特許第6306919号(P6306919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306919
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】セメント添加材およびセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20180326BHJP
   C04B 7/24 20060101ALI20180326BHJP
   C04B 7/345 20060101ALI20180326BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20180326BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C04B22/08 A
   C04B7/24
   C04B7/345
   C04B22/08 Z
   C04B22/14 B
   C04B28/04
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-63671(P2014-63671)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-110502(P2015-110502A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2017年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-227218(P2013-227218)
(32)【優先日】2013年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−242171(JP,A)
【文献】 特開2011−230949(JP,A)
【文献】 特開2001−158649(JP,A)
【文献】 特開2006−272174(JP,A)
【文献】 特開2012−020914(JP,A)
【文献】 特開2013−023422(JP,A)
【文献】 特開2004−323288(JP,A)
【文献】 特開2005−089232(JP,A)
【文献】 特開2009−203121(JP,A)
【文献】 特開2005−067906(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0231566(US,A1)
【文献】 恒松修二,フライアッシュと石灰,セッコウの水熱反応性,石膏と石灰,日本,1989年,No.219,p.59-67
【文献】 大塚拓,フライアッシュの鉱物組成とポゾラン反応性,セメント・コンクリート論文集,日本,セメント協会,2010年 2月25日,No.63,p.16-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰を含む原料を焼成してなる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、
前記焼成物中のCaOの含有率が10質量%未満であり、前記焼成物が非晶質相及び3Al3・2SiO2を含み、かつ、前記焼成物中、非晶質相と3Al23・2SiO2の各含有率の合計が60質量%以上であることを特徴とするセメント添加材。
【請求項2】
前記焼成物がCaO・Al23・2SiO2及び/又は結晶性シリカを含み、かつ、前記焼成物中、CaO・Al23・2SiO2及び/又は結晶性シリカの各含有率の合計が30質量%以下である、請求項1に記載のセメント添加材。
【請求項3】
前記焼成物中のCaO・Al23・2SiO2の含有率が10質量%以下である、請求項2に記載のセメント添加材。
【請求項4】
前記焼成物が、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰のみからなる原料、または、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰とCaOの含有率が前記石炭灰中のCaOの含有率よりも大きいCa含有原料(ただし、石炭灰を除く)を混合してなる、CaOの含有率が10質量%未満である混合物からなる原料、を焼成して得られたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント添加材。
【請求項5】
