特許第6306384号(P6306384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 増田 茂の特許一覧 ▶ 枝村 良香の特許一覧 ▶ 大川原化工機株式会社の特許一覧

特許6306384植物栽培における灌水の供給制御方法及びそのコントローラ
<>
  • 特許6306384-植物栽培における灌水の供給制御方法及びそのコントローラ 図000003
  • 特許6306384-植物栽培における灌水の供給制御方法及びそのコントローラ 図000004
  • 特許6306384-植物栽培における灌水の供給制御方法及びそのコントローラ 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306384
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】植物栽培における灌水の供給制御方法及びそのコントローラ
(51)【国際特許分類】
   A01G 27/00 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   A01G27/00 504B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-54132(P2014-54132)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-173653(P2015-173653A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】592025340
【氏名又は名称】増田 茂
(73)【特許権者】
【識別番号】306026566
【氏名又は名称】枝村 良香
(73)【特許権者】
【識別番号】000206439
【氏名又は名称】大川原化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】増田 茂
(72)【発明者】
【氏名】天野 善光
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−103453(JP,U)
【文献】 特開平09−000059(JP,A)
【文献】 米国特許第05634342(US,A)
【文献】 飽差を計算してみた。,2013年12月19日,URL,http://bigbearfarm.blog.fc2.com/blog-entry-306.html
【文献】 昆吉則,ミスト設備と炭酸ガス濃度制御で施設内の光合成環境を管理する,農業経営者,日本,株式会社農業技術通信社,2012年 5月18日,2012年6月号,p.71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/16,27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果菜類の植物栽培における灌水の供給制御方法において、
地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定することにより、地上部環境を検知するとともに、
土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定することにより、地下部環境を検知し、
検知された前記地上部環境と前記地下部環境に基づいて、灌水のタイミング及び灌水量を制御する、灌水の供給制御方法であり、
予め前記地上部環境の、蒸散が行われる所期飽差を設定するとともに、前記地上部で測定された気温及び湿度から飽差を算出し、当該算出した飽差が、前記所期飽差になった際に、且つ、
予め前記地下部環境の所期水分量を設定するとともに、前記地下部で測定された水分量が、前記所期水分量以下になった際に、土壌に灌水を行う灌水の供給制御方法。
【請求項2】
前記所期飽差が3〜6g/mである請求項に記載の灌水の供給制御方法。
【請求項3】
植物栽培の栽培領域が複数区画された施設内において、複数の栽培領域毎に灌水のタイミング及び灌水量を制御する請求項1または2に記載の灌水の供給制御方法。
【請求項4】
果菜類の植物栽培における灌水の供給制御コントローラにおいて、
地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定するための、地上部環境の第一検知手段と、
土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定するための、地下部環境の第二検知手段と、
前記第一検知手段及び前記第二検知手段により検知された前記地上部環境と前記地下部環境に基づいて、適切なタイミングでかつ適切な灌水量で灌水を行うための灌水手段と、を備える、灌水コントローラであり、
予め前記地上部環境の、蒸散が行われる所期飽差を設定するとともに、前記地上部で測定された気温及び湿度から飽差を算出し、当該算出した飽差が、前記所期飽差になった際に、且つ、
予め地下部環境の所期水分量を設定するとともに、前記地下部で測定された水分量が、前記所期水分量以下になった際に、土壌に灌水を行う灌水コントローラ。
【請求項5】
前記所期飽差が3〜6g/mである請求項に記載の灌水コントローラ。
【請求項6】
植物栽培の栽培領域が複数区画された施設内において、複数の栽培領域毎に灌水のタイミング及び灌水量を制御する請求項4又は5に記載の灌水コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌水の供給制御方法及び灌水のコントローラに関する。特に、植物栽培の高生産のための植物体の地下部および地上部の両環境管理型灌水の供給方法及び灌水のコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの植物栽培は、特にトマトなどの果菜類の栽培において、立ち枯れ・根腐れ・尻腐れ・裂果、更には耐病性劣化などの問題を抱えていた。そのため、これまで、品種改良や栽培技術などの様々な方法によって、これら問題の解決が試みられている。
【0003】
しかし、現実には根本的な解決には至っておらず、これら諸問題を解決可能な栽培技術などの対策が求められている。
【0004】
ここで、その植物体の多くの生命維持は、光をエネルギー原として、二酸化炭素(以下COという)と水を吸収することで、炭水化物を合成する生化学反応である光合成によって行われている。そして、光・CO・水は、この光合成の三大要素として知られている。具体的には、光は、主に、植物体の葉面で受光され、COは植物体の葉面(多くが葉の裏面側)に点在する気孔内に吸収され、そして水は土壌溶液として、根から吸収される。
