特許第6306912号(P6306912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306912
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/028 20060101AFI20180326BHJP
   B23K 9/32 20060101ALI20180326BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   B23K9/028 D
   B23K9/32 C
   B23K37/02 301A
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-55446(P2014-55446)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-178113(P2015-178113A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2017年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤松 政彦
(72)【発明者】
【氏名】米本 臣吾
(72)【発明者】
【氏名】上月 崇功
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千秋
(72)【発明者】
【氏名】池澤 行雄
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−502211(JP,A)
【文献】 特開昭56−139290(JP,A)
【文献】 特開昭63−010078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/028
B23K 9/32
B23K 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ同士の突合せ溶接を行う溶接装置であって、
導電性のトーチ本体および前記トーチ本体に保持された電極を含む溶接トーチと、
チューブ挿入用の開口、前記溶接トーチが取り付けられた表面、および前記表面と反対側を向く裏面、を有する導電性の回転リングと、
前記回転リングの裏面と対向するように配置され、前記回転リングを回転可能に支持する、チューブ挿入用の切欠きが形成されたテーブルと、
前記回転リングと前記テーブルとの間に配置され、前記回転リングが一回転する間に前記回転リングの裏面と接触し続けるように構成された給電ブラシと、を備え、
前記切欠きは、円筒面部を有し、
前記回転リングの裏面の内周縁部からは、前記円筒面部と嵌合するC字管が延びており、前記テーブルは、前記C字管を介して前記回転リングを回転可能に支持し、
前記円筒面部および前記C字管の一方には、周方向に延びる突起が形成されており、他方には、前記突起が嵌合する支持溝が形成されている、溶接装置。
【請求項2】
前記回転リングおよび前記C字管の内周面を覆う絶縁カバーをさらに備える、請求項に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記給電ブラシは、前記回転リングの周方向に延びる円弧状の部材であり、付勢部材によって前記回転リングの裏面に押圧されている、請求項1または2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記回転リングの裏面には、当該回転リングを周方向に横断する受電溝が形成されており、
前記給電ブラシは、前記受電溝と嵌合している、請求項に記載の溶接装置。
【請求項5】
前記給電ブラシは、周方向に並ぶ複数のブラシ片で構成されている、請求項またはに記載の溶接装置。
【請求項6】
チューブ同士の突合せ溶接を行う溶接装置であって、
導電性のトーチ本体および前記トーチ本体に保持された電極を含む溶接トーチと、
チューブ挿入用の開口、前記溶接トーチが取り付けられた表面、および前記表面と反対側を向く裏面、を有する導電性の回転リングと、
前記回転リングの裏面と対向するように配置され、前記回転リングを回転可能に支持する、チューブ挿入用の切欠きが形成されたテーブルと、
前記回転リングと前記テーブルとの間に配置され、前記回転リングが一回転する間に前記回転リングの裏面と接触し続けるように構成された給電ブラシと、を備え、
