(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306698
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】多層デバイスおよび多層デバイスを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/047 20060101AFI20180326BHJP
H01L 41/083 20060101ALI20180326BHJP
H01L 41/297 20130101ALI20180326BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
H01L41/047
H01L41/083
H01L41/297
H01L41/09
【請求項の数】11
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-524041(P2016-524041)
(86)(22)【出願日】2014年9月11日
(65)【公表番号】特表2016-536786(P2016-536786A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】EP2014069420
(87)【国際公開番号】WO2015055359
(87)【国際公開日】20150423
【審査請求日】2016年5月26日
(31)【優先権主張番号】102013017350.7
(32)【優先日】2013年10月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ガラー, マルティン
【審査官】
上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第102006001656(DE,A1)
【文献】
独国特許発明第04091418(DE,C2)
【文献】
独国特許出願公開第102012101351(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第19542365(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102012105287(DE,A1)
【文献】
特開平05−267743(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102004026572(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第19860001(DE,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02461385(EP,A1)
【文献】
特開平07−106654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/047,41/083,41/09,41/297
H01G 4/12,4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に配設された複数の誘電体層(3)および複数の内部電極層(4a,4b)から成る1つの積層体を有する1つの基体(2)を備えた多層デバイス(1)であって、
前記基体(2)の外面(8)での絶縁領域(7)において、逆極性の隣接した内部電極層(4a,4b)間の電気力線の長さ(d)が、当該隣接した電極層(4a,4b)間の距離より大きく、
前記絶縁領域(7)では、前記内部電極層(4a,4b)と前記基体(2)の前記外面(8)との間に誘電体が配設され、
前記誘電体は、前記内部電極層(4a,4b)の転換によって生成される、金属塩からなる、
ことを特徴とする多層デバイス。
【請求項2】
前記内部電極層(4a,4b)は、前記絶縁領域(7)においては前記基体(2)の外面(8)まで達していないことを特徴とする、請求項1に記載の多層デバイス。
【請求項3】
外部接続を取り付けるために設けられている、基体(2)の外面(8)上の接続領域では、少なくとも、1つおきの第2の内部電極層(4a,4b)が前記基体(2)の外面まで延伸していることを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載の多層デバイス。
【請求項4】
前記内部電極層(4a,4b)は、前記絶縁領域(7)において、前記基体(2)の1つの外面から250μm〜400μm離間していることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層デバイス。
【請求項5】
前記内部電極層(4a,4b)は、前記絶縁領域(7)においてエッチングされた表面を備えることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多層デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多層デバイス(1)を製造するための方法であって、