【0005】
このことから、従来の植物栽培では、単純に、光とCOは植物体の葉とそこに点在する気孔が属する地上部環境として、また、水は植物体の根が属する地下部環境として、各々個別に扱われて来た。従って、従来の植物栽培における、土壌への灌水方法は、土壌水分の過不足のみの概念で管理され、実行されている。
【0006】
たとえば、非特許文献1によれば、施設内で栽培されたトマトの吸水量のうち、95%以上が蒸散に使われていたと報告されている。なお、「蒸散」とは、水が植物体から大気中に蒸発する現象をいい、植物の地上部から大気中へ水蒸気が放出される現象をいう。蒸散の大部分は葉の裏側で起こるが、これは、蒸散の行われる気孔が裏側に集中しているためで、葉の表側や茎、花、果実においても見られる現象である。
【0007】
更に、非特許文献2によれば、気孔を開かせるという意味で、湿度(以下、適宜「飽差」という)管理は極めて重要であるが、わが国の施設栽培でCO施肥の効果がしばしば確認できないのは、湿度管理ができていないことが原因であると報告されている。更に、非特許文献2によれば、また、気孔を開かせるのに適した「飽差」は3〜5g/mとされている。更にわが国の栽培ハウスで測定した結果では、特に冬季に異常乾燥注意報が発令されているような気象条件では、ハウス内の湿度もかなり低くなっており、気温や光強度は十分な状態であっても、飽差が大きいために気孔は閉じている可能性が高いと報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−281842号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】施設栽培におけるトマトの果実裂果発生要因の解析(東京農大農学報集50(4),106−111(2006))
【非特許文献2】高生産性オランダトマトの発展に見る環境・栽培技術(池田英男著(千葉大学環境健康フィールド科学センター)
【非特許文献3】リーフソーラー点滴かん水装置を利用した‘デラウェア’の高品質多収生産(島根県「農業技術センターだより」第10号 2010.12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、気孔の役割は、COを吸収すると共に、蒸散という重要な作用を行うためにある。この蒸散による作用から、植物体内の水分の流れが根から葉まで生じ、外部(土壌)から植物体の根への水の吸収が行われることになる。
【0011】
しかし、従来の植物栽培では、土壌水分の過不足に重点を置いた灌水が行われている。近年では、非特許文献1及び2のように、地上部環境の管理が注目され実施され始めるも、土壌水分の過不足については考慮されていない。また、土壌水分と地上部環境による蒸散等の作用からくる水分吸収の連関については十分に考慮されていない。その結果、立ち枯れ・根腐れ・尻腐れ・裂果、更には耐病性劣化などの問題が生じやすく、植物体の生育を妨げている。
【0012】
したがって、植物栽培における土壌水分(養液も含め)の供給の実行には、気孔の開閉状態の把握が重要といえるところ、これまでの植物栽培では十分な取り組みがなされていない。
【0013】
なお、上記非特許文献の他に、従来の灌水方法として、タイマーによって、時間軸のみの概念で土壌へ供給し、その土壌水分がある程度一定水分値を維持する灌水方法が行われている(特許文献1)。しかし、当該特許文献1の灌水方法では、土壌や植物の関係知識や栽培経験に大きく左右されるものであり、植物体に対してではなく、土壌水分といった地下部環境のみに管理の重点が置かれるものであった。そのため、適切な灌水のタイミング及び灌水量を制御し難いものであった。
【0014】
更に、上記特許文献1には、水分センサーによって予め設定した水分値を下回らないように土壌へ供給し、その土壌水分が一定水分値を維持する灌水方法が行われている。しかし、特許文献1の灌水方法では、知識や経験に左右される要因は緩和されるものの、土壌と植物の関係に大きく左右される。更に、植物体に対してではなく、土壌水分といった地下部環境のみに管理の重点が置かれるものであった。そのため、適切な灌水のタイミング及び灌水量を制御し難いものであった。
【0015】
更に、従来の灌水方法として、日射量と葉面積指数(LAI)に応じて、灌水量を自動的に定めて土壌へ供給し、葉面積に灌水量の根拠を求める灌水方法が行われている(非特許文献3)。しかし、当該非特許文献3の灌水方法では、灌水量を所定量に制限できるものの、土壌の物理性に関しての具体的な定量性がなく、土壌水分状態は不明確である。更に、非特許文献3の灌水方法では、所定量の灌水量を定めるものの、その供給タイミングは地上部環境のみとなっている。更に、植物体を考慮するものの、一部の概観に対する理想土壌水分要求量となっている。そのため、非特許文献3の灌水方法では、適切な灌水のタイミング及び灌水量を制御し難いものであった。
【0016】
このように、いずれの植物栽培における灌水の供給方法及び灌水装置においても、植物体の属する地下部環境及び地上部環境の其々を独立に管理するものであるため、植物体に対して、適切な灌水のタイミング及び灌水量を制御するものではなく、適切な灌水を行うための改良が望まれる。
【0017】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、植物栽培の高生産のための、灌水のタイミング及び灌水量を制御する、植物栽培における灌水の供給方法及びそのコントローラを提供することにある。特に、植物体の地下部および地上部の両環境管理型の、植物栽培における灌水の供給方法及びそのコントローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明において、以下の灌水の供給制御方法及び灌水コントローラが提供される。
【0019】
[1] 果菜類の植物栽培における灌水の供給制御方法において、地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定することにより、地上部環境を検知するとともに、土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定することにより、地下部環境を検知し、検知された前記地上部環境と前記地下部環境に基づいて、灌水のタイミング及び灌水量を制御する、灌水の供給制御方法であり、予め前記地上部環境の、蒸散が行われる所期飽差を設定するとともに、前記地上部で測定された気温及び湿度から飽差を算出し、当該算出した飽差が、前記所期飽差になった際に、且つ、予め前記地下部環境の所期水分量を設定するとともに、前記地下部で測定された水分量が、前記所期水分量以下になった際に、土壌に灌水を行う灌水の供給制御方法。
