特許第6306412号(P6306412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306412
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】液封防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   F16F13/10 J
   F16F13/10 K
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-86743(P2014-86743)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-206401(P2015-206401A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177900
【氏名又は名称】山下ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089509
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 清光
(72)【発明者】
【氏名】門脇 宏和
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−138854(JP,A)
【文献】 特開2009−52675(JP,A)
【文献】 特開2009−2420(JP,A)
【文献】 特開2013−174322(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105404(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に設けられた液室を主液室(22)と副液室(24)に区画する仕切部(20)に、主液室(22)と副液室(24)を連通するオリフィス(28)と弾性仕切部材(30)を設けた液封防振装置であって、
弾性仕切部材(30)は、主液室(22)の内圧変動を吸収する弾性可動膜(32)と、この弾性可動膜(32)の周囲を囲み前記仕切部(20)の一部に設けられた固定部(29e)により支持される可動膜外周部(34)と、
この可動膜外周部(34)から一体に外側へ突出するリリーフバルブ(36)とを備え、
このリリーフバルブ(36)が前記仕切部(20)に前記主液室(22)と副液室(24)を連通して設けられているリーク通路(40)を開閉するとともに、
このリリーフバルブ(36)は、開くとき、前記可動膜外周部(34)との基部(52)から曲がり、前記弾性可動膜(32)の前記主液室側となる上面に向かって内側へ曲がるものにおいて、
前記可動膜外周部(34)は、前記固定部(29e)により固定される被支持部(34b)と、前記固定部(29e)により固定されない不支持部(34a)を備え、
この不支持部(34a)は、前記リリーフバルブ(36)の基部(52)の内側かつ近傍部分に設けられるとともに、
前記基部(52)が直線状に設けられることを特徴とする液封防振装置。
【請求項2】
請求項1に記載した液封防振装置において、前記被支持部は、上方へ突出して前記固定部(29e)により固定される突部(34b)であり、
前記不支持部(34a)は、前記突部(34b)より低い凹部であることを特徴とする。
【請求項3】
請求項2に記載した液封防振装置において、前記不支持部(34a)は、前記弾性可動膜(32)の上面と面一をなすことを特徴とする。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載した液封防振装置において、前記リリーフバルブ(36)は、バルブ長(VL)が、前記リリーフバルブ(36)の長手方向中間部側ほど長くなるように変化することを特徴とする。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載した液封防振装置において、前記不支持部(34a)が直線状をなすことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液封防振装置に設けられたキャビテーション防止用のリリーフバルブに係り、特に、液室を主液室と副液室とに区画する弾性仕切部材に対してその一部にリリーフバルブを一体に設けたものに関する。
なお、本願において、リリーフバルブはその一部が、平面視円形をなす弾性仕切部材の外周縁に沿ってその周方向へ長く形成されるので、外周縁の周方向に沿う方向をリリーフバルブの長手方向ということにする。後述する従来例についても同様である。
【背景技術】