A)交互に配設された複数の誘電体層(3)と複数の内部電極層(4a,4b)とからなる積層体を有する基体(2)を準備するステップと、
B)前記基体(2)の複数の外面での逆極性の隣接した電極層(4a,4b)間の電気力線を長くするステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項7】
前記基体(2)の複数の外面(8)で前記複数の内部電極層(4a,4b)が一部除去されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基体(2)の外面(8)と前記複数の内部電極層(4a,4b)のそれぞれの終端との間で、前記複数の内部電極層(4a,4b)が誘電体に転換されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記一部除去または前記転換は、酸への浸漬を用いて行われるか、または酸化または窒化環境における転換を用いて行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
外部接続を取り付けるために設けられている、前記基体(2)の接続領域には、前記複数の内部電極層(4a,4b)の一部除去を防止するマスクが取り付けられることを特徴とする、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の内部電極層(4a,4b)の一部除去または転換の前に、前記基体(2)の前記外面(8)上に外部接続部が取り付けられ、この後当該外部接続部は、化学処理の間マスクによって覆われていることを特徴とする、請求項8または9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層デバイスおよび多層バイスを製造するための方法に関する。本発明による多層デバイスは、たとえば圧電アクチュエータであり、これは自動車における燃料噴射バルブの駆動に用いることができる。代替として、この多層デバイスは、多層コンデンサであってよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明の課題は、信頼性のある多層デバイスを提供することである。さらに本発明の課題は、この多層デバイスの外面でのフラッシュオーバーが防止される多層デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、交互に配設された複数の誘電体層と複数の内部電極層とから成る積層体を有する1つの基体を備えた多層デバイスを提供する。この基体の外面での1つの絶縁領域においては、逆極性の隣接した内部電極層間の電気力線の長さが、これらの隣接した電極層間の直線距離よりも大きくなっている。特にこの絶縁領域においては、どの内部電極層もこの基体の外面まで延伸していない。
【0004】
この絶縁領域は、上記の基体の外面が覆われていない領域である。具体的には、この絶縁領域においては、上記の基体上に外部接続部が全く取り付けられていない。逆極性の隣接した内部電極層の間の電気力線の長さは、実効距離とも呼ばれる。この逆極性の隣接した内部電極層間の電気力線はまず1つの内部電極層の1つの端部から可能な最短経路でこの基体の1つの外面に向かい、この外面に沿い、最終的に再び可能な最短経路で逆極性の1つの隣接した内部電極層に向かって延びている。したがってこの実効距離は、これらの内部電極層間の可能な、これらの電極層間の誘電体層を通らないで進行する最短経路である。
【0005】
上記の直線距離は、2つの逆極性の隣接した内部電極層の間の可能な最短距離に対応する。この経路は誘電体層の誘電体材料を通って進行することができる。
【0006】
上記の基体の外面で2つの逆極性の隣接した内部電極層間の電気力線の長さが上記の隣接した電極層間の直線距離より大きい多層デバイスは、たとえば弾性ポリマーまたはセラミックを用いた追加のパッシベーションが全く必要でないという利点を有する。以上によりこの多層デバイスの寿命はパッシベーションの経年劣化またはこのパッシベーションでの過負荷によって制限されない。具体的には局所的な過伸長または過熱によるパッシベーション機能不良の虞がない。
【0007】
さらにこの多層デバイスの性能が改善される。これはこの多層デバイスに影響を与えるセラミックパッシベーションのクランプ効果が無いということで実現される。さらにパッシベーションの省略によってこの多層デバイスの必要スペースが小さくなる。加えてより高い形状精度を実現することができる。この利点は、たとえば上記の電極が後で塗布され、あるいは転換されるという利点、および焼結の前にすでにセラミックパッシベーションを取り付けて置く必要がないという利点をもたらす。
【0008】
上述したような多層デバイスでは、この多層デバイスの表面で電界強度を低減することができる。この電界強度Eは、式E=U/dで計算され、ここでUは印加された電圧であり、dは隣接する内部電極層間の電気力線の長さである。
【0009】