【0021】
] 前記所期飽差が3〜6g/mである[]に記載の灌水の供給制御方法。
【0023】
] 植物栽培の栽培領域が複数区画された施設内において、複数の栽培領域毎に灌水のタイミング及び灌水量を制御する[1]または2]に記載の灌水の供給制御方法。
【0024】
果菜類の植物栽培における灌水の供給制御コントローラにおいて、地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定するための、地上部環境の第一検知手段と、土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定するための、地下部環境の第二検知手段と、前記第一検知手段及び前記第二検知手段により検知された前記地上部環境と前記地下部環境に基づいて、適切なタイミングでかつ適切な灌水量で灌水を行うための灌水手段と、を備える、灌水コントローラであり、予め前記地上部環境の、蒸散が行われる所期飽差を設定するとともに、前記地上部で測定された気温及び湿度から飽差を算出し、当該算出した飽差が、前記所期飽差になった際に、且つ、予め地下部環境の所期水分量を設定するとともに、前記地下部で測定された水分量が、前記所期水分量以下になった際に、土壌に灌水を行う灌水コントローラ。
【0026】
] 前記所期飽差が3〜6g/mである[]に記載の灌水コントローラ。
【0028】
] 植物栽培の栽培領域が複数区画された施設内において、複数の栽培領域毎に灌水のタイミング及び灌水量を制御する[又は5]に記載の灌水コントローラ。
【発明の効果】
【0029】
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法及びそのコントローラでは、植物体への灌水のタイミング及び灌水量を適切に制御して、植物栽培の高生産を実現することにある。特に、植物体の地下部および地上部の両環境を管理して、植物体への灌水のタイミング及び灌水量を適切に制御し、植物栽培の高生産を実現することにある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の灌水の供給制御方法のフロー図である。
図2図2は、本発明の灌水コントローラの説明図であって模式図である。
図3図3は、植物栽培をする施設の平面図であって模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について、適宜図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明に係る要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明に係る実施形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0032】
[1]本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法:
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法は、地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定することにより、地上部環境を検知するとともに、更に、土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定することにより、地下部環境を検知し、検知された地上部環境と地下部環境に基づいて、灌水のタイミング及び灌水量を制御する、灌水の供給制御方法である。
【0033】
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法は、概ね、図1に示されるように、地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定する「気温及び湿度測定ステップ(S1)」と、当該気温及び湿度測定ステップ(S1)の測定結果に基づいて、地上部環境を検知する「地上部環境検知ステップ(S2)」と、土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定する「土壌測定ステップ(S3)」と、土壌測定ステップ(S3)の測定結果に基づいて、地下部環境を検知する「地下部環境検知ステップ(S4)」と、上記「地上部環境検知ステップ(S2)」と「地下部環境検知ステップ(S4)」の検知結果に基づいて、灌水のタイミングを制御する「灌水タイミング制御ステップ(S5)」と、上記「地上部環境検知ステップ(S2)」と「地下部環境検知ステップ(S4)」の検知結果に基づいて、灌水の灌水量を制御する「灌水量制御ステップ(S6)」の各ステップから構成されている。
【0034】
[1−1]気温及び湿度測定ステップ(S1):
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法において、地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定するのは、「気温及び湿度測定ステップ(S1)」で行われる。たとえば、図2で示されるように、地上部9の測定したい箇所に気温センサー3a、湿度センサー3b等のセンサーを少なくとも其々1個、好ましくは其々複数個セッティングし、当該センサーによって、気温及び湿度が測定されることにより、当該ステップの処理を実現してもよい。ただし、この例に限定されるものではなく、たとえば、上記センサーは公知のセンサー等を利用できる。
【0035】
ここで、「地上部9」とは、土壌より上方側にある部分を意味し、例えば、図2に示されるように、植物体13のうち土壌より現出した部分及び、土壌より上方側の空間も含まれる。なお、施設内で植物体13が栽培される場合には、土壌より上方側の空間は、施設内の空間を意味する。「地上部9の気温および湿度を「間欠的」に測定する」とは、地上部9の気温および湿度を、連続的でなく間隔をおいて測定することを意味し、当該「間欠的に測定」するものには、「一定の時間毎に規則的」に測定することのみならず、「所定時間」に測定することも含まれる。たとえば、「一定の時間毎に規則的」に測定する例としては、1時間毎、3時間毎、5時間毎等、定まった時間毎に規則的に測定するものが含まれる。また、「所定時間」に測定する例としては、朝夕の6時に測定するもの等、或いは、朝6時から12時までの1時間毎に測定した後、昼3時から6時までの1時間毎に測定するもの等が含まれる。ただし、この例に限定されるものではない。「地上部の気温および湿度を「連続的」に測定する」とは、地上部の気温および湿度を「続けて」測定することを意味する。