【0002】
エンジンマウントのような液封防振装置において、主液室と副液室を区画する仕切部に弾性可動膜を設けて、主液室の内圧を吸収するようにするとともに、弾性可動膜の外周にリリーフバルブを一体に設け、大きな入力振動により、主液室がキャビテーションを発生するような負圧になったとき(この状態をキャビテーション発生条件とする)、リリーフバルブを開いて、副液室の液体を主液室へ急速にリークさせて主液室の液圧を高め、キャビテーションを防止するようにしたものは公知である。
【0003】
このようなリリーフバルブを一体にした弾性仕切部材として、例えば、平面視円形状をなし、その径方向中間部に厚肉部を環状に設け、この厚肉部の内側を弾性可動膜とし、外側にリリーフバルブを一体に設けたものがある。
厚肉部は剛性のある仕切部で上下から挟持されることにより弾性仕切部材の可動膜外周部になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−138854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9は、上記従来例におけるリリーフバルブが開いた状態の断面図であり、上記構造のリリーフバルブ236が開くときは、キャビテーション発生条件で先端部254がリーク通路240に臨む内壁部227から離れ、内側(弾性可動膜の中心方向)へ曲がり、リーク通路240を開放して副液室224から主液室222へ液体をリークするようになっている。リリーフバルブ236は、可動膜外周部234に接続する基部252に沿って内側へ折れ曲がるように弾性変形し、リリーフバルブ236の先端254が可動膜外周部234の上部へ当接すると、リリーフバルブ236はそれ以上内側へ曲がらなくなる。このとき、可動膜外周部234の上部は開いた状態のリリーフバルブ236に対するストッパをなし、リリーフバルブ236の最大開き量を規制するので、リリーフバルブ236が可動膜外周部234を越えて内側まで大きく開くことはできない。
しかも、リリーフバルブ236は開いた状態でも、リーク通路240内に残る部分が多くなり、リーク通路240を部分的に塞ぐように曲がっている。その結果、リーク通路240はリリーフバルブ236によってある程度狭められ、通路断面積が小さくなる。このため、リーク通路240を通過する液体の流量が少なくなるので、迅速かつ大量のリークを実現しにくくなり、キャビテーションの発生防止を遅らせてしまうおそれがある。
そこで本願発明は、リリーフバルブを十分に大きく弾性変形させて、リーク通路の通路断面積を大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため請求項1に記載した液封防振装置に係る発明は、内部に設けられた液室を主液室(22)と副液室(24)に区画する仕切部(20)に、主液室(22)と副液室(24)を連通するオリフィス(28)と弾性仕切部材(30)を設けた液封防振装置であって、
弾性仕切部材(30)は、主液室(22)の内圧変動を吸収する弾性可動膜(32)と、この弾性可動膜(32)の周囲を囲み前記仕切部(20)の一部に設けられた固定部(29e)により支持される可動膜外周部(34)と、
この可動膜外周部(34)から一体に外側へ突出するリリーフバルブ(36)とを備え、
このリリーフバルブ(36)が前記仕切部(20)に前記主液室(22)と副液室(24)を連通して設けられているリーク通路(40)を開閉するとともに、
このリリーフバルブ(36)は、開くとき、前記可動膜外周部(34)との基部(52)から曲がり、前記弾性可動膜(32)の前記主液室側となる上面に向かって内側へ曲がるものにおいて、
前記可動膜外周部(34)は、前記固定部(29e)により固定される被支持部(34b)と、前記固定部(29e)により固定されない不支持部(34a)を備え、
この不支持部(34a)は、前記リリーフバルブ(36)の基部(52)の内側かつ近傍部分に設けられるとともに、
前記基部(52)が直線状に設けられることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した液封防振装置において、前記被支持部は、上方へ突出して前記固定部(29e)により固定される突部(34b)であり、
前記不支持部(34a)は、前記突部(34b)より低い凹部であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した液封防振装置において、前記不支持部(34a)は、前記弾性可動膜(32)の上面と面一をなすことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載した液封防振装置において、
