の400nm〜700nm付近に存在することから、シンチレータ層にCsIを用いた場合は、入射X線により励起された光の波長が550nm付近となるTlが賦活剤として用いられている。
【0006】
シンチレータ層がハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体である場合、一般的な賦活剤を含有する蛍光体と同様に、シンチレータ層の特性が賦活剤であるTlの濃度および濃度分布に大きな影響を受けることとなる。
【0007】
賦活剤を含有するシンチレータ層を有するX線検出器において、賦活剤の濃度および濃度分布が適正化されていない場合は、シンチレータ層の特性劣化を招くこととなり、シンチレータ層の発光特性に関連する感度(発光効率)および残像{n回目のX線画像に(n−1)回目以前のX線画像の被写体像が残留する現象}に影響が生じることとなる。
【0008】
例えば、X線画像を用いた診断においては、被写体により撮影条件が大きく異なるため{入射X線の線量:0.0087mGy〜0.87mGy程度(部位によりX線透過率が異なるため)}、(n−1)回目のX線画像とn回目のX線画像の入射X線の線量に大きな差異が生じることがあり、(n−1)回目とn回目のX線画像の入射X線の線量差が(n−1)>nの場合、(n−1)回目のX線画像の非被写体部のシンチレータ層の発光特性が、入射X線の大きなエネルギーにより変化し、n回目のX線画像にまで、影響が残留することによって、残像が生じることとなる。
【0009】
この残像特性は、X線画像を用いた診断においては、他のシンチレータ層の特性である感度(発光効率)や解像度(MTF)に比べても重要な特性となっている。
【0010】
従来、感度(発光効率)や解像度(MTF)の向上を目的として、シンチレータ層の賦活剤の濃度や濃度分布を規定しようとした提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−51793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来、シンチレータ層の特性向上については感度(発光効率)や解像度(MTF)に関するものが多く、残像特性も含めた総合的な特性向上に関するものは少なかった。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、シンチレータ層の残像特性も含めた総合的な特性を改善できる放射線検出器およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本実施形態の放射線検出器は、光を電気信号に変換する光電変換基板と、光電変換基板に接して外部から入射した放射線を光に変換するシンチレータ層とを具備し、シンチレータ層は、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体であり、蛍光体中の賦活剤の濃度が1.6mass%±0.4mass%でかつ面内方向および膜厚方向の賦活剤の濃度分布が±15%以内である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態を示す放射線検出器の第1の構造例の断面図である。
図2】同上放射線検出器の第2の構造例の断面図である。
図3】同上放射線検出器の第3の構造例の断面図である。
図4】同上放射線検出器の第4の構造例の断面図である。
図5】同上放射線検出器の等価回路図である。
図6】同上放射線検出器のシンチレータ層のTl濃度と感度比との相関を示すグラフである。
図7】同上シンチレータ層のTl濃度とMTF比との相関を示すグラフである。
図8】同上シンチレータ層のTl濃度と残像比との相関を示すグラフである。
図9】同上シンチレータ層の積層周期と感度比との相関を示すグラフである。
図10】同上シンチレータ層の積層周期とMTF比との相関を示すグラフである。
図11】同上シンチレータ層の積層周期と残像比との相関を示すグラフである。
図12】同上シンチレータ層の形成方法を示す模式図である。
図13】同上放射線検出器で特定の撮影条件下にて撮影したX線画像であり、(a)はTl濃度:0.1mass%の場合のX線画像、(b)はTl濃度:1.0mass%の場合のX線画像、(c)はTl濃度:1.2mass%の場合のX線画像、(d)はTl濃度:1.6mass%の場合のX線画像、(e)はTl濃度:2.0mass%の場合のX線画像である。
図14】同上放射線検出器においてTl濃度:0.1mass%、1.0mass%、1.2mass%、1.6mass%、2.0mass%での各特性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態を、図1ないし図14を参照して説明する。
【0017】
図1ないし図4には放射線検出器の基本構成について第1ないし第4の構造例を示し、図5には基本構成の等価回路図を示す。
【0018】
まず、図1および図5を参照して、放射線検出器としてのX線検出器1の第1の構造例を説明する。図1に示すように、X線検出器1は、間接方式のX線平面画像検出器である。このX線検出器1は、可視光を電気信号に変換するアクティブマトリクス光電変換基板である光電変換基板2を備えている。