【0036】
[1−2]地上部環境検知ステップ(S2):
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法において、地上部環境を検知するのは、「地上部環境検知ステップ(S2)」で行われる。当該「地上部環境検知ステップ(S2)」は、上記「気温及び湿度測定ステップ(S1)」の測定結果に基づいて、地上部環境を検知するステップである。たとえば、図2に示されるように、土壌より上の「地上部環境9」の気温及び湿度を測定し、当該測定結果から土壌より上の「地上部環境9」を検知させて、当該ステップの処理を実現してもよい。ただし、この例に限定されるものではない。
【0037】
具体的には、図1に示されるように、気温及び湿度測定ステップ(S1)で、測定された気温、湿度のデーターが、当該「地上部環境検知ステップ(S2)」に収集される。更に、当該「地上部環境検知ステップ(S2)」では、地上部環境の気温について、期待する気温(所期気温)を予め設定し、当該所期気温に対して、測定された地上部環境の気温が高いか或いは低いか等を判定できることが好ましい。このような判定が可能であると、地上部の気温を、植物体の生育に最適な温度に調整しやすい。同様に、当該「地上部環境検知ステップ(S2)」では、地上部環境の湿度について、期待する湿度(所期湿度)を予め設定し、当該所期湿度に対して、測定された地上部環境の湿度が高いか或いは低いか等を判定できることが好ましい。このような判定が可能であると、地上部の湿度を、植物体の生育に最適な温度に調整しやすい。特に、後述する「飽差」を考慮する場合に、所望の飽差にコントロールしやすくなり、灌水のタイミング及び灌水量の供給をコントロールしやすくなる。
【0038】
[1−3]土壌測定ステップ(S3):
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法において、土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定するのは、「土壌測定ステップ(S3)」で行われる。たとえば、図2に示されるように、地下部11の測定したい箇所に水分センサー5a(水分計)等のセンサーを少なくとも1個、好ましくは複数個等セッティングし、当該センサーによって、土壌の水分量が測定されることによって、当該ステップを実現してもよい。ただし、この例に限定されるものではなく、たとえば、上記センサーは公知のセンサー等を利用できる。
【0039】
ここで、「土壌中」とは、植物体を栽培する培地(土壌)内を意味し、当該「土壌中」には、例えば、植物体の地下茎、根等の周辺の土壌が含まれるが、土壌表面も広く含む。ただし、土壌表面の水分量を測定する場合にも、更に土壌中の水分量を測定することが望ましい。「土壌中の水分量を「間欠的」に測定する」とは、土壌中の水分量を、連続的でなく間隔をおいて測定することを意味し、当該「間欠的に測定」するものには、「一定の時間毎に規則的」に測定することのみならず、「所定時間」に測定することも含まれる。たとえば、「一定の時間毎に規則的」に測定する例としては、1時間毎、3時間毎、5時間毎等、定まった時間毎に規則的に測定するものが含まれる。また、「所定時間」に測定する例としては、朝夕の6時に測定するもの等、或いは、朝6時から12時までの1時間毎に測定した後、昼3時から6時までの1時間毎に測定するもの等が含まれる。ただし、この例に限定されるものではない。「土壌中の水分量を「連続的」に測定する」とは、土壌中の水分量を「続けて」測定することを意味する。
【0040】
なお、「気温及び湿度測定ステップ(S1)」において、地上部の気温及び湿度が測定される場合には、当該「地上部の気温及び湿度が測定される」タイミングと同時に、当該「土壌測定ステップ(S3)」で、土壌中の水分量が測定されることが望ましい。本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法では、植物体の属する地下部環境及び地上部環境を合わせて考慮しながら、適切な灌水のタイミング及び灌水量を制御するものであり、地下部環境及び地上部環境を同時に測定・検知することで、適切な灌水を行うためである。
【0041】
[1−4]地下部環境検知ステップ(S4):
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法において、地下部環境を検知するのは、「地下部環境検知ステップ(S4)」で行われる。当該「地下部環境検知ステップ(S4)」は、上記「土壌測定ステップ(S3)」の測定結果に基づいて、地下部環境を検知するステップである。たとえば、図2に示されるように、土壌内である「地下部環境11」の水分量を水分センサー5aで測定した、当該水分量の測定結果から、土壌内の「地下部環境」を検知させて、当該ステップを実現してもよい。ただし、この例に限定されるものではない。
【0042】
具体的には、図1に示されるように、「土壌測定ステップ(S3)」で、測定された水分量のデーターが、当該「地下部環境検知ステップ(S4)」に収集される。更に、当該「地下部環境検知ステップ(S4)」では、地下部の水分量について、期待する水分量(所期水分量)を予め設定し、当該所期水分量に対して、測定された地下部環境の水分量が多いか或いは少ないか等を判定できることが好ましい。このような判定が可能であると、地下部の水分量を、植物体の生育に最適な水分量に調整しやすい。
【0043】
[1−5]灌水タイミング制御ステップ(S5):
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法において、図2に示されるように、地上部環境9と地下部環境11に基づいて灌水のタイミングを制御するのは、図1の「灌水タイミング制御ステップ(S5)」で行われる。当該「灌水タイミング制御ステップ(S5)」は、上記「地上部環境検知ステップ(S2)」と「地下部環境検知ステップ(S4)」の検知結果に基づいて、灌水のタイミングを制御(コントロール)するステップである。なお、「灌水のタイミング」とは、灌水の供給を行う時期、時間を意味する。
【0044】
たとえば、図1に示されるように、「地上部環境検知ステップ(S2)」と「地下部環境検知ステップ(S4)」の検知結果に基づいてCPU等が内蔵されたパソコンまたはコントローラ本体1aが、灌水を行うタイミング(時期、時間等)を判定し、灌水のタイミングを決定する。更に、土壌中にセッティングされた、灌水を供給するための灌水供給管7には、灌水コントローラ本体1aからの灌水のタイミングに関する命令を受信する信号受信手段7a等が設けられ、当該命令(信号)により灌水の供給が行われるようにしてもよい。具体的には、上記「信号受信手段7a」が、灌水コントローラ本体1aからの灌水の供給をONまたはOFFにする命令を受信した後、当該「ONまたはOFF」の命令により、灌水の供給または灌水の供給の停止のいずれかになるように、灌水供給管7にスイッチング機能を設けて、灌水のタイミングをコントロールできるようにしてもよい。ただし、この例に限定されるものではない。