前記リリーフバルブ(36)は、バルブ長(VL)が、前記リリーフバルブ(36)の長手方向中間部側ほど長くなるように変化することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載した液封防振装置において、前記不支持部(34a)が直線状をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載した発明によれば、可動膜外周部(34)のうち、リリーフバルブ(36)の基部(52)に対する内側かつ近傍となる部分に、固定部(29e)で固定されない不支持部(34a)を設けたので、リリーフバルブ(36)が開くとき、リリーフバルブ(36)の弾性変形が可動膜外周部(34)により阻害されない。このため、リリーフバルブ(36)は、基部(52)から弾性可動膜(32)の上面側へ向かって曲がり、可動膜外周部(34)の外側部(39)よりも上方内側へ入り込むように弾性変形することができる。その結果、リリーフバルブ(36)が開くときリーク通路(40)の通路断面積を大きくでき、液体を迅速かつ大量にリークさせて、キャビテーションの発生を抑制できる。
しかも、リリーフバルブ(36)の基部(52)を不支持部(34a)の近傍へ直線状に設けたので、リリーフバルブ(36)が曲がりやすくなる。
【0012】
請求項2に記載した発明によれば、可動膜外周部(34)に、被支持部をなす突部(34b)と、この突部(34b)より低い凹部である不支持部(34a)を設けたので、不支持部(34a)を容易に形成することができる。
【0013】
請求項3に記載した発明によれば、不支持部(34a)を、弾性可動膜(32)の上面と面一にしたので、リリーフバルブ(36)をより大きく曲げることができる。
【0014】
請求項4に記載した発明によれば、リリーフバルブ(36)のバルブ長(VL)を、リリーフバルブ(36)の長手方向中間部側ほど長くなるように変化させたので、バルブ長(VL)が最も長い長手方向中間部から容易に弾性変形させて、リリーフバルブ(36)を迅速に開かせることができるとともに、バルブ長(VL)が長くても、不支持部(34a)により十分に大きく弾性変形させて、リーク通路(40)を大きく開口させることができる。
【0015】
請求項5に記載した発明によれば、不支持部(34a)が直線状をなすので、不支持部(34a)の長さを短くすることができ、長さ方向両端の支持部間における支持スパンを短くできるので、弾性仕切部材(30)に不支持部(34a)を設けることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るエンジンマウントの縦断面図
図2】仕切部の平面図
図3図2の3−3線断面図
図4】弾性仕切部材の側面図
図5】弾性仕切部材の平面図
図6図5の6−6線断面図
図7】リリーフバルブの動作を説明する拡大断面図
図8】別実施形態に係る弾性仕切部材の平面図
図9】従来例に係るリリーフバルブの開いた状態における断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、自動車のエンジンマウントとして構成された液封防振装置を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るエンジンマウント10の縦断面(マウント中心線に沿って切った断面図)である。
なお本願において、上下・左右の各方向は、図1において、エンジンマウント10の中心線(マウント中心線)Lに沿って図の上下方向を上下、軸直交方向を左右とする。また、中心線Lに沿うZ方向を主たる振動の入力方向ということにする。さらに、中心線Lに直交しかつ同一平面内内で互いに直交する直交2軸をX及びYとし(図2参照)、X軸及びY軸に沿う方向をX方向及びY方向とする。
【0018】
これらの図において、エンジンマウント10は、例えばエンジン(振動源、図示省略)側へ取付けられる第1の取付金具12と、車体(被振動伝達側部材、図示省略)側へ取付けられる円筒状をなす第2の取付金具14と、これらを弾性的に連結するゴム等の弾性部材からなるインシュレータ16を備える。
【0019】
インシュレータ16は略円錐台状をなす防振主体の弾性体であり、内側に第2の取付金具14で囲まれた空間が設けられ、その開口はダイヤフラム18で閉じられて密閉空間をなすとともに、この密閉空間内に非圧縮性の液体が封入されて液室が形成されている。
この液室内は、平面視円形の仕切部20でインシュレータ16側の主液室22と、ダイヤフラム18側の副液室24とに区画されている。
【0020】