前記回転リングは、外歯を有し、
前記テーブルに固定され、出力軸に駆動ギアが取り付けられたモータと、
前記駆動ギアから前記回転リングへトルクを伝達する、複数の従動ギアを含むギア列と、をさらに備え、
前記モータと前記回転リングとが電気的に絶縁されるように、前記テーブルの少なくとも一部が絶縁材料で構成され、かつ、前記駆動ギアおよび前記従動ギアの少なくとも1つが絶縁材料で構成されている、溶接装置。
【請求項7】
前記テーブルは、前記モータが固定される第1プレートと、前記切欠きを規定する第2プレートとに分割されており、
前記第1プレートが絶縁材料で構成されている、請求項に記載の溶接装置。
【請求項8】
前記第2プレートは、前記切欠きの中央部を規定するベースプレートと、前記切欠きの両側部分を規定する一対の先端プレートとに分割されている、請求項に記載の溶接装置。
【請求項9】
前記ベースプレートは、導電性の金属で構成されていて、循環路を流れる冷却水に接触するように構成されており、
前記給電ブラシは、導電部材によって前記ベースプレートと接続されている、請求項に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ同士の突合せ溶接を行う溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、チューブ同士の突合せ溶接を自動的に行う溶接装置が知られている。例えば、特許文献1には、図9(a)および(b)に示すような、横向きに置かれたチューブ150に対して全姿勢溶接が可能な溶接装置100が開示されている。
【0003】
この溶接装置100は、アークの長さを調整するために、溶接トーチ130がチューブ150の径方向に移動できるように構成されている。具体的に、溶接装置100は、チューブ150の中心軸回りに回転する回転部材として、回転用リング110と上下用リング120の2つのC字状のリングを有している。回転用リング110と上下用リング120は、相互に独立した回転が可能となっている。
【0004】
回転用リング110には、溶接トーチ130がトーチ台140を介して揺動可能に取り付けられている。一方、上下用リング120には、周方向に対して傾斜する溝125が設けられており、この溝125に、トーチ台140に固定されたシャフト145が挿入されている。そして、上下用リング120が回転用リング110に対して相対的に回転することにより、シャフト145が溝125でガイドされて、溶接トーチ130がチューブ150に近づいたりチューブ150から遠ざかったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−225165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図9(a)および(b)に示すような溶接トーチ100では、チューブ150の中心軸回りに回転する回転部材(回転用リング110および上下用リング120)に、溶接トーチ100をチューブ150の径方向に移動させる機構が組み込まれているために、回転部材に大きな幅が必要になる。このため、チューブ150が狭いピッチで配列された例えばボイラパネルなどの装置を製造する場合には、溶接トーチ100を使用することができない。
【0007】
この課題を解決するために、本件出願の出願人は、本件出願に先立つ出願(特願2012−203880)において、溶接トーチをチューブの径方向に移動でき、かつ、チューブの中心軸回りに回転する回転部材の幅を小さくすることができる溶接装置を提案した。その溶接装置の一例を図10に示す。
【0008】
図10に示す溶接装置200は、溶接トーチ240を有する溶接ヘッド210と、溶接ヘッド210をチューブの軸方向と直交する面上の二方向(互いに直交する方向)に移動させる装置本体(図示せず)を含む。より詳しくは、溶接ヘッド210は、溶接トーチ240が取り付けられたC字状の回転リング230と、回転リング230を回転可能に支持するテーブル220を含む。また、テーブル220には、モータ270の出力軸に取り付けられた駆動ギア260から回転リング230へトルクを伝達するギア列250も支持されている。この構成によれば、テーブル220を動かすことによって溶接トーチ240をチューブの径方向に移動させることができる。このため、回転リング230に溶接トーチ240を移動させる機構を設ける必要がなく、回転リング230の幅を小さくすることができる。