【0045】
[1−6]灌水量制御ステップ(S6):
本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法において、地上部環境と地下部環境に基づいて、灌水の灌水量を制御するのは、「灌水量制御ステップ(S6)」で行われる。当該「灌水量制御ステップ(S6)」は、図1に示されるように、上記「地上部環境検知ステップ(S2)」と「地下部環境検知ステップ(S4)」の検知結果に基づいて、灌水の灌水量を制御(コントロール)するステップである。なお、「灌水量」とは、灌水する量、すなわち、土壌に水分を供給する際の水分量を意味する。
【0046】
たとえば、図1に示されるように、「地上部環境検知ステップ(S2)」と「地下部環境検知ステップ(S4)」の検知結果、及び「灌水タイミング制御ステップ(S5)」の灌水を行うタイミングの判定に基づいて、CPU等が内蔵されたパソコンまたはコントローラ本体1aが、供給する灌水量を決定する。更に、土壌中にセッティングされた、灌水を供給するための灌水供給管7には、灌水コントローラ本体1aからの灌水量に関する命令を受信する信号受信手段7a等が設けられ、当該命令(信号)により灌水の供給が行われるようにしてもよい。具体的には、上記「信号受信手段7a」が、灌水コントローラ本体1aからの灌水の供給をONまたはOFFにする命令を受信した後、当該「ONまたはOFF」の命令により、灌水の供給または灌水の供給の停止のいずれかになるように、灌水供給管7にスイッチング機能を設けて、灌水量をコントロールできるようにしてもよい。ただし、この例に限定されるものではない。
【0047】
なお、当該「灌水量制御ステップ(S6)」は、上記「灌水タイミング制御ステップ(S5)」と同時に行われる。本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法では、植物体の属する地下部環境及び地上環境を合わせて考慮しながら、適切な灌水のタイミング及び灌水量を制御するものであり、これにより、適切な灌水を行いやすくするためである。
【0048】
[1−7]本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法のその他の構成:
更に、本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法においては、以下の構成を備えていてもよい。そして、以下の構成を備える場合には、これまで説明した「気温及び湿度測定ステップ(S1)」乃至「灌水量制御ステップ(S6)」の各ステップのフロー内で、或いは、更に以下の構成を備えるステップを設けて、適宜以下の構成を実現してもよい。
【0049】
更に、予め地上部環境の所期飽差を設定するとともに、地上部で測定された気温及び湿度から飽差を算出し、当該算出した飽差が、所期飽差になった際に灌水を行うことが好ましい。植物体が土壌からの水分吸収を行う際のタイミング、及び、植物体が土壌から水分吸収を行う際の水分吸収量を把握できるため、植物体への灌水のタイミング及び灌水量をより適切に制御でき、植物栽培の高生産を実現できる。更に、地上部環境と地下部環境の両環境を管理して、灌水の供給を行えるので好ましい。
【0050】
ここで、「飽差」とは、ある温度と湿度の空気に、あとどれだけ水蒸気の入る余地があるかを示す指標を意味し、空気1m当たりの水蒸気の空き容量がg数で表される(g/m)(出典:ルーラル電子図書館 現代農業用語集)。上記「予め地上部環境の所期飽差を設定する」とは、前もって地上部環境において期待する「飽差」を設定することを意味する。たとえば、上記のように「所期飽差」を設定する場合には、植物体の生長にとって良い条件の範囲の飽差を「所期飽差」として設定しても良いし、更に植物体のうち、たとえば、トマト、キュウリ、みかん等の栽培植物(植物体)の個々に適用される飽差を「所期飽差」としても良い。「地上部で測定された気温及び湿度から飽差を算出し」とは、地上部で測定された気温及び湿度から、実際の地上部の飽差を算出することを意味する。「当該算出した飽差が、所期飽差になった際」とは、地上部で測定された気温及び湿度から算出された「実際の地上部の飽差」が、上記「所期飽差になった際」を意味する。たとえば、上記「所期飽差」が一定の範囲を有するように設定された場合には、「当該算出した飽差が、所期飽差になった際に」は、地上部で測定された気温及び湿度から、算出された「実際の地上部の飽差」が、上記「所期飽差」の範囲に入った際を意味する。
【0051】
ここで、植物体の飽差を示すものとして以下の表1を例示する(出典:非特許文献2)。なお、上記表1に示される植物体の飽差のうち、点線上の数値は、植物体にとって好ましい飽差の数値であることを示している。また、本明細書中の「湿度」は相対湿度を意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
なお、当該「予め地上部環境の所期飽差を設定するとともに、地上部で測定された気温及び湿度から飽差を算出し、当該算出した飽差が、所期飽差になった際に灌水を行う」ことの決定・判断は、上記「地上部環境検知ステップ(S2)」、「灌水タイミング制御ステップ(S5)」、或いは、「灌水量制御ステップ(S6)」で行われることが好ましい。これらのステップで上記判断がされることで、植物体の地上部環境に応じた灌水の供給を行うことができる。
【0054】
更に、所期飽差が3〜6g/mであることが好ましい。所期飽差が所定範囲である場合に、植物体の蒸散が行われる。その結果、灌水のタイミング及び灌水量を十分に制御でき、植物体の生育を促進させることができる。
【0055】
一方、所期飽差が3g/m未満であると、植物体への灌水の供給が行われる場合には、植物体の生育を阻害することがある。たとえば、「実際の地上部の飽差」が3g/m未満である場合には、植物体にとって空気が湿り過ぎる(湿度が高くなり過ぎる)ため、植物体と空気に水蒸気圧差がなくなり、気孔は開いても蒸散は起こらず、COの吸収も促進されないと言われている(出典:ルーラル電子図書館 現代農業用語集)。このような場合に、土壌に灌水を供給しても、植物体は土壌中の水分量を吸収せずに、土壌中の水分量が多く成りすぎてしまい、根腐れや病気等を生じさせる場合がある。一方、相対湿度が低いと飽差は大きくなり(所期飽差が6g/m超)、つまり植物体の蒸散が多くなりやすく、蒸散量が多くなりすぎると、植物体に水分ストレスがかかり、気孔は閉鎖傾向となり、蒸散量を著しく低下させると言われている。このような場合に、土壌に灌水を供給しても、植物体は土壌中の水分量を吸収せずに、土壌中の水分量が多く成りすぎてしまい、根腐れや病気を生じさせる場合がある。
