(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の時間領域分光装置において、電磁波発生検出装置の半導体層として、所定のIn比率(例えば35%)のInGaAsを用いることが考えられる。
しかしながら、この電磁波発生検出装置を、電磁波発生装置および電磁波検出装置の両方に適用した結果、電磁波検出装置のノイズ(暗電流)が増大し、テラヘルツ波の検出感度が低くなってしまうという問題が生じた。
【0005】
本発明は、電磁波発生部および電磁波検出部のそれぞれにおいて最適な光伝導層を用いることにより、テラヘルツ波の検出感度を向上させることができる時間領域分光装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の時間領域分光装置は、ポンプ光により、電磁波を発生させ、発生した電磁波をターゲットに照射する電磁波発生部と、プローブ光により、ターゲットを透過または反射した電磁波を検出する電磁波検出部と、を備え、電磁波発生部および電磁波検出部は、量子ドットを含有するIn
XGa
1−XAs(0≦X≦0.53)化合物半導体からなる光伝導層を、それぞれ含
むと共に、光伝導層上に形成され且つギャップを存して対向配置された一対のアンテナを、それぞれ有し、電磁波検出部の光伝導層のIn比率Xは、電磁波発生部の光伝導層のIn比率Xより小さ
く、電磁波検出部のギャップは、電磁波発生部のギャップより小さいことを特徴とする。
【0007】
この場合、電磁波発生部の光伝導層のIn比率Xは、30%以上40%以下であり、電磁波検出部の光伝導層のIn比率Xは、0%以上10%以下であることが好ましい。
【0009】
さらに、電磁波発生部の光伝導層の一部または全部は、Beが1×10
17cm
-3以上1×10
18cm
-3以下の割合で添加され、電磁波検出部の光伝導層の一部または全部は、Beが1×10
17cm
-3以上1×10
18cm
-3以下の割合で添加されていることが好ましい。
【0010】
一方、励起光を出力する励起光光源と、励起光光源から出力された励起光を、ポンプ光とプローブ光とに分割する光分割部と、を更に備え、励起光光源は、波長が1.45μm以上1.65μm以下の励起光を照射することが好ましい。
【0011】
また、電磁波発生部および電磁波検出部の各光伝導層は、複数層の個別光伝導層と、複数層の個別光伝導層の各層間に形成した複数層の量子ドットと、を含むことが好ましい。
【0012】
この場合、各層の量子ドットは、その下層に位置する各層の個別光伝導層に対する格子定数の相違により生ずるひずみに基づいて形成されたものであることが好ましい。
【0013】
また、量子ドットは、InAs,InGaAs,InAsSbおよびInGaSbのいずれかであることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る時間領域分光装置について説明する。この時間領域分光装置は、時間領域分光法を応用したものであり、パルスレーザー光によりテラヘルツ波を発生させ、このテラヘルツ波を、サンプルを透過させた後に検出し、その検出結果から、サンプルのテラヘルツ波による材料分析等の分光分析を実施するものである。なお、この場合のテラヘルツ波は、0.1THz〜10THzの電磁波は元より、数十GHz〜数百THzの電磁波をも含むものである。
【0016】
図1は、時間領域分光装置1の構成図である。同図に示すように、時間領域分光装置1は、パルスレーザー光である励起光を発生・出力する励起光光源2と、出力された励起光をポンプ光LP1とプローブ光LP2とに分割するビームスプリッター3(光分割部)と、ビームスプリッター3からのポンプ光LP1により、テラヘルツ波Th(電磁波)を発生させると共に当該テラヘルツ波ThをサンプルS(ターゲット)に照射する光伝導型のテラヘルツ波発生部4(電磁波発生部)と、ビームスプリッター3からのプローブ光LP2により、サンプルSを透過したテラヘルツ波Thを検出する光伝導型のテラヘルツ波検出部5(電磁波検出部)と、を備えている。
【0017】
また、時間領域分光装置1は、テラヘルツ波検出部5に入射するプローブ光LP2を遅延させる遅延光学系11と、ビームスプリッター3から出力されたプローブ光LP2を、遅延光学系11に導く第1反射鏡12と、遅延光学系11から出力されたプローブ光LP2を適宜反射してテラヘルツ波検出部5に導く第2反射鏡13および第3反射鏡14と、を備えている。
【0018】
