(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306734
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】自動車用電動液ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 13/06 20060101AFI20180326BHJP
F04D 29/047 20060101ALI20180326BHJP
H02K 5/128 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
F04D13/06 C
F04D29/047 A
H02K5/128
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-554876(P2016-554876)
(86)(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公表番号】特表2017-510744(P2017-510744A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2014054372
(87)【国際公開番号】WO2015131948
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】515069336
【氏名又は名称】ピアーブルグ パンプ テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Pierburg Pump Technology GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】マルヴァシ, アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ, アンドレアス
【審査官】
松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03960468(US,A)
【文献】
特開平04−353291(JP,A)
【文献】
特開2001−016887(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/123978(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0199334(US,A1)
【文献】
米国特許第05644178(US,A)
【文献】
英国特許出願公告第00485225(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプロータ(21)及びモータロータ(32)を備え、該モータロータ(32)が分離缶(50)内で回転して液を吐出する自動車用電動液ポンプ(10)であって、
前記モータロータ(32)が強磁性材料からなるモータロータ本体(38)によって形成され且つ永久的に磁化され、
前記モータロータ(32)の径方向の外面に円筒形状の軸受輪部(34,36)が設けられる一方、前記分離缶(50)の径方向の内面に対応する静的軸受輪部(54,56)が設けられ、
ロータ側の前記軸受輪部(34,36)及び静的軸受輪部(54,56)は径方向滑り軸受(61,62)を形成して、該径方向滑り軸受(61,62)が前記モータロータ(32)の軸線方向の範囲内に配置され、
前記軸受輪部(34,36)は金属からなる一方、前記静的軸受リング(54,56)はプラスチックからなり、
別個の軸方向の滑り軸受(70)が前記モータロータ(32)における一方の軸線方向端に設けた軸線方向の軸受輪部(72)と、対応する静的軸受輪部(74)とによって形成されている、自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項2】
前記径方向滑り軸受(61,62)での径方向の軸受ギャップGは0.5mmよりも小さい、請求項1に記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項3】
前記軸受ギャップGは0.25mmよりも小さい、請求項2に記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項4】
前記径方向滑り軸受(61,62)は少なくとも2つ設けられている、請求項1〜3の何れかに記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項5】
前記モータロータ(32)及び前記ポンプロータ(21)を支持するロータ軸(80)が設けられ、該ロータ軸(80)は連続した中央冷却ボア(82)を備えている、請求項1〜4の何れかに記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項6】
モータ電子制御機器(90)が電子制御機器室(92)に設けられ、前記電子制御機器室は液中で回転する前記モータロータ(32)から単一の横断分離壁(96)によって流体的に分離されている、請求項1〜5の何れかに記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項7】
前記モータロータ(32)は、前記ポンプロータ(21)と前記電子制御機器室(92)との間にて軸線方向に配置されている、請求項6に記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項8】
前記液は冷却剤又は潤滑剤である、請求項1〜7の何れかに記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項9】
前記静的軸受輪部(54,56)はPTFE又はPAからなる、請求項1〜8の何れかに記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項10】