【0009】
ところで、溶接トーチ240には、例えば、電極へ電圧を印加するための給電ケーブルや溶接トーチ240の内部を通じて電極の周囲からシールドガスを吹き出すためのシールドガス供給管などのライン類が接続される。このため、溶接トーチおよびライン類の接続部を含むトーチ周辺構成の総厚がある程度厚くなる。そこで、トーチ周辺構成の総厚をさらに薄くするために、ライン類を削減することが望まれる。また、ライン類は、溶接トーチ240の回転に伴ってチューブの回りに巻き回される。チューブが狭いピッチで配列された装置を製造する場合には、チューブ間の狭い隙間にライン類を通過させる必要があるため、このような観点からもライン類の削減が望まれる。
【0010】
そこで、本発明は、溶接トーチが取り付けられた回転リングをテーブルで回転可能に支持する溶接装置において、溶接トーチに接続されるライン類を削減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の溶接装置は、チューブ同士の突合せ溶接を行う溶接装置であって、導電性のトーチ本体および前記トーチ本体に保持された電極を含む溶接トーチと、チューブ挿入用の開口、前記溶接トーチが取り付けられた表面、および前記表面と反対側を向く裏面、を有する導電性の回転リングと、前記回転リングの裏面と対向するように配置され、前記回転リングを回転可能に支持する、チューブ挿入用の切欠きが形成されたテーブルと、前記回転リングと前記テーブルとの間に配置され、前記回転リングが一回転する間に前記回転リングの裏面と接触し続けるように構成された給電ブラシと、を備える、ことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、溶接トーチへは給電ブラシから回転リングを介して電力が供給されるので、溶接トーチに電力ケーブルを接続する必要がない。従って、溶接トーチに接続されるライン類を削減することができる。これにより、トーチ周辺構成の総厚を薄くすることができる。また、給電ブラシは回転リングとテーブルの間に配置されるため、回転リングおよびテーブルによって溶接時に発生するスパッタ等から給電ブラシを保護することができ、給電ブラシの汚れを抑制できる。
【0013】
前記切欠きは、円筒面部を有し、前記回転リングの裏面の内周縁部からは、前記円筒面部と嵌合するC字管が延びており、前記テーブルは、前記C字管を介して前記回転リングを回転可能に支持してもよい。テーブルに回転リングを回転可能に支持させる構成としては、回転リング内に嵌まり込む筒状部をテーブルに設けることが考えられる。これに対し、前記構成のように回転リングの裏面の内周縁部からC字管が延びていれば、テーブルをシンプルな形状とすることができる。
【0014】
前記円筒面部および前記C字管の一方には、周方向に延びる突起が形成されており、他方には、前記突起が嵌合する支持溝が形成されていてもよい。この構成によれば、C字管の軸方向におけるテーブルと回転リングの相対移動を特別な部材を用いることなく防止することができる。
【0015】
上記の溶接装置は、前記回転リングおよび前記C字管の内周面を覆う絶縁カバーをさらに備えてもよい。この構成によれば、作業者が誤ってチューブを回転リングまたはC字管に接触させても、それらの間での電気的なショートを防ぐことができる。
【0016】
例えば、前記給電ブラシは、前記回転リングの周方向に延びる円弧状の部材であり、付勢部材によって前記回転リングの裏面に押圧されていてもよい。
【0017】
前記回転リングの裏面には、当該回転リングを周方向に横断する受電溝が形成されており、前記給電ブラシは、前記受電溝と嵌合していてもよい。回転リング(あるいはC字管)とテーブルの嵌合だけでは、回転リングの向きによってそれらの嵌合が外れて回転リングが脱落することがあるため、回転リングの脱落防止を図るための構成が必要となる。これに対し、前記構成のように回転リングの裏面に形成された受電溝に給電ブラシが嵌合していれば、給電ブラシを合理的に利用して回転リングの脱落を防止することができる。
【0018】
例えば、前記給電ブラシは、周方向に並ぶ複数のブラシ片で構成されていてもよい。
【0019】