【0019】
光電変換基板2は、矩形平板状の透光性を有するガラス等にて形成された絶縁基板としての支持基板3を備えている。この支持基板3の表面には、二次元的でマトリクス状に複数の画素4が互いに間隔をあけて配列され、各画素4毎に、スイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT)5、電荷蓄積用キャパシタ6、画素電極7、およびフォトダイオード等の光電変換素子8が形成されている。
【0020】
図5に示すように、支持基板3上には、この支持基板3の行方向に沿った複数の制御ラインとしての制御電極11が配線されている。これら複数の制御電極11は、支持基板3上の各画素4間に位置し、この支持基板3の列方向に離間されて設けられている。これら制御電極11には、薄膜トランジスタ5のゲート電極12が電気的に接続されている。
【0021】
支持基板3上には、この支持基板3の列方向に沿った複数の読出電極13が配線されている。これら複数の読出電極13は、支持基板3上の各画素4間に位置し、この支持基板3の行方向に離間されて設けられている。そして、これら複数の読出電極13には、薄膜トランジスタ5のソース電極14が電気的に接続されている。また、この薄膜トランジスタ5のドレイン電極15は、電荷蓄積用キャパシタ6および画素電極7にそれぞれ電気的に接続されている。
【0022】
図1に示すように、薄膜トランジスタ5のゲート電極12は、支持基板3上に島状に形成されている。このゲート電極12を含む支持基板3上には、絶縁膜21が積層されて形成されている。この絶縁膜21は、各ゲート電極12を覆っている。また、この絶縁膜21上には、島状の複数の半絶縁膜22が積層されて形成されている。これら半絶縁膜22は、半導体にて構成されており、薄膜トランジスタ5のチャネル領域として機能する。そして、これら各半絶縁膜22は、各ゲート電極12に対向して配設されており、これら各ゲート電極12を覆っている。すなわち、これら各半絶縁膜22は、各ゲート電極12上に絶縁膜21を介して設けられている。
【0023】
半絶縁膜22を含む絶縁膜21上には、島状のソース電極14およびドレイン電極15がそれぞれ形成されている。これらソース電極14およびドレイン電極15は、互いに絶縁され電気的に接続されていない。また、これらソース電極14およびドレイン電極15は、ゲート電極12上の両側に設けられており、これらソース電極14およびドレイン電極15の一端部が半絶縁膜22上に積層されている。
【0024】
図5に示すように、各薄膜トランジスタ5のゲート電極12は、同じ行に位置する他の薄膜トランジスタ5のゲート電極12とともに共通の制御電極11に電気的に接続されている。さらに、これら各薄膜トランジスタ5のソース電極14は、同じ列に位置する他の薄膜トランジスタ5のソース電極14とともに共通の読出電極13に電気的に接続されている。
【0025】
図1に示すように、電荷蓄積用キャパシタ6は、支持基板3上に形成された島状の下部電極23を備えている。この下部電極23を含む支持基板3上には絶縁膜21が積層されて形成されている。この絶縁膜21は、各薄膜トランジスタ5のゲート電極12上から各下部電極23上まで延長している。さらに、この絶縁膜21上には、島状の上部電極24が積層されて形成されている。この上部電極24は、下部電極23に対向して配設されており、これら各下部電極23を覆っている。すなわち、これら各上部電極24は、各下部電極23上に絶縁膜21を介して設けられている。そして、この上部電極24を含む絶縁膜21上にはドレイン電極15が積層されて形成されている。このドレイン電極15は、他端部が上部電極24上に積層されて、この上部電極24に電気的に接続されている。
【0026】
各薄膜トランジスタ5の半絶縁膜22、ソース電極14およびドレイン電極15と、各電荷蓄積用キャパシタ6の上部電極24とのそれぞれを含む絶縁膜21上には、絶縁層25が積層されて形成されている。この絶縁層25は、酸化珪素(SiO)等にて形成されており、各画素電極7を取り囲むように形成されている。
【0027】
この絶縁層25の一部には、薄膜トランジスタ5のドレイン電極15に連通したコンタクトホールとしてのスルーホール26が開口形成されている。このスルーホール26を含む絶縁層25上には、島状の画素電極7が積層されて形成されている。この画素電極7は、スルーホール26にて薄膜トランジスタ5のドレイン電極15に電気的に接続されている。
【0028】
各画素電極7上には、可視光を電気信号に変換するフォトダイオード等の光電変換素子8が積層されて形成されている。
【0029】
また、光電変換基板2の光電変換素子8が形成された表面に、放射線としてのX線を可視光に変換するシンチレータ層31が形成されている。このシンチレータ層31は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の気相成長法で、高輝度蛍光物質であるヨウ化セシウム(CsI)等のハロゲン化合物やガドリニウム硫酸化物(GOS)等の酸化物系化合物等の蛍光体を、光電変換基板2上に柱状に堆積させて成膜されている。そして、シンチレータ層31は、光電変換基板2の面方向に複数の短冊状の柱状結晶32が形成された柱状結晶構造に形成されている。