前記分離缶(50)の径方向内面には、軸線方向でみて2つの前記静的軸受輪部(54,56)間に環状溝(42)が設けられている、請求項4に記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【請求項11】
前記分離缶(50)の径方向内面には長手方向に流路溝(44)が設けられている、請求項1〜10の何れかに記載の自動車用電動液ポンプ(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用で電動液ポンプ、例えば冷却剤又は潤滑剤のための電動液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
通常の自動車用電動液ポンプはロータ軸を備え、該ロータ軸はモータロータ及びポンプロータを共回転にして支持している。ポンプロータは容量ポンプ又はフローポンプの一部である。ロータ軸は2つの別個のローラ又は滑り軸受にて回転自在に支持され、ローラ又は滑り軸受はロータ軸の一方の自由端にて、モータロータとポンプロータとの間に配置されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的はコンパクトな自動車用電動液ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
該目的は請求項1の特徴を備えた自動車用電動液ポンプによって達成される。
【0005】
本発明に係る自動車用電動液ポンプはポンプロータ及びモータロータを備え、これら両方のロータはロータ軸に共回転にして支持されている。ポンプの電動モータは所謂、キャンドモータとして備えられている。モータロータは分離缶内にて回転し
て液を吐出し、該分離缶はポンプの乾いた部分から濡れたモータロータ室を流体的に分離する。特に、分離缶は電磁ステータコイルを含んだモータステータからモータロータを液体的に分離する。モータロータの径方向外面には
金属からなる円筒形状の軸受輪部が設けられる一方、分離缶の径方向内面には対応し
且つプラスチックからなる円筒形状の静的軸受輪部が設けられている。ロータ側の円筒形状の軸受輪部及び円筒形状の静的軸受輪部は径方向滑り軸受を形成する。径方向滑り軸受はモータロータ内での軸線方向の範囲内に配置され、モータロータの軸線方向外側に配置されているものではない。それ故、軸線方向でみてモータロータの外側に位置する1つ又は更に2つの軸受を回避でき、ポンプにおける軸線方向の全長は減少される。
更に、本発明に係る自動車用電動液ポンプは、軸線方向滑り軸受が別個に備え、該滑り軸受はモータロータにおける一方の軸線方向端での軸受輪部と、対応する静的軸受輪部とによって形成されている。静的軸受輪部はポンプフレーム又はポンプハウジングの対応した輪部によって提供することができる。また、径方向軸受の他にも軸線方向軸受は組み込みスペースを多く必要としない滑り軸受として設けられている。
【0006】
径方向滑り軸受は所謂、平軸受として設けられ、浮動支持構成として設けられているものではない。この結果、静的軸受輪部とロータ側の軸受輪部との間での径方向の軸受ギャップGは小さく、軸受ギャップG内での軸受の潤滑が冷却液又は潤滑液でもって許容される。液は内燃機関又他の自動車用機器を冷却する冷却液、自動車内の液圧機器のための液圧的な液、又は、内燃機関又他の自動車用機器のための潤滑剤である。特に、液は水、燃料又はオイルである。
【0007】
好適な実施形態によれば、径方向滑り軸受での径方向の軸受ギャップGは0.5mm、好ましくは0.25mmよりも小さい。径方向の軸受ギャップGは、ポンプハウジングに対するポンプロータの比較的小さなギャップを保証して、ポンプにおけるポンプ部の高い液圧効率を保証するために可能な限り小さくあるべきある。他方、径方向の軸受ギャップGは静的軸受輪部とロータ側の軸受輪部との間の軸受ギャップでの十分な潤滑を保証するために十分に大きくあるべきである。
【0008】
好ましくは、モータロータには少なくとも2つの径方向滑り軸受が別個に設けられ、一方、分離缶には対応した数の静的軸受輪部が備えられている。好ましくは、モータロータにおける軸線方向端の両方には別個の滑り軸受がそれぞれ設けられている。このような2つの径方向滑り軸受の配置は、ロータ全体の配置の傾きに対して最大の安定性及び最少の摩耗を保証する。
【0010】
好適な実施形態によれば、モータロータ及びポンプロータを支持するロータ軸には連続した中央冷却ボアが設けられている。ポンプロータによって送り込まれた液はロータ軸の一端にあるポンプロータから冷却ボアを通じてロータ軸の他端に向けて押し込まれ、該他端から径方向外側に流れ、そして、軸受ギャップを通じて軸線方向に沿いポンプ部まで還流する。液はポンプのモータ部内にて循環することができ、ロータ側の軸受輪部と静的軸受輪部との間の軸受ギャップを通じて連続した軸線方向の液の流れが実現する。
【0011】
好ましくは、モータ電子制御機器が電子制御機器室内に設けられ、該電子制御機器室は液中で回転するモータロータから単一の横断分離壁によって分離されている。ロータ軸のボアを貫通して流れる液は横断分離壁に衝突し、これにより、分離壁は軸芯から外側に向けて径方向に流れる液により絶えず冷却される。それ故、ロータ軸の冷却ボア及び径方向の軸受ギャップによって形成された2次的な液回路は二重の機能、即ち、分離壁の冷却と、軸受ギャップの潤滑とをなす機能を有する。好ましくは、電子制御機器、特に、パワー半導体は例えば熱伝導性接着剤によって分離壁に熱伝導的に接触して設けられている。
【0012】
ロータ側の軸受輪部はモータロータ自身によって形成可能であり、例えば、モータロータの研磨部である。好ましくは、静的軸受輪部
はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)又はPA(ポリアミド)からなる。一方の側の金属、好ましくは鋼と、他方の側の好適なプラスチック、例えばPTFEとの材料の組み合わせは機械的な磨滅に対して高い安定性と低摩擦とを備える滑り軸受を提供する。