前記回転リングは、外歯を有し、上記の溶接装置は、前記テーブルに固定され、出力軸に駆動ギアが取り付けられたモータと、前記駆動ギアから前記回転リングへトルクを伝達する、複数の従動ギアを含むギア列と、をさらに備え、前記モータと前記回転リングとが電気的に絶縁されるように、前記テーブルの少なくとも一部が絶縁材料で構成され、かつ、前記駆動ギアおよび前記従動ギアの少なくとも1つが絶縁材料で構成されていてもよい。この構成によれば、溶接用の電気がモータに伝達されることを防止することが可能となり、モータの故障等を未然に防止できる。
【0020】
例えば、前記テーブルは、前記モータが固定される第1プレートと、前記切欠きを規定する第2プレートとに分割されており、前記第1プレートが絶縁材料で構成されていてもよい。
【0021】
前記第2プレートは、前記切欠きの中央部を規定するベースプレートと、前記切欠きの両側部分を規定する一対の先端プレートとに分割されていてもよい。この構成によれば、C字管がある場合に、回転リングとC字管とを一体的に成形することができる。
【0022】
前記ベースプレートは、導電性の金属で構成されていて、循環路を流れる冷却水に接触するように構成されており、前記給電ブラシは、導電部材によって前記ベースプレートと接続されていてもよい。この構成によれば、ベースプレート、導電部材、給電ブラシおよび回転リングを介して溶接トーチを冷却することができる。これにより、溶接トーチにライン類として冷却水供給管および冷却水回収管を接続する場合と比べて、トーチ周辺構成の総厚をさらに薄くすることができる。
【0023】
また、本発明の別の側面からの溶接装置は、チューブ同士の突合せ溶接を行う溶接装置であって、導電性のトーチ本体および前記トーチ本体に保持された電極を含む溶接トーチと、チューブ挿入用の開口、前記溶接トーチが取り付けられた表面、および前記表面と反対側を向く裏面、を有する導電性の回転リングと、前記回転リングの裏面と対向するように配置され、前記回転リングを回転可能に支持する、チューブ挿入用の切欠きが形成されたテーブルと、を備え、前記テーブルにおける回転する前記回転リングまたは前記回転リングと共に回転する部材と摺動する部分は導電材料で構成されている、ことを特徴とする。
【0024】
上記の構成によれば、溶接トーチへはテーブルおよび回転リングを介して(場合によっては、回転リングと共に回転する部材をも介して)電力を供給することができるので、溶接トーチに電力ケーブルを接続する必要がない。従って、溶接トーチに接続されるライン類を削減することができる。これにより、トーチ周辺構成の総厚を薄くすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、溶接トーチに接続されるライン類を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る溶接装置の概略的な側面図である。
図2】(a)および(b)は、それぞれ前記溶接装置に含まれる溶接ヘッドの正面図および側面図である。
図3】前記溶接ヘッドの要部(テーブルの第2プレート部分)を拡大した正面図である。
図4図3のIV−IV線に沿った断面図である。
図5図3のV−V線に沿った断面図である。
図6】第2プレートの半分の正面図である。
図7】回転リングおよびC字管の斜視図である。
図8】回転リングの脱落が防止されることを説明するための図である。
図9】(a)および(b)は、それぞれ従来の溶接装置の要部の正面図および側面図である。
図10】本件出願の出願人が以前に提案した溶接装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に、本発明の一実施形態に係る溶接装置1を示す。この溶接装置1は、チューブ10同士の突合せ溶接を自動的に行うものである。本実施形態では、チューブ10が横向きに置かれており、溶接装置1は一方のチューブ10に上方から乗せられる。ただし、チューブ10は、必ずしも横向きに置かれている必要はなく、縦向きや斜め向きに置かれていてもよい。
【0028】
溶接装置1は、溶接トーチ4を有する溶接ヘッド11と、溶接ヘッド11を操作する装置本体12を含む。より詳しくは、装置本体12は、溶接ヘッド11をチューブ10の軸方向と直交する第1方向(例えば、鉛直方向)に移動させる第1移動機構と、溶接ヘッド11をチューブ10の軸方向および第1方向と直交する第2方向(例えば、水平方向)に移動させる第2移動機構を含む。装置本体12は、溶接ヘッド11をチューブ10の軸方向に移動させる第3移動機構を含んでいてもよい。また、装置本体12には、チューブ10をクランプするクランプ機構13が設けられている。
