特許第6306601号(P6306601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6306601分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法、並びにその高分子改質剤としての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306601
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法、並びにその高分子改質剤としての使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/02 20160101AFI20180326BHJP
【FI】
   C08G75/02
【請求項の数】4
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-540470(P2015-540470)
(86)(22)【出願日】2014年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2014075611
(87)【国際公開番号】WO2015050053
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2016年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-206849(P2013-206849)
(32)【優先日】2013年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】昆野 明寛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康弘
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/068159(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/068161(WO,A1)
【文献】 特開2010−126621(JP,A)
【文献】 特開2013−181044(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/101315(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/147141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/02
C08G 75/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、ジスルフィド化合物及び分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下に重合させる、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を、硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルのジハロ芳香族化合物で行い、その際、ジハロ芳香族化合物の転化率50%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させ、次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行う分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
下記工程(1)〜(4):
(1)有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程1;
(2)脱水工程1で系内に残存する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合して、有機アミド溶媒、硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」という)、アルカリ金属水酸化物、水分、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製し、その際、仕込み混合物のジハロ芳香族化合物は、仕込み硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルである仕込み工程2;
(3)仕込み混合物を170〜270℃の温度に加熱することにより、水分を含有する有機アミド溶媒中で、仕込み硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、その際、ジハロ芳香族化合物の転化率50%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、仕込み硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させ、次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を仕込み硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、重合反応を行う前段重合工程3;
(4)重合反応混合物を加熱して、240℃以上の温度に昇温し、240〜290℃の温度で、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行う後段重合工程4;
を含む請求項記載の製造方法。
【請求項3】
ジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とのハロゲン量の合計量が、仕込み硫黄源1モル当り1.01〜1.05モルである請求項または記載の製造方法。
【請求項4】
前段重合工程3のジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、相分離剤を添加する請求項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂とその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、バリ発生抑制剤として使用した場合、ハロゲンによる金属金型に対する腐食性の問題や環境規制対応の問題を解決し、成形加工時の課題とされているバリの発生が顕著に抑制される成形品を与えることができる、ハロゲン含有量、溶融粘度、溶融粘弾性tanδの特性が高度にバランスした、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂とその製造方法に関する。また、本発明は、該分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子改質剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「PPS樹脂」と略記)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」と略記)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。PAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形などの一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維などに成形可能であるため、電気・電子機器、自動車機器、化学機器等の広範な分野において樹脂部品の材料として汎用されている。
【0003】
PAS樹脂の代表的な製造方法として、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記)などの有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法が知られている。しかし、この方法により得られるPAS樹脂は、通常、ポリマーの末端にハロゲンが結合した構造となりやすく、重合反応後の分離・回収での洗浄を充分に行っても、ハロゲン含有量は多いものとなる。このようなハロゲン含有量の多いPAS樹脂を使用すると前述したような成形加工時の金属金型に対する腐食性やハロゲン規制にみられるような環境汚染が問題となる。また、PAS樹脂は、製造条件が多岐にわたるため、条件の調整が難しく、特に加工性や溶融特性と射出成形時のバリ発生抑制特性とをバランスさせることが困難であり、射出成形時のバリ発生量が多いという欠点を有している。バリとは、成形材料が金型の隙間に流れ出て固化した部分を意味する。薄膜状または薄片状に固化し、成形品に付着したバリは、仕上げ工程で取り除く必要がある。
【0004】
PAS樹脂のハロゲン含有量を低減するために、従来より、重合反応後の分離・回収工程において、PAS樹脂を、高温水や有機溶媒で洗浄することが行われている。有機溶媒には、重合溶媒と同じ有機アミド溶媒、ケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等がある。このように、PAS樹脂のハロゲン含有量を低減するためには、洗浄によりハロゲン含有量を低減することが常であった。
【0005】
一方、射出成形時におけるバリの発生を抑制するために、分岐型PAS樹脂を直鎖型PAS樹脂にブレンドする方法が提案されている。
【0006】
特許第5189293号公報には、分岐型PAS樹脂を製造する際に、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が十分に高くなった時点で、重合反応混合物中に、3個以上のハロゲン置換基を持つポリハロ芳香族化合物を所定の割合で添加する方法で製造することにより、溶融粘度、平均粒子径、及び溶融粘弾性tanδのすべてがそれぞれ適度の範囲内にある分岐型PAS樹脂を得ることができ、例えば、該分岐型PAS樹脂を直鎖型PAS樹脂にブレンドしたとき、バリ発生抑制剤として効果を発揮し、しかも成形品の表面性を良好にすることが報告されている。
【0007】
しかしながら、ハロゲン含有量が少なく、しかもバリ発生抑制に優れた特性を併せ有するPAS樹脂の開発は、従来から鋭意行われてきているが、未だ目標とする特性を有するものは得られていないのが現状である。PAS樹脂を使用する分野においては、上記した特性の改善要求が日々強くなっており、本発明者らは、この改善要求を満たすために開発・研究を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5189293号公報(EP1837359A1対応)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高分子改質剤として直鎖型PAS樹脂などの熱可塑性樹脂にブレンドしたときに、ハロゲン(塩素)含有量が少なく、金属金型に対する耐腐食性に優れ、しかも環境規制をクリアーでき、かつ、バリの発生を顕著に抑制する、ハロゲン含有量、溶融粘度、溶融粘弾性tanδの特性が高度にバランスした、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂とその製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、熱安定性や加工性が改良された粒状の樹脂である。
【0011】
更に、本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、低ハロゲン含有量でありながら、広範囲の溶融粘度、広範囲の溶融粘弾性(tanδ)の領域において、バリ発生抑制剤としての効果を奏する。
【0012】
また、本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、低ハロゲン含有量でありながら、低い溶融粘度でかつ広い溶融粘弾性(tanδ)の領域でもバリ発生抑制剤としての効果を奏し、結果として成形品の表面性が良くなる効果も奏する。
【0013】
本発明者らは、従来の分岐型PAS樹脂を高分子改質剤として用いて、高性能化とともにハロゲン(塩素)含有量の問題等(すなわちハロゲン環境規制や金属金型に対する腐食性の問題が生ずる場合もあったこと等)を解決するために、PAS樹脂への分岐構造の導入、ジスルフィド化合物の−S−S−部分での開裂、及び開裂化合物によるPASポリマー末端への置換能力に注目し、重合反応条件を高度に制御することによる分岐型PAS樹脂の製造方法に想到した。
