特許第6306368号(P6306368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306368
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】障子用掘込引手及び障子
(51)【国際特許分類】
   E05B 1/06 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   E05B1/06 105B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-33176(P2014-33176)
(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-158088(P2015-158088A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】末守 真史
(72)【発明者】
【氏名】本間 卓
【審査官】 小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−303005(JP,A)
【文献】 実開昭59−196648(JP,U)
【文献】 特開2002−147070(JP,A)
【文献】 実開昭54−092635(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0078065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面が凸部となるように表面に手掛かり用凹部を設けた引手本体と、前記引手本体の凸部に取付基部を介して取り付けた取付片とを有し、前記引手本体の凸部を框部材に設けた取付孔に挿入した場合に前記取付基部の端部に設けた押圧片部を前記取付孔の内周面に圧接させ、かつ前記取付基部の端部に設けた係止片部を前記框部材の内表面に対向させることにより、前記框部材に取り付けられる障子用掘込引手であって、
前記取付基部の端部において前記係止片部の基端との間となる部分には、前記引手本体の凸部から前記取付基部の延在方向に沿って突出し、前記引手本体の凸部を前記取付孔に挿通する際に前記取付孔の周囲に当接することにより、前記引手本体との接触線を軸として弾性変形する延長突出部が設けられ、
前記引手本体は、手掛かり用凹部の周囲にフランジを有し、
前記押圧片部は、前記延長突出部から前記フランジに近接する方向に屈曲して延在し、かつその先端面と前記フランジとの間に隙間を確保するように設けられたものであり、
前記引手本体の凸部を前記取付孔に挿通する際に前記延長突出部が弾性変形した場合は前記押圧片部の先端面が前記フランジの裏面に当接することを特徴とする障子用掘込引手。
【請求項2】
裏面が凸部となるように表面に手掛かり用凹部を設けた引手本体を備えるとともに、前記引手本体の凸部には押圧片部及び係止片部を一体に形成し、前記引手本体の凸部を框部材に設けた取付孔に挿入した場合に前記押圧片部を前記取付孔の内周面に圧接させ、かつ前記係止片部を前記框部材の内表面に対向させることにより、前記框部材に取り付けられる障子用掘込引手であって、
前記引手本体の凸部と前記係止片部の基端との間となる部分には、前記引手本体の凸部から該凸部の底壁に沿って突出し、前記引手本体の凸部を前記取付孔に挿通する際に前記取付孔の周囲に当接することにより、前記引手本体の凸部との接合境界線を軸として弾性変形する延長突出部が設けられ、
前記引手本体は、手掛かり用凹部の周囲にフランジを有し、
前記押圧片部は、前記延長突出部から前記フランジに近接する方向に屈曲して延在し、かつその先端面と前記フランジとの間に隙間を確保するように設けられたものであり、
前記引手本体の凸部を前記取付孔に挿通する際に前記延長突出部が弾性変形した場合は前記押圧片部の先端面が前記フランジの裏面に当接することを特徴とする障子用掘込引手。
【請求項3】
前記框部材の見付け面に前記框部材の長手方向に沿った溝状凹部を有するとともに、前記溝状凹部の底壁に前記取付孔を有した障子を取付対象とし、