【0056】
更に、予め地下部環境の所期水分量を設定するとともに、地下部で測定された水分量が、所期水分量以下になった際に灌水を行うことが好ましい。植物体が土壌から水分吸収を行う際に必要となる水分吸収量と、現実に測定された水分量から、必要な灌水量及び、灌水のタイミングを把握することができるため、植物栽培の高生産を実現できる。更に、地上部環境と地下部環境の両環境を管理して、灌水の供給を行える。
【0057】
上記「予め地下部環境の所期水分量を設定する」とは、前もって地下部環境において、「期待する水分量を設定する」ことを意味する。たとえば、植物体の生長にとって良い条件の範囲の水分量を「所期水分量」として設定しても良いし、更に植物体のうち、たとえば、トマト、キュウリ、みかん等の栽培植物の個々に適用される水分量を「所期水分量」としても良い。「地下部で測定された水分量が、所期水分量以下になった際」とは、地下部で測定された水分量が、上記「所期水分量」になった際を意味する。たとえば、上記「所期水分量」が一定の範囲を有するように設定された場合には、「地下部で測定された水分量が、所期水分量以下になった際」は、地下部で測定された水分量が、上記「所期水分量」の範囲に入った際を意味する。なお、「地下部で測定された水分量が、所期水分量超になった際」は、土壌中の水分量が多すぎる状態であるため、灌水を行う必要がないが、当該「地下部で測定された水分量が、所期水分量超になった際」においても、所期水分量を超過したことが検知されることが好ましい。このような状態においても地下部環境を検知することで、たとえば、気温及び湿度調整を行える等といった、地上部と地下部との連携した管理を行えるためである。
【0058】
なお、当該「予め地下部環境の所期水分量を設定するとともに、地下部で測定された水分量が、所期水分量以下になった際に灌水を行う」ことの判断は、上記「土壌測定ステップ(S3)」、「灌水タイミング制御ステップ(S5)」、或いは、「灌水量制御ステップ(S6)」で行われることが好ましい。これらのステップで、上記判断がされることで、植物体の地上部環境に応じた灌水の供給を行うことができる。
【0059】
更に、植物栽培の栽培領域が複数区画された施設内において、複数の栽培領域毎に灌水のタイミング及び灌水量を制御することが好ましい。このように構成されることで、同一施設内の栽培領域毎に応じた地上部環境及び地下部環境の管理が可能となり、栽培区画毎の植物体の生育に応じた灌水供給を行える。
【0060】
たとえば、図3に示されるように、同一施設内においても、施設15内のAとBの栽培領域では、太陽光の入射角、太陽光の入射時間が異なる場合がある。また、同一施設内においても、施設15の出入り口15a近傍の栽培領域C(栽培区画)付近の気温、湿度、及び土壌中の水分量と、当該施設の出入り口から離れた栽培領域D付近の気温、湿度、及び土壌中の水分量は異なる場合がある。更に、植物体を栽培するための施設5は、合成樹脂等のフィルムを被覆した外壁として使用するもの(たとえば、ビニールハウス)が見られる。或いは、植物体を栽培するための栽培用施設は、フィルム以外の材料を外壁として使用されるもの等が見られる。これらの施設5では、外壁によって施設外と施設内が区分けされているものの、たとえば、外壁近傍にある施設5内の栽培領域のE1とE2の地上部環境及び地下部環境は、外壁近傍にある施設外の地上部環境及び地下部環境に影響されやすい。そして、外壁近傍にある施設内の栽培領域のE1とE2の地上部環境及び地下部環境は、たとえば、施設内の外壁より離れた栽培領域Fにある地上部環境及び地下部環境よりも、外壁近傍にある施設外の地上部環境及び地下部環境に影響されやすい傾向にある。したがって、同一施設内においても、栽培領域毎において地上部環境が異なるものであり、更には、同一施設内においても、栽培領域毎において地下部環境が異なるものである場合がある。
【0061】
ここで、「植物栽培の栽培領域が複数区画された施設内において」とは、同一施設内において植物栽培が行われる栽培領域が複数に区切られていることを意味する。「栽培領域が複数に区切られている」ものとしては、特に限定されるものではなく、自由選択的に栽培箇所を区分けして、当該区分けされた栽培箇所を栽培領域としてもよい。また、通路によって互いの間を区分けされた条と条の其々を栽培領域とするものでも良いし、外壁近傍にある施設内の栽培箇所と、当該栽培箇所以外の栽培箇所を夫々栽培領域としても良い。また、施設の出入り口近傍の栽培箇所と、施設の出入り口から離れた栽培箇所を夫々栽培領域としても良い。更に、植物体の種類によって栽培箇所を複数区画し栽培領域としてもよい。更に、当該栽培領域には、プランター状に区画された領域であっても良いし、栽培ポッド型に区分けされた領域、独立栽培ポッドに区分けされたもの等であっても良い。
【0062】
また、「複数の栽培領域毎に灌水のタイミング及び灌水量を制御する」とは、複数の栽培領域毎に、地上部環境及び地下部環境を管理して、夫々の地上部環境及び地下部環境に応じた、適当なタイミングで必要な灌水量の供給を行うことを意味する。
【0063】
なお、当該「植物栽培の栽培領域が複数区画された施設内において、複数の栽培領域毎に灌水のタイミング及び灌水量を制御する」場合にも、上記「気温及び湿度測定ステップ(S1)」乃至「灌水量制御ステップ(S6)」の各ステップが行われる。
【0064】
[2]本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラ:
本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラは、これまで説明した植物栽培における灌水の供給制御方法を用いたコントローラである。そのため、これまで説明した植物栽培における灌水の供給制御方法において説明した内容は、本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラにも適用できるため、重複する事項は、植物栽培装置の説明を参照されたい。
【0065】