さらに石膏を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセメント添加材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント添加材を製造するための方法であって、石炭灰を含む原料を、800〜1,400℃で焼成して、CaOの含有率が10質量%未満であり、非晶質相及び3Al23・2SiO2を含み、かつ、非晶質相と3Al23・2SiO2の各含有率の合計が60質量%以上である焼成物を得た後、該焼成物を粉砕して、セメント添加材を得ることを特徴とするセメント添加材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント添加材と、ポルトランドセメントクリンカ粉砕物又はポルトランドセメントを含むセメント組成物であって、上記セメント添加材の配合量が、上記ポルトランドセメントクリンカ粉砕物又はポルトランドセメント100質量部に対して、5〜30質量部であることを特徴とするセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰を原料として製造されたセメント添加材および該セメント添加材を含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電力需要の増加に伴って、石炭火力発電所が見直されてきている。これに伴って石炭灰の発生量が大幅に増加することが予想される。そのため、発生した石炭灰の有効利用方法が求められている。
【0003】
石炭灰の有効利用方法として、特許文献1には、950℃での強熱後の残分が、酸化物換算でSiO2を34〜63質量%、Al23を22〜42質量%、CaOを10〜35質量%含む石炭灰を、単独で、1000〜1400℃の温度で焼成する、アノーサイト(CaO・Al23・2SiO2)を20質量%以上含有する焼成物の製造方法が記載されている。
また、特許文献2には、950℃での強熱残分が、酸化物換算でSiO2を40〜50質量%、Al23を20〜37質量%、CaOを15〜23質量%含み、且つAl23/SiO2が0.4〜0.9の範囲にある原料を1000〜1400℃で焼成する、CaO・Al23・2SiO2を主成分とする焼成物の製造方法(但し、原料がCaO:Al23:SiO2=1:1:2であって且つこれら以外の金属成分を含まない場合を除く)が記載されている。該製造方法において、原料として石炭灰と該石炭灰よりもCa含有率の高い原料とを用いることができることが記載されている。
特許文献1および2に記載された焼成物の製造方法によって製造された焼成物は、粉砕することでセメント添加材や細骨材として使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−236731号公報
【特許文献2】特開2013−23422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
日本国内で発生する石炭灰の大部分は、CaOの含有率が10質量%未満であるものである。このため、日本国内で発生する石炭灰の大部分に対しては、特許文献1に記載された焼成物の製造方法を適用することはできない。また、特許文献2に記載された焼成物の製造方法において、原料中のCaOの含有率を15〜23質量%に調整するためには、石炭灰以外の原料を大きな配合割合で用いる必要があり、石炭灰の有効利用を促進する観点から好ましくなかった。
そこで、本発明は、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰を大きな配合割合で用いることができ、かつ、セメントとの混合の用途に好適なセメント添加材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、石炭灰を含む原料を焼成してなる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、前記焼成物中のCaOの含有率が10質量%未満であり、前記焼成物が非晶質相及び3Al23・2SiO2(ムライト)を含み、かつ、前記焼成物中、非晶質相と3Al23・2SiO2の各含有率の合計が60質量%以上であるセメント添加材によれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1] 石炭灰を含む原料を焼成してなる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、
前記焼成物中のCaOの含有率が10質量%未満であり、前記焼成物が非晶質相及び3Al23・2SiO2を含み、かつ、前記焼成物中、非晶質相と3Al23・2SiO2の各含有率の合計が60質量%以上であることを特徴とするセメント添加材。
[2] 前記焼成物がCaO・Al23・2SiO2(アノーサイト)及び/又は結晶性シリカを含み、かつ、前記焼成物中、CaO・Al23・2SiO2及び/又は結晶性シリカの各含有率の合計が30質量%以下である、前記[1]に記載のセメント添加材。
[3] 前記焼成物中のCaO・Al23・2SiO2の含有率が10質量%以下である、前記[2]に記載のセメント添加材。
[4] 前記焼成物が、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰のみからなる原料、または、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰とCaOの含有率が前記石炭灰中のCaOの含有率よりも大きいCa含有原料を混合してなる、CaOの含有率が10質量%未満である混合物からなる原料、を焼成して得られたものである前記[1]〜[3]のいずれかに記載のセメント添加材。