第2の取付金具14は上部が絞られて小径部14aをなし、この小径部14aと下方の大径部14bとの間に段差部14cが設けられ、この段差部14cにより、仕切部20の外周側上部が位置決めされる。
仕切部20の外周側下面にはダイヤフラム18の外周部が重ねられ、さらにダイヤフラム18を下方から覆うカップ状部材19の開口縁部が重ねられ、このカップ状部材19の開口縁部を内側へ折り曲げられた第2の取付金具14の下端部14dで固定することにより、仕切部20が位置決め固定されている。
【0021】
仕切部20は、上側部材20a及び下側部材20bと、これらを上下合わせして形成される内側空間である収容室20cに収容された弾性仕切部材30とを備える。
仕切部20の外周側にオリフィス形成部26が形成されている。オリフィス形成部26は、下側部材20bの外周部全周に形成され、上方へ開放された略U字状断面をなす部分であり、この上方開口部を上側部材20aの外周部で覆うことにより内部に中空リング状の通路空間が形成される。この通路空間は主液室22と副液室24を連通し、内部に液体が流動することによりオリフィス28を構成する。オリフィス28は、所定の低周波大振幅振動で液柱共振して、高減衰を得るようになっている。
【0022】
弾性仕切部材30は中央部の弾性可動膜32と、その外周部を周枠状に囲んで設けられる厚肉の可動膜外周部34と、さらにこの可動膜外周部34より外側に形成されたリリーフバルブ36とで構成されている。
可動膜外周部34は、弾性可動膜32の外周部を支持する部分であり、その周方向における多くの部分が上側部材20aと下側部材20bにより挟持して固定される。
【0023】
リリーフバルブ36は、仕切部20のオリフィス形成部26より内側部分に形成されたリーク通路40を開閉する。リーク通路40は、上側部材20aに形成されたバルブ開口29j及び下側部材20bに形成されたバルブ開口29kにより主液室22と副液室24を連通している。
【0024】
以下、仕切部20について詳述する。図2は仕切部20を主液室22側から示す平面図、図3図2の3−3線断面図である。なお、図2には仕切部20の外周部における一部を拡大した回転断面図(拡大部A)を併せて示してある。
【0025】
図2に示すように、上側部材20aは円形の部材であり、中央側が外周部より一段低くなった変位規制部29aになっている。この変位規制部29aには、中央部に中央開口部20dが設けられ、この中央開口部20d内に十文字状の格子状部29gが設けられている。なお、格子状部29gを構成する格子の数は任意である。
【0026】
X方向において、中央開口部20dを挟んでその両側にリリーフバルブ36が臨む一対のバルブ開口29jが対向して設けられている。各バルブ開口29jはY方向へ長く形成されたブリッジ29nにて中央開口部20dと区画され、外周部は円弧状をなす。ブリッジ29nには格子状部29gのうち、X方向へ延びる部分の端部が連結されている。
29mはオリフィス28の主液室側開口であり、上側部材20aの外周部でバルブ開口29jよりも径方向外方に開口している。
【0027】
図2中の拡大部Aに示すように、上側部材20aにおける変位規制部29aのうち、バルブ開口29jが形成されている部分を除く中央開口部20dに臨む開口縁部は、下方へ折れ曲がった固定部29eになっている。固定部29eは下方へ曲がって弾性可動膜32の外周部上面まで延び、可動膜外周部34の上側円弧状突部34bの上面及び内周壁面に当接支持して可動膜外周部34の上面側を固定している。固定部29eは略半円弧状をなしてY方向に対向して一対で設けられる。
【0028】
下側部材20bも底面視形状は上側部材20aとほぼ同様であり、図3に示すように、中央に変位規制部29bが設けられている。この変位規制部29bには、中央開口部20eが設けられ、さらに中央開口部20e内に格子状部29hが設けられている。格子状部29hは上側部材20aの格子状部29gと同様のものである。また、中央開口部20eに臨んで固定部29fが設けられている。固定部29fは、上側部材20aの固定部29eと同様に、可動膜外周部34の下面及び下部内周側を当接支持する。
【0029】
但し、固定部29fは、上側部材20aの固定部29eと異なり、可動膜外周部34の下部を構成する略半円弧状の下側円弧状突部34d(図2の拡大部A参照)のみならず、リリーフバルブ36の基部となる下側直線状突部34c(図3参照)も支持するようになっている。すなわち、固定部29fは略半円弧状をなす部分と直線状をなす部分とを連続して備えている。
固定部29fとオリフィス形成部26の下部との間にバルブ開口29kが設けられ、副液室24とリーク通路40を連通している。オリフィス28の副液室側開口は、図示されない部分に形成されており、副液室24と連通している。