さらに、時間領域分光装置1は、テラヘルツ波発生部4から照射されたテラヘルツ波ThをサンプルSに導く第1放物面鏡15と、サンプルSを透過したテラヘルツ波Thをテラヘルツ波検出部5に導く第2放物面鏡16と、を備えている。
【0019】
またさらに、時間領域分光装置1は、テラヘルツ波発生部4の発生側光伝導アンテナ素子21A(後述する)に所定のバイアス電圧を印加するバイアス電源回路17と、テラヘルツ波検出部5の検出側光伝導アンテナ素子21B(後述する)に発生した電流を検出して処理する信号処理回路18と、を備えている。そして、詳細は後述するが、この信号処理回路18により、イメージング処理や材料分析等の分光分析処理が行われる。
【0020】
励起光光源2は、フェムト秒パルスレーザー等の励起光を照射する。具体的には、励起光光源2は、励起光として、波長が1.45μm以上1.65μm以下のパルスレーザー光を照射する。
【0021】
ビームスプリッター3は、励起光光源2から出力された励起光を分割し、分割した一方の励起光をポンプ光LP1として出力すると共に、分割した他方の励起光をプローブ光LP2として出力する。
【0022】
テラヘルツ波発生部4は、ポンプ光LP1が照射される発生側光伝導アンテナ素子21Aと、発生側光伝導アンテナ素子21AのサンプルS側に取り付けられた半球レンズ22aと、を有している。発生側光伝導アンテナ素子21Aは、その表面側(後述の平行伝送線路32側)に、ポンプ光LP1が照射されるように配置されている。
【0023】
テラヘルツ波検出部5は、プローブ光LP2が照射される検出側光伝導アンテナ素子21Bと、検出側光伝導アンテナ素子21BのサンプルS側に取り付けられた半球レンズ22bと、を有している。検出側光伝導アンテナ素子21Bは、その表面側(後述の平行伝送線路32側)に、プローブ光LP2が照射され、その裏面側に、サンプルSを透過したテラヘルツ波Thが照射されるように配置されている。
【0024】
このような時間領域分光装置1では、励起光光源2から出力された励起光は、ビームスプリッター3により、ポンプ光LP1とプローブ光LP2とに分けられる。そして、ビームスプリッター3により分けられたポンプ光LP1は、発生側光伝導アンテナ素子21Aに入射する。このとき、バイアス電源回路17により発生側光伝導アンテナ素子21Aに、所定のバイアス電圧を印加しておくことで、発生側光伝導アンテナ素子21Aからテラヘルツ波Thが発生する。このテラヘルツ波Thは、半球レンズ22aを通過し第1放物面鏡15を介して、サンプルSに照射される。そして、サンプルSを通過したテラヘルツ波Thは、第2放物面鏡16および半球レンズ22bを介して、検出側光伝導アンテナ素子21Bに入射する。
【0025】
一方、ビームスプリッター3により分けられたプローブ光LP2は、第1反射鏡12に反射され、遅延光学系11に照射される。その後、遅延光学系11により時間遅延が与えられたプローブ光LP2は、第2反射鏡13および第3反射鏡14を介して、検出側光伝導アンテナ素子21Bに入射する。入射したテラヘルツ波Thおよびプローブ光LP2により、検出側光伝導アンテナ素子21Bで検出された信号は、信号処理回路18に入力される。信号処理回路18は、サンプルSを透過したテラヘルツ電磁波の時間波形およびサンプルSが無い状態でのテラヘルツ電磁波の時間波形を各々時系列データとして記憶し、これをフーリエ変換処理して周波数空間に変換する。こうして、サンプルSからのテラヘルツ電磁波の強度振幅や位相の分光スペクトルを得る。これにより、サンプルSの部分的な、物理的・科学的性質を探るための分析情報(分光分析情報)やテラヘルツ波Thのイメージング情報を得ることができる。
【0026】
ここで
図2および
図3を参照して、発生側光伝導アンテナ素子21Aおよび検出側光伝導アンテナ素子21Bについて説明する。
図2(a)および(b)は、発生側光伝導アンテナ素子21Aおよび検出側光伝導アンテナ素子21Bの斜視図である。
図3(a)および(b)は、発生側光伝導アンテナ素子21Aおよび検出側光伝導アンテナ素子21Bの断面図である。発生側光伝導アンテナ素子21Aおよび検出側光伝導アンテナ素子21Bは、光伝導層53a,53bの元素組成比を除き、同一のものを用いている。
【0027】
同図に示すように、両光伝導アンテナ素子21A,21Bは、主体を為す光伝導基板31と、光伝導基板31上に成膜された平行伝送線路32と、により構成されている。
【0028】