[5] さらに石膏を含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のセメント添加材。
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のセメント添加材を製造するための方法であって、石炭灰を含む原料を、800〜1,400℃で焼成して、CaOの含有率が10質量%未満であり、非晶質相及び3Al23・2SiO2を含み、かつ、非晶質相と3Al23・2SiO2の各含有率の合計が60質量%以上である焼成物を得た後、該焼成物を粉砕してセメント添加材を得ることを特徴とするセメント添加材の製造方法。
[7] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のセメント添加材と、ポルトランドセメントクリンカ粉砕物又はポルトランドセメントを含むことを特徴とするセメント組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント添加材によれば、日本国内で発生する石炭灰の大部分を占めるCaOの含有率が10質量%未満である石炭灰を、大きな配合割合で用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメント添加材は、石炭灰を含む原料を焼成してなる焼成物を粉砕してなるものであって、前記焼成物中のCaOの含有率が10質量%未満であり、前記焼成物が非晶質相及び3Al23・2SiO2を含み、かつ、前記焼成物中、非晶質相と3Al23・2SiO2の各含有率の合計が60質量%以上のものである。
上記焼成物中のCaOの含有率は、10質量%未満、好ましくは1〜9質量%、より好ましくは3〜8質量%である。該含有率が10質量%以上であると、焼成物中、非晶質相と3Al2 3・2SiO2(ムライト)の各含有率の合計が60質量%未満になる場合や、3Al23・2SiO2が生成しなくなる場合があり、セメント組成物の流動性や強度発現性が低下することがある。
【0009】
焼成物中、非晶質相と3Al23・2SiO2の各含有率の合計は、60質量%以上、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。該含有率の合計が60質量%未満であると、セメント組成物の流動性や強度発現性が低下する。
焼成物中の非晶質相の含有率は、セメント組成物の流動性や強度発現性の向上の観点から、好ましくは20〜97質量%、より好ましくは30〜97質量%である。焼成物中の3Al23・2SiO2の含有率は、セメント組成物の流動性や強度発現性の向上の観点から、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは3〜30質量%である。
非晶質相および3Al23・2SiO2の含有率は、各々、X線回折によって測定することができる。
【0010】
上記焼成物は、石炭灰を含む原料を焼成してなるものである。
石炭灰を含む原料としては、(1)CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰を単独で含む原料、または(2)CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰と、CaOの含有率が前記石炭灰中のCaOの含有率よりも大きい、石炭灰を除く原料(本明細書中、「Ca含有原料」ともいう。)を混合してなる、CaOの含有率が10質量%未満である混合物からなる原料、を用いることができる。
中でも、焼成物を焼成する際の排ガス処理や焼成設備維持の観点、及びセメント組成物の流動性や強度発現性の観点から、上記(2)の原料が好ましい。
本発明のセメント添加材では、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰(日本国内で発生する石炭灰の多くが該当するもの)を多量に使用することができ、このような石炭灰の有効利用を促進することができる。
上記焼成物は、上記の原料を800〜1,400℃で焼成することで製造することができる。
なお、本発明において、石炭灰、Ca含有原料、及び、石炭灰とCa含有原料を混合してなる混合物中のCaOの含有率は、950℃での強熱後の残分中の値を意味する。950℃での強熱は、「JIS R 5202(5.強熱減量の定量方法)」に準じて行うことができる。
【0011】
上記(2)の原料において、Ca含有原料は、該Ca含有原料中のCaOの含有率が上記石炭灰中のCaOの含有率(10質量%未満)よりも大きいものである。該Ca含有原料中のCaOの含有率が上記石炭灰中のCaOの含有率以下であると、焼成時に亜硫酸ガス等の腐食性ガスが発生しやすくなるため、焼成設備の傷みが激しくなる場合がある。