【0030】
図3に示すように、変位規制部29a及び29bの間に形成されている収容室20cには弾性可動膜32が上下方向へ弾性変形可能に収容されている。弾性可動膜32の中心部に上下へ一体に突出形成された厚肉突部32aが、格子状部29g及び29hへ当接している。収容室20cは上側部材20aと下側部材20bに形成された中央開口部20d及び20eにより主液室22及び副液室24を連通している。
【0031】
弾性可動膜32は、中央開口部20d及び20eを通して主液室22及び副液室24の液体が流動することにより弾性変形して、主液室22の内圧変動を吸収し、その変形量は、上下の格子状部29g及び29hで所定範囲に規制されている。また、弾性可動膜32の弾性変形に伴って液体が中央開口部20d及び20eを通して流動することにより、オリフィス28が目詰まりするような比較的高周波数側となる所定の周波数にて液柱共振をおこなう。以下、この共振をホール共振ということにする。
【0032】
図3に示すように、リーク通路40は、オリフィス形成部26の内壁部27と可動膜外周部34との間に形成され、通常時には、リリーフバルブ36の先端部54が、リーク通路40に臨む内壁部27の壁面へ密着することにより閉弁状態となり、リーク通路40は主液室22と副液室24の間が遮断される。
キャビテーション発生条件時には、リリーフバルブ36が弾性変形して、その先端部54が内壁部27から離れて可動膜外周部34側へ曲がることにより、開弁状態になり、リーク通路40を開く。
【0033】
次に、弾性仕切部材30について図4〜7により詳述する。図4は弾性仕切部材30の側面図、図5は平面図、図6図5の6−6線断面図(併せて拡大部Bにリリーフバルブの拡大断面を示す)、図7はリリーフバルブ36の開閉動作を説明する拡大断面図である。
【0034】
図5において、弾性仕切部材30の平面視形状は全体として円形をなし、その外周により形成される外周円をRとする。この外周円Rはその弦をなす直線部31で区画され、直線部31より中心O側部分に弾性可動膜32が設けられ、直線部31より径方向外方側の略三日月状をなす部分にリリーフバルブ36が設けられている。
【0035】
弾性可動膜32は周囲が各一対の円弧状部と直線状部からなる略小判状をなし、外周を厚肉の可動膜外周部34で囲まれている。この可動膜外周部34のうち上部には、直線状の不支持部34aと、略半円弧状に上方へ突出する上側円弧状突部34bとが設けられている。不支持部34aは直線部31に平行する部分であり、X方向にて対向する一対で設けられている。但し、不支持部34aは弾性可動膜32の上面と面一であって、弾性可動膜32から上方へ突出せず、したがって、上側部材20aで支持されない部分である。
【0036】
上側円弧状突部34bは本願発明の被支持部に相当し、弾性可動膜32の上面側においてその円弧部を囲むように外周部から一体に上方へ突出形成された円弧状突部からなり、Y方向にて対向する一対で設けられ、固定部29e(図2の拡大部A参照)にて固定される。
一対の上側円弧状突部34bはX方向にて不支持部34aにより不連続となり、各長さ方向の端部35は、端面がY方向へ平行になっている。
【0037】
可動膜外周部34の下部も、図4及び6に示すように、下方へ突出する下側直線状突部34cと下側円弧状突部34dを備える。下側直線状突部34cは不支持部34aと対応する位置に設けられてY方向へ平行に延び、下側円弧状突部34dは上側円弧状突部34bに対応して略半円弧状に設けられ、それぞれ固定部29fにて固定される。
下側直線状突部34cと下側円弧状突部34dは周方向へ環状に連続している。ここで、環状とは、ループ状に閉じられた状態を意味し、円環状及び非円環状を問わないものとする。
【0038】
図2及び図3に示すように、可動膜外周部34の上側円弧状突部34b並びに下側直線状突部34c及び下側円弧状突部34dの各突出先端部を上側部材20aと下側部材20bで上下から挟持することにより、可動膜外周部34を強固に固定でき、弾性可動膜32を弾性変形自在に支持できる。また、各部の内側を固定部29e及び29fで固定することにより、可動膜外周部34の内側へ向かう倒れを防ぐことができる。
【0039】
図4に示すように、可動膜外周部34の上部は、上側円弧状突部34bから連続する環状の突部を可動膜外周部34の下部と同様に形成したと仮定したとき、下側直線状突部34cに相当する部分(下側直線状突部34cの上方における符号Eで示す仮想部分)を切り欠いたものに相当し、不支持部34aはこの切り欠き部分に形成されている。したがって、X方向から見て、不支持部34aには、上側円弧状突部34bから連続するような上方へ突出してリリーフバルブ36の移動を阻止するストッパは存在せず、リリーフバルブ36が不支持部34aの上へ曲がることが可能になっている。