【0014】
すなわち、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を、硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルのジハロ芳香族化合物で行い、その際、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させ、次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行う分岐型PAS樹脂の製造方法に想到した。
【0015】
本発明の製造方法は、以下の三つの重要な点に分けられる。すなわち、(a)有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を、硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルのジハロ芳香族化合物で行う、(b)その際、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させる、(c)次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行うという点である。
【0016】
第一の上記「(a)有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を、硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルのジハロ芳香族化合物で行う」点は、分子量調整に基づく溶融粘度の制御、ハロゲン(塩素)を有するポリマー末端数を少なくすることによるハロゲン(塩素)含有量の低減、及び重合反応の場での、ジスルフィド化合物及び/又はポリハロ芳香族化合物の反応促進等につながる効果をもたらすものである。
【0017】
この結果、溶融粘度のとり得る数値範囲の幅が広く、ハロゲン(塩素)含有量が少なく、加工性等に優れた分岐型PAS樹脂が得られることになる。
【0018】
第二の上記「(b)その際、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させる」点は、重合途中のPASの一部の末端をジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含むように変化させることを目的とするものである。
【0019】
このことにより、PASの一部の末端がジスルフィド化合物の開裂による−S−の置換基を含むように変化すると、その末端は、その後の生長反応に関与しなくなり、結果的にPASの低分子量化につながる効果をもたらし、ひいては溶融粘度の低下につながる効果をもたらす。
【0020】
同時に、末端のハロゲン(塩素)が、−S−の置換基となるために、分岐状態の制御やハロゲン(塩素)含有量の低下につながる効果をもたらす。
【0021】
この目的と効果を最大とするために、ジスルフィド化合物/硫黄源の比率、及びジスルフィド化合物の添加時期を厳密に調整するとともに、上記第一点目のジハロ芳香族化合物/硫黄源の比率の調整が重要となる。
【0022】
第三の上記「(c)次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行う」点は、上述したとおり、ポリハロ芳香族化合物により、分岐構造を導入する工程である。
【0023】
しかし、この工程は、従来と相違して、末端にジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含むPASを分岐型に重合する点で、この工程は従来の分岐構造を導入する工程とは相違している。
【0024】
すなわち、本発明の分岐型PAS樹脂の製造方法は、重合反応の場において、ジハロ芳香族化合物による重合反応の他に、ジスルフィド化合物による反応、及びポリハロ芳香族化合物による反応が行われる点に大きな特徴がある。
【0025】
したがって、本発明が目的とする分岐構造を導入するためには、ポリハロ芳香族化合物/硫黄源の比率、及びその添加時期の調整、更に、ポリハロ芳香族化合物/ジスルフィド化合物の比率に加えて、特に上記第一の点のジハロ芳香族化合物/硫黄源の比率の調整が鍵となる。
【0026】
PAS樹脂に分岐構造を導入するためのポリハロ芳香族化合物による反応は、相分離剤により、重合反応の場である重合反応系内の液相に、生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する液−液相分離状態を作り出すことが重要である。このような、液−液相分離状態での重合反応を、相分離重合反応とも呼ぶ。
【0027】
この生成ポリマー濃厚相において、主に、ポリハロ芳香族化合物による反応とポリマー同士の結合による高分子量化が進行し、目的とする溶融粘度を有する分岐型PAS樹脂が生成する。
【0028】
この分岐型PAS樹脂は、ポリマー同士の結合効果によりハロゲン(塩素)含有量が低減され、しかも粒状のPAS樹脂が得られる特徴がある。
【0029】
このようにして、重合した分岐型PAS樹脂は、ポリマーの一部の末端にジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含むのである。
【0030】
この結果、この工程で重合された分岐型PAS樹脂は、ハロゲン(塩素)含有量を低くすることが可能であり、溶融粘度の適正化と共に、分岐構造の指標である溶融粘弾性tanδの数値を広範囲なものとすることができる。更に、分岐型PAS樹脂を粒状で得ることが可能となる。
【0031】
このように、本発明の製造方法では、(i)ハロゲン(塩素)含有量、(ii)溶融粘度、(iii)分岐構造(溶融粘弾性tanδを指標とする)が、高度にバランスされて適切な範囲をとり得る分岐型PAS樹脂を得ることができる。
【0032】
例えば、後述する実施例4では、ハロゲン(塩素)含有量が1,650ppmと低く、温度310℃、角速度1rad/secで測定した溶融粘弾性tanδが0.55であり、かつ、温度330℃、剪断速度2sec−1で測定した溶融粘度が45,000Pa・sと著しく低いにもかかわらず、バリ発生抑制の効果を奏しているのである。
【0033】
本発明の製造方法によれば、このような優れた特性を持つ、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂を得ることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0034】
かくして、本発明によれば、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂であって、
下記特性i〜iii:
i)ハロゲン含有量4,000ppm以下、
ii)温度330℃、剪断速度2sec−1で測定した溶融粘度が1.0×10〜50.0×10Pa・s、及び
iii)温度310℃、角速度1rad/secで測定した溶融粘弾性tanδが0.1〜0.6
を有する分岐型PAS樹脂が提供される。
【0035】
また、本発明によれば、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、ジスルフィド化合物及び分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下に重合させる、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の製造方法において、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を、硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルのジハロ芳香族化合物で行い、その際、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させ、次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行う分岐型PAS樹脂の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の高分子改質剤としての使用が提供される。
【0036】
また、本発明によれば、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の高分子改質剤としての使用が、直鎖型PAS樹脂に対するバリ発生抑制剤としての使用である使用が提供される。
【0037】
本発明において、「ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂」(以下、単に「分岐型PAS樹脂」と略記することがある)とは、重合工程において、分岐構造を導入する前に、重合途中のPASとジスルフィド化合物との反応により重合途中のPASの一部の末端を変化させ、その後分岐構造を導入したPAS樹脂を呼ぶ。本発明の分岐構造が導入されたPAS樹脂は、架橋構造を含まないものが望ましいが、重合反応で副生する場合がある若干の架橋構造を含んでいてもよい。
【0038】
また、本発明において、「直鎖型PAS樹脂」とは、実質的に線状の構造を有するPAS樹脂を呼ぶ。本発明の直鎖型PAS樹脂は、若干の分岐あるいは架橋構造を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、ハロゲン(塩素)含有量が少なく、溶融粘度を適正化することが可能であり、かつ分岐構造の指標である溶融粘弾性tanδの数値を広範囲にすることが可能である。本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、高分子改質剤として、直鎖型PAS樹脂などの熱可塑性樹脂にブレンドしたときに、バリの発生を顕著に抑制することができ、かつ、ハロゲン含有量の少なく、環境問題(低ハロゲン化)や金属金型に対する腐食性の問題を解決することができる。また、本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、熱安定性や加工性に優れた粒状の樹脂である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
1.硫黄源:
本発明では、硫黄源として、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物もしくはこれらの混合物を使用する。硫黄源として、硫化水素も使用することができる。
【0041】
硫黄源としては、アルカリ金属水硫化物またはアルカリ金属水硫化物を主成分として含有する硫黄源が好ましい。アルカリ金属水硫化物としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。アルカリ金属水硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水硫化ナトリウム及び水硫化リチウムが好ましい。アルカリ金属水硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある、水との混合物)として用いることが、処理操作や計量などの観点から好ましい。
【0042】
アルカリ金属水硫化物の製造工程では、一般に、少量のアルカリ金属硫化物が副生する。本発明で使用するアルカリ金属水硫化物の中には、少量のアルカリ金属硫化物が含有されていてもよい。アルカリ金属水硫化物は、少量のアルカリ金属硫化物を含んでいる場合に、安定した状態となり易い。
【0043】
硫黄源がアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物である場合には、重合反応系の安定性の観点から、その組成は、アルカリ金属水硫化物70〜100モル%とアルカリ金属硫化物0〜30モル%であり、好ましくはアルカリ金属水硫化物90〜99.8モル%とアルカリ金属硫化物0.2〜10モル%であり、より好ましくはアルカリ金属水硫化物93〜99.7モル%とアルカリ金属硫化物0.3〜7モル%であり、特に好ましくはアルカリ金属水硫化物95〜99.6モル%とアルカリ金属硫化物0.4〜5モル%である。
【0044】