【0030】
また、シンチレータ層31上にはシンチレータ層31で変換された可視光の利用効率を高めるための反射層41が積層されて形成され、この反射層41上にはシンチレータ層31を大気中の水分から保護する保護層42が積層されて形成され、この保護層42上には絶縁層43が積層されて形成されている。この絶縁層43上には画素4間を遮蔽する格子状のX線グリッド44が形成されている。
【0031】
そして、このように構成されたX線検出器1において、シンチレータ層31へと入射した放射線としてのX線51はこのシンチレータ層31の柱状結晶32にて可視光52に変換される。
【0032】
この可視光52は柱状結晶32内を通じて光電変換基板2の光電変換素子8に到達して電気信号に変換される。光電変換素子8で変換された電気信号は画素電極7に流れ、画素電極7に接続された薄膜トランジスタ5のゲート電極12が駆動状態となるまで、画素電極7に接続された電荷蓄積用キャパシタ6へと移動して保持されて蓄積される。
【0033】
このとき、制御電極11の1つを駆動状態にすると、この駆動状態となった制御電極11に接続された1行の薄膜トランジスタ5が駆動状態となる。
【0034】
この駆動状態となったそれぞれの薄膜トランジスタ5に接続された電荷蓄積用キャパシタ6に蓄積された電気信号が読出電極13へと出力される。
【0035】
この結果、X線画像の特定の行の画素4に対応する信号が出力されるため、制御電極11の駆動制御によって、全てのX線画像の画素4に対応する信号を出力でき、この出力信号がデジタル画像信号に変換されて出力される。
【0036】
次に、図2を参照してX線検出器1の第2の構造例を説明する。なお、X線検出器1の第1の構造例と同じ符号を用い、同様の構成および作用の説明は省略する。
【0037】
光電変換基板2の構造および作用は第1の構造例と同じである。
【0038】
光電変換基板2上に接合層61を介してシンチレータパネル62が接合されている。シンチレータパネル62は、X線51を透過する支持基板63を有し、この支持基板63上に光を反射する反射層41が形成され、この反射層41上に短冊状の複数の柱状結晶32を有するシンチレータ層31が形成され、このシンチレータ層31上にシンチレータ層31を密閉する保護層42が積層されて形成されている。さらに、支持基板63上に画素4間を遮蔽する格子状のX線グリッド44が形成されている。
【0039】
そして、このように構成されたX線検出器1において、シンチレータパネル62のシンチレータ層31へと入射したX線51はこのシンチレータ層31の柱状結晶32にて可視光52に変換される。
【0040】
この可視光52は柱状結晶32内を通じて光電変換基板2の光電変換素子8に到達して電気信号に変換され、上述したようにデジタル画像信号に変換されて出力される。
【0041】
次に、図3を参照してX線検出器1の第3の構造例を説明する。図1に示したX線検出器1の第1の構造例において、シンチレータ層31が柱状結晶32をなしていないだけで、他の構成は同様である。
【0042】
次に、図4を参照してX線検出器1の第4の構造例を説明する。図2に示したX線検出器1の第2の構造例において、シンチレータ層31が柱状結晶32をなしていないだけで、他の構成は同様である。
【0043】
そして、図1ないし図4に示される構造のX線検出器1において、シンチレータ層31は、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体であり、さらに次の(1)(2)(3)の特徴を有している。
【0044】
(1):蛍光体中の賦活剤の濃度が1.6mass%±0.4mass%で、かつ蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布が±15%以内である。
【0045】
(2):少なくとも単位膜厚200nm以下の領域において、蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布が±15%以内であり、均一性が維持されている。
【0046】
(3):シンチレータ層31は、CsIとTlIの2つの蒸発源を用いた真空蒸着法により形成され、かつ好ましくは短冊状の柱状結晶32の構造を有している。
【0047】
ここで、図1に示される第1の構造例のX線検出器1において、シンチレータ層31の膜厚:600μm、賦活剤:Tlとし、シンチレータ層31中のTl濃度と各特性の相関を試験した結果を図6ないし図8に示し、また、シンチレータ層31中のTl濃度を一定とした場合のシンチレータ層31の積層周期{単位膜厚(基板1回転当りの形成膜厚)の形成周期}と各特性の相関を試験した結果を図9ないし図11に示す。
【0048】