本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラ1は、図2に示されるように、地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定するための、地上部環境9の第一検知手段3と、土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定するための、地下部環境11の第二検知手段5と、第一検知手段3及び第二検知手段5により検知された地上部環境9と地下部環境11に基づいて、適切なタイミングでかつ適切な灌水量で灌水を行うための灌水手段7を備える、灌水コントローラ1である。なお、本明細書において、灌水の供給制御コントローラ1を、灌水コントローラ1ということがある。
【0066】
ここで、本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラ1は、概ね、地上部環境の第一検知手段3と、地下部環境の第二検知手段5と、灌水手段7とから構成される。
【0067】
[2−1]地上部環境の第一検知手段:
本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラ1における「地上部環境の第一検知手段3」は、図2に示されるように、地上部の気温および湿度を間欠的または連続的に測定するための、検知手段として構成される。
【0068】
具体的には、当該「地上部環境の第一検知手段3」には、気温センサー3a、湿度センサー3b等のセンサーが含まれる。更に、CPU等が内蔵されたパソコンまたは灌水コントローラ本体1a、測定結果をパソコンまたはコントローラ本体1a等に送信するための有線ケーブル等が含まれてもよい。たとえば、気温センサー3a、湿度センサー3b等のセンサーによって測定された測定結果(測定データ)をパソコンに送信して、パソコンでデーター処理等を行う場合がある。このような場合には、更に処理済みのデーターをパソコンから送信し、灌水コントローラ本体1aで受信できるように構成されるとよい。更に、上記有線ケーブルに代えて、無線でデーター送信(通信)されるようにしてもよい。ただし、この例に限定されるものではない。
【0069】
なお、当該「地上部環境の第一検知手段3」では、図1に示されるように、上述した本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法の「気温及び湿度測定ステップ(S1)」及び「地上部環境検知ステップ(S2)」と同様の測定、データー処理等が行われる。ただし、この例に限定されるものではない。
【0070】
[2−2]地下部環境の第二検知手段:
本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラにおける「地下部環境の第二検知手段5」は、図2に示されるように、土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定するための、検知手段として構成される。
【0071】
なお、当該「地下部環境の第二検知手段5」では、図1に示されるように、上述した本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法の「土壌測定ステップ(S3)」及び「地下部環境検知ステップ(S4)」と同様の測定、データー処理等が行われる。
【0072】
具体的には、当該「地下部環境の第二検知手段5」には、図2で示されるように、水分センサー5a(水分計)等のセンサーが含まれる。更に、CPU等が内蔵されたパソコンまたは灌水コントローラ本体1a、更に、測定結果をパソコンまたは灌水コントローラ本体1a等に送信するための有線ケーブル等が含まれてもよい。たとえば、水分センサー5a(水分計)によって測定された測定結果(測定データ)をパソコンに送信して、パソコンでデーター処理等を行う場合がある。このような場合には、更に処理済みのデーターをパソコンから灌水コントローラ本体1aへ送信し、且つ、灌水コントローラ本体1aで受信できるように構成されるとよい。更に、上記有線ケーブルに代えて、無線でデーター送信(通信)されるようにしてもよい。ただし、この例に限定されるものではない。
【0073】
[2−3]灌水手段:
本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラにおける「灌水手段」は、図2に示されるように、第一検知手段3及び第二検知手段5により検知された地上部環境9と地下部環境11に基づいて、適切なタイミングでかつ適切な灌水量で灌水を行うための灌水手段7として構成される。当該「灌水手段7」では、図1に示されるように、上述した本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法の「灌水タイミング制御ステップ(S5)」及び「灌水量制御ステップ(S6)」で行われる処理と同様の処理が行われる。更に、当該処理に基づいて灌水を供給する必要があると判断された場合に、土壌中に灌水の供給が行われる。
【0074】
なお、当該「灌水手段7」には、図2に示されるように、灌水を供給するための灌水供給管7が含まれ、更に、当該灌水供給管7には、信号受信手段7aを備えていてもよい。このように構成されることにより、第一検知手段3及び第二検知手段5からの測定結果をデーター処理化し、灌水の供給、灌水の供給時間、灌水の供給量を決定したパソコンからの命令(信号)、或いは、灌水コントローラ本体1aからの命令(信号)を受信できる。そのため、灌水の供給を灌水コントローラで容易に行えることができる。更に、当該「灌水手段7」には、図1で示されるような「地上部環境検知ステップ(S2)」と「地下部環境検知ステップ(S4)」の検知結果に基づいて灌水を行うタイミング(時期、時間)を判定し、灌水の灌水量を決定するための、CPU等が内蔵されたパソコンまたはコントローラ本体1aを含んでもよい。ただし、この例に限定されるものではない。
【0075】
具体的には、図2に示されるように、「灌水手段」として、灌水を供給可能な灌水供給管7を土壌中にセッティングする。当該「灌水供給管7」には、灌水の供給をONまたはOFFにより可能とする、コントローラ本体1aからの命令(信号)を受信する信号受信手段7aが設けられている。そして、灌水コントローラ本体1aからの、灌水の時間指令(灌水のタイミング)及び灌水量の指令を、信号受信手段7aが受信した際に、ONまたはOFFにスイッチングすることで、灌水のタイミング及び灌水量をコントロールすることができる。ただし、この例に限定されるものではない。
【0076】
[2−4]本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラのその他の構成:
更に、本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラは、本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法と同様に、予め地上部環境の所期飽差を設定するとともに、地上部で測定された気温及び湿度から飽差を算出し、当該算出した飽差が、所期飽差になった際に灌水を行うことが好ましい。