【0029】
図2(a)および(b)に示すように、溶接ヘッド11は、チューブ10の軸方向と直交する板状のテーブル2と、テーブル2に回転可能に支持された回転リング31を含む。回転リング31は、径方向に開口する、チューブ挿入用の開口32を有しており、この開口32によってC字状に形成されている。テーブル2には、開口32とほぼ同じ幅で一方向(図2(a)では下向き)に開口する、チューブ挿入用の切欠き2aが形成されている。図3に、溶接ヘッド11の要部を拡大して示す。ただし、図3では、テーブル2の形状を明確に示すために、溶接トーチ4および回転リング31を二点鎖線で示している。
【0030】
より詳しくは、回転リング31は、テーブル2と対向する裏面31b(図4参照)と、裏面31bと反対側を向く表面31aを有している。本実施形態では、回転リング31は、チューブ10の軸方向に扁平な板状である。そして、表面31aに溶接トーチ4が取り付けられている。例えば、溶接トーチ4は、回転リング31の中央(すなわち、回転リング31の中心を挟んで開口32と反対側)に配置される。さらに、回転リング31の外周面には、外歯が形成されている。
【0031】
図2(a)および(b)に戻って、テーブル2の裏面(回転リング31と反対側の面)には、回転リング31を回転させるためのモータ56が固定されている。モータ56の出力軸には、駆動ギア55が取り付けられている。また、テーブル2には、駆動ギア55から回転リング31へトルクを伝達するギア列5も支持されている。なお、図2(a)および(b)では、図面の簡略化のために、ギア列5を二点鎖線で示している。
【0032】
ギア列5は、駆動ギア55と噛み合う第一従動ギア51と、第一従動ギア51と噛み合う一対の第二従動ギア52と、各第二従動ギア52および回転部材31と噛み合う一対の第三従動ギア53とを含む。このような構成により、回転部材31の開口32が一方の第三従動ギア53に差し掛かったとしても、他方の第三従動ギア53により回転部材31にトルクが伝えられる。
【0033】
回転リング31は、導電性の部材であり、溶接トーチ4への電力供給ルートの一部を構成する。このため、モータ56と回転リング31とが電気的に絶縁されるように、テーブル2の少なくとも一部が絶縁材料で構成され、かつ、駆動ギア55および従動ギア51〜53の少なくとも1つが絶縁材料で構成されている。
【0034】
本実施形態では、テーブル2が、モータ56が固定される第1プレート21と、切欠き2aを規定する第2プレート22とに分割されている。さらに、第2プレート22は、切欠き2aの中央部を規定するベースプレート23と、切欠き2aの両側部分を規定する一対の先端プレート24とに分割されている。第1プレート21および先端プレート24は樹脂などの絶縁材料で構成されており、ベースプレート23は導電性の金属で構成されている。
【0035】
換言すれば、第2プレート22のベースプレート23は、第1プレート21と先端プレート24の間に介在している。以下、説明の便宜上、これらのプレート21,23,24が並ぶ方向を上下方向(第1プレート21側を上方、先端プレート24側を下方)という。第1プレート21の下端面には、当該第1プレート21を幅方向に横断するように溝が設けられており、ベースプレート23の上端面には、位置決め突起25(図3,4参照)が設けられている。また、図示は省略するが、ベースプレート23と先端プレート24にも、位置決め用の嵌合部が設けられている。これらのプレート21,23,24は、互いに図略のボルトによって結合されている。
【0036】
ただし、テーブル2の分割態様は、上記の態様に限定されるものではない。例えば、後述するC字管35が2つのピースに分割される場合は、第2プレート22は単一の板であってもよい。
【0037】
また、本実施形態では、第三従動ギア53が樹脂などの絶縁材料で構成され、その他のギア(駆動ギア55および従動ギア51,52)が金属で構成されている。ただし、第三従動ギア53の代わりに、第二従動ギア52、第一従動ギア51および駆動ギア55のいずれかが絶縁材料で構成されていてもよい。
【0038】