硫黄源がアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物である場合には、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、仕込み硫黄源(「有効硫黄源」と呼ぶことがある)のモル量となる。また、この総モル量は、仕込み工程に先立って脱水工程を配置する場合には、脱水工程後の仕込み硫黄源のモル量になる。
【0045】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。アルカリ金属硫化物は、無水物、水和物、及び水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手可能であって、かつ、取り扱いが容易であることなどの観点から、硫化ナトリウムが好ましい。
【0046】
2.アルカリ金属水酸化物:
本発明の製造方法では、水分を含有する有機アミド溶媒中で、アルカリ金属水硫化物を含有する硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、アルカリ金属水酸化物の存在下に重合させる方法を採用することが好ましい。
【0047】
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、工業的に安価に入手可能なことから、水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある、水との混合物)として用いることが計量などの取り扱い性の観点から好ましい。
【0048】
3.ジハロ芳香族化合物:
本発明で使用されるジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトンが挙げられる。これらのジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
ここで、ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し好ましくは塩素である。同一のジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、互いに同じでも異なっていてもよい。ジハロ芳香族化合物としては、多くの場合、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、またはこれらの2種以上の混合物が使用される。
【0050】
4.ジスルフィド化合物
本発明では、重合工程での重合反応は、ジスルフィド化合物の存在下で行われる。ジスルフィド化合物の添加は、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの間、すなわち、重合開始のジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物を添加する前の時点の間に行う。
【0051】
ジスルフィド化合物としては、例えば、ジフェニルジスルフィド(DPDS)、p−p’ジトリルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、ジベンゾイルジスルフィド、ジチオベンゾイルジスルフィドが挙げられ、ジフェニルジスルフィドが好ましい。
【0052】
ジスルフィド化合物は、−S−S−部分を有するため、ジスルフィド化合物の開裂した−S−の置換基が、重合途中のPASの一部の末端のハロゲン基(塩素基)を、置換すると推察される。例えば、ジスルフィド化合物がジフェニルジスルフィドの場合、重合反応後、分離・回収して得られる分岐型PAS樹脂には、末端と反応した−S−Cが含まれる。
【0053】
すなわち、ジスルフィド化合物がジフェニルジスルフィドで、ジハロ芳香族化合物がジハロベンゼンの場合、本発明の分岐型PAS樹脂の末端基成分は、大部分が、−Cl、ジスルフィド化合物が反応した−S−C、−SH、及び有機アミド溶媒由来の窒素化合物からなると考えられる。これらの末端基成分の分析は、定量的にまたは定性的には、元素分析や高温NMR分析やIR分析により行うことができる。また、これらの具体的な定量方法例として、元素分析による−Clの定量、滴定や誘導体化反応やIR法による−SHの定量、有機アミド溶媒由来の窒素化合物を窒素分析することにより、ジスルフィド化合物が反応した−S−C量を算出できる。
【0054】
5.ポリハロ芳香族化合物:
本発明では、PAS樹脂に分岐構造を導入するため、分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を使用する。ハロゲン置換基は、通常、ハロゲン原子が直接芳香環に結合したものである。ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し好ましくは塩素である。同一のポリハロ芳香族化合物において、複数のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。
【0055】
ポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,2,3,4−テトラクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロ−2,4,6−トリメチルベンゼン、2,4,6−トリクロロトルエン、1,2,3−トリクロロナフタレン、1,2,4−トリクロロナフタレン、1,2,3,4−テトラクロロナフタレン、2,2′,4,4′−テトラクロロビフェニル、2,2′,4,4′−テトラクロロベンゾフェノン、2,4,2′−トリクロロベンゾフェノンが挙げられる。
【0056】
これらのポリハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ポリハロ芳香族化合物の中でも、1,2,4−トリクロロベンゼン及び1,3,5−トリクロロベンゼンの如きトリハロベンゼンが好ましく、トリクロロベンゼンがより好ましい。
【0057】
分岐構造を導入するために、例えば、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物やハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を少量併用することも可能である。
【0058】
6.分子量調節剤:
生成PASに特定構造の末端を形成したり、あるいは重合反応や分子量を調節したりするために、モノハロ化合物を併用することができる。モノハロ化合物は、モノハロ芳香族化合物だけではなく、モノハロ脂肪族化合物も使用することができる。モノハロ化合物としては、モノハロプロパン、モノハロブタン、モノハロヘプタン、モノハロヘキサン、アリールハライド、クロロプレンなどのモノハロ置換飽和または不飽和脂肪族炭化水素;モノハロシクロヘキサン、モノハロデカリンなどのモノハロ置換飽和環状炭化水素;モノハロベンゼン、モノハロナフタレン、4−クロロ安息香酸、4−クロロ安息香酸メチル、4−クロロジフェニルスルホン、4−クロロベンゾニトリル、4−クロロベンゾトリフルオリド、4−クロロニトロベンゼン、4−クロロアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、塩化ベンジルなどのモノハロ置換芳香族炭化水素;などが挙げられる。
【0059】
7.有機アミド溶媒:
本発明では、脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。有機アミド溶媒は、高温でアルカリに対して安定なものが好ましい。
【0060】
有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。これらの有機アミド溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、N−アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンがより好ましく、NMPが特に好ましい。
【0062】
8.重合助剤:
本発明では、重合反応を促進させるために、必要に応じて各種重合助剤を用いることができる。重合助剤の具体例としては、一般にPAS樹脂の重合助剤として公知の有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、リン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。
【0063】
9.相分離剤:
本発明では、液−液相分離状態を生起させ、低ハロゲン含有量で、溶融粘度を調整したPASを短時間で得るために、各種相分離剤を用いることができる。相分離剤とは、それ自身でまたは少量の水の共存下に、有機アミド溶媒に溶解し、PASの有機アミド溶媒に対する溶解性を低下させる作用を有する化合物である。相分離剤それ自体は、PASの溶媒ではない化合物である。
【0064】
相分離剤としては、一般にPASの相分離剤として公知の化合物を用いることができる。相分離剤には、前記の重合助剤として使用される化合物も含まれるが、ここでは、相分離剤とは、相分離重合反応で相分離剤として機能し得る量比で用いられる化合物を意味する。相分離剤の具体例としては、水、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウムなどのアルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類などが挙げられる。有機カルボン酸金属塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。これらの相分離剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの相分離剤の中でも、コストが安価で、後処理が容易な水、または水とアルカリ金属カルボン酸塩などの有機カルボン酸金属塩との組み合わせが、特に好ましい。
【0065】
10.ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の製造方法:
本発明の分岐型PAS樹脂の製造方法は、ジハロ芳香族化合物/硫黄源の比率を小さくする方向で制御する点と、かつ、重合工程において、分岐構造を導入する前に、重合途中のPASとジスルフィド化合物との反応により、重合途中のPASの一部の末端を変化させ、その後分岐構造を導入した点を主要な特徴とする分岐型PAS樹脂の製造方法である。
【0066】
より具体的に、本発明の製造方法は、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、ジスルフィド化合物及び分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下に重合させる、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の製造方法において、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を、硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルのジハロ芳香族化合物で行い、その際、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させ、次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行う分岐型PAS樹脂の製造方法である。
【0067】
本発明の製造方法では、(i)有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を、硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルのジハロ芳香族化合物で行い、(ii)その際、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させ、(iii)次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行うことが、必須の工程である。
【0068】
特に、これらの(i)〜(iii)の工程における製造条件により、前述したとおり、ハロゲン(塩素)含有量、溶融粘度、分岐構造(溶融粘弾性tanδを指標とする)が、高度にバランスされて適切な範囲をとり得る分岐型PAS樹脂を得ることができる。したがって、これらの製造要件は、本発明の製造方法の根幹をなす限定である。
【0069】