【0013】
好適な実施形態によれば、分離缶の径方向内面には2つの静的軸受輪部の間に円形の環状溝が設けられている。環状溝は2つの静的軸受輪部を互いに分離する。好ましくは、環状溝の軸線方向の長さは対応する静的軸受輪部の軸線方向に沿う距離と同一である。環状溝は、狭いギャップが必要とされない区域にて非常に低い流体抵抗を提供し、これにより、モータロータの全長に亘って、軸線方向の流れに対する軸受ギャップの総抵抗を減少させる。
【0014】
好ましくは、分離缶の径方向内面には長手方向の流路溝が設けられている。該長手方向の流路溝は軸線方向に正確に方向付けされている。代替的には、長手方向の流路溝は本質的な軸線方向成分に対して螺旋的な方向付けを有する。長手方向の流路溝が無ければ、軸方向のみからとなるが、長手方向の流路溝から周方向/接線方向に液が軸受ギャップ内に流入するので、長手方向の流路溝は径方向滑り軸受の潤滑を改善する。付加的に、長手方向の流路溝は軸線方向の流れ抵抗を減少する。好ましくは、2つ又はこれ以上の長手方向の流路溝を備えることもできる。
【0015】
図面を参照して本発明の一実施形態を説明する
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】2つの径方向滑り軸受と1つの軸線方向滑り軸受を備えた自動車用電動液ポンプの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は自動車用電動液ポンプ10を示し、該液ポンプは例えば冷却剤ポンプ又は燃料ポンプ等のフローポンプとして構成されている。また、代替的には、液ポンプ10は例えば内燃機関の潤滑のために潤滑剤を送り込む容量ポンプとしても実現可能である。
【0018】
液ポンプ10は軸線方向でみてポンプ部20、モータ部22及び制御部24を備えている。ポンプ部20はポンプロータ21を備え、本実施形態のポンプロータ21は軸線方向の入口開口を備えたインペラホイールである。代替的には、ポンプロータ21は例えばジェロータポンプ、ベーンポンプ又は他の回転容量ポンプ等の容量ポンプの一部として構成されて備えられている。
【0019】
ポンプロータ21は共回転のロータ軸80によって支持され、該ロータ軸80はモータロータ32に共回転にして固定されている。モータロータ32はモータロータ本体38によって形成され、該モータロータ本体は強磁性材料からなり、永久的に磁化されている。モータロータ32はモータステータによって磁気的に駆動され、該モータステータは多数のモータステータコイル48によって形成されている。モータステータコイルは回転磁場を発生し、該回転磁場に対して永久的に磁化されたモータロータ32が追従する。モータ部22はキャンドモータとして構成され、乾いたモータステータコイル48から濡れたモータロータ32を分離する円筒形状の分離缶50を備えている。分離缶50はプラスチックからなる円筒形状の缶本体51によって形成されている。
【0020】
制御部24は電子制御機器90によって形成され、該電子制御機器は電子制御機器室92内に配置されている。電子制御機器90は印刷回路基板91によって形成され、該印刷回路基板はステータコイル48を電気的に切り換えるパワー半導体94を含む。電子制御機器室92はモータ部22から横断分離壁96によって分離されている。印刷回路基板91は分離壁96に対して熱伝導性の接着剤98又は糊によって固定且つ熱的に接続され、特に、接着剤98又は糊はパワー半導体94とは反対側の印刷回路基91の面に塗布されている。
【0021】
モータロータ32は2つの径方向滑り軸受61,62及び1つの軸線方向滑り軸受70によって回転自在に支持されている。第1滑り軸受61は、プラスチック製の分離缶50における径方向内面、つまり、円筒形状の静的軸受輪部54と、モータロータ32の径方向外面、つまり、対応する円筒形状のロータ軸受輪部34とによって形成されている。同様に、第2滑り軸受62はプラスチック製の分離缶50における径方向内面、つまり、円筒形状の静的軸受輪部56と、モータロータ32の径方向外面、つまり、対応した円筒形状のロータ軸受輪部36とによって形成されている。両方の滑り軸受61,62において、軸受面34,54;36,56間での径方向の軸受ギャップGは約0.1mmである。
【0022】
ロータ軸受輪部34,36は、強磁性鋼又は他の強磁性金属からなるモータロータ本体38の円筒形状の研磨面によって形成されている。静的軸受輪部54,56は、プラスチック、好ましくはPTFEからなる缶本体51の円筒形状の内面によって形成されている。2つの径方向滑り軸受61,62は軸線方向に関し、周方向の環状溝42によって分離され、該環状溝は0.5mmよりも深い径方向深さを備えている。また、分離缶50は2つの流路溝44を長手方向に沿い且つ平行に備え、これら流路溝44は軸線方向に関して、2つの径方向滑り軸受61,62とオーバラップしている。流路溝44の径方向深さは0.5mmよりも深い。
【0023】
軸線方向の軸受70は別個のリング体71によって形成され、該リング体71はモータロータ本体38に固定されている。軸線方向の軸受リング体71はPTFEからなり、3つの径方向スリット76を備えている。軸線方向の軸受リング体71は軸線方向の軸受リング72を形成し、該軸受リングは対応する静的軸受輪部74と協働する。該静的軸受輪部74は該モータ部22とポンプ部20との間の横断壁14によって形成されている。
【0024】
横断壁14及び分離壁96はポンプハウジング12の一部をなし、該ポンプハウジングは金属、好ましくはアルミニウムからなる。分離缶の缶本体51は分離壁96及び横断壁14の対応した周方向溝に保持されている。
【0025】
回転軸18には連続した中央冷却ボア82が備えられ、該中央冷却ボア82はポンプ部20から分離壁96まで液体の流れを許容し、分離壁96にて液体は径方向外側に流れ、この後、径方向滑り軸受61,62での径方向ギャップGを通じてポンプ部20まで軸線方向に沿って戻る。