図3に示すように、テーブル2に形成された切欠き2aは、当該切欠き2aの底部を構成する円筒面部2bを有している。図7に示すように、回転リング31の裏面31bの内周縁部からは、円筒面部2bと嵌合するC字管35が、テーブル2の厚さ方向に延びている。すなわち、テーブル2は、C字管35を介して回転リング31を回転可能に支持する。
【0039】
より詳しくは、図4に示すように、C字管35の外周面には、周方向に延びる突起36が形成されている。一方、円筒面部2bには、突起36が嵌合する支持溝27が形成されている。ただし、本実施形態とは逆に、突起36が円筒面部2bに形成され、支持溝27がC字管35に形成されていてもよい。
【0040】
C字管35の内周面は、回転リング31の内周面と連続した面を構成している。これらの内周面は、絶縁カバー38で覆われている。より詳しくは、回転リング31の表面31aの内周縁部に環状の窪み34が形成されているとともに、C字管35の端面の内周縁部に環状の窪み37が形成されている。絶縁カバー38は断面略コ字状をなしており、絶縁カバー38の径方向外向きに突出する両端部が窪み34,37に係合している。
【0041】
図4に示すように、回転リング31の表面31aに取り付けられた溶接トーチ4は、導電性のトーチ本体41と、トーチ本体41に保持された電極42を含む。電極42は、本実施形態では、非消耗電極である。すなわち、溶接装置1が行う溶接は、例えば、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接やプラズマアーク溶接などである。なお、図示は省略するが、溶接トーチ4には、電極42とチューブ10の間に溶接ワイヤを供給するワイヤ供給装置の先端が固定される。
【0042】
トーチ本体41は、チューブ10の径方向と直交する板状である。例えば、電極42は、ガスレンズ43を介してトーチ本体41に保持される。図示は省略するが、ガスレンズ43は、電極42の周囲からシールドガスを吹き出す二重管構造を有し、その内部にはメッシュ積層体が配置される。ただし、電極42は、例えば押しボルトなどの他の手段によってトーチ本体41に固定されてもよい。
【0043】
トーチ本体41には、シールドガスポート44が設けられるとともに、このシールドガスポート44からガスレンズ43へシールドガスを導く内部流路45が設けられる。シールドガスポート44には、シールドガス供給管(図示せず)が接続される。
【0044】
図3および図5に示すように、回転リング31とテーブル2の間には、給電ブラシ61が配置されている。給電ブラシ61は、回転リング31が一回転する間に回転リング31の裏面31bと接触し続けるように構成されている。
【0045】
本実施形態では、給電ブラシ61が、回転リング31の周方向に延びる円弧状の部材である。そして、給電ブラシ61は、複数の付勢部材(例えば、圧縮コイルばね)65によって回転リング31の裏面31bに押圧されている。本実施形態では、給電ブラシ61が複数(図例では2つ)のブラシ片61aで構成されている。ただし、給電ブラシ61は、回転リング31の開口32を横断する程度の長さで周方向に延びる単一のブロックで構成されていてもよい。
【0046】
図7に示すように、回転リング31の裏面31bには、当該回転リング31を周方向に横断する受電溝33が形成されている。そして、各ブラシ片61aは、受電溝33と嵌合している。
【0047】
より詳しくは、テーブル2の第2プレート22のベースプレート23には、図6に示すように、2つの凹部26が形成されており、この凹部26内にブラシ片61aが挿入されている。なお、ベースプレート23は左右対象であるため、図6では片側の半分のみを示し、以下では片側の凹部26のみを説明する。
【0048】
凹部26は、平面視で、上辺および両側辺が垂直で、下辺が円弧面部2bと平行な円弧状の略台形状をなしている。また、凹部26には、下辺2bを両側に延ばすような一対の拡張部26aが設けられており、この拡張部26aに、ブラシ片61aの両端部が嵌合する。
【0049】
凹部26の底面26bには、ブラシ片61aと重なり合う領域に複数(図例では3つ)の円形状の有底穴28が設けられており、これらの穴28に付勢部材65が保持されている。また、凹部26の底面26bの上部には、凹部26の深さを少し浅くする段差部26cが形成されている。そして、この段差部26cに、ねじ穴29が設けられている。