具体的には、重合反応を行う重合工程を実施する前に、脱水工程及び仕込み工程を配置して、各成分の含有割合を正確に調整することが望ましい。硫黄源としては、アルカリ金属水硫化物を含有する硫黄源を用いることが好ましい。重合反応系には、前記硫黄源とともに、アルカリ金属水酸化物を存在させることが好ましい。
【0070】
したがって、本発明の好ましい製造方法は、下記工程(1)〜(4):
(1)有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程1;
(2)脱水工程1で系内に残存する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合して、有機アミド溶媒、硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」という)、アルカリ金属水酸化物、水分、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製し、その際、仕込み混合物のジハロ芳香族化合物は、仕込み硫黄源1モル当り0.95〜1.02モルである仕込み工程2;
(3)仕込み混合物を170〜270℃の温度に加熱することにより、水分を含有する有機アミド溶媒中で、仕込み硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、その際、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、仕込み硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させ、次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を仕込み硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、重合反応を行う前段重合工程3;
(4)重合反応混合物を加熱して、240℃以上の温度に昇温し、240〜290℃の温度で、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行う後段重合工程4;
を含む、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の製造方法である。
従来、アルカリ金属水硫化物を含有する硫黄源を使用し、該硫黄源をアルカリ金属水酸化物の存在下にジハロ芳香族化合物及びポリハロ芳香族化合物と反応させる方法が、諸特性のバランスが良好な分岐型PAS樹脂の製造方法として適していることが判明している。
【0071】
本発明者らの研究結果によれば、本発明の分岐型PAS樹脂の製造方法と従来の分岐型PAS樹脂の製造方法との主要な相違点としては、(i)ジハロ芳香族化合物/硫黄源の比率を小さくする方向で、厳密な制御を行い、かつ、(ii)重合工程において、分岐構造を導入する前に、重合途中のPASとジスルフィド化合物との反応により末端を変化させ、その後分岐構造を導入することにある。
【0072】
この新たな製造条件の発見によって、ハロゲン(塩素)含有量を低減し、溶融粘度や、溶融粘弾性tanδを広範囲の数値範囲とすることができ、高分子改質剤として好ましい、ジスルフィド化合物が開裂した−S−に置換基を含む分岐型PAS樹脂が得られることが判明した。この重合反応を安定して実施するために、重合反応に供する各成分の含有割合を調整し、特に、重合反応の場における硫黄源に対するハロゲンの比率の正確な調整を行うとともに、ジスルフィド化合物によるPAS末端への置換時期、あるいはポリハロ芳香族化合物による分岐反応の開始時期、あるいはポリハロ芳香族化合物/ジスルフィド化合物の比率、あるいは液−液相分離状態を生起させるタイミング等の重合条件を厳密に制御することが望ましい。そこで、以下に、本発明の好ましい製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0073】
10.1.脱水工程1:
硫黄源は、水和水(結晶水)などの水分を含んでいることが多い。硫黄源及びアルカリ金属水酸化物を水性混合物として使用する場合には、媒体として水を含有している。硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系内に存在する水分量によって影響を受ける。そこで、一般に、重合工程前に脱水工程を配置して、重合反応系内の水分量を調節している。
【0074】
本発明の好ましい製造方法では、脱水工程1(以下、単に「脱水工程」と略記することがある)において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から、水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する。脱水工程では、媒体として有機アミド溶媒を用いる。脱水工程で使用する有機アミド溶媒は、重合工程で使用する有機アミド溶媒と同一のものであることが好ましく、工業的に入手が容易であることからNMPがより好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽内に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kg、好ましくは0.15〜5kgである。
【0075】
脱水操作は、反応槽内へ原料を投入した後、前記各成分を含有する混合物を、通常300℃以下、好ましくは100〜250℃の温度範囲内で、通常15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱する方法により行われる。 脱水工程では、加熱により水及び有機アミド溶媒が蒸気となって留出する。したがって、留出物には、水と有機アミド溶媒とが含まれる。留出物の一部は、有機アミド溶媒の系外への排出を抑制するために、系内に環流してもよいが、水分量を調節するために、水を含む留出物の少なくとも一部は系外に排出する。留出物を系外に排出する際に、微量の有機アミド溶媒が水と同伴して系外に排出される。
【0076】
脱水工程では、硫黄源に起因する硫化水素が揮散する。水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出するのに伴い、揮散した硫化水素も系外に排出される。
【0077】
脱水工程では、水和水や水媒体、副生水などの水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、脱水工程後の重合反応系内に存在する硫黄源である有効硫黄源1モルに対して、水分量が通常0.01〜2モル、好ましくは0.5〜1.7モル、より好ましくは0.8〜1.65モル、特に好ましくは0.9〜1.6モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、仕込み工程で水を添加して所望の水分量に調節することができる。
【0078】
脱水工程において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及び硫黄源1モル当たり0.9〜1.1モル、好ましくは0.91〜1.08モル、より好ましくは0.92〜1.07モル、特に好ましくは 0.93〜1.06モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出することが好ましい。
【0079】
硫化水素は、ガスとして系外に排出される。
【0080】
10.2.仕込み工程2:
仕込み工程2(以下、単に「仕込み工程」と略記することがある)は、脱水工程で系内に残存する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合して、有機アミド溶媒、硫黄源(仕込み硫黄源)、アルカリ金属水酸化物、水分、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製し、その際、仕込み混合物のジハロ芳香族化合物は、仕込み硫黄源1モル当り0.95から1.02モルとする仕込み工程である。一般に、脱水工程において各成分の含有量及び量比が変動するため、仕込み工程での各成分量の調整は、脱水工程で得られた混合物中の各成分の量を考慮して行う必要がある。
【0081】
本発明の製造方法では、仕込み工程において、仕込み硫黄源1モル当りの各成分の割合が、アルカリ金属水酸化物が0.95〜1.09モル、水分が0.01〜2モル、及びジハロ芳香族化合物が0.95〜1.02モルとなるように、これら各成分を含有する仕込み混合物を調製することが望ましい。
【0082】
本発明において、「仕込み硫黄源」(有効硫黄源)の量は、脱水工程後の重合反応系内に存在する硫黄源であって、「脱水工程で投入した硫黄源のモル量」から「脱水工程で揮散した硫化水素のモル量」を引くことによって算出することができる。
【0083】
仕込み混合物における各成分の量比(モル比)の調整は、通常、脱水工程で得られた混合物中に、必要な成分を添加することにより行う。ジハロ芳香族化合物は、仕込み工程で混合物中に添加する。脱水工程で得られた混合物中のアルカリ金属水酸化物や水の量が少ない場合には、仕込み工程でこれらの成分を追加する。脱水工程で有機アミド溶媒の留出量が多すぎる場合は、仕込み工程で有機アミド溶媒を追加する。また、仕込み硫黄源を調整するために仕込み工程で硫黄源を追加させてもよい。したがって、仕込み工程では、ジハロ芳香族化合物に加えて、必要に応じて、硫黄源、有機アミド溶媒、水、及びアルカリ金属水酸化物を添加してもよい。
【0084】
仕込み硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応を引き起こしたりすることがある。さらに、生成する分岐型PAS樹脂の収率の低下や品質の低下を引き起こすことが多くなる。硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を含む硫黄源を使用する場合は、仕込み硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル量は、0.95〜1.09モル、好ましくは0.98〜1.085モル、より好ましくは0.99〜1.083モル、特に好ましくは1.0〜1.08モルである。この場合、アルカリ金属水酸化物の量は、脱水工程1で投入したアルカリ金属水酸化物、脱水工程1で揮散する硫化水素の生成に伴って生成するアルカリ金属水酸化物及び仕込み工程2で添加するアルカリ金属水酸化物の合計量である。
【0085】
後述する前段重合工程3では、仕込み硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比を上記範囲内とすることにより重合反応を安定的に実施し、高品質の分岐型PAS樹脂を得ることが容易になる。
【0086】
仕込み工程において、仕込み硫黄源1モル当りの水分のモル量は、0.01〜2モル、好ましくは0.6〜1.8モル、より好ましくは0.9〜1.7モル、特に好ましくは1.0〜1.65モルの範囲となるように調整することが望ましい。この場合、水分の量は、脱水工程1でのアルカリ金属硫化物の生成に伴って生成する水分、脱水工程1での硫化水素の揮散に伴って消費する水分を考慮する。前段重合工程3において、水分としての共存水分量が少なすぎると、生成ポリマーの分解反応など好ましくない反応が起こり易くなる。共存水分量が多すぎると、重合反応速度が著しく遅くなったり、分解反応が生じたりする。
【0087】
仕込み工程において、仕込み硫黄源1モル当り、ジハロ芳香族化合物を、0.95〜1.02モル、好ましくは0.96〜1.01モル、より好ましくは0.97〜1.0モル、特に好ましくは0.98〜0.999モル、また分岐型PAS樹脂によっては、更に好ましくは0.985〜0.998モル、より好ましくは0.986〜0.997モル含有する仕込み混合物を調製することが望ましい。ジハロ芳香族化合物の使用割合が前記範囲外になると、溶融粘度を所望の範囲内に制御することが困難になったり、ハロゲン含有量を目標とする範囲で低減することが困難となったり、溶融粘弾性tanδが適切な範囲外のものとなったりする。更に、重合途中のPASとジスルフィド化合物及び/又はポリハロ芳香族化合物との反応が安定的なものとならない可能性がある。
【0088】
上述したとおり、本発明は、ジハロ芳香族化合物/硫黄源の比率を小さくする方向で制御している点を特徴の一つとしている。
【0089】