前記フランジを前記框部材の見付け面に当接させた場合に、前記フランジと、前記溝状凹部の底壁との間の隙間を覆うように、前記フランジにカバー部を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の障子用掘込引手。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載した障子用掘込引手を前記框部材に取り付けたことを特徴とする障子。
【請求項5】
前記取付孔の両端隅部を弧状に形成し、前記押圧片部の両側縁部をそれぞれ前記取付孔の内周面において弧状に形成した部分に当接させることを特徴とする請求項4に記載の障子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障子用掘込引手及び障子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引違い窓や片引き窓等のように、開口枠に対してスライドさせて開閉する障子には、手掛かりとして掘込引手を設けるようにしたものがある。掘込引手は、縦框部材に設けられた取付孔に取り付けられるもので、引手本体と取付片とを備えている。
【0003】
引手本体は、例えば、薄板部材を成型して構成されたもので、裏面が凸部となるように表面に手掛かり用凹部が設けられている。引手本体の凸部は、縦框部材の取付孔に挿通することができる大きさに形成されている。引手本体において手掛かり用凹部の周囲には、フランジが設けられている。
【0004】
取付片は、取付基部を介して引手本体の凸部に取り付けられるもので、取付基部の両端部に押圧片部及び係止片部を有している。押圧片部は、取付基部の端部からそれぞれフランジに近接する方向に屈曲した部分である。押圧片部の先端部とフランジの裏面との間には、縦框部材の板厚よりも小さい間隔が確保されている。係止片部は、押圧片部の中間部から外方に切り起こされたものである。押圧片部の先端部相互間及び係止片部の先端部相互間は、それぞれ縦框部材に設けられた取付孔よりも大きな寸法となるように設定されている。
【0005】
この掘込引手は、縦框部材の見付け面から取付孔の内部に押し込めば、係止片部が内方に向けて弾性変形することで取付孔を通過し、その後、フランジが見付け面に当接されるまでの間に係止片部が元の状態に復帰して縦框部材の内表面に対向される。また、フランジが見付け面に当接された場合には、押圧片部がそれぞれ取付孔の内周面に圧接された状態となる。従って、ネジ部材等の取付部材を用いなくても、縦框部材に対してがたつくことなく掘込引手を取り付けることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭57−38081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、障子の框部材には、成型段階で見付け面に手掛かりとして機能させるための溝状凹部を設けるようにしたものがある。この種の障子によれば、掘込引手を取り付けずとも、障子を開閉させることができるため、製造コストの点や製造時の取り扱い部品点数の点で有利となる。しかしながら、成型段階で設けることのできる溝状凹部の寸法には制限がある。このため、障子の中には、製造段階で溝状凹部を設けた框部材に対してさらに掘込引手を設けるようにしたものもある。
【0008】
ここで、溝状凹部が設けられた框部材に対して取り付けられる掘込引手は、引手本体のフランジが、溝状凹部の両側に位置する見付け面に当接する一方、取付片の係止片部が、溝状凹部の底壁を構成する部分に形成された取付孔を通過して底壁の内表面に対向配置されることになる。つまり、框部材の見付け面と溝状凹部の底壁とに段差があるため、取付片の取付基部に設けられる係止片部の長さを十分に確保することが困難となり、係止片部を弾性変形させて框部材の取付孔に挿入する際に大きな操作力が必要となる。特に、掘込引手をステンレス等の金属で成型した場合には、係止片部を弾性変形させる際に必要となる操作力がより一層大きなものとなるため、框部材の見付け面から取付孔の内部に掘込引手を押し込んだ場合にも掘込引手を取り付けることが困難となる場合がある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みて、取付対象となる框部材の表面形状に関わらず、取り付け操作を容易に行うことのできる障子用掘込引手及び障子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る障子用掘込引手は、裏面