【0050】
図5に戻って、ブラシ片61aは、導電部材62によってベースプレート23と接続されている。本実施形態では、導電部材62が平編銅線であり、半田付けによってブラシ片61aに接合されている。また、導電部材62上には、押え板63が配置されている。導電部材62は、上述したねじ穴29に螺合するビス64によって押え板63と共に固定されている。押え板63の下端部は、導電部材62が付勢部材65の付勢方向へ所定量以上変形することを拘束するように僅かに折れ曲がっている。これにより、回転リング31が回転してブラシ片61aと受電溝33との嵌合が外れたとき(換言すれば、ブラシ片61aの全体が開口32内に位置したとき)には、ブラシ片61aが凹部26内から出過ぎることがない。なお、受電溝33の両端部には、図7に示すように、ブラシ片61aが開口32から受電溝33に差し掛かったときにブラシ片61aを押し込むためのテーパー面が形成されている。ただし、導電部材62は、ある程度の剛性のある板であってもよい。この場合には、押え板63を省略することができる。
【0051】
ベースプレート23には、図略の電力ケーブルが接続される。このため、溶接トーチ4へは、ベースプレート23、導電部材62、給電ブラシ61および回転リング31を介して電力が供給される。
【0052】
さらに、本実施形態では、ベースプレート23が、循環路を流れる冷却水に接触するように構成されている。具体的には、ベースプレート23の裏面には、冷却水が流れる循環路73を有する流路部材71が面接触するように固定されている。流路部材71は、双方の凹部26を跨るようにベースプレート23の幅方向(図3では左右方向)に延びている。流路部材71の両端部には、循環路73と連通する一対のポート72(図3参照)が設けられており、これらのポート72に冷却水供給管および冷却水回収管が接続される。これにより、給電ルートと冷却ルートが同一のルートとなる。ただし、流路部材71を省略し、循環路73をベースプレート23の内部に形成することも可能である。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の溶接装置1では、溶接トーチ4へは給電ブラシ61から回転リング31を介して電力が供給されるので、溶接トーチ4に電力ケーブルを接続する必要がない。従って、溶接トーチ4に接続されるライン類を削減することができる。これにより、トーチ周辺構成の総厚を薄くすることができる。また、給電ブラシ61は回転リング31とテーブル2の間に配置されるため、回転リング31およびテーブル2によって溶接時に発生するスパッタ等から給電ブラシ61を保護することができ、給電ブラシ61の汚れを抑制できる。
【0054】
ところで、テーブル2に回転リング31を回転可能に支持させる構成としては、回転リング31内に嵌まり込む筒状部をテーブル2に設けることが考えられる。これに対し、本実施形態のように回転リング2の裏面31bの内周縁部からC字管41が延びていれば、テーブル2をシンプルな形状とすることができる。
【0055】
また、本実施形態では、C字管35に突起36が形成され、切欠き2aの円筒面部2bに突起36が嵌合する支持溝27が形成されているため、C字管35の軸方向におけるテーブル2と回転リング31の相対移動を特別な部材を用いることなく防止することができる。
【0056】
さらに、本実施形態では、回転リング31とC字管35の内周面が絶縁カバー38で覆われているので、作業者が誤ってチューブ10を回転リング31またはC字管35に接触させても、それらの間での電気的なショートを防ぐことができる。
【0057】
また、本実施形態では、テーブル2に固定されたモータ56と回転リング31とが電気的に絶縁されているので、溶接用の電気がモータ56に伝達されることを防止することが可能となり、モータ56の故障等を未然に防止できる。
【0058】
また、テーブル2の第2プレート22がベースプレート23と先端プレート24とに分割されているので、回転リング31とC字管35とを一体的に成形することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、循環路73を流れる冷却水により、ベースプレート23、導電部材62、給電ブラシ61および回転リング31を介して溶接トーチ4を冷却することができる。これにより、溶接トーチ4にライン類として冷却水供給管および冷却水回収管を接続する場合と比べて、トーチ周辺構成の総厚をさらに薄くすることができる。