【0040】
図5に示すように、リリーフバルブ36は、弾性仕切部材30の外周部で、可動膜外周部34の不支持部34aよりも径方向外方部分に形成されている。すなわちリリーフバルブ36は、弾性仕切部材30のうち、不支持部34aによって区切られた外周円Rの残余部分(切片部分)を利用して設けられ、リリーフバルブ36の外周部は弾性仕切部材30の外周円R上にある。
【0041】
図6及びその拡大部Bに示すように、リリーフバルブ36は、主液室22へ向かって開放された略V字状断面をなす凹部50を囲んで形成され、可動膜外周部34の下側直線状突部34cから主液室22へ向かって斜め上がりに径方向外方へ拡開するように、可動膜外周部34と一体に形成されている。
【0042】
リリーフバルブ36は、基部52と先端部54とを備え、先端部54のうち、リーク通路40に臨む内壁部27へ当接する部分がシール面54aをなす。シール面54aは内壁部27(図3)への着座状態において、内壁部27と平行でかつ中心線Lとも平行な面をなす。シール面54aの高さ方向寸法(高さ方向にて内壁部27へ接触する部分の寸法)は、リリーフバルブ36の先端部54における剛性に影響し、大きいほど閉じたときにおける内壁部27との密着を強くし、キャビテーション発生条件未達時(通常時)において、過大振幅振動未満の比較的大きな振動である大振幅振動に対してもリークを防ぎ、高減衰を維持できる程度の剛性が得られるように調整されている。
【0043】
拡大部Bに示すように、可動膜外周部34の一部でリリーフバルブ36が接続する部分近傍は、リリーフバルブ36に囲まれるバルブ壁37をなし、さらに、下側直線状突部34cは、内側壁38と外側壁39とを備える。バルブ壁37は、不支持部34aの外側部分へつながる壁部であり、内側壁38の外側かつ外側壁39の内側となるこれらの中間に位置する。
図5に示すように、バルブ壁37は平面視で直線部31と平行である。直線部31は内側壁38に重なり、外側壁39はバルブ壁37及び直線部31と平行である。
【0044】
リリーフバルブ36は、基部52にて下側直線状突部34cへ一体に連続する。基部52はリリーフバルブ36の曲げ起点をなし、平面視でバルブ壁37とほぼ一致する略直線状に形成されている(図5)。基部52が不支持部34aに平行する略直線状をなすことにより、主液室がキャビテーションを発生するような負圧になったとき、リリーフバルブ36が主液室側へ吸引される副液室側の液圧で、基部52を起点にして内側(不支持部34a側)へ曲がり易くなる。
【0045】
基部52は、リリーフバルブ36の上面36aがバルブ壁37へ接続する上面側接続点57及び下面36bが下側直線状突部34cの外側壁39へ接続する下面側接続点58を含む部分である(図6の拡大部B参照)。
本実施形態においては、上面側接続点57が下面側接続点58とほぼ同じか若干高い程度の高さ関係にあり、かつ上面側接続点57が下面側接続点58よりもリリーフバルブ36の肉厚程度内側へ離れた配置になっている。このようにすることで、リリーフバルブ36の曲げが容易になる。なお、上面側接続点57を下面側接続点58よりも低くすることもでき、このようにするとさらにリリーフバルブ36の曲げが容易になる。
【0046】
図5において、リリーフバルブ36は平面視で、不支持部34aと外周円Rにおける外周円弧部の一部とで囲まれた切片状をなすので、バルブ長VLは長手方向で変化し、長手方向中間部におけるもの(図のX軸上のもの)が最長となり、長手方向端部は最短になる。すなわち、リリーフバルブ36は、長手方向端部から中央部へ向かって、バルブ長が次第に長くなるように変化している。長手方向端部はバルブ壁37のY方向端部へ接続している。
【0047】
このように、長いバルブ長VLの設定や基部52等を設けることにより、リリーフバルブ36を高剛性にしても、開き易くすることができる。すなわち、リリーフバルブ36の肉厚を比較的大きくして全体を高剛性にすると、リリーフバルブ36が局部変形せず、全体が均等に変形できるようになり、リリーフバルブ36が基部52を中心に全体が均一に曲がり易くなる。
【0048】
次に、本実施形態の作用を説明する。
本実施形態に係るエンジンマウントを車両に搭載した場合において、シェイク振動のような、低周波大振幅振動が入力すると、弾性可動膜32の剛性を予めこの振幅で弾性変形しないように調整しておくことにより、主液室22の液体はオリフィス28を介して副液室24との間で流動し、オリフィス28により液柱共振を生じて高減衰を実現する。