が凸部となるように表面に手掛かり用凹部を設けた引手本体と、前記引手本体の凸部に取付基部を介して取り付けた取付片とを有し、前記引手本体の凸部を框部材に設けた取付孔に挿入した場合に前記取付基部の端部に設けた押圧片部を前記取付孔の内周面に圧接させ、かつ前記取付基部の端部に設けた係止片部を前記框部材の内表面に対向させることにより、前記框部材に取り付けられる障子用掘込引手であって、前記取付基部の端部において前記係止片部の基端との間となる部分には、前記引手本体の凸部から前記取付基部の延在方向に沿って突出し、前記引手本体の凸部を前記取付孔に挿通する際に前記取付孔の周囲に当接することにより、前記引手本体との接触線を軸として弾性変形する延長突出部が設けられ、前記引手本体は、手掛かり用凹部の周囲にフランジを有し、前記押圧片部は、前記延長突出部から前記フランジに近接する方向に屈曲して延在し、かつその先端面と前記フランジとの間に隙間を確保するように設けられたものであり、前記引手本体の凸部を前記取付孔に挿通する際に前記延長突出部が弾性変形した場合は前記押圧片部の先端面が前記フランジの裏面に当接することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、引手本体の凸部を框部材の取付孔に挿通する際に取付基部の延長突出部が引手本体の接触線を軸として弾性変形し、係止片部が取付孔に対して変形し易い姿勢となるため、取付孔に挿通させる際の操作力を低減することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る障子用掘込引手は、裏面が凸部となるように表面に手掛かり用凹部を設けた引手本体を備えるとともに、前記引手本体の凸部には押圧片部及び係止片部を一体に形成し、前記引手本体の凸部を框部材に設けた取付孔に挿入した場合に前記押圧片部を前記取付孔の内周面に圧接させ、かつ前記係止片部を前記框部材の内表面に対向させることにより、前記框部材に取り付けられる障子用掘込引手であって、前記引手本体の凸部と前記係止片部の基端との間となる部分には、前記引手本体の凸部から該凸部の底壁に沿って突出し、前記引手本体の凸部を前記取付孔に挿通する際に前記取付孔の周囲に当接することにより、前記引手本体の凸部との接合境界線を軸として弾性変形する延長突出部が設けられ、前記引手本体は、手掛かり用凹部の周囲にフランジを有し、前記押圧片部は、前記延長突出部から前記フランジに近接する方向に屈曲して延在し、かつその先端面と前記フランジとの間に隙間を確保するように設けられたものであり、前記引手本体の凸部を前記取付孔に挿通する際に前記延長突出部が弾性変形した場合は前記押圧片部の先端面が前記フランジの裏面に当接することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、引手本体の凸部を框部材の取付孔に挿通する際に延長突出部が引手本体の凸部との接合境界線を軸として弾性変形し、係止片部が取付孔に対して変形し易い姿勢となるため、取付孔に挿通させる際の操作力を低減することが可能となる。
【0015】
この発明によれば、押圧片部がフランジに当接することで延長突出部の弾性変形が制限されることになり、係止片部に効率よく力が加えられることになる。
【0016】
また本発明は、上述した障子用掘込引手において、前記框部材の見付け面に前記框部材の長手方向に沿った溝状凹部を有するとともに、前記溝状凹部の底壁に前記取付孔を有した障子を取付対象とし、前記フランジを前記框部材の見付け面に当接させた場合に、前記フランジと、前記溝状凹部の底壁との間の隙間を覆うように、前記フランジにカバー部を設けたことを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、引手本体のフランジを框部材の見付け面に当接させた場合に、フランジと溝状凹部の底壁との間の隙間がカバー部によって覆われることになり、外観品質の向上を図ることができる。
【0018】
また本発明に係る障子は、上述したいずれかに記載の障子用掘込引手を前記框部材に取り付けたことを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、取付片を框部材の取付孔に挿通する際に延長突出部が引手本体の接触線を軸として弾性変形し、係止片部が取付孔に対して変形し易い姿勢となるため、取付孔に挿通させる際の操作力を低減することが可能となる。