【0060】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0061】
例えば、受電溝33は省略することが可能である。この場合、C字管35(あるいは回転リング31)とテーブル2の嵌合だけでは、回転リング31の向きによってそれらの嵌合が外れて回転リング31が脱落することがある。このため、回転リング31の脱落防止を図るための構成が必要となる。
【0062】
例えば、図8に示すように、回転リング31が90度回転した場合には、C字管35とテーブル2の嵌合角度Aが180度以下となる。しかも、C字管35は、一方の先端プレート24のみによって下方から支持される。そして、切欠き2a内に位置するC字管35の端部から他方の先端プレート24までは、ある程度の距離Bがある。このため、脱落防止を図る構成がなければ、C字管35が切欠き2aを通じて下方に落下する。
【0063】
これに対し、前記実施形態のように回転リング31の裏面31bに形成された受電溝33に給電ブラシ61が嵌合していれば、図8に示す状態でもそれらの嵌合によってC字管35の切欠き2aを通じた落下が阻止される。このため、給電ブラシ61を合理的に利用して回転リング31の脱落を防止することができる。
【0064】
また、溶接トーチ4は、必ずしも冷却水によって冷却される必要はなく、ファンなどから送られる空気によって冷却されてもよい。
【0065】
また、冷却水を用いない場合であって、給電ブラシ6に給電ケーブルを直接接続する場合は、テーブル2は、例えば、単一の樹脂板であってもよい。
【0066】
また、給電ブラシ61は、必ずしも複数のブラシ片61aで構成されている必要はなく、例えば、回転リング31の周方向に並べられた複数の板バネで構成されてもよい。
【0067】
さらには、テーブル2における回転リング31と共に回転する部材(前記実施形態ではC字管35)と摺動する部分が導電材料(例えば、金属)で構成されていれば、給電ブラシ61は必ずしも必要ではない。前記実施形態では、回転リング31と共に回転するC字管35と摺動するベースプレート23が導電性の金属で構成されている。すなわち、溶接トーチ4へはテーブル2、C字管35および回転リング31を介して電力を供給することができるので、溶接トーチ4に電力ケーブルを接続する必要がない。従って、溶接トーチ4に接続されるライン類を削減することができる。これにより、トーチ周辺構成の総厚を薄くすることができる。
【0068】
テーブル2に回転リング31を回転可能に支持させる構成として、回転リング31内に嵌まり込む筒状部をテーブル2に設ける場合には、テーブル2に設けられた筒状部が、回転する回転リング31と摺動する部分である。従って、テーブル2における筒状部を含む部分を導電材料で構成すれば、上記と同様に給電ブラシ61を省略することができる。
【0069】
また、電極42は、必ずしも非消耗電極である必要はなく、消耗電極であってもよい。すなわち、溶接装置1が行う溶接は、例えば、MIG溶接であってもよい。この場合、電極となる溶接ワイヤは、例えば給電用溶接チップを介してトーチ本体41に保持されてもよい。また、この場合、トーチ本体41は必ずしも板状である必要はなく、溶接ワイヤに挿通される棒状であってもよい。すなわち、本発明の適用範囲は、チューブが狭いピッチで配列される装置に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、種々の用途のチューブ同士の突合せ溶接に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 溶接装置
2 テーブル
2a 切欠き
2b 円筒面部
21 第1プレート
22 第2プレート
23 ベースプレート
24 先端プレート
27 支持溝
31 回転リング
31a 表面
31b 裏面
32 開口
33 受電溝
35 C字管
36 突起
38 絶縁カバー
4 溶接トーチ
41 トーチ本体
42 電極
5 ギア列
51〜53 従動ギア
55 駆動ギア
56 モータ
61 給電ブラシ
61a ブラシ片
62 導電部材
65 付勢部材
73 循環路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10