また、リリーフバルブ36は,シール面54aが内壁部27へ密着した状態(図3)を維持し、リークを防ぐため、高減衰を可能にする。
【0049】
こもり音のような高周波小振幅振動が入力すると、オリフィス28が目詰まりして、主液室22の内圧が上がるため、弾性可動膜32が弾性変形してこれを吸収し、低動バネを実現する。
しかも、弾性可動膜32は、部分的に弾性仕切部材30の外周部にまで形成されているため、弾性可動膜32の外周側全周をリリーフバルブ形成領域とした場合と比べて、面積を拡大でき、主液室22の液圧に対する受圧面積を十分大きくすることができる。
【0050】
また、弾性可動膜32の弾性変形により、中央開口部20dを通して液体が主液室22と弾性可動膜32の上面間を移動するため、ホール共振を発生する。このホール共振の共振周波数は、液体の流動量により影響を受け、この液体の流動量は、中央開口部20dの通路断面積により影響を受ける。
【0051】
次に、過大振幅振動の入力により、主液室がキャビテーションを発生するような負圧になったとき、リリーフバルブ36が開いて、副液室24から液体がリーク通路40を通って主液室22へ流入し、主液室22の負圧を迅速に解消させてキャビテーション現象の発生を阻止する。
【0052】
このとき、図7に示すように、リリーフバルブ36の基部52近傍となる可動膜外周部34上面における不支持部34aが形成されている部分は、上側円弧状突部34bのような突部が設けられない凹部になっており、弾性可動膜32の上面と面一になっている。このため、リリーフバルブ36が開くとき、リリーフバルブ36の曲がる方向にその曲がりを阻止する上側円弧状突部34bのようなストッパとなる部分が存在しない。
【0053】
したがって、リーク通路40を開放するように曲がるリリーフバルブ36は、その先端部54の少なくとも一部が下側直線状突部34cの外側壁39を通る垂線である外周線Vを越えて内側へ入り込むように移動する。
これにより、リーク通路40において十分に大きな開口幅Wを形成し、開いたリリーフバルブ36によるリーク通路40の通路断面積を大きくして迅速かつ大量の液体移動を可能にする。
【0054】
これをより詳しく説明する。仮に、リリーフバルブ36の基部52近傍となる不支持部34aに下側直線状突部34cのようなストッパ60が存在し、このストッパ60の外側面が外周線V上にあるとすれば、閉じ位置にあるリリーフバルブ36(A)が、a矢示のように開いて、ストッパの外側面(外周線Vで示す)へリリーフバルブ36の上面における先端部54が当接して開きを止める。このとき、リリーフバルブ36は仮想線で示す36(B)位置になり、先端部54側を含む大部分がリーク通路40内に残り、この分だけリーク通路40を狭めることになる。この状態における開口幅はW0となる。
【0055】
しかし、本願発明においては、不支持部34aにリリーフバルブ36の曲がりを阻害するストッパ60が存在しないため、36(B)位置からb矢示のようにさらに大きく開いて実線の36(C)位置となり、リリーフバルブ36の先端部54側を含む大部分が外周線Vより内側(弾性可動膜32の中心側)へ移動する。この状態では、リリーフバルブ36の殆ど全体が外周線Vの内側、すなわち可動膜外周部である下側直線状突部34cの外側壁39よりも上方内側へ入り込んでおり、リーク通路40を狭める部分は下面側接続点58近傍部の僅かな部分だけとなる。このため、リーク通路40の開口幅Wは、ほぼ外周線Vと内壁部27の間隔となり、差分ΔWだけW0よりも大きくなる。
【0056】
したがって、リリーフバルブ36の基部52近傍となる部分を不支持部34aとして、ここにストッパ60を設けないことにより、このストッパ60に邪魔されることなく、リリーフバルブ36を36(C)として実線で示すように大きく開くことができ、仮想線で示す36(B)の場合と比べて開口幅の差分ΔWだけ大きく開口できる。
【0057】
しかも、36(C)の状態では、リリーフバルブ36は、バルブ壁37との間にまだ間隙があり、不支持部34aへ当接するまで、矢示cのようにさらに内側へ曲がり、36(D)の状態になることができる。この状態では、リーク通路40をより大きく開き、矢示dのように流れる液体のリークをよりスムーズにする。
【0058】
このようにリリーフバルブ36が外周線Vより内側へ曲がることは、上面側接続点57が下面側接続点58とほぼ同じか若干高い程度にあり、かつリリーフバルブ36の肉厚に相当する程度の間隔で内側に位置することにより、バルブ壁37が外周線Vより十分に内側へ位置することによっても可能になる。この場合、バルブ壁37を仮想線62で示すように、上方が内側へ入り込むように傾斜させれば、リリーフバルブ36を36(D)よりもさらに大きく不支持部34a上へ曲げることができる。また、仮想線64のように、上面側接続点57を下面側接続点58よりも低くして上方へ開放された溝を基部52に形成すれば、さらに曲がりやすくなる。