図6はシンチレータ層31中のTl濃度と感度比との相関である。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、感度比:シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%の場合の感度を基準とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。そして、図6に示すように、シンチレータ層31中のTl濃度が1.4mass%〜1.8mass%近辺において最も感度が向上した。
【0049】
図7はシンチレータ層31中のTl濃度と解像度であるMTF比との相関である。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、MTF比:シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%の場合のMTF(at 2Lp/mm)を基準とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。そして、図7に示すように、シンチレータ層31中のTl濃度が2.0mass%付近までは略一定となった。
【0050】
図8はシンチレータ層31中のTl濃度と残像比との相関である。試験条件は、(n−1)回目とn回目のX線画像の入射X線の線量差を(n−1)>nとし、(n−1)回目のX線画像では入射X線:70kV−0.87mGy、被写体:鉛板(板厚3mm)、X線画像取得間隔:60secとし、n回目のX線画像では入射X線:70kV−0.0087mGy、被写体:無し、X線画像取得間隔:60secとする。さらに、残像比:シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%の場合の残像を基準とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。そして、図8に示すように、シンチレータ層31中のTl濃度が1.6mass%近辺において残像が最小レベルとなった。さらに、残像比が0.5(好ましくは0.4)以下の領域であって、シンチレータ層31中のTl濃度が1.6mass%±0.4mass%の領域では、残像が確認されなかった。
【0051】
図9はシンチレータ層31の積層周期と感度比との相関である。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、シンチレータ層31中のTl濃度:0.1mass%、感度比:シンチレータ層31の積層周期が200nmの場合の感度を基準とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。
【0052】
図10はシンチレータ層31の積層周期とMTF比との相関である。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、シンチレータ層31中のTl濃度:0.1mass%、MTF比:シンチレータ層31の積層周期が200nmの場合のMTF(at 2Lp/mm)を基準とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。
【0053】
図11はシンチレータ層31の積層周期と残像比との相関である。試験条件は、(n−1)回目とn回目のX線画像の入射X線の線量差を(n−1)>nとし、(n−1)回目のX線画像では入射X線:70kV−0.87mGy、被写体:鉛板(板厚3mm)、X線画像取得間隔:60secとし、n回目のX線画像では入射X線:70kV−0.0087mGy、被写体:無し、X線画像取得間隔:60secとする。さらに、シンチレータ層31中のTl濃度:0.1mass%、残像比:シンチレータ層31の積層周期が200nmの場合の残像を基準とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。
【0054】
そして、図9ないし図11に示すように、シンチレータ層31の積層周期が200nm以上の領域では、各特性が劣化する傾向となった。
【0055】
これは、シンチレータ層31の発光波長のピ−ク波長は550nm付近であるが、シンチレータ層31の母材であるCsIの屈折率が1.8であるため、シンチレータ層31内を伝播する発光波長のピ−ク波長をλ1とすると、屈折率と波長との関係から、λ1=550nm/1.8=306nmと見なせるため、シンチレータ層31の積層周期がλ1よりも大きい場合は、シンチレータ層31の結晶性のばらつき、およびシンチレータ層31中のTl濃度のばらつき等に伴う光学特性の劣化(散乱・減衰等)の影響を受ける可能性が高くなることと合致するからである。
【0056】
また、図8に示されるように、シンチレータ層31である蛍光体中の賦活剤の濃度が1.6mass%近辺において残像が最小レベルとなり、残像比が0.5(好ましくは0.4)以下となる1.6mass%±0.4mass%の領域では残像が確認されず、また、図6および図7に示されるように、1.6mass%±0.4mass%の領域では感度およびMTFの各特性も良好であるため、賦活剤の濃度は1.6mass%±0.4mass%の領域が好ましい。
【0057】
そして、図6ないし図8に示されるように、シンチレータ層31中のTl濃度が1.6mass%±0.4mass%の領域では、各特性が安定状態に近いため、シンチレータ層31中のTl濃度が変動(±15%程度)しても、各特性の変動は小さいこととなる。