仕込み工程において、有機アミド溶媒の量は、仕込み硫黄源1モル当り、通常0.1〜10kg、好ましくは0.13〜5kg、より好ましくは0.15〜2kgの範囲とすることが望ましい。
【0090】
10.3.前段重合工程3:
本発明の好ましい製造方法における前段重合工程3(以下、単に、「前段重合工程」と略記することがある)では、仕込み混合物を170〜270℃の温度に加熱することにより、水分を含有する有機アミド溶媒中で、仕込み硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、その際、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加までの時点の間に、ジスルフィド化合物を、仕込み硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加し反応させ、次いで、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を仕込み硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、重合反応を行う。
【0091】
上述したとおり、本発明では、重合開始時のジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物を添加する時点までの間に、ジスルフィド化合物を、仕込み硫黄源1モル当り0.001〜0.03モル添加することを特徴の一つとする。
【0092】
ジスルフィド化合物は、仕込み硫黄源1モル当り、0.001〜0.03モル、好ましくは0.0015〜0.02モル、より好ましくは、0.002〜0.015モルを添加する。ジスルフィド化合物の使用量が少ないと、重合途中のPAS末端へのジスルフィド化合物開裂物による置換の量が不足するために、得られる分岐型PAS樹脂の溶融粘度が小さいものとならず、ハロゲン含有量の低減が困難となる。ジスルフィド化合物の使用量が多いと、溶融粘度が小さくなりすぎて、加工性が不良となり、バリ発生抑制が困難となる。
【0093】
ジスルフィド化合物の添加時期は、ジハロ芳香族化合物の転化率0%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加するまでの時点の間であれば、いつの時点でもよいが、好ましくは、ジハロ芳香族化合物の転化率が10%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加するまでの時点の間、より好ましくは、ジハロ芳香族化合物の転化率が30%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加するまでの時点の間、特に好ましくは、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加するまでの時点の間、さらに好ましくは、ジハロ芳香族化合物の転化率が70%の時点からポリハロ芳香族化合物の添加するまでの時点の間である。
【0094】
目的とする分岐型PAS樹脂の溶融粘度、ハロゲン含有量、溶融粘弾性tanδ、熱安定性、加工性などの諸特性から、ジスルフィド化合物の添加量、添加時期を調整することが重要である。
【0095】
重合反応の場における、添加後のジスルフィド化合物による、必要とされる反応時間は、10分間〜5時間、好ましくは15分間〜4時間、より好ましくは18分間〜3時間、特に好ましくは20分間〜2時間程度である。
【0096】
ジハロ芳香族化合物の転化率は、75〜99%、好ましくは80〜98.5%、より好ましくは83〜98%、特に好ましくは85〜97.5%である。
【0097】
ジハロ芳香族化合物の転化率は、目標とする溶融粘度を得るための基となるポリマーの分子量を制御する上で重要であり、ジハロ芳香族化合物の転化率が75%以上の時点では、重合反応混合物に含まれる生成ポリマー(プレポリマー)の重量平均分子量は、通常、6,000以上となる。
【0098】
ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。ジハロ芳香族化合物を「DHA」で表すと、ジハロ芳香族化合物を硫黄源に対してモル比で過剰に添加した場合は、下記式1:
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕 (1)
により転化率を算出することができる。上記以外の場合には、下記式2:
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル))〕 (2)
により転化率を算出することができる。
【0099】
本発明の製造方法では、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を仕込み硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、ジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で添加し、重合反応を行う。
【0100】
ポリハロ芳香族化合物の添加時期は、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上の時点とすることが好ましく、ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜99%、より好ましくは83〜99%、特に好ましくは85〜98%の間の時点とすることがより好ましい。
【0101】
ポリハロ芳香族化合物の添加量は、仕込み硫黄源1モル当り0.002〜0.06モル、好ましくは0.008〜0.05モル、より好ましくは0.011〜0.04モルである。
【0102】
ポリハロ芳香族化合物の添加量が少ないと、分岐構造の形成が不充分となり、得られるPASを高分子改質剤として使用しても、バリ発生抑制剤としての特性が充分なものとはならない恐れがある。一方ポリハロ芳香族化合物の添加量が多くなると、溶融粘度が大きくなったり、溶融粘弾性tanδの値が目標とする範囲から外れる可能性がある。
【0103】
本発明の製造方法は、溶融粘度及び溶融粘弾性tanδが適正な範囲にあり、しかも低いハロゲン含有量を有する分岐型PAS樹脂を得るものであり、このためには、上記したとおり、ポリハロ芳香族化合物の添加量は、仕込み硫黄源1モル当り0.002〜0.06モルであって、かつ、前述したジスルフィド化合物1モル当り0.2〜12モルとなる範囲で調整することが重要となる。
【0104】
すなわち、ポリハロ芳香族化合物の添加量は、ジスルフィド化合物1モル当り、0.2〜12モル、好ましくは0.5〜11.5モル、より好ましくは1〜11モル、特に好ましくは1.5〜10.5モル、更に好ましくは、2〜10モルとする範囲で調整する必要がある。
【0105】
ジスルフィド化合物に対するポリハロ芳香族化合物の添加量の上記比率は、PASポリマーに対するジスルフィド化合物の開裂物による末端の置換の程度とポリハロ芳香族化合物による分岐の度合いのバランスを判断する上で重要な指標と考えることができる。この比率が上記範囲内であれば、適正な溶融粘度と溶融粘弾性tanδを有する本発明の分岐型PAS樹脂を得ることができる。
【0106】
この比率が、0.2モル未満であると、分岐の生成が困難となり、目標とする分岐構造を導入することが困難となる。
【0107】
また、この比率が12モルを超えると、溶融粘度が大きくなりすぎ。溶融粘弾性tanδの値が低くなる可能性がある。
【0108】
重合反応の場における、ポリハロ芳香族化合物の添加後の必要とされる反応時間は、5分間〜3時間、好ましくは、7分間〜2.5時間、より好ましくは8分間〜2.25時間、特に好ましくは10分間〜2時間程度である。
【0109】
ジハロ芳香族化合物の転化率が80%未満の段階でポリハロ芳香族化合物を添加すると、得られる分岐型PAS樹脂の溶融粘度が高くなる傾向を示す一方、溶融粘弾性tanδが小さくなりすぎて、バリ抑制効果が不十分となる。
【0110】
更に重要なことは、ポリハロ芳香族化合物を添加する際には、重合反応の場において、ジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物のハロゲン量の合計量が、仕込み硫黄源1モル当り1.01〜1.05モル、好ましくは、1.011〜1.045モル、より好ましくは、1.012〜1.043モル、特に好ましくは、1.015〜1.04モルになるように、ポリハロ芳香族化合物の添加量を調整する。
【0111】
この場合、例えば、ポリハロ芳香族化合物として、1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)を用いた場合は、ポリハロ芳香族化合物のモル量を1.5倍したモル量と、例えばジハロ芳香族化合物としてp−ジクロロベンゼン(pDCB)を用いた場合でのモル量との合計量が、ハロゲン(塩素)量の合計量である。換言すれば、pDCB/Sの2倍とTCB/Sとの3倍の合計量を、2で割った値である。
【0112】
ポリハロ芳香族化合物の使用量が多すぎると、分岐型PAS樹脂の溶融粘度が大きいものとなり、溶融粘弾性tanδが小さくなりすぎて、バリ抑制効果が低下し、また、加工性が不良となる。ポリハロ芳香族化合物の使用量が少なすぎると、分岐構造の導入が不十分となり、バリ抑制効果が損なわれる。
【0113】
後述する後段重合工程4では、液−液相分離状態で、相分離剤の存在下で、相分離重合反応を行うことを主目的としている。そのために、前段重合工程3において、相分離剤を添加することもある。
【0114】
一般に、液−液相分離状態は、相分離剤の存在下で、重合系を高温にすることにより発現させることができる。相分離剤を存在させる時期は、相分離剤の種類と量により異なる。例えば相分離剤が水の場合は、前段重合工程のジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で添加する。有機カルボン酸塩やアルカリ金属ハライド等は、重合前または重合初期の段階でも添加してかまわない。この場合、後段重合時に温度を上げることにより相分離状態とすることができる。
【0115】
相分離剤は、ポリハロ芳香族化合物と実質的に同時に添加してもよく、あるいはポリハロ芳香族化合物の添加後に添加してもよい。例えば、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を添加し、その後、ジハロ芳香族の転化率が99%以下、好ましくは98%以下の時点で相分離剤を添加することができる。
【0116】
相分離剤としては、前述のアルカリ金属カルボン酸塩や水などを使用することができるが、好ましくは水を使用する。水を用いると、コストが安価で、後処理も容易となるので好ましい。
【0117】
相分離剤が水の場合、重合反応混合物中に、重合反応混合物中の水分量(合計水分量)が仕込み硫黄源1モル当り2モル超過10モル以下、好ましくは2.3〜7モル、より好ましくは2.5〜5モルとなるように水を添加することが好ましい。
【0118】
相分離剤として、水と水以外の相分離剤とを使用する場合には、重合反応混合物中の水分量(合計量)を、仕込み硫黄源1モル当り、0.01〜7モル、好ましくは0.1〜6モル、より好ましくは1〜4モルとし、水以外の相分離剤を0.01〜3モル、好ましくは0.02〜2モル、より好ましくは0.03〜1モルの範囲で存在させることが好ましい。この場合、水以外の相分離剤を重合前から前段重合の間の任意の時期に添加してもよい。
【0119】
後述する後段重合工程4では、相分離剤の存在下で高温にすることにより、通常、ポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離が発現した状態で重合反応が継続される。相分離剤の添加量が少なすぎたり、温度が低すぎたりすると、相分離重合を行うことが困難になり、所望の特性を持つ分岐型PAS樹脂を得ることが困難になる。相分離剤の存在量が多すぎると、重合反応に長時間を必要としたり、粒状ポリマーを生成させることが困難になったりする。
【0120】
前段重合工程での重合反応時間は、後述する後段重合工程4での重合時間との合計で、一般に10分間〜72時間、好ましくは0.5〜48時間、より好ましくは0.5〜15時間、特に好ましくは1〜12時間程度である。
【0121】
前段重合工程では、仕込み混合物を、好ましくは170〜270℃、より好ましくは180〜240℃、特に好ましくは190〜235℃の温度に加熱して、重合反応を開始させる。
【0122】