平行伝送線路32は、光伝導基板31(後述の光伝導層53a,53b)上に形成されたダイポール型の一対のアンテナ41,41で構成されている。各アンテナ41は、線状に延びるライン部42と、ライン部42の中央から内側に延設した電極部43と、を有しており、ライン部42の少なくとも一方の端部が電極パッド44として機能する。一対のアンテナ41,41は、そのライン部42,42同士が平行に配置され、且つ相互の電極部43,43が所定のギャップを存して対向配置されている。すなわち、相互の電極部43,43の対向端部間には、数μmの幅(実施形態のものは、5μm程度)のギャップ部45が構成されている。
【0029】
実施形態の各アンテナ41は、Au(金)で構成されているが、Al、Ti、Cr、Pd、Pt、Au−Ge合金、Al−Ti合金等の導電性材料であってもよい。なお、平行伝送線路32(アンテナ41)の形式は、ボウタイ型、ストリップライン型、スパイラル型等であってもよい。また、ギャップ部45(電極部43)を複数形成する構成であってもよい。
【0030】
光伝導基板31は、基板51と、基板51上に形成されたバッファ層52と、バッファ層52上に形成された光伝導層53a,53bと、を備えている。なお、詳細は後述するが、本実施形態では、この光伝導層53a,53bの元素組成比を、発生側光伝導アンテナ素子21Aと検出側光伝導アンテナ素子21Bとで相違させることで、ダイナミックレンジおよびS/N比を向上させている。
【0031】
基板51は、化合物半導体の単結晶基板であり、GaAs(ガリウム砒素)により構成されている。基板51の材料としては、GaAsの他、バッファ層52や光伝導層53a,53bの材料(の格子定数)に応じて、例えばSi、Ge、InP等の単結晶半導体を用いることもできる。
【0032】
バッファ層52は、基板51の格子定数以上、光伝導層53a,53bの格子定数以下もしくは基板51の格子定数以下、光伝導層53a,53bの格子定数以上となる材料を用いて、基板51上にエピタキシャル成長させた薄膜であり、実施形態のものは、GaAsにより構成されている。バッファ層52は、この上に積層する光伝導層53a,53bの結晶性を制御するために設けられている。このため、バッファ層52を構成する半導体材料は、基板51および光伝導層53a,53bの材料(の格子定数)に応じて任意に選択して用いることができる。また、バッファ層52を複数層としてもよい。
【0033】
光伝導層53a,53bは、量子ドット62を含有するIn
XGa
1-XAs(0≦X≦0.53)化合物半導体により構成されている。具体的には、光伝導層53a,53bは、複数層の個別光伝導層61a,61bと、複数層の個別光伝導層61a,61bの各層間に形成した複数層の量子ドット62とにより構成されている。
【0034】
個別光伝導層61a,61bは、In
XGa
1-XAs(0≦X≦0.53)を、バッファ層52を介して基板51上に低温で成長させたもの(いわゆるLT−GaAsもしくはLT−InGaAs)であり、量子ドット62は、各個別光伝導層61a,61b上にInAs(インジウム砒素)を成長させたものである。本実施形態の量子ドット62は、当該量子ドット62を構成するInAsと、その下層(または上層)のGaAs(またはInGaAs:インジウムガリウム砒素)と、の間の格子定数のミスマッチ(相違)を利用し、これにより生ずるひずみ力で島状構造(量子ドット62)を実現するものである。そして、光伝導層53a,53b内に量子ドット62を封じ込めるように、個別光伝導層61a,61bの形成と、量子ドット62の形成とを交互に行って、光伝導層53a,53bが形成されている。
【0035】
なお、量子ドット62は、光伝導層53a,53b(個別光伝導層61a,61b)との格子定数の相違を考慮し、InAs,InGaAs,InAsSb,InGaSb等であることが好ましい。また更に、量子ドット62の形成方法として、微細マスクを用いた選択成長や界面活性剤を用いたもの等、結晶成長時に形成するものであってよい。
【0036】
このように構成された発生側光伝導アンテナ素子21Aでは、バイアス電圧を印加して相互の電極部43,43間に電界を発生させた状態で、ギャップ部45に励起光(ポンプ光LP1)が照射されると、励起光によりギャップ部45の光伝導層53aが励起する。これにより、光伝導層53aにキャリア(電子および正孔)が生成され、且つ電極部43,43間の電圧(電界)でキャリアが加速されて瞬時電流が流れる。このパルス状電流の時間変動(超高速電流変調)によりテラヘルツ波Th(厳密にはテラヘルツパルス波)が発生し、誘電率の大きい基板51側に強く放射される。また、このように構成された検出側光伝導アンテナ素子21Bでは、テラヘルツ波Thを受けたときに一対の電極部43,43間に電流が流れるため、テラヘルツ波Thを検出することができる。