【0020】
また本発明は、上述した障子において、前記取付孔の両端隅部を弧状に形成し、前記押圧片部の両側縁部をそれぞれ前記取付孔の内周面において弧状に形成した部分に当接させることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、框部材の見込み面に沿った掘込引手の2方向の移動が制限されることになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、引手本体の凸部を框部材の取付孔に挿通する際に延長突出部が弾性変形し、係止片部が取付孔に対して変形し易い姿勢となるため、取付孔に挿通させる際の操作力を低減することが可能となり、例えば係止片部の長さを十分に確保することが困難な場合であっても、掘込引手を容易に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施の形態1である障子用掘込引手の分解斜視図である。
図2-1】図2−1は、図1に示した掘込引手とその取付対象となる框部材とを示す分解斜視図である。
図2-2】図2−2は、図1に示した掘込引手を框部材に取り付けた状態の斜視図である。
図3-1】図3−1は、図1に示した掘込引手とその取付対象となる框部材とを示す横断面図である。
図3-2】図3−2は、図1に示した掘込引手を框部材に取り付けた状態の横断面図である。
図4図4は、図1に示した掘込引手の取付対象となる框部材の要部を示す図である。
図5-1】図5−1は、図1に示した掘込引手を框部材に取り付ける状態の縦断面図である。
図5-2】図5−2は、図1に示した掘込引手を框部材に取り付けた状態の縦断面図である。
図6図6は、図1に示した掘込引手を框部材に取り付ける状態を順に示した要部断面図である。
図7-1】図7−1は、本発明の実施の形態2である障子用掘込引手を框部材に取り付ける状態の縦断面図である。
図7-2】図7−2は、図7−1に示した掘込引手を框部材に取り付けた状態の縦断面図である。
図8図8は、図7−1に示した掘込引手を框部材に取り付ける状態を順に示した要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る障子用掘込引手及び障子の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1である掘込引手を示したものである。ここで例示する掘込引手10は、図2−1〜図3−2に示すように、左右方向にスライドする障子の縦框部材30を取付対象とするものである。掘込引手10の取付対象となる縦框部材30は、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属によって成型した押し出し形材であり、全長にわたってほぼ一様な断面形状を有するように構成してある。この縦框部材30には、室内側に臨む見付け面に溝状凹部31及び取付孔32が設けてある。溝状凹部31は、縦框部材30の長手方向に沿って延在したもので、指先を挿入して引掛けることのできる深さ、例えば10mm程度の深さを有するように形成してある。取付孔32は、溝状凹部31の底壁31aに縦框部材30の長手方向に沿って形成した開口である。取付孔32の両端部は、図4に示すように、中央部よりもわずかに幅が狭くなるように形成してあり、さらに両側の四隅部にそれぞれ弧状に形成した弧状部32aを有している。
【0026】
この縦框部材30を取付対象とする掘込引手10は、溝状凹部31に形成した取付孔32を介して装着するもので、図1及び図5−1に示すように、引手本体110と取付片120とを備えている。本実施の形態1の引手本体110及び取付片120は、それぞれステンレス等の金属によって成型したものである。
【0027】
引手本体110は、縦框部材30の見付け面に現れる部分であり、溝状凹部31とほぼ同等の幅を有した薄板を成型することによって構成してある。引手本体110には、表面に手掛かり用凹部111が設けてあるとともに、手掛かり用凹部111の周囲にフランジ112が設けてある。
【0028】
手掛かり用凹部111は、裏面が凸部113となるように引手本体110の表面に形成したものである。手掛かり用凹部111の両端部は、フランジ112に向かうに従って漸次互いに離隔するように傾斜している。この手掛かり用凹部111は、縦框部材30に形成した溝状凹部31よりも大きな深さを有し、かつ裏面の凸部113が縦框部材30の取付孔32に挿入することのできる寸法となるように形成してある。