10.4.後段重合工程4:
後段重合工程4(以下、「後段重合工程」と略記することもある)は、以下のとおりである。
【0123】
この後段重合工程は、重合反応混合物を加熱して、240℃以上の温度に昇温し、240〜290℃の温度で、相分離剤の存在下で相分離重合反応を行う重合工程であって、ポリマー濃厚相でのポリマーの生長反応、ポリマー濃厚相でのポリマーの分岐構造の進展を司る上で、非常に重要な工程である。
【0124】
本発明の製造方法は、後段重合工程において、反応混合物がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で相分離重合反応が継続される。一般に、攪拌下に相分離重合反応が行われるため、実際には、有機アミド溶媒(ポリマー希薄相)中に、ポリマー濃厚相が液滴として分散した状態で相分離重合反応が行われる。
【0125】
すなわち、後段重合工程では、ポリマー希薄相と、ポリマー濃厚相とが、液−液相分離状態で存在し、主にポリマー濃厚相において、PASポリマーに対するポリハロ芳香族化合物による分岐反応の開始と生長が進行すると共に、生長反応中のPASポリマー同士の結合による高分子量化が効率よく行われて分岐構造が生成する。
【0126】
本発明の製造方法において後段重合工程は、目標とする溶融粘度値の値が広く、ハロゲン含有量が少なく、溶融粘弾性tanδの値に特徴のある分岐型PAS樹脂を得る上で重要な工程となっている。
【0127】
後段重合工程では、240〜290℃、好ましくは245〜270℃の温度で重合反応を継続する。重合温度は、一定の温度に維持することができるが、必要に応じて、段階的に昇温または降温してもよい。
【0128】
重合反応時間は、前段重合工程での重合時間との合計で、一般に10分間〜72時間、好ましくは30分間〜48時間である。後段重合工程での重合時間は、多くの場合、2〜10時間程度である。
【0129】
11.後処理工程:
重合反応後の後処理は、常法に従って行うことができる。例えば、重合反応の終了後、重合反応混合物を冷却すると生成ポリマーを含むスラリーが得られる。冷却したスラリーをそのまま、あるいは水などで希釈してから、濾別し、洗浄と濾過を繰り返し、最後に乾燥することにより、分岐型PAS樹脂を回収することができる。
【0130】
本発明の製造方法によれば、粒状ポリマーを生成させることができるため、スクリーンを用いて篩分する方法により粒状ポリマーをスラリーから分離することができる。この分離工程により、ハロゲン含有量が非常に多い副生物やオリゴマーなどを容易に分離することができる。その結果、低ハロゲン量のPASが得られるため好ましい。スラリーは、高温状態のままで粒状ポリマーを篩分してもよい。
【0131】
通常、篩分は、100メッシュ(篩目開き150μm)のスクリーンで行う。篩分を、100メッシュ(篩目開き150μm)のスクリーンで行った場合、通常、収率は、70%以上、好ましくは75%以上である。
【0132】
篩分後、ポリマーを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)などの有機溶媒で洗浄することが好ましい。ポリマーを高温水などで洗浄してもよい。ポリマーを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。生成した粒状ポリマーの平均粒子径が大きすぎる場合には、所望の平均粒子径となるように、粉砕工程を配置してもよい。粒状ポリマーの粉砕及び/または分級を行うこともできる。
【0133】
12.ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂:
本発明の製造方法によれば、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂であって、
下記特性i〜iii:
i)ハロゲン含有量4,000ppm以下、
ii)温度330℃、剪断速度2sec−1で測定した溶融粘度が1.0×10〜50.0×10Pa・s、及び
iii)温度310℃、角速度1rad/secで測定した溶融粘弾性tanδが0.1〜0.6
を有する分岐型PAS樹脂を得ることができる。
【0134】
本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂のハロゲン含有量は、好ましくは3,000ppm以下、より好ましくは2,000ppm以下、特に好ましくは1,800ppm以下、さらに特に好ましくは1,700ppm以下であるである。分岐型PAS樹脂の用途によっては、さらに、1,600ppm以下、より好ましくは1,500ppm以下とすることもできる。
【0135】
本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の溶融粘度A(温度330℃、剪断速度2sec−1で測定)は、好ましくは2.0×10〜48.0×10Pa・s、より好ましくは2.5×10〜47.5×10Pa・s、特に好ましくは3.0×10〜47.0×10Pa・sである。分岐型PAS樹脂の溶融粘度が高すぎると、バリ抑制効果が不十分となり、かつ、成形品の表面性が悪くなる。分岐型PAS樹脂の溶融粘度が低すぎると、バリ抑制効果が劣悪となる。
【0136】
加えて、本発明では、溶融粘度B(温度310℃、剪断速度1,200sec−1で測定)を測定した。
【0137】
一般に、測定温度が高ければ、溶融粘度は低く測定され、また剪断速度が大きければ、溶融粘度は低く測定される。
【0138】
本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の溶融粘弾性tanδ(温度310℃、角速度1rad/secで測定)は、好ましくは、0.11〜0.58、より好ましくは、0.12〜0.57、特に好ましくは0.13〜0.56である。分岐型PAS樹脂の溶融粘弾性tanδが前記範囲内にあることによって、優れたバリ抑制効果が得られる。分岐型PAS樹脂の溶融粘弾性tanδが大きすぎたり、小さすぎたりすると、バリ抑制効果が劣悪となる。
【0139】
分子量が極端に大きな直鎖型PAS樹脂や、従来のような架橋構造を導入したPAS樹脂は、架橋の程度にもよるが、溶融粘弾性tanδは、通常、0.10よりも低い値を示す。一方、分子量が著しく低いPAS樹脂の溶融粘弾性tanδは、通常、0.6を超える値をとる。
【0140】
本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂の平均粒子径は、好ましくは60〜1,500μm、より好ましくは100〜1,300μm、特に好ましくは150〜1,000μm、さらに好ましくは200〜950μmの範囲内である。
【0141】
分岐型PAS樹脂の平均粒子径を調整するために、重合により得られた分岐型PAS樹脂を粉砕及び/または分級してもよい。分岐型PAS樹脂の平均粒子径が小さすぎると、取り扱い、計量などが困難になる。分岐型PAS樹脂の平均粒子径が大きくなりすぎると、成形品の表面性が損なわれたり、直鎖型PAS樹脂などの他の樹脂とのブレンドが困難になったりする。
【0142】
本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、高分子改質剤として、直鎖型PAS樹脂とブレンドして、バリ発生抑制剤として使用することが好ましい。直鎖型PAS樹脂とは、重合時に高分子量のポリマーとして得られるPAS樹脂である。ただし、直鎖型PAS樹脂は重合時に副生する場合がある若干の分岐あるいは架橋構造を含んでいる場合もある。
【0143】
直鎖型PAS樹脂は、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が通常5〜1,500Pa・s、好ましくは10〜1,000Pa・s、より好ましくは15〜500Pa・sの直鎖型PPS樹脂であることが望ましい。
【0144】
本発明では、直鎖型PAS樹脂100重量部に対して、分岐型PAS樹脂1〜50重量部を配合した樹脂組成物が好ましい。分岐型PAS樹脂の配合割合は、好ましくは5〜40重量部である。
【0145】
この樹脂組成物には、有機または無機の各種充填剤を添加することができる。充填剤としては、粉末状や粒状の充填剤、繊維状充填剤など、この技術分野で使用されている任意の充填剤を用いることができる。これらの中でも、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状の無機充填剤が好ましい。
【0146】
充填剤の配合割合は、直鎖型PAS樹脂100重量部に対して、通常400重量部以下、好ましくは350重量部以下、より好ましくは300重量部以下である。充填剤を配合する場合、その下限値は、直鎖型PAS樹脂100重量部に対して、通常0.01重量部、多くの場合0.1重量部である。充填剤の配合割合は、上記範囲内において、それぞれの使用目的に応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0147】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。物性及び特性の測定方法は、次の通りである。
【0148】
(1)ハロゲン含有量の測定法
試料であるポリマー中のハロゲン含有量として、塩素含有量を燃焼イオンクロマト法により測定した。
(測定条件)
イオンクロマトグラフ:DIONEX製 DX320
燃焼用前処理装置:三菱化学製 AQF−100,ABC,WS−100,GA−100
試料:10mg
ヒーター:入口温度/900℃,出口温度/1000℃
吸収液:H900ppm,内標準PO3− 25ppm
【0149】
(2)収率:
ポリマーの収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する有効硫黄成分(有効S)の全量がポリマーに転換したと仮定したときのポリマー重量(理論量)を基準値とし、この基準値に対する実際に回収したポリマー重量の割合(重量%)を算出した。
【0150】
(3)溶融粘度:
(3−1)溶融粘度A:
試料であるポリマー約10gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。この際、キャピラリーは、直径2.095mm×長さ8.04mmの流入角付きダイを使用し、測定温度は、330℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、剪断速度2sec−1での溶融粘度を測定した。この溶融粘度を溶融粘度Aと呼ぶ。
【0151】
(3−2)溶融粘度B
試料であるポリマー約10gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。キャピラリーとして、直径1mm×長さ10mmのフラットダイを使用した。測定温度は310℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、310℃で5分間保持した後、剪断速度1,200sec−1で溶融粘度を測定した。この溶融粘度を溶融粘度Bと呼ぶ。
【0152】
(4)溶融粘弾性(tanδ):
試料であるポリマー約3gを直径2cmの円形型枠内において、320℃でホットプレスし、氷水によって急冷して、レオメータ測定用の試験片を作製した。レオメトリックス社製レオメータRDSIIを使用し、測定温度310℃、パラレルプレートにより、角速度ω=1rad/secで溶融粘弾性の測定を行った。
【0153】
(5)バリ特性
温度310℃、剪断速度1,200sec−1で測定した溶融粘度が30Pa・sの直鎖型PPS樹脂100重量部に対して、試料であるポリマー20重量部とガラス繊維(直径13μm、長さ3mm、日本電気硝子製)80重量部とを2分間混合し、これをシリンダ温度320℃の二軸押出機に投入し、樹脂組成物のペレットを作製した。このペレットを、直径70mm×厚さ3mmのキャビティを有するバリ評価用金型内に、完全に樹脂組成物が充填する最小の充填圧力で射出成形した。射出成形の条件は、下記の通りである。
【0154】
<射出成形条件>
射出成形機: 東芝機械製、IS−75E、
シリンダ温度条件: NH/H1/H2/H3/H4=310/320/310/300/290(℃)、
金型温度: 140℃。
【0155】
<バリ長さの測定>
金型の円周部に設けられた厚さ20μm×5mmのスリットに生じるバリの長さ(バリ長)を、拡大投影器を用いて測定した。バリ長(μm)が短いほど、バリ発生を抑制する効果(バリ特性)が良好であることを示す。