【0037】
次に、本実施形態の時間領域分光装置1における、発生側光伝導アンテナ素子21Aおよび検出側光伝導アンテナ素子21Bの相違部分について説明する。本実施形態の時間領域分光装置1では、上記したように、両光伝導アンテナ素子21A,21Bの光伝導層53a,53bにおける元素組成比を相違させている。具体的には、両光伝導層53a,53bは共に、量子ドット62を含有するIn
XGa
1-XAs(0≦X≦0.53)により構成されているが、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53b(各個別光伝導層61b)における当該In比率X(インジウム比率)は、発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53a(各個別光伝導層61a)における当該In比率Xより小さくなっている。例えば、発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53aのIn比率Xは、30%以上40%以下とし、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bのIn比率Xは、0%以上10%以下とする。これにより、テラヘルツ波時間波形をフーリエ変換したスペクトル(テラヘルツ波スペクトル)のダイナミックレンジ或いはS/N比を向上させている。なお、発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53aのIn比率Xは、35%とすることが理想的であり、35%前後(34%以上36%以下)とすることがより好ましい。
【0038】
ここで
図4の実験結果を参照して、このIn比率Xの相違の有効性について説明する。
図4(a)は、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bのIn比率Xと、ダイナミックレンジとの関係を表した図(グラフ)である。一方、
図4(b)は、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bのIn比率Xと、S/N比との関係を表した図(グラフ)である。両図の実験結果は、サンプルS無しで、両光伝導アンテナ素子21A,21Bにおいて、量子ドット62を含有するIn
XGa
1-XAs(0≦X≦0.53)の光伝導層53a,53bを用い、且つ発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53aのIn比率Xを35%(In
35Ga
65As)として得られたものである。
【0039】
同図に示すように、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bにおけるIn比率Xが、発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53aにおけるIn比率Xと同一である場合(In比率35%)には、ダイナミックレンジが約36dBとなり、S/N比が約3800となる。一方、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bにおけるIn比率Xが、発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53aにおけるIn比率Xより小さい場合(In比率35%未満)には、ダイナミックレンジおよびS/N比が共に上昇し、ダイナミックレンジが36dBを超え、S/N比が3800を超えている。このように、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bにおけるIn比率Xを、発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53aにおけるIn比率Xより小さくすることで、ダイナミックレンジおよびS/N比が向上される。これは、In比率Xを小さくすることで、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bにおける抵抗が上がり、ノイズ(暗電流)が低減するためだと考えられる。つまり、同図の実験結果では、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bは、In比率Xを上げて励起効率を大きくするよりも、In比率Xを下げて抵抗を上げ、ノイズを低減させるほうが、比較的効果があることを示唆している。