【0029】
フランジ112は、裏面を介して縦框部材30の見付け面に当接される部分であり、全周が同一の平面上となるように構成してある。フランジ112の両端部には、カバー部114が一体に設けてある。カバー部114は、それぞれのフランジ112の端部から裏面側に向けて屈曲した薄板部分である。このカバー部114は、図5−1及び図5−2に示すように、裏面の凸部113を溝状凹部31から取付孔32に挿入し、かつフランジ112の裏面を縦框部材30の見付け面に当接させた場合に、溝状凹部31の底壁31aに対して直角となる姿勢で溝状凹部31に配置され、取付孔32が溝状凹部31を介して外部から見えないように覆い隠す機能を有している。
【0030】
取付片120は、薄板状の部材を成型することによって構成したもので、図1及び図5−1に示すように、取付基部121、押圧片部122及び係止片部123を有している。取付基部121は、矩形の平板状を成す部材である。この取付基部121は、長手方向において、引手本体110の裏面に突出する凸部113の底壁長手方向よりも長く形成してあり、両端部が凸部113の両端からそれぞれ突出した状態で凸部113の底壁に固定してある。取付基部121において凸部113の両端から突出した延長突出部121aは、それぞれ同じ長さを有している。取付基部121の短手方向は、取付孔32の端部に当接させた場合に、延長突出部121aの両縁部がそれぞれ取付孔32の弧状部32aに当接するように構成してある。取付基部121を引手本体110の裏面に固定する方法としては、例えば両者の間を複数箇所でスポット溶接により固着すれば良い。
【0031】
押圧片部122は、取付基部121と同じ幅を有したもので、取付基部121の両端部に位置する延長突出部121aからそれぞれ引手本体110のフランジ112に近接する方向に屈曲している。押圧片部122の先端とフランジ112の裏面との間には、隙間が確保してある。2つの押圧片部122は、先端に向けて漸次相互間隔が大きくなるように傾斜している。2つの押圧片部122の先端部相互間には、取付孔32の長手方向に沿った開口長さよりも大きな寸法が確保してある。また、図5−1に示すように、一方の押圧片部122のみを取付孔32に挿通させて斜めの姿勢となった状態においては、取付基部121のもう一方の端部が取付孔32の開口端をわずかに超えた位置となり、取付孔32に挿通不可となるように、取付基部121の寸法及び押圧片部122の屈曲角度が設定してある。
【0032】
係止片部123は、図1に示すように、押圧片部122の幅方向中央部において延長突出部121aとの屈曲部近傍を切り起こすことによって構成した小片状部分であり、先端部が押圧片部122よりも外側に突出している。2つの係止片部123は、先端に向けて漸次相互間隔が大きくなるように傾斜している。2つの係止片部123の先端部相互間には、取付孔32の長手方向に沿った開口長さよりも大きな寸法が確保してある。この係止片部123は、フランジ112の裏面を縦框部材30の見付け面に当接させた場合に、取付孔32を通過し、先端が溝状凹部31の底壁31aに対して内表面から対向できるように、延長突出部121aからの寸法が設定してある。
【0033】
上記のように構成した掘込引手10を縦框部材30に取り付けるには、図5−1に示すように、一方の押圧片部122のみを取付孔32に挿通させて斜めの姿勢とし、この状態からもう一方の端部を取付孔32の内部に押し込んで図5−2に示すように、凸部113を取付孔32の内部に配置させれば良い。すなわち、一方の押圧片部122のみを取付孔32に挿通させて斜めの姿勢とした場合には、図6の(a)に示すように、取付基部121のもう一方の延長突出部121aが取付孔32の開口端をわずかに超えた位置となる。従って、この部分を押し込むように掘込引手10に力を加えると、図6の(b)に示すように、取付基部121において凸部113から突出した延長突出部121aが凸部113との接触線Cを軸としてフランジ112の裏面に近接する方向に弾性変形する。これにより、取付基部121が取付孔32の内部に配置されるとともに、凸部113からの突出長さが短くなるため、延長突出部121aから屈曲した押圧片部122及び係止片部123がそれぞれ取付孔32に挿入し易い傾斜角度となって取付孔32の内部に案内される。