【0058】
また、蛍光体中の賦活剤の濃度が1.6mass%±0.4mass%の領域にあっても、蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布に大きな偏りがあれば、各特性が大きく変動してしまいやすいので、蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布が±15%以内にあることが好ましい。この賦活剤の濃度分布が±15%程度の変動範囲内であれば、各特性の変動は小さく影響は少ない。
【0059】
したがって、上記(1)の特徴のように、蛍光体中の賦活剤の濃度が1.6mass%±0.4mass%で、かつ蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布が±15%以内であることが好ましい。
【0060】
また、蛍光体の少なくとも単位膜厚200nm以下の領域において、蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布に大きな偏りがあれば、各特性が大きく変動してしまいやすいので、上記(2)の特性のように、単位膜厚200nm以下の領域においても蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布が±15%以内であることが好ましい。
【0061】
ここで、シンチレータ層31の形成方法の模式図を図12に示す。真空チャンバ71内に基板72(光電変換基板2または支持基板63に該当する)を配置し、この基板72を回転させながら、真空チャンバ71内に設置されているCsIの蒸発源73からの蒸発粒とTlIの蒸発源74からの蒸発粒を基板72の積層面に蒸着する真空蒸着法により、シンチレータ層31の膜を積層形成する。
【0062】
このとき、基板72の回転周期とCsIおよびTlIの蒸発とを制御すれば、シンチレータ層31の積層周期当りの面内方向および膜厚方向のTl濃度分布を任意に制御することができる。そのため、シンチレータ層31の形成時において、シンチレータ層31の積層周期当りの面内方向および膜厚方向のTl濃度分布の均一性を確保すれば、シンチレータ層31の全体の面内方向および膜厚方向のTl濃度分布の均一性も確保されることとなる。
【0063】
よって、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体からなるシンチレータ層31に、上記(1)〜(3)の特徴を付与すれば、シンチレータ層31の特性の改善、特に残像特性の改善ができる。
【0064】
また、図1に示される第1の構造例のX線検出器1の実施例について説明する。この実施例では、シンチレータ層31の膜厚:600μm、シンチレータ層31の積層周期:150nm、シンチレータ層31の面内方向および膜厚方向の賦活剤の濃度分布:±15%、賦活剤:Tlとし、シンチレータ層31中の賦活剤の濃度:0.1mass%、1.0mass%、1.2mass%、1.6mass%、2.0mass%の5つのサンプルを作成する。
【0065】
これら5つのサンプルについて、特定の撮影条件下にて被写体を撮影し、所定の画像処理条件にて撮影画像を処理した場合のX線画像(n回目)を図13(a)(b)(c)(d)(e)に示すとともに、特性の結果を図14の表に示す。図14において、感度比、MTF比、残像比は、シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%の場合を基準とした値である。
【0066】
撮影条件は、(n−1)回目とn回目のX線画像の入射X線の線量差を(n−1)>nとし、(n−1)回目のX線画像では入射X線:70kV−0.87mGy、被写体:鉛板(板厚3mm)、X線画像取得間隔:60secとし、n回目のX線画像では入射X線:70kV−0.0087mGy、被写体:無し、X線画像取得間隔:60secとする。
【0067】
画像処理条件は、フラットフィールド補正(Flat Field Correction):有り、ウィンドウ処理:有り(画像のヒストグラム平均値±10%)とする。
【0068】
図13(a)および(b)に示すように、賦活剤の濃度が0.1mass%および1.0mass%では、図中破線で囲む範囲に残像が確認されるが、図13(c)(d)(e)に示すように、賦活剤の濃度が1.2mass%、1.6mass%、2.0mass%では、図中破線で囲む範囲に残像は確認されなかった。
【0069】
したがって、シンチレータ層31に本実施形態で規定される上記(1)〜(3)の特徴を付与すれば、感度やMTFも良好な状態で残像特性を改善できるため、X線検出器1の高性能化と信頼性の向上が可能となる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 放射線検出器としてのX線検出器
2 光電変換基板
31 シンチレータ層
図1
図2
図3
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