【0040】
以上のような構成によれば、両光伝導アンテナ素子21A,21Bの光伝導層53a,53bにおけるIn比率Xを相違させ、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bにおけるIn比率Xを、発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53aより小さくすることで、発生側光伝導アンテナ素子21Aおよび検出側光伝導アンテナ素子21Bのそれぞれにおいて、最適な光伝導層53a,53bを用いることができ、ダイナミックレンジおよびS/N比を向上させることができる。つまり、時間領域分光装置1におけるテラヘルツ波Thの検出感度を向上させることができる。
【0041】
さらに言えば、発生側光伝導アンテナ素子21Aの光伝導層53aのIn比率Xを、抵抗増加(ノイズ低減)よりも励起効率を優先した所定範囲のIn比率(30%以上40%以下)とし、検出側光伝導アンテナ素子21Bの光伝導層53bにおけるIn比率Xを、励起効率よりも抵抗増加(ノイズ低減)を優先した所定範囲のIn比率(0%以上10%以下)とすることで、ダイナミックレンジおよびS/N比をより向上させることができる。これは、本願発明者が、発生側光伝導アンテナ素子21Aでは、In比率Xを上げてもノイズがあまり大きくならず、検出側光伝導アンテナ素子21Bでは、In比率Xを上げると、励起効率以上に、ノイズが大きくなってしまうことを確認し、これを利用して得られた効果である。すなわち、発生側光伝導アンテナ素子21Aでは、In比率Xを上げた際、これに伴う抵抗減少(ノイズ増加)の影響よりも、これに伴う励起光率上昇の影響の方が強く、また、検出側光伝導アンテナ素子21Bでは、In比率Xを上げた際、これに伴う励起光率上昇の影響よりも、これに伴う抵抗減少(ノイズ増加)の影響の方が強い。そのため、各光伝導層53a,53bのIn比率Xを、これを加味した上記各所定範囲にすることで、ダイナミックレンジおよびS/N比をより向上させることができる。
【0042】
なお、上記実施形態においては、両光伝導アンテナ素子21A,21Bの間で、光伝導層53a,53bのIn比率Xのみ相違させる構成であったが、これに加え、
図5に示すように、両光伝導アンテナ素子21A,21Bの平行伝送線路32(一対のアンテナ41,41)におけるギャップを相違させる構成であってもよい。具体的には、検出側光伝導アンテナ素子21Bにおける電極部43,43間のギャップを、発生側光伝導アンテナ素子21Aにおける電極部43,43間のギャップより小さくする。かかる構成によれば、検出側光伝導アンテナ素子21Bのギャップを小さくすることで、プローブ光の照射領域であるギャップ部45を小さくすることができる。これにより、当該ギャップ部45に集光するプローブ光のスポットサイズを小さくすることができ、当該ギャップ部45に照射されるプローブ光のレーザー光パワー密度を高くすることができる。これによって、検出側光伝導アンテナ素子21Bの検出感度が向上し、時間領域分光装置1におけるテラヘルツ波Thの検出感度をより向上させることができる。
【0043】
また、上記実施形態においては、両光伝導アンテナ素子21A,21Bの光伝導層53a,53bを、アンドープのIn
XGa
1-XAs(0≦X≦0.53)で構成するものであったが、当該光伝導層53a,53bを、Be(ベリリウム)が所定の割合(1×10
17cm
-3以上1×10
18cm
-3以下)で添加されたIn
XGa
1-XAs(0≦X≦0.53)で構成するものであってもよい。かかる構成によれば、光伝導層53a,53bのノイズ(暗電流)が低減され、時間領域分光装置1におけるテラヘルツ波Thの検出感度をより向上させることができる。
【0044】
また、当該光伝導層53a,53bの一部(例えば表面側)のみを、Beが所定の割合(1×10
17cm
-3以上1×10
18cm
-3以下)で添加されたIn
XGa
1-XAs(0≦X≦0.53)で構成するものであってもよい。
【0045】
なお、上記実施形態においては、発生したテラヘルツ波ThをサンプルSに透過させて検出するようにしているが、サンプルSに反射させて検出するようにしてもよい。また、マトリクス状に配置した複数の発生側光伝導アンテナ素子21Aおよび複数の検出側光伝導アンテナ素子21Bを用いて、サンプルSを面的に検出(イメージング)することも可能である。もちろん、サンプルSを光路に直交するX・Y方向に微小移動させて、これを面的に検出(イメージング)することも可能である。