【0156】
(6)成形品の表面性
バリ評価用成形品(直径70mm×厚さ3mmの円盤)の両面を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
A:小さなクレータ状の凹みが4個以下、
B:クレータ状の凹みが5〜20個、
C:クレータ状の凹みが21個以上。
【0157】
(7)収率
ポリマーの収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する有効硫黄成分(有効S)の全量がポリマーに転換したと仮定したときのポリマー重量(理論量)を基準値とし、この基準値に対する実際に回収したポリマー重量の割合(重量%)を算出した。
【0158】
(8)平均粒子径
平均粒子径は、JIS K−0069に従い、下から200メッシュ、150メッシュ、100メッシュ、60メッシュ、32メッシュ、24メッシュ、16メッシュ、12メッシュ、及び7メッシュの9つの篩を積み重ね、一番上の篩にポリマー試料を載せ、測定を行った。
【0159】
[実施例1]
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値61.8重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1,950g(NaSH分として21.50モル)、及び73.7重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1,191g(NaOH分として21.94モル)をN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記)6,000gと共に20リットルの撹拌機付きチタン内張りオートクレーブ(以下、「反応缶」と略記)に投入した。
【0160】
反応缶内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水985g及びNMP891gを留出させた。この際、12.5gの硫化水素(HS)(0.37モル)が流出(揮散)した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、21.13モルとなった(有効S量は、「仕込み硫黄源」に相当する)。
【0161】
(2)仕込み工程:
脱水工程後、21.13モルの有効Sを含む反応缶の内容物を150℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」と略記)3,094g〔pDCB/有効S=0.996(モル/モル)〕と、NMP2,603g〔缶内のNMP/有効S=365(g/モル)となるように添加〕、及び水170g〔缶内の合計水量/有効S=1.62(モル/モル)となるように添加〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.075(モル/モル)になるように、NaOH1.5g(0.04モル)を加えた。反応缶内には、HSが揮散することにより生成したNaOH(0.73モル)が含まれていた。
【0162】
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で8時間反応させた。pDCBの転化率は、96%であった。次に、ジフェニルジスルフィド(以下、「DPDS」と略記)46.1g、NMP340gの混合物を圧入し1時間反応させた。DPDS/有効Sは、 0.010(モル/モル)であった。さらに、1,2,4−トリクロロベンゼン(以下、「TCB」と略記)100g〔TCB/有効S=0.026(モル/モル)〕、及びNMP400gの混合物を圧入し、15分間反応させ前段重合を行った。その際、pDCBとTCBとの塩素量の合計量は有効S1モル当り1.035モルであった。
また、TCB/DPDS(モル/モル)は、2.6であった。
【0163】
次に、撹拌数を400rpmに上げ、水392gを圧入した後255℃に昇温し3時間反応させ、後段重合を行った。水/有効S(モル/モル)は2.65であった。
【0164】
(4)後処理工程:
後段重合終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュ(篩目開き150μm)のスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより3回洗浄し、水洗浄を3回行った。この粒状ポリマーを、pH4に調整した酢酸水溶液で洗浄を1回行い、さらに水洗浄を3回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、100℃で一昼夜乾燥した。粒状ポリマーの収率は、82%であった。平均粒子径は、633μmであった。
【0165】
このようにして得られた、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、溶融粘度A(温度330℃、剪断速度2sec−1で測定)が180,000Pa・s、溶融粘度B(温度310℃、剪断速度1,200sec−1で測定)が1,019Pa・s、塩素含有量が1,000ppm、溶融粘弾性tanδが0.27であった。データを表1に示した。
【0166】
[実施例2]
実施例1の重合工程のDPDSを34.5gにして、DPDS/有効S(モル/モル)を0.0075にしたことを除いて、実施例1と同様に行った。TCB/DPDS(モル/モル)は、3.5であった。
粒状ポリマーの収率は、80%であった。平均粒子径は、504μmであった。
【0167】
このようにして得られた、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが300,000Pa・s、溶融粘度Bが1,427Pa・s、塩素含有量が1,550ppm、溶融粘弾性tanδが0.20であった。データを表1に示した。
【0168】
[実施例3]
実施例1の重合工程のDPDSを23.1gにして、DPDS/有効S(モル/モル)を0.005にしたことを除いて、実施例1と同様に行った。
TCB/DPDS(モル/モル)は、5.2であった。
粒状ポリマーの収率は78%であった。平均粒子径は、320μmであった。
【0169】
このようにして得られた、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが460,000Pa・s、塩素含有量が1,650ppm、溶融粘弾性tanδが0.14であった。溶融粘度Bは溶融粘度が高すぎて測定できなかった。データを表1に示した。
【0170】
[実施例4]
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値61.8重量%のNaSH水溶液1,870g(NaSH分として20.61モル)、及び73.7重量%のNaOH水溶液1,071g(NaOH分として19.73モル)を、NMP6,003gと共に反応缶に投入した。
【0171】
反応缶内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水920g及びNMP821gを留出させた。この際、8.0gのHS(0.23モル)が流出(揮散)した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.38モルとなった。
【0172】
(2)仕込み工程:
脱水工程後、20.38モルの有効Sを含む反応缶の内容物を150℃まで冷却し、pDCB2,975g〔pDCB/有効S=0.993(モル/モル)〕、NMP2,248g〔缶内のNMP/有効S=365(g/モル)となるように添加〕、及び水150g〔缶内の合計水量/有効S=1.60(モル/モル)となるように添加〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.060(モル/モル)になるように、NaOH56g(1.4モル)を加えた。反応缶内には、HSが揮散することにより生成したNaOH(0.47モル)が含まれていた。
【0173】
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で8時間反応させた。pDCBの転化率は、96%であった。次に、DPDS44.4g、NMP313gの混合物を圧入し30分間反応させた。DPDS/有効Sは、 0.010(モル/モル)であった。さらに、TCB76g〔TCB/有効S=0.021(モル/モル)〕及びNMP400gの混合物を圧入し、1時間反応させ前段重合を行った。その際、pDCBとTCBとの塩素量の合計量は有効S1モル当り1.024モルであった。
TCB/DPDS(モル/モル)は、2.06であった。
【0174】
次に、撹拌数を400rpmに上げ、水513gを圧入した後255℃に昇温し3時間反応させ、後段重合を行った。水/有効S(モル/モル)は3.00であった。
【0175】
(4)後処理工程:
後段重合終了後、実施例1と同様にして、粒状ポリマーを得た。粒状ポリマーの収率は、82%であった。平均粒子径は、870μmであった。
【0176】
このようにして得られた、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが45,000Pa・s、溶融粘度Bが560Pa・s、塩素含有量が1,650ppm、溶融粘弾性tanδが0.55であった。データを表1に示した。
【0177】
[実施例5]
実施例4の重合工程のDPDSを22.0gにしたことにより、DPDS/有効S(モル/モル)が0.005であることを除いて、実施例4と同様に行った。TCB/DPDS(モル/モル)は、4.2であった。
粒状ポリマーの収率は86%であった。平均粒子径は、403μmであった。
【0178】
このようにして得られた、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが150,000Pa・s、溶融粘度Bが1,108Pa・s、塩素含有量が1,600ppm、溶融粘弾性tanδが0.28であった。データを表1に示した。
【0179】
[実施例6]
実施例4の重合工程のDPDSを6.6gにしたことにより、DPDS/有効S(モル/モル)が0.0015であることと、TCBを51.7gにしたことによりTCB/有効S(モル/モル)が0.014であることを除いて、実施例4と同様に行った。pDCBとTCBとの塩素量の合計量は有効S1モル当り1.014モルであった。
TCB/DPDS(モル/モル)は、9.4であった。
粒状ポリマーの収率は83%であった。平均粒子径は、280μmであった。
【0180】
このようにして得られた、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが130,000Pa・s、溶融粘度Bが1,372Pa・s、塩素含有量が1,400ppm、溶融粘弾性tanδが0.40であった。データを表1に示した。
【0181】
[比較例1]
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値61.8重量%のNaSH水溶液1,871g(NaSH分として20.63モル)、及び73.7重量%のNaOH水溶液1,100g(NaOH分として20.27モル)をNMP6,501gと共に反応缶に投入した。
【0182】
反応缶内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水953g及びNMP878gを留出させた。この際、13.0gのHS(0.38モル)が流出(揮散)した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.24モルとなった。
【0183】
(2)仕込み工程:
脱水工程後、20.24モルの有効Sを含む反応缶の内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,190g〔pDCB/有効S=1.072(モル/モル)〕、NMP3,100g〔缶内のNMP/有効S=430(g/モル)〕、及び水151g〔缶内の合計水量/有効S=1.54(モル/モル)〕を加えた[缶内NaOH/有効S=1.039(モル/モル)]。反応缶内には、HSが揮散することにより生成したNaOH(0.76モル)が含まれている。
【0184】