【0034】
しかも、押圧片部122の先端がフランジ112の裏面に当接した後においては、延長突出部121aの弾性変形が進行しないため、掘込引手10を押し込む力が取付孔32の開口縁部に当接した係止片部123に効率よく伝えられることになり、大きな操作力を加えなくても係止片部123が内方に向けて弾性変形されることになる。その後、図6の(c)に示す状態を経て図6の(d)に示すように、係止片部123の先端が取付孔32を通過した時点で係止片部123及び延長突出部121aがそれぞれ元の状態に復帰し、係止片部123の先端が底壁31aの内表面に対向された状態となるとともに、取付片120の押圧片部122が取付孔32において弧状部32aの内周面に圧接された状態となる。押圧片部122が取付孔32の弧状部32aに圧接された状態においては、取付孔32の長手方向及び短手方向への取付片120の移動が制限されることになる。これらの結果、ネジ部材等の取付部材を用いなくても、縦框部材30に対してがたつくことなく掘込引手10を取り付けることができるようになる。
【0035】
尚、上述した実施の形態1では、左右方向にスライドする障子の縦框部材を取付対象とした掘込引手を例示しているが、上下方向にスライドする障子に対して上框部材及び下框部材を取付対象としてももちろん良い。また、見付け面に溝状凹部を有した框部材を取付対象としているが、溝状凹部を有していない框部材にも取り付けることは可能である。
【0036】
さらに、上述した実施の形態1では、取付基部の両端部に延長突出部を設けるようにしているが、取付基部の少なくとも一方の端部に延長突出部を設ければ十分である。また、押圧片部を切り起こすことによって係止片部を構成しているが、押圧片部と係止片部とは互いに独立した位置に設けても良い。
【0037】
また、上述した実施の形態1では、掘込引手の引手本体及び取付片を金属によって成型するようにしているが、必ずしも金属によって成型する必要はなく、例えば以下に示す実施の形態2のように樹脂によって成形しても構わない。
【0038】
(実施の形態2)
図7図8は、掘込引手を樹脂によって一体成形した本発明の実施の形態を示したものである。ここで例示する掘込引手20は、実施の形態1と同様、左右方向にスライドする障子の縦框部材30を取付対象とするもので、溝状凹部31の取付孔32に取り付ける掘込引手20の構成のみが異なっている。以下、実施の形態1と相違する部分を中心に説明を行う。尚、実施の形態1と同様の構成については同一の符号を付している。
【0039】
掘込引手20の引手本体210には、表面に手掛かり用凹部211が設けてあるとともに、手掛かり用凹部211の周囲にフランジ212が設けてある。
【0040】
手掛かり用凹部211は、裏面が凸部213となるように引手本体210の表面に形成したものである。手掛かり用凹部211の両端部は、フランジ212に向かうに従って漸次互いに離隔するように傾斜している。この手掛かり用凹部211は、縦框部材30に形成した溝状凹部31よりも大きな深さを有し、かつ裏面の凸部213が縦框部材30の取付孔32に挿入することのできる寸法となるように形成してある。
【0041】
フランジ212は、裏面を介して縦框部材30の見付け面に当接される部分であり、全周が同一の平面上となるように構成してある。フランジ212の両端部には、カバー部214が一体に設けてある。カバー部214は、それぞれのフランジ212の端部から裏面側に向けて屈曲した薄板部分である。このカバー部214は、図7−1及び図7−2に示すように、裏面の凸部213を溝状凹部31から取付孔32に挿入し、かつフランジ212の裏面を縦框部材30の見付け面に当接させた場合に、溝状凹部31の底壁31aに対して直角となる姿勢で溝状凹部31に配置され、取付孔32が溝状凹部31を介して外部から見えないように覆い隠す機能を有している。
【0042】
また、引手本体210の凸部213には、延長突出部213a、押圧片部222及び係止片部223が設けてある。延長突出部213aは、矩形の平板状を成す部材であり、引手本体210の裏面に突出する凸部213の長手方向両端部からそれぞれ凸部213の底壁に沿って延在するように形成してある。延長突出部213aの短手方向は、実施の形態1と同様、取付孔32の端部に当接させた場合に、延長突出部213aの両縁部がそれぞれ取付孔32の弧状部(図示せず)に当接するように構成してある。