1つの実施形態によれば、上記の誘電体層(複数)は、その全厚に渡って上記の基体の外面まで達している。この際これらの誘電体層の厚さは、積層方向におけるそれぞれの拡がりを与える。これに対応してこれらの誘電体層の各々は、1つの電極層に直に接続されている上端から、隣の電極層に直に接続されている下端まで延在しており、この基体の外面まで達している。
【0010】
1つの実施形態によれば、上記の内部電極層は、上記の絶縁領域においては、上記の基体の外面まで達していない。詳細には上記の絶縁領域においては、上記の基体の外面と上記の内部電極層の端部との間には空隙が設けられている。
【0011】
もう1つの実施形態においては、上記の絶縁領域において、上記の内部電極層と上記の基体の外面との間には誘電体が配設されている。この誘電体は、たとえば金属塩であってよい。この誘電体は、好ましくは上記の多層デバイスの製造の際に、上記の内部電極層の転換によって生成される。
【0012】
好ましくは、上記の誘電体層(複数)およびこれらの誘電体層の間に配設された内部電極層(複数)は、積層方向に沿って積層される。この積層方向は、好ましくは基体の長手方向に対応する。好ましくは、上記の誘電体層と上記の内部電極層は、交互に重なって積層されている。
【0013】
好ましくは、これらの内部電極層は、銅を含み、または銅から成っている。代替として、これらの内部電極層は、銀−パラジウムを含み、または銀−パラジウムから成っている。
【0014】
上記の誘電体層は、圧電材料を含んでよい。たとえばこれらの誘電体層は、セラミック材料を含んでよく、具体的には圧電セラミックを含んでよい。上記の基体の製造には、グリーンシート(複数)が用いられてよく、これらのグリーンシート上に内部電極層を形成するために、たとえば金属ペーストが塗布される。たとえばこの金属ペーストは、シルクスクリーン印刷処理で塗布される。この金属ペーストは銅を含んでよい。代替としてこの金属ペーストは、銀または銀−パラジウムを含んでよい。この金属ペーストを塗布した後、好ましくはこのグリーンシートは積層され、押圧されてまとめて焼結され、モノリシック焼結体が生成される。好ましくは、上記のデバイスの基体はモノリシック焼結体から形成され、たとえば上記のように製造された焼結体から形成される。
【0015】
たとえば、本発明による多層デバイスは、圧電デバイスとして形成され、たとえば圧電アクチュエータとして形成される。圧電アクチュエータでは、内部電極層に電圧を印加すると、これらの内部電極層の間に配設された圧電層が伸張し、アクチュエータのストロークが生成される。この多層デバイスは、他のデバイスとして形成されてよく、たとえば多層コンデンサとして形成されてよい。
【0016】
この多層デバイスは、上記の基体の外面上に、外部接続部を取り付けるために設けられている接続領域を備える。この接続領域においては、少なくとも、1つおきの内部電極層がこの基体の外面まで達している。
【0017】
好ましくは上記の外部接続部は、積層方向で隣接した内部電極層の間に電圧を印加するために用いられる。具体的にはこの外部接続部は、これらの内部電極層への電流の供給に用いられる。たとえば、2つの外部電極は、基体の対向する外面に配設されている。
【0018】
好ましくは、これらの内部電極層は積層方向で交互に、これらの外部電極の1つと電気的に結合され、また他の1つの外部電極から電気的に絶縁されている。
【0019】
1つの実施形態によれば、上記の絶縁領域におけるこれらの内部電極層は、上記の基体の外面から250μm〜400μm離間している。好ましくは、上記の絶縁領域におけるこれらの内部電極層は、上記の基体の外面から350μm離間している。
【0020】
これらの内部電極層は、上記の絶縁領域においては、特にエッチングされた表面を備えてよい。
【0021】
さらに本発明は、多層デバイスを製造するための方法を提供する。この方法は、第1のステップに、交互に配設された複数の誘電体層と複数の内部電極層とから成る積層体を有する1つの基体を準備することを含む。次のステップでは、この方法は、この基体の外面での逆極性の隣接した内部電極層間の電気力線を長くすることを含む。
【0022】
1つの実施形態によれば、この基体の外面での逆極性の隣接した内部電極層間の電気力線が長くされるが、これは電極材料が一部除去されることによる。代替として、この基体の外面で電極材料が誘電体に転換される。たとえば電極材料が金属塩に転換される。
【0023】
上記の除去または転換は、好ましくは酸への浸漬または酸化環境または窒化環境における反応を用いて行なわれる。
【0024】
1つの実施形態によれば、上記の基体の接続領域における、外部接続部を取付けるために設けられている電極材料の一部除去または転換の前に、マスクが取付けられる。このマスクは、上記の接続領域における電極材料の除去を防止する。これによって外部接続部を取付けた後の内部電極層の信頼性のある接続が保証され得る。
【0025】
1つの実施形態においては、上記の電極材料の除去または転換の前に、上記の基体の外面上に1つの外部接続部が取付けられる。この外部接続部は、この電極材料の除去または転換の間はマスクで覆われる。