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3時間反応させた。pDCBの転化率は、80%であった。次に、TCB125g〔TCB/有効S=0.034(モル/モル)〕、及びNMP406gを圧入し、4時間反応させ前段重合を行った。その際、pDCBとTCBとの塩素量の合計量は有効S1モル当り1.123モルであった。
【0185】
次に、撹拌数を400rpmに上げ、水603gを圧入した後255℃に昇温し4時間反応させ、後段重合を行った。水/有効S(モル/モル)は3.19であった。
【0186】
(4)後処理工程:
後段重合終了後、実施例1と同様にして、粒状ポリマーを得た。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、85%であった。平均粒子径は、597μmであった。
【0187】
このようにして得られた、分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが280,000Pa・s、溶融粘度Bが750Pa・s、塩素含有量が6,500ppm、溶融粘弾性tanδが0.15であった。データを表1に示した。
【0188】
[比較例2]
実施例1の重合工程のDPDSを9.0gにして、DPDS/有効S(モル/モル)を0.002にしたことを除いて、実施例1と同様に行った。
TCB/DPDS(モル/モル)は、13.4であった。
粒状ポリマーの収率は56%であった。平均粒子径は、240μmであった。
【0189】
このようにして得られた、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが640,000Pa・s、塩素含有量が1,850ppm、溶融粘弾性tanδが0.12であった。溶融粘度Bは溶融粘度が高すぎて測定できなかった。データを表1に示した。
【0190】
[比較例3]
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値61.8重量%のNaSH水溶液1,801g(NaSH分として19.85モル)、及び73.7重量%のNaOH水溶液1,080g(NaOH分として19.90モル)をNMP6,000gと共に反応缶に投入した。
【0191】
反応缶内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水861g及びNMP718gを留出させた。この際、6.0gの硫化水素(HS)(0.18モル)が流出(揮散)した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、19.68モルとなった。
【0192】
(2)仕込み工程:
脱水工程後、19.68モルの有効Sを含む反応缶の内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,074g〔pDCB/有効S=1.063(モル/モル)〕、NMP3,580g〔缶内のNMP/有効S=450(g/モル)となるように添加〕、及び水110g〔缶内の合計水量/有効S=1.62(モル/モル)となるように添加〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、NaOH19.5gを加えた。反応缶内には、HSが揮散することにより生成したNaOH(0.35モル)が含まれている。
【0193】
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で8時間反応させた。pDCBの転化率は、90%であった。次に、TCB185g〔TCB/有効S=0.052(モル/モル)〕、及びNMP400gを圧入し、前段重合を行った。その際、pDCBとTCBとの塩素量の合計量は有効S1モル当り1.140モルであった。
【0194】
次に、撹拌数を400rpmに上げ、水589gを圧入した後255℃に昇温し4時間反応させ、後段重合を行った。水/有効S(モル/モル)は3.28であった。
【0195】
(4)後処理工程:
後段重合終了後、実施例1と同様にして粒状ポリマーを得た。粒状ポリマーの収率は、76%であった。平均粒子径は、623μmであった。
【0196】
このようにして得られた、分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが105,000Pa・s、溶融粘度Bが521Pa・s、塩素含有量が9,000ppm、溶融粘弾性tanδが0.28であった。データを表1に示した。
【0197】
[比較例4]
比較例3の脱水工程と同じにして、仕込み工程、重合工程、後処理工程を以下のとおりとした。
【0198】
(2)仕込み工程
脱水工程後、19.68モルの有効Sを含む反応缶の内容物を150℃まで冷却し、pDCB2,997g〔pDCB/有効S=1.036(モル/モル)〕、NMP3,580g〔缶内のNMP/有効S=450(g/モル)〕、TCB49g〔TCB/有効S=0.014(モル/モル)〕及び水115g〔缶内の合計水量/有効S=1.63(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、NaOH19.5gを加えた。反応缶内には、HSが揮散することにより生成したNaOH(0.49モル)が含まれている。その際、pDCBとTCBとの塩素量の合計量は有効S1モル当り1.057モルであった。
【0199】
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3時間反応させた。pDCBの転化率は、90%であった。次に、撹拌数を400rpmに上げ、水892gを圧入した後255℃に昇温し1時間反応させ、後段重合を行った。水/有効S(モル/モル)は4.15であった。
【0200】
(4)後処理工程:
後段重合終了後、実施例1と同様にして粒状ポリマーを得た。粒状ポリマーの収率は、80%であった。平均粒子径は、477μmであった。
【0201】
このようにして得られた分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが240,000Pa・s、溶融粘度Bが1,210Pa・s、塩素含有量が4,300ppm、溶融粘弾性tanδが0.37であった。データを表1に示した。
【0202】
[比較例5]
比較例4の仕込み工程のpDCBを3,065gにしたことによりpDCB/有効S(モル/モル)が1.060であること、TCBを108gにしたことによりTCB/有効S(モル/モル)が0.030であることを除いて、比較例4と同様に行った。その際、pDCBとTCBとの塩素量の合計量は有効S1モル当り1.105モルであった。粒状ポリマーの収率は、77%であった。平均粒子径は、241μmであった。
【0203】
このようにして得られた、分岐型PAS樹脂は、溶融粘度Aが490,000Pa・s、塩素含有量が8,300ppm、溶融粘弾性tanδが0.05であった。溶融粘度Bは溶融粘度が高すぎて測定できなかった。
【0204】
[比較例6]
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値61.8重量%のNaSH水溶液2,000g(NaSH分として22.05モル)、及び73.7重量%のNaOH水溶液1,171g(NaOH分として21.58モル)をNMP6,001gと共に反応缶に投入した。
【0205】
反応缶内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水1,014g及びNMP763gを留出させた。この際、5.5gのHS(0.16モル)が流出(揮散)した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、21.89モルとなった。
【0206】
(2)仕込み工程:
脱水工程後、21.89モルの有効Sを含む反応缶の内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,283g〔pDCB/有効S=1.020(モル/モル)〕、NMP2,760g〔缶内のNMP/有効S=365(g/モル)となるように添加〕、及び水189g〔缶内の合計水量/有効S=1.62(モル/モル)となるように添加〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.050(モル/モル)になるように、NaOH43.0gを加えた。反応缶内には、HSが揮散することにより生成したNaOH(0.32モル)が含まれている。
【0207】
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で5時間反応させた。pDCBの転化率は、92%であった。
【0208】
次にDPDS14.3g、NMP762gを圧入し、15分間反応させ前段重合を行った。DPDS/有効S(モル/モル)は、0.003であった。
【0209】
次に、撹拌数を400rpmに上げ、水397gを圧入した後255℃に昇温し5時間反応させ、後段重合を行った。水/有効S(モル/モル)は2.63であった。
【0210】
(4)後処理工程:
後段重合終了後、実施例1と同様にして粒状ポリマーを得た。粒状ポリマーの収率は、89%であった。平均粒子径は、436μmであった。
【0211】
このようにして得られた、ジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含むPAS樹脂は、溶融粘度Bが19Pa・s、塩素含有量が950ppmであった。溶融粘弾性tanδは溶融粘度が低すぎるため測定できなかった。データを表1に示した。
【0212】
実施例1〜6、比較例1〜6を表1で整理する。
【0213】
【表1】
【0214】
[考察]
ある程度同程度の溶融粘度、溶融粘弾性tanδ及びバリ長の特性を有する例として、本発明の場合(実施例1、実施例2)と、ジスルフィド化合物を添加しない場合(比較例1)とを対比すると、本発明の場合(実施例1、2)は、ジスルフィド化合物を添加しない場合(比較例1)に対比して、塩素含有量が格段に小さく、バリ長が小さいという点で優れている。
【0215】
比較例2は、本発明の場合(実施例1、実施例2、実施例3)において、ジスルフィド化合物を少なく添加した場合の例である。この場合、特に、ポリハロ芳香族化合物/ジスフィルド化合物の比率が、12以上の場合は、本発明の範囲外となる。比較例2の場合、溶融粘度Aが本発明の範囲を超え大きく、溶融粘度Bが測定不可である。バリ発生抑制剤として実用的でないことは明らかである。ある程度低い溶融粘度でかつ高い溶融粘弾性tanδを有する例として、本発明の場合(実施例4)と、ジスルフィド化合物を添加しない例(比較例3、4)とを対比すると、本発明の場合(実施例4)は、ジスルフィド化合物を添加しない場合(比較例3、4)に対比して、塩素含有量が少ないだけでなく、特にバリ長が小さいという点で優れている。
【0216】
特に、実施例4は、溶融粘度Aが45,000Pa・sと著しく小さいにもかかわらず、バリ長が110μmであり、バリ発生抑制に対して効果を有する。
【0217】
ある程度高い溶融粘度を有する例として、本発明の場合(実施例3)と、ジスルフィド化合物を添加しない例(比較例5)とを対比すると、本発明の場合(実施例3)は、塩素含有量が少ないだけでなく、特にバリ長が小さいという点で優れている。
【0218】
比較例5は、ジスルフィド化合物は添加せず、ポリハロ芳香族化合物を仕込み工程で添加した例であり、塩素含有量が多く、バリ長が大きいという点で劣っている。
【0219】
比較例6は、ジスルフィド化合物は添加するものの、ポリハロ芳香族化合物を添加しない例であり、分岐型PAS樹脂ではない。この場合、溶融粘度Aは粘度が低すぎて測定できないという点で劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、ハロゲン(塩素)含有量が少なく、溶融粘度を適正化することが可能であり、かつ分岐構造の指標である溶融粘弾性tanδの数値を広範囲にすることが可能である。また、本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、バリ発生抑制剤として有用である。
【0221】
本発明のジスルフィド化合物が開裂した−S−の置換基を含む分岐型PAS樹脂は、直鎖型PAS樹脂など他の熱可塑性樹脂とブレンドして、射出成形、押出成形、圧縮成形などの一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であり、電気・電子機器、自動車機器、化学機器等の広範な分野において樹脂部品の材料として利用することができる。