【0043】
押圧片部222は、延長突出部213aと同じ幅を有したもので、延長突出部213aからそれぞれ引手本体210のフランジ212に近接する方向に屈曲している。押圧片部222の先端とフランジ212の裏面との間には、隙間が確保してある。2つの押圧片部222は、先端に向けて漸次相互間隔が大きくなるように傾斜している。2つの押圧片部222の先端部相互間には、取付孔32の長手方向に沿った開口長さよりも大きな寸法が確保してある。また、図7−1に示すように、一方の押圧片部222のみを取付孔32に挿通させて斜めの姿勢となった状態においては、延長突出部213aのもう一方の端部が取付孔32の開口端をわずかに超えた位置となり、取付孔32に挿通不可となるように、延長突出部213aの寸法及び押圧片部222の屈曲角度が設定してある。
【0044】
係止片部223は、押圧片部222の幅方向中央部において延長突出部213aとの屈曲部近傍を切り起こすことによって構成した小片状部分であり、先端部が押圧片部222よりも外側に突出している。2つの係止片部223は、先端に向けて漸次相互間隔が大きくなるように傾斜している。2つの係止片部223の先端部相互間には、取付孔32の長手方向に沿った開口長さよりも大きな寸法が確保してある。この係止片部223は、フランジ212の裏面を縦框部材30の見付け面に当接させた場合に、取付孔32を通過し、先端が溝状凹部31の底壁31aに対して内表面から対向できるように、延長突出部213aからの寸法が設定してある。
【0045】
上記のように構成した掘込引手20を縦框部材30に取り付けるには、図7−1に示すように、一方の押圧片部222のみを取付孔32に挿通させて斜めの姿勢とし、この状態からもう一方の端部を取付孔32の内部に押し込んで図7−2に示すように、凸部213を取付孔32の内部に配置させれば良い。すなわち、一方の押圧片部222のみを取付孔32に挿通させて斜めの姿勢とした場合には、図8の(a)に示すように、もう一方の端部から突出する延長突出部213aが取付孔32の開口端をわずかに超えた位置となる。従って、この部分を押し込むように掘込引手20に力を加えると、図8の(b)に示すように、延長突出部213aが凸部213との接合境界線C′を軸としてフランジ212の裏面に近接する方向に弾性変形する。これにより、延長端部121aが取付孔32の内部に配置されるとともに、凸部213からの突出長さが短くなるため、延長突出部213aから屈曲した押圧片部222及び係止片部223がそれぞれ取付孔32に挿入し易い傾斜角度となって取付孔32の内部に案内される。
【0046】
しかも、押圧片部222の先端がフランジ212の裏面に当接した後においては、延長突出部213aの弾性変形が進行しないため、掘込引手20を押し込む力が取付孔32の開口縁部に当接した係止片部223に効率よく伝えられることになり、大きな操作力を加えなくても係止片部223が内方に向けて弾性変形されることになる。その後、図8の(c)に示す状態を経て図8の(d)に示すように、係止片部223の先端が取付孔32を通過した時点で係止片部223及び延長突出部213aがそれぞれ元の状態に復帰し、係止片部223の先端が底壁31aの内表面に対向された状態となるとともに、取付片120の押圧片部222が取付孔32において弧状部32aの内周面に圧接された状態となる。押圧片部222が取付孔32の弧状部32aに圧接された状態においては、取付孔32の長手方向及び短手方向への取付片120の移動が制限されることになる。これらの結果、ネジ部材等の取付部材を用いなくても、縦框部材30に対してがたつくことなく掘込引手20を取り付けることができるようになる。
【符号の説明】
【0047】
10,20 掘込引手、30 縦框部材、31 溝状凹部、31a 底壁、32 取付孔、32a 弧状部、110,210 引手本体、111,211 手掛かり用凹部、112,212 フランジ、113,213 凸部、120 取付片、121 取付基部、121a,213a 延長突出部、122,222 押圧片部、123,223 係止片部、C 接触線、C′ 接合境界線
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8