【0077】
更に、本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラは、本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法と同様に、所期飽差が3〜6g/mであることが好ましい。
【0078】
更に、本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラは、本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法と同様に、予め地下部環境の所期水分量を設定するとともに、地下部で測定された水分量が、前記所期水分量以下になった際に灌水を行うことが好ましい。
【0079】
更に、本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラは、本発明の植物栽培における灌水の供給制御方法と同様に、植物栽培の栽培領域が複数区画された施設内において、複数の栽培領域毎に灌水のタイミング及び灌水量を制御することが好ましい。
【0080】
[3]本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラの使用方法:
本発明の植物栽培における灌水の供給制御コントローラでは、図2に示されるように、気温センサー3a及び湿度センサー3bを用意し、地上部9の測定したい箇所に設置する。更に、気温センサー3a及び湿度センサー3bが、測定したデータ(気温、湿度)を、無線でコントローラ本体1aに送信できるように、セッティングする。なお、気温センサー3a及び湿度センサー3bを、更に複数個用意して、所望箇所に設置してもよい。
【0081】
次に、図2に示されるように、水分センサー5aを少なくとも1個用意し、地下部11(土壌中)の測定したい箇所(たとえば、植物体13の根周辺)に設置する。更に、水分センサー5aが、測定したデータ(地下部の水分量)を無線でコントローラ本体1aに送信できるように、セッティングする。更に、植物体13の根周辺であって、土壌中の灌水したい箇所に、灌水供給管7の一端である「吐出口7b(供給口)」が位置するようにセッティングする。更に、灌水供給管7の他端が水供給原と連結されている状態でセッティングする。なお、供給管からの灌水の供給は、ONまたはOFFのスイッチにより行われ、当該ONまたはOFFのスイッチングは、灌水コントローラ本体1aの命令(ON−OFF発信)によって行われるように、灌水供給管7には、信号受信手段7aが設けられている。
【0082】
次に、図2に示されるように、気温センサー3aー及び湿度センサー3bによって、気温および湿度を間欠的または連続的に測定させる。そして、当該測定後、測定させた気温及び湿度のデーターを、灌水コントローラ本体1で受信する。同様に、水分センサー5aによって、土壌中の水分量を間欠的または連続的に測定させる。そして、当該測定後、測定させた水分量を、灌水コントローラ本体1aで受信させる。灌水コントローラ本体1aでは、上述の「測定させた気温及び湿度のデーター」及び「測定させた水分量のデーター」に基づき、地上部環境9及び地下部環境11を検知する。この検知により、灌水コントローラ本体1aは、植物体13の地上部環境9が最適温度、最適湿度、最適な飽差状態となっているか、更には、植物体13の地下部環境11が最適水分量となっているか等を判断する。具体的には、上記判断は、灌水コントローラ本体1aに、予め、所期温度、所期湿度、所期飽差、所期水分量等を設定し、当該「所期温度」、当該「所期湿度」、当該「所期飽差」及び、当該「所期水分量」と、測定された温度、湿度、水分量、及び、算出された飽差等との対比により行われる。
【0083】
当該対比により、植物体13の蒸散が行われる状態であって、且つ、土壌中の水分量が足りないと判断された場合には、灌水コントローラ本体1aから、灌水供給管7に灌水の供給を行う命令(信号)が送信され、灌水供給管7に設けられた信号受信手段7bが上記信号を受信し、灌水供給管7のスイッチがONとなり、土壌中に灌水の供給が行われる。更に、植物体13の蒸散が行われない状態となった場合、或いは、土壌中の水分量が十分になったと判断された場合には、灌水コントローラ本体1aから、灌水供給管7からの灌水の供給を止める命令(信号)が送信される。灌水供給管7に設けられた信号受信手段7aが上記信号を受信して灌水供給管7のスイッチがOFFとなり、灌水の供給が止まる。なお、灌水供給管7に予めタイマーをセッティングし、灌水コントローラ本体1aから、灌水の供給命令と同時に、灌水の供給時間を調整させてもよい。更に、灌水の供給量は、灌水供給管から供給される際の灌水量を予め一定として、灌水時間によって灌水の供給量を調整してもよいし、灌水供給管に灌水量を調整できるようにして、灌水コントローラからの灌水の供給命令が出されると同時に、灌水量についても命令が出されるようにしてもよい。
【0084】
一方、上記対比により、初めから植物体の蒸散が行われない状態、或いは、土壌中の水分量が十分であると判断された場合には、灌水コントローラ本体1aから、灌水供給管7へ灌水の供給を行わない命令(信号)が送信されて、供給管に設けられた信号受信手段が上記信号を受信して供給管のOFFが維持される。これにより、次の灌水の供給命令が出されるまで、灌水の供給が行われないこととなる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、栽培する植物・作物全般の灌水の供給制御に広く用いることができる。特に、植物・作物全般を栽培するハウスまたは施設内で、栽培する植物・作物全般の灌水の供給制御に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
1:灌水コントローラ(灌水の供給制御コントローラ1)、1a:灌水コントローラ本体、3:第一検知手段、3a:気温センサー、3b:湿度センサー、5:第二検知手段、5a:水分センサー、7:灌水手段(灌水供給管)、7a:信号受信手段、7b:吐出口(供給口)、9:地上部環境(地上部)、11:地下部環境(地下部)、13:植物体、13a:(植物体の)根、15:施設、15a:出入口、A:栽培領域、B:栽培領域、C:栽培領域、D:栽培領域、S1:気温及び湿度測定ステップ、S2:地上部環境検知ステップ、S3:土壌測定ステップ、S4:地下部環境検知ステップ、S5:灌水タイミング制御ステップ、S6:灌水量制御ステップ。
図1
図2
図3