上記Ca含有原料中のCaOの含有率の上限は、上記石炭灰と該Ca含有原料を混合してなる混合物中のCaOの含有率が10質量%を超えなければ、特に限定されるものではない。
上記Ca含有原料としては、例えば、石灰石、貝殻、生石灰、消石灰、粘土、廃石膏(廃石膏ボード等)、高炉スラグ、製鋼スラグ、建設発生土、下水汚泥、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰等が挙げられる。中でも、入手の容易性の観点から、好ましくは粘土や廃石膏である。
【0012】
上記(2)の原料において、上記石炭灰と上記Ca含有原料を混合してなる混合物中のCaOの含有率は、10質量%未満、好ましくは3〜9質量%である。該含有率が10質量%以上であると、焼成物中、非晶質相と3Al23・2SiO2の各含有率の合計を60質量%以上とすることや、3Al23・2SiO2を生成させることが困難となり、セメント組成物の流動性や強度発現性が低下する。また、混合物中のCaOの含有率を10質量%未満とすることで、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰を多量に使用することができ、石炭灰の有効利用を促進することができる。
上記混合物に含まれる石炭灰と上記Ca含有原料の配合割合は、石炭灰とCa含有原料を混合してなる混合物中のCaOの含有率が10質量%未満となるような配合割合であれば特に限定されないが、石炭灰とCa含有原料の各々の好ましい配合割合は、次のとおりである。
混合物中の石炭灰の含有率は、好ましくは70〜99質量%、より好ましくは80〜95質量%である。該含有率が70質量%以上であれば、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰を多量に使用することができ、石炭灰の有効利用を促進することができる。
混合物中のCa含有原料の含有率は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。該含有率が30質量%以下であれば、CaOの含有率が10質量%未満である石炭灰を多量に使用することができ、石炭灰の有効利用を促進することができる。
【0013】
上記石炭灰を含む原料を焼成する際の焼成温度は、800〜1,400℃、好ましくは900〜1,300℃である。該焼成温度が800℃未満であると、セメント組成物の流動性や強度発現性が低下する。該焼成温度が1,400℃を超えると、焼成設備の傷みが激しくなる。
なお、上記石炭灰を含む原料を、1,400℃を超える温度で加熱して溶融し、得られた溶融物を急冷したものを粉砕してなるセメント添加材は、本発明のセメント添加材に比べて性能が変わらないかあるいは劣るものである。そして、1,400℃を超える温度で加熱(特に溶融)することは、コストが高くなるため好ましくない。
焼成時間は、焼成温度や焼成に用いる装置によっても異なるが、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0014】
焼成に用いる装置は、特に限定されるものではないが、例えば、ロータリーキルン等を用いることができる。
なお、ロータリーキルンを用いて焼成する場合、燃料代替廃棄物として、例えば廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用することができる。
【0015】
上記焼成物は、非晶質相と3Al23・2SiO2以外の鉱物を含んでいてもよい。具体的にはCaO・Al23・2SiO2(アノーサイト)及び/又は結晶性シリカが挙げられる。
また、焼成物中、CaO・Al23・2SiO2(アノーサイト)及び/又は結晶性シリカの各含有率の合計は、セメント組成物の流動性や強度発現性の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは1〜25質量%、さらに好ましくは2〜20質量%、特に好ましくは3〜15質量%である。
また、焼成物中、CaO・Al23・2SiO2(アノーサイト)の含有率は、セメント組成物の流動性や強度発現性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0016】
本発明のセメント添加材は、上記焼成物を粉砕して得られるものである。
粉砕方法は特に限定されるものではなく、例えば、ボールミル等の装置を用いて、通常の方法で粉砕すればよい。
焼成物の粉砕物(セメント添加材)のブレーン比表面積は、好ましくは2,500〜5,000cm/g、より好ましくは3,000〜4,000cm/gである。該ブレーン比表面積が2,500cm/g以上であると、セメント組成物の強度発現性が向上する。該ブレーン比表面積が5,000cm/g以下であると、モルタル等の流動性が向上する。
【0017】