【0059】
本実施形態では、可動膜外周部34のうちリリーフバルブ36の基部52に相当する部分上面について、ストッパ60を設けない不支持部34aとすることにより、長いバルブ長のリリーフバルブ36でも十分に大きくかつ抵抗なく変形させることができるので、速やかでしかも十分に大きな開口を実現できる。
【0060】
しかも、基部52を平面視で直線状にしたので、リリーフバルブ36が全体に不支持部34aと平行な基部52で均一に曲がることができ、基部が曲線の場合と比べて抵抗が少なく曲がることができ、リリーフバルブ36の開きをスムーズかつ迅速にして、キャビテーション現象の発生を効果的に阻止できる。
【0061】
そのうえ、弾性可動膜32の面積拡大とリリーフバルブ36の面積拡大を両立させることができる。また、弾性可動膜32の面積を従来同等とすれば、リリーフバルブ36を弾性仕切部材30の外周部へ弾性可動膜32と一体に設け、かつその面積を所定に確保しつつも、仕切部20全体を小型化できる。
【0062】
さらに、リリーフバルブ36は、バルブ長が長手方向中間部に向かって次第に長くなるように変化しており、リリーフバルブ36の長手方向中間部は、バルブ長が最長となるため、リリーフバルブ36は小さな液圧でも開くことができるようになり、開くタイミングが早くなる。また、全体の開きが均一化するとしても、厳密には周方向で開き開始の時間が若干異なり、長手方向中間部が最も早くなる。したがって長手方向中間部を先導部として長手方向端部へ向かって次第に開くようになり、リリーフバルブ36は長さ方向全長において開放し易くなる。
【0063】
しかも、リリーフバルブ36の基部52をほぼ不支持部34aに沿う直線状に形成したので、基部が弧状に長く形成される場合と比べてスムーズにかつ両長手方向端部まで開きやすくなる。また、不支持部34aを直線状にすることで、不支持部分の長さを短くでき、長さ方向両端の端部35による支持スパンを短くできるので、弾性仕切部材30に不支持部34aを設けることが容易になる。
【0064】
なお、本願発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の原理内において種々に変形や応用が可能である。例えば、弾性可動膜32は必ずしも非円形にする必要がない。また、不支持部34aの一部を部分的に固定することもできる。
例えば、図7において、リリーフバルブ36が外周線Vを内側へ越えている36(D)より内側となる部分で、図2におけるX方向の格子部29g先端に重なる部分を、X方向の格子部29g先端から下方へ突出する押さえ部で固定すると、リリーフバルブ36が外周線Vを内側へ越えて曲がることを阻害しないとともに、不支持部34aは、両方の端部35と格子部29g先端の押さえ部による中間部との3点で支持されるから、不支持部34aの支持点間隔である支持スパンを狭くしてより強固に固定できる。したがって不支持部34aを長くしても強固な固定を可能にする。
【0065】
さらに、可動膜外周部34の上部において、突出高さを変化させることにより不支持部34aと上側円弧状突部34bを形成するのではなく、可動膜外周部34の突出高さを一定としても不支持部を形成できる。この場合は、上側部材20aから下方へ突出する突出部を設け、この突出部の長さを変化させて可動膜外周部34の上部を支持する部分と支持しない部分(不支持部)を設けるようにする。
【0066】
また、リリーフバルブ36の数は任意であり、例えば、図8に示すように、全体で1つだけとしてもよい。図8は、図5においてX軸上にて左右対称に対をなして設けられていたリリーフバルブ36の一方を除いたものに相当する。
【0067】
さらに、エンジンマウント以外でも、例えば、サスペンションマウント等の各種液封防振装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
20:仕切部材、20a:上側部材、20b:下側部材、22:主液室、24:副液室、26:オリフィス形成部、27:内壁部、28:オリフィス、29e:固定部、30:弾性仕切部材、32:弾性可動膜、34:可動膜外周部、34a:不支持部、34b:上側円弧状突部、34c:下側直線状突部、34d:下側円弧状突部、36:リリーフバルブ、40:リーク通路、52:基部、57:上面側接続点、58:下面側接続点、60:ストッパ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9