【0026】
以下では、概略図を参照して、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】1つの多層デバイスの長手方向の断面を示す。
【
図2】内部電極層が一部除去された、1つの多層デバイスの長手方向の断面を示す。
【
図3】化学処理の前の、1つの多層デバイスの長手方向の断面を示す。
【
図4】化学処理の間または後の、1つの多層デバイスの長手方向の断面を示す。
【0028】
図1は1つの多層デバイス1の長手方向の断面を示す。この多層デバイス1は、基体2を備える。基体2は、交互に配設された複数の誘電体層3と複数の内部電極層4a,4bとからなる積層体を備える。これらの誘電体層は、圧電材料を含んでいる。複数の内部電極層4a,4bは交互に第1および第2の外部接続部(不図示)と結合されている。これらの第1および第2の外部接続部はそれぞれ異なる極性を備えている。具体的には複数の内部電極層4aは、第1の極性の外部接続部と結合されており、複数の内部電極層4bは、第2の極性の外部接続部と結合されている。
【0029】
図1に示す多層デバイス1の電気的接続の際には、たとえば2kV/mmの大きな電界強度で、基体2の外面で異なった極性の内部電極層4a,4bの間で電気的なフラッシュオーバーが起こる。
【0030】
このようなフラッシュオーバーは、本発明にによる多層デバイスでは防止される筈である。
【0031】
図2は、1つの多層デバイス1を断面図で示している。
図2に示す多層デバイスにおいては、絶縁領域7における第1および第2の内部電極層4a,4bは、基体2の外面8で一部除去されている。具体的には、これらの内部電極4a,4bは、基体2の外面8まで達していない。これらの内部電極4a,4bの部位では、空隙5となっている。以上によりこの基体2の外面8では、フラッシュオーバーが起こらない程度まで電界強度が低下される。もう1つの実施形態においては、上記の空隙は、部分的に非導電性材料で充填されていてよい。
【0032】
電圧が一定の場合、隣接する内部電極層4a,4b間の実効距離dを大きくすることで、基体2の外面8での電界強度は低下することができる。以上により、式E=U/dで計算される電界強度が低減される。この実効距離dは、これらの内部電極層4a,4b間の可能な、これらの電極層間の誘電体層3を通らないで進行する最短経路である。こうして原則的にこの実効距離dの経路は、この基体の外面8に沿って進行する。
図2には、この実効距離dの経路が点線で示されている。この実効距離dは、実効層厚とも呼ばれる。
【0033】
図2には、一方の外面でのみ一部除去された内部電極層4a,4bが示されている。しかしながら全ての露出した外面上の内部電極が一部除去された多層デバイスも可能である。この露出した外面とは、この基体の側面から形成されており、かつ外部接続部で覆われていない面である。この面は、絶縁領域7とも呼ばれる。
【0034】
さらに、誘電体層3は、その全厚に渡って基体2の外面8まで達している。
【0035】
図3および4には、1つの多層デバイス1を製造するための方法が示されている。
【0036】
図3は、化学処理の前の、1つの多層デバイス1の基体2の長手方向の断面を示す。化学処理は、内部電極層4a,4bの一部除去または転換を含んでよい。この化学処理の前では、これらの内部電極層4a,4bは上記の基体の外面まで延伸している。
【0037】
図4は、化学処理の間または後の、基体2を示す。この化学処理は、たとえば酸を用いて行われる。このためこの基体は、化学物質たとえば酸の入った槽に浸される。この際これらの内部電極層4a,4bはこの化学物質によって侵食され、2つの内部電極層4a,4b間の必要な実効距離dに達するまで溶解される。代替として、この化学処理は、酸化環境または窒化環境で行われる。ここで
図4の斜線の領域は、上記の化学物質と反応する内部電極層の領域を示している。矢印6は、この化学物質の作用を表すものである。
【0038】
基体2の外面までの内部電極層4a,4b間の距離は、化学処理の後はたとえば290μm〜390μmとなっており、たとえば340μmである。
【0039】
もう1つの実施形態においては、内部電極層4a、4bは、化学物質によって非導電性の材料に転換される。たとえばこれらの内部電極層4a,4bは、金属塩に転換される。
【0040】
上記の化学物質は、たとえば71%のH
2O,18%のHNO
3(65%),11%の酢酸
(99%-100%)の組成である。上記の基体は、たとえば4時間この化学物質に浸漬される。
【0041】
外部接続を取り付けるために設けられている、基体2の外面上の接続領域は、上記の化学物質への浸漬の前にマスクで覆われる。この外部接続部が化学処理の前に既にこの基体の外面に取り付けられていると、この外部接続部はマスクで覆われ、こうして化学物質の影響から保護される。
【符号の説明】
【0042】
1 : 多層デバイス
2 : 基体
3 : 誘電体層
4a : 内部電極層
4b : 内部電極層
5 : 空隙
6 : 矢印
7 : 絶縁領域
8 : 外面
d : 実効距離