また、本発明のセメント添加材は石膏を含有してもよい。セメント添加材中の石膏の含有率は、SO換算で、好ましくは1〜6質量%である。該含有率がSO換算で1質量%以上であれば、モルタル等の流動性が向上する。該含有率がSO換算で6質量%以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。
上記セメント添加材に石膏を含有させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記焼成物と石膏を混合した後に、上述した方法によって焼成物と石膏を同時に粉砕する方法や、焼成物と石膏を別々に粉砕した後に、両者を混合する方法等が挙げられる。
【0018】
上述した製造方法によって得られたセメント添加材と、ポルトランドセメントクリンカ粉砕物又はポルトランドセメントを混合することで、セメント組成物を得ることができる。セメント添加材の配合量は、ポルトランドセメントクリンカ粉砕物又はポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは5〜40質量部、特に好ましくは10〜30質量部である。該配合量が1質量部以上であれば、石炭灰の有効利用方法を促進することができる。該配合量が50質量部以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上し、かつ、モルタル等の流動性が向上する。
ポルトランドセメントまたはそのクリンカとしては、例えば、普通ポルトランドセメントまたはそのクリンカ、早強ポルトランドセメントまたはそのクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントまたはそのクリンカ、低熱ポルトランドセメントまたはそのクリンカ等の各種ポルトランドセメントまたはそのクリンカを使用することができる。
【0019】
また、本発明のセメント組成物はさらに石膏を含有してもよい。セメント組成物中の石膏の含有率はSO3換算で、好ましくは1〜5質量%、より好ましくは1.5〜3.5質量%、特に好ましくは2〜3質量%である。上記含有率がSO換算で1質量%以上であれば、モルタル等の流動性が向上する。該含有率がSO換算で5質量%以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。
石膏としては、特に限定されず、例えば、二水石膏、α型又はβ型半水石膏、無水石膏等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明のセメント組成物は、上述したポルトランドセメントクリンカ又はポルトランドセメント、セメント添加材、石膏等の各原料を混合することで製造することができる。この場合、混合方法は特に限定されるものではない。例えば、ポルトランドセメントクリンカ又はポルトランドセメント、セメント添加材、石膏等の原料を混合した後に粉砕してもよく、各原料を別々に粉砕した後に混合してもよい。また、セメント添加材と石膏を混合後、粉砕した混合物を、ポルトランドセメントクリンカ粉砕物又はポルトランドセメントと混合してもよい。
得られたセメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは2,500〜4,500cm2/g、より好ましくは3,000〜4,000cm2/gである。該ブレーン比表面積が2,500cm2/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。該ブレーン比表面積が4,500cm2/g以下であれば、モルタル等の流動性が向上する。
上記セメント組成物は、セメント添加材を含有しているにもかかわらず、通常のセメント(例えば、普通ポルトランドセメント)と比較して、強度発現性の低下の程度が小さく、また、モルタルやコンクリートの流動性に優れていることから、石炭灰の有効利用を促進することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
使用材料は、以下に示すとおりである。
(1)石炭灰;CaO含有率:3質量%、ブレーン比表面積:4,000cm/g
(2)Ca含有原料;粘土、CaO含有率:30質量%
(3)セメント;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(4)石膏;二水石膏(試薬)
【0022】
[セメント添加材Aの製造]
上記石炭灰100質量部と、上記Ca含有原料1質量部を混合して、CaO含有率が3.2質量%である混合物を得た。得られた混合物を、小型ロータリーキルンを用いて、1,150℃で30分間の焼成を行った。得られた焼成物を、空冷によって冷却した後、ボールミルを用いて粉砕し、ブレーン比表面積が4,000cm/gであるセメント添加材Aを得た。なお、得られた焼成物中のCaOの含有率は3.1質量%であった。
また、明細書中、「空冷」とは、ファンやダクトを用いた冷却風によって対象物を冷却することをいう。
【0023】
[セメント添加材Bの製造]
上記石炭灰100質量部と、上記Ca含有原料15質量部を混合して、CaO含有率が6.5質量%である混合物を得た。得られた混合物を、小型ロータリーキルンを用いて、1,150℃で30分間の焼成を行った。得られた焼成物を、空冷によって冷却した後、ボールミルを用いて粉砕し、ブレーン比表面積が4,000cm/gであるセメント添加材Bを得た。なお、得られた焼成物中のCaOの含有率は6.6質量%であった。
【0024】
[セメント添加材Cの製造]
上記石炭灰100質量部と、上記Ca含有原料200質量部を混合して、CaO含有率が21.0質量%である混合物を得た。得られた混合物を、小型ロータリーキルンを用いて、1,150℃で30分間の焼成を行った。得られた焼成物を、徐冷によって冷却した後、ボールミルを用いて粉砕し、ブレーン比表面積が4,000cm/gであるセメント添加材Cを得た。なお、得られた焼成物中のCaOの含有率は21.0質量%であった。
また、明細書中、「徐冷」とは、空気中においてファンやダクトを用いずに、対象物を自然冷却することをいう。
【0025】
[セメント添加材Dの製造]
上記石炭灰100質量部と、上記Ca含有原料40質量部を混合して、CaO含有率が10.7質量%である混合物を得た。得られた混合物を、小型ロータリーキルンを用いて、1,150℃で30分間の焼成を行った。得られた焼成物を、空冷によって冷却した後、ボールミルを用いて粉砕し、ブレーン比表面積が4,000cm/gであるセメント添加材Dを得た。なお、得られた焼成物中のCaOの含有率は10.8質量%であった。
【0026】
[セメント添加材Eの製造]
上記石炭灰100質量部と、上記Ca含有原料15質量部を混合して、CaO含有率が6.5質量%である混合物を得た。得られた混合物を、溶融炉を用いて、1,500℃で30分間加熱して溶融した。得られた溶融物を、水冷によって冷却した後、ボールミルを用いて粉砕し、ブレーン比表面積が4,000cm/gであるセメント添加材Eを得た。なお、得られた溶融物中のCaOの含有率は6.8質量%であった。
得られたセメント添加材A〜Eの鉱物組成をX線回折で調べた。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
[実施例1〜4]
表2に示す配合に従って、普通ポルトランドセメントとセメント添加材と石膏を混合してセメント組成物を得た。なお、各セメント組成物中の石膏量はSO3換算で2.0質量である。
得られた各セメント組成物について、モルタル圧縮強さ、凝結時間、モルタルフロー値を以下の測定方法に従って測定した。結果を表2に合わせて示す。
[評価方法]
(1)モルタル圧縮強さ:「JIS R 5201」に準じて、材齢3日、7日、28日、91日におけるモルタル圧縮強さを測定した。
(2)凝結時間:「JIS R 5201」に準じて、凝結時間を測定した。
(3)モルタルフロー値:セメント、細骨材、ポリカルボン酸系高性能減水剤および水を、水/セメントの質量比が35%、細骨材/セメントの質量比が2、ポリカルボン酸系高性能減水剤の配合量がセメント100質量%に対して0.8質量%となるように混合したものを、5分間混練したモルタルについて、「JIS R 5201−1997」に規定されているフローコーンを用いて、「JIS R 5201」に準じて、モルタルフローを測定した。
【0029】
[比較例1]
普通ポルトランドセメントについて、モルタル圧縮強さ、凝結時間、モルタルフロー値を、上述した測定方法に従って測定した。
[比較例2〜8]
表2に示す配合に従って、実施例1と同様にしてセメント組成物を得た。なお、各セメント組成物中の石膏量はSO3換算で2.0質量である。
得られた各セメント組成物について、モルタル圧縮強さ、凝結時間、モルタルフロー値を、上述した測定方法に従って測定した。結果を表2に合わせて示す。
表2中、「モルタルフロー値」の「ロス率」とは、以下の式によって算出される数値である。
ロス率(%)=(混練直後のモルタルフロー値(mm)−混練から30分間後のモルタルフロー値(mm))/(混練直後のモルタルフロー値(mm)−100mm(フローコーンの下部直径)×100
【0030】
【表2】
【0031】
表2中、実施例1〜4と比較例2〜6の結果から、本発明のセメント添加材を含むセメント組成物の強度発現性、凝結性および流動性は、アノーサイトを主成分とするセメント添加材を含むセメント組成物(比較例2〜3)、石炭灰を含むセメント組成物(比較例4)、ムライトを含まないセメント組成物(比較例5〜6)よりも優れていることがわかる。
また、実施例1〜4と比較例7〜8の結果から、本発明のセメント添加材を含むセメント組成物は、非晶質相が100質量%であるセメント添加材を含むセメント組成物(比較例7〜8)に比べて、強度発現性および凝結時間が同等であり、流動性が優れていることがわかる。
また、表2中、実施例1〜4と比較例1の結果から、本発明のセメント添加材を含むセメント組成物の混練から30分間後のモルタルフロー値は、普通ポルトランドセメントを含むセメント組成物の混練から30分間後のモルタルフロー値よりも大きい(流動性に優